この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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我儘を言うなら文句を聞け

山風「じゃあ、いってきます」

 

大淀「いってらしゃい。皆さん気を付けてくださいね」

 

 

遠征組

・山風[旗艦]

・時雨(保全)

・雷

・島風

・天龍

 

 

山風ちゃんに続くほか四人にも同じくエールを送って見送った

 

ドラム缶がユラユラと海の上で揺れながら転倒しない様にしっかりと括り付けた紐で曳航させている

 

やがて姿が見えなくなる位に遠くへ行った時、足元から一人の深海棲艦が顔を出していた

 

 

レ級「…イイなァ」

 

大淀「何がですか?」

 

レ級「仲間ト協力スルの、イイなト思ッテさ」

 

大淀「貴方達だって隊列を組んでやってくるじゃないですか」

 

レ級「ソレはソウなンダガ、そこニ仲間意識ハ無イ。タダ必要だかラ組ンでいル」

 

大淀「それは…ちょっと寂しいですね」

 

レ級「…アイツもソウ言うのカナ」

 

大淀「はい?」

 

レ級「…ヤ。ナんでもナイ。要ラナい世話ダッた」

 

大淀「は、はぁ…」

 

レ級「あ、ソウソウ。チョット言う事ガアッたンダ」

 

大淀「え?」

 

レ級「実ハ同族ノ子供ガ最近人間二誘拐サレタラシクテナ。ココラ付近ノ深海棲艦達ガイキリタッテルカラ気ヲツケテクレ」

 

大淀「…え?」

 

レ級「ト言ッテモソイツ等ハ敵対派閥ダカラナ。私達モ探シテハイルンダガ、正直ソコマデ乗リ気ジャナイ」

 

大淀「……その報告が来たのは何時ですか?」

 

レ級「丁度2時間位前ダ。デモ別二大シタ事ジャナイダロ?」

 

大淀「海域は?」

 

レ級「エット…確か南西諸島海域だっタかな。デモソレがドウカシタノカ?」

 

 

不安と思考が脳内で渦巻いている

 

常に最悪を想定するべきだと考え、すぐさま脳内で南西諸島海域の敵をリスト化し、遠征に向かった皆に対して脅威と言える相手を脳内でリストアップしていく

 

空母のヲ級、戦艦のル級、重巡のリ級。今の皆で苦戦を強いられる敵と言えばこの三体だ

 

時雨や島風ちゃん達の魚雷では完全に装甲を抜くことは出来ない。砲撃の火力は改造された艦娘の水雷戦隊だとしても物足りない。せめて夜戦にまで持ち込めれば良いが、遠征でそんなに時間を掛けてはいられない

 

本来時雨だけで十分だと考えた所を島風ちゃんも加えての遠征であったが、そんな報告を聞いてしまっては戦力不足だと思ってしまった

 

もし万が一、深海棲艦達と衝突してしまったら…

 

 

大淀「…これは、山風ちゃんの想定が当たりそうですね」

 

レ級「別ニ放ッテオケバ良いンジャナイカ?第一敵同士ナンダカラサ」

 

大淀「そうかも知れません。ですがその影響で深海棲艦の動きが活発化しているとなるのなら話は変わってきます」

 

大淀「もし万が一深海棲艦に遭遇してしまえば、今の皆さんの装備では流石に無理です。戦えても精々敵一隻を撃退するのが関の山で…」

 

レ級「イヤぁ。ソイツはどうダロウな。私達は離レタ所デモシッカリと通信が出来るんだぜ?」

 

レ級「第一探し物をスルのに纏まってどうスルンだよ。普通は手分ケしないカ?」

 

 

……確かにその通りだ。最悪の想定ばかりし過ぎて肝心な点を見過ごしていた

 

 

レ級「ま、そレに会うトハ思えなイシナ。南西諸島海域って言ッテモ本土カら距離が遠く離れテイルシ、波に攫わレデもシナイ限り遠クヘ行クのは不可能だ」

 

大淀「…攫われる?」

 

レ級「ン?」

 

 

直感的に嫌な予感がした。だけどそれはどう考えても馬鹿げているし、何故そんな事をするのかという理由さえ思いつかない

 

しかし確信に繋がるピースは幾つか存在した。山風ちゃんの進言と、人が海域に出て艦娘も護衛に付けない漁。この二つが繋がっている気がしてならなかった

 

