この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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友情を努力せよ

「これからだが、初めの数週間はル級とヲ級には鎮守府に慣れてもらう為に出撃と演習をメインに行ってもらう。資材は今まで遠征で頑張ってくれた皆と二人のおかげで潤沢にあるから消費はあまり気にしないでくれ」

 

響「質問いいかい?」

 

「はい響さん」

 

響「二人のおかげっていうのはどういう事だい?二人は空母と戦艦だから資材を集められるようには思えないけど」

 

 

まるで諌めるかの様な顔をしてコチラを見る響。おそらく深海棲艦がここまでするのには裏があると思っての事だろうが、こればっかりはなんとも言えない所であった。だって分かってもどうするかなんて提督初めて一ヶ月の人間にそんなの思いつけないよ

 

 

「あぁ。ちょっと二人には近海に住んでる深海棲艦達を脅して資材を集めさせたんだ。だから資材の消費は移動のみ。しかも近海だから消費はほぼないんだよ」

 

響「…なんというか、ちょっと深海棲艦達に同情しかけたよ」

 

「じゃあ次の質問ある人は?」

 

山風「じゃあ…私、良い?」

 

「ほい山風」

 

山風「その…えっと…」

 

ル級「何か言い辛い事でも?」

 

山風「その、ル級…さんが、金剛って艦娘に似てる気がして…」

 

ル級「あー、それはですね~…」

 

山風「それは?」

 

ル級「…提督ぅ」

 

 

ウルウルとした目でコチラを見てくるル級。助けを求めてはいるが、正直自分はそこまで恥ずかしいと思わないのでどうでも良い。まぁ自分がル級ならその気持ちも分からないでもないが

 

 

「このル級は自分が特別だって事が分かるキャラが欲しいって俺に相談してきてな。だから金剛の事を色々教えたからそんな喋り方になってるんだよ」

 

山風「な、なるほど…?」

 

「だって良く考えてみろよ。何時も敵として出会ってるル級って無口だろ?だからコイツは特別だって証明としてキャラが欲しかったんだよ」

 

曙「なるほどから一気に転んだ気がするわ…」

 

 

やはり厳しいか。何とかして理解を得られないかと考えていると、助け船を出そうと言わんばかりのニッコリ顔を浮かべて二人が手を上げてやってきた

 

 

時雨「僕は良いと思うな。だって何も喋られないんだったらコミュニケーションだって取れないしね」

 

愛宕「私も賛成。それにようやく戦艦と空母が来たと考えればかなり頼もしいと思わない?」

 

川内「…まぁ、確かにね。これから先を目指すなら戦力は欲しい」

 

夕立「それに今の所がかなりきついっぽい。寧ろ今までこのメンバーで進めてこれた事がおかしいって言えちゃうし」

 

 

ちなみに現在進めている所は南西諸島海域にある沖ノ島海域である。未だに突破出来ない理由としては完全な火力不足であり、愛宕の火力では戦艦の装甲をぶち抜けないのである。それならもっと早い所で詰まるだろってツッコミをする提督達はアーケードを是非してほしい。平均レベル20で戦艦無しでも意外といけるんだ。後半戦術的勝利以外した記憶無いけど

 

 

「今までが正直おかしかったんだよ。ここまで一人の轟沈者無く来れたのは奇跡だろうな」

 

天龍「案外無駄じゃなかったんだな。今までやってきた事って」

 

「ちょい待て。まさか今までの事無駄だと思ってやってきたのかよ」

 

天龍「当たり前だろ。ゲームで相手の動きを予想とか立ち回りの勉強とか言われてやってきたんだ。それがまさかここまで効果出すとは思わねぇよ」

 

川内「私は結構目に見えて成長出来たけどね~」

 

「……いや。お前だけは割とマジで人外レベルで成長してるよ」

 

ヲ級「ル級さん、ゲームって鬼ごっことかの遊びの事ですか?」

 

ル級「えっ、知らないんですか?」

 

ヲ級「はい。お恥ずかしながら…」

 

島風「なら私が教えてあげる!だから提督!」

 

「はいはい。今日の夕方位になったら機会作ってやるから。それまではちゃんと任務を遂行するんだぞ」

 

島風「はーい!」

 

「ちょっと脱線したが、山風は聞きたいこと全部か?」

 

山風「あ、うん。大丈夫」

 

「おし。他にはないか?」

 

