この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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前回投稿した話が一話飛んで投稿してました…おかげでちょっと違和感あると思いますが、軌道修正含めてこのまま進みます(pixiv掲載当時)

今回のミスで分かった事なんですが、僕の小説が汎用性ある内容になってしまって話の高低差に幅が無いんですよね。そのせいで自分の作りたいものが分かりづらくなってしまい、自分でも楽しんで作りたいものが作れていないというのが分かってしまいました。これは早急に直していく課題として取り組んでいきます


衝動の代償で得た物

提督が倒れた

 

その報告を天龍さんから聞いて以降上手く仕事が進まない。先程から手が震え、どうにも文字を書く事が出来ない

 

何でもここの艦娘と争いになり、その時に落ちてきた瓦礫で強く頭を打ったらしい。それ以降気絶したままで、その報告から数時間が経っている

 

器物破損による書類報告が増えたと大将がぼやいており、先程からイライラした様子を隠し切れない様子でこちらに対する当たりが何時もより強くなっていた

 

 

電「…」

 

大将「おい、何してる?」

 

電「あ、え、えっと…」

 

大将「…アイツが心配か?」

 

電「……」

 

大将「気持ち悪い…お前等が何で提督を心配するんだ?道具は道具らしく大人しくしてろ。毎度毎度うるさくて敵わん」

 

 

おそらく司令官さんならこの人を茶化して更に怒らせるのだろう。見る人から見れば完全にツンデレおじさんの様な事を言っている人物だが、この人にとってそれはないだろう

 

艦娘が顕現するより少し前、深海棲艦が攻めてきた時に急遽大将へとなった人物がこの人だ。その時の話を元師から聞いたことがあるが、狸だと言われていた。何でも化かすのが上手い人物だと

 

その言葉を聞いていくつか元師が証拠を握っている様だったが、それでも階級剥奪を行わない所を見ると出来ない様だった。それだけマイナスな部分が多くても優秀な人間なのか。それとも決定的な証拠を持っていないだけなのか。どちらかは流石に教えてくれなかったが、おそらくこの二つのどちらかだろう

 

そして私は前者だと思っている。この人は艦娘の事を道具としてしか見ていないが、私達の扱いを雑にする人では無いという事だ

 

ただ人ではないから人と同じ事をする艦娘を嫌っている。そしてそれに嫌悪を抱いている。この人からしたらその程度の認識なのだろう。だからこそ、先程の言葉を撤回して欲しかった

 

 

私達(艦娘)の事を人として見てくれている司令官さんの事を馬鹿にされているようで、少しむかっ腹が立っているからだ

 

 

電「…そんなにおかしいのですか?」

 

大将「はぁ?」

 

電「私達が人を心配して、そんなにおかしいのか聞いてるのです!」

 

大将「おかしいに決まっているだろう。何を言っているんだ?」

 

 

まるで当たり前かの様に話す目の前の人物は、それが至極当然であるかのように言い放った

 

そしてそれを聞き、この人とは決して相いる事は出来ないと理解してしまった

 

 

電「…もういいです。少し昼休憩を頂きますね」

 

大将「おい!話はまだ終わってないぞ!」

 

電「電は話すことがこれ以上ありません。これにて失礼します」

 

 

力任せにドアを開けてすぐさま部屋を出る。司令官さんが倒れたという話を聞き、流石に黙って傍にいる程私は利口な訳では無い。後で怒られるだろうが、それでも私が司令官さんを心配しない理由にはならない

 

 

大将「……」カリカリ

 

 

 

電「司令官さん!」

 

島風「あ、電ちゃん…」

 

電「し、島風ちゃん。司令官さんは?」

 

島風「まだ目を覚まさないの。脈はあるから死んでる訳じゃないと思うんだけど…」

 

 

その言葉を聞いて電流が体を走る様な感覚に襲われた。それを聞いて一つ思い出した状態がある

 

植物状態…生きているけど、何の反応も返す事が出来ない状態の人を指す言葉だ

 

