この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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不安を招く半日

大淀「提督はつい先ほど出ていかれました」

 

響「良し。予想通りだ」

 

曙「じゃ大淀さん。昨日出した通りよ。私達も外に行って来るわ」

 

大淀「はい。楽しんできてください」

 

響「そういえば私達以外に外に出てる人はいるのかい?」

 

大淀「時雨さんが食堂で暴れた時にいた人達の内、雷さんと暁さんが外出中です。愛宕さんとヲ級さんは提督がお休みになっていた日に出かけていました」

 

響「そういえば曙も出られるんだね」

 

曙「半日だけよ。だから途中で離脱することになるかも」

 

 

二人で出るのは勿論司令官を追いかける(ストーカー)こと。理由を上げるならただの好奇心だと言っておく

 

思えば司令官が出かける時は買い物か誰かと出かける時だけだ。司令官がそんなに鎮守府を開けて良いものか。と問われれば勿論駄目なのだろうが、正直大淀さん一人の方が仕事が早く終わっているのでいなくても問題は無い

 

 

響「まずは雷達に連絡だ」スッ

 

曙「…今更だけど何でクソ提督を追うの?」

 

響「心配じゃないか。あんなに心身共に憔悴しきった次の日に外出だなんて」

 

曙「まぁ…ね」

 

大淀(さながら子供を心配する親ですけど、ストーカーするのはまた話が違ってきますね)

 

雷『こちら雷よ。どうしたの?』

 

響「司令官が何してるか聞きたくてね。今はどんな様子だい?」

 

雷『今?私達と一緒に喫茶店で朝食食べてるけど』

 

曙『は?』

 

暁『司令官。それだけで足りるの?』

 

司令官『大丈夫だよ。二人こそちゃんと食べないと』

 

雷『もうっ!ちゃんと食べないと駄目よ!ほら、これあげるから口開けて!』

 

響『何してるんだい!?』

 

暁『何って、朝ごはん食べてるんだけど』

 

響『……』

 

司令官『響と曙。お前等も出かけるならちゃんと飯食ってから出ろよ。じゃないと1日動けないぞ』

 

曙『今更だけど何でクソ提督も通信に参加出来てるのよ』

 

司令官『緊急連絡用に通信機は持ってる。周波数は雷に教えてもらった』

 

曙『…お見通しってわけ』

 

司令官『何が?』

 

曙『とぼけたフリはもう良いわよ。それよりコレからどこにいくつもり?』

 

司令官『何も決めてないよ。適当にブラブラする予定だ。もしかしたら何処かで会えるかもな』

 

曙『…分かったわ。事故に気をつけなさいよ』

 

司令官『へいへい。んじゃ、切るぞ』ブツッ

 

雷『じゃあまた報告するわ』

 

暁『あ、司令官。次に行くとこなんだけど』ブツッ

 

響「ちょっ!暁!そこで切らないでほしいんだけど!?」

 

大淀「今日の響ちゃんは何時にも増して荒れてますね」

 

曙「仕方ないわよ。昨日クソ提督に何時も見たく夜這いに行ったら普通に追い返されたんだって。だからイライラしてるのかもね」

 

大淀「至極真っ当な理由で怒られてますね」

 

響「断られるのは何時もの事だから良いんだよ。(良いのことなの?)でも昨日は添い寝すら許されなかったんだ」

 

曙「添い寝は許されてるのね」

 

響「暁や雷に引っ張られて部屋まで連れ戻されるけどね。電の場合は床に押しのけられて二人で寝てるけど」

 

大淀「…電ちゃんって何気に独占欲強いですからね」

 

響「そんな事はどうでも良いんだよ!それより何処に行ったか突き止めないと!」

 

曙「大丈夫よ。そんなに心配しなくても。おいそれといなくなるような奴じゃ……ぁ…」

 

響「……」

 

大淀「…言い切れませんね」

 

響「…でも分かってるんだ。帰ってくるっていうのは」

 

響「それよりも怖いのは、今の司令官なら何をするか分からないって所なんだよ」

 

 

ゾンビ。言葉にするならコレが一番近いかも知れない

 

明確な目的を持ってはいるが、それに意思を感じない。まるで本能に突き動かされている様な、そんな気がしてならない

 