思考は可能性でしかない問題を確証のある問題へ導ける様に思考し、足は執務室へと向かう為に急ぐのであった

 

向かう途中の時間でさえも無駄には出来ない。すぐさま通信をしようと耳に手を当て、回線を開いた

 

 

大淀『皆さん。通信は聞こえていますか?』

 

山風『聞こえてるよ。どうしたの?』

 

大淀『先ほどレ級さんから気になる事を聞きました。内容としては、皆さんが向かう南西諸島海域にいる深海棲艦の行動についてです』

 

天龍『行動?』

 

大淀『深海棲艦が子供を探しているとの事らしく、もしかしたら私達が知る行動範囲を離れる個体が現れるかも知れません』

 

天龍『…子供かぁ』

 

雷『何気に凄い事聞いてるわね。卵生じゃないのかしら』

 

島風『成長も結構早そうだよね』

 

山風『のんきすぎ…』

 

大淀『万が一遭遇しても戦闘は行わずに撤退してください。そして漁船を発見した場合は曳航を行う前に、必ず搭乗者と物品を確認してください』

 

山風『分かった』

 

 

海域に無断で侵入をする様な輩だ。もしかしたら何かしらの犯罪行為を行っているのかも知れないし、それを確認する為にも調査は必要だろう

 

もしそれが人身売買であった場合、私達は救助しなければならない。例え相手が過去に戦った敵対国であったとしても、それが救助を行わない理由にはならないだろう

 

 

時雨(保全)『何を考えてるか分かったけど、そこまでする必要あるかい?』

 

大淀『…いえ。提督ならこうするだろうと考えての事です』

 

時雨(保全)『了解』

 

 

そのまま通信は途切れ、執務室へのドアを開いて電話を手に取り、電話を取った反対の手には山風ちゃんのいた鎮守府に対しての番号を記載したメモを掴んでいる

 

事は急を要するかも知れない。そんな考えに背を押されながらボタンを押していく

 

 

???『もしもし?』

 

大淀『突然のお電話申し訳ございません。こちら一二三トラック泊地鎮守府の大淀です。こちら八九トラック泊地鎮守府でお間違い無いでしょうか?』

 

???『合ってるわよ。確か山風を引き取っていった変わり者提督の。どうかした?』

 

大淀『最近海域に民間人が侵入しているというお話についてなのですが、そちらの方で何か知ってることがあれば情報を共有して頂きたいと思い、お電話しました』

 

???『…電話を使ってまで話すことなの?それとも緊急用件?』

 

大淀『今はまだ未確認ではあるのですが、民間人が海域に侵入した可能性があるんです。これに何かしらの心当たりがありませんか?』

 

???『その理由は?』

 

大淀『深海棲艦の活動が活発になっているという報告を受けています。もしかしたら民間人の侵入と何か関係があるのかと考えてはいるのですが、完全に詳しい事までは把握しておりません』

 

???『…ある程度の目星はついてるのね』

 

???『分かったわ。教えてあげる。ただ、お願いだから機密にしてよ?』

 

大淀『はい。了解いたしました』

 

???『昔ウチで深海棲艦の子供を利用した実験をしててね。それをどこから聞きつけたのか、ある日子供を攫ってきた人間が来たのよ』

 

???『口止めや何やらでお金を渡してね。それがどう伝わったか知らないけど、あそこに深海棲艦の子供を持ち込めば金に換えてくれる。なんて馬鹿な思い違いをした奴等が現れだしたのよ』

 

???『おかげで一時期海域にまで出てくる民間人が出てきて、やっとの思いで解決したと思ったのに…何でまた出てきたのかしらね?』

 

大淀『……』

 

???『あれ?もしもーし?』

 

大淀『…子供、ですか』

 

???『なんだ、いるじゃない。それがどうかしたの?』

 

 

今、私の心は渦巻いている

 

深海棲艦のルーツを知る為に子供を使うのは当然だと思う考え

 

子供を利用するのはあり得ないという、強い拒否感から生まれる気持ち

 

前の私なら対して考えもしなかったであろう、相反する思考と感情から打つべき手を模索する

 

しかし、何一つ考えが思い浮かばなかった

 

 

大淀『…その、どうしたら良いんでしょうか』

 

???『え?』

 

大淀『分からなくて…すみません。でも、分からなくなってて…えっと、だから…』

 

???『落ち着きなさい。1回深呼吸でも入れなさいな』

 

