この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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見て見ぬ振りした己の限界

「響と曙がル級とヲ級に交代。二人は暇になったから外出でも…ということだな?」カリカリ

 

響 コクッ

 

曙「…クソ提督」

 

「なんだ?」

 

曙「響をいい加減に身体から離したら?」

 

 

先ほど時雨との対話(喧嘩)をしており、その出来事がきっかけで自分は死にかけた。それを間近で見た響が自分にピッタリとくっついてしまった

 

歩く時も体に巻きつけた腕を離さず、座っている今でさえも響は自分に抱きついている。しかも抱きついている場所は自分の膝の上だ

 

 

「そうは言うけどな?」ガシッ

 

響 ギューッ

 

「ていうことなんだ」背骨が折れそう

 

曙「はぁ…」

 

「響、心配してくれるのは有り難いがさっさと離せ。邪魔だ」

 

響 ピクッ

 

「ほら、はや『ビリッ』ビリ?」

 

 

提督 E.破れた軍服(背中が涼しい)

 

 

「何してんの!?」

 

響「あ、やぶれた…」

 

「おいおいマジかよ。これ怒られるよ。元帥からまたお小言言われちゃうよ」

 

響「…そんな事言わないで」

 

「いや、邪魔だよ。さっきから良い匂いが鼻の中に入ってきて気になってるんだよ。おかげで書類に集中出来ないよ?」

 

響「……//」テレテレ

 

「照れるのか…」

 

響「…邪魔?」

 

「これで邪魔じゃないって言える程、僕は優しくないぞ」

 

響「なんで?」ジワッ

 

「え、えぇ…」

 

響 グスッ

 

「…僕が悪いの?」

 

曙「…これに関しては悪くないと思うわ」

 

「だよねぇ?」

 

響「…3日」

 

「ん?」

 

響「3日間だけ側にいて」

 

「……」

 

響「お願い…」

 

「…分かったよ」

 

響「っ…!ホント!?」

 

「ただし3日だけだ。それ以上は駄目だからな」

 

響「うん!」

 

曙「良いの?他の皆から贔屓だって言われるわよ」

 

「目の前であんな事なったしなぁ。響からしたら相当なダメージだろうし、それはお前も同じだろ?」

 

曙「…悪い?」

 

「悪いなんて思ってない。寧ろ嬉しい位だ」

 

曙「…じゃあ、そっち行っていい?」

 

「おいで」ポンポン

 

 

響を片膝に座らせ、曙をもう片方の片膝に座れる様に差し出す。冗談めいての行動だったが、曙も差し出した膝に座りだした

 

木に捕まるコアラの様にキュッと軍服がシワになっており、僅かに息が荒い。ただその呼吸が不安ではなく別のモノな気がしたのは考えない事にした

 

その光景を書類仕事で一緒にいた大淀の目が少し怖くなりつつも、二人の隙間から書類をする。当然作業は遅れた

 

昼休憩まで二人は片時も体を離す事なく側にいて、大淀も誘って食堂へと向かおうとしたのだが…

 

 

頭 E.響(肩車)

体 E.軍服

背中 E.大淀(おんぶ)

腕 E.曙(ぶら下がり)

足 E.革靴

 

 

「どけえぇぇぇぇ!!!」

 

響「え?」

 

「え?じゃないだろ!!なんだお前ら!人の体にガッシリしがみついて離れないとか何なんだ!?俺は合体ロボットか!?」

 

曙「悪いの?」

 

「悪いわ!響を肩車しながら大淀をおんぶして、片腕には曙がぶら下がってんだぞ!どんな姿勢だよ!?文脈だけじゃ意味わかんねぇよ!」

 

「特に重いのは大淀!お前だ!曙も姿勢のせいでクソ重く感じるんだよ!」

 

大淀「私ですか?」

 

「当たり前だ!というか何でお前はひっついて来るんだよ!」

 

大淀「面白そうでしたので」

 

「面白くねぇよ!めちゃくちゃ辛いよ!キツキツだよ!」

 

曙「大淀さんは兎も角として、私が重いってのは気に入らないんだけど?」

 

「腕にぶら下がってるからだよ!もう大淀支えるのに使って良いかな!?片手で大淀おんぶしてるから落ちかけてるよ!」

 

大淀「でもなんだかんだ言って持ってくれてますよね」

 

「…良いトレーニングにはなるしな(役得だしな)

 

大淀「何か言いました?」

 

「何も?」

 

響「司令官。早くいこ?」

 

