この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ 作:七福えると
文月「…赤ちゃんがパソコン叩いてる」
如月「あの…司令官、目は大丈夫?」
皐月「何か手伝えることはある?」
皐月「ハンコ?」
如月「書類…あぁ。ハンコ押しね」
皐月「オッケー!任せてよ!」ハンコポーン
文月「司令官はよく頑張って偉いね~赤ん坊なんだから、もうちょっと甘えても良いんだよ?」ナデナデ
文月「…甘えないの?」
文月「えー…」
如月「…でもね、そんな姿になってまで無理にお仕事する必要は無いんじゃない?せめてお仕事を分ける位は甘えても良いと思うわよ?」
如月「…?画面を見ろって?」チラッ
モニター『仕事である以上、皆に見せられない事もある。その中には当然重要な事だってあるんだから、そうやすやすと手伝ってもらう訳にはいかない』
如月「それは…そうかも知れないけど…」
モニター『それに、これ以上迷惑を掛ける訳にはいかない。三人だって今日は遠征だったのに無理を言って変えてもらったんだろう?』
文月「…知ってたんだ」
モニター『これでも提督だからね。寧ろそこまでさせてしまった事に謝罪しかない』
如月「でも…」
モニター『元を辿ればこんな姿になってしまった自分に問題があるんだ。君達の事を考えず、自分の意志だけを選んだ結果、こんな姿になってしまった。自分の事しか考えられていない証拠だよ』
文月「そういえばどうしてそんな姿になったの?」
モニター『…話すと長いんだけどね、簡単に言えば実験の結果かな』
文月「実験?」
モニター『そ。僕が着任したのがマッドサイエンティストな提督がいる場所でね。そこの実験でこうなってしまったんだよ』
如月「マッドって…なんで実験に参加したの?」
モニター『…たまたま一人の艦娘が実験に使われる瞬間を見ちゃったんだ。その時に僕が実験として参加するようにしただけだよ』
如月「…それってもしかして、山風ちゃん?」
モニター『正解』
モニター『その実験がきっかけで山風が責任を感じてしまったんだ。だからあの子はママになるって言ってるんだと思うよ』
文月「それって…
モニター『そうだよ。艦娘は変わりがいくらでも用意出来るし、人間と違って未知な部分も多いからね。実験するには丁度良いからって理由だった』
文月「…司令官に聞きたいんだけど、どうしてそんな実験がされてるって分かってたのに止めなかったの?」フルフル
振るえる体に悲しみと怒りが入り混じったような顔。普段の可愛らしい雰囲気から一転し、まるで対峙している深海棲艦の様な気分を味わった
モニター『止める理由が無かった』
文月「どうしてっ!」バンッ!
強い衝撃が机を伝い、同じ机に座って作業している自分の足場まで衝撃が届いた瞬間、まるで地面から突き上げられたかの衝撃が尻を叩いた。その勢いに体はバランスを崩して机から落ちそうになってしまう
咄嗟に如月の手が落ちないように自分を支えてくれたが、もしこの手が無ければ自分は真っ逆さまに落ちていっただろう
モニター『…それだけ有用な事だったからだ』
文月「有用!?私達の命を実験動物みたいに扱ってるのに、そんなのって無いよ!」
皐月「ど、どうしたの!?」
如月「文月ちゃん、ちょっと落ち着いて…」
モニター『実験とはそういうものだ。人だって動物を実験台にして実験を行い、それが安全かどうかを判断してから実用的な薬として売りに出す。その動物と艦娘が入れ替わっただけの話だよ』
文月「そんなのって…!」ウルッ
文月「…あんまりだよう」
あまりに辛い現実を受け入れきれない文月。それを見て良い顔をしていないのが如月と皐月だ。その三人の目からは涙が流れており、その光景を眺める事しか出来ないでいた
モニター『恨むのは当然だ。その権利だってあるだろうが、その過程で生まれた実験の結果までも無茶苦茶にしようとまでは考えるなよ』
如月「…どうして?」
モニター『中にはいくつか命が救われたような実験があるんだ。全ての実験が失敗という訳ではなく、いくつかの成功もあったんだ』
