この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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自分の周りで普段と違う事が起きすぎて猛烈に嫌な予感がするので投稿します。地震で死ぬことが無かったらまた三週間後に投稿しますので待っててください


成功を知らない人間

息が切れる。ストレスで足に力が入りづらい。頭も詰まって腕の痛みはとうに分からなくなってきている

 

どう考えても限界だ。これ以上は辛い事でしかない。その証拠に心の奥底で『逃げたい』とだらけきった自分が顔を出している

 

もう嫌だ。ここまで準備して何故上手くいかない。まだ備えはあるがコイツにそれが効くのか?本当に自分は勝てるのか?

 

疑いだけが自分の中に積もり積もって吐き気がする。それが痛みを更に明確化させ、怪我を認知しない様に頭を空っぽにしようとしたが既に遅く、痛みは最早止まる所を知らない

 

だが痛みで更なる決意を抱いていくのを感じていた。痛みだけが今の自分を奮い立たせる唯一の武器であり命綱でもあった

 

ここまでボコボコにしてきたコイツだけは絶対に許さない。例え腕だろうが足だろうが心臓だろうが、全部を犠牲にしたとしてもコイツには絶対に負けてやらない

 

 

「……」

 

長門「…どうした?もう降参か?」

 

「…お前、薬が本格的に効いてきたのか?」

 

長門「はっ。どうしてそう思う?」

 

「催促してるだろ。降参かって」

 

「それはつまり自分がキツイからそろそろ辞めたいですって言ってる様なもんだ。俺も良く逃げに使うから知ってる」

 

長門「……」

 

「けど…正直な話そうしたいよ。まさか自分がここまで情けない奴だとは思わなくてな」

 

長門「ならどうする?二人仲良く降参しあうか?」

 

「絶対に断る」

 

長門「私もだ」

 

 

服の中から初めて鎮守府に来た時に使用したスプレーを取り出し、それを口に当てて噴射する

 

忘れている人しかいないと思うので簡単に解説しておく。艦娘が吸うと極度の脱力感と甘える効果が存在するのだが、人間である自分が吸うとテンションがおかしくなるとの効果があるのだ

 

これを初めて使用した時、誤ってこれを吸ってしまいテンションがおかしくなってしまったのだが、これの理由が脳の中で強い快楽物質のような物が出てきたのだと推測する

 

ならばこれを利用しない手は無いではないか。あるモノを全て使わなければ、この喧嘩に勝つ事は出来ないだろう

 

息を吸って思い切りガスを吸い込む。すると思考が熱を持ったみたいに激しく動き始めた

 

思考が一気にクリアになっていく。考え出した物事は留まることを知らずに暴走を始め、様々な自分の中に存在する意識が表面へと出始める

 

 

「…ははっ」

 

「ふっ、ははっ。あハハはッ」

 

 

笑みが溢れる。それが止まらなくなり、小さく笑っていた筈の自分の声は、やがて武道館に響こうとする程に大きくなっていった

 

笑顔とは本来攻撃的な意思の表れである。獣が相手を威嚇する時に牙を見せるのが理由だと言われており、それが長門に対する感情である事は明白であった

 

 

長門「…それも準備か?」

 

「ふ、ふふっ。うんっ。そうだよ!」

 

 

声が高くなる。気持ちも高鳴っていき、楽しい気持ちを抑えることが出来なくなってしまい、まるで仲の良い友達と子供時代に帰ったみたいなテンションで答えてしまった

 

思考はただ気持ちを代弁するだけの存在となっていき、段々と意識との一致をし始める。これは昔から良く経験していたゾーンというヤツだろう

 

ただただ不気味な顔をしつつも構えを解かない長門。流石にこれ以上引き延ばすのはめんどくさい事になりそうだと思ったので、興奮に包まれた状態のまま長門に接近する

 

構えるなんて事はせず、腕をぶらりと垂らしながらしなる鞭の様にプラプラと勢いに揺られ、それに力を入れる何て事はせずに、勢いのままに長門にぶつけた

 

当然見切ったと言わんばかりに放った腕を掴む長門。だが掴んだ長門の手からは出血が起こっていた

 

痛みに顔を歪める長門。その隙を狙って反対の腕で再び長門の頭を狙う

 

長門はそれを受け止める事はせず、頭を後方に逸らす事で鼻を掠っての回避がされた

 