夕立「質問っぽい!ヲ級は何で料理が得意なの?」

 

ヲ級「私の趣味がお料理なんです。おかげで海鮮を皆が獲ってきては料理の繰り返しで…」

 

夕立「…深海棲艦もご飯って食べるんだ」

 

「他には…無さそうだな。じゃあ解散として、皆はそれぞれのやる事に取り掛かってくれ」

 

艦娘達「はいっ!」

 

「ル級とヲ級は演習場に集まってくれ。そこで二人の動きを確認しておきたい」

 

ヲ級「分かりました」

 

ル級「OKデース!」

 

「では解散!」

 

 

その一言を合図に皆が別れて行動を始める。ようやく鎮守府らしい事が出来ると嬉しい反面、今後に何が待ち構えているか分からないという不安もあるが、そこは未来の自分と皆に任せてみるか

 

 

_____________

 

 

大淀「演習開始」

 

ル級「皆さん、着いてきてくださいネー!」

 

雷「…旗艦を任せて良かったのかしら?」

 

曙「気持ちは分からないでもないけど、クソ提督の選んだ事なんだから仕方ないじゃない」

 

雷「…司令官、今度は何をしようとしてるのかしらね」

 

 

ヲ級「索敵いきます」

 

川内「発見次第すぐに報告して。夕立は魚雷の準備を」

 

夕立「了解っぽい!」

 

川内「相手は戦艦だよ。ヲ級の腕が頼りだからね」

 

ヲ級「はい。期待に応えられるよう頑張りますね♪」

 

 

大淀「う〜ん…どうにもル級さんの方は雰囲気が良くないですね…」

 

「逆にヲ級組は中々だな。こればっかりはそれぞれの性格が影響してるのが理由だろう」

 

大淀「分かっててこの組み合わせを?」

 

「あぁ。確かに演習ではあるが、あくまで今回は親睦を深める為のモノとして行っているからな。二つのチームに差をつけたのも、信頼がどういった効果を生み出すか見る為のものでもある」

 

大淀「あえて悪い方を作るって…それじゃ実験みたいじゃないですか」

 

 

言葉に怒気を感じるが、正直自分も悪いと思っている。親睦を深める。なんて言いながら実際は実験の様なものだ。下手をしたら今回の演習でさらなる亀裂を産んでしまう可能性がある

 

「〜かもしれない」を出来るだけ考えなければならない。だからこそ、今回の様に予想が出来た事を回避しなかったから大淀は怒っているのだろう

 

 

「悪いがその通り。これは実験だ」

 

大淀「…提督ならそう言うと思ってましたよ」

 

「……」

 

大淀「深海棲艦と艦娘が本当に手を組んで出来るか見てみたかったんですよね?あえて仲の良し悪しで分けたのも、危機的状況になった時にどういった行動をするか見る為でしょう?」

 

「…大淀に隠し事は出来ないな」

 

大淀「おそらく雷ちゃん辺りはそこに気付くと思うので、その時はちゃんとフォローして下さいね」

 

「あぁ。ちゃんと責任は取るよ」

 

大淀「それと口調」

 

 

そう言って人差し指を突き出して口に当ててくる大淀。びっくりして固まっていると、そっと指を離して自分の唇に当てた

 

 

大淀「その口調は似合ってません。提督はまだ子供なんですから、無理してしっかりしなくて良いですよ」

 

「…僕もう19なんだがなぁ」

 

大淀「頭でも撫でましょうか?」

 

生まれた(建造)年齢で言ったらそっちは幼児くらいかな」

 

大淀「…意地悪ですね」

 

「大丈夫だよ。自分は皆と比べて強くないし、弱った時はちゃんと言うからさ」

 

大淀「…分かりました」

 

「ほら、場面が動くぞ。見逃すなよ」

 

 

ル級達が迫りくる艦載機を次々と撃墜していく最中、艦載機の一つが対空射撃を潜り抜けて雷の元へと飛来する

 

曙とル級がカバーに入ろうにも、雷と艦載機が2人からすると横一列(T字不利)に並んでおり、砲撃で狙うには難しすぎた

 

雷は回避行動を取ろうと構えるが、爆撃機は勢いを落とす事無く雷へと向かって突撃し、不味いと思った雷の顔がみるみる青くなるが、それとは裏腹に爆撃機は頭スレスレの所を飛んでいた

 