大淀『あっ、は、はい』

 

???『とりあえずそっちの事は分かった。貴方が電話してきたのも、現状提督が出られない状況って訳なんでしょ?』

 

???『今の鎮守府で全権は貴女にある。貴女の判断一つで提督を喜ばせる事も悲しませる事もあるってのを理解しなさいな』

 

大淀『す、すみません』

 

???『で、それを踏まえた上で言わせてもらうけど、コチラとしてはやれる事は特に無い。強いて言うなら私達はそんな事をしていないと民間人に対して話す事くらいね』

 

大淀『…そう、ですよね』

 

???『ただ、提督としてアドバイスをさせてもらうと、現場で困る判断があるのなら私達(提督)に投げてもらいたい。そう言わさせてもらうわ』

 

 

混乱で混ざり合っていた思考の中に一本の道が作られたの如く、一気に頭の中が整理されていく

 

 

大淀『…すみません。ありがとうございます』

 

???『別に構わないわよ。ところでそっちの提督は何で出られないか聞いても良いかしら?』

 

大淀『あ、今はお休み中で…』

 

 

一瞬の間。「す」という終わりの単語を話そうとした0.5秒にも満たない僅かな時間。次に聞こえてきた飛ぶ様に大きな声は

 

 

???『他所を頼る前に自分の上官に連絡くらい入れなさい!!!』

 

大淀『すっ、すみません!』

 

 

心底呆れたような叱責であった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

推進力によって跳ねる海水が冷たく感じる遠征帰り。無事に目的を果たして資材を確保したのは良いものの、出発前に大淀から警告された一つの注意

 

予想外の行動を起こす深海棲艦アリ。それはつまり、今の自分達にとっては強敵である敵と鉢合わせるかも知れないということだ

 

もし自分達が勝てるとしたら重巡か空母だ。戦艦が相手となると、高い火力と装甲によって攻撃を続けられ、負ける事はないだろうが勝つ事も無いだろう

 

それに海域侵入した民間人が深海棲艦に襲われていないかも心配だ。もし何かあったとしても助けられないかも知れないし

 

 

山風「止まって」

 

 

号令をかけて全員で立ち止まる。理由としてはここらで見たことの無いものが海の上にいたからだ

 

漁船だ。小型ではあるものの、人が複数人いても余裕を持って乗ることが出来そうではある。馬力も多少ありそうだ

 

そんな漁船が走っている。しかもかなりの速さで

 

漁船の走る後ろに目をやると、鬼気迫る様子のル級が漁船を追いかけていた

 

その光景に襲われていると分かる。だが致命的におかしな点があった

 

攻撃をしていない。それはただ捕まえようと追いかけているだけで、自分の武器である砲門を利用しての攻撃を行っていないんだ

 

 

雷「助けないと!」

 

山風「待って。先に二手に別れるよ」

 

雷「どうして!?あのままじゃ何時攻撃されるかも分からないのよ!?」

 

天龍「気持ちは分かるが落ち着け。何か考えがあるんだよな?」

 

山風「うん。時雨、島風、雷の3人は漁船を近くの島まで誘導。その後は護衛として漁船に張り付いてて」

 

天龍「つーと、俺達はル級だな」

 

山風「うん。理由は分からないけど攻撃してないみたいだし、もしかしたら話を聞けるかも」

 

島風「了解!二人共気をつけて!」

 

山風「それと島風、主砲を貸してもらえる?」

 

島風「魚雷は?」

 

山風「一先ず牽制としてみる。魚雷だとそっちの防御が薄くなっちゃうし」

 

島風「分かった。気をつけてね」

 

山風「じゃあ行動開始。漁船とル級の間に割り込んだら、三人はそのまま島まで曳航してて。その後は指示があるまで待機」

 

 

それに三人が頷いたのを見て行動を開始する

 

まずは自分が先頭に立って真っ先に漁船とル級の間に割り込み、砲門をル級に向けて静止をかける

 

そのタイミングで時雨達によって島への曳航を開始。そこまで把握して、ようやく相手の方へと話を聞こうとしたが、先程とは打って変わって砲門をコチラに向けて砲撃してきた

 

普段の様に山を描いて飛んでくる砲弾と違い、水平に飛んでくる砲撃をギリギリの所で回避する

 

 

天龍「山風っ!」

 

山風「大丈夫。当たってないよ」

 

