この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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自分勝手な者同士の喧嘩

「長門、やるぞ」

 

長門「ようやくか。待ちわびたぞ」

 

「ついてこい」

 

長門「あぁ」

 

 

営倉の牢屋内で鎮座していた長門立たせ、彼女を縛っていた鎖を解いていく。驚くほどにあっけなく彼女の拘束は解けてしまい、少し拍子抜けしてしまった

 

 

長門「なんだ?まさか私がここで大人しくしているのがそんなに意外だったか?」

 

「あぁ。もうちょっと暴れたりするもんかと」

 

長門「私はここの模範とならなければならない存在だ。もし仮に私がここで暴れて罰を受けた時はしっかりと受けなければ今後破っても良いという風習の様なものが出来てしまう。それだけは絶対に避けなければならないからな」

 

「…変にしっかりしてるから困るんだよなぁ」裏返せば自己中になる可能性大だけど

 

長門「何か言ったか?」

 

「いいや?ほら、こっちだ」

 

 

太陽は空高くに存在し、降り注ぐ陽の光が体を熱く焼いていく。滴る汗が異様な程にハッキリと感じ取り、シャツが服の中でぴっちりと張り付いている感覚がとても不愉快だった

 

一歩、また一歩と歩くごとに脳内の危険信号が発せられているのに気づいてしまう。それを無視して歩くことだけに意識を持っていこうとしても、背後から感じる長門の視線がそれを無視させる事を許さない

 

これから行う人生で初めての喧嘩…未知に対するワクワクよりも恐怖の感情が勝っている

 

先程から太ももから内股に向かって細かな震えが起きそうな程にバチバチとした熱い血の巡りを感じていた。おそらく足を指先でつつかれでもしたら膝を折ってその場から立てない自信がある

 

正直な話、何故自分が歩けているのかは自分でもわかっていない。ここまで怖いのなら誰か変わってくれと脳内で叫ぶ自分と、それだけは決して許さないという二人の自分が脳内で大喧嘩中だ

 

自分でつくづく思うのだが、今日までにやってきた事(準備)はとことん卑怯な事だと思う。こんなやり方で解決なんてするわけないのに。寧ろ解決してはいけない事のなのに

 

これで解決してしまった場合、艦娘達に暴力で解決すれば良いという意識を植え付けてさせてしまう。しかしそれでは損しかないと教えなければ、今後同じ展開に皆が遭遇した時に同じ手段を取って解決を図ろうとするだろう

 

だが今回はそんなの関係ない。あくまで今日喧嘩するのはこっちの事情。こっちの勝手だ。せっかくの機会を台無しにしてたまるか

 

 

長門「それで、私を倒す算段はついたのか?」

 

「…普通それを聞くか?」

 

長門「気になるじゃないか。お前が一日で子供から大人に変化したんだぞ?それぐらいのインパクトがあるくらいの準備をしたんだと期待するじゃないか」

 

「安心しろ。期待以上の準備をしておいた」

 

長門「そうか…!それは楽しみだなぁ!」バシバシ

 

「痛い痛い」

 

長門「…割と本気だったんだが」

 

「おう。気合引き締めろよ」

 

 

長門の顔に少しの焦りが浮かぶ。視線から感じる感情は何かを潜ませた様に感じる。これはおそらく油断だろう

 

自分としてはもうちょっと油断しておいて欲しいんだが、それだとコチラもスッキリと恨みを晴らす事が出来ない。コイツの心を叩き潰してこそ俺の復讐は終わるんだ

 

 

長門「で、ギャラリーは何人いるんだ?」

 

「はぁ?」

 

長門「なんだ。いないのか?」

 

「喧嘩なんてギャラリーがいても邪魔なだけだろ。絶対俺らを止めにやってくるだろうしな」

 

長門「ふむ…そういうものか」

 

「…長門。お前が俺と喧嘩する理由ってなんだ?」

 

長門「決まっている。お前を完膚なきまでに叩きのめして艦娘達の安心を得る為だ」

 

