この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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昔流行ったソードワールドをニコニコで見始めました。理由としてはストーリーの組み立て方がセッションごとにしっかりと管理されており、TRPGという事もあって準備段階から本編までの流れを学べると思ったからです。今の自分に足りないのは流れを上手く汲み取って語ると言う能力が無いので、しばらくこれらを学びながら小説を作っていきたいと思います


活かすか枯らすかは人のエゴ

食堂

 

 

「…なぁ」

 

愛宕「何?」ナデナデ

 

 

ニコニコとした顔で自分を膝に乗せて頭を撫でている愛宕だが、それのせいで周りの視線が死ぬほど痛い。というかただでさえ無い尊厳が更に削れているんだからやめてほしい

 

 

「離れてくれない?」

 

愛宕「あら?家族が恋しかったんじゃないんですか?」

 

「違うわ!確かに二度と会えないかも知れんが寂しいと思ったことは無い!」

 

 

それを聞き周りの艦娘がざわざわとし始める。それは同情にも近い顔でこちらを見ていた

 

時と場合を考えてくださいと何処かからツッコミがくるだろう。そんなしょうもない事を考えながら愛宕の膝から降りる

 

 

「んで、話ってのはなんだ?球磨」

 

球磨「…昨日の演習についてだクマ」

 

 

少し困惑した顔をしながら話し始める球磨。正直すまんかった

 

 

球磨「あんな無茶苦茶な作戦で、しかも被害無しであの艦隊に勝利。一体どういうマジックを使ったのか聞きたい」

 

「大したことは何もしてない。強いて言うなら運が良かった」

 

球磨「…運だけで片付けられる訳ない。まるで知ってたかの様な動きだったし、更に言うなら色々腑に落ちない点がある」

 

「例えば?」

 

球磨「まずは赤城と蒼龍が飛ばした艦載機。まだ戦闘に入る直前だったとはいえ制空権は確保していた。だけど何で攻撃しようとした瞬間に島風の妨害が入ったクマ?」

 

「初めから島風だけは単独だったんだよ」

 

球磨「…はぁ?」

 

「あの演習は開始地点の指定が範囲だったんだよ。だから好きな場所に艦娘を配置してた」流石に敵の距離が視認出来る距離は駄目だけど

 

球磨「…じゃあどうして島風は赤城と蒼龍の位置が分かったの?」

 

「あー。あれは単純に運が良かったのと島風が頑張った」

 

球磨「ぐ、具体的には?」

 

「まず島風を演習の範囲ギリギリに配置します。そこから大きくUを描く様に移動し、端まで移動したら折り返して半分までの距離に移動したら再び曲がって探します。これによって探したって訳だ」

 

「まぁ俺の予想で長門達は演習の範囲ギリギリにいるとは踏んでた。移動が遅い相手ならおそらくほとんどが待ちに回ると考えたんだが、そうなると待つべきポイントは何処が良いか?赤城や蒼龍といった空母がいるから、索敵にほぼ漏れが起こらないであろう端にいるのは想定してた」

 

球磨「…じゃあ時雨が単独で艦隊から離れたのは?」

 

「あれは時雨の独断だ」

 

球磨「ど、独断!?」

 

 

流石に驚いたのか、まるで威嚇する猫の様に驚く球磨だったが、その背後にいた多摩もつられてフシャーと言っているのには流石に笑ってしまった

 

 

「あぁ。何でも的を増やすためだったらしい。相手は戦艦だからまとまって動いたら爆風等で互いの安全が確認出来ないんだと。なら的を増やして相手を少しでも攪乱してやりたかったとの事だ」

 

球磨「む、無茶するクマね…」

 

「全くだ。その点に関しては正直自身の身を滅ぼしかねないから実戦ではやめてほしいがな」

 

球磨「…じゃあ最後の質問だクマ」

 

「おう。何でも来い」

 

球磨「どうして山風を演習に参加させた?」

 

 

