この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ 作:七福えると
「ほっといてくれよ」
電「お断りするのです」
「今昼休みだろ?ちゃんとご飯食べて昼から頑張らなきゃ」
電「朝からずっとベットで横になってる司令官さんに言われたくないのです」
「じゃあ何か。服まで脱いで私でも食べてくださいってか。バカじゃねーの」
電「それでも良いですよ?」
「やめてくれ。今は相手してる余裕が無いんだ」
電「はい。ですので司令官さんがお好きな強行手段を取らせていただきます」
「…何する気だ」
電「添い寝はどうですか?司令官さんこういうの好きですよね?」
「何かデジャヴ感じるから却下。貧乳は出直「あ?」ナンデモナイデス」
「…とにかく服着ろ。さっきからずっと川内の気配感じて眠りたくても眠れないんだ」
電「ずっとベットにいるのに寝てなかった理由がそれなんですか?」
「あぁ。ずっと真上の天井から覗き見してる」
川内『…何で分かったの?』
「茶色一色の天井に穴があれば嫌でも分かる。それにベットに木くずが落ちてたからな」
「とにかく邪魔しないでくれ。俺は休むときは休むと決めているんだ」
天井に人一人がすんなりと入れそうな四角い穴が空き、そこから川内がドアの開閉を行うかのように天井を動かして顔を出す。その顔には少し煤が付いていた
天井を掴んで一回転しながら地面へと着地する。中はシンプルな白だった
川内「そんなこと言わないでさ。ちょっとは相手してよ」
「やだ。だるい。めんどくさい。後汚い」
電「…命令に背いたことは謝ります。ですがこれは」
「私情で命令を無視出来るのか。随分軽いんだな」
電「……」
川内「黙って聞いてたけどさ、提督だからって良い気になってるんじゃないの?せっかく部下がこうして心配してくれてるんだから突き放さなくて良くない?」
「お前には関係無い。お前もさっさと何処か行ってくれ」
川内「むっかー。何その言い草。これは酷いよねぇ?」
「どうしてそこまでするんだ。お前等に何か出来るとでも思ってんのか?」
川内「思ってる。電もそうでしょ?」
電「…はい。ですからこうして命令を無視してここに来ました」
目つきが強くなる。一時のテンションに身を任せた危うさを感じるが、それがきっかけとなっているのは間違いない
「そうか。何するんだ?」
電「…どうしましょう」
川内「今から考えれば良くない?」
「じゃあ寝てろ」
ベッドの下に手を潜り込ませ、護身用に持っていた悪夢銃を電に向けて発砲する
不意を突いたことで硬直したまま避けられず膝にヒットし、眠気が襲ったのか瞼が閉じようとして立ち眩みを起こしている
すぐさま川内が電に肩を貸して倒れないようにするが、支えて動かなくなった所を胸に向けて発砲し着弾させる
同じ様に立ち眩みを起こし、数歩ベッドに向けて歩んできたかと思うと、二人してベッドに倒れ込んで来た
これでゆっくり眠れる。そう思っていたが、そこまで来てようやく頭がすっきりし始めた
やってしまった。つい感情に任せてしまった
ベッドから抜け出し、下着だけしか着ていないので棚から私服を取り出そうと移動していた時、勢いよく扉が開かれた
大淀が息を切らせながら部屋へと飛び込み、部屋の様子を見ようと顔を右へ左へと動かす
ベッドに頭を置いて眠っている電と川内。そして下着が見えている電と、そのすぐ近くを通過しようとしている下着姿の自分
大淀「………」
固まっている。口を開けて呆然としていたが、湯が沸くかのようにゆっくりと怒りに顔が染まっていった
「ご、誤解だ。これは誤解なんだ」
大淀「何が誤解なんですか…?」プルプル