時雨(保全)『コチラ時雨。戦線から離脱したので今から島への曳航を開始する』

 

山風『コチラ山風。曳航を一時中止。至急漁船の調査を願う』

 

時雨(保全)『時雨了解。コレから調査に移る』

 

 

通信を切り、目の前の敵にと意識を傾ける

 

先程は攻撃をせずに漁船を追っていた。しかしコチラが割り込んだ瞬間に攻撃をしてきた

 

ということは目的は漁船への攻撃ではない。恐らく何か漁船へ攻撃出来ない理由があったのだろう

 

自分の知識と現場の状況から理由を考える。そこで一つの結論に落ち着いた

 

 

時雨(保全)『コチラ時雨、見つけたよ』

 

雷『これ…本当に…?』

 

島風『稚魚みたいなイ級やロ級。それに赤ん坊みたいな深海棲艦…多分ホ級かリ級だと思う』

 

天龍『はあっ!?マジで言ってんのか!?』

 

時雨(保全)『どうする?ここで殺しておく?』

 

雷『ちょっと!?』

 

時雨(保全)『危険な芽は早めに摘んでおくに限るよ。それが毒花と分かってるなら尚更ね』

 

山風『駆逐艦雷、至急提督に連絡を行い、指示を仰ぐようお願いします』

 

雷『雷了解。ただ今より提督に通信を開始。急を要するので通信はこのまま全体発信とします』

 

 

通信にノイズが走って待つ間はのんびりとしたい所だが、相手の方はそうはいかないらしく、戦艦の強みである長距離からの攻撃はせずに突っ込んでくる

 

事情は何となく察しはしたので、すぐさま敵意が無いことを伝えようとしたが、それでも勢いは衰えることは無い。最早コチラが何をしても敵対行動として見てくることだろう

 

どうする?ここで自分達が道を譲っては後ろにいる皆の方向に移動してしまう。かと言って攻撃してしまえばそれはもう戦闘になってしまう

 

どうにかして回避しなければならない。けどどうやって…!

 

 

天龍「山風!当てなくて良いからお前は砲撃してくれ!」

 

山風「…本気なの?」

 

天龍「良いからやるんだっ!俺も数秒だけなら食い止められるから!」

 

山風「分かった。倒れないでね」

 

 

そう言い終わるとニカッとした笑顔をコチラに向け、すぐさま真剣な目になってル級に突撃しだした

 

自滅する気かと思ったが、天龍がそんな事をするとは思えない。すぐさま思考を不安から期待へと変え、天龍に当たらない様に2人の周りに向かって砲撃を行う

 

打ち上がった水が2人だけの道を作り、正面切ってのぶつかりあいが行われた

 

ル級の砲門がただ真っ直ぐに天龍へと向けられ、砲撃の轟音と共に弾は天龍に目がけて飛んでいくも、瞬間的に速度を上げ、更には体重移動も組み合わせた移動とスウェイでギリギリの回避を行っていた

 

弾は私の横を掠めてすぐさま後ろの海へ着水する。水飛沫が横から飛んできて、その勢いが先程の攻撃の強さを物語っていた

 

しかし一発撃った。なら再装填するまでの間は天龍も好きに動ける。もし何かするとしたら今しかない

 

天龍がル級に超近距離まで接近し、そのままル級の腕を掴んみ、足を引っ掛けてル級を転ばした

 

海を背にして転ぶル級に対し、天龍が上から押し付ける様にしてル級に覆い被さる。柔道の寝技の一つ、抑え込みである

 

だがそれだけではル級に敵わない。何故ならル級本人が戦艦であり、そのパワーによって簡単に解かれてしまうと予想していた

 

その考えを肯定するかの様に、ル級は腕を上げて天龍の艤装を持ち上げて無理矢理引き剥がす。しかし天龍はそれを読んでいたのか、艤装を解除した

 

冷たい汗が背筋を伝い、伝った所から熱が冷めていくのを感じていた。それは最早自殺行為でしか無かったからだ

 

艤装を解除してしまえば私達だって弱くなる。それこそイ級相手に武器も持たずに突っ込んでいくようなものだった

 

艤装が消え、ル級の剥がしから身を守った天龍の次の行動は目つきだった

 

 

ル級「グアアァァッ!」ブンッ

 

天龍「うおっと!」バッ

 

 