長門「貴様がいるから艦娘達は泣いている。貴様のせいで苦しんでいる艦娘だっている。だから私がお前をぶちのめして今までやってきたことが間違いだと教えてやるんだ」

 

「…良いな。子供っぽくて」

 

長門「…何だと?」

 

「原因の元をぶん殴ればどうにかなる。それは正しいけど間違ってるよ。正確には先か後かの答えに関することだけどな」

 

長門「おい。訳の分からん事を言わずに説明しろ」

 

「後始末が大変だって話だ。物語はめでたしめでたしで終わるが現実はそうじゃない。終わった後の事も考えなきゃいけないから大変なんだ」

 

「それをお前は自分の都合で勝手に…って、これはブーメランか」

 

長門「はぁ…?」

 

「ま、喧嘩する奴に碌なのはいないって事だ」

 

長門「私がろくでなしだとでも?」

 

「そう言ってるだろ」

 

長門「貴様…」

 

「そうやってすぐ怒るから駄目なんだよ。お前は戦闘となると良いのに普段は酷いな」

 

「…ま、見下してる奴にそんな事言われたら腹も立つよな」

 

長門「…気づいてたのか」

 

「気づかないとでも思うか?言っとくがバレバレだぞ」

 

長門「む…」

 

「俺だけじゃなく、駆逐艦を筆頭に自分以外の全員を見下してるんだよな?」

 

長門「バカな!そんな事するわけ無いだろう!」

 

 

爆発した様に怒る長門。こんな所を他の誰かに見られる訳にもいかないので急いで諌める

 

 

「声がデカい」

 

長門「あっ、すまん…」

 

 

コイツは本当にどうしようもない奴だ。俺と同じで自分以外を全て心の中で見下している。しかもそれに本人は気づいていないように思えた。下手したら自分より質が悪いのかも知れない

 

…まぁ、自分もそれに気づいているのに関わらず、直さない所を考えると卑劣な人間なんだとつくづく思う。結局は自分も長門以下のクズである事には変わりないんだ

 

 

「お前は自分では見下していないと思っているかもしれない。だが自分と同じ様に考えてくれる相手は一体何人いると思う?」

 

「五人?十人?或いは自分以外の全員?答えは全部ノーだ」

 

「誰一人としていない。お前と思考や感情、あらゆる物がお前と同一であるというのは確実にあり得ないんだよ」

 

長門「いや。それは絶対に違うな。私には私がいる」

 

「同じ長門の事を言ってるのか?」

 

長門「そうだ。例え私以外の誰もが同じ考えを持っていなかったとしても、”私”達が同じ意志や考えを持って生きていると言えよう」

 

「…この世界はゲームじゃない。お前等はデータの塊でも何でもない、一人の生きた人なんだ。んな悲しい事言ってんじゃねえよ」

 

長門「ふん。人間のお前には分からんだろうな」

 

「あぁ。分かりたくも無いよ」

 

長門「…一つ聞かせろ」

 

「なんだ?」

 

長門「こんな事を聞くのもおかしな話だが…お前が私と喧嘩する理由は何だ?」

 

「……眠れないんだよ」

 

長門「はぁ?」

 

「お前に追い回されたあの日の夜からな、普通に寝たんじゃ寝れなくなっちまったんだよ。目を瞑ったらあの時の光景がまるで走馬灯のようにハッキリと瞼の裏に浮かんでくるんだ」

 

「俺から安眠を奪ったお前がどーしても許せんくてなぁ…今後も長門と会う度にその事を思い出したんじゃ辛い。だからこうしてボコボコに出来る機会を利用してスッキリ寝ようって算段だよ」

 

長門「なんだ。お前も結局は”私”ではなく”長門”を見ているじゃないか」

 

「おっ、そうだな」

 

長門「イライラしてるな」

 

「あぁ。痛い所突かれてムカムカしてるよ」

 

長門「なんならここでやるか?場所にしては狭いが、喧嘩なんて何処でやろうと変わらんだろう」

 

「まぁ慌てるなよ。せっかくお前を確実にボコボコに出来る策を作ったんだ。せっかくならそれを見てくれよ」

 