「元はといえば誰のせいだと…」いや、きっかけは自分か…

 

 

 

_____________

 

 

 

山風「…何してるの?」

 

「飯食べてる」

 

山風「響を膝に乗せながら?」

 

響「司令官。これ食べる?」

 

「好き嫌いは駄目だぞ」

 

響「ぶー…」

 

山風「大淀さんもどうして止めないの?」

 

大淀「事情を知ってるから言えないというか…出来ないっていうか…」

 

山風「…曙も?」

 

曙「右に同じく」

 

山風「…仲間外れ」

 

「山風も来るか?」

 

山風「暑苦しいからやだ」

 

「残念」

 

 

山風が向かいに座り、トレーに乗せた料理に手を付け始める。そのついでにあまり様子を見れていなかった山風の事も観察することにした

 

右手の動かし方。肩関節の可動域。顎の開き方。肘の曲げ具合。一つ一つの所作に横目で見ていると、ピタッと動きが泊まってジッとコチラを見つめてきた

 

何か言われると思ったのですぐさま食事の方に集中すると、山風の足の先端がちょこちょこと自分の足に触れてきた

 

顔を上げてそちらを見ると何故かその顔は悲しげだ。しかもそれは自分に向けて投げかけられている

 

思わず箸を止め、少し考えると周りからの視線もコチラを向いていた

 

何故かは分からないが、全員が一斉にコチラを見ては悲しげな顔を浮かべており、一瞬ホラーゲームの世界にでも迷い込んだのかと錯覚する。急に表情暗くなって注目されるとかホラーでしょ?

 

 

「あー…どうしたの皆?」

 

響「…司令官、大丈夫かい?」

 

「何が?」

 

響「涙、出てるよ」

 

 

指摘されて指で目元を触る。確かにそこには涙があったが、少し流れたにしてはあまりに量が多く、どちらかといえば号泣でもしたみたいに涙が出ている

 

鼻水や喉の詰まりなんかは感じられない。このことから感情によるものではなく、無意識に出てきたものだと理解した

 

 

「…なんだこれ」

 

曙「大丈夫…じゃないわね」

 

「大丈「提督」」

 

 

重い声のトーンで話す大淀。深刻さを知らせるかの様に呼ばれた言葉には、それだけで隠しきれない不安を感じさせた

 

 

大淀「お休みしませんか?」

 

「休みって…普段から土日は休んでるだろ」有り難いことに

 

大淀「でも提督はその土日だって艦娘達の遊びだったり、妖精さん達と過ごしてるじゃないですか。ハッキリ言って提督の休みかたとは合っていませんよね?」

 

「えぇ…なんで分かるん?こわ…」

 

響「司令官のゲームにパーティ用のゲームが極端に少なかったもんね。リモコンだって初めて見た時は一つしかなかったし」

 

山風「ゲームのフレンドも数える程。全員ログインは半年以上前」

 

曙「電話帳も数える人数しかいない。L〇NEは身内だけ。Di〇co〇dも自分からチャットしたのは何と手で数えられる程度。フレンドも通知に申請が溜まりっぱなしで実質0人。ネットの世捨て人よね」

 

「筒抜けにも程があるよ。探偵というかストーカーみたいだよ。というか何で把握してんの?教えた記憶無いよ?」

 

響「司令官。行ってきて良いよ」

 

「仕事あるんだけど…」

 

大淀「もっと早く書類仕事が出来るようになってから言ってください」

 

「明確な理由で別の涙が出そうだよ…」

 

 

だがこれはそれだけ自分の事を思っての事だろう。それを考えれば受けるしか無いのだが、どうにも自分にとってメリットがありすぎる。これはあまりよろしくない傾向だ

 

これでは今後も同じ事をしてしまえばこうなるかも知れないという考えが自分の中に出来てしまう。それが出来ると自分は抗う事も無くそれに従うだろう。なればこそ、やはりここは明確に断るべきだ

 

 

曙「ああ、ちなみに断ったら病院のベッドに寝かせて無理矢理休ませるわよ」

 

 

いやん。退路を防がれちゃった。じゃねぇよ!