「いや、あの、こいつらが休みの邪魔をしようとするからちょっと寝かせて、そこでハッとしたからこれから服を着て起こそうかと…」
大淀「もうちょっと言葉をまとめて話してください!この変態ッ!」
その通りなんだけど話を聞いてくれ。そんな弁明をする前に大淀のビンタが頬へと飛んできてそのまま自分は壁まで吹き飛んでそのまま壁にめり込んでしまった
青年「…何してんの?」
「いや…ちょっと誤解されて…」ジンジン
青年「ふーん。あ、いやいや何でもない。大丈夫だから」シッシッ
警備の部屋に突っ込んでしまった事に謝罪しつつ、すぐさま壁から頭を引っこ抜く
カレンダーで穴の部分を隠し、大淀の方へ向き直っていると、既に大淀が二人を起こしている。そして自分の方を見るなり二人して顔を赤くした
「こんな格好だったから出たくも無かったってのも理由なんだけどな」
電「…」
「すまんかったな。つい適当にやった」
川内「適当にやられちゃたまったものじゃないよ…」
電「…やっぱり司令官さんを連れ出させていただきます」
「やだ」
電「では添い寝を」
「関わるなって言った方が良いの?いい加減説明するのめんどくさいんだけど」
川内「この…」
「…頭の中では分かってるよ。だけど体が拒否してるんだ」
腕を伸ばして3人の前に出す。伸ばした腕の手は無意識に小刻みに震え、上げた肩には常に力を入れてなければ上がらなかった
そのせいで震える手とは別に腕自体も僅かに上下し、普段以上に意識しなければ腕が上がらない状態だった
「ストレスによる身体の異常だ。体自体に力が入らない」
「昔からこれはあったが、今回は特に酷い。まるで筋肉が伸び切らないゴムみたいに力が入ってない。そしてそれが頭にも回ってる。つまりハッキリとした意識を持って判断出来ない」
「それを今日と明日の二日でマトモに戻す。ま、戻すにしても3割か4割戻れば御の字ってとこだ」
電「だから休んでいると?」
川内「どうにも信じられないよねぇ…いや、経験した事が無いからって意味で、信じてないってわけじゃないんだよ?」
大淀「…私は分かります。あの頃はそれ程酷かったですから」
「というわけで休ませろ。そろそろ限界だ」
3人の返答を待たずにベッドへと歩き、ベッドに座っている川内をどかして上に乗った時、手を後ろから掴まれた
小さい。握る強さもダンスで相手をリードするかの様に優しい力だ。ダンスのパートナーに選ぶにはちょっと小さすぎる相手ではあるけど
電「何かお手伝い出来る事はありますか?」
「何もないって言わなかったか?」
電「それでも、何かしたいんです」
「…おい。二人も何か言ってやってくれよ」
川内「今回は電の肩を持たせてもらおうかな。今の提督だと何言っても拒否しそうだし」
大淀「私も同意見です。それにこういう時こそ好き勝手して、されてきたじゃないですか」
「…はぁ。分かったよ。川内と大淀はコッチ来い。電はベッドに座ってくれ」
三人して頭の上にハテナを浮かべ、互いに見合わせて首を傾げていたがすんなりと従ってくれた
…犬に命令してるみたい。なんて考えはすぐに捨てた
「じゃあ早速」
川内と大淀の肩に手を置き、そのまま二人を抱きしめる。二人して驚いた様子だったが、意外にも嫌がる様子は見せなかった
すぐに二人をハグから解放し、次は電の方を向いて二人と同じようにハグをするが、どちらかといえばそれは捕獲に近いものだった
抱きしめながら自分が下になるようにしてベッドに倒れ、足を絡めて逃さない様にしっかりと拘束する
正面に電の顔が見え、赤く染まっていたが今回したいのはそうではない
電を回して大淀達に顔が見えるようにした後、服のポケットに手を伸ばして中をまさぐる。それを見て二人は勘違いしたのかみるみる顔を赤くしていった