長門「ふっ。良いだろう」

 

 

余裕。長門の言葉から感じられたのは正にそれだった。だが油断というよりかは気楽にとらえている様に思う

 

こんな人間が考える策など幼稚な物だろう。以前まで私に怯えていたコイツが私に敵うハズがない。どうせ本気を出したらこんな奴、大した事はないだろう

 

長門の呼吸、腕の振り方、足音から聞こえてくる感情の高鳴り、そして慢心という名の見下し顔。それら全てを全身で感じ取った

 

今にも爆発しそうなイライラにそっと蓋をし、心の奥底へと静かに納めた。頭は冷静に、心を熱く燃やしながら

 

 

 

_____________

 

 

 

「ここだ。入ってくれ」

 

長門「武道館か…喧嘩というより試合だな」

 

「安心しろ。試合じゃ済まなくなる」

 

長門「どれ。早速成果を見せてもらおうか」

 

 

扉を開き、武道館の中央へ一歩二歩と進んで行く長門。その後ろで武道館の扉を閉め、決して誰にも妨害されない様にと念を込めながら鍵をする

 

だがそれ以外にも理由はあった。今から起こる事が決して”外へと漏れない”様に、決して”外に逃げださない”様に。しっかりと鍵をしておく必要があったからだ

 

 

「長門」

 

長門「ん?」

 

「お前は深海棲艦が決闘したいから一人で着いてこいと言ったら信じるのか?」

 

長門「ついて行く訳ないだろう。あからさまな罠じゃないか」

 

「そうだな。なら、罠だと分かっていて突っ込む奴をどう思う?どうにかなる。大丈夫だと言ってズカズカと罠へと突っ込んで行く奴は」

 

長門「ソイツは愚かとしか言い様が無いな。寧ろ艦隊ではそういった行動は被害を増やす為の物でしかない」

 

「そうか。なら一つ聞きたい」

 

どうしてお前はこんな所について来たんだ?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

長門の顔色が一瞬暗くなる。思わず一歩だけ後方に下がった長門の足元からカチッという音が小さく耳に届いた

 

長門の頭上からガランという音を立て、何も無かった筈の天井から文字通りの鉄棒が長門の立つ場所へと降り注ぐ

 

回避出来ないと思ったのか長門が頭部を守るように手で頭を覆うが、不規則に落下する鉄の雨が長門のガードを幾つかすり抜けてヒットした

 

雨の様に降り注ぐ鉄棒はやがて地面へと跳ね返り、大きな音を立てて地面に転がる鉄棒と、赤黒い液体に一部色を染めた鉄棒がバラバラと長門の足元に転がった

 

しかし反応は薄い。まるでこの程度かと言わんばかりの顔をしているが、再び苦痛に顔を歪めた

 

背中に手を伸ばして何かを抜く動作をすると、手に握られていたのは直径15cm程の小さな鉄串が何本も握られていた

 

目の前でそれを握り折ると、イラっとした様子でこちらを睨みつける。それを見て体に戦慄が走った

 

だが、ソイツを喰らったな?

 

 

「おぉ。やっぱり凄いな」

 

長門「ふん。この程度で私が倒れる訳ないだろう」

 

「じゃあ薬はどうだ?」

 

長門「薬…?」

 

「昔妖精さんが自己防衛の為にとあるスプレーを作ってくれてな…ソイツを嗅げば例え艦娘だろうが体に力が入らなくなって脱力するやべぇ代物なんだよ」改良したおかげで甘える効果は消えたけどな

 

「俺はその原液をたっぷりとソイツに塗っておいたんだ。ここまで言えば分かるだろ?」

 

 

ハッとした表情になり、流石に不味いと感じたのか、ボクシングに似た構えで前面をガードして接近してくる。一歩踏むごとに地面が地震の前兆を思わせる細かな揺れを起こし、距離を取ろうにも恐怖で体の動きが鈍っていて回避は出来ない気がする

 

距離は二歩前後。接近まで秒数にして一秒以下。回避は間に合わないのは明確である。ならば受けるしかない

 

