この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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ハーメルンにも投稿を始めました。少しやり方がpixivと違うのですが、見やすさで言うならあちらの方が上です。章追加で見やすさを上げたりしてます
現在はこちらで投稿している内容を一日に一、二本上げています。メインはこちらで作っていくので、最新話が常に見たい人はこちらで続きをお楽しみください(pixiv掲載当時)


追記(ハーメルンのみに掲載)

こちらは前回から一話飛んだ内容になっております。軌道修正をかけながら小説を作っておりますが、前話と比べたら違和感を感じると思います。ご了承ください


大切な記憶を今に繋げ

大将「電。出撃する奴等を呼んで来い」

 

電「…はい。分かったのです」

 

大将「声が小さい!」

 

電「も、申し訳ございません!」

 

大将「チッ…返事も出来んクズが」

 

電「…」ギュッ

 

 

降りしきる雨の印象が強い今日はいつも以上に憂鬱な日が始まろうとしていた。ここの艦娘達に指示を与えて任務に送り出し、それが終われば仕事の補佐。そして快適な部屋(檻の中)で静かに過ごす

 

送り出す艦娘達の顔に生気なんてものは感じず、自分を見る目がとても恨んでいる様子であり、以前いた鎮守府の様な活気あふれるいってきますという声さえ聞こえない

 

いつもありがとう。助かった。電がいてくれて良かった。一緒にいると心強い

 

同じ艦娘である皆から投げかけられた言葉。そのどれもが自分を必要としてくれている言葉ばかりで、自分の存在価値があるのだとしっかりと教えてくれる皆の声

 

そして業務を終わらせればいつもは提督から感謝の言葉を貰っていた

 

電が初期艦で本当に良かった。これからも迷惑をかけると思うけど、その度に自分に文句を言ってくれ。そうすれば電のストレスも少しは減るでしょ?

 

提督とは思えない卑屈さ。元師の優しさを思い出すような優しい声。自分を犠牲にしてでも私の事を考えようとしてくれている、ちょっと提督としては褒められた事ではない言動ではあるが、その言葉にはいつも私を大切に思っての言葉なのだと理解している

 

…だけどそれがここでは全くない。あるのは蔑む様な目と大量の書類仕事。それと息が詰まりそうな程に苦しい快適さだけを求めた布団とタンスしかない空間

 

また皆の声が聞きたいと思っていても、スケジュールを巧みに操作されて誰とも会える事が無い。唯一会えた司令官さんも少し顔を合わせるだけですぐに離れなければならなかった。あの時の事を思い出しては涙を流してしまう

 

 

電 グシグシ

 

 

皆もここで頑張っているんだ。私だけじゃない。皆だって辛い思いをしているけど、それを私の我儘で無茶苦茶にするわけにはいかない。皆が頑張っているのに自分が頑張らなくてどうするんだ

 

…でも、やはり寂しいという感情からはどうしても切り離せそうには無かった

 

 

暁「い、電?」

 

電「あ、暁ちゃん!?どうしてここに…」

 

時雨「僕が連れてきたんだよ」

 

電「し、時雨さん!?」

 

時雨「電が最近元気が無さそうだったからね。ちょっと間を見て会いに来たよ」

 

暁「電、ホントに大丈夫なの?何か嫌な事されたりしてない?」

 

電「…グスッ」ウルッ

 

暁・時雨「「!?」」

 

電「だ、大丈夫なのです。二人共お忙しいのに無理して会いに来てくれて本当に嬉しいのです…」

 

暁「…これからも会いに来るわよ。毎日だって会いに来るし、電が辛くなったら飛んで会いに行ってあげる。だからもう泣かないで」

 

電「うん…うん…!」

 

 

暁ちゃんに抱きしめられながら止まらない涙を流しつつ、自分が再びどれだけ仲間に恵まれているかを思い出す事が出来た。私はやっぱりあの大将の下にいるのは嫌だ。早くここから逃げたいという思いも溢れるが、それでも自体がすぐさま好転する訳でもない