私はそれを戦争の被害にあった町で良く見ていた。病院に運び込まれた人達の中には生きているのにずっと目を覚まさない人がいて、決して反応を返してくれないその事実にただ涙を流す事しか出来ない人がいたのを鮮明に覚えている

 

 

島風「…提督、起きるよね?」

 

電「あっ…」ブルッ

 

島風「……起きないの?」

 

電「そ、それを決めるのはまだ早計なのです!まだ気絶して数時間なのですから、きっとただ寝ているだけなのです!」

 

島風「そ、そうだよね!提督が簡単に死ぬわけないもんね!」

 

 

そう答える島風ちゃんだが、やはり不安が完全に拭いきれていないのが見て取れる

 

当然だ。先程の言葉は自分を安心させる為に言った言葉だったから。島風ちゃんが先程の言葉を聞いていたとしても、その言葉の真意を見抜かれている気がしてならなかった

 

 

球磨「邪魔するクマ」ガラッ

 

島風「…何の用?」

 

球磨「さっきの事でちょっと謝りに来たクマ」

 

島風「さっきのって…謝って済む事だとでも?」

 

球磨「勿論、そうは思っていないクマ。だから行動で示しに来た」

 

電「ふざけないでください」

 

電「司令官さんをここまでさせる程に追い込んだのは貴方達です。そんな人が謝罪を行動で示しに来た?どう考えても何か裏があると思うのは当然ですよね?」

 

 

なんとか冷静を保つように言葉を出すが、そのどれもに力が入らない

 

もしかしたら司令官さんはもう二度と動かないかもしれない。なんてたられば(もしも)がある以上、どうしてもはっきりと言葉にするのが怖かった。もし断言でもしようものなら、それは司令官さんが本当にそうなのだと思う以外の選択肢が無くなってしまうからだ

 

 

球磨「…だったら今日一日そこの提督の傍にいてやればいいクマ。あの提督の秘書官は変わる様に言ってくる」ガタッ

 

電「はい!?」

 

球磨「たかが一日私がアイツの秘書官になってもどうって事ないクマ。それなら謝罪になると思ったんだけど、どう?」

 

電「…目的は?」

 

球磨「さっきも言った謝罪クマ。それ以外の目的なんて何にも考えてないクマ」

 

 

そう言ってジッとこちらを見てくる球磨だったが、不意に島風ちゃんに手を引っ張られる

 

 

島風「ど、どうしよう?秘書官を変わるって言っていたけど、多分無理だよね?」

 

電「そうだと思います。あの大将は私の事を人質だと言っていましたし…」

 

球磨「あ、それなら心配いらんクマ。アイツが他提督の艦娘を傍に置くのは反応を見る為ってのが理由なんだし」

 

電「…詳しく教えてください」

 

球磨「アイツがこれまで同じことをやってきてたのを球磨達は見てる。お前たちみたいに自分と敵対しそうな奴等がいれば自分の立場を利用して人質として扱ってるんだクマ」

 

球磨「そうして艦娘か提督が人質を解放しようと無茶をした場合、免罪符を得たという名目でソイツ等を無茶苦茶にしてきたクマ」

 

電「…なるほど。私達が大人しくしてたのを見て人質の価値が無い。或いはその必要が無くなったと考えるべきでしょうか」

 

球磨「もしくは別の目的かも知れないけど…多分今の電達が考えられるのはこれくらいのハズ」

 

島風「それじゃあ電を私達と一緒に過ごせるように話しても良いんじゃないの?」

 

球磨「流石にそれは出しゃばりすぎだと思うクマ。それをされたら面目が保てなくなるし」

 

 

淡々と話す球磨の話は信憑性を感じさせる言葉であり、おそらく嘘は一切ついていないだろう態度であったが、それでも今までの事を考えたら少しは疑いを持って掛ったほうが良いとも考える

 

 

島風「…電ちゃん。どうする?」

 

電「…分かりました。信じましょう」

 

球磨「話が通じた様で良かったクマ。それじゃ今日一日はここで見守ってやる良いクマ」

 

電「…一つ、聞いても良いですか?」

 

球磨「どうした?」

 

電「ここは一体何なのです?」

 

球磨「…質問の意図が分からんクマ」

 

電「ならもっとはっきり言うのです。ここは何のために用意された鎮守府ですか?」

 

 

その言葉にビクリと球磨が反応し、まるで何故かと問うかの様な目をこちらに向けた

 

…どうやら艦娘が知っている程にここの闇は深いみたいだ

 

 

 

_____________

 

 

 

「…ん」

 

電「司令官さん!」

 

「うぉっ!?」

 

 

…目が覚めたら涙目になった電に抱き着かれた。一体どういう状況?