その瞬間、球磨から感じたのは怒り。しかしその顔はどうしようもないと分かっている様な諦めにも近い顔で、その目には涙さえ浮かんでいた

 

 

愛宕「ち、ちょっと待って。どうして山風ちゃんを演習に参加させただけでそんなに怒ってるの?」

 

「…アイツは過去に演習で仲間を沈めたんだよ」

 

愛宕「えっ…?」

 

球磨「そう!そのことをお前は知ってたんじゃないのか!?」

 

「あぁ。知ってた」

 

球磨「っ…!ならどうして!?」

 

「練度が電に次いで高かった。理由なんてもんはそれだけだ」

 

 

淡々とした答えに怒りのボルテージが更に高まる球磨と、未だに困惑した様子の愛宕。そうして話がヒートアップしていくと、話題の人がやってきた

 

 

山風「て、提督?どうしたの?」

 

「お、山風」

 

球磨「山風!お前ホントにコイツの元にいて良いクマか!?」

 

山風「え、えっ?」

 

球磨「コイツはお前の事なんて何も考えてない提督クマ!今からでもまた別の提督の場所にいけば「やめてっ!」や、やまかぜ…?」

 

山風「この子の事を悪く言わないで」

 

球磨「だ、だけど!」

 

山風「…ホントに私の事を考えてくれないんだったら、この人だってこんな姿にならずに済んだんだもん」

 

「……」

 

愛宕「…どういった経緯があったのか教えてくれない?じゃないと球磨さんだって納得出来ないと思うわ」

 

山風「…話して良い?提督」

 

「おう。ただし無理はするなよ」

 

山風「うん。分かった」

 

 

 

_____________

 

 

 

山風『私が行った鎮守府ではね、艦娘による実験があったの。人間じゃ危険すぎるけど艦娘なら耐えられるっていう理由だった』

 

山風『それに艦娘には入渠や高速修復材ですぐに回復出来て、前回の実験の結果を残さないからっていう理由もあったの。そうしていた鎮守府の実験はかなり酷かったと思う』

 

山風『そんな場所にやってきたのが提督だったんだけど、私を誘う時がそれは酷かったの。多分あれほど酷い誘い方は今後聞かないと思うなぁ…』

 

 

 

【とある鎮守府】

 

 

少将「お…やっぱり君なのね」

 

「お久しぶりです。少将」※元の姿(19歳)

 

少将「ふふっ。初めて会ったのは君の鎮守府が襲撃された頃かしら?結構可愛くなったわね」

 

「気色悪いのでやめてもらえます?」

 

少将「連れないわねぇ…せっかくの貴重な男性の提督なのだからもう少し私達に媚びでも売って楽しく過ごそうとか考えないの?」

 

「貴方が実験を行うのが楽しみな様に、私は艦娘と触れ合える事が楽しみなんです。貴方に媚を売っても艦娘と触れ合えるかって言われると…ねぇ?」

 

少将「あーはいはい。想像通りの言葉ありがとうございます」

 

「…ふぅ」

 

「本日は三日と言う短い期間とはいえ、私の受け入れを聞き入れてくださりありがとうございます。この三日であらゆることを吸収させて頂きますので、どうかよろしくお願いします」ビシッ

 

少将「…はい。よろしくね」

 

 

互いに握手を交わし、その場の挨拶を終えた所で鎮守府で行動する際の注意事項を言い渡された

 

危険と書かれた部屋には入らない事。少将の自室に入らない事。以上の二点さえ守ってくれれば良いとの頃だった

 

そうして一日目を迎え、その日は簡単な雑務と艦娘達のコンディションチェックを行っただけで終了してしまった

 

一日過ごしただけで分かった事だが、意外にもここは他の人間も一緒に作業しているらしい。何でもやることが山ほどあって提督一人だけじゃ捌けないとの事だった

 

掃除、炊事、洗濯等の人員が約10名。少将の研究に必要だと言っている人が約30名程だ。その中で艦娘は70名以上いるが、ほとんどが練度も20を超えていなかった。そして同時に光も無い様な表情だった