 

今は耐えるべき時だ。戦場でも焦ってしまえば何も成すことが出来ない。寧ろそれが悪手となってしまうかもしれない。今はそういった岐路のような場所にたっているんだ

 

そうして何分そうしていたか分からなかったが、暁ちゃんの肩を見ると私の涙で濡れていた。そんな様子をみた暁ちゃんはしょうがないわねって言いながらハンカチを差し出してくれた

 

 

電「…ごめんなさい。もう大丈夫なのです」

 

暁「ホントに?」

 

電「はい。暁ちゃんがお姉ちゃんで良かったのです。そう思える程に温かくてポカポカするのです」

 

暁「…また何時でもしてあげるわよ。だからちゃんと頼りなさい。良いわね?」

 

電「…うん。分かったのです」

 

時雨「それじゃ、用も済んだし僕達は行くよ。出撃する人達には声を掛けておいたから電はそのまま執務室に戻って大丈夫だよ」

 

 

…あれ?大将から艦娘を呼んで来いって話はしていたっけ?

 

 

電「し、時雨ちゃん。どうしてそれを?」

 

時雨「内緒だよ」

 

 

そういって悪戯っぽい笑顔で唇に人差し指を当てる時雨だが、今だけはそれに感謝しておいた。本人は嫌がるかもしれないが、それで助けられたのは事実だったから

 

 

時雨「でも、そろそろ戻った方が良い。僕達もそろそろ遠征に行かなきゃいけない時間だからね」

 

電「あっ、ごめんなさい…電の事を気にかけてもらったばっかりに…」

 

暁「…ていっ」ピンッ

 

電「ぴっ!?」

 

 

ジンジンとおでこが熱を帯びていく。その原因を作った暁ちゃんのデコピンをした手の形に驚いていると

 

 

暁「それ禁止。私なんかが何て言わないで。電は提督から一番信頼されている秘書官でしょ?」

 

電「…ごめんなさい」

 

暁「それで良し」

 

 

そういって頭を優しく撫でてくれる暁ちゃんはやっぱり私のお姉ちゃんなのだというのを実感した。だって、こんなにも自分を心配してくれて叱ってくれるのだから

 

 

時雨「ふふっ。それじゃあね」

 

電「あ、はい!ありがとうなのです!」

 

 

そういって暁ちゃんを連れて時雨ちゃんの背が遠くなっていく。先程の出来事を忘れないように、そして自分をまた見失わないように。今一度振り返るべきなのだと思った

 

 

 

_____________

 

 

 

大淀「…」

 

「どうした?変なものでも見た様な顔して」

 

大淀「いや、あの…」

 

 

私の眼前にいるのは私達の提督である人だ。色々あって赤ん坊になったという話を聞いていたが、今の見た目は五歳児程の見た目になっている

 

 

「…あぁ。この姿か」

 

大淀「そ、そうです!どうして少し成長してるんですか!?」

 

「これ着ぐるみだぞ」

 

大淀「…へぇ?」

 

「妖精さんが粘土で自分の体を作ってくれてな。手足とか微塵も届いていないハズなのに普通に握ったり走ったりも出来る。何なら運動も違和感なく出来た」なんでもドラ〇もんを見て着想を得たらしい

 

大淀「…妖精さんって凄いですねぇ」

 

「全くだ。とりあえず今日の業務をしようか」

 

大淀「はい」

 

 

そういって書類の山を少しずつ捌いていく私と、ウンウン言いながら頭を悩ませて書類を捌いている提督の二人の空間が出来た。正直、私はこの時間があまり好きではない

 

書類には海域の情報や鎮守府の資材状況等といった多岐に渡る内容があるのだが、特に計算が入る書類が中にあると私が中を確認してから提督に承認のハンコを押してもらわなければならない。何故私を経由してハンコを押すかと言うと、提督の計算間違いが何度も見られるからだ