 

…ここで自分が成長するべきか。さっきの考えもやらないよう自制すれば良いんだ

 

抗う事を覚えなければ。ただ従っているだけの思考停止は発展を呼ばない。今回は如何に柔軟に対応出来るかという、自分への課題と挑戦だな

 

 

「分かったよ。休めばいいんだろ。休めば」

 

大淀「提督がお休みの間はお任せください。時雨さんの提督さんが来ても私達で対処しますから」

 

「ん?どれだけ休ませるつもり?」

 

大淀「とりあえず一週間くらいで…「長いわ!」」

 

「お母さんかお前は。甘やかすんじゃないよ」今までも十分甘やかされてんだぞこっちは

 

大淀「…まさか一日だけ休むとか言うおつもりですか?」

 

「そ「駄目です」早いよ!」

 

 

この調子じゃ今から休んで明日は仕事をする。なんて言っても断られるだろう

 

時雨が帰るまであと五日以上はある。あっちの提督が途中経過を見に来るのは後三日後だったから…

 

 

「じゃあ二日だ。それだけ休みを貰う」

 

響「大淀さん」

 

大淀「既に作成して二週間程前から準備しております」ピラッ

 

「…大淀がピンポイントすぎる未来予知しだした。怖い」

 

大淀「優秀な秘書官とお呼びください」ニッコリ

 

曙「都合が良いんだから素直に受けなさいよ」

 

「都合良すぎて怖い位だけど…ま、いいか」

 

大淀「緊急の連絡以外は入れない様に対処します」

 

「緊急以外も何かあったら連絡してくれ。把握漏れは正直怖い」

 

大淀「提督に把握なんて出来るんですか?仕事の記憶も出来ないのに」

 

「そろそろ本気で泣きたい」

 

 

こいつ等休ませたいのか傷つけたいのかどっちなんだ。皆の事がもう分かんないよ

 

アレか?コイツラもまた……

違う。それはない

じゃあなんで?

でも、いや、

ちがう

うそだ

 

考えすぎなんだよ

 

 

パニック障害。頭の中がいっぱいになって焦りが積もると良く起こっていた。子供の頃からの付き合いがある自分の欠点だった

 

昔から思考に歯止めが効かない事が良くあった。だがそれは子供の頃の自分の思い込みが原因である

 

頭の中でずっと考える事が出来たら勉強もずっと復習出来て夢の中でも勉強出来るんじゃないか?きっかけはそんな些細な考えだった

 

するとどうなったか?前述した通りにはなった。だが対価を払うかのように落ち着いて考える事が出来なくなってしまった

 

言葉だけ聞くとあまり深刻には感じられないかも知れない。だが落ち着く事が出来ないという事は、正確に声や音を聞き取る事が出来なくなり、物事を繋げて考える事が出来なくなってしまう。何故なら考えてる最中に他の事を考えようとしてしまうからだ

 

今この話だってそうだ。話の前後を繋ごうとする前に頭の中に出来た考えが止まらなくなって別の話が出来てしまう。これが常に日常的にあるんだ。こんな風に話を繋げられるのも数秒経てば消えてしまう

 

ほんと、理解する為とは言え、自分に語って知ろうするのは頭がおかしいとしか思えないね

 

 

「じゃあ、その、なんだっけ?今日の仕事終わらせてから休ませてもらうよ」

 

大淀「「今日から休むと残りは明日休むだけになるな」…まだ言ってません」

 

「休む時はその日の仕事を終えてからきっちり休むって決めてるんだ。今日の分の仕事がまだ残ってるのに休んだら気になって休めないよ」

 

大淀「…分かりました」

 

響「手伝うよ」

 

「お前は街に行ってこい。こっちの事情で急に開いた空白なんだ。降って湧くような休みは今後無いとは思うぞ」

 

曙「…クソ提督。やっぱり外出は取り消しで良い?」

 

「ん?構わんぞ」

 

曙「助かるわ」

 

響「えっ」

 

曙「よくよく考えたらまだ二日もあるのよ?今から外に行ったとしても夕方まで一時間も無いんだししょうがないからね」

 

「あー、確かにそれもそうか」

 

響「……!司令官、私も取り消しで構わないかい?」

 

「お、おう。やけに食い気味だな…」

 

 

曙の目が響と合ってまるで何かで通じ合ったかの様に互いに頷きあっている。まるで二人して何か企んでいるかのようで、仲の良さが垣間見えてちょっと微笑ましく思えた

 

 

「ご馳走様。僕は先に戻る」

 

大淀「私も後から向かいます」

 

山風「……提督」

 

「ん?」

 

山風「辛かったら頼ってね」

 

「…心配させてごめんな」

 

曙「……」

 

 

 

_____________

 

 

 

次の日

 

 

提督(無線)『それじゃ、今日と明日は休ませてもらうよ』

 