モニター『全ては俺達人間にとっての得でしかないが、艦娘にとっても成功と言える実験だってあったんだ。そんな結果がある以上、全てが無意味とは言えないし、今後も犠牲となる者達に関しては救えないんだ』
如月「…最後まで助けてはくれないんですか?」
モニター『答えられない』
如月「答えてください」
モニター『…』
如月「答えろっ!」バンッ
モニター『…あそこにいる艦娘達を全員助けてしまっては将来的な成功が見込めなくなる。だから助けない。それだけだ』
如月「今より未来が大事だと?」
モニター『あぁ』
如月「…やっぱり、酷い人ですね」
皐月「如月…」
如月「…でも、ここで貴方を殺してしまえば少しは危険な考えを持った人を消せるのでしょうか?」グッ
如月によって体が宙へと浮かび上がる。浮かび上がった原因としては首にある手のおかげだろう。それはミシミシと、確実に自分の首を絞めていった
皐月「如月!駄目!」バッ
如月「あと少し力を入れれば窒息するより先に首が折れて死んじゃうわ。もしそれで貴方が生きられたら、それは生き延びる実験の成功だって言えないかしら?」グググッ
あと少しで自分の首が折れるであろうその瞬間、皐月に背後から組み付かれ、宙へと浮かび上がった自分の体が重力によって落下していき、勢いよく地面に落下した
幸いにも足から着地したので重症とはならなかったが、少し足首が捻ったような気がするのは気のせいでは無いだろう
文月「如月ちゃん、その一線だけは越えちゃ駄目だよ」スッ
如月「…っ」ブラン
文月「…司令官、ごめんなさい」ギュッ
文月「…首は絞めないのかって?」
文月「…駄目だよ。そんなことしたら私は司令官を暗殺しようとした艦娘だもん」
文月「…どうして、私って艦娘に生まれちゃったのかなぁ」グスン
文月「せめて普通の女の子として生きられたら…それなら楽しかったかもしれないのに。こんなに辛い事だって…」
文月「あ、ちょっと…!」バッ
モニター『いつかお前等は人間にしてやる。だから今を生きてくれ』
文月「えっ…?」
モニター『信じろとは言わん。だが絶対に人として生きれる様にする』
モニター『だから生きててほしい。いずれはお前らが笑って過ごせるくらいには世の中だって変えてやる。約束だ』
文月「…どうせ嘘つくんでしょ?」
モニター『嘘だって思うんなら信じるな。俺が勝手にそうするだけだ』
文月「…信じて良いの?」
モニター『言ったろ?信じなくていい。だけど絶対にそうしてみせる』
文月「…うん。分かった」
如月「その…司令官」
如月「ご、ごめんなさい。く、首を…」
皐月「…首が真っ赤だよ」
如月「…」ビクッ
如月「で、でも!」
皐月「如月…司令官がこう言ってるんだし、お言葉に甘えておこうよ」
如月「…ありがとうございます」
モニター『それじゃ、引き続き手伝ってくれ。皐月は判子押し。全部出来たら提督の元に運んどいてくれ』
皐月「了解!」
モニター『如月と文月は救急箱と冷やすもの持ってきてくれ。足首捻ったみたいだから早急に冷やしたい』
如月「…あっ」
文月「わ、分かった!すぐに持ってくる!」ダッ
PM2:00
山風「…」ガチャッ
山風「…良く寝てる」ナデナデ
山風「…ふふっ」
山風「…」ダキッ
山風「…お散歩、いこっか」ガチャッ
扉 バタンッ
山風「…少し寒くなってる。大丈夫?」
山風「…見た目相応なんだ。こんな場所にいるのにまだ寝てる」トントン
山風「あと少しだから、もうちょっとだけ我慢してね」
夕立「どこ行くの?」ザッ
山風「…夕立」
夕立「提督さんを連れ出してどこ行くの?」
山風「別に…ただの散歩だよ」
夕立「ホントに?」
山風「…そうだけど」
夕立「着の身着のまま?」
山風「…」
夕立「夏とはいえ夜は寒いんだよ?無断で部屋を飛び出したら懲罰だって知ってる?」
山風「…ほっといて」
夕立「…で?なんで提督さんを連れ出したの?」
山風「夕立には関係ないよ…ほっといて」
夕立「ほっとける訳ないよね?私達の提督だよ?」
山風「…」
夕立「…」
山風「…っ!」ダッ
夕立「!」ダッ
山風「むっ…!」ダダッ