 

おかげで一度だけだが、書類の中に注意する様にという注意喚起の書類が送られてきたことがある。流石にこれには提督自身も不味いと思い始めた様で、その時の提督のお願いで私を経由する事になっている

 

 

「大淀、確認頼む」

 

大淀「はい。分かりました」

 

 

電卓を叩いて計算を今一度し直す。この完全な二度手間が無駄でストレスを貯めてしまうのは仕方の無い事だろう

 

 

大淀「…はい。今回も大丈夫でしたよ」

 

「良かったぁ~…」

 

 

しかし最近もそれが少なくなってきた。まだ着任してから一カ月経っていないとはいえ、提督としての最低限の責任感からか、こういったミスは見つかればすぐさま治る様に見えてきた。やはり女提督の鎮守府でしごかれたのが役に立っているのだろうか

 

 

大淀「しかしもう少し早く捌ける様になってください。提督がそれ一枚終わらすまでに私は十枚終えています」

 

「くっ…」

 

 

こうやって偶に提督をからかってストレスを発散させたりする事であまり溜め込まずに済んでいるんだと思うが、やはりこれでは提督の方がストレスを溜め込んでしまう。本人からこうしてくれと頼まれた以上はやっているが、やはりあまり気持ちの良いものではない

 

そうやって自分の身を削る方法でしか私達の事を考えられない提督が、私は好きであって嫌いでもあった

 

…でも、彼と一緒にいる時間だけは嫌いではない。それは胸を張って言える

 

 

大淀「……」カリカリ

 

「……」カタカタ

 

大淀「……」

 

「……」カタカタ

 

大淀「…お茶でも入れましょうか?」

 

「ん…あ、いや。中身はまだ赤ん坊だから飲めない」

 

大淀「あ…そうでしたね」

 

「すまないな」

 

大淀「い、いえ。こちらこそすいません…」

 

 

…会話が終わってしまった

 

これでは提督の息抜きにでもならないのではないだろうか?流石に辛そうな顔をしているので気分を変えようとした言葉だったが、逆効果だったかも知れない

 

 

「大淀」

 

大淀「は、はい!」

 

「いつもありがとうな」

 

大淀「…もう。またそれですか?」

 

 

以前から何度も聞いた言葉。私が秘書官になると三日に一度は聞いている言葉

 

 

大淀「大丈夫ですよ。執務を全部私に投げること以外は怒ってません」

 

「うぐっ…」

 

大淀「ふふっ。でもそうですね…もしお礼をいう時があるのでしたら、私のお手伝いが必要なくなった時にでも言ってください」

 

「それは多分…来ないと思うなぁ」

 

大淀「そこはちゃんと大丈夫って言ってほしかったです…」

 

「あ、いや。そういう訳じゃなくてな。お前は出撃も将来的にしてもらう。その事を考えたら大淀の助けは絶対必要なんだよ」

 

大淀「…出撃するのは私が艦娘として生を受けた時から決まっていた事です。何故そんな分かり切った事を?」

 

「…お前が沈んだらこうやって助けてくれる奴もいなくなるからな。そうならないように努めるのが俺の役目だが、初期艦一人大事に出来ない俺が出来んのかと思ってさ」

 

大淀「でも見捨てた訳じゃないですよね?」

 

「当然」

 

大淀「なら大丈夫です。見捨てられないと言われただけで私は提督の助けになる事が出来ます。例え私がそれで沈むことになったとしても、その想いだけで十分です」

 

「沈めるつもりは微塵も無いけどな。まぁ…沈むかも知れない状況になってしまうのは否定できんが」

 

大淀「…今の電ちゃんはその沈むかもしれない状況という訳ですね」

 

「あぁ…沈んだ(見捨てる)訳じゃないんだが、それでも沈むかも知れない(見捨てられるかも)という恐怖を今の電は感じている筈だ」

 

