この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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いつポックリ逝くか分からないのでちょっと早めに投稿します。少し文法がおかしくなりつつありますが、出来るだけミスが無いように頑張ります


変転の始まり

「……」

 

電「……」

 

長門「……」

 

 

司令官一人と駆逐隊一人、そして前の演習から未だに大破したままの戦艦。机をまたいでうねり声を上げる戦艦が何か行動を起こすかの様に思えたが、しばらくのにらめっこが続くだけであった

 

「…それで?なんのようだ?」

 

長門「貴様に聞きたい事があってな」

 

「俺に?」

 

長門「あぁ。というのも山風の事なんだが…アイツを本気で死に場所へとやるわけではないのだろう?」

 

「いんや、死に場所は必ず与える。どうせ生きてたらいずれ死ぬんだからな」

 

長門「っ!やはり貴様は山風達を!」

 

「おーい。何か誤解してないか?」

 

長門「ご、誤解?」

 

「何も戦場に送り出すだけが死に場所を与える訳じゃない。戦場を離れて死ねる場所を与える事だって出来るし、本人が望むならこのまま戦争で死ぬことだって出来る。死に場所を与えるってのはそういうことだ」

 

電「…やっぱり優しいのです」

 

「そもそもすぐに殺すつもりなら無理矢理にでも解体してたよ。まぁ本人がこっそり解体出来れば良かったんだろうが、そこまでの度胸は無かったことからすぐに死ぬことは出来ないんじゃないかと思う」

 

長門「…意外と考えてくれてたのだな」

 

 

妙に感心した態度で話す長門だが、提督なのだから当然である。というか山風レベルで育っている奴を簡単に解体させたりするのは勿体ないし、そもそもあんな可愛い奴を捨てる訳ないだろう

 

前鎮守府から連れ出した時に山風が出した選択は保留だった。結局決められなかったとの事で、だったらしばらく行動を共にしてどうするか決めていくことを約束した。ここにいる間までに答えが出せる事を祈る

 

 

「…そういえばここの艦娘達って30人位いるよな」

 

長門「あぁ。駆逐艦が一番多くいるぞ」

 

「その中で潜水艦は何人いる?」

 

長門「…何故潜水艦を?」

 

「こっちの仕事でな。艦娘達のコンディションチェックをしようと思って」

 

 

疑問で埋め尽くされた顔の長門を何とか納得させられる理由を付けて聞き出そうとするが、どうにもあまり良い顔をしてくれない。何らかの事情があるのは察する事が出来るが、その事情が自分の仕事に関わっているので無視することが出来ないのだ

 

 

長門「…伊19と伊58がいる。だが可能ならば19の方を見てやってくれないか?」

 

「何故?」

 

長門「最近の行動が妙だと同室の58から聞いてな。アイツは飯も食える奴なんだが、飯を食いに食堂へ来る回数が少なくなってるし、部屋で寝る事しかしないらしい」

 

電「…鬱病でしょうか?」

 

「…判断材料は少ないがおそらくな。しかも飯を食わないことが増えてきたとなれば結構危ないレベルだな」

 

長門「う、うつ病って…」

 

「まぁ戦場を走り回るお前等からすれば起こる奴もいる程度の病気だ。それを起こさないために俺達提督がお前等のコンディションチェックなんかに力を入れなきゃいけないんだが…ここじゃ無理だわな」

 

 

うつ病は精神的な病気ですぐさま直るような病気ではない。高速修復剤でも精神まで治る事は決して無いし、ましてや根性なんかで治るものでもないので非常に扱いが難しい病気だ。戦うことが日常の彼女達にとっては一番かかりたくない病気と言えるだろう

 

 

「長門は伊19の状況をどこで知った?」

 

長門「に、日常では58の話だったが、そもそものきっかけは摩耶と木曾の報告がきっかけだ」

 

「……」

 

 

口に手を当てて、何故この情報がこちら側まで流れなかったのかを考える

 

大将の艦娘が起こした問題だからこちらまで流れなかった。まぁこれには納得出来るが、問題は何故ウチの艦娘までもがその情報を知らなかったのかという点だ

 

ウチの艦娘は積極的にここの艦娘達とコミュニケーションを取っている。先日なんか愛宕が高雄と摩耶と共にお茶をしたとの話を聞いた。本人もその時間は楽しかったのだと良い表情で話してくれた

 

他の皆も同様にここでの生活の話を聞く。だからこそ、そんな情報が少しも入ってこない現状に疑問符を浮かべた

 

 

電「大将の指示で私達の耳に入らない様にした…という事ですね」

 

長門「…あぁ」

 

「で、お前がその命令を破ったという事はそこまでヤバい状況なんだな?」

 

長門「その認識で間違いない。私としては最悪戦えないと思っている」

 

 

とても落ち込んだ様子で話す長門の目にはしっかりとした意志を感じ、19を思っている感情も嘘では無いのだろうと思う。ならばそれに答えてやるのが提督としての仕事ではないだろうか?