大淀「はい。ごゆっくりお休みください」

 

提督(無線)『あ、それと電に代わってくれ。少し話したい事がある』

 

大淀「分かりました。少々お待ち下さい」

 

 

同じく部屋にいる電ちゃんに電話を渡す。提督が今日の自分の代わりにと電ちゃんを呼んだらしい

 

電話では本日の仕事についてだろうか。真面目な顔で真剣に受け答えをしている

 

 

電「では、失礼するのです」

 

 

その言葉を最後に無線を切り、やりましょうかの一言で机に積み重なった書類に向き直る。二人で仕事をしているのだが、書類を捌くスピードが私より早い

 

 

電「大淀さん。これの確認お願いします」

 

大淀「了解です」

 

 

ペンの走る音と紙の捲れる音がしばらく鳴り続け、それが数時間ほど続くと廊下が騒がしくなってきたのが分かった。声的には天龍さん率いる遠征な気がする

 

しばらくすると部屋のドアがノックされ、天龍さんが夕立ちゃんと時雨さんを連れ帰って来た。表情を見るに遠征は無事に成功の様に見えたが、どうにも時雨さんの顔に陰がある

 

普段通りの無表情ではあったが、ここにいる私達にはその裏に隠れた陰を隠し通す事は不可能だ。まるで何かに悩んでいる様子。自分の考えに気付いたのか天龍さんが時雨の方へと視線を向け、再度こちらに振り向いて軽く首を横に振った

 

 

天龍「んっん。これが報告書だ。口頭での説明はいるか?」

 

電「いえ。大丈夫なのです。次の遠征に向けて補給と準備をお願いします」

 

天龍「おう。分かったぜ」

 

大淀「時雨さん。体調でも崩されましたか?」

 

時雨(保全)「いや、大丈夫さ」

 

大淀「分かりました。では次の出撃についてですが…」

 

 

そう言われてしまっては仕方ない。すぐさま頭を切り替えて次への指令を出す

 

時雨の様子に不安を覚えるが、それでも彼女は言われた事にキッチリと従うので指揮に影響を及ぼすほどでは無いだろう

 

時雨達を部屋から退出させて見送ると、思考は先程の様子について考えが向かって行った

 

特段気になるのはこの変化だ。数度とはいえ、彼女が表情を崩す時は彼女の中で何らかの変化があった時だ。それは身を持って知っている

 

そして必ず何かしらのトリガーがあった。だが遠征に出る前には普通に見えたので、あるとするのなら遠征中であるはず

 

しかし天龍は分からないと首を横に振った。つまり天龍さん達が直接関わるような事態では無かったと推測が立ち、ならば過去のフラッシュバックかと思考が一つの解に辿りついた瞬間に、脳内で何かが繋がった

 

多分きっかけは提督絡みだ。提督との喧嘩の一件以外は特に何かした記憶はない

 

提督の喧嘩を見ているのは響ちゃんと曙ちゃんだ。だが二人も詳しい事は知らなかった

 

提督からも喧嘩の詳しい理由は聞けていない。これは彼女の問題だからという理由だった。つまりそこに問題の原因がある

 

それを相談しようと電ちゃんの方を向いたが、どうやら彼女も同じ思考に辿り着いたみたいだ

 

 

大淀「時雨さんですが、彼女にどういった変化が訪れたと想いますか?」

 

電「私は司令官さんではありませんからハッキリとした事は分かりません。ですからこれは予測。経験からくる推測になるのですが…」

 

電「おそらく、艦娘である自分に合わない事をした事により、自分の中で矛盾が生まれたのかと思われます」

 

大淀「合わない事をした?」

 

電「電達艦娘には人間を守るという本能とも言えるものがあります。それが理由で私達は深海棲艦から人間を守る為に戦っています」

 

電「ですが今回の一件。司令官さんとの喧嘩がありました。その時に時雨さんは何かその本能と真逆の事をしてしまったのではないですか?」

 

大淀「…なるほど」

 

 

電ちゃんには不安にさせないよう提督の普段の奇行と言う事で報告してあるからこの様な推測になっているが、その推測だけでいきなり答えに辿り着けるとは思わなかった

 

 

大淀「でも、真逆の事をしたからと言ってあそこまで気落ちするのでしょうか?」

 

電「んー、例えとして少しおかしくなってしまいますが、例えば大淀さんが楽しみにしている定食があるとします。だけど自分の意思で何故か苦手な定食を頼んでしまいました。それを頼んだ大淀さんの心境はどうなりますか?」