まるで自分がその場にいるのを想像して赤面している姿に心から満足し、名残惜しさを感じさせる様に服を撫でながら電を拘束から解く。流石にアレ過ぎたので先程ポケットに手を突っ込んだ時、3枚分の
「良し。満足したから寝る」
電「あ、え?」
「後昼休憩が30分位しか無いぞ。ちゃんと休める時に休んで、俺みたいにならないよう、自己管理はちゃんとしとけよな」
ゴソゴソとベッドへと潜り込み、横になって枕に頭を沈ませる。柔らかい枕の力と消えた視線によってようやく眠ることが出来るのであった
川内「…胸を揉まれるのかと思った」
大淀「同じくです」
電「……お二人共」
大淀「…はい」
川内「…どうしたの?」
電「トイレって…今空いていますか?」
大淀「…現在鎮守府にいる艦娘は少ないと思われます。食堂からの距離も遠いので、この辺りのトイレは誰もいないと思われます」
電「…お昼休憩が終わる頃には戻ります」
川内「…私も」
大淀「別々のトイレを使いましょう。それが一番何も知らないですし平和に終わります」
電・川内「「了解」」
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夕立「ずるいずるいずるーい!!!」
島風「提督!かけっこ!かけっこして!!」
「……寝れん」
布団越しに夕立が自分に跨ってギシギシとベッドが音を鳴らしている。最近少し実ってきた二つのモノが揺れているのを見るとムラつくので勘弁して欲しい
そして耳元で島風がかけっこを連呼している。うるさい。正直早く何処かに行って欲しい。水平線の彼方まで太陽とかけっこでもしておいてくれ
夕立「ねぇー!提督さーん!!」
島風「起きて!提督!」
「寝かせてくれよぉ〜。休みの日くらい良いだろ〜?」
島風「…歳食ったおじさんみたい」
「ぐっ…」グサッ
夕立「手を握ってあげるから手だーしーてー!」
「…島風、
島風「構って欲しい度MAXの時はそうなるよ。こうなると遊んであげるまでずーっと騒ぎっぱなしなんだもん」
「あ、そう…」
夕立「ぐるるぅ…」
「威嚇しだしたんだけど」
島風「拗ねる寸前なんだよ。構ってくれなきゃ噛みついてアピールしてくるの」
めんどくさい。非常にめんどくさい。良いから休ませてくれ
そう思いつつ、頭と顎を手で抑えていると、夕立の口から涎が一滴落ちて自分の口に入ってきた
汚いと思いつつ、僅かに口周りに付いた涎を拭おうとすると、夕立の顔が次第に真っ赤に染まっていく
非常に恥ずかしくて照れている。彼女の顔がそう語りかけて来るかの様に赤く、それは島風も同様だった
夕立「あ、えっ、えっとぉ…」
島風「ゆ、夕立ちゃん…」
夕立「わ、わざとじゃないもん!ホントだもん!」
…誰か説明してください。もう何の突拍子もなく話が進まれるのはめんどくさいにも程があるんです
夕立「それに、こういう事をするのは響ちゃんだよね!?」
島風「でも夕立ちゃんだって以前提督の部屋で「わ〜!わ〜!」」
「どうでもいいけどさぁ『どうでもよくない!!』……」
もう良いよ。ネタ切れ感凄いよ。なんか見たことある気がするよ。流れに任せてそこから話盛ってこうって感じがヒシヒシと伝わるよ。何、何なの?そこまでネタ切れなの?それともやる気がないの?
というかこの二人はそもそも何が目的で近づいて来たんだ。まさかムラつかせる為っていう理由じゃないよな
「で、結局何が目的でやって来たんだ?」
島風「あ、忘れてた!妖精さんの映像見たよ!」
「映像?」
夕立「執務室の休憩スペースに妖精さんが作った物で提督さんの部屋を監視してたの。そしたら電ちゃん達に…」
「…盗撮されてんのかぁ」似た事してるから強く言えないし
島風「そっちはどうでもいいの!いや、良くはないけど…」似た事?