だがその鼻からは横一線に切り傷が出来ており、そこから軽く血が流れ出ていた

 

 

長門「くっ、ナイフか…」

 

「ピンポーン!ねぇねぇ!痛い!?」

 

長門「…そうだな。お前のそのふざけた態度を見ていたらイライラで痛みなんか吹っ飛んだよ」

 

「チェッ。つまんないの」

 

 

思考が段々と子供の様に簡単な物事にしか考えられなくなっていく。それはある意味脳の効率化だと思う

 

少しの思考で何がしたいのかを鮮明に思い浮かぶ。考えが一瞬でまとまり、再び長門に攻撃を開始する

 

前蹴りで長門の腹を狙う。これを後ろに飛んで回避した長門だったが、自分の放った蹴り足からナイフが射出される

 

それは一直線に長門の腹へと深々と突き刺さり、再び苦痛に顔を歪めたと思えばそのまま膝をついて倒れてしまった

 

 

「ん?これで終わり?」

 

 

長門に近付いて勝負の決着を確かめようと手を伸ばす。しかしその腕を倒れていた筈の長門が掴み、そのまま壁へと体を投げられた

 

大きな衝撃が体を襲い、重力に従ってそのまま床へと倒れ伏す。すぐさま長門が馬乗りになり、何度も自分の顔を殴打する

 

歯は豪快な音を立てて地面に飛び散り、鼻は完全に潰れて匂いが識別出来る状態ではない。目も開く力が無いのか半分閉じてしまい、目に映る景色は薄い赤色になっていた

 

完全に意識が途絶える寸前で長門の手が止まる。息もたえだえではあったが、その顔は間違いなく勝利を確信していた

 

ゆっくりと自分から離れてその場でしばらく立っていたかと思えば、身を震わせながら体を丸ませ、喜びが爆発したのを周りに知らせる様に大きく片腕を天に向かって突き上げていた

 

 

長門「…勝った」

 

長門「勝った!勝った!勝った!!私が勝った!!!」

 

長門「やはり私が正しかった!人間が艦娘に勝てる訳がない!そうは思わないか!?皆!」

 

長門「っと、そう言えばギャラリーはいないんだったな。ははっ」ポリポリ

 

「大丈夫だ。俺が聞いてるよ」パチパチ

 

 

驚いた様子でこちらを見る長門。何故と言いたげな表情をして固まっており、隙だらけの長門に向かって服の裾からナイフを射出。本人は呆気に取られた様子のまま躱す事無く体で受けた

 

ナイフは肩にヒットし、それが致命打となったのか或いは限界が来たのかは不明だが、倒れる最後の瞬間までずっと疑問の顔で倒れ伏した

 

 

「惜しかったな。後一発でも殴ってるか倒れた後も油断しなければ確実に勝ててたのに」

 

長門「な、ぜ…?」

 

「歯に高速修復材を仕込んでおいた。極少量なら体が変化すること無く、傷だけを回復させる事が出来るからな」

 

長門「キサマ…卑怯だぞ…!回復なんか…!」

 

 

とても悔しそうな声で呻く長門。それを聞いても全く同情は出来なかった

 

 

「…なら回復させてやるよ。ホレ」

 

 

服のポケットから高速修復材が入ったバケツを取り出す。それを長門にぶっかけ、体を完全に修復させた

 

 

長門「なっ…」

 

「ほら、第2ラウンドだ」

 

 

体を修復させた事により、長門の体を蝕んでいた薬の効果は消え去った。その様子を確かめる様に手を握っては開いてを繰り返し行う長門の表情に笑みが浮かんだ

 

 

長門「後悔するなよっ!その慢心を思い知らせてやる!」

 

 

そう言って艤装を展開する長門。こうすれば少しは焦りの一つでも見せるだろうと思惑する長門の顔は、真顔のまま一切変わらないコチラを見てつまらなさそうな顔を浮かべた

 

砲撃を撃つ構えをし、こちらに全ての砲塔を向けて発射させようとした

 

 

長門「全主砲、斉射!」

 

 

撃てと言うまで残り何秒か?そんな事を気にしていると、再び川内が目の前に割り込んで来て、自分を庇う様に大きく手を広げて前に立つ

 

長門も驚きの表情を一瞬浮かべたが、すぐさま表情を戻して川内ごと自分を砲撃した

 