 

 

「分かった。とりあえず19を呼んできてくれ。それと同室の58も一緒にな」

 

長門「わ、分かった!」

 

「電は時雨と愛宕を呼んできてくれ。一応確認しときたい」

 

電「了解しました」

 

「…提督ってのも大変だなぁ」

 

 

 

_____________

 

 

 

伊19「お呼びでしょうか?」

 

「あぁ。とりあえずそこに座ってくれ」

 

伊19「失礼します」

 

 

促されるように席へと座り、動作の一つ一つに意識を当てながら観察すると、少しばかり体全体に力が入っていない様に思える。目もキラキラとしておらず、全体的に陰りが見えた

 

 

「簡単なチェックだ。気を楽にして受けてくれ」

 

伊19「はぁ…」

 

「んで、それはいつ頃だ?」

 

伊19「…それっていうのは?」

 

「身体が重くなる様な症状だ」

 

伊19「…それなら二日前」

 

 

やる気の無さそうな答えを吐露する様に話し、何処かピリピリとしたものを少し感じていた

 

19と初めて顔を合わせた日は丁度食堂で飯を食べていた時だった。正直碌な絡みで無かったのでこうして面と向かって話すのは嫌なのだが、仕事である以上そうしない訳にもいかなかった

 

だからこそ分かる事もある。今のコイツは初め出会った時の様な気力を感じさせない。その場にいるのにいないような亡霊みたいだと思えた

 

 

「じゃあ何か新たに出来ることとか無いか?」

 

伊19「はぁ…?」

 

「言葉通りの意味だ。感覚が鋭くなったとか、提督に対して何か直感的なモノを感じるようになったとか。そんな何気ない事でも良い」

 

伊19「最後に関しては何気無いわけじゃないと思うケド…」

 

伊19「でもそんなものは知らないよ。寧ろ出来てたら皆に自慢でもしてるし」

 

 

時雨と愛宕のほうを向くと、互いに示し合わせたかのように頷き、嘘をついていないというのが理解出来た

 

しかしそれを見ていた19と58は不思議そうな顔をして互いを見合い、頭にハテナを浮かべていた

 

 

伊58「ねぇ、さっきから何の検査?」

 

「…機密事項だ」

 

伊58「機密…!?」

 

「いや、機密は二割位冗談」

 

伊58「魚雷で撃たれたいの?」過半数ホントだし

 

「いやすいません。ホント勘弁して下さい」ドゲザッ

 

伊19「…私は解体されるの?」

 

「それはない」

 

 

訪ねてきた本人は疲れ切った顔をしており、何処か自分に親近感を感じさせる顔をしていた

 

そしてその顔の意味を自分は知っている。自分がいつも経験していた事だったから

 

 

「お前は精神的に疲れてるだけだ。だから全部を諦めたかのような顔をするんじゃねえよ」

 

伊19「…疲れたから休めって言うの?」

 

「休み方を忘れたんなら他の奴に教えて貰え」

 

伊19「見透かした事を言うのね」

 

「似た経験があるからな」

 

 

少し驚いた様子を顔に出し、すぐさまめんどくさそうな顔に戻した

 

 

伊19「…じゃあ、どうして貴方は解決してないの?」

 

「する必要が無い」

 

伊19「治す気があるの?」

 

「それは本人次第だ」

 

伊19「治そうとしたことも無い人の言葉を信じろって?」

 

「じゃあどうするつもりだ?」

 

伊19「……」

 

 

矢継ぎ早に質問をしては返すのを繰り返し、本人も今の現状を変えたいと思っている事が先程した質問に答えない事によって発覚した

 

ここまで来たならあともう一押しという所で、横やりが入った

 

 

伊58「ねぇ、ホントに治さなきゃいけないの?」

 

時雨「ご、ゴーヤ?急にどうしてそんなことを?」

 

伊58「だって…」

 

伊19「…イクは治すの」

 

伊58「ほ、本気なの!?」

 