 

大淀「えっと…何で選んでしまったんだろう?ですかね」

 

電「そうです。そしてそれを選んだ結果、嫌な思いをしながらその定食を食べる事になります。それってとっても嫌ですよね?」

 

大淀「もちろ…」

 

 

そこまで言いかけた段階で言葉が止まった。そこでようやく意味が分かってしまったから

 

時雨は自分の意思で提督と喧嘩をする相手になり、心境はどうであれ喧嘩の相手を全うする為に提督を殴った

 

艦娘と人間だ。喧嘩なのだからある程度の力は籠っているだろう。その力だけで人間の命を奪うことなど容易いというのに

 

そして提督を殴り、一撃で死に追いやった。提督が備えをしておかなければ間違いなく死んでいた一撃を時雨が食らわせたんだ

 

艦娘は本来人間を守る為に存在していると言っても過言では無い。そんな生き方をしていた艦娘が人間の命を奪うという逆の行いをしてしまった

 

恨みという似た物を持っていた私達だが、直接危害を加えるということはしなかった。だからこそ分かりそうで分からない。それがどうにももどかしい

 

先ほどの電ちゃんの理論で行くならそれはとても嫌な事なのだろう。それだけは理解出来た

 

…それだけしか理解出来なかったというべきだが

 

 

大淀「提督なら…分かるんでしょうか」

 

電「…それを考えるのは酷なのです」

 

大淀「あっ…」

 

電「…でも、知っていると考えるのが自然なのです」

 

大淀「それは…」

 

電「司令官さんがその事を考えずに時雨さんに教えたとは思えません。推測ではありますけどね」

 

大淀「提督はお休みですし、やはり聞くというのも…」

 

時計 ポ~ン

 

 

部屋に飾ってある時計から昼休みの時間を知らせる音が鳴る。それを機に思考が休みへと切り替わっていった

 

 

電「お昼休みなのです」

 

大淀「ひとまず考えるのは後にして、今は休みましょうか」

 

電「そうしましょうか」

 

 

ドア コンコン

 

 

不意にノックが部屋の中へと鳴り響く。だが扉の向こう側からは人の気配が感じられない

 

一瞬の間を置いて入出の許可を出し、声は聞こえなかったがドアノブが動き出した

 

ドアがゆっくりと開かれ、その向こう側にいたのは妖精さん達で、一人がドアを開け、何人かの妖精さんがノートパソコン程の大きさがある道具を協力して持っている。それを休憩スペースにある机の上に壊さない様にゆっくりと置かれた

 

それに近づいて見ると画面が点いたのだが、映った場面が何処か見覚えのある部屋であった

 

画面が動き出し、ベッドの上で横になってボーっとしている人を映し、更に接近していく。そこに映る人には見覚えがあった

 

 

大淀「…提督の隠し撮り?」

 

電「どうしてこんなモノを?」

 

 

妖精さんに向けて電ちゃんが質問をする。そのやりとりを私もみようと視線をそちらへ向けたが、妖精さんは悲しそうな、それでいてもどかしそうな顔をして電ちゃんを見ていた

 

 

電「…連れ出して欲しいってことですか?」

 

 

それを聞いた妖精さんは嬉しそうな顔をしてコクコクと頷いた。どうやらそのとおりらしいが、それに対して首を縦に振ることは無かった

 

 

電「妖精さん。いくら妖精さんの楽しみとはいえ、司令官さんのお休みをしてはいけないのです。あんな事があったのですから、少しくらいはこうして横になるのも仕方ありません」

 

妖精「!?」ガーン

 

 

どうやら断られると思っていなかったのか、妖精さん達がアワアワし始めた

 

その中の一人が号令をかけるみたいに静止をかけると、何やら手招きしてモニターを観るように仕草で示してきた

 

従わない理由も無いのでそのままついて行き、モニターの前まで来て画面を見ると、画面上部に付いていた時間が巻き戻っていく

 

どうやら巻き戻しの様だが、ずっと前から撮影していたようだ。これはちょっと注意が必要かも知れないと思う。プライバシーもあったものではない

 

だけど変だ。時間は遡ってるはずなのにピクリとも画面が動かない。提督の顔がずっと映っている

 

画面の時間が9:00になり、提督がこちらへ電話を掛けていた時間になると、ほんの僅かにモニターに動きがあった

 

そのタイミングで巻き戻しを止め、再び再開すると枕元に置いてある携帯に手を伸ばして電話をかける様子が伺えた

 