 

 

「あ、えー…おはよう?」

 

電「ぐすっ…もう夜ですよ…」ニコッ

 

 

涙を先程からポロポロとこぼす電と、その様子を眺めているウチの艦娘達が視界に映った

 

何故このような状況になっているのか記憶を遡らせると、最後に観た光景は春雨の恐怖に怯えた顔を見た瞬間と、言い様もない高揚感のまま何かにぶつかって気絶したという記憶だけだった

 

 

「チッ。あのまま気絶したのか」

 

山風「だ、大丈夫なの?」

 

「頭が痛い事以外は大丈夫だ。ただあれから何時間経った?」ジィーッ

 

大淀「約8時間ほどです」

 

 

その報告を聞きながら先程まで着ていた妖精さんの作ってくれた体のガワに違和感を感じ、自身の体をよく見ると体のガワが妙にピッチピチしていた

 

さながら良く伸びるゴムが通ってある服を着たような、ちょっと痛いくらいに服が伸びており、自身の体も少し大きくなっているのを感じた

 

 

「…俺、成長してる?」

 

電「あっ、そうなのです。司令官さんが倒れてからしばらくして、司令官さんが急に大きくなり始めたのです」

 

「ふむ…大体五歳くらいにまで戻ってるな」妖精さんに作ってもらった体と同じだ

 

電「どうして急に成長したかは電には分かりかねますが…何か心当たりはありますか?」

 

「あーうん。一応あるから気にしなくていいよ」

 

 

まぁ、九割がた実験の効果が消えてきたって事だろうが、そのことをここで説明すると長くなりそうなのでまた何時かの機会に話しておこう

 

 

「にしても…大分時間を無駄にしたな」ググッ

 

大淀「執務はこちらで全て終わらせています。今日と明日は一日お休みください」明日の分も済ませましたので

 

「へ?」

 

電「電も今日一日は変わってもらったのでお傍にいさせて頂きます。構いませんよね?」

 

「…いや、その前にお前等に教える事がある。休むのはそれからだ」

 

夕立「提督さんが言っていた、あの学べって事?」

 

「あぁ。どうだった?」

 

夕立「…はっきり言うと、まともじゃない。あんなに危ない事をして、一歩でも間違えれば春雨ちゃんみたいな子が何人も出てきたかも知れないんだよ?」

 

夕立「でも立ち回りや状況判断は凄いと思った。正面切って相手をするんじゃなくて、相手を壁にして少しでも相手する数を減らして、先に向かってくる相手を見極めてそっちから先に攻撃してたし…」

 

 

そう語る夕立の目は興味津々といった表情であり、とてもキラキラしている顔をしていた。それに同上するように周りの艦娘達もうなづいており、少しの安心を覚えた

 

 

天龍「ただ最後のアレはなんだ?あの気迫っていうか、執念っていうか…」

 

「うん。思わずやっちゃったけど、あれは教える気無いよ」

 

天龍「そうなのか?」

 

「まぁそうだな…あれに関して教えられる事をまとめて言うなら強い意志…執念とでも言えば良いのかな」

 

「自分がこれだけは譲れない…だからそれを守る為に戦うっていう強い意志。それを壊そうとする者は絶対許さないという執念の力だ」

 

「俺の場合は絶対に死にたくない。だから殺そうとする者は絶対に許さないっていう強い執念で戦った。それがあそこまで春雨を追い詰めた秘訣だ」

 

川内「…何で全部教えてくれないの?」

 

 

そう不満そうな声で聞いてくる川内。それは皆も同じようで、皆一様にジトッとした目線を向けてくる

 