夕立「ずっとベッドで寝てたでしょ?だったらお腹空いてると思って」
現在の時刻は1500。先程の出来事から約二時間ほど経過したが、睡眠らしい睡眠はあまり取れていない。理由は言わずもがな、何らかの視線を感じてあまり眠れなかったというのが理由だが、夕立の説明でようやく分かった
そんな状態で夕立が持ってきた料理はうどん。初めてここに来た時、皆に作ったあの時のうどんだった
自分はそこまで弱っていると思われているのだろう。実際そうではあるが、体自体に異常は無いので心配しないで欲しい
「今はいらないから、そこの机に置いといてくれ」
夕立「ほら、あーんして」
「話聞いてた?」
夕立「島風ちゃん。提督起こしてくれる?」
島風「分かった!」
「待て待て待て。起きる。起きるから」
体を起こそうとする前に島風が背中に手を当てて起こしてくれた。介護されてる老人の気持ちが分かった気がする
…悔しいなぁ
「ほら、起きたぞ。後は一人で食べるから」
夕立「でもそう言って食べないかも知れないでしょ?」
島風「私食べさせたい!」
「餌やりじゃないんだぞ…もう何でも良いから食わしてくれ」
めんどくさい。正直心の底からめんどくさい。何時もはこの気持ちも隠してはいるが、今日は特に顕著に出ている気がする
箸で掴まれたうどんを差し出され、餌に食いつく魚の様に口を開けて食べる
瞬間、自分を襲ったのはタコの様なヌメリの感覚。そして一嚙みする毎に柔らかなうどんの感触がする
まるで食の形をした生物。純粋な頑張りと努力によって生み出された狂気的な味わいではあるものの、決して悪意を感じることが出来無い食べ物に、自分の心は一瞬だけ折れそうになった
夕立「どう?美味しい?」
島風「提督が入院してる時にね、元帥の磯風さんが病院にお見舞いに行ってたでしょ?その時に料理のレシピを教えてもらったんだよ!」
俺は死ぬかも知れない。磯風という名前が聞こえた瞬間に、自分の胃が拒否反応を起こしているのかキリキリと痛みだす
一嚙みで物体の匂いが口に広がる。それはこれといった味付けもされていないうどんの匂いだった
二嚙みで味がより鮮明になった。そして理解する。最早これは食べ物ではない。人が…いや、生物が感じて良い味ではないのだろう
三嚙みで少し飲み込む。これ以上噛みたくなかったからという理由だったが、飲み込む瞬間が最も辛い
蛇やミミズの様な細長い生物が喉を通り、通った場所がまるで風邪を引いた時みたいな痛みを感じる
差し出された一口を全て食べ終えた瞬間、体の隅々までに走るのは不快感であった
ストレスによる精神的な疲労を上回る超強力な不快感の波。それが体を一気に跳ね起きるトリガーの役割を果たした
「まぁっっっずぅ!!!」ガバッ
島風「オゥッ!?」
夕立「えっ!?」
「不快感の塊!不浄の権化!不味さの極み!どうやったらこんな化け物生まれるんだよ!?」
夕立「い、磯風さんの言う通りに作ったのに、どうして…?」
島風「…多分、磯風さんのレシピが悪いんだと思うよ。その証拠に見てよあれ」
噛めば噛むほどに不味さが襲う。噛めば戻しそうになるし、口の中に存在しているだけで吐き気がヤバい。ホントに吐く数秒前って感じがする
だからこそ良い。この最強とも言える不味さが現状を変える起爆剤となっているのが分かる
力が入らなかった腕は食に対する嫌悪からか料理を遠ざける為に抵抗の意思を見せ、下半身はそこから逃げようと必死に立ち上がろうとしている
疲労していた精神が料理によって体に喝を入れ、死にかけていた精神は肉体的な死という現実に対抗すべく、再び立ち上がろうとしていた