 

そんな場所で初遭遇した艦娘が白露型8番艦の山風である。そんな彼女の第一印象は可哀想な子供だった

 

 

「おい。大丈夫か?」

 

山風「…」

 

「…目の下に隈。カサカサの唇。お前まさか睡眠も食事も取ってないのか?」

 

山風 コクッ

 

 

力なくうなづく山風だったが、本人がしたくてしている様にも見えたので、とりあえず適当にお節介を焼いておこうと考えた

 

 

「ほら、これ食え」っゼリー飲料

 

山風 フルフル

 

「拒否しようったってそうはいかん。俺に見つかった時点で諦めろ」

 

 

そういって山風の口を指でこじ開けてゼリーを口の中へ押し込める。咄嗟に吐き出そうとするが、すかさず口を押えて無理矢理飲み込ませた

 

再び口を指でこじ開けようと口の中に指を入れるが、その瞬間に山風が力を入れて噛まれてしまった

 

しかし殆ど痛みを感じず、おそらく噛む力さえ弱くなっているのだろうと思った

 

 

「無駄だ。お前の力じゃ俺の指を噛みちぎるのだって出来やしない」

 

山風「…どうして、そんな事をするの?」

 

 

重々しく口を開ける山風。声は普段ゲームで聞いていた様な声で安心したが、問答に対してどう答えようか頭を悩ませていた時、ふと昔聞いた事のある言葉を思い出したので、それに習って話してみた

 

 

「運が悪かったんだよ。お前は」

 

山風「運が…?」

 

「あぁ。俺みたいなお節介に見つかった。そしてお前にお節介をかけたいって考えた。だからお前は自分がしたかったことを邪魔されたんだよ」

 

「残念だが実験の邪魔をしようたってそうはいかない。お前みたいに力なく倒れていく奴も実験する側からしたら健康な奴と大した違いもないしな」

 

山風「…」キッ

 

 

見透かされたと察するには簡単に理解出来、こちらを睨んではいるが今にも倒れそうな奴にそんなことをされても怖くも何ともなかった

 

 

「そんな顔しても無駄なもんは無駄だ。おとなしく世話されとけ」

 

山風「…どうしたらいいの?」

 

「ん?」

 

山風「どうやったら…皆を助けてくれる?」

 

「…残念だけど助けるのは皆じゃない。お前だけだ」

 

山風「それじゃあ貴方の助けは要らない…早くどこか行って…」

 

「だから言ってるでしょ?お前はお節介な奴に見つかったんだって」

 

「俺がするのはお前をどうしてやろうか考えてるだけ。それ以外は何も考えてない」

 

山風「……」

 

 

第一印象は最悪であろう出会い。自分で話していて赤くなりそうなセリフを散々吐いてきたが、流石にあのセリフを言うのには歳が若すぎたと思う

 

 

山風「…じゃあ、これから私がやろうとすることも許してくれるの?」

 

「ん?例えば?」

 

山風「邪魔な人を消す事」ガチャ

 

「…マジかよ」

 

 

瞬間的に体を逸らして振り上げられる砲塔を避けるが、足払いでバランスを崩されて地面へと背中から倒れてしまう

 

追撃するように砲塔を顔にめがけて振り下ろしてくるが、倒れた体制のまま足を山風の腰から回す様にして背中にある艤装を蹴ると、バランスが崩れてこちらに向かって山風が倒れてくるのを確認してから受け止める

 

山風の唇があと少しで自分の首に触れる寸前まで近づくが、腋を抱えてこちらに倒れ伏してくるのを支える。本人の顔は真っ赤に染まっており、首を噛み千切ると言う展開まで来なかったことにホッと胸を撫でおろした

 

 

「っぶねぇ~。流石にヒヤヒヤしたなぁ」ハハッ

 

山風「あっ、う…」

 

「…いくら何でもいきなり出会った人間を消そうとするのは無いだろ?昔何かあったんか?お兄さんに話してみ?」

 

山風「…き」

 

「き?」

 

山風「気持ち悪い…」

 

 

気持ち悪い

 気持ち悪い

  気持ち悪い(エコー)

 

 

「…グスン」Critical!