ここまで見ればなんてことは無いただの隠し撮りの記録であるが、それを見ていた電ちゃんの様子が少しおかしい

 

 

電「…妖精さん。少し早送りしてくれないのです?」

 

 

敬礼をして今度は早送りを始められたのだが、始めに見た映像と同じ所まで戻ってようやく自分もその意味が理解出来た

 

ベッドの上で横になっている司令官が携帯で電話をかけた後もずっと横になっている。そして目は開きっぱなしだ

 

眠っている訳では無い。何時間も何もせず、ただ何もしない。それだけであった

 

昔の自分達を思い出す。あの頃の何も出来ずにただ何かが変わる事だけを期待していた自分達が思い出として蘇ってきた

 

提督も限界だったんだ。それを私は何も考えずにいた。ただ自分がいなくなってしまうかも知れない提督を見て不安になって抱きついていただけで、それ以上の事は何も考えていなかった

 

やはり行くべきだ。そうするべきなのに…

 

どうして良いかが分からない

 

 

電「…妖精さん。ホントに私達が行かなくてはだめなのですか?」

 

妖精 コクコク

 

電「ホントに?」

 

大淀「い、電ちゃん?」

 

電「体調管理は司令官さんの仕事です。そして司令官さんが布団から起き上がれないのも司令官さんがそうすべきだと決めた結果です。それを無理矢理に引き剥がすべきだと言うのですか?」

 

 

想像もしていなかった淡々と話す電ちゃんに妖精さんも私も口が閉じてしまった。まるで声を出す事すら許さないかの様な圧力を確かに感じたからだ

 

キッと口は横に閉じて、目は反論を許さない程の眼力。深海棲艦を相手にするときでさえ、ここまでの顔は見たことがない

 

妖精さんは驚きと困惑に狼狽えた顔をしていたが、次に勢いよく頭を下げてきた。ソレを見てとても驚いた。勿論電ちゃんもだ

 

流石に電ちゃんの顔に焦りが見えた。妖精さんが頭を下げてお願いするなど見たことが無い

 

どうやら本当に不味い事態らしい。電ちゃんも顔が崩れ、怖かった目は涙目になりつつある

 

 

電「…分かりました。行ってきます」

 

大淀「私も行きます」

 

電「いえ、電だけで行きます。大淀さんも入れてしまえば司令官さんから怒られちゃうかも知れないので」

 

大淀「…電ちゃん。司令官さんから電話を受けた時に何と言われたのですか?」

 

電「それは内緒でお願いするのです。一応命令と言われてしまいましたので」

 

大淀「了解です。でしたら提督に申し訳ありませんとお伝え出来ませんか?」

 

電「はい。分かったのです」

 

 

そのやり取りを最後に電ちゃんが部屋から退出する

 

しかし気になってしまった。どうして提督が電ちゃんにあそこまでさせてしまうのか

 

妖精さんが手招きしてモニターの前まで案内してくれた。何時の間にか妖精さん達がチョコを片手に映画気分でモニターを眺めている

 

…やってる事は完全に盗撮なんだけどな

 

そんな事を考えながら上からの俯瞰視点になってる映像をしばらく眺めていると部屋の中に明かりが差した

 

ドアが開いて電ちゃんが部屋に入室し、寝ている司令官に近づいて何かを話している

 

しかし司令官は全く動かない。いや、動く気がしない

 

しばらく立って話していた電ちゃんだったが、少しイライラしだしたのか、体が震え始めて司令官へと近付いていく

 

二人の距離が縮まるのと同時に映像の映している場所が変わり、二人の顔と表情が分かる場所へと移動した

 

そこで見えた電ちゃんの表情は不満が爆発したみたいに怒っていて、怒られてる司令官の表情は無表情を貫いていた

 

体を揺すり、ポカポカと叩き、頭をユサユサと揺さぶっても何も変わらない。どうしても変わらなかった

 

妖精さんが緊急を報せるのも分かった気がする。ここまで反応が無いのは異常だろう

 

しばらくすると電ちゃんがため息をつき、次の瞬間には吹っ切れたかのように服を勢いよく脱ぎ始めた

 

ワイワイと騒ぐ妖精さんを横目にそれを見て私はすぐさまモニターから離れて部屋を飛び出した。あぁなった電ちゃんならどんな事だろうとやりかねない

 

どうか間に合う様にと祈りを込めながら、私の足は必死に司令官の部屋へと向かうのだった

 

…お願いですから、ちゃんと相談してほしかったです

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