砲撃音が武道館に鳴り響く。先程まで静かだった外は悲鳴の様な声が鳴り響いた

 

ドアが蹴破られ、中にぞろぞろと人が侵入してくる。中の光景は凄惨な物になっていると確信を得た感情で踏み入った武道館内では

 

 

川内「あっつ!!!」

 

 

体の至る所にポン菓子を付けた川内がいた

 

 

 

_____________

 

 

 

「うん。美味しい」

 

 

川内の体に付いたポン菓子を毟って食べる。程よい甘さと米を思わせるほのかな香りが鼻に入ってきて、ここまで良い物が作れるのなら今後もおやつとして作っておきたいレベルだ

 

 

長門「な、な、な…!?」

 

長門「どっ、どうして!?どうして私の砲塔からポン菓子が…!?」

 

「ちょろっといじった」

 

長門「何てことしてくれたんだ貴様!」

 

 

母港の画面を表示させ、手際よく長門を選択して「ポン菓子主砲」という、どうしてこれが装備として登録されているか分からないのだが、とりあえず図鑑に登録されていたのと幾つか持っていたので装備させてみた。こんな艦これは嫌だ。なんてランキングがあれば間違いなく乗っているだろう

 

 

長門「くっ、クソッ!ふざけた事ばかりせずに戦ったらどうだ!?」

 

「んじゃあ別の主砲で撃てば良いんでねぇの?」

 

 

ハッとした表情をして単装砲を構える。それをこちらに向けて発射するが、飛び出したのはピンク色のネチャネチャした液体だったので目の前にいた川内を盾にして着弾を防ぐ

 

 

長門「またか!?」

 

川内「わっぷ!?な、なにこれ!?」

 

「聞くな。内緒だよ」

 

 

ちなみにこれも装備欄に存在している物であり、これ以外に納豆主砲と書かれた明らかにギャグだろと言いたくなるものだが、今長門が装備している「○○○○○単装砲」という装備も中々だと思う

 

 

「…川内、離れてろ」

 

川内「でもっ!」

 

「そうか。なら寝てな」

 

 

上着の中に忍ばせていた愛用の銃を取り出し、ゼロ距離で川内の体に一発入れる

 

すると少しずつ川内の瞼が閉じていき、最後の最後まで自分を止めようとしたのか、自分の肩をしっかりと掴んだまま眠りへと落ちていった

 

そのまま川内を抱きかかえ、扉の所で見ているギャラリー達に川内を受け渡した。背後から何か沢山の言葉がほぼ同時に聞こえてくるのだが、自分は聖徳太子では無いので何のことか分からずにそのまま長門へと歩を進めた

 

長門の肩が震えている。散々馬鹿にしたので当然と言えばそうなのだろうが、後ろのギャラリーに見られたという羞恥的な意味も大きいだろう

 

 

長門「何故こんな事をする!?」

 

「勝つためだよ」

 

長門「私に勝ちたいからだと!?辱めたいだけの間違いだろう!」

 

「いいや。お前の心を完膚なきまでにボロボロにしてからへし折りたいだけだ。所詮アレもお前の心を痛めつけるだけの過程に過ぎん」

 

長門「どうしてそんな事をする必要がある!?そんな事をしてお前になんの得があると言うんだ!?」

 

「決まってんだろ?俺がスッキリする為だ」

 

長門「この…!クズ野郎が!」

 

 

長門が怒りのままに突っ込んでくる。先程までなら怒りの中に冷静さも感じられたが、今のコイツからは微塵も感じられなかった

 

動きは直線的。獣の様にただただ目標に向かって真っ直ぐ飛んでくる存在にしかならないコイツへの対処は簡単だった

 

長門の構えた手がこちらを掴もうと伸びてきたがそれを横に交わしつつ、腕を取った後に足で長門を転ばせ、体重が前のめりに倒れてきた瞬間を狙って勢い良く地面に叩きつけた

 

これが大将に教えられた唯一の技術。メタ〇ギアをしていた人なら知っている人も多いであろうCQCだ。まぁ数日で完璧にマスター出来る訳無かったので、超限定的な環境であるなら高確率で成功するのを目標に行っていた

 

環境の条件は主に二つ。狭い場所ではなく、地面が平らである事。もう一つは敵の状態にあり、こちらに向かって一直線に攻めてくる敵の存在。当然武器等の所持は無しという条件が絶対だが

 