もし仮にだ、提督が何時も見たくバカなことをしたり、自分の身を省みない事をする出来事に出くわしたら、まず間違いなく今の提督はやる

 

だからこそ見守らねばならない。司令官を一人にしてのんびりさせようと考えてはいたが、アレでは心配のほうが勝ってしまった

 

 

曙「でもどうするの?もう一回繋げ直す?」

 

響「いや、司令官の事だ。あそこで切ったって事はきっと私達に言えない様な何かに向かうと考えた方が良いだろう」

 

曙「言えないような所…?」

 

響「…良し。ここは先輩に頼んでみよう」

 

曙「先輩?」

 

 

 

 

響「司令官から最近声がかからなくてちょっと寂しい思いをしていた三銃士を連れてきたよ」

 

曙「何その入り…」

 

愛宕「パンパカパーン☆」

 

響「中々出番がこないって嘆いてた愛宕。裏では海域突破に向けての火力要員として活躍する為にここ最近は休日でも演習に出っぱなしだよ」振替休日を使っての出撃だ

 

潮「が、頑張ります!」

 

響「愛宕と同じく出番が無いって嘆いてた潮。遠征をずっとこなしていた、まさに縁の下の力持ちってやつだね」艦娘が殆どいないからね

 

ル級「私達の出番ネー!」

 

響「金剛さんを思わせるル級さんだよ。ちなみに最近の悩みは意味深な入りをしたのに深掘りが全く無いって事だよ」

 

曙「裏付け多すぎない?」

 

妖精(作者)「その場のノリで作ってるからしょうがない」

 

響「…あんな妖精いたっけ?」

 

曙「そんな事より、この三人でクソ提督をストーカーするの?」

 

響「ストーカーじゃないよ。偶然出会った風を装ってしばらく監視するだけだから」

 

曙「余計質悪いじゃないの…」

 

響「でも参加するでしょ?」

 

曙「……」

 

ル級「私達の意見はスルーですカ」

 

愛宕「まぁまぁ。せっかくなんだから楽しみましょ?」

 

潮「でも、こんなに大人数抜けて大丈夫でしょうか…?」  

 

ル級「そこは大丈夫デース。ちょっと付近の深海棲艦とオ話してきましたから!」

 

響「裏を返せば敵にここが攻め時だって言ってるような物だけどね」

 

ル級「ん?あぁイヤ、本当にお話してきたんデース」

 

大淀「そういえば私も何方がいらっしゃるか聞いていないのですが…」

 

ル級「ん〜。私も助けを呼ぶとしか聞いていないので詳細は未だ聞けて無くて…」

 

放送『緊急放送!鎮守府内に深海棲艦が侵入!現在埠頭にいる模様!鎮守府にいる艦娘は直ちに向かってください!』

 

 

突然の放送に皆が動揺する。しかしそれも数瞬の出来事で、皆が出来ることをする為に即座に行動を起こしていた

 

 

大淀「提督!緊急です!」

 

ル級「愛宕!」

 

愛宕「艤装の整備は大丈夫!」

 

潮「私、ここにいる人達に避難を誘導します!」

 

響「私も行こう。曙は愛宕達のサポートを頼んだよ」

 

曙「任されたわ!」

 

 

走りながら艤装を展開して現場に向かう愛宕達を見送り、私もすぐさま避難へと身を乗り出した

 

避難を行って数分。未だに砲撃は聞こえないが、まさか砲を持っていない敵だとでも言うのだろうか?

 

相手の姿が見えないだけに、不安だけが積もり始める。それは潮も同様だった

 

 

愛宕『響、聞こえる?』

 

響『聞こえてるよ。深海棲艦はどうなったんだい?』

 

愛宕『それが…』

 

響『?』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

レ級「イヤぁ…悪カッタ。まサか連絡がいっテナかったナンて」

 

提督『書類の中に無かったか?深海棲艦の一時的な鎮守府在中許可証ってやつ。それ作ったのが大分前だったから書類の下辺りに挟んであると思うけど』

 

大淀『…ありました』

 

 

大淀さんが書類の山から一枚の紙を出す。するとそこには提督が作成したと思われる書類が一枚出てきた。元帥の判子付きである

 