両手を少し曲げて前に出し、長門の放たれる拳の側面を手首で受けて回す。所謂廻し受けである

 

しかし距離が離れた訳ではない。長門の迫る威力までは流す事が出来ず、互いに頭突きを喰らって痛み分けとなったが、勢いがあった分こちらのダメージの方が大きい

 

痛みで二人同時に後ろに数歩下がる。鼻からは痛みと共に鼻血がボタボタと放出されていき、辛くもスッキリとする感覚が脳を覚醒へと追い込んでいった

 

 

「っ…!」

 

長門「ふんっ。この程度で痛がってるのか?」フルフル

 

「…無理すんなよ。足が震えてるぞ」

 

長門「これは震えではない!ただの武者震いだ!」

 

「そうか」

 

 

薬が良く効いてホッとしている反面、意外にもここまで動けるとは想定外だった。これには少々嫌な汗が背を流れていくのを感じざるを得なかった

 

流石はビッグ7と言うべきか。出来る事ならもう少し弱くなっていて欲しいが、アレでは正面からぶつかっても有利は取れないだろう

 

たが奇策は取れない。何故なら策を練ってもコイツにはそれを真正面から全て折る可能性がある。今はまだそれを取るべきではない

 

ならばどうするか。答えは単純で、策にハマるように相手を誘導してやれば良い

 

 

「来いよ。ビッグ7(笑)。その体は飾りか?」

 

長門「このっ…!」

 

 

煽り耐性0のアホが再び突っ込んでくる。だが体は頼りなくふらついており、とてもじゃないが先程見せた力は感じられなかった

 

だが迫力だけは違う。寧ろ殺意に近い怒りを感じ、それが今のコイツを動かしているのだと理解出来た

 

足を踏む音から踏みこみに入るタイミングを見計らう。次の足が上がるタイミングを予測し、そのタイミングでこちらも長門に姿勢を低くして接近する

 

長門の足が宙へと上がるタイミングでその足を素早く掴み、腰から上半身を回して掴んだ足を捻りあげる。そのままバランスを崩して倒れようとする長門だが、一泡吹かせようというのか足を取られた状態のままでこちらに向かって殴ってこようとする

 

長門のこぶしが瓦割りでも行うかの様に自分の頭上へと振り下ろされようとするが、足を弾き飛ばす様に自分から離してバランスを完全に崩壊させる

 

態勢が完全に崩れて倒れ行く長門だが、すかさず地面に手をついてその場で半回転したかと思えばそのままコチラに向かって南〇獄屠拳を思わせるポーズで飛んできた

 

思わぬ不意打ちに体を強張らせてしまったが、直撃コースでは無かった様でそのまま自分の脇腹を掠めていった

 

掠めた所はさながら燃えた火を押し付けられているかのように熱くなり、それが最高潮に達した瞬間、思わず声が漏れた

 

思わず手で痛む場所を押さえる。妙に温かくも本能的に気持ち悪いと感じる赤黒い液体がこぼれていた

 

 

「いっ、てぇっ…!」

 

 

何とか言い切れたと思ったのも束の間、こちらに迫り来る長門が再び拳を握り、あからさまなアッパーカットを狙って走って来る

 

避けたくても思いの外ダメージが大きくて動けないので回避は諦めた。避ける事をせず、顎にヒットした瞬間こちらも頭を上に向けて勢いを流したが、激しい痛みに目を閉じる間も無く天井が視界に入った

 

だがおかしいのだ。天井まで少なくとも六メートルはあった筈なのに、今は四メートル程に思えた。それも少しずつ回っているかの様にこちらへ近づいてくる

 

それで確信した。自分は今、宙に舞っているのだと

 

足が何もない空を触り、先程より更に接近してくる天井への激突を防ぐ術が無いのを知らせる

 

幸運なのは空中で体が多少回転を行っていた点だろう。頭という点でぶつかるよりも体という面で受ける事が出来るのだから

 