 

「…アレはスイッチが入ったというだけ教えておこう。それ以上を教えるのは今のお前等には早すぎる」

 

川内「…そんなに信頼出来ない?私達の事?」

 

「変な拡大解釈はやめろ。そういう意味で言ったんじゃなく、あまりに危険すぎるから言ったんだ」

 

川内「危険?」

 

「仮の話をしよう。例えば俺がバンジージャンプをしようとする。しかし俺は怖くて怖くて飛び降りる事が出来ない状況だ」

 

「しかしアレ(スイッチ)をすると速攻で飛び降りる事が出来る。だから危険なんだ」

 

天龍「つ、つまり…どういうことだ?」

 

愛宕「…恐怖感が完全に消えるって事ね」

 

「概ね正解だ。ちなみに恐怖感だけが完全に消える訳じゃなく、あらゆる感情を抑え込むことが出来るってレベルだな」

 

 

それを聞いて納得した雰囲気を見せる愛宕達だが、どうにも腑に落ちない様子の奴等が数名いる

 

どうしたものかと頭を悩ませると、少し妙案を思いついた

 

 

「良し。それじゃあこれを見てくれ」E.金槌

 

曙「か、金槌?」

 

「今からこれを俺の腕に振り下ろす」

 

艦娘達「はぁ!?」

 

「俺は今から腕を殴った後に指を何度も打ち付けてボロボロにする。多分そうなったらペンも握る事が出来ず、指を切り離すくらいしか方法が無いくらいにぐちゃぐちゃにするつもりだ」ガクガク

 

大淀「ほ、本気ですか!?というか凄い汗じゃないですか!」

 

 

そう叫ぶ大淀の声を無視し、軽く一息を入れてスイッチを入れる

 

その瞬間自分の頭の中が真っ暗になったかのようにモヤが掛かり、それが全ての感情をシャットダウンさせた

 

 

「…行くぞ」

 

 

そういって腕を振り下ろすと、その瞬間に止められてしまった

 

そちらを振り向くと決死の表情で電が腕を抑え、潰そうとした腕を引き離そうと雷が腕を抱える様に持っていた

 

それを見ても腕に力を込め続けて何とかして腕を潰そうとするが、艦娘の力に逆らう事が出来ずにいると、時雨に思い切り抱き寄せられた

 

 

時雨「もういい!もう良いよ!」

 

 

必死にそう訴える時雨の声で頭のモヤがゆっくりと晴れていき、愛宕が金槌を取り上げた瞬間に腕の力が抜けきり、重力に従ってブランとぶら下がる

 

 

「…ふぅ。助かった」

 

龍田「助かったじゃないでしょ!何を考えてるの!?」

 

「言っただろ。危険だって」

 

 

淡々と説明する自分をあり得ない様な表情で見つめる龍田だが、先程の光景を思い出してか少し後悔の念に駆られた顔をした

 

それは納得出来なかった者達も同じようで、一同に恐怖を覚えた顔をしている

 

 

「これがお前等に教えられない理由だ。分かったか?」

 

天龍「っ…」

 

「あぁなったらホントに止めるのは難しいんだ。慣れたらもっと早く止める事だって出来るだろうが、そんな状況に何度も陥ってたら先に死ぬと思うしな」

 

「そしてこれはやろうと思えばお前等は簡単に習得できるレベルの代物だ。ただきっかけがないだけで、もしかしたら既に出来るかも知れないな」

 

「…あれ。そうすると俺が教えたのは不味かったかも」

 

 

そう一人で悩んでいると、時雨が顔を無理矢理こちらに向けさせた。ちょっとグキっていったかもしれない

 

 

時雨「…約束するよ。あれは絶対に使わない。ううん、例え知りたくても知らないようにする。それで良いんだよね?」

 

「…あぁ」

 

潮「…なんで提督はそれが出来るんですか?」

 

 

その言葉を聞き、ハッとしたように顔を見合わせる艦娘達と、次の瞬間には沢山の視線が自分に向かって集まってくる。正直ちょっと怖い

 

 