 

長門「ぐっ、グソぉ…」

 

「負けだよ。お前の」

 

長門「…まだだ」

 

「…」

 

長門「まだ負けてない…まだ負けてない…!」

 

 

地面に倒れ伏したままそう呟き続ける長門。それを見て自分を鏡で見ている様な気持ちになっていると、妖精達がコチラに向かってダイブしてきた

 

 

妖精A「提督!長門が通信してる!」

 

「誰とだ?」

 

妖精A「五月雨と!内容を直接伝えるね!」

 

妖精B(長門)『五月雨!聞こえるか!?』

 

妖精C(五月雨)『えっ、あっ、はい!聞こえています!!』

 

長門『今は確か遠征中だったな!潮との二人きりで間違いないか!?』

 

五月雨『は、はい!そうです!』

 

長門『主砲だ!潮を沈まない程度に痛めつけろ!』

 

五月雨『…えっ?』

 

長門『どうした!やれないのか!?』

 

五月雨『どっ、どうしてそんな事をしなくてはならないんですか!?せめて理由を聞かせてください!』

 

長門『何でも良いだろう!?良いから早く潮を撃つんだ!終わり次第すぐさま連絡を寄越せ!』

 

五月雨『で、できっ』

長門『良いからやれ!これは命令だ!!』

 

五月雨『あ、う、うぅう…!』

 

 

妖精さん達が喋るのをやめ、それは二人の通信が終了した事を意味する

 

どうやらコイツは喧嘩で済ます気は無いらしい。本気で自分と戦いをしたいようだ

 

服のポケットからナイフを取り出し、それを手に持って長門に歩きながら接近する。すると片手を誰かに掴まれた

 

 

龍田「提督!それで何するつもり!?」

 

「長門にトドメだ。理由なんて明白だろ」

 

龍田「駄目に決まってるでしょ!?そこから先は完全に度を越えてるのよ!」

 

 

必死に涙目になりながらも訴えてくる龍田。それを見て長門はニヤリとしたまま顔をこちらに向け、五月雨からの連絡を待っているみたいだった

 

これ以上時間を与えては潮の身が危ない。急がなければならないのに、それを今の龍田に伝えても分かってくれるかは不明だ。事態は一刻を争うというのに

 

 

「最後だ。離せ」

 

龍田「お断りです!」

 

「そうか」

 

 

ナイフを振り上げ、刃先を下へと向ける。だがそれでも龍田の力は引くことを知らず、目もナイフを視界に入れている筈なのに依然とコチラを真っ直ぐに見つめていた

 

ナイフをそのまま振り下ろし、手を握っている龍田の手から手前側。つまりは自分の腕に向かって振り下ろした

 

ステーキ肉を切ったかの様な音が鳴り、骨が砕けるような音はしなかった。切れ味がどうにも良すぎて骨ごと切断したみたいだ

 

大量に出血する腕。血がホースから出る水の様にダラダラと垂れだし、血生臭くて気持ち悪くなる匂いが鼻を突く

 

 

「妖精さん。頼む」

 

 

若干グロッキーな顔をした妖精さんがその言葉に頷き、龍田を悪夢銃で撃ち抜いた

 

すぐさま龍田は眠りに落ちるが、倒れていく龍田を支えるのは天龍辺りにでも任せて自分は長門へと向かって走り出す

 

ニヤリと笑ったままの長門は笑みを崩さない。ナイフを長門の目の前に振り下ろし、畳の床に深々と突き刺さった

 

 

「今すぐやめさせろ。でないとこれでお前の首を切る」

 

長門「やってみろ。それでも決して喋ることは無いと思うぞ」

 

「…とことん落ちたか。クズが」

 

長門「さぁ、どうする?このまま首を切れば私は辞めろと五月雨に言うことも出来なくなる。更に言うなら五月雨以外にも止めることが出来なくなるな?」

 

「お前…今も誰かと通信してるってのか」

 

長門「艦娘を舐めてもらっては困る。元はと言えば私達は艦だぞ?一つの事しか出来ない訳ないだろう」

 

「このっ…!誰と通信してる!言え!」

 

長門「断る。こっちを尋問する前にお前の出血の方が早そうだがな」

 

「くっ…クソ野郎が…!」

 

 

拳を握りしめて床を力のままに叩く。ここまでの奴だとは正直想定していなかった

 