 

提督『レ級に被害は?』

 

大淀『彼女に被害はございません。そしてコチラも被害…無しといえば無しです』

 

提督『ん?まぁ、そうか。なら問題ない。今回の件は俺のミスによる所が大きいから、お前は気にするな』

 

大淀『…はい。申し訳ございませんでした』

 

提督『別に良いって。今度からは専用のケースでも作ってそこに深海棲艦の書類をまとめよう。それなら今後のミスは減らせるだろうからな』

 

大淀『承知致しました。直ちに準備します』

 

提督『頼む。それとル級に代わってくれ』

 

大淀『あ、分かりました』

 

 

ル級に通信を譲り、ドンヨリとしたと言っていい、見たことがないほどに落ち込んだル級が耳に手を当てて通信を試みる

 

直接の関係があったのはル級であった為、彼女なりに責任を感じているんだろう。それを分かっていたので、フォローの仕方が思い浮かばなかった

 

 

提督『ル級』

 

ル級『…はい』

 

提督『今回はお前の伝達ミスもある。が、正直相手の方も悪いっちゃ悪い。というか7割悪い。そして3割はお前の責任だ』

 

提督『何故3割なのか。その理由は分かるか?』

 

ル級『…相手からの連絡が来なかった事で相談をしなかった事。報連相(ホウレンソウ)をしなかったのが理由です』

 

提督『その通りだ。そしてそれは俺にも言えた事』

 

提督『今回の件、俺の勝手で迷惑をかけてすまなかった』

 

ル級『……』

 

 

ル級は答えない。その場にいる全員が答えられなかった

 

提督の責任もある。だがそれを認めてしまえば提督は更に自分を卑下して、その分自分を更に責めるだろう。それは出来なかった

 

でも…このモヤモヤした気持ちはどうしたものか

 

 

レ級『提督ってさ、ズルいよな』

 

提督『うっ…』

 

ル級『自分をそうやって責めてさ、自分が言われても大丈夫なレベルを話す事でそれ以上責められないようにしてるだろ』

 

レ級『自分でも薄々感じてるんだろ?そんなんじゃ何時まで立っても子供のまんまだぜ?』

 

 

…驚いた

 

的を得ていることもそうだが、まさか敵である深海棲艦からここまで人間らしい事を聞けるとは思ってもいなかった

 

どうして深海棲艦が産まれたのか。その答えに繋がるヒントが自分の中で出来上がっていき、同時にそれは理解したくないヒントだった

 

だって…それを認めてしまえば私は戦えない。戦いたくない

 

深海棲艦も艦娘と同じ人である。なんて、そんなの分かりたくはなかったんだ

 

 

提督『くぅ…その通りだな』

 

レ級『そういう時は自分から言わなくて良いんだよ。大人しく相手から叱られるのを待って、心ん中でそれを考えておけば良いんだからさ』

 

提督『…そうだな。教えてくれてありがとな』

 

レ級『礼ならデートで良いぞ?』

 

提督『考えとくよ。それより悪いが、今日一日は頼んだぞ』

 

レ級『あぁ!仲間も連れてきたから大丈夫だぞ!』

 

提督『えっ?』

 

 

レ級のその言葉と共に、提督からは見えないであろうが海に向けて指をさす

 

海面には普段見る深海棲艦の目の色だけでなく、黄色や赤色といった色も見えた。しかもそれは無数にある

 

目の数を数えるだけでも優に100は超えるだろう。そんなおびただしい深海棲艦が海面から顔を覗かせていた

 

 

艦娘『ひえぇ〜!?』

 

提督『ん?比叡?いやでも声が被る程なんておかしいしな…』

 

レ級『ぷははっ。大丈夫だよ。それよりここは任せてくれよな!』

 

提督『お、おう。じゃあ土産も買って帰るから』

 

レ級『やった!楽しみにしてるぞ!』

 

提督『あぁ。それじゃ皆、またなんかあったら呼んでくれ』

 

 

その言葉と同時に通信が途切れた。そして皆が真っ青な顔を互いに見合わせ、同時にル級の方へと振り向いた

 

 

レ級「食イ物が良いなァ〜。あ、デも、服とかも着てみタイしナぁ〜」

 