 

山風「…ふふっ」クスッ

 

「流石白露型なだけあるな…言葉の火力が段違いだ…」グフッ

 

山風「…別に。貴方に話すような事だけじゃないのは確かだよ」

 

「…そっか。なら仕方ない」

 

「また来るよ。今度は…お前が喜びそうな物でも持ってくるからさ」

 

山風「…無駄だと思うけど」

 

「無駄ならそれでいいさ。俺はただお節介を焼きたいだけだからな」ナデナデ

 

山風「…勝手にして」

 

 

そう言われたので片手で撫でながらもう片方の手で山風のほっぺを引っ張ると流石に怒られた。反省はしない。凄くプニプニしてて柔らかかったです

 

 

 

_____________

 

 

 

二日目 昼休み

 

 

「おいーっす」

 

山風「…ホントに来た」

 

???「…アンタ、名前は?」

 

 

山風以外にも隣に一人少女がいた。藍色の髪と髪先が青色から水色に変化している艦娘がおり、その目は少しわんぱくで、何処か見栄を張ったような自信のある立ち方が印象的な子だった。しかし記憶にある艦娘と比べ、その雰囲気はどこか闇を感じさせた

 

 

「相手に名前を尋ねる時は自分から先に名乗るのが礼儀だぜ?お嬢さん?」

 

涼風「…涼風だ。で、アンタは?」

 

「俺は提督だ。昨日からここで世話になってる」

 

涼風「ふーん…」

 

山風「…何の用なの?」

 

「ん?山風にストーカーしにきた」

 

涼風「山風、コイツは撃った方が良いんじゃねぇか?」

 

山風「うん。それが平和になる一歩だと思う」

 

「冗談に決まってるじゃないですかやだなー!!ほら見て、この綺麗な瞳!嘘なんてついてる目じゃないでしょ?」キラン

 

涼風「うざい」ドスッ

 

ああああぁぁぁ!!!

 

 

_________________

 

 

あの後やってきた少将に怒られた。少しは軍人らしく休みの時でも気を緩めないようにって。でも仕方ないじゃん。思いっきり指の第一関節まで入るかと思った勢いで目に指が飛んできたんだもん

 

 

「だからって罰則で執務の量を増やさなくて良いじゃないですか…」カリカリ

 

少将「あら、私に文句でも?」

 

「ないです」

 

少将「賢明な判断ね」

 

「…それで、昨日お話しした件ですが」

 

少将「山風の代理として実験を引き受けるって話?」

 

「はい」

 

 

しばらく考え込んだ様子を見せ、チラチラとこちらを見ていると、決め込んだ様子で振り向いた

 

 

少将「なら本来は山風に渡すはずだった給金を貴方に振り込み。そしてそれが終わり次第…そうね。貴方の所に異動させようかしら?」

 

「…そこまで山風を気遣う理由は?」

 

少将「別に山風を気遣った訳じゃないわ。寧ろそれは貴方の方よ」

 

「お…私を?」

 

少将「貴方は提督になってまだ一か月程でしょ?しかも一般人だから何かと気にかけといた方が良いと思ってね」

 

少将「それに貴方と仲良くしてた方が面白そうだしね。個人的に興味もあるし」

 

「……」

 

 

肩までかかった黒いロングヘアーを手で梳いて自身をアピールする少将だが、ぶっちゃけ滅茶苦茶怖い。清楚系サイエンティストって結構ホラーじゃない?

