この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ 作:七福えると
ちょっと自分の考え方に変化が訪れたので少し書き方が変わるかもです
終わらないと思っていた書類の山。ようやく今日の目標である枚数を書き終え、判子を押して業務の終了を知らせるポンッという子気味良い音が耳に入った
「これで終了です」
大将「やっとか…」
「申し訳ございません」
大将「お前は出来ん奴だとは知っていた。たかが数日で出来る様になるとは思ってないが、それでも道具ばかりにかまけて本来の仕事を見失うな」
大将「お前は甘えている。自分が出来ないからと大淀に押し付け、それでいて自分は道具共の面倒を見る。あくまでお前の仕事は提督としての業務だ。道具の手入れをする事だけが仕事では無いんだぞ」
重々しい言葉をぶつけてくる目の前の人の迫力に押され少したじろいでしまう。いや、たじろいでしまったのは自分の仕事をやらなかったせいかもしれない。仕事を忘れているのだから怒っている。そう怒っている
だけど自分の事のハズなのに微塵も心に響かない。怒っているという事だけが分かり、唇は震え、目に涙が浮かびそうになる。胃がキリキリとする程に自分では反省しているつもりなのだが、どうしても覚えるという行為を出来ない気がしてならない
「分かりました」カリカリ
大将「…何してる?」
「メモです。自分には先程の言葉が忘れそうなので」
大将「ふざけてるのか!」
激怒した。当たり前な事だ。目の前で先程の話をすぐさま忘れそうです何て言われたら怒らない方がおかしいだろう
「大真面目です。本当に昔から覚えることが出来ないのでこうしてメモを取らないと出来ないんです」
大将「…障害でも持ってるのか?」
「えぇ。知能にちょっと」
大将「…お前は人間失格だな」
「……」
大将「メモを取るという行為にばかりで話を聞いていない。それはただメモをしているから大丈夫だと逃げているだけだ。そもそもお前が欠片でも覚えていなければメモを見て再び見直すという行為さえ起こらないだろうな」
大将「メモと言うものは自分の知識では理解が出来ない部分を補う為に行うものだ。その為には相手の話を理解しておく必要があり、あくまで自分の覚えるという努力+αを担うのがメモの役割だ。自分が話を少しでも聞いて理解をしておかなければ意味は無いんだぞ」
大将「お前の障害は生まれつきだろう。だからそれは仕方がない。だがそれに甘えて周りが何とかしてくれると助長してる原因の一つでもあるだろうな」
大将「回り道して成功を追い求めるな。頭を下げる事無く前を見て、前に続く道を走って成功を掴め。のらりくらりと成功から目を離しては避けているのが目に見えて分かるぞ」
「……はい。分かりました」
どうした事だろうか?今日の大将は妙に優しく感じる。一体何を考えているのか…
大将「おい。また別の事を考えていたな?」
「あっ…」
大将「…お前は思考を止める練習でもしてろ。いい加減に一つ終われば次へ進むという事を癖付けるんだな」
「はい。ありがとうございます」
大将「そのありがとうございますの意味を答えてみろ」
「大将は自分の癖に気付いて指摘して頂きました。自分の悪い癖をしっかりとご教授して頂けた事に対するお礼です」
大将「ふん。さっさと休め」
「本日はお疲れ様でした。失礼します」ペコッ
大将「……はぁ」
_____________
自室に戻り寝具に身を投げる。ゴロンと転がって天井を眺めながら先程言われた言葉を頭の中で何度もループさせた
出来ないのは何故という事しか頭に思い浮かばない。どうすれば解決出来るのかと考え自体は頭の中に浮かぶものの、具体的にどうしたらいいのかが微塵も浮かばないのだ
こういう時は行動に移せば次第に分かるのだろうか?でもそれがまた間違いだったら?
やる理由よりやらない理由が頭の中を支配する。起き上がって今からどうするべきか考える必要があるが、この思考自体が逃げる理由を探しているのではないだろうか?