「だから早くアイツに教えてやらないと駄目だ。お前は絶対に見捨てないって。例え俺が見捨てる事になっても仲間がお前を見捨てないって事を」

 

大淀「…提督が私達を見捨てるなんて想像…つかないことも無いですね」

 

 

過去に潮ちゃんが提督の指示に逆らって我儘を言った事があった。あの時は提督として潮ちゃんを見捨てたと言ってもおかしくない事を告げ、結局は提督が謝罪して終わったけど同じ事が起こったら、その時はまた見捨てようとするだろう

 

それがもし、もしだ。ここの艦娘達を見捨てるような事が起こればその時は…

 

 

「…おっ。気づけば1200か。時間が経つのは早いな」

 

大淀「あっ。本当ですね」

 

 

…いや。起こっていない事を考えても仕方がない。もしそうなったら自分がしたい様にしよう。それがきっと皆を助ける事になるだろうから

 

 

「大淀はどうする?飯は持ってこようか?」

 

大淀「いえ。提督と一緒にご飯を食べさせてください」

 

「…俺はミルクなんだが」

 

大淀「良ければ飲むのを手伝いましょうか?」

 

「…勘弁してくれ」

 

大淀「ふふっ」クスクス

 

 

提督が先導して食堂へと案内してくれる。先に扉を開けて待ってくれる等、本来であれば私達女性がすべきことを男性である提督がやってくれるので、その行動に先導すべき自分がしない事による嫌悪感と、私の事を気遣ってくれているというちょっぴりの嬉しさが私の心で生まれていた

 

 

 

_____________

 

 

 

摩耶「へっ。懲りずにまた来たみたいだな」

 

木曾「急に成長したのは驚いたが…相変わらずミルクばっか飲んでるところを見ると飯も食えないガキなのは変わってないみたいだな」

 

「またお前等か…」

 

 

昨日の出来事をまだ根に持っている二人に対して興味が湧かないのは昔から似たような光景を見ていたからだろうか。ただあの時と違い、どうにも悪意を感じてはいるのだが、それがなんというか…やけに小さい悪意しか感じない

 

まるで他の意図があるかのような、もしくは別の何かか…それを考えるのにはどうにも推測できるものが少なすぎる

 

 

大淀「な、なんですか急に!提督に失礼だとは思わないんですか!?」

 

「いや。いいんだ」

 

大淀「しかし…!」

 

木曾「ですってさ。大淀秘書官殿?」

 

大淀「…っ」

 

「んで、イク(伊19)はどうした?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、二人の顔色が少しだけだが青ざめた。何かあるなと思ったが正直どうでも良かったので頭の隅に留めておく程度にしておいた

 

 

木曾「お、お前には関係ないだろ!?」

 

「…あぁ。なるほど」

 

摩耶「!?」ビクッ

 

「さてはようやく上官に対して失礼な態度を取ったと理解出来たんだな。いやー、良かった良かった」

 

木曾・摩耶 ホッ…

 

 

露骨と言わんばかりにホッと息をつく二人だが、それに裏があると思えないので恐らく本当に心から何かを安堵した様だった

 

 

摩耶「…おい。何ニヤニヤしてるんだ?」

 

「え?」ニヤニヤ

 

木曾「この…!そのにやけ面をやめろ!」ブンッ

 

 

そういって思いっきり殴りかかってくる木曾。ギリギリのところで何とか躱すことが出来たが、何故か微塵も脅威に感じなかった。寧ろそれに対してワクワク感のようなモノが胸の内側から湧き出してくる

 

 

大淀「あ、貴方達!何をしてるか分かって「止めるな!」はい!?」

 

「丁度いい機会だ。せっかくだからここで人の強さってのを見せてやる。お前等も見て学べ!」

 

 

その声に反応する様に現場に居合わせた夕立、曙、川内、天龍、大淀、愛宕の計六人が体を震わせた。これは自分達に言っているのだと分かってくれたようで安心した

 