流石にお手上げだった。これではもうどうする事も出来ないじゃないか

 

コイツ(・・・)はもう救えない。救う価値すらない

 

 

「…はぁっ。もう最悪だ」

 

長門「どうした?ついに諦めたか?」

 

「ちげぇよ。お前をどうにかして更生させようと思ったが、それが無理だと分かっただけだ」

 

長門「…何を言っている?お前は仲間が私の命令一つで沈む事を分かってないのか?」

 

「分かってないのはお前だよ。アホ。もう一回通信を開いてみるんだな」

 

長門「何…?」

 

 

一度の瞬きをして何かに集中しだす長門。それを見ておそらく五月雨辺りと通信中なのだろうが、今は妖精さんが伝えてくれないので何を話しているか分からないのが残念だった

 

 

妖精C「提督さん、聞く?」

 

「お、頼む」

 

妖精C「ほいさっ!」

 

 

 

_____________

 

 

 

妖精A(潮)『ですから、五月雨ちゃんはそんな事しませんよ』

 

妖精B(長門)『なっ、何だと!?五月雨、キサマ裏切るのか!?』

 

妖精C(五月雨)『う、裏切ったんじゃありません!もうこれ以上従うのは嫌なだけです!』

 

妖精C(五月雨)『い、今までだってずっと怖かったんです!演習で相手になった時、ホントに何時か長門さんに沈められそうで…!そんな長門さんの機嫌を損ねるのが怖かった!だから従ってただけに過ぎません!』

 

妖精B(長門)『こ、このっ…!』

 

妖精A(潮)『…長門さん。ここまで言われているんです。いい加減に自覚を持ってはどうですか?』

 

妖精B(長門)『だ、黙れ!お前に何が分かる!!』

 

妖精A(潮)『分かりません。理解したくもありません。ただ今の貴女に感じるのは敵意です。それだけはハッキリと言えます』

 

妖精B(長門)『わ、私がどれだけ今まで努力してきたと思っている!?お前達の事を思って何時も出撃では皆の前に立って行動し、演習でも手を抜かずにしっかりと努力をしてきた!それなのに何故!?』

 

妖精A(潮)『…長門さん。貴方は演習で何を見てきたんですか?』

 

妖精B(長門)『黙れ!お前の「聞いてください!!」っ!』

 

妖精A(潮)『演習で対峙した相手の顔を見なかったんですか!?駆逐艦の皆が長門さんと演習と決まった時には怯えた表情を浮かべながら必死に死にたくないと逃げ回っていたのを知らないんですか!?』

 

妖精B(長門)『そ、それは…!避ける練習だと思って…!』

 

妖精A(潮)『そんな訳無いでしょう!?初めから戦意喪失してしまっているんです!それを貴方は避ける練習だと!?自分に都合の良い様に考えないで下さい!』

 

妖精C(五月雨)『…長門さんの事、初めて出会った時はカッコいい人だと思ってたんです。でも何時からか段々と人が変わっていったみたいに自分本位になってきて…それが嫌だったんですけど、これは私の自分勝手な考えだと思って口には出すことはしませんでした』

 

妖精C(五月雨)『でも…!それは間違いだったという事はハッキリと言えます!』

 

妖精C(五月雨)『長門さん。お願いですからもう関わらないで下さい。これ以上アナタの我儘に付き合うのは限界なんです』

 

妖精B(長門)『ま、待ってくれ!話しはまだ…!』

 

 

妖精A「通信…終了しました」

 

「…ご苦労だった」

 

長門「そんな…!そんな…!!」

 

 

拳を握りしめて床を悔しそうに何度も叩く長門。あまりの醜態に哀れみすら浮かぶが、自分も同じ事を言われたら長門と同じ様な事をしているだろう

 

長門は自分にとって写し鏡の様な存在だ。自分一人の世界で生きていき、周りの存在は自分を成長させる為の存在でしかない。あまりに傲慢で我儘な考えで生きてきた

 

自分は幸運だった。それを幼い子供の頃に矯正させられたのだから。代償は決して軽くは無かったものの、少なくとも長門の様に一線を越えてしまう事は無かったのだから

 

そう考えればアイツは不幸だと思う。もし長門がもう少し優秀な奴であればあんな事を言われることは決して無かっただろう。誰もが長門を羨望の目で見つめ、我が道こそが王道と言わんばかりに皆がその背中についていったはずだ