伊19「別に、あのままだったら今よりも更に駄目になる気がするの。だから治したい。それだけだよ」

 

 

…どうやら二人の間で何らかの話があったようだ。内容を察するには情報が足りないが、大方今の状況が二人にとって望ましい事ではあったが、その状況を呼んだ本人が嫌がっていたってところか

 

 

「ちなみに方法としては投薬で治す(重度の場合)。経過観察等々あるが…今回は経過観察にすることにした」

 

伊19「その理由は何なの?」

 

「艦娘にそもそも薬が効くのか?後単純にお前の所の上司(大将)が五月蠅そう」

 

伊19「なら仕方ないのね」

 

伊58「…にしても以外。てっきり提督の言う事なんか聞かないものかと思ってた。いくら大将の命令だからってあんなことをしたの…」ハッ

 

 

言ってしまったと言わんばかりの顔で硬直するゴーヤとそれを見てボーっとした顔で見ているイクだが、そんな反応を示しているゴーヤの驚きもイクの顔を見てアレッと声が聞こえそうな顔をする

 

 

伊58「お、驚かないの…?」

 

「いや、まぁ…うん。以前喧嘩売ったから何かしらの報復はあるだろうなぁって言うのは知ってた」大将じゃなくイクの私怨だったけど

 

伊19「あの後ちゃんと謝ったのね」

 

「クソ怠そうにな」許したけども

 

 

イクが行った内容としては上官暴行だ。そうなった経緯としては、イクが初めて自分と会合した時にいきなり侮蔑する発言をしたからである

 

売り言葉に買い言葉。自分も流石にイラっとして、提督としての立場を利用して逆にイクを責め立てた

 

まぁ当然イクは怒る訳で、そこから軽く上官暴行という事になりかけていた。流石にこれは不味いと思って早急にその場から離脱し、曖昧になったまま少し前まで接触しなかったのだが、結局はイクの方から謝罪してこの件は終了した

 

…自分から謝ると言う選択肢は無かったのは内緒だ

 

 

時雨「…提督が許す気でも僕はあまりいい気はしてないからね」

 

伊19「別に悪いとは思ってないの。煽って来た時点でコイツも覚悟はしてた筈なのね」

 

「まぁな。正直お前等は練度が高いだけで他はダメダメだってのが手に取る様に分かるぞ」

 

伊19「む…」

 

「ほら、そうやって分かりやすい挑発に簡単にのる」

 

 

少しだけ見せた怒りを指摘してやると萎む風船の様にしなしなと顔から怒りが消えていき、今度は悔しそうな顔へと変わっていく

 

どうにも手玉に取られていると考えている様で、あからさまに不満が意識として顔から発信されていた

 

 

「心の余裕を持つ事も今後の課題として捉えとけ。当面は自分を労わりながら作戦を遂行するんだ」

 

伊19「労わるって…具体的には?」

 

「ただ睡眠を取ってるだけじゃ回復は遅いからな。程よく疲れる位に作戦を遂行し、その後は飯を食べて風呂に浸かって体を清潔にして寝る。これをやってれば勝手に良くなる」

 

伊19「…普段と変わらないのね」

 

「まぁな。普段通りが一番良い回復方法だって事しか俺は知らんし」

 

伊19「はぁ…了解なのね」

 

「大将には少し軽めの任務を当てる様に進言しておく。それと他にも似たような奴がいたり、それ以外にも要望等があったら尋ねにこい。少しくらいは力になってやる」

 

愛宕「私のお願いは聞いてくれないのに?」

 

「…せめて元に戻った時にしてくれ」

 

愛宕「ふふっ。りょうか~い」

 

伊58「…何を見せられてるんでち?」

 

「愛宕は俺にセクハラしたいんだと「違いますよ!?」」

 

 

速攻で愛宕から拒否する声が聞こえてくるが、その横でニヤニヤとした顔で時雨が見ており、対して潜水艦二人は呆れ顔をしている

 

 

「別にこんな事でも良いから気楽に来い。出来る限りは相手してやるって他の奴等にも伝えておいてくれ」

 

伊58「分かったでち」

 

伊19「了解なのね」

 

 

 

_____________

 

 

 

夕立「春雨、指はもう大丈夫?」

 

春雨「はい。もう違和感は無いです」

 

村雨「はぁ…あの時はどうなるかと思ったわ…」

 

春雨「…!」ブルッ

 

 