それにこれを作ったのは夕立と島風の二人だ。レシピを渡したのは磯風である。でなければ二人して渡しに来る理由が分からない。多分作った感想を聞くとかそんな為だろう
だから正直に不味いと言った。そして残そうとは思わなかった。自分を案じての事なのに、それに応えないのは人として駄目だろう
「次!もう一口だ!」
夕立「えっ、あっ、うん」
夕立から再び一口を貰って口の中で先程より多く咀嚼を行う。ホントに死ぬかも知れない程に不味い
顔を歪ませながらも、夕立にジェスチャーで丼を寄越す様にする。それを見てちょっと引いた顔をしながらも丼を渡してくれた。体が拒否反応起こしてるせいで中のスープがこぼれるギリギリで波立ってるけど
島風「凄いよあれ。顔は凄いしかめっ面で手は痙攣してるみたいに震えてるけど、目はずっとうどんの入った丼を見てるんだもん」
夕立「止めたほうが良いのかな…」
島風「う、うぅ〜ん…」
・・・五分後・・・
「…ごちそうさまでした」
島風「お粗末様でした」
夕立「でしたっ!」
「ありがとうな。作ってくれて」スクッ
島風「何処か行くの?」
「ん?トイレだよ」
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1900
体重 64キロ
↓
体重 60キロ
「……」チーン
天龍「アホだ」
龍田「おバカさんねぇ」
アホのおバカ「…水ください」
龍田「10リットル位飲む?」
「マーライオンみたいに吐く未来しか見えないんでもうちょい少なめで…」
天龍「ていうかお前の体どうなってんだ。一回のトイレで四キロ落ちるとか聞いた事ねぇよ」
「体から水分がほとんど無くなって…」
龍田「お水飲めます?」
「飲ませてぇ…」
龍田「ふふっ。可愛い♪」
天龍「可愛いか…?」
「…で、何で来たの?」
龍田「あら、自分の提督を心配して来ちゃいけないの?」
「時間の無駄じゃないか?」
天龍「無駄ってなぁ…」
「こうして横になって思ったんだけどさ、どう考えても数か月前のお前等と比べて別人だよなぁと思って」
「仮に俺がお前等なら数か月だろうが数年だろうがずっと人間って生き物を警戒してるよ。なのにこうまでしてコロッと変わるのが理解出来ないんだよ」
天龍「…言われてみればそうなんだよなぁ」
「な?正直な話、前のお前等が解体されて今いるお前等は新たに出来た艦娘なんじゃないかって思ってるよ」
龍田「あら?どうやら久々に怒られたいみたいね?」
龍田がそう言って槍を宙で一回転させた後、提督の頭から拳一個分程上に槍を突き刺した。若干涙目になっている提督を見て少しスッとした
天龍「ほらな?何も変わってねぇよ」
「勘弁してください」ブルブル
龍田「…私だって怖いわよ。急に人が変わったみたいだってのは自分でも分かってるつもりよ」
「……」
天龍「でも俺は俺だぜ?それは変わってねぇよ」
「…天龍はやっぱり天龍だなぁ」
天龍「馬鹿にしてないか?」
「知能が胸に行った奴だとは思ってないよ」
天龍「やっぱ馬鹿にしてんだろ!」
「言う程デカく無いだろ」
天龍「お、お前なぁ…!」
龍田「天龍ちゃん…」
「…僕さ、お前らの事は全員好きだよ。どちらかと言えば愛してるって方が近いかもしれんが」
天龍「…知ってるよ」
「でもな、だからこそ思うんだよ。俺がここにいて良いのかって」
「僕は………いや、うん。言いたいのは結局のところ、一人が好きなんだよ」
「提督以前に、人間として向いてねぇって話だ。はははっ」
数言だけを話して全てを打ち上げたつもりなのか。未だ全貌を掴めないでいた