…大将には怒られるだろうが、少し艦娘の事について考えよう。これを切り替えのポイントとするんだ
風呂で千歳に背中を流してもらった時の事を思い返す。あの時に聞いた言葉は今でも嘘だと思いたかった
千歳『ど、どうですか?』
『あぁ。丁度良いよ』
千歳『それにしても、どうして私に背中を流して欲しかったんですか?夕立ちゃんともお風呂に入ってましたし、私お邪魔だったりしません?』
『別に邪魔じゃない。背中に関してもお前にただ流して欲しかっただけって言ったら信じるか?』
千歳『それならそうなんだと理解することにします』
『…実は、大将について聞きたくてな』
千歳『…あの人ですか』
『お前は何時からアイツがああなったか知ってるか?』
千歳『いえ。私がここに来た時は既にあのような性格でした』
『なるほど…』
千歳『何か気になる事でも?』
『…時に千歳。お前は大将をどう思う?』
千歳『唐突ですね…』
千歳『うーん…あまりいい人では無いと思います。一度沈んだら入渠をさせてくれないし、食事の質だって落ちます。だから私達が内緒でチャンスを失った人達にこっそり入渠させたり食事を与えてるんですが、その変化を微塵も感じていないんです』
千歳『普通ボロボロになった人が急に傷も無く綺麗になったら違和感を感じますよね?でもあの人はそんな事を微塵も気づかない人なんです。多分私達に興味が無さ過ぎて変化があっても気づかないんだと思います』
『…ホントにそう思ってるのか?』
千歳『え?』
『…いや、何でもない。忘れてくれ』
千歳『は、はぁ…』
そんな訳があるか。大将はどれだけ性格がきつくても鎮守府一つ任せられる人間だ。そんな奴が変化に気付いていない訳が無い(性格がキツイのは関係ないか)
おそらく意図的に泳がしている。もしくはどうでも良いと思っているのかは不明だが、必ずやっていることは理解しているハズだ
…仮に意図的に泳がしてるとしよう。そうすると何の得がアイツにあるんだ?
正直得なんて何もないはずだ。あるとすれば通常通りに艦隊運営が出来るだけ…
いや、それが得だとすればどうだろう?艦隊運営をする上でコンディションは常に最良で無ければ戦果は出ない。一度轟沈した者なら沈んだ恐怖を覚えているハズだから、轟沈に対する忌避感も相まって更に沈みずらくなるはず
目的は艦娘に対する何かが虐待等の内容ではないというのは確かだ。むしろ目の届かぬ所で艦娘の治療や食事等に関する事を許諾しているのを考えると、寧ろ艦娘の事を考えているのでは…?
もし、もしだ。この考えが正しいのならば、ここがブラック鎮守府と呼ばれているのは提督のせいではなく、
先程夕立と混浴していた時も気になる話を聞いた。ここの艦娘達があまりに提督に対する関心が薄いと。噂だけが一人歩きし、誰がそんな話を?と尋ねても噂の発信源は知らぬようで、かなり曖昧な話だった
そうなると新たな疑問がいくつも浮かんできた。大将の行動とその変化、ここの艦娘達の過去。気になる事はいくらでも浮かんできた
『…千歳はここの艦娘らは好きか?』
千歳『え、えぇ。皆さん大将とは違って優しく接してくれていますし』
『そうか…』
千歳『勿論、提督さん達の艦娘さんも好きですよ。皆さん鍛えがいがありますし』
『ははっ。そりゃ嬉しいな』
千歳『…だから、あの提督みたいにならないで下さいね?』
『…時と場合によるかなぁ』
千歳『何ですかそれ…』
『これはお前等にも人にも言える事だが、見切りを付けた時はあんな態度になるかもなぁ。流石にまともに取り合う気も無くなったらああなるかも知れん』
千歳『あら。そんな簡単に見切りを付けたら酷い目にあいますよ?』