当時の記憶をフラッシュバックでも起こした様に体を震わせ、先程の発言を失言だと考えたのか、村雨は自分の口を押えたまま動かなくなってしまう

 

 

村雨「ご、ごめんなさい!」

 

春雨「だ、大丈夫だから…」

 

白露「…夕立、悪い事は言わないから今からでもこっちに来たら?」

 

夕立「悪いけどそれはお断り。提督さんは怒ったら怖いけど普段は優しい人だしね」

 

白露「それを言ったら私達の大将だって優しいよ!ちゃんと訓練を頑張った後は褒めてくれるし!」

 

夕立「それは…!」

 

 

しかしそこから先の言葉が出てこない。完全に自分の時が止まったかのように体が硬直し、言葉さえも出てこなくなってしまう

 

 

村雨「…夕立?大丈夫?」

 

 

その言葉が耳に入った瞬間、現実に引き戻された。だけど上手く言葉を出すことが出来ないし、頭の中もゴチャゴチャになり、考えることが出来なくなってしまうが、一つだけ疑問が生まれた

 

”本当に自分は提督を良い人だと言えるのか?”

 

思えばずっと疑問だった。どうして潮に酷い暴言を浴びせられる人にイラつきを覚えなかったのか。女提督さんの鎮守府にいた時、金剛さんを殺すと提督さんの口から聞いたはずなのに、どうして仕方がないと考えてしまったのか

 

思考に耽っていると、ほっぺに柔らかくも殺傷能力の無い柔らかな物が突っつかれている感触で思考から現実へと引き戻された

 

 

白露「夕立ったら、どうしたの?」ツンツン

 

夕立「な、何でもないっぽい!」

 

村雨「悩みがあるなら聞くわよ?」

 

夕立「だ、大丈夫!ホントに大丈夫だから!」

 

 

とりあえず一度冷静になろう。こういう不思議な事が詳しそうな人と言えば…やっぱり時雨か愛宕さんだろう

 

 

夕立「そういえば時雨と約束があったのを思い出したの!ちょっと行って来るね!」

 

白露「あ、ちょっと!?」

 

 

そうと決まれば行動あるのみだった。すぐさま部屋を飛び出して二人がいそうな場所を探しに出かける事にしたが、何か忘れている様な…

 

 

白露「用事があったなら言ってくれたら良かったのに…」提督さんの好きな物って結局なんだろ?

 

春雨「…夕立の司令官にあんなことをしてしまったんですから、怒っているんでしょうね」

 

村雨「うーん…春雨の提督に対する苦手意識も衝動的なモノだって所は分かってくれたみたいだけど、納得はしてないんじゃないかしら?」

 

白露「流石に言い訳だと思ったんじゃない?」

 

春雨「ち、違います!ホントにそうだったんです!」

 

白露「まぁ私も似たような目的だったし、春雨の気持ちが分からないでもないもんね」

 

村雨「五月雨があの場にいなくて良かったわ。責任を感じて解体を自分から進言しそうだし…」

 

春雨「…それにしても、どうして摩耶はあの提督さんにあんな事をしたんでしょうか?」

 

村雨「えっ、春雨は知らないの?」

 

春雨「へっ?」

 

白露「そういえば高雄さんと会った事が無いんだっけ」

 

春雨「あ、はい。いるのは知っていますけど姿までは…」

 

白露「高雄さんが提督(大将)に人質に取られてるって噂なの。摩耶さんは助ける為に提督(大将)の指示に従ってるって噂があってね」

 

春雨「な、なんですかそれ!?」

 

村雨「私と白露はそれを知ってたから参加したけど…流石にいざ対面したら尻込みしちゃったわ」

 

春雨「……」

 

村雨「今更悩んだって仕方ないわよ。とりあえずは今出来る事をしましょ?」

 

春雨「…はい」

 

白露「それじゃ、早速食堂にしゅっぱーつ!」

 

 

 

_____________

 

 

 

飛龍「ちょっと抗議してくる」

 

蒼龍「駄目だって!」

 

 

そういって今にも走り出しそうな飛龍の裾を掴んで必死に懇願する

 

何故こうなったかと言うと、赤城先輩がいたにも関わらずどうしてこんな結果になっているのかと本人に抗議しにいくらしい。せっかくチャンスを得られる機会だったのに、赤城先輩の慢心でこうなったのだと言って譲らない

 

 

蒼龍「あれは私も慢心してたからだよ!何も赤城先輩だけが悪いわけじゃないって!」

 