「言っておくが大した理由もない…って訳じゃないが、まぁ強いて言うなら好奇心だ。なんとなく出来そうだったからやってみた。それが出来ちまったからもう一回やってみようって何度も続けた結果ここまで出来る様になったってのが理由だ」

 

「ま、言わば経験の差だな。生きた年の経験が積み重なってこういう事が出来る様になったってだけの話だよ」

 

潮「…本当にそれだけですか?」

 

「おいおい。それ以上聞くのは野暮ってもんだぞ」

 

潮「…失礼しました」

 

「安心しろ。生きてるからって俺みたいになる訳じゃない。俺以上に良い生活が出来るって事をお前等に教えてやるよ」

 

 

それを聞いてホッとしたような顔をしてほしいと願ったのだが、どうしても皆の厳しい視線からは逃れる事が出来なかった。その厳しい目からはどこか優しさや憐れみ、同情といった事まで感じれそうな目だった

 

 

電「…何時か教えてもらう位には司令官さんの事をぞっこんにさせますからね」

 

「おう。楽しみに…いや、ちょっと待て。なんかおかしくなかったか?」

 

電「気のせいなのです♪」

 

「う、ウイッス…」

 

 

…電を見る目が若干変わりそうだ。この子こんなに積極的だっけ?

 

 

「と、とりあえず今日は軽く訓練するぞ!慣れて来たら定期的に開催するつもりだからな!」

 

電「了解なのです!」ビシッ

 

 

 

_____________

 

 

 

武道館

 

 

夕立「ふぅー…」

 

「思い切ってこい!俺が手伝ってやる!」

 

夕立「いくっぽい!」ダンッ

 

「お、上手い!」ガシッ

 

夕立「でっ、きたぁ…!」タンッ

 

「おー!良くやったな!」ナデナデ

 

夕立「えへへ~」

 

曙「…ねぇ。これが訓練なの?」

 

 

今自分達が行っている事は器械運動と呼ばれる運動である。先程夕立が行ったのは側転と言う技だ

 

 

「あぁ。これぞ大事な訓練だ!」

 

曙「いやに暑苦しいわね…それにこの格好…//」E.体操着

 

 

うーん、ぴっちりしたブルマは何とも言えないエロスを感じはするのだが悲しきかな。自分はズボン派である。というのも小学生時代から高校生まであった体育は全て男女共にズボンだったので目新しさはあるものの、それにハッキリとしたエロを感じるかと言えば微妙である

 

 

「文句言うな。その服の方が動くときに安全だし動きやすいだろう?」

 

曙「そ、そうだけどぉ…//」

 

(あー、照れてるボノタンは最高だな」

 

潮「提督、本音が漏れてます」

 

「うおっと」

 

曙「で、何でこれが大事な訓練なのよ?そこんところちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

 

 

食い気味に質問してくる曙だが、おそらく自分達のこの格好が見たいからではないかという下心から行っていると思っているんだろう。三割くらいはその気持ちだが、残りは割と真面目な目的がある

 

 

「あぁ。まずはお前等に体の動かし方を学んでもらう。何処まで自分の体が動くのかを把握しておくのは大事な事だからな」

 

曙「…それ、関係あるの?」

 

「はぁ~…この大事さが分からんとは…」

 

曙「あ”?」

 

「ごめんて」

 

「…そうだな。電、お前は前と後ろを敵に挟まれた場合、そこからどう行動する?」

 

電「そうですね…その時の状況にもよりますが、前の敵に突っ込んで攻撃して活路を開こうとします」

 

「うん。行動を忘れないのは良い事だ」

 

曙「…話が飲み込めないんだけど?」

 

「まぁ聞け。その時に相手が超近距離に入ってこようとした場合はどうする?」

 

電「その時は回避します。電では正面からやり合うのは得策では無いので」

 

「例えば?」

 

電「体格差のある相手でしたら潜り込むように。同じくらいのサイズなら左右に避けるか飛んで避けようとします」

 

「なるほどな。それじゃあちょっとやって見せてくれないか?」

 

電「了解なのです。天龍さん、お願い出来ますか?」

 

天龍「お、おう」

 