ル級を踏み台にするかの様に飛んで回避をし、空中で艤装を展開することで再び海を踏んで着地する。僅か一瞬の出来事であったが、とてもヒヤヒヤした

 

 

山風「何してるの!?」

 

天龍「ヘヘッ。一発食らわせてやったぜ」

 

山風「こっちは出来るだけ穏便に済まさなきゃいけないのに…!」

 

天龍「深海棲艦だしちょっと位は大丈夫だって。それよりも早いとこ提督と連絡が取れてて欲しい所だが…」

 

提督『テステス。全員聞こえてるか?』

 

天龍「おっ。良いタイミングだ」

 

山風「天龍!ル級が来るよ!」

 

天龍『コチラ天龍!ただいまル級と交戦中!至急指示を頼む!』

 

提督『了解。ル級から全員一時離脱。殿は天龍。漁船を近くの港まで曳航し、民間人の安全を確保せよ』

 

天龍『天龍了解!山風を離脱させる!』

 

 

天龍の声に焦りと興奮が入り混じった声で答えた。それに伴い、私も急いで戦線を離脱して皆と合流するべく向かう事になった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

天龍『コチラ天龍。ル級を振り切れそうにない。可能であれば応援を頼む』

 

島風『コチラ島風。港までの距離はおよそ28km。到着まで約45分程掛かります』

 

司令官『了解。旗艦山風は漁船を港まで曳航し、旗艦を天龍に委託。積荷は全て近隣の島にて降ろし、問題となっている物品についてはドラム缶に詰め替えを実施せよ』

 

山風『コチラ山風、了解。今より離脱する』

 

司令官『随伴艦は天龍と合流。ル級を撃破し、身の安全を確保せよ』

 

雷『ち、ちょっと待って!』

 

 

思わず静止をかけた。想定もしていなかった返答に思わずショックを受け、司令官ならばこうするだろうという考えを突き抜けて来た為だ

 

まさか大淀さんから話を聞いていないのだろうか?しかし、だとしたら違法物という単語が引っ掛かる

 

 

司令官『なんだ?』

 

雷『そのっ、ル級を撃破するのは待って欲しいの!』

 

司令官『…理由は?』

 

雷『えっと、理由は…』

 

 

頭をフル回転させる。しかし先程のショックもあってかあまり言葉がまとまらない

 

早く何か言わなければ。頭では分かっているものの、それが更に焦りを加速させていた

 

 

島風『コチラ島風。理由としてはル級の行動にあります』

 

司令官『なるほど。具体的には?』

 

島風『ル級との遭遇時、ル級は漁船を追いかけていました。しかし漁船に攻撃は行わず、ただ追いかけていた事から何かしらの目的があっての行動だと思います』

 

司令官『だからその行動を明らかにした方が良いと?』

 

島風『はい。その証拠とおぼしきものはコチラで確保しています』

 

司令官『で、何を掴んだんだ?』

 

島風『子供です。深海棲艦の子供が隠される様な形で漁船に積んでありました。搭乗員が何故捕獲していたかは分かりませんが、ル級の行動は恐らく子を守る為に起こした行動と思われます』

 

司令官『……そうか』

 

 

しばらくの間が流れる。その数秒がとても長く感じ、戦闘中の天龍でさえ、今のやりとりに耳を傾けているのが分かった

 

そして司令官の決断が下される。その決定に皆が自分の耳を疑う結果となった

 

 

司令官『まずは子供をドラム缶に移し替えろ。移動しやすくする為にな』

 

司令官『そして子供をル級の前に連れ出せ。そこで取引しろ』

 

島風『…取引とはどういった内容でしょうか?』

 

 

嫌な汗が流れる。どうにも嫌な予感が背筋を伝い、一瞬だけ身震いした

 

聞きたくなかった。そんな声で話す司令官を信じたくなかった

 

 

司令官『子供をル級に差し渡して一時停戦。ル級が背後を向いた瞬間に魚雷で沈めろ。子供も可能なら沈めて構わん』

 

島風『っ!どうしてっ!?』

 

司令官『敵だからだ』

 

 

敵。頭では分かっていても、鎮守府にいるル級やヲ級が頭にチラつき、通信向こう側にいる提督の存在を疑った

 

どうして今までの行動を返す様な事を言うのか。どうしてそんな事が言えてしまうのか

 

司令官の行動が、司令官の心境が、全てが良く分からない。あまりにも乱暴で、以前大将の所で垣間見たあの時の司令官が脳裏をよぎった

 