 

だがそれは叶わなかった。結果的に長門は全てを失ったと言っても良い程に、最早取り返しがつかない所まで来てしまったのだから

 

 

「…これで終わりか」

 

妖精A「提督。早く治療しないと」

 

「あぁ。すまないな」

 

長門「…お前のせいで」

 

 

長門が呟く様に言葉を出す。その言葉が耳に入ったのは自分と側にいる妖精だけだった

 

妖精さん達に今すぐ離れる様にジェスチャーをする。まだコイツは何かをしでかすかも知れないからだ

 

 

長門「お前の…!お前の存在さえなければっ!私はまだやれたのに!!私は皆の目標となって努力出来たのに!!それをお前がブチ壊してくれたんだ!!」

 

 

酷い言い草だ。その努力の犠牲となってるのは周りの皆なのだが、コイツの場合はその度を超えているので同情はしなかった

 

 

「じゃあやめれば?多分言っても無駄だと思うけど」

 

長門「黙れ!」

 

 

長門がこちらに向かって走ってくる。先程までとは打って変わって明らかに速く、なすすべ無く胸ぐらを掴まれる

 

長門の勢いは止まらない。そのまま後方でギャラリーとなっている艦娘達の方へと方向を変えて走り出した

 

まさかと思い、苦しいながらも声を無理矢理絞り出す。これが最後の力だと思い、全力で大声を出した

 

 

「大和!俺ごと長門を撃て!」

 

大和(元帥)「くっ…!」

 

 

その声に素早く反応して艤装を展開する大和。しかし構えるポーズこそしたが、そこから砲撃を撃つことはしなかった

 

視界に皆の姿が目に入る。陸奥が何とか長門を止めようと前に立ちはだかったが、片腕で長門に突き飛ばされた

 

やがて艦娘達のいる所へと足を踏み入れ、その中から誰かを探す様に一瞬だけ首を振ると、見つけたと言わんばかりにニヤリと顔を変えてそちらへと走り出す

 

自分の視界に映ったのは電が立っている所だった。手で避けるようにジェスチャーしようとした時、電を突き飛ばして雷が身代わりになるかの様に前へと立ち塞がった

 

長門は自分を捕らえていないもう片方の手で雷を捕まえ、そのまま何処かへ向かって走り出す。後ろで皆が追いかけてくるも、長門の速さに追いついてこれていなかった

 

視線だけを雷の方に動かしてどうしてあんな事をしたのか目で訴える。口を抑えられながらもこちらを見る目は恐怖に染まっていた

 

しかし自分に対しての恐怖ではない。覚悟を決めた様に思える目からは安堵の気持ちも汲み取れた事から、恐らく雷の過去による恐怖心なのだと推測する

 

過去に雷は電を助けられなかった。恐らくそれが理由で電を庇ったのだろう。こんな事をさせてしまう前にこちらで決着をつけておくべきだったと後悔の念に駆られる

 

雷からしたらこれで死んでも良いと思ってるんだろうがコチラは違う。今回の件で雷は後悔を乗り越えた。ならば次はご褒美くらい無いと次への挑戦意欲ってのも湧かないよな

 

長門の息が次第に興奮したものへと変わっていき、それが目的地の到着が近い事を知らせていた

 

長門の進路へと視線を動かすと目先には工廠の閉じた扉が存在していたが、長門が蹴り飛ばして開いたことにより、扉はただの鉄くずと化して風通りの良い部屋へと変わってしまった

 

 

長門「く、くくっ。こうなったら貴様らも道連れだ。一緒に地獄まで付き合ってもらうぞ」

 

「断る。死ぬなら一人で逝け」

 

長門「ふんっ。その余裕面も何時まで続くか見ものだな」

 

 

そういって長門は自分を床へ放り投げ、雷を掴んだまま自分の両膝を勢いよく踏みつけていった

 

まるで丸く固い木を折った様な音が鳴る。折れた箇所は肌色から赤色へと移り変わり、大量の出血も起こしているのが目に見えて分かる物へと変化していった

 

あまりの痛みに声が出る。だが声らしい声は出ず、自分にしか聞こえていない様な小さな声で痛みを只管に訴えていた

 

雷の目が見開く。拘束から逃れようと暴れるが、長門が地面に雷を叩きつけ、痛みで無理矢理黙らせる

 

 