爆撃が来なかったのは何かの狙いか。雷の思考にその考えがよぎると同時に艦載機が一斉に雷へと向かって降下を始め、一部の爆撃機と共に雷へ攻撃を行おうと狙いを定めていた

 

しかしそこにル級が割り込み、そのまま飛来してきた艦載機に背を向け、雷を抱きしめて庇っていた

 

大群ともいえる艦載機はそのままル級の背中に何度も攻撃の雨を落とし、やがてその場所にはペイントに塗れたル級がいた。アレでは大破判定だろう

 

 

大淀『ル級、大破判定。轟沈には至らず戦闘続行は可能』

 

 

ル級「ペイントは…付いてないですね」パッ

 

雷「あ…」

 

ル級「さて、ここから反撃しますよ。準備はイイですか?」

 

曙「出来るわけ無いでしょ!火力要員の貴方が大破しちゃったら私達ほぼ勝ち目ゼロよ!?」

 

ル級「あ、アハハ…まぁ何とかなりますって」

 

曙「あのね…!」

 

雷「あ、あの…えっと…」オロオロ

 

曙「ありがとうなんて言う必要無いわよ。アレはコイツ(ル級)が悪いんだから」

 

夕立「ねぇねぇ、私達の事忘れてない?」ガチャッ

 

 

砲門を構えながら突っ込んでくる夕立。位置的には曙の後ろから迫ってきており、スピードを緩める気配は無く自爆でもするのではないかと言う勢いだ

 

 

曙「忘れてるわけないでしょ」

 

 

そう言い返すと後ろ投げで手に持っていた魚雷を夕立に向かって放ると、それを捻って回避した夕立の顔に曙の回し蹴りがヒットする

 

水面を水切りしたかのようにバチャバチャとはねながら飛んでいく夕立。海面に手をつけて何とか体勢を立て直した瞬間、狙いすましていた曙の砲撃が直撃した

 

 

大淀『夕立、中破判定』

 

曙「どう?これでも油断してるって言える?」

 

川内「当然」

 

曙「っ!?」

 

 

何時の間にか背後を取っていた川内。その距離は超近距離一歩手前だった

 

右手には砲門。左手には魚雷。どちらかを躱してももう片方の手にある武器でやられてしまう。だがこの距離ではそれすら難しいだろう

 

思わず目を瞑って衝撃に備える。だが2秒、3秒と経っても衝撃はこなかった

 

ゆっくりと薄目を開ける。すると視界に川内の姿は無く、自分と同じ駆逐艦の雷がそこに立っていた

 

 

雷「曙!大丈夫!?」

 

曙「…えぇ。情けない所見せちゃったわね」

 

川内「いったぁ〜…もう、無茶苦茶するなぁ」

 

雷「流石に距離が遠かったから、ル級に投げ飛ばして貰ったんだけど、ちゃんと成功したわね」

 

曙「…なんと言うか、ちょっとクソ提督に似てきたわね」

 

雷「そう?」

 

ル級『二人とも!上!』

 

曙・雷「「上?」」

 

 

2人同時に上を見ようと顔を上げる。すると視界に映ったのは沢山の艦載機がこちらに向かって降下を始めている景色だった

 

 

曙・雷「「あっ」」

 

 

直後に発生したのは2人を中心にペイントの爆発が起こる。川内と夕立は何時の間にか戦線を離脱しており、被害を受ける事は無かった

 

 

大淀『曙、雷、共に大破。轟沈判定』

 

ル級「…降参デース」白旗

 

大淀『旗艦ル級による降参が宣言されました。これにて演習は終了です』

 

 

_____________

 

 

「はーい。今から反省会を始めまーす」

 

ヲ級「提督。もうちょっとしっかりして下さい」

 

「うん。そうしたいのは山々なんだけどね」チラッ

 

雷(正座)「…」

 

曙(正座)「…」

 

ル級(正座)「…」

 

「…さて、どうして負けたか分かる?」

 

 

決して怒っている訳では無い。自分でもあの展開は予測出来た事ではあったので特にお咎めは無いのだが、最後のアレだけは悪かった

 

曙と雷は目の前の事に集中しすぎるあまりに周りの状況が見て取れなかった。ル級は大破していた為に行動がほぼ不可能だったのは仕方ないが、ル級もまた二人の安否を気にしすぎて空からやってくる艦載機に気付かなかったのも悪い

 

 