飛龍「それでもだよ!慢心しないようにっていつも言っているあの人が!提督が勝たせてくれる相手をわざわざ選んでくれたのに負けたんだよ!?」

 

蒼龍「で、でもっ!あの人は…!」

 

飛龍「っ…、どうせあの娘達がここに来るのが可哀想とでも言ったんでしょ!?」

 

蒼龍「そ、そうだけどっ!それでもワザと負けたわけじゃないのは飛龍も知ってるよね!?」

 

飛龍「だったら何であんな艦隊に負けたの!?練度だって勝ってたし装備だって…!」

 

 

納得できる顔を微塵も見せない飛龍だが、その心は決して赤城先輩に対する不信感でもなく、ただ尊敬する先輩が負けたという事実を認められないだけに見えた

 

 

蒼龍「…残念だけど負けたんだよ。私達はあの艦隊に」

 

飛龍「信じられない!」

 

蒼龍「信じるしかないんだよ!もう結果として出たから分かるでしょ!?」

 

飛龍「…っ!」

 

 

 

口の中に鉄の味がし、喉をザラザラとしたような液体が通る。それだけこの気持ちを理解したくなかったし、認めたくも無かった。あの人達が行ってきた事に犠牲になってきた皆の為にも、負けた何てことは認めたくなかったからだ

 

演習に参加した赤城先輩や長門、陸奥、扶桑姉妹はここの主力だ。私の姉妹である蒼龍も最近主力入りを果たして姉妹艦として誇らしい

 

だがそんな主力達も特別扱いという訳では無く、轟沈してしまえばチャンスを失う。しかし挽回の機会として優先的にチャンスを再び得る事が多い。これは更なる危険に身を投じる機会が多くなってしまう主力達を出来るだけ維持する為の救済措置の様なものだ

 

ルールとは一種の秩序だ。決められたモノの中で主力とはいえ例外扱いをしたら艦娘達から反対意見が出る。だからこそ主力となった暁には優先的にチャンスを再び得る機会を得ることが多くなる。ルールの中で合理的にチャンスを得られるので、必然的に死にたくない皆は主力になろうと努力を重ねる

 

だがチャンスを得るということは必然的に何らかの活躍をしなければならない。それが例え出撃だろうが演習だろうが活躍を得なければならないのだ

 

必然的に競争と言う形になってしまうので、当然そこに勝者と敗者が産まれる。そして敗者から奪う形で勝者にはチャンスが与えられ、当て馬にされた敗者の人達はチャンスを失う。これのせいで一体何人もの艦娘が犠牲になったのかは考えるまでも無い

 

 

飛龍「…もうあの人達にチャンスを与える訳にはいかないの。これ以上他の皆が犠牲になるなんておかしいでしょ?」

 

飛龍「あの敗北で演習に参加した人達にチャンスは無い。なら、今が絶好のチャンスだよね?」

 

蒼龍「…待って。一体何を考えてるの?馬鹿な真似しないよね?」

 

 

震える声で問いかける蒼龍の言葉。その声に多少心が痛むが、痛みでさえも忘れてしまうようなチャンスが目の前にある。ならばここで掴まずしてどうするのか

 

 

飛龍「…ちょっと行って来るね」

 

蒼龍「行かせない!」

 

飛龍「…蒼龍、分かってよ。今がチャンスなんだよ?」

 

蒼龍「駄目!絶対にそれだけはさせない!」

 

飛龍「…蒼龍は大破してるんだよ?無傷の私をどうやって止めるつもり?」

 

蒼龍「無理やりにでも止める!ここで殺されることになっても絶対に飛龍にそんなことはさせたくない!」

 

飛龍「蒼龍…」

 

 

入渠させてもらえなかった体を無理矢理動かしているのか体はガクガクと震えている。とてもじゃないが見ていられなかった

 

 

飛龍「…大丈夫だよ」

 

蒼龍「飛龍…!」

 

飛龍「もう蒼龍をこんな目に合わせないから。こんな風に追い詰めたアイツ等を許さないから。安心して待っててよ」

 

蒼龍「っ!?」

 

 

きっとこれ以上はやるやらないの押し問答になってしまう。だから話すのはここまで。そろそろ行動に移さないと何時アイツ(提督)が蒼龍をこんな目に合わせた奴等を入渠させるか分からない

 

 

蒼龍「駄目ッ!行かないでっ!行っちゃ駄目!」

 

飛龍「すぐ戻るから。大丈夫だよ」

 

 