愛宕「ね、ねぇ。あの海にいる深海棲艦、皆あなたの仲間なの?」

 

レ級「ん?そうだゾ?」

 

愛宕「お、襲ってきたりしないわよね…」

 

レ級「ンー。流石に攻撃サレタら反撃して来るぞ。コイツがサレタみたいにナ」

 

 

そう言って尻尾を動かし、蛇のように巻き付かれて捕らえられている時雨が顔を出す

 

彼女はグッタリとしているが、外傷があるという訳ではない。というのもル級がやってきた時に深海棲艦の排除をしようと我先にと飛び出した所、呆気なく捕まってしまったのである

 

体を捻ったり、巻き付いてる尻尾を無理矢理離そうとしたり、色々な手段で拘束から抜け出そうとしていたが、結局は何も出来なくてあの通りだ

 

 

時雨(保全)「…命令」

 

レ級「私ハ敵じゃナイゾ」

 

時雨(保全)「……そうみたいだね」

 

愛宕「……え?」

 

天龍「…お、おいおい。何時もみたいに命令が〜って、動かないのかよ」

 

時雨(保全)「僕だって学ぶんだよ。ここに来たのだってそういう名目もあるんだからね」

 

 

初めてここに来た時の時雨に同じ事を聞かせたい。そう思ったのは自分だけじゃないだろう

 

 

時雨(保全)「というわけで、そろそろ降ろしてくれないかい?」

 

レ級「…そうだナ」シュルッ

 

 

蛇のように巻き付かれていたレ級の尻尾が時雨を解放した

 

その瞬間にも隙を狙って攻撃するのではないかと身構えていたが、意外にもその場を離れるだけだった

 

 

レ級「んジャあ今後の話をシタイんだが、ココにいルので全員カ?」

 

大淀「…いえ。一部の艦娘はまだ待機しています。何かあれば直ぐに伝言役としても飛べるように」

 

レ級「お、良い判断ダ。私達の様二友好的ジャない奴等は偽って接してクルコトもあるシな」

 

 

…嘘をついていたのがバレている。まるで心を常に見透かされているかの様に、考えていた事自体を丸ごと読まれてるみたいだ

 

 

レ級「イヤ、ソレは違う。正確にハ分かり易イ、或いは当たりヤスい推測と言ッた方が良いか?」

 

大淀「分かりやすい…?」

 

レ級「コの中だと…愛宕か。深海棲艦二近い存在ダヨな?多分私達と同じ事ガ出来るだロ?」

 

愛宕「……」

 

レ級「私達は感情二対しテ敏感ナンダ。特に暗い感情は特二ナ」

 

レ級「だかラ相手ガ考えテる事の流レヲ感情から読み取ッテ推測スる事が出来る。ま、それでもコレクラいの距離じゃなイト分かンナいんダケドな」

 

大淀「…ホントなんですか?」

 

 

どうにも信じられず、愛宕さんの方を振り向いて質問する。だけど質問するという選択を少し後悔し始めていた

 

苦虫を噛み潰したような、おでこに皺が寄ってキッとした顔。まるで隠し事がバレた時みたいな表情だ

 

そして隠し事というのは当たっていると直感的に思ってしまった。思いついた経緯は先程のレ級の説明により導かれたと言っても過言では無い

 

今聞かれたくないこと。それが何を意味するのかは、今までの経緯を考えれば思い当たる事があった

 

 

愛宕「えぇ。と言っても感情が他の人より分かる程度で、レ級が説明したみたいに相手の読みを当てるほどの力は無いわ」

 

レ級「ソリャソうダ。私ダってココまでに出来るの二苦労シタンだからな」

 

潮「あ、あの…」

 

愛宕「どうかした?」

 

潮「その、提督が何時からあんな事になってたか、知っていたりするんですか?」

 

 

潮ちゃんの発言に皆が愛宕さんへと意識を向ける。しかし彼女の顔は依然として変わらない

 

少しだけ顔に迷いが生じ、悩みの表情へと変化していく。そして悩みというべき顔は次第に苦悩の表情へと変わっていくのだった

 

 

レ級「言いニクいナら言わなクテイイだロ?何をソンなに悩んでルンダ?」

 

愛宕「…そう簡単な事じゃないのよ。あの人の場合はね」

 