 

木曾「へっ。艦娘にも勝てない人間が何言ってんだ!」

 

 

そういって大振りに殴りかかってくる木曾だが、それをスウェイで懐に潜り込む形で躱し、そのまま拳を木曾の顎に向けて密着させた後、高さを合わせる為に跳躍をしてそのまま腕を振り切った

 

 

摩耶「…ぷっ。ぷははっ!なんだよその変なパンチ!勢いも何もないじゃねぇか!」

 

木曾「へっ。それがなんだって」フラッ

 

摩耶「…?おい、木曾?」

 

木曾「あ、あえ?」ドサッ

 

 

寝ぼけたような声を出してその場にへたり込む木曾がそこにいた。立とうとしても足が立たないのか、力を入れて足を伸ばすたびに地面に座り込むのを繰り返していた

 

 

摩耶「て、テメー!何しやがった!?」

 

「さぁ?何だと思う?」ニヤッ

 

摩耶「チッ!お前等も加勢しろ!」

 

 

その声に便乗する様に数人の艦娘が立ち上がりこちらに向かって歩いてくる。その目には怒りが浮かんでおり、どうにも木曾がやられたことに関する敵討ちの様な雰囲気を感じた

 

 

多摩「よくも木曾をー!」

 

 

そういって飛び掛かってくるのは軽巡洋艦の多摩だった。猫の様な名前は嘘ではないようで、文字通り飛び上がってこちらに強襲を仕掛けてきた

 

まともに正面から殴ってもそれを押し返せる程のパワーは自分には無い。ならばどうするか

 

 

「ほいっ」ガシッ

 

多摩「にゃっ!?」

 

 

腕の上腕二頭筋辺りを持ち上げる様に掴み、そのまま体を後ろに倒して足で多摩の体を押す様にすると同時に腕を離してそのまま後ろへと投げ飛ばす。所謂巴投げである

 

多摩の飛び掛かった勢いはそのままに、後ろへと放り出された多摩は、机や椅子等を巻き込んだ大きな音を出して目を回していた

 

 

多摩「にゃ~…」グルグル

 

 

次に視界に入ってきたのは白露、村雨、春雨の三人だった。しかし村雨の顔にだけは申し訳なさそうな顔色が見て取れる

 

そのまま自分を中心に輪を描くように集まり、そこに摩耶まで入ってきた

 

 

村雨「ごめんね…止められなくって」

 

白露「何を謝ってるの!?さっき多摩さんがやられたのが見えなかったの!?」

 

摩耶「…これで形成逆転だな」

 

春雨「…どうします?こうなったら降伏した方が良いのでは?」

 

「冗談」

 

 

春雨の提案を跳ね除け、そのまま笑顔を顔に浮かべる。何故こんな顔が出来るかは自分が先程から感じている一つの感情からだった

 

今、最高に楽しい

 

 

「何でお前等如きに白旗を振らなきゃいけないんだよ。この雑魚共が」

 

 

舌を出し、目を最大限にニヤケさせ、口が裂けそうな程にニッコリとした笑顔で、立派に立つ中指を相手に向けながら叫ぶ様に挑発をする

 

 

摩耶「この…!馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

 

 

そういって真っ先に摩耶が飛び出してきた。それに少し遅れて他三人もこちらに向かって来る

 

多数を相手にする時、対処方法はいくつかあるのだが、その中で自分が取った行動は先にやってきた者から相手するという方法を取った

 

まずは摩耶に向かって近づき、それに驚いた様子の摩耶の表情が一瞬にやけた。殴られる覚悟が出来たかと言わんばかりの顔で見ていて不愉快だった

 

あと少しで摩耶の振りかぶった拳が放たれるであろう瞬間、摩耶の目の前で猫だましをする

 

 

摩耶「うわっ!?」ビクッ

 

 