『悪いけどそんな目にあった事無いから分かんないよ。それに見切りを付けるってのもよっぽどの事が無いとね』
千歳『ふふっ。それもそうですね』
未だにあの時の千歳の心情が分からない。一体何を軸に行動しているのかが不明すぎる
ただ一つ分かる事は、今の自分じゃ
「…勉強するか」
誰かが聞くわけでも無い独り言を吐き、立ち上がって机に向かい大淀にまとめてもらった手帳に目を通す
内容は様々だが、主に戦術に関する事が書かれている。その中でも自分が苦手とする分野に目を通していく。しかしほとんどが文字として認識というより絵として認識されているのか、内容が殆ど頭に入らない。まぁ何時もの事だ
そうやってしばらく机に向かって勉強をしていると、部屋の扉がノックされた
曙「クソ提督」ガチャ
「どうした?」
曙「……」
「…?どうしたんだよ」
曙「…む、無理してない?」
「…はっ?」
いきなり心配されてしまった。あまりに急な事だったのでしばらく阿保面を曙に晒していただろう
「…仮に無理してるとして何か問題があるか?」
曙「あ、あるわよ!そう提督に頼まれちゃったんだから!」
「あぁ。なるほど」
どうやら女提督が曙を寄こしたのは自分を見守る存在としてか。何か素振りがあれば曙がケアしてやるようにと命令を受けているのだろう
「何の問題も無い。だから部屋に戻ってろ」
曙「…問題はあるわ」
「何の?」
曙「その口調、全然似合ってないのよ」
「威厳を少しでも出す為には必要だ」
曙「そうじゃなくて…!プライベートでもそんな口調でいるの!?」
「今はお前がいるだろう」
曙「っ…!もういいわよ!馬鹿ッ!」
そういって扉を勢いよく閉めてそのまま走り去っていく音が聞こえる。扉を出る瞬間、曙の目には涙が浮かんでいたのが少しの疑問を心に抱かせた
「なんだったんだ一体…」
追いかけるべきか。しかしそれではまた大将から怒られてしまう
それに何も慰めるのは自分でなくても良い。他の皆もいるんだからそいつ等に任せておこう
今は自分の事をすべきだと心に決め、再び机に向き直って勉強を再開した
_____________
潮「曙ちゃん…」
曙「ほっといて…」
そういって枕に顔を埋めて微動だにしない曙ちゃん。流石に私だけじゃどうする事も出来そうにないから愛宕さんと川内さんを助っ人に呼んだけど効果は薄そうだった
愛宕「ほっとくわけにいかないでしょ?」
川内「…でも、確かにアレは無いよねぇ」
愛宕「何か知ってるの?」
川内「提督って最近笑顔が無くなってきたと思わない?どちらかと言えば悩んだりしてるような顔ばかりしててさ」
愛宕「…確かにそうね」
提督が心配で曙ちゃんが声を掛けたのは理解出来る。正直、最近の提督は初めて出会った時と比べて自信が少しずつだけど無くなっていってる様な。何かの悩みに絶えないような様子だった
しかし提督は…それを私達に教えてくれない。悩みを打ち明けてくれない。それがどうにもモヤモヤしていた
提督に助けてもらったように、私達も提督の助けになりたい。だけど…
川内「そう簡単に人を信頼って出来ないよねぇ~」
愛宕「……」
そう。すんなり提督を信じてしまえている私達がおかしい。だから提督も自分を信じるなと言って、私達が盲目的にならないようにしてくれている。あの人は私達がすんなりと提督を信じてしまっている事に異常を感じているから
川内「ま、曙がメソメソしてるのは提督を心配して声を掛けに言ったら遠回しにお前とは仕事関係だって言われちゃったんだよ」
愛宕「あぁ…」
川内「ちょっと位はプライベートな話もさせてくれたらいいのにね」
曙「人の気も知らないでぇ…」ギュッ