ぶつかる瞬間に土下座の様なポーズで天井へ体を打ち付ける。衝撃を腕全体で受け止めた事により、ダメージの分散を行って致命打を回避する

 

遠くから見れば天井で土下座でもしているかのように見えているだろう。だがこれも立派な受け身なのだ。腕全体の骨にヒビが入ったみたいで死ぬほど痛いが

 

そんなどうでもいい事を考えながら重力に従って落下を開始し始める。そのまま地面に落下してしまえば首を折ってしまう気がしったので地面への受け身のポーズをとるが、空中で誰かに抱えられた

 

 

川内「提督、大丈夫!?」

 

 

何処からやって来たか分からないが、逆さまの自分を川内が抱えていた。それに気づいた時、自分の膝が川内の顔面を蹴っていた

 

突然の攻撃に思わず体から手を離す川内。川内は足から着地したものの、自分は先程天井にぶつかった時と同じポーズで地面へと着地していたが、受け身を取った腕は最早人の腕とは思えない色をしていた

 

 

川内「なっ、何するのさ!」

 

「邪魔だっ!どけっ!」

 

 

助けられたという屈辱。邪魔をされたという怒り。そして助けられてしまう程に自分が弱いと感じた自己への憎悪。それらをまとめた感情を言葉と暴力で川内にぶつけてしまった

 

川内に近づき、腰へと手を回して抱きしめる。そのまま上へと持ち上げ、そこを長門が跳躍して川内の頭を殴り、それに合わせて自分も川内を離した

 

そのまま自分の後方へ吹っ飛んでいく川内。後ろの壁からはバチンという音が鳴り、僅かな雑音を出して音は聞こえなくなった

 

 

長門「続きだ」

 

「あぁ。来い」

 

 

誰にも邪魔はさせない。これは俺の喧嘩だ

 

 

 

_____________

 

 

 

食堂の天井から下げられたテレビから映っている映像を見て食堂でざわめきが起こる。内容は川内さんに起こった出来事についてだ

 

どうして。助けられたのに。何であんなことをしたの?

 

それとは別に提督の様子について艦娘達の間で物議を行われていた。あんな腕でどうして動かせるのかと

 

常に戦いという物に身を置いて来た私達からしたら、あの腕では何かを握る事がおろか、もはや動かす事さえ不可能な程に痛いというのは分かっていた

 

だがそれはこの人達の中での常識。あの腕でも動かそうと思えば動かせるのだ。ただ途方も無く痛むだけ。言ってしまえば痛いだけなのだ

 

例え海風で傷から途轍もない痛みが差し込んで来ようと、もう撃てないと思う程に疲弊し怪我した体で砲撃を行ったとしても腕は動く。まぁその状態で砲撃なんかしてしまえば衝撃で腕が折れるのだが

 

様々な感情が込められた声が食堂を包む。そんな状況にも関わらず、私の脳裏に浮かんでいたのは肉食動物の喧嘩だった

 

狩りで仕留めた獲物を取り合う二匹の動物。その二匹の隙をついて獲物を奪う動物がいれば、二匹は協力してその動物を排除しようとする。といった話だ

 

川内さんは正に割り込んできた動物。しかし割り込んで来たのは仲間で、その仲間を追い出すという聞いたことの無い行動であった

 

それを見て再び思案に暮れる。私がこれからするべき事は何か?私が彼の為に出来る事は一体何だろうと、必死に頭を回して考える

 

最早取り換えが効かない。どうなったって構わない。そんな自暴自棄としか思えぬ行動に昔の記憶が何度もフラッシュバックを起こしていたが、その度に今まで考えていた言葉や教えてもらった言葉が心から漏れ出していた

 

後悔したくない。生きていたい。辛くても必死に生きて、いつか本当に共に笑い合いたい人達と共に笑って生きていたい

 

好きな人が出来るのも良い。自分が心から愛した人と共に過ごし、それと同じくらいに家族の様な人達を失いたくない

 

私は幸せになりたい。だから、今そこで死にそうになっている貴方を決して死なせたくないの。貴方だって私の幸せの一つなのだから

 