夕立「…結構早いね。島風程じゃないけど」ダダダッ
夕立「だけどどうするの?このまま走ってもこの先は海で行き止まりだよ?」
山風「…!」ダンッ
夕立「とんっ…!?まさか!」
山風「艤装展開!」バッ
夕立「っ!艤装展開!」バッ
山風「ふっ…!」バシャッ
夕立「止まって!止まらないと実力で止めるよ!」バシャッ
山風「そうなったら提督もろとも攻撃を受けちゃうよ?」ザアアアッ
夕立「うっ…」ザアアアッ
山風「あと少し…!あと少しで…!」
探照灯『パシャッ』
夕立「何あの光!?」
山風「あっ!?」クルッ
夕立「提督さん!?」パシッ
山風「っ!返して!」ザアッ
夕立「あぁもう!とりあえず逃げるよ!」ザッ
夕立「楽しんでるでしょ!?」
山風「待って!その子を返して!」
???「…」ザアアアッ
山風「あっ…!」ザザッ…
夕立「…説明、してくれる?」
夕立「分からないの?」
夕立「…じゃあ、知ってるのは山風だけって事ね」
山風「…」フルフル
夕立「山風」
山風 ビクッ
夕立「帰るよ」
山風「え…?」
夕立「私達は提督の要望で外出した。どうしても無理を言うものだから無理矢理外に連れ出された…って事で良い?」
山風「ま、待って?怒らないの?」
山風「えっ?」
夕立「怒る気はないって事でしょ。提督が許す気なら私も怒る理由ないしね」
夕立「…ふふっ。かっこつけて話そうとしてるけど、ちゃんと喋れてないよ?」
夕立「あーもう、提督さんは可愛いんだから」クスッ
山風「あ、う…」
山風「あっ…」
山風「…うん」
夕立「…ママって呼ばれるのは羨ましいなぁ」
電「…それで?何か弁明は?」ゴゴゴ
夕立「え、えーっと…」ダラダラ
山風「…」ダラダラ
電「司令官さんは黙っててくれます?」
夕立(ちょっと提督さん!助けてくれるんじゃないの!?)
夕立(肝心な時に使えないんだから!)
電「二人共?念話で会話をするのはやめてほしいのです」
体温計『37.9℃』ピピピピッ
大淀「…熱ですね」
電「元々捻挫した部分から発熱がきっかけだったんでしょう。深夜の外出が決め手となったようですね」
雷「聞いたわよ!司令官が風邪なんですって!?」ドアバァン!
暁「はいはーい。心配なのは分かるけど私達はこれから遠征よー」ガシッ
雷「待って暁!司令官のお世話をしないとおぉぉ…!!」ズルズル
夕立「…三言だけ言って帰っていった」
電「本当は電がお世話したかったのですが…電も今日は遠征があるのです。というわけで代理人を呼んできました」
霞「霞よ!出るわ!」
霞「はぁっ!?何言ってるの!?」
満潮「私もいるわ」
曙「ふんっ。何で私が参加しなきゃいけないのよ」
ツンデレトリオ「ツンデレじゃない!」
電「お三方が丁度空いていたので」
山風「…ママは私なのに」
霞「そこ張り合うのね!?」
モニター『それで、昼と夜は誰になったんだ?』カタカタ
電「なんのことですか?」
モニター『いや…確か俺の世話を朝昼晩で分けるんだろ?そう聞いたが』
電「…誰からなのです?」
モニター『如月達』
電「そんな事は無いのです。秘書官と同じ様に基本一日交替で見ているのですよ」
モニター『えぇ…』
電「はぁ…大方司令官さんの面倒が見たくって嘘ついたんでしょう。全く、困ったものです」
夕立「その…お話の途中で申し訳ないのですが…そろそろ姿勢を崩して良いっぽい…?」プルプル
山風「う…」プルプル
電「…良いですよ。ただし次はこうなる前に司令官さんを止めてくださいね?」
夕立「わ、分かってるっぽい!」ガクガク
そう意気込む夕立の足はガクガクで、少し衝撃を与えればすぐにでも倒れてしまいそうだった。その姿はまるで生まれたての小鹿の様に震えており、大変可愛らしかった
電「では行ってください。夕立ちゃんは今回の演習が終われば改になる予定なんですからね」
夕立「!分かった!頑張ってくるっぽい!」
山風「わ、私も…失礼します」ガクガク
夕立「ほら、山風早く!」グイッ
山風「あ、ちょっと…!」
震える山風を引っ張り上げる夕立だが、その勢いを殺し切ることが出来ずに壁に向かって走り出す。脚は未だ笑っており、あと数歩で壁と衝突するだろう