雷「…私がル級さん達と距離を取りすぎた事。まずはそれがきっかけでした」

 

ル級「私はそれを抱き寄せる様に庇い、雷に被害は無かったものの、肝心の私が大破となって火力が不足してしまいました。更に言うなら2人の方ばかり集中していて意識外のヲ級による艦載機に気づきませんでした」

 

曙「私はその2人をカバーしきれなかった。それに私も夕立への対処は良かったと自分でも思うけど、その後の川内さんに対する対処は甘かったと思うわ」

 

「うん。反省点は理解しているな。だけど一番悪いのは俺だ」

 

「まず俺の何処が駄目だったか。曙、分かるな?」

 

曙「そうね。一番悪いのはル級と一緒に組ませた事。正直この一言だけで説明は十分でしょ」

 

「そうだ。本来俺はお前等全員を見て采配をしなければならない。そこには当然お前等の体調や互いの信頼性を考慮しなければならなかった」

 

「それを分かって尚、俺はお前達とル級を組ませた。これは完全に俺のエゴってやつだ」

 

曙「…で、そこまで言って結局何が言いたいの?」

 

「これを聞いた上で質問したい。どう思った?」

 

曙「とりあえず一発殴らせなさい」

 

「暴力以外でお願いします」ドゲザッ

 

 

やべぇ。あのままだったらガチで曙にぶん殴られてた。多分勢いもつけた右ストレートが真っ直ぐ飛んで来てた

 

 

曙「はぁ…目的としては仲を深める為の演習って考えだったんでしょ?私達を組ませたのも、特段時間が掛かりそうだったから。とかかしら?」

 

「あぁ。概ねその通りだ。少しでも早く仲を深めるんだとしたら、一緒の活動をさせるって方法しか思いつかなくてな」

 

雷「…司令官。その、ホントに大丈夫なの?」

 

 

不安気で、何処か焦りにも似た表情をして問いかけてくる雷。まるで自分の感情をどう対処したら良いか分からず、表に出せそうな感情だけを見せているようだった

 

 

「何がだ?」

 

雷「…ル級からしたらいずれ同じ深海棲艦と戦う事になるんでしょ?そうなった時になったら大丈夫なのかなって、その、不安で…」

 

ル級「…心配しなくても大丈夫ですよ。雷」ナデナデ

 

 

優しく微笑んで雷を慰めるように頭を撫でるル級。それでもなお不安が消え去らない雷を見て、少し考え込んだ様子を見せるとパッと明るい表情を見せ始めた

 

 

ル級「ほら!雷達だって艦の時代に海外の艦と戦ったりしたでしょ?それとおんなじデース!」

 

雷「え、えぇ…」

 

「…まぁ、励ましとしてはアレだがそういう事だ。本人は気にしてないみたいだし、問題ないんじゃないか?」

 

雷「…でも、私達だってル級と同じ深海棲艦を何度も倒して沈めてきたわ。もしかしたらル級やヲ級さんみたいに戦わなくても良い深海棲艦だっていたんじゃないかって」

 

「いたんじゃないか?」

 

曙「!アンタねぇ!」

 

「だがそれが戦争だ。戦いというものだ」

 

「皆何かを思って生きている。生きるという事は常に生きている者達との戦いなんだ。そこに命が掛かっている。それが戦争だ」

 

「戦争が嫌なら逃げれば良い。かつて曙がしたようになりふり構わず逃げ出せば良い。だが当然それを良く思わない者もいる。そういった者達と戦い、それを勝ち抜けなければ、逃げた責任として命で払わされる。そうなりたくなければ勝つしか無いんだ」

 

「お前が沈めてきた奴等の中にそんな奴はいたのかも知れん。だがお前が沈めてきた奴に一人でも助けを求めてきた奴がいたか?」

 

「助けを欲しいのに求めなかった奴は負けて心が折れた奴か、そもそも助けを求めてすらいなかった奴だ。本当に助けを求めていたのなら、例え何があろうとチャンスがアレば掴み取ろうとしているだろう」

 

 

そう言って曙の方をチラッと見る。本人は少し複雑そうな顔をしていたが、言い返せないのか俯いて黙ったままだ

 

 

「…雷、それはお前が良く知っているはずだ」

 

雷「…うん」

 

ル級「…雷、曙。相手が私の同族だからといって、戦わなかったら沈んでしまいます。だから私はそうならない為にも貴方達を守る為に戦います。他でもない貴方達と一緒にいる為に。私を受け入れてくれたこの居場所を守る為に。それが私の戦う理由なんです」