こんな我儘を言ってしまえば嫌われてしまうかも知れないけど、これは多分自分勝手な貴方に似たんだと思う。そう思いたい

 

 

龍田「天龍ちゃんでもないのにあの人の事をこんなに考えるなんて…私も変わったのかしら?」

 

天龍「何寝ぼけた事言ってんだよ」

 

龍田「天龍ちゃん聞いてたの?」

 

天龍「隣にいるんだから嫌でも耳に入るよ」

 

天龍「…なぁ。龍田はどう思うよ」

 

龍田「今の提督の事?」

 

天龍「あぁ」

 

龍田「うーん…可哀想かしらぁ?」

 

 

何時もみたいに軽くとぼけて言ってみる。こうすると天龍ちゃんからは真面目にしてくれよぉ~とツッコミが入って、それを私は少し楽しみにしている事もあるのだが、今回は何も返事が返ってこなかった

 

横顔を見ると真剣そのものだったけど、目だけはとても憐れな者を見るかのような目だった。だがその目の中に怒りの様なモノだって感じていた

 

多分怒ってる。何に怒ってるかは今までの天龍ちゃんを見ていれば容易に想像がついたが、分かっているからこそ、それについて触れる事は無かった

 

 

天龍「案外的を得てるかもな。俺もそう思ったよ」

 

龍田「私達の感覚からすると、戦艦一人と戦うだなんて罰以外の何物でも無いものね」

 

天龍「んでよ、こういう時は俺達ってどういう心境で見送ってた?」

 

龍田「そんなの…苦しかったに決まってるじゃない」

 

天龍「そうだな。それに加えて俺は自分が憎くもなったよ。どうして無理矢理にでも止められなかったんだって」

 

 

私がやらないと皆が犠牲になるんです。私が頑張らないともっと酷い目に合わされる

 

私、私、私…誰もが自分の事で精一杯で、誰一人として誰かを頼ろうとしなかった。誰かを助けようとしても、結局は助けると決めた人一人だけの決断だった

 

貴方もそんな皆の内の一人だった。実行し、終わってしまった貴方を今でも覚えている。恐らく忘れる事は生涯無いだろう

 

あの時手を掴めていたら。あの時の大丈夫という言葉に絆されたりしなかったら。例え強引にでも私が止められていたら。一緒に向かう事が出来ていたら

 

そんな起こる筈もないたらればの再現を今目の前で行われている。まるで神様が同じ事を繰り返させるなと言わんばかりの嫌なチャンスであったが、こうなればやる事は決まっていた

 

 

龍田「じゃあ、どうするかは決まってるわよね?」

 

天龍「おう。今回は一緒にいくぞ」

 

龍田「もし反撃して来た時は?」

 

天龍「反撃は最低限だ。あくまでやるのは制圧。そうすればアイツだって大人しく従うしか無いだろ」

 

龍田「装備は大丈夫?」

 

天龍「万全だ。ちゃんと装備してっからよ」

 

龍田「ふふっ。それなら安心ね」

 

天龍「……二度と繰り返させねぇ。絶対にな」

 

 

闘志が燃える。あの時は貴方一人だけだったけど、今回は二人だ

 

私も強くなった。だから今度こそは成功させる。しなければならないんだ

 

もしここで失敗してしまえば……考えたくはないが、おそらく私に一生残り続けるトラウマを抱えていくことになるだろう

 

だからもうそんな顔をして戦わないでほしい。貴方は自分の為だと言うけれど、その中には絶対私達を思っての行動があるという事を見抜けない程、私達は愚かじゃない

 

テレビに映っているのは武道場だ。ここなら以前利用した事があるから場所は記憶している

 

だがあの映像を見た時に違和感を覚えた。というのも艦娘達の気配を感じなかった

 

あそこまで大々的に映っているんだ。ある者は野次馬で。ある者は仲間の危機を助けようとやってきそうなハズなのに、先ほど映像に映った川内以外の姿が見えなかったのだ

 

そして武道場についた時、その答えの理由が分かった

 