だけど言いたい事は分かった。提督としてではなく、一人の人間として話していたんだ
提督としてではなく、人間として俺達の事を好きだと言っていた。正直言われてビクッとした
けどそんな言葉を返す様に一人が好きと言った。それは提督がずっと一人だったから一人を好きになったのか。それとも元からなのか。その答えは分からずにいたが、それでもハッキリしてる事はある
天龍「一人が好きだとか嫌いだとか知らねぇよ。少なくとも俺にとってお前は提督だ。どんだけ自分で駄目な提督だと思っててもな」
「……」
パチパチと瞬きをする提督だったが、しばらくすると吹き出すかの様な顔になった
そして何処かニチャリと笑っている。何となくこの後のオチが読めたのでサッと胸を手でガードした
「おぉ。お前も分かってきたな」
天龍「当たり前だろ?お前の考えてる事はお見通」バサッ
「お、黒か」
天龍「なっ…」
「上だけ守ってちゃ、守らない箇所を狙ってくれって言ってくれるような物だぞ」
龍田「あら〜。なら提督は命を守る気が無いみたいですね〜」ギラッ
「…すいませんでした。お願いですのでどうかその
龍田「どうしようかしらね〜?」
…提督って照れたり恥ずかしかったりするとこういう事するよな。ウチの提督以外ならぶっ飛ばしてるよ
天龍「はぁ。龍田、もうそれくらいにしといてやってくれ」
龍田「はーい♪」
「…悪かったな」
天龍「別にお前が悩んだりすんのは仕方ないけどさ、そこに俺達が入ってるんなら、少し位は俺達にだって話してくれても良いんだぜ?ちょっとやそっとの事じゃガッカリしねぇよ」
提督は何時もそうだった。ホントに考えてる事だけは誰にも打ち明けようとせず一人で抱え込むのに、俺達に関する事は必ず巻き込んでくる
つまり、今提督が悩んでる事は全員に対しての事じゃない。提督がたった一人で考えて悩んでる事だ。だが先程の言葉から考えるに俺達が関わってるって事なのは明白だ
だけどそれが直接的な理由ではなく、あくまで提督が何かに対して危惧している事。それに俺達が入るってだけの話だ
今の提督に必要なのは一人で考える事じゃない。その危惧している何かを皆に対して共有する事が必要なんだ
コイツは鋭い時も多々あるけど、自分が関わってくると急にポンコツになる。だからこそ自分が、皆が側で寄り添ってやらないといけない
それだけ抱えた結果なのかは知らないが、結果こうなってるんだから大人しく考えを改めてほしいもんだ
「…分かったよ。ならちょっとだけ話してやる」
天龍「…えっ?良いのか?」
「良いも何もお前が言ってきたんだろうが」
天龍「いやっ、確かにそうなんだけどよ、こういうのはもっとこう…皆のいる前でとかさぁ」
「こんなもん全員の前で話せるか。お前達だからこそ話してるんだよ」
天龍「お、おぉ…」
完全に想定外だったが、言い辛い悩みをこうして話そうと言ってくれたんだ。ならそれに応えてやるのが部下ってもんだろう
「でも龍田が答えてくれてないからなぁ〜」
龍田「あっ、えっ、私?」
「そうだよ。お前だって槍突き刺しただけでな〜んもこたえてくれないんだもん」
あっ、コイツただ構って欲しいだけだ
「なぁなぁ。どうしちゃおっかなぁ?」
天龍「それ以上おちゃらけるならこっちも考えがあるぞ」ボキボキ
「あっ、はい。すみません」
「つっても簡単だ。単純にお前等との距離感が測り辛い」
龍田「というと?」
「セクハラしてんのに心から嫌ってのが見えん。かといって怯えて表に出せない訳でもなさそう。風呂も一緒に入ってんのにここでも変化なし。ぶっちゃけ距離感バグり散らかしてると思う」