 

ル級「だから躊躇わないで。そして無事でいてください。じゃないと…また同じ事をして助けようとしちゃうかも知れませんからネ?」

 

雷「…うん。分かったわ。ありがとう、ル級」

 

ル級「どういたしまして」

 

曙「…クソ提督」

 

「ん?」

 

曙「私達に…何をさせたいの?」

 

 

悩みのタネを解決出来たようだが、そこから産まれた新たな不安。そして焦りと反発するかの様な怒りと嫉妬にも近い感情が曙から疑問という言葉になって投げかけられた

 

 

「…もうちょっと具体的に頼む」

 

曙「私達の存在よ。ホントに必要なの?」

 

「当たり前だ」

 

曙「じゃあ聞くけど、どうしてこんな事をしたの?」

 

 

抑えきれない疑問を聞くように投げかけられた問い。その問いの表と裏にある真意、二つを合わせた望む答えを聞いているのだろうが、自分には全く理解出来なかった

 

曙は怒っている。それだけは明確に分かるが、それが何故なのか?そこを理解出来ないでいるのに、答えを導き出そうとしても不可能だろう

 

 

「…すまん。どういうことか全く分からん」

 

曙「まず私は艦娘として話してるの。そしてその艦娘が深海棲艦と一緒に演習させられて、それがどうして簡単に受け入れられると考えているのか聞いてるわけ」

 

 

…なるほど。彼女達は艦娘で、今の今まで深海棲艦と戦争をしてきたんだ。そんな彼女にとって、今の状況は突如停戦して手を繋いで歩こうとしている様なモノである。それは当然このような反応にもなるだろう

 

 

「あっ…そういえばフワッとしか説明してなかったな…」

 

曙「で、ハッキリ聞かせて貰うわよ。アンタは一体何の目的で、どうしてこんな事をさせたのか」

 

「だがあえて言おう。無理だ」

 

曙「はぁ?」

 

「言えない」

 

曙「私以外にも?」

 

「あぁ」

 

曙「…」

 

 

話せない。その一言に曙の思考は回転を起こす事も無く、たった一つの事実を突きつけた

 

これは恐らく何らかの機密事項に引っかかるもの。それを誰にも話せないということは、初期鑑である電や、鎮守府の重鎮である大淀にも知らされていないだろう

 

艦娘と深海棲艦の関係性を提督が知らない筈がない。その提督本人が話せないと言うのは、それ程までに最重要機密として保持されているものなのだろう。ならば曙がとるべき行動は決まっていた

 

 

曙「…分かったわ。ただそうなるなら私も私なりのやり方であの人達と接する。それは構わないわね?」

 

「構わん。だが人としての礼儀。そして敬意を忘れるな。相手は深海棲艦であるが、それでも今を生きている一人の人間だ。敵であれ味方であれ、常に礼儀を持って接するんだ」

 

「決して、踏み越えてはならないライン(・・・・・・・・・・・・・)を越えるなよ」

 

曙「はぁっ!?」

 

 

驚きと怒号が響く。その理由は先程自分の吐いた言葉を強く曙に押しつけた事が理由であろう

 

押しつけるしか方法が無かった。それしか方法が思いつかなかったとも言える

 

敵に敬意を持てと言っているのだ。今の自分は。今まで何年も敵対してきた相手に対して敬意を持てと、過去にあった事を全て無かった事にして前を向こうという、何とも救いがたいバカが言いそうなセリフを発言したんだ

 

そんな言葉を投げかけられた曙の顔はどうか。真っ赤である。怒気一点と言わんばかりの表情だ

 

 

曙「…っ!くっ…!!」

 

 

何度もグッと拳を振り上げそうになっては降ろしてを繰り返している。それだけ我慢ならないのだろう

 

ずっと戦っている彼女達に突然やり方を改めろと言われているのだ。しかもちょいとしか提督として活動していない人間に。戦争を知らないただの一般人である自分にだ

 

だがそんな事をされてもこちらの表情は一切変えない。体は目の前の行動が怖くて震えている気はするが、それでも顔だけは決して表情を崩さないようにキープしている

 

やがて曙の怒りが収まり始めたのか腕の振り上げは収まった。だが一度だけ大きく地団駄を踏み、足音からは怒気だけでなく、自己を否定されたかのような悲しさも感じ取れた

 