大将を中心に陸奥、愛宕、高雄、摩耶、球磨、電。この七名が陣を取って中へ誰も入れないようにしていた

 

 

大将「お前らか。ここから先は関係者以外立入禁止だ」

 

天龍「おい!ふざけてんのか!?」

 

大将「何故だ?ここは特別作戦の為に封鎖している。朝礼でもそう説明しただろう」

 

天龍「何寝言抜かしてんだ!あん中にいるのはウチの提督と長門だろ!?彼奴等は中で命懸けの喧嘩してんだ!それを分かってんのかよ!?」

 

大将「お前こそ寝ぼけたことを言うな。人間が艦娘と喧嘩できるわけないだろう」

 

天龍「この…!」

龍田「天龍ちゃん待って」

 

 

今にも飛びかかりそうな天龍ちゃんを抑え、その場から身を引いて遠くから周りに立っている艦娘達を観察する

 

電ちゃんは何故か煤に塗れており、愛宕さんは体の所々が土で汚れていた

 

うっかり転んだ様には見えない。電ちゃんに関しては何処から煤を被ったのだと言いたくなる

 

続いて大将の艦娘達に目をやる。すると顔は何処となく苦しそうな顔しており、動きたくても動けない様な印象を受ける。これには見覚えがあった

 

私達の前任が艦娘に命令をし、それに逆らう事が出来ずにいた時の表情。アレにそっくりなんだ

 

そして先程食堂で見た川内の姿。アレはもしかして何らかの理由で皆は入れなかったが、川内はその何かの理由を解決。或いは無視をして入ったのではなかろうか?

 

大将が存在するのは状況の把握。そして周りにいる艦娘達は中に入ろうとしたけど止めた。もしくは出来なかったのだろう

 

大将が何故様子見を行っているのかは分からない。おそらく容認してしまえば問題になると言った理由なのだろうが、詳しい所までは流石に読めなかった

 

ならばどうするべきか、頭を必死に使って今は探るしかないだろう

 

再び武道館に近付く。今度は私一人だけで出向き、天龍ちゃんにはしばらく待機して貰う。天龍ちゃんはいざという時に切り込む切り札として待機して貰うと話せば渋々理解を示しながら応じてくれた

 

 

龍田「ねぇ、私達武道館に忘れ物しちゃったのよ。だから中に入れてくれないかしら?」

 

大将「駄目だ。それなら後で渡してやるから終わるまで待っていろ」

 

龍田「それじゃダメなのよ…。アレは他の人が触ったら危ないから私が持っていなくちゃいけないの。それに私のアイデンティティでもあるしね?」

 

大将「アイデンティティ…?」

 

龍田「ほら、今日の私って何か足りないと思わない?」

 

 

そう言って腕を広げて全身を大将に見せる。それと同時に周りにいた艦娘達も一斉にこちらを振り向いて注目を集める

 

正直こんな風に全身を見せるという事が無いのでとても恥ずかしい。だがその甲斐あってか、視界の端に映る自分の艤装が目に入った

 

そのまま武道館の屋根へと昇っていき、カランと音を立てて落ちるのを聞いた。何事かと皆が辺りを見回すが、もはや視界に届かない場所に存在している

 

 

大将「…?お前、頭の輪っかはどうした」

 

龍田「だからそれを忘れちゃったんです。アレが無いと……艤装のコントロールが上手くいかなくなって思わず砲撃しちゃうかも知れませんね~?」

 

大将「そんな話は聞いた事が無いぞ」

 

龍田「あら、大将も知らない事があるなんて驚きです」ウフフ

 

 

大将は一瞬めんどくさそうな顔を浮かべたが、溜息をついて中へと案内を開始しようとしてくれた

 

それに続いて私も前へと足を出す。すると大将がこちらに振り向いて組み付こうとするが、すかさず槍で牽制する 

 

しかし大将はその槍を見切ったと言わんばかりに懐に飛び込んで来て、私の手から槍を取り上げてそのまま足を払われた

 

視界がゆっくりと落下していく。受け身を取ろうと地面に手を伸ばすが、その腕すらも大将に掴まれ、今度は視界が回った

 