レ級「フーン…」

 

レ級「ダトさ。潮モ聞くのハヤメてやレ」

 

潮「は、はいっ!」

 

ル級「何だか気が狂いマスネー」

 

 

気楽な感じで答えるル級に対し、貴方には言われたくない。ここにいる艦娘皆が思ったであろう言葉を最後に、その場は無事に解散となった

 

…ただ一つ、レ級を信用して良いのかという疑問符つきだが

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時雨(保全)「明日、司令官のお出迎えですが私も出てよろしいでしょうか?」

 

大淀「勿論です。その時にコチラの時雨も合流いたしますので、良ければ交流でもしてみてはどうでしょう?」

 

時雨(保全)「了解しました」

 

 

素早く敬礼を返して部屋から退出をする。その動きには未だ初めてここに来た時と同じく少しのブレもないものであったが、性格は少し柔らかくなったように感じていた

 

 

大淀「さて、後の仕事は遠征予定の潮…ちゃんはいなかったんですね」山風ちゃんに変更でした

 

大淀「…やっぱりこうしてみると艦娘の数が少なすぎますね。提督に建造のお願いでもしましょうか」

 

ドア『大淀さん。今大丈夫なのです?』コンコン

 

大淀「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

電「失礼するのです」

 

 

丁寧にドアを開き、そっとドアを閉める電に対し、こちらも心を引き締める

 

常日頃から物事の一つ一つを重視する私達軍人にとってはドアの開閉にも意識を向けるのは至極当たり前の事であるが、私達の鎮守府では仕事以外の用事である場合はそこまでの固い感じではなく、まるで気を許した友人の部屋に入るかの如く簡単にドアを開けて入る

 

それは初期艦である電ちゃんも皆のリーダー的な立ち位置であるため、彼女も同じことをするのだが、今回の様に真面目にやる場合は基本的に何かの仕事関連である

 

仕事モードに切り替えるべく、心に帯をするかのようにキュッと引き締め、意識をしっかりと彼女へと向き直した

 

 

電「この後ある山風ちゃんの向かう遠征ですが、そこに島風ちゃんを入れて頂きたく意見申請に参りました」

 

大淀「島風ちゃんを…ですか」

 

電「はい。理由として最近上がって来た報告書なんですが…」

 

大淀「具体的な名前は?」

 

電「民間人による海域侵入について」

 

大淀「あ、アレですね」

 

 

山積みになっている書類の山から積んでいたであろう場所を思い出してガサガサと探す

 

幾つかに分割して探すと意外にもすぐさま見つかったのでその書類を確認する

 

 

書類『許可なく漁船に乗って近海で漁を行う民間人がいます。中には解放されていない海域にまで乗り出す者もいるので、すぐさま引き返す様に先導。或いは艦娘による曳航(えいこう)を行い、陸までの帰投をお願いいたします』※曳航(えいこう)・・・船を引っ張って目的地へと運ぶ事

 

 

何故許可を得ずに漁業を行おうとするのか。艦娘の護衛ありきでの漁業はこれといった規制や契約などは無く、護衛によるお金の取引だってこれといって掛かっていないはず。だからこそこの報告を疑問に思い、良く覚えていた

 

 

電「そこに記載してある場所なのですが、山風ちゃん達の遠征ルートと被るのです」

 

大淀「あ、確かに…でも、これがどうして島風ちゃんと繋がるんでしょうか?」

 

電「島風の人望に訴えかけてみようかと思いまして」

 

 

…電ちゃんも提督に似てきた気がする。根拠らしい根拠は微塵も感じないのに、何処かうまくいきそうな感じがする。そう思わせてしまう声のトーンで話してくるから、思わず了承してしまいそうになる

 

 

大淀「流石にその理由じゃあ…」

 

電「流石にそれだけが理由じゃないのです。正確には島風ちゃんが持っている電探を使用したいと考えてるのです」

 

大淀「…なるほど。そういうことですか」

 

 

提督がいない今、私達だけで装備の変更は出来ない。その為装備は皆が今装備しているモノを使用する事になっているのだが、唯一電探を装備しているのは島風ちゃんだけであった

 