そういって笑顔を絶やすこと無く部屋を出る。続いて蒼龍も後を追うように部屋を出てくるけど、こうなる事は分かっていたので、あらかじめ決めていたルートを辿って蒼龍を撒く

 

案の定すぐに蒼龍が追ってこなくなったのでそのまま目的の場所(会議室)へと向かう。今の時間ならあそこで海域の作戦を考えている筈だ

 

そのまま急ぎ足で会議室の扉に立つ。勢いよく扉を開けて大きな音が会議室内に響き渡り、中にいた人達が皆こちらを向いていた

 

 

長門「…何の用だ?」

 

飛龍「戦艦長門、貴女を轟沈させに来ました」

 

長門「……」

 

飛龍「艦載機発艦。目標長門」

 

大将「止めろ」

 

 

ズシンと来る重い声。声の主は私達の提督で、何時もの様にイライラした様子は特段見られなかったので驚いた

 

その声に従う様に艦載機を飛ばそうとした腕がだらんと力なく垂れて艦載機を飛ばすことが出来なくなってしまう。ここまでの強制力を言葉だけで持たす事が出来るのは艦娘である私達を指揮する提督としての器があるということなのだ

 

言葉一つで艦娘の行動を制限出来るのは艦時代の名残のようなもの。私達は艦という兵器として生み出された存在。それが人の形に作り直されて生みなおされた存在だ。だから提督という人間には否応にも従ってしまう。それが提督としての素質の一つでもあるのだが、正直この人にそんな才があるのは如何せん不愉快だ

 

 

飛龍「…何でしょうか?」

 

大将「何故長門を轟沈させようとする?」

 

飛龍「彼女の慢心で勝たせてもらえる勝負に負けたからです。皆の先頭に立つ彼女がここまでの愚か者だとは思えなかったので彼女を沈めようと考えました」

 

大将「お前は安全圏にいるのに、戦っている奴に向けて石を投げて文句を言うのか?お前がやろうとしている事はそれと同じだぞ?」

 

飛龍「っ…」

 

大将「飛龍、貴様のチャンスを剥奪する。そして単騎で北方海域に出撃してこい」

 

 

その場にいた提督を除く皆が一瞬震えた。単騎で出撃という死刑宣告を突き付けられたのだから当然だろう

 

問題を起こした者達が通達される単騎出撃。他の人達がこうやって送り出されるのはもう何度も眺めてきた光景だが、その度に自分の心が痛み、繰り返されるにつれて次第に何とも思わなくなってきている自分にもイライラする

 

瞬間、自分の中で何かが切れた音がした。絶対に切ってはいけない線を切ってしまったような、そんな感覚が

 

 

大将「…ふむ」

 

長門「……」

 

 

提督は興味深そうな顔で、長門は唖然とした表情で固まっていた。それに疑問を覚えつつ、何故か身軽に感じる心があった

 

今なら何でも出来そう。錯覚だとは思うけど本当に出来そうだった

 

再び艦載機を発射しようと弓を構えて長門に向かって解き放つ。近くに提督がいたけどそんなこと気にも留めなかった

 

艦載機が長門に機銃で攻撃を始める。弾が長門の体をゆっくりとだが確実に削っていき、次第に長門の体がボロボロになっていった所で提督が静止をかけてきた

 

だけどまだ私の気分が済んでいない。まだ壊れてない。ここは陸上なのだから後で海に捨てる必要がある。完全に轟沈させるにはもっと穴を増やして立つ事さえ不可能な程にまで追い込まないといけない。でないといざ捨てる時に浮かび上がってしまうかも知れないからだ

 

少し顔色を悪くしている提督をよそに攻撃を続ける。流石の長門も立っていられなくなったのか、膝をついて倒れない様に手を地面に付けるだけで精一杯だ

 

 

「おい」

 

 

不意に後ろから声をかけられた。声の主はかなり身長が低いのか、自分の腰辺りから声が聞こえてきた

 

後ろを振り向くと別鎮守府の提督が立っていた。その目は私を睨みつけており、瞳の奥からは隠そうともしない明確な敵意を感じた

 

次の瞬間、頬を思いっきり殴られた。小さな体からはとても想像の出来ない様な強い力で殴られ、思わず艦載機のコントロールを失ってしまう

 

艦載機は音をたてながら地面に落ち、攻撃していた機銃は幾つかの弾を発射したのちに止まった

 

 

飛龍「…何するの?」

 

「こっちのセリフだ」

 

 

…邪魔だ

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