訳が分からずにそのまま地面へと倒れる私。そうして何故愛宕さんに土が付いていたかの意味が理解出来た

 

私は大将に転ばされたのだ。手首を握られている所から考えるに、何らかの技をかけられたのだと推測する

 

 

大将「平常時ならここだって通してやった。だが今はちょっと事情が違う」

 

 

起き上がろうと空いた腕に力を入れるが上から大将が足で踏んで来た。これには流石に腹が立って艤装を出して跳ねのけようとするが、何故か展開がされない

 

大将の足が離れ、混乱した頭を無理矢理落ち着かせながら私も立ち上がる。どうしてという疑問を投げかけたかったが、ようやく周りにいる艦娘達の存在に合点がいった

 

全員、艤装を展開していない。艤装を展開した状態の方が普段よりパワーが出て警護という意味ではこれ以上ない程に頼りある存在へとなれる筈だが、誰一人としてそれを行っていなかった

 

 

大将「不思議か?正直俺も驚いてるんだ。まさかアイツがこんな隠し玉を用意してたなんて思わなかった」

 

龍田「…何で?」

 

大将「さぁな。ただ艤装展開出来ないのはここの付近だけだ。離れればちゃんと艤装は展開出来るから安心しろ」

 

龍田「それは安心しました~…なんて、言うと思う?」

 

 

思わず怒りが漏れた。怒りの理由は艤装が出せない事ではない。何故ここまでするのかという解せない疑問からの怒りだった

 

 

龍田「言いなさい。貴方は一体何の目的でこんな事してるの?」

 

大将「上からの命令だ」

 

龍田「へぇ?そうやって武道館に近付かせない事が貴方の受けた指令ってわけ?たかがその為だけに?」

 

大将「そうだ。今回の作戦には膨大な時間を掛けて行われている。たかが武道館に近付けさせないという事だけに思えるかも知れんが、だからこそ今ここを通す訳には行かないんだ」

 

龍田「……」

 

 

…何故、この人はここまでスラスラと今後の事について話す?

 

疑問だった。愛宕さんと電ちゃんは例え何があろうと提督の身に危機が迫っているなら、危険を顧みず突っ込んで行く筈。それをたかが大将に止められただけで諦める様な二人ではない筈だ

 

もっと別の誰か。それこそこの二人が思わず従ってしまう程の人物とすれば…

 

 

元帥「随分な態度だな」

 

龍田「元帥…」

 

大和(元帥)「天龍さん。提督が大切なのは分かりますが、駄目なモノは駄目ですよ。龍田さんも変に打算を考えて行動はしない事です」

 

天龍「す、すいませんでした…」

 

 

元帥の後ろから天龍ちゃんを抱きかかえた大和さんもやってきた。お姫様抱っこされながらやってくる天龍ちゃんは顔を赤らめていたが、そこから離れようとしない。離れたくてもしっかり抱きしめられてて離れられないみたいだった

 

元帥の手には先程屋根に登った筈の頭の輪っかが持たれており、小さな刃を出して回転していた艤装は大将の手によりあっさりと止められてしまった

 

 

元帥「ウチの龍田も良くこれを利用して壁に穴なんかを開けててなぁ…おかげでこれにとお◯ぬけフープなんて名前が付いたんだ」

 

龍田「…提督だって知らないと思っていた機能なのに」

 

元帥「残念ながら既に同じ事を考えてた奴がいたんだよ。本来は深海棲艦のすりおろしに使うとか言ってて引いた記憶があるから良く知っている」

 

 

無駄話をしながら何故元帥がここにいるのかを考えていた。だが思い出すのは決まって大将が先程までに話していた内容だった

 

大将が話していた今までの内容は嘘だと断定していた。だが元帥の登場により、それは一気に現実味を感じさせた

 

ここから動こうにも元帥の側にいる大和がそれを許さない。優しい瞳でコチラを見てはいるが、瞳の奥では何を考えているのかを感じ取れなかった

 

どうやら…今回だけは好き勝手に解決とはいかなさそうだ

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