 

 

少将「言っておくけど興味があるのは本当よ?結構面白い経歴をしてるみたいだしね」

 

「そんなにおかしな経歴でした?」

 

少将「内容は普通よ。ただ…貴方が二人いるって事以外はね」

 

「…はぁ?」

 

少将「…ホントにその反応なの?」

 

「いや…まぁ…当たり前と言いますか、いきなり二人いるって言われても全く飲み込めないって言いますか…」

 

 

コチラに向かって少将が手を伸ばし、そのまま首に少将の手が触れて脈に触る様に指先を当ててくる。とても細い指だが、このまま首を掻き切られそうで少し怖い

 

 

少将「…貴方、本当に分からないのよね?」

 

「こっちとしてはさっきから何言ってんだこの人状態なんですが」

 

少将「はぁ~…一体全体どういう事なの?アッチはアッチで妖精もちゃんと見えているのか良く分からない反応返すし…」

 

「???」

 

少将「…まぁいいわ。とりあえず実験の内容だけど、早速貴方にやってもらいたいのが二件あるんだけど良い?」

 

「了解しました」

 

 

そういって部屋から連れ出され、艦娘達と白い服で覆った人達が集まる場所まで案内されると、そこはSF映画に出てくる様な真っ白い部屋で、内心ビクビクしっぱなしだった

 

椅子に座らされてここで待つように言われ、大人しく指示に従って待っていると、遠くからこちらに向かって歩いてくる一人の少女の姿があった

 

 

涼風「…へぇ。ホントに来たのか」

 

「ん?涼風か」

 

涼風「聞いたぜ?ホントに山風を助けようってんだな?」

 

「あぁ。残念ながらそこにお前は入っていないけどな」

 

涼風「てやんでぇ。別に今更ここから抜け出そうとも思ってねぇよ」

 

涼風「…ただ、山風の事を助けるってんならアイツの過去くらいには向き合ってやれよな」

 

「…なんかあったのか?」

 

涼風「…ま、いいか。後で山風には怒られるかも知れないけどな」

 

 

そうして話された内容は山風が異動してここへやってきた事。その理由は演習で艦娘を沈めてしまった事による罰則からとの事。そして演習で艦娘が沈むという事はつまり、実弾を使っての演習がされているとの事だ

 

 

涼風「そこは沈むかも知れないって恐怖と提督の優しさで出来てる鎮守府なんだってさ。アタイから言わせてもらえればまともな鎮守府だとは思えないけどね」

 

「はぁ~。でもその割には成果を出してるんだろうな」

 

涼風「そう思う根拠は何さ?」

 

「練度だよ」

 

涼風「…あぁ」

 

「山風の練度を教えて貰ったが…40だとさ。そこまで生き残っているのは正直驚きだと思わないか?」

 

涼風「そこの提督が死ぬギリギリを見極めて艦隊運営をしてるって事かい?」

 

「だと思うぞ。じゃなかったらそこまで練度が高くなる前に死んでるだろ」

 

涼風「皮肉な話だねぇ…っと、番が来たみたいだからアタイはこれで失礼するよ」

 

「おう」

 

 

そういって病院ベッドに乗せられたままドアを潜って壁の向こう側へと消えていく涼風だが、どうにも不安な様子を隠しきれておらず、寧ろそれは恐怖と言ってもいいかも知れない顔だった

 

しかし何処かスッキリとした顔をしており、扉が閉まる直前にこちらに振り向き、二カッとした笑顔をして扉が閉じた

 

 

少将「随分楽しそうに話してたね?」

 

「盗み聞きとは趣味が悪いですよ」

 

少将「ごめんごめん。でも貴方が艦娘とどう接するか気になってさ」

 

「ふーん…」

 

少将「さて、それじゃあ早速これから使っていきましょうか」

 

 

そういって注射器を取り出す少将だったが、明らかに中身の液体が深い青色で宝石の様に輝いており、どう考えても危ない薬というものは理解出来た

 

 

少将「それじゃ指すよ~」チクッ

 

「いっ…」

 

 

中身を注射されると、途端に目の前が真っ青に染まり、まるで海の中で溺れているかの様な感覚に襲われた

 

いくら口を閉じようとしても閉じることが出来ず、海水が延々と体の穴と言う穴から自分の中へと入ってくる感覚

 