そういって先程よりも強く枕に顔を埋める。その枕は少し濡れていた
愛宕「提督のプライベートにはズカズカと入り込んじゃってるけどね~」
川内「…//」ポリポリ
川内さんの顔が赤い。勿論、私も提督のプライベートは幾つか知ってしまっているので少し顔が熱い
…その中に男性恐怖症の治し方に関して調べてあったのは少し嬉しかった
川内「…さて、ちょっと行ってくるよ」
愛宕「いってらっしゃい。ほどほどにね」
川内「分かってるよ」
そういって部屋を出ていってしまう川内さん。多分提督と話し合いをしに行ってるんだと思うけど、どうにも良い顔をしてなかったので厳しい話になるのは確実だろう
曙ちゃんの気が済むまでしばらく頭を撫でていると、背後で扉が開く音がした。川内さんが帰ってきたのかと思って後ろを振り向くとそこには長門さんがいた
急にどうしたのだろうと驚いて固まっていると、曙ちゃんの姿を見た瞬間に怒り心頭という顔になった
そしてそのまま部屋を出て行ってしまい、ドスドスという音が部屋の前から離れていった
愛宕「な、なんだったの…?」
潮「さ、さぁ…」
曙「グスッ…」
しばらく愛宕さんと二人で話していると、泣き疲れたのか曙ちゃんが寝息を立てて眠っていた
それを見た愛宕さんは曙ちゃんの体に布団をかけて部屋から出て行った。だけどすぐさま部屋の扉を少し開けて顔だけをこちらに出していた。その顔は少し青ざめており、何かあったと察するには十分だった
愛宕「潮ちゃん、絶対ここから出ないでね」
潮「えっ?急にどうしたんですか?」
愛宕「良いから!絶対出ないでね!」
…言うだけ言ってすぐさま扉を閉めてしまった。その数秒後に遠くから複数人が走る音が聞こえ、更に遠くからドスドスという音が聞こえてきた
一体どうした事かと扉に近づいて開けようとしたが、先程の愛宕さんの警告を思い出してすぐさま手を引っ込めた
段々と音が近くなり、やがて扉の近くまで走っている人達の声が聞こえてきた
???「おい!速く走れ!」
???「こっちは抱えてるんだよ!?無理だって!」
声的に天龍さんと川内さんらしい。しかも川内さんは何かを抱えて走っているようだった
しかし何から逃げているんだろう?そう考えを巡らす前に聞こえてきた声が答えとして返ってきた
???「待て!駆逐艦を泣かす悪人が!それを庇う様ならお前等も同罪だぞ!」
続けて聞こえてきたのは長門さんの声。先程部屋に入ってきた長門さんは十分様子がおかしかったが、それより今なんと言った?
駆逐艦を泣かす悪人…これは先程曙ちゃんが泣いていたのを見て提督が泣かせたのだと思っているのだろう。そして庇う様ならと言った。それはおそらく天龍さんと川内さんの事だ
何故こうなっているのかが微塵も検討が付かずにいると、騒ぎが大きすぎたのか曙ちゃんが目を覚ましてしまった。少し目は腫れていたけど、その顔は出撃の時の様なキリッとした目をしていた
曙「潮、この騒ぎは何?」
潮「わ、分からないの。私もさっき聞こえて…」
曙「とりあえず出るわよ。何が起こってるのか確かめなくちゃ」
潮「ま、待って。愛宕さんがここから出ちゃ駄目だって…」
曙「そんな事言ってる場合?さっきから騒ぎが大きくなってるのが聞こえないの?」
そういわれて耳を澄ますと、確かにさっきより声が大きくなっている。しかも人が増えているかのようにも感じた
曙「とりあえず開けるわよ。何があったのか確かめないと」
そういってドアに手を伸ばす曙ちゃんだったが、次の瞬間にドアが破られたかと思う勢いで開き、そこへ天龍さんと川内さんが入ってきた。川内さんの腕の中には提督も一緒に居た
川内「かくまわせて!」