「天龍は電を掴んだら勝ち。電は天龍の掴みを回避して今天龍が立っている場所より後ろに行けば勝ちだ」

 

電・天龍「分かった「のです」」

 

 

電と天龍が向かい合い、互いにあと一歩踏み出せば両者の手が届くという距離まで互いに離れる

 

開始の合図として手を叩き、天龍が電を捕まえようと両手を開いて電の肩目掛けて手を振り下ろす。そのタイミングで電が素早くしゃがんで回避を行い、摺り足の様な動きでそのまま天龍の後ろへと移動した

 

 

電「どうでしょうか?」

 

「うん。しゃがむ時の勢いが早くて膝を痛めてないか心配だが、良かったと思うぞ」

 

曙「…あれくらいなら私も出来ると思うけど」

 

「お、ならやってみるか?」

 

曙「ふん、当然やってやるわ」

 

「良し。なら天龍はもう一回相手してやってくれ。一つアドバイスをやるからそれを利用してな」

 

天龍「おう」

 

 

天龍にアドバイスをやり、曙と天龍が向き合う形で対立する。開始の合図を出し、両者が動き出す

 

先程と同じように上から手を振り下ろす形で曙を掴もうとする天龍と、電がやったように同じやり方で回避しようとする曙だったが、天龍が曙の動く先に足を出す事で曙の動きが一瞬止まる。その瞬間を狙ったかのように天龍の手が曙の肩を掴み、チャレンジは失敗に終わった

 

 

天龍「捕まえたぞ」

 

曙「うっ…」

 

「残念だったな」

 

曙「電と同じようにしたのに、どうして…?」

 

「簡単だ。お前と電じゃ体の作りが違う。更に言うなら筋肉量だって違うし、動きも何処か危なっかしかったな」

 

「電、お前なら曙の立場の場合どうする?」

 

電「天龍さんの妨害してきた足に手を置いて体を捻って回避していたと思います。その方が相手は誘爆を恐れて攻撃は鈍ると思いますし、そこから足や体に組み付いて相手の体勢を崩す事だって出来るので」

 

「とまぁ、電ならこう避けるらしい。だがお前はそうしなかったな」

 

曙「だ、だって、そう避けようだなんて考えても無かったし、出来るか分からないんだもの!」

 

「そう。分からないだろ?体の動かし方をしっかりと知らないお前は、どう避けるか分からないからあのまま捕まったんだ」

 

「今回の運動はどう体を動かせば良いか学ぶ目的がある。体の可動域や限界を知っておけば、ほんの少しだが生存力を上げることが出来る。そしてそれは例え海上だろうと使えない訳では無い」

 

天龍「概ね納得は出来るが…本当に上手く行くのか?」

 

「ここにいたら自然と実践の機会はある。そこらへんは気にするな」

 

天龍「了解。ただよー、俺達は結構デカイが補助は出来るのか?」

 

「そこは安心しろ。電に代役を立てる」

 

電「はい。運動の補助はお任せください!」

 

島風「電ちゃんって結構色々出来るよね~」

 

電「元師から色々教わりましたから。これも軽く教わった程度です」

 

「電は軽巡以上を頼む。駆逐艦はこっちが責任持ってみるからさ」

 

電「了解なのです!」ビシッ

 

 

うーん、ブルマ姿で敬礼する電も中々…っと、流石に皆がこっちを見る目が厳しいからここまでにしておこう

 

 

「じゃあ次山風。遠慮せずに来い」

 

山風「う、うん…」ブルブル

 

「あー…怖いならもう少し後に回そうか?」

 

山風「う、ううん、やる!出来るもん!」

 

「意気込みは嬉しいんだが…流石にビビりながらやると怪我の恐れがあってだな…」

 

山風「むっ…!出来るよ!」バッ

 

「あ!その姿勢は不味い!」

 

 

上下反転する直前に山風の体が背中から倒れそうになり、咄嗟にそちらの方向へと回り込んで山風を支えながらゆっくりと着地させる

 

 

山風「あ…」

 

「っぶね~」

 

山風「ご、ごめんなさ「いや、いい」え?」

 