完全に自分が海と一体化してしまうと感じた瞬間、一瞬だけ視界の端に何かが見えた所で視界が一気に現実へと引き戻された

 

 

「げほっ、ゴホッゴホッ」

 

少将「なるほど…人に投与するとこうなるのね」

 

「な、なんですかアレ…」

 

少将「何って、深海棲艦の色々なものを煮詰めたりしたものよ」

 

「はい!?」

 

少将「人間の体にフッ化水素を入れたら体内のカルシウムによって結晶化する様に、深海棲艦も結晶化させてそれを溶かしたものがそれよ」

 

「これ…一体何の研究に役立つんですか…?」

 

少将「戦争が始まった時に深海棲艦を利用して新たな超人を生み出せないかって話があってね。艦娘なんていう存在も出てきたんだから、もしかしたらって理由で実験してるのよ」

 

 

そう話す少将の目はキラキラと輝いており、まるで玩具を与えられて無邪気に喜ぶ子供の様な印象を受けた

 

 

少将「さて、それじゃあ早速テストするわよ。まずは簡単な体力測定からね」

 

 

様々なテストを受けたが、体力が増幅した訳でも無し。身体能力が向上した訳でも無かった

 

結果的に失敗だとの事でサッサと次のテストに移る事になったが、内容はあまり言いたくないので何時かの機会に話したいと思う。ただ碌でもない実験だったのは確かだ

 

 

 

_____________

 

 

 

三日目

 

 

山風「ホントにやる気なの!?」

 

「まぁまぁ大丈夫だって。多分」

 

山風「駄目ー!」

 

 

思いっきり服が伸びそうな程に引っ張ってくる山風だが、彼女がこうも止めるのには理由がある

 

 

少将『次のテストなんだけど、死ぬかもしれないからこの契約書にサインしてくれる?』

 

『…一応聞くけど死ぬ程の価値がある実験なんだよな?』カリカリ

 

少将『…気にする所そこ?』

 

『当たり前でしょう。他に何を心配しろと?』

 

少将『いや、自分の命とか…』

 

『ぶっちゃけ自分の命をかけても良いくらいの金が入ってくる仕事なのでそこまで気にしてないです』

 

少将『あ、そう』

 

少将『まぁ内容だけど、簡単に言うと不老になる実験とでも言えば良いかしら』

 

『不老!?』

 

少将『正確にはこれを浴びればいくつか若返るっていうのが正しいわね。あ、詳細に関しては企業秘密よ?』

 

『いや、それは良いんですけど…詳しい薬の名前くらいは決まってるんですか?』

 

少将『その名も、【ワンオペ育児漫画に出てくる薬】よ!』

 

『パクリじゃねぇか!』

 

少将『しょうがないじゃない!良い名前が思いつかなかったんだもの!』

 

『くっそ…これ艦娘が浴びたらどうなるんだ…?』

 

少将『解体されるわよ?』

 

『…は?』

 

少将『詳しい事はまだ良く分からないんだけど、あれに浸かったら資材を残して完全に消えちゃうのよ。まるで硫酸の中に物を入れたみたいに跡形もなくね』

 

 

あまりにもあっけらかんと悪びれた様子も無く話してくる彼女には悪意を感じない。それが彼女と自分でどれだけ違う価値観を持っているのか、察するには簡単だった

 

 

『…それで?仮に人間がこれを浴びたら若返るってどうやって分かったんですか?』

 

少将『仮に資材をALL100で作った那珂が出来たとしましょう。あの子を解体すると2(燃料)-4(弾薬)-10(鋼材)になると思うんだけど、これなら建造に使った資材が丸々帰ってくるのよ』

 

『なるほど。言い方からするとあくまで仮定って訳か。というか凄いな』

 

少将『そういうこと。だから貴方みたいな人がいてくれて助かったわ』

 

『一応死んだら元師に連絡を頼んだ』

 

少将『えぇ。貴方の犠牲は世に響き渡らせてあげるわ』

 

『失敗前提なのは辞めて貰って良いですか…?』

 