長門「そんな目をするな。次暴れたらすぐさまコイツにぶち込むぞ?」ゴンゴン

 

 

そういって長門が叩くのは解体用の装置だった。それを見て何をすべきなのか理解した雷は再びジタバタと体を動かし始め、何とか逃れようと必死に動いていた

 

マズイ。流石にこれ以上は雷に深刻なトラウマを与えかねない。それを直感的に理解するも、痛みですぐさま思考が流されていく

 

しかも痛みで声が出せない。だが高速修復材はアレっきりですぐさま回復出来る手段がない

 

脳内も痛みで沸騰したみたいに熱くて冷静じゃない。痛みのシグナルが足に集中し、それがメンタルと思考を鈍らせていた

 

だがそれを理解していた。だからこそ自分は一つの決断を下す事にした

 

頭を地面に叩きつけ、固い工廠の床に少しの赤い液体が飛び散る。それを二度三度と繰り返し、頭から流れる血が温度を逃がし、冷たくなっていく体が再び冷静さを取り戻すきっかけとなった

 

 

「雷っ!きけっ!」

 

 

雷と長門がコチラを向く。雷は怯えた表情で、長門は余裕の表情でこちらを見ていた

 

 

長門「なんだ。最後に愛の告白でもする気か?」

 

「絶対に大丈夫だ!お前は絶対に大丈夫だ!」

 

「俺が言っても信じられないかも知れない!だが今だけは信じてくれ!頼む!!」

 

 

必死の訴え。それを見て大笑いする長門と驚いた様子でこちらを見つめる雷

 

雷のガタガタと震える腕がビクッと一瞬だけ大きく震えた。流石に無理かと思えたが、雷は暴れるのをやめ、まるで心を落ち着かせるかのように手を閉じては開くのを繰り返し行っていた

 

 

長門「はぁ…。提督が馬鹿なら艦娘もだな。あんな言葉を信じてるのか?」

 

長門「今から現実を見せてやる。それを見て後悔するんだな」

 

 

長門が解体装置の扉を開いて雷を放り込む。中に入っても雷は目を閉じて深呼吸を繰り返しており、ひたすらに気持ちを落ち着かせていた

 

工廠の外から騒ぎがこちらへと近づいてくる。それを見て不敵に微笑み、丁度良いとボソリと呟く長門に悪意が宿ったのをハッキリと感じ取った

 

工廠へと雪崩れ込んでくる人々。装置の前へ立つ長門を見て一瞬で静寂が訪れた

 

 

長門「良い感じにギャラリーも集まって来たな。最後には相応しいショーになりそうだ」

 

大将「長門!今すぐそこから離れろ!」

 

長門「断るッ!最早誰の命令も聞きたくないのでな!!」

 

 

解体用のスイッチが勢い良く押される。それを見て絶望に包まれる大将達と、怒りに燃えている天龍達。だがそれよりも際立って目立っていたのが解体装置の中にいた雷の笑顔だった

 

長門が解体装置を背にして皆の方を振り向いて大笑いを始める。内容は色々喋っていたが、自分には全く聞き取れなかったものの、こちらを時々振り向いてニヤニヤとした笑みを浮かべる辺り、自分の悪口でも言っているのだろう

 

解体を開始する機械の駆動音が鳴り響く。装置の中は深い青の透き通っている液体で満ちていき、一昔前の洗濯機の様にガタガタと揺れ始めると、解体が終了したのかプシューという音を鳴らした

 

それを聞いて驚きを浮かべる2人の提督とウチの艦娘達。それを見て先程まで愉悦で笑っていた長門も疑問を思ったのか背後にある解体装置へと振り向いた

 

自動的にドアが開く。装置の中は資材ではなく、ゆっくりと外へ歩き出す雷の姿だった

 

 

雷「…生きてる」

 

長門「なっ…!?何故ッ!?」

 

雷「司令官!私生きてる!生きてるわ!」

 

大将「総員!長門を取り押さえろ!」

 

 

その号令を聞いて皆が一斉に長門へと飛び掛かる。何とか抵抗しようと艤装を展開した長門だったが、大将の部下である大和が放った正拳突きによって一撃で沈んだ長門を見てやっと終わったのだと理解する

 

それと同時に自分の意識もブツリと途切れ、冷たくなっていく体と勝手に閉じていく目が命の終わりと死を迎えているのを感じていた

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