天龍「潮、曙!長門達がやってきたら窓から外に出たって言ってくれ!」
曙「はぁ!?意味が分からないんだけど!?」
天龍「良いから!兎に角言う通りにしてくれ!」
そういって川内さんはタンスの中へと入り、天龍さんは窓を急いで開いてベットの中へと潜り込んで姿を隠した
するとドアが勢いよく開き、長門さんを先頭に後方で数名程の艦娘達がいた
…全員、普通じゃない目をしていた。血走った目に歯がガタガタと震えており、まるで怒りによって唇を噛み締めそうになるのをこらえる様に
長門「天龍と川内は何処だ!?」
曙「…そこの窓から外に出たわよ」
長門「チッ!下に降りるぞ!」
そういってすぐさま部屋から離れていく長門さん達。嵐が過ぎ去って思った事は一つ。普通じゃない
曙「…いったわよ」バタン
川内「た、助かった…」
天龍「ごめんな。巻き込んじまって」
曙「別に良いわよ。ただ何があったか教えてくれない?」
天龍「俺も詳しい事は知らねえ。部屋に戻ろうと廊下を歩いてたら提督抱きかかえた川内が走ってきたんだからな」
川内「私は提督と話し合いが終わって曙に謝りに行こうと一緒に部屋を出たら長門さんがやってきてね。どうしたんだろうと思ったらちょっと嫌な感じがして逃げてきた」
天龍「後はさっきの通りだ。二人して逃げてたらいつの間にか追いかけてくる艦娘が増えてきてここに逃げ込んだって訳さ」
潮「…あの、それで提督はどうしてさっきから何も喋っていないんですか?」
川内「それが…」
そう言って川内さんが抱きかかえていた司令官さんを皆に見せるように腕を伸ばす
その顔はとても怖い目にあったのか、口はガタガタと震え、両手足は痙攣でもしてるかの様に震えていた
川内「…こうやって、さっきから怯えたままなんだよ」
あまりの光景に声が出なかった。あの強かった提督がこんなにも弱々しく震えているのは見たことが無かったからだ
まるで以前の私達を見ているようで、心が痛かった
「…ふぉぉ」
川内「…提督?」
「本物だぁ…!」
そう言って歓喜に打ち震えているかの様な声を出し、やがて川内さんの腕から離れて地面へと降りた
体はずっと震えたままだ。足はガクガクだし、腕には寒イボがびっしりと立っている。なのにその顔は何処か嬉しそうで、口が裂けそうな程にニッコリとした笑顔を浮かべていた
_____________
アレが本物の殺意かぁ…!
初めて出会った頃の天龍達とは比にならない。正真正銘本物の殺意!睨まれただけで心臓まで凍りつきそうな顔!そして迫力!
アレこそが艦娘達の…いや、戦場で生きる者達の殺意!とても興味が尽きない!
「凄いなぁ…!スゲえなぁ…!!」
ワクワクする。自分の中に確かにある恐怖心だが、その中に隠れ潜む高揚感が感情を煽いでワクワクが止まらない
あの殺意はどうやって表現されるんだろう?やっぱり殺意をぶつけるには暴力か!?いや、そうであってほしい!
相手は艦娘だ。おそらく一発殴られただけで骨は軽く折れるだろう
もし長門の様な戦艦の場合は骨どころか拳と同じ大きさの穴が体に空くことになるだろうな。そうすると拳で貫いた体の穴。入口と出口の二つから長門の腕を伝って血がトロトロと溢れる様に抜けていき、次第に体温が血と共に流れるんだ
そしてその腕を抜き去ると、二つの穴から風が入り込んで中の肉や骨を撫で、完全に腕を抜いた瞬間には体を貫いて支えていた長門の腕が取れた事で力なく地面に倒れ伏し、穴からは只管に血が流れていくのを感じながら冷たくなっていく…
怖い!最っ高に恐い!偶に起こしてるパニック障害とは非にならない、明確な死のイメージが脳内を支配していく。この感覚が最高に恐ろしくてたまらない!