 

という上記のやり取りがあった為にこうして山風に止められている。山風からすれば無関係の人間が金の為にやっている事なのに、どうしてこうも止めてくるのかは全く分からなかった

 

 

山風「どうしてそんなに私の代わりをやろうとするの!?もうほうっておいてよ!」

 

「ピーピー泣くな。俺がするって決めたんだからこうなってるだけだ」

 

山風「でも…でも…!」

 

「…死にたがりな奴を知った以上、何もしないってのは勿体ないって思っただけだ」

 

山風「…!どうしてっ、あなたがそれを…!」

 

 

ピクピクと震える眉、カタカタと擬音が付きそうな程に震えている唇。決してそれは恐怖ではなく、怒りや驚愕に近いモノだった

 

 

「涼風から聞いた。お前が涼風に話したであろう内容全てな」

 

山風「っ…!」

 

「…涼風は解体でもされたのか?」

 

山風「…涼風が受けたのは少将がやってた不老の実験だよ。私の事を教えたって事は多分そういう事だと思う」

 

「…そっか」

 

山風「…私の事を聞いたなら分かるでしょ?どうして私がこの実験を受けたのか」

 

「死ぬつもりだったんだろ?」

 

山風「……」

 

「悪いが死ぬことは許さん。ホントに死にたいんだったら俺の為に働いて死ね。それなら少しは良いカッコして死ねるぞ?」

 

山風「な…」

 

「ん?死にたいんだろ?だから時が来たら俺が殺してやるって言ってんだ」

 

山風「で、でも…」

 

「なんだ?まさかホントは生きたいですとでもいうつもりか?」

 

山風「う…」

 

「お前は何のために実験を邪魔していたんだ?どうして涼風の様にすぐに死ねる実験に参加しなかったんだ?」

 

山風「う、うぅ…」

 

「お前がどうするか何てのは俺の知った事じゃないが、それはあくまで俺が関わらなかった場合だ。俺が関わった以上、お前の生死は俺が決めさせてもらう」

 

「最後に選べ。今ここで俺の行う実験の代わりになるか、それとも俺に生死を握られるか。どっちがいい?」

 

山風「…っ!そんなの!どっち選んでも死ねって言ってるものだよ!?どうしてそんな酷い事が言えるの!?」

 

「お前等の命を握ってる提督だからだよ」

 

 

その言葉にフリーズした山風。目は酷く恐怖し、口は少し開いたまま固まってしまっている

 

 

「命令一つで艦娘を死地に送り込むのが提督だ。そんな立場の人間だから、それに携わる艦娘達に寄り添った答えを出さなきゃいけない。だから今こうしてお前に自分の生死を聞いている」

 

「元はお前が望んでた事だぞ?死んだ方が沈ませた奴に少しは贖罪になるって考えてたお前のな」

 

山風「くっ、うぅ…」

 

「泣く程怖いのか?死ぬのが?」

 

 

頭を抱えてブルブルと震えている山風の頭が少しだけ前に項垂れる。これはYESという答えで良いのだろう

 

 

「だったら死のうとしてんじゃねえよ。馬鹿野郎が」

 

山風「でもっ、でもっ!」

 

「お前が殺したんだったらそのことをずっと覚えてろ!死んだら何もかも気にしなくていいって訳じゃないんだぞ!」

 

山風 ビクッ

 

「罪悪感に耐えられないからかどうかは知らないけどよ、お前が殺しちまったんだったら責任持って償いの方法でも考えてろボケ!事故だろうが何だろうがお前が殺した事実は変わらないんだからよ!」

 

山風「そんな言い方しないで!」

 

「お前が背負うべき業なんだよ。それを少しでも自覚してるから死のうとしたりしてるんだろうが」

 

 

再びピクリと体が震え、再び頭を抱えて膝に顔を付ける。涙が何摘も落ちては床を濡らしていき、まるで怖がる子供の様だった

 

 

山風「…私だって、そんなこと分かってるもん。でも辛いんだよ」

 