「山風のミスは俺も経験あるからなぁ。強くは責められんし、何ならミスを直せば良くなるんだからそこだけ注意しとけ」

 

「良いか?さっき山風は倒れる時に前を向いて倒れたんじゃなくて、手の向いている方向に倒れようとしたから体がそっちに持っていかれたんだ」

 

「初めの方にも見せたが、実際は前に倒れつつ、手はT字になる様に手を地面につけて倒れるのが正解だ。そしたら綺麗に回る事が出来る」

 

山風「う、うん。分かった」

 

「おし。それじゃあ次だ」

 

山風「あ…」シュン

 

「?」

 

潮「潮、行きます!」

 

「良し来い!」

 

 

そうやってしばらくマット運動を続け、艦娘の身体能力が元々高いという事もあり、異常な成長速度で様々な技術を取得していったが…

 

 

「…」グスン

 

雷「へ、凹まないでよ司令官!」アワアワ

 

「だってぇ…何でやり方を教えただけなのにほぼ一発でバク転が出来るんだよぉ~。俺だって子供の頃は7年ほどやってたのに出来なかったんだぞぉ?」メソメソ

 

曙「…ただ運動の才能が無かっただけでしょ」ボソッ

 

「う”」グサッ

 

 

曙の何気ない呟きが心にCriticalHitした。今まで培ってきた技術の自信をまるで砂のお城を壊すかの如く砕け散らせ、丸まってメソメソと泣くことしか出来なくなった

 

 

暁「…ダンゴムシみたい」

 

「うっせぇやい」ムクッ

 

「しかし思った以上に出来るな…単純に体を動かすだけだからか?」

 

大将「ほう?執務をサボってこんな所で遊びとは…良い根性しているな」

 

「…何の用ですか?」

 

 

そう言いながら二や付いた顔をして入ってくる大将。どうにもろくでもない事を考えていそうな目だったが、おそらくそれが自分の望んでいた事でもあった

 

 

大将「何、お前等と演習をしたいと思ってな。こんな所で遊ぶ余裕もあるんだからどうだと思ったんだが…」チラッ

 

艦娘達 ギッ

 

大将「…生意気な目だ。気にくわん」

 

 

そう言う大将の目は蔑んでいる者の目ではあったが、何処か愉悦を感じた。こういう自分が優位に立っていると思っている奴が次に言うセリフはおそらく…

 

 

大将「せっかくだ。今回の演習の結果で賭けをしないか?」

 

「…内容は?」

 

大将「もしお前が勝てば…そうだな。お前の望みを叶えてやろう。俺が誰かの願いを聞いてやるなんて中々無いぞ?」

 

「アンタが負けた場合は?」

 

大将「お前の全艦娘をこちらに渡せ」ニヤッ

 

「乗った」

 

 

その短いやり取りの間に全員が固まった

 

皆驚いた様子で固まり、それは目の前の大将も一緒だったが、すぐさま顔がニヤケ顔になっていった

 

 

大将「ならば早速演習場に来い。無論、ここまでして拒否なんてことはしないよな?」

 

「構わん。俺の決定は全員の決定だからな」

 

大将「良く言ってくれた」ククッ

 

「アンタも出した言葉を引っ込めないで貰いたいな。まさか負けて良い訳だなんて見苦しい事しないもんなぁ?」ニヤッ

 

大将「それで挑発のつもりか?」

 

「当然。アンタはそれが出来る力があるからな」

 

大将「安心しろ。万に一つも無いからこんな約束をしてやってるんだ。お前等の艦隊と俺の艦隊を比べたら、練度の点を見てもお前等が格下なのは明らかだからな」

 

「…後悔すんなよ?」

 

大将「こちらとしてはお前の艦娘共を頂ける時点で楽しみしか無いな」

 

 

火花が散り、どちらも一歩も引かずに煽りあいの合戦が始まる。実際に勝負の場に立つのは自分達ではなく艦娘達なのだが、まぁ細かい事は丸投げしよう

 

…その艦娘達からの視線は痛いが、後で怒られないのを祈っておこうか

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