電探であれば船を探す事が可能になる。時には目視によって探すよりも、速力もある彼女にやってもらうには丁度良いはずだ

 

 

大淀「分かりました。早速コチラで連絡しておきますね」

 

電「はい。ありがとうございます」

 

 

失礼しますと言って部屋から退出する電。こういった事は前任の頃では考えられない事である為、かなり新鮮さを感じていた

 

…提督もこういった感情になるのでしょうか。少しだけ分かるような気がします

 

 

放送『島風さん、山風さん。次の遠征について連絡事項がございますので、執務室までいらしてください』

 

 

放送を終えて自分のいた座席へ戻ろうとすると、廊下の方からドタドタという足音が聞こえてきた

 

すぐさま執務室の扉がバンッと音を立てて扉が開き、限界まで開いた扉は少しギシッという音が鳴った

 

 

島風「駆逐艦島風!ただいま参りました!」

 

大淀「島風ちゃん。ドアはゆっくりと開けてください。後廊下は走らないように」

 

島風「あっ、ごめんなさい…」

 

山風「あの…駆逐艦山風。召集に応じて参りました」

 

大淀「遠征の準備でお忙しい中呼んでしまってごめんなさい。実は山風ちゃんの遠征に島風ちゃんを入れたくて呼んだんです」

 

山風「あっ、はい。了解しました」

 

島風「分かりましたっ!」

 

大淀「それで、装備に関してなんだけど、島風ちゃんは今の装備(主砲・魚雷・電探)のままで良いから、遠征に向かってね」

 

島風「今って…出撃の装備だけど良いんですか?」

 

大淀「はい。遠征中に深海棲艦に出くわすかも知れないですから」

 

島風「なるほど。分かりました!」

 

山風「でも、そうなると時雨の装備って…確か主砲と魚雷だったよね?」

 

大淀「時雨さんが本来は護衛としている予定でしたから。少し過剰戦力になってしまいますが、備えあれば患いなしって言うじゃないですか」

 

山風「消費が上回らなければの話…」

 

大淀「…そこを突かれると痛いですね」

 

 

遠征組

・山風(旗艦)

・時雨

・雷

・島風

・天龍

 

 

大淀「天龍さんも参加しますが、今回は後方に回ってもらうので装備はドラム缶のみとなっております。なので島風ちゃんと時雨さんのお二人が重要となってきますので、頑張ってくださいね」

 

島風「はいっ!」

 

山風「分かりました」

 

 

二人に時間と場所を伝え、今度は敬礼と安心出来る笑顔を返してくれた。しかし、何か忘れているような…

 

 

山風「そういえば、どうして島風を舞台に入れたんですか?」

 

大淀「あっ、そうでした。遠征で島風ちゃんを追加した理由なんですが、実は漁船が遠征で向かうルートと被る可能性がある為です。島風さんの持つ電探で探してもらおうと思いまして」

 

大淀「発見出来た場合は島風ちゃんと天龍さんが接近をして帰還する様に説得。それでも帰られない用であれば、多少強引ですが、そのまま陸まで曳航をお願いします」

 

島風「…お、怒られたりしないですよね?」

 

大淀「う、う〜ん…ちょっとそこは分からないですね…」

 

山風「……」

 

 

二人の顔に影が差す。だけど山風の方には後ろめたさが感じられた

 

心当たりがある。そんな雰囲気を感じずにいられなかったが、聞かれたくないと語る目に押し黙ってしまった

 

 

山風「…念のため、艦隊とまではいかなくて良いので数名の艦娘を待機させてもらえませんか?」

 

大淀「分かりました。他に何か用意出来る事はありますか?」

 

山風「私の元居た鎮守府。あそこに連絡を取ってください。おそらく今回の事で力になってくれると思います」

 

大淀「はい。了解です」

 

 

山風ちゃんがここまで自分の意見を言うのは初めての事。それが隠し通そうとしている物事の厄介さを感じさせていた

 

二人が敬礼をして部屋から出る瞬間、ドアが閉まる直前に山風ちゃんの口が動き、何かを言っていた

 

ごめんなさい。口パクではあったが、謝罪の言葉であったのはハッキリと理解した

 

今回の遠征は必ず何か起こる。そんな予感を思いつつ、私は電話を手に取った

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