「人が死んだんだもんな。辛いのは当然だ」

 

山風「…貴方は良いよね。他人事なんだから」

 

「でも全く分からないって訳じゃない」

 

山風「勝手な事ばっかり」

 

「…慰めにはならんが、お前が沈めた奴はチャンスがあった奴なんだろ?だったらソイツはまだ生きているし、ここから戻ったらどう償うかを考えた方が良いんじゃないか?」

 

山風「……」

 

「ま、どうしたいかは俺が実験から戻ってきたらまた教えてくれ。生き死に程度の事でウジウジ悩んでたらホントに大事なもんを見逃しちまうぞ」

 

山風「…分かった」

 

 

 

_____________

 

 

 

山風「っていう事があって…」

 

「あー、山風。話してるところ悪いんだが、ちょっと皆にしょっぴかれてくるわ」

 

山風「え?」

 

 

そういうと目の前で提督が簀巻きにされた状態で抱かれており、脱出さえ許さない重罪人を運ぶかのような縛られ方と監視をされていた

 

 

球磨「詳しい事を聞く前に一つ位言い訳は聞いてやるクマ」

 

「俺は悪くねぇ!」

 

球磨「…反省の色なしっと」

 

「あそこで死ぬのとここで死ぬのも変わらんだろ!だったら山風の知ってる奴等のいる所で死んだ方が山風も良いと思ったから俺の所に異動させただけだ!」

 

山風「そ、そうだよ!提督は私の事を「違うわよ」え?」

 

愛宕「あの人の言ってる事は貴方のお願いを聞いてくれる事かも知れない。でもね、あの人が貴方を助けたいってお節介を焼いたように、私達は山風ちゃんの事を死んでほしくないって思ってるのよ?」

 

 

また嫌な気持ちが溢れてくる。初めて提督と出会った時の様に、自分のやりたい事を邪魔されているあの感覚が痛みの様に襲って来る

 

哀れみの様な顔でこちらを見てくる愛宕さんの目がたまらなく嫌だ。この目が自分の行動が間違っていると言っている様で。完全に自分を否定されている様で吐きそうな程に嫌だ

 

 

山風「でもっ!私は仲間を沈めちゃって…!」

 

愛宕「…目の前で死んじゃいそうな人がいるのに、助けようって思わない訳ないじゃない」

 

 

そしてまた胸が痛くなる。今度はナイフでも突き刺さったかのように冷たいモノが胸を通り抜け、今度は目から温かい液体が溢れてくる

 

 

山風「でもっ、でもぉっ…!」ポロポロ

 

愛宕「…自分を許せないの?仲間を沈めちゃったから自分も沈まなくちゃいけないって?」

 

山風「…」コクッ

 

愛宕「なら自分を許さずにその気持ちを抱えて生きていきなさい。自分が死のうとするってのはね、その嫌な気持ちから逃げたくて死にたいって思ってるだけよ?」

 

山風「…耐えられないよ」

 

 

グズグズとした声しか出ず、目の前の人物の顔が分からない。怒ってるのかはたまた笑っているのかさえ分からないが、厳しい声ではありつつも、その裏にあるはっきりとした優しさが伝わってくる声だった

 

 

愛宕「耐えられないならまた死のうと頑張ってみる?そのたびに私達が止めるけど?」

 

山風「……」

 

愛宕「貴方が何を決断して提督について来たには聞かないけど、それでも嘘つきにはならないようにしなさい。一度嘘を付いちゃったら、何処までも引っ張らなきゃいけないからね」

 

山風「…うん」

 

愛宕「さっ、それじゃあ提督の様子を見に行きましょうか。多分今頃面白い事になってると思うわよ?」

 

 

手を引かれて先程まで一緒にいた提督の元へと連れられる。その時見た光景は、逃げられないよう棒に括りつけられた提督と、野球バットを振るかのようにスイングして振り回している球磨さんの姿があって、それを見た私の顔はおかしなものを見ている様に微笑んでいた

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