一瞬怯んだ摩耶の後ろへと素早く回り込み、そのまま背中を勢いよく蹴って村雨のいる方向に肉盾(摩耶)を作る

 

それによって対角線にいた村雨の動きが止まり、左右から白露と春雨が向かって来るだけとなった

 

次に動きが早い白露に向かって、姿勢を低くしてタックルをする。その時に肘を白露の腹にめり込ませ、それに少しえづいた様子を見せながら一瞬白露の体が浮いた

 

背後には春雨の拳が握られるのが見え、その腕が伸び切る瞬間に後頭部を伸び切る直前の拳に当てる。この時のポイントとしては指の第二間接辺りにぶつけるのがポイントだ。出来る事なら一番細い小指に向かって的確に当てられるのなら尚良く、今回はその小指に向かって見事に当たったらしい

 

 

白露「お、うぐっ…」

 

春雨「いっ…!あぁっ!!」

 

摩耶「く、クソがっ!」

 

 

今まで背中を向けていた摩耶から裏拳がこちらに向かって飛んでくるが、高さがあったおかげで当たらずにそのまま頭の上を掠める

 

そして先程多摩が吹き飛んだテーブルから転がってきたであろう箸を拾い、摩耶の臀部に向かって思いっきり突き刺す

 

 

摩耶「ぬあっ…!//」

 

 

自分の大事な部分に突き刺された箸をどう思ったのか、あまりの羞恥で顔を赤らめる摩耶。その顔は恥ずかしさと怒りがあからさまに浮かんでおり、それを見て楽しさが最高潮に達してしまい、思わず笑みがこぼれだす

 

 

「ひっ、ひひっ!ひゃはははっ!」

 

「ざまぁないねぇ!たった一人の人間に勝てないどころか、そんな辱めを受けてさぁ!?」

 

摩耶「こ、この…!」

 

春雨「ねぇっ!」

 

 

そう叫ぶ声が聞こえたのでそちらを振り向くと艤装を展開した春雨が立っていた。その手に顕現した砲塔は明らかに自分を狙っており、本人からは明らかな殺意を感じた

 

 

 

_____________

 

 

 

球磨「おい!それ以上は見過ごせないクマ!」

 

春雨「貴方のせいで…私の指が…!」

 

「…」ジッ

 

 

ひしゃげた小指を無理矢理握りこんで砲塔に指をかけて今にも撃ちそうな様子の春雨ちゃんと、無言で春雨ちゃんを見つめる提督さんの顔。その時の提督さんの顔は見た事もない顔で、言葉に表すのなら無表情。それ以外の何も感じとれるものが無かった

 

さっきまで争っていた時は笑顔をずっと絶やしていなかった。だけど春雨ちゃんが艤装を展開してそれに提督さんが気づいた瞬間、提督さんがまるでスイッチでも押したかのように人が変わった様に思えた

 

…そして、それを勘違いであってほしいと心から願っている自分がいる

 

 

摩耶「お、おい!流石にやりすぎだ!」

 

春雨「だからってこのまま許せって言うんですか!?」バッ

 

 

一瞬だけ春雨ちゃんが摩耶さんに向かって抗議の文句を言った瞬間、提督さんが手に持っていた箸を春雨ちゃんの目に向かって投げた

 

それに気付いた春雨ちゃんが両腕で顔を覆うようにガードをして、何とか箸が目に刺さるのは避けられたけど、提督さんがスリ取る様に椅子を拾い、体の勢いをそのままに一回転して椅子を春雨ちゃんに向けて放り投げた

 

椅子は勢い良く春雨ちゃんに飛んでいき、見事にガードしている腕にヒット。椅子にぶつかった時の衝撃で砲塔の引き金を引いてしまい、天井に向けて砲撃。次の瞬間には爆発音と共に巨大な穴が空いた

 

それに驚いて咄嗟に周りが天井を見上げる中、私以外にも数人の艦娘達が提督さんの動きに集中していた。それが提督さんの命令だったから咄嗟にそちらを優先してしまった

 