 

「…すまん」

 

曙「…っ!謝るなっ!アンタが私の提督なら謝ってんじゃないわよ!アンタがやれって言うならそれに従ってやるわよ!だから「それでもだ」…っ!」

 

「何年と続く戦争を俺の言葉一つで全てひっくり返す様な事を言っているんだ。それは言わば過去にお前達がやってきた事を無くす様な言葉なんだ。それに対してお前が怒らない方がおかしい」

 

「だがそれでも言おう。過去をただ知っているだけの、知ったかぶりの俺が過去を考えずに先だけを考えての発言として今一度言ってやる」

 

「敬意を持て。人としての礼儀を決して忘れるな」

 

曙「わっ…っ!……っかった…わよ」

 

「……」

 

 

今度は何も言わなかった。次に口から出る謝罪の言葉は提督としての言葉ではない。自分の個人的な謝罪の言葉として言ってしまいそうだったからだ

 

自分は提督だ。そして彼女達は艦娘だ。提督として、判断を下すときは常に自信を持っておかなければ彼女達が不安に思ってしまう。だから謝罪の言葉を飲み込んだ

 

曙はそれ以上何も言わなかった。言おうとさえしなかった。それを見た自分は曙の助けになれる様な言葉は無いか思考を動かすが、たとえ答えが出ても言う事は出来ない。してはいけないんだ

 

曙を困らせたくないという自分の気持ちと、提督としての自分が取るべき行動。二つの気持ちと行動が心に矛盾を生み、やがてそれは吐き出したくなる程の渦となった

 

人は矛盾を抱えて生きている。それは立場や人間としての心がそれを生み出してしまうのではないかと自分は考える

 

立場は責任を産み、責任は時が経つに連れて重さを増加させる。そしてその重さによって人間性がより成長する。その過程で生まれた過去と今の責任という重さの違い。この違いによって矛盾が生まれるのだろう

 

どちらも今を生きている者達にとって大切な物であり、それは絶対に無くしてはならないものであると思う。それが人を成長させる物だと思っているから

 

だから曙との決裂も駄目な物ではないと考えている。人間なのだから喧嘩するのは当然だ。意見が食い違うのも当然の事だ

 

本当に決裂してはいけないモノというのは人と人の縁だと思う。その縁が切れる事が決して無いように相手を重んじる。それさえ忘れなければ何時かはきっと触れ合う事だってあるだろうと自分は思っている

 

今回は押し付ける形になってしまったが、何時かは彼女も自分の理念を持ち、その上で今回の事を思い出してほしい。それがきっとこれからの彼女の為になると思うから

 

 

「話は終わりだ。各自自室に戻り、演習の疲れを癒して明日に備えろ」

 

四人「はっ!」

 

「あ、それとヲ級。島風が呼んでたからこれが終わったら向かってくれ。まぁ内容は遊びの約束だろうが」

 

ヲ級「それだと食事は…」

 

「飯は当番制で回す。今後もお前一人だと負担がヤバイし、更に人数が増える事を想定されているからな」流石に間宮とか来たらそっちに任せるけど

 

ヲ級「なるほど。そうなると今日のご飯はどなたが作られるのですか?」

 

「バイトの人達」

 

ヲ級「…話の流れからして艦娘の誰かだと思うじゃないですか」

 

「いやぁ…試しにお願いしたらまさかのOKくれちゃってさ。しかも宴会とかで慣れてるらしいから任せてほしいとの事で…」

 

ヲ級「とにかく、本日は島風ちゃんに付き合ってあげれば良い訳ですね?」

 

「あぁ。せっかくだから、お前もこの鎮守府に染まってもらうぞ」

 

ヲ級「ふふっ。楽しみですね」

 

ル級「…俺色に染めてやる的なやつですかね?」ヒソヒソ

 

雷「それが司令官よ」ヒソヒソ

 

曙「…私、たまにアイツが分からないわ」ヒソヒソ

 

「聞こえてるぞ」

 

 

ようやく基盤が揃いつつあるここだが、それでもギリギリ基盤と呼べるモノが出来た程度に過ぎない。ここをより良く出来るかは俺と艦娘達に掛かっているのだが、まずは今いる皆を大事に活動していこう。ただし時間は有限である事実を知らせている一枚の紙に視点を降ろしながら

 

 

書類『他鎮守府との合同演習について』

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