天龍「正直お前が言うなって言いたい」
龍田「あ、それには同意ね」
「…仕方ないだろ。お前等全員綺麗なんだから」
龍田「……一回殴って良いかしら?」
「なんで!?」
天龍「そういうとこだろ」ポリポリ
距離感をバグらされたのはコイツのクソ正直に話す所が原因だと俺達は思ってる。多分というか、ほぼ間違いなくお世辞抜きの本音だし、だからこそタチが悪いというべきか。こっちもこっちで怒られないギリギリの範囲が分かりやすくて皆ギリギリを攻めていくんだよな
そういうことすんのも皆お前の事が好きだからってのは絶対に言わない。今のコイツにそれを言っても信じないだろうし、通常時はもっと信じないだろうしな
「つーかお前等、俺のPCの中身知ってんだから分かるだろ?」
龍田「電ちゃんと私のイラストが妙に多いあのフォルダの事かしらぁ?」
「やっぱ知ってんじゃん!ぜーったい知ってると思った!」
龍田「電ちゃんが多いのは分かるけど、何で私が多いの?」
「…分からないならそれでいい」
顔を腕で隠すようにして表情を見せないようにしている。その顔は何処か恥ずかしそうでいて、照れているといった印象でさえ受けた
この反応の意味が分からず考えていたが、しばらくすると龍田の顔が赤くなり、肌が少しずつ赤く紅潮していった
それを見てようやく自分も理解出来、マジかよと叫びそうになるのを抑えるので精一杯だった
天龍「お前…」
「残念ながらお前達が思ってる事じゃない。いや、違わないって訳じゃないんだが、具体的に言うなら違うんだ」
龍田「…そういうことね」
「すまん。一目惚れしたのは確かだが、それはお前じゃない」
龍田「もう良いわよ。何となく分かってた事だしね」
「…ん?別に龍田の事が嫌いってわけじゃないぞ?」
龍田「へぇ?」
「何度も言うが俺はお前等全員好きだ。ここにいる奴らは全員愛してるって言っても良いが、その中でも特段、電と龍田が好きってだけだよ」
それを聞いて思わず自分も赤くなりそうになる程の恥ずかしいセリフに、唐突にそれを理解してしまった
俺は提督の事を誤解していたのかも知れない。頭の悪い考え無しのお人好しなバカだと思っていたが、艦娘を誑かすスケコマシのゴミクソ野郎だったんだ
対等な立場として見るのではなく、第三者としてみればさっき提督がぼやいていた事をようやく理解出来た
素でこんなことをするから駄目なんだと。人がいると誑かしてしまうから一人が良いのだと。提督はこれが言いたかったのか
理性で自身の醜い部分をコントロールして今まで巧妙に隠してはいたが、今回みたいに弱るとこういった根腐れしてると言って良い、腐りきった性根が出てしまうのだろう
狂人が常人の振りをしているのは凄いというが、提督の場合は違う。提督の能力や今まで起こしてきた行動を顧みると、自分の能力があまりに低く、それを隠す為に振り切った行動をして周りの関心を集め、そこに付け込んで更に相手を自分の助けとして動かそうとする。提督としては向いているが、同じ対等の人間としては視たくない一面だ
龍田の顔は赤いが、対して自分の顔は冷ややかだった思う。こんな事が分かってしまうのなら、何も理解せずに龍田と同じ様に惚気ていれば良かったと、心の底から後悔し始めていた
自分を良く知り、理性で自分を抑え込んでいる化け物。前任の提督がフラッシュバックしたかのように思い出して、それが目の前の提督と被ってしまった
その時見えた提督の顔は、何かを理解して酷く安堵したかの様な表情を見せ、自分の心は猜疑心と恐怖。そして裏切りにも似た重い後悔がのしかかってくるのを感じずにはいられなかった