天井に穴が空いたことなどお構いなしに春雨ちゃんに近づく提督さん。その手の中には何時の間にか金槌が握られており、あと数歩で春雨ちゃんに届く距離となっていた

 

アレは不味い。提督は確実に春雨ちゃんを殺す気でいる。そう確信出来る程に振りかぶった提督さんの腕が春雨ちゃんの顎を狙って当てようとした瞬間

 

 

ゴンッ

 

 

降りしきる雨と共に天井から降ってきた瓦礫が落ちてきて、鈍い音を立てながら提督さんの頭の上にヒットした

 

流石に立っていられなくなったのか、まるで転がる様に春雨ちゃんの横をすり抜けて二転ほど転がったのち、仰向けの姿勢で提督さんの動きは止まった

 

 

夕立「…っ!提督さん!」

 

天龍「駄目だ!近づくなっ!」

 

夕立「えっ?」

 

床 ガァンッ

 

 

天龍さんの言葉に一瞬体が止まり、自分の足元近くで固い物同士が勢いよくぶつけたような音が鳴り響いた

 

咄嗟にそこを見ると、提督さんが未だ握っている金槌がそこにあった。音の原因はこの金槌なのだと直感的に理解した

 

それに驚き思わず一歩引くと、そこから提督さんが金槌を持って無茶苦茶に腕を振り回し、足もバタバタさせて暴れはじめた

 

提督さんは気絶している筈だ。さっき上から落ちてきた瓦礫にぶつかって気絶していないなら、何故あのように転がっていったか理解が出来ない

 

しかし現に今、目の前で提督さんが暴れていた。まるで死にかけの虫の様に、最後の最後まで生きようと体を縦横無尽に動かしているかのような。そんな生への執着とも思える執念が目の前で起こっていた

 

そうして十秒程経っただろうか。次第に勢いが無くなり、やがて提督さんの手から金槌が離された

 

 

夕立「…提督さん?」

 

天龍「…気絶してやがる」

 

春雨「ハッ…!ハッ…!」

 

球磨「は、春雨。大丈夫クマ?」

 

春雨「く、球磨、さん…」ガタガタ

 

 

球磨さんにすがる様に震えた体を近づける春雨ちゃん。あれは昔よく見た光景だった

 

今から死ぬかもしれない。その恐怖を背負った皆の最後の姿をフラッシュバックの様に記憶に蘇った

 

あれが提督さんの言っていた人の強さっていうもの?春雨ちゃん(相手)に恐怖の感情を植え付けさせる事を出来るのが人としての強み?

 

…本当に、それだけだっただろうか

 

木曾さんと一対一になった時の戦い方。そして囲まれた状態からの勝利。いくつかどうやったかもわからない事があるが、一対多数にならない立ち回りの方法や相手との心理戦と相手が特攻して来た時の接近戦

 

そして、おそらく提督さんが伝えたかったものとは違うかもしれないが、最後に提督さんが見せたあの暴れ様は目を見張るものだと思う

 

勿論、あの暴れ方自体に意味はきっとない。私が見るべきだと思った点は、最後の気絶した時に確かに感じた生きるという執念だ

 

あの時提督さんが春雨ちゃんが砲塔を顕現させた時、あれはおそらく提督さんの中でスイッチが入ったのだと思う。確実にここで仕留めなければ自分が死ぬと直感して、勝てない筈の艦娘を確実に殺す気で立ち向かっていった

 

危険だと分かっている状況なのにも関わらず、生きるために立ち向かっていったあの生への執着心。おそらくそれが提督さんの強さなのだと理解出来た

 

あの時提督さんが言った学べと言う言葉。確かに学ぶ事が出来たと思う。良い事ばかり教えてくれるわけでは無いって事も

 

そしてそれは私以外もそう思っていたようで、しっかりと教えられた事を受け止める事が出来たみたいだった

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