川内「…とく!提督!」ブンブン
天龍「…駄目だ。完全に意識がどっかいってやがる」
潮「提督!しっかりしてください!」
何度も呼びかけるがずっと無反応な提督。これには流石に異常を感じた
曙「アンタ達、どきなさい」
その声に皆が一斉に提督から距離を取る。やがて曙ちゃんが自分の掌に息を吐くと、そのままビンタを提督にお見舞いした
大きな音が鳴り響き、勢いよく飛んでいった提督。そのまま壁に頭からぶつかり、ボコッという聞こえてはいけない音が部屋に鳴り響いた
曙「…良し」
天龍「いや良しじゃねぇよ!」
川内「提督!大丈夫!?」
「…頭と頬がくっそ痛い」
潮「滅茶苦茶腫れてますもん…」
「いやまぁ無視した僕も悪いけどさ、ここまでやるかね?」
曙「でもスッキリしたわ~」
「お前なぁ…」
イテテと言いながら首をポキポキと鳴らす提督。しかしその姿を見て少し違和感が浮かんだ
潮「あれ?提督少し大きくなってません?」
天龍「お、ホントだ。大体十歳くらいか?」
「…あれも成長として数えられるのか」グキグキ
服がパツパツになっているのでチラッとおへそが見えてしまっているのだが、そこに視線が吸い寄せられてしまうのは仕方の無い事だろう
曙「そういえば愛宕さんは?さっきまでここにいたんだけど」
川内「愛宕さんなら事態の鎮圧に向かってもらってるよ。流石に長門さんの相手をするのは無理だと思うけどね」
潮「…提督。今度は何したんですか?」
「知らないよ…川内に説教されてたら突然アイツ等がやってきてそのまま追いかけっこになってた」
提督も分からないとなると一体何なのだろう?皆で頭を悩ませていると、ドタドタと走る音が聞こえてきた。提督は重巡か?ってボソって言ってたからさっき追いかけてきてた人達では無さそうだった
高雄「皆さん、無事ですか!?」
「高雄か。無事だぞ」
高雄「よ、良かっ…って!どうしてそんなに頬が腫れてるんですか!?それにその壁!」
「気にするな。後で壁は直しとく」
高雄「それで済むと思ってるんですか!?」
「僕提督よ?」
高雄「うっ…後で説明してもらいますからね…?」
立場を利用して黙殺させる辺りいつもの提督だと少し安心した。少し高雄さんの顔が納得いかなさそうだったけど、コホンと咳ばらいをして気持ちを切り替えていた
川内「で、どうしてここに?」
高雄「提督からの指示です。今は暴走期間だから部屋で大人しくしておくようにと伝えに来たのですが、先程愛宕から提督さん達が大変な目にあっていると聞きまして急いで駆けつけたんです」
天龍「暴走期間?」
高雄「はい。もうお分かりかも知れませんが、ここの艦娘達は精神的に不安定な者達が多いんです。そんな人達ですからイライラが溜まると今回の様な事になってしまうんです」
「タチ悪いにも程があるぞ。曙を見てイライラをぶつける相手を見つけたから成敗出来るって大義名分を盾にして暴れるって…」
高雄「だから暴走なんですよ。まぁ規模で言うなら列車の暴走みたいなものですが」
目的に追いつくまでは途中で人が轢き逃げされる事もあるのだろう。今までそんな事を経験してきたのか、高雄さんの顔は少し疲れているような顔だった
「今は誰が対処に当たっているんだ?」
高雄「陸奥さんと球磨さんと愛宕さんと電ちゃんの計四名です。お二人に手伝って頂いて凄く助かってます」
「そうか。後で愛宕と電を労ってやらないとな」
高雄「ただ…」
「ただ?」
高雄「暴走に巻き込まれて雷ちゃんが怪我をしてしまって…」
「なんだと?」
高雄「幸い軽く膝を擦りむいた程度には済んでます。走っていた長門さんとぶつかって膝を擦りむいただけなので」
「…はぁ。流石に黙っていくわけにはいかなくなったな」
潮「私、雷ちゃんを見てきます」
川内「私も行く。ついでに鎮圧に参加してくるよ」
「やるなら長門を叩け。おそらくアイツを筆頭に暴走が始まってるはずだ」
川内「了解」
川内さんが部屋を出るのに引き続き自分も部屋を出る。横目で川内さんを見るが、ちょっと頬がピクピクしているのを見ると結構怒っているようで、少し怖かった