山風「あっ…」
夕立「なんのっ!」
まるでダンスでも踊っているかのように山風の手を引っ張って山風を止める。見る人がみれば拍手でも起きるのではと思える程優雅に抱きとめ、心の中で賛辞を贈った
山風「あっ、う…//」
満潮「一体どこであんな技術を…」
曙「…良いなぁ」
霞「えっ?」
夕立「それじゃ提督さん!改になったら褒めてねー!」ガチャ
山風「ま、またね。提督」バタン
電「それじゃあ電も行って来るのです。司令官さん、次勝手な行動したらお仕置きなのです」
電「…皆さん。司令官さんが変な事したら容赦なく気絶でもさせてください」ガチャ
ツンデレトリオ「り、了解!」
扉 バタン
霞「…こわぁ」
曙「アンタも良くやるわね…」
満潮「ちょっ…大丈夫?」
心配そうな顔をして覗き込む三人。倒れてしまった自分の体を起こそうと霞が両手で支えながら起き上がらせるが、その瞬間に目が少し厳しくなっていた
霞「…そうよね。貴方は提督だものね」
満潮「…急に何当たり前の事言ってるの?」
霞「こんな姿してても提督であろうとしてるのよ。この子のおでこ触ってみなさい」
満潮「え?」ピトッ
そう催促されて満潮も私のおでこに手を当てると、みるみる顔色が悪くなっていく。決してそれは体調が悪くなった訳では無く、寧ろ困惑という意味での顔色が悪くなったというのが正しいか
満潮「アンタ大丈夫なの!?滅茶苦茶熱いじゃない!」
曙「…部下を心配させない為に平静を装ってたんでしょ。上が気分悪い顔をしてたら士気が落ちちゃうものね」
満潮「あーもう!何で曙は平気そうに言ってるのよ!さっさと布団に運ぶわよ!」
満潮「なっ…」
モニター『問題ない。これくらいならまだ大丈夫だ』カタカタ
満潮「虚勢を張ってんじゃないわよ!こんな体熱くしたらアンタ死ぬわよ!?」
モニター『問題ないと言っている。風邪はいつも通りに過ごしていれば勝手に治るんだから心配するな』
満潮「あ、アンタねぇ…!」
霞「…満潮、やめときましょ。コイツは言い出したら聞かないんだから」
曙「そうね。倒れた時にでも構ってやればいいでしょ」
満潮「…ふんっ!」プイ
モニター『しばらく仕事をするから三人はそれの補佐を頼む。曙は書類の確認とハンコ押し。満潮は書類作成のサポート。霞は妖精さんを呼んできてくれ』
霞「分かったわ」
曙「了解」
満潮「…無理してるのが分かったらすぐに休ませるからね」
妖精「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪」
妖精「お久しぶりです!事情は向こうの妖精さんから聞いてますよ!」
妖精「ふっふっふ…妖精さんネットワークを舐めないでいただきたい!私達妖精は、全国にいる妖精達とあらゆる情報を交換しあってるのですよ!」
妖精「まぁそういう訳なんで、提督さんが子供になった理由も知ってます。というわけでこれをどうぞ」スッ
妖精「それを口に寄せて話してみてください!」
妖精「マイクじゃありません!もうちょっと複雑な事を喋ってください!」
妖精「そうです!提督さんの…いえ、赤ん坊専用の翻訳機です!これさえ使えば、ツールのルビを振らす機能を使わずに話す事が出来ますよ!」
妖精「おぉっ、二言目がツッコミとは…やはり提督さんは変わりませんね」
霞「…妖精さん呼ばせて何させるんだと思えば、そんな機械を頼んでたの?」
妖精「おぉ!そうでした!それで、ご用件は何ですか!?」
妖精 ギクゥッ!
妖精「そ、それは…災難でしたね?」
妖精「ぐ、具体的には…?」
妖精「で、でもぉ…流石に好きな物を食べられないってのは可哀想なんじゃ…」
曙「…ねぇ、思ったんだけどさ」ヒソヒソ
霞「何が言いたいかは分かるわよ…アイツ、赤ん坊ながらなんて笑みを浮かべてるのかしら…」ヒソヒソ
満潮「分かってて言ってるわね。あの性格の悪そうな顔は」ヒソヒソ
曙 ハンコポーン
霞 ツーン
満潮 カリカリ
妖精「…よ、喜んで作らせて頂きます」ヒクヒク
妖精「は、はいぃぃ!!!早速作ってきまーす!!!」ピューン
ツンデレトリオ「…こわぁ」