 

司令官『大方俺に話せば何か策を取ってくれるかと思ったのか?舐めんな』

 

司令官『ソイツが敵かどうかは俺が決める。そして敵だと決めた。それだけの話だ』

 

雷『でもっ!』

 

司令官『お前等以外がどうなろうと知った事じゃ無い。今の装備じゃル級を正面切って倒すのは難しいだろ?だから不意打ちで沈めろと命令したんだ』

 

 

…正論だ。確かに今の私達は遠征用の装備で、まともに戦えるのは島風と時雨だけだ

 

だが同時に暴論でもある。わざわざ敵でないと判断を下した深海棲艦を受け入れたりもしてるのに、子供を探しに来た深海棲艦を敵として撃破しろだなんて、いきなりそんな事を言われても出来るわけが無い。そんなのを受け入れられる訳も無かった

 

 

天龍『ふざけんな!そんな事受け入れられるかよ!』

 

司令官『じゃあどうする?死ぬか?』

 

 

死ぬ。そこまで言ってくるとはまさか思わず、頭を殴られた様な強いショックを受ける

 

それと同時に皆と合流したが、皆が一同に暗い顔。失望と言っても良い顔をしており、多分自分もあんな顔をしているのだろう

 

 

島風『…提督。お願いだから…助けてあげて』

 

 

絞るように声を出す島風。まるで僅かに残っている水を絞り出すかのように、残り僅かな少しの信頼を乗せての声だった

 

 

司令官『駄目だ。出来ないというのなら逃げろ』

 

 

………えっ

 

逃げて良いの?いや、その選択肢をとっても良いの?

 

確かに司令官は戦えとは言ってはいなかった。ただその状況を乗り切ろうとはしていたが、それならばやりようは『ただし』

 

 

司令官『子供は殺せ。逃げるのに邪魔だ』

 

雷『ふざけないでっ!』

 

司令官『知るか!』

 

 

…酷いじゃない

 

 

司令官『時雨、お前に命令だ』

 

時雨(保全)『ハッ』

 

司令官『もし味方の誰かが敵の攻撃で負傷した場合、即刻子供を撃て。かすり傷程度のものであろうとな』

 

時雨(保全)『恐らく抵抗があると思われます』

 

司令官『その時はソイツ毎撃っていい。沈まない程度に撃ってやれ』

 

時雨(保全)『了解』

 

司令官『それとコレも伝えておく。恐らく後30分も経たない内に応援が駆けつけるだろう』

 

司令官『のんびりと過ごすのはそっちの勝手だが、時間もあるという事を忘れるな』

 

天龍『……』

 

司令官『通信はそれで全部か?』

 

天龍『…はい』

 

司令官『そうか。なら通信を終える前に一つ教えておく事がある』

 

司令官『夢を見るのは勝手だ。しかし出来ない奴が行動するのは周りにとって迷惑でしかない。邪魔だから死んでほしいってまである』

 

司令官『結果で答えろ。それが全てだ』

 

 

それを最後に通信が消えた。それに皆が涙を流し、歯を食いしばって怒っていた

 

一先ず子供を連れて天龍の所まで戻ろうと、隊列を組んで天龍の元へ向かった

 

その道中も皆の顔が変化する事は無かったが、それでも隠し切れない程の裏切られた悲しさに顔に陰を落として泣いていた

 

やがて遠くに天龍の背中が見え、未だ進ませまいとル級を相手に戦闘を繰り広げていた。だけどその動きは何処かいいかげんにも思えた

 

 

天龍「クソがっ!」

 

ル級 ビクッ

 

天龍「助けたいから助けて何が悪いんだ!お前も散々同じ様な事をしてきた癖して何言ってんだ!ざっけんじゃねぇぇ!!」

 

天龍「迷惑だの死ねだの知ったことか!こっちは最善を尽くそうとしてるだけなんだよ!」

 

雷「…すっごい声ね」

 

時雨(保全)「溜まってたんだろうね。何だか分かる気がするよ」

 

 

呆れ顔で言う時雨だが、実際私も天龍と同じ様な気持ちだ

 

しかしどうする?逃げる為にはル級と深海棲艦の子供達が。戦うとしたらまず負傷は避けられず、時雨による攻撃で子供達が

 

更には時間制限付きともきた。コレではもう…

 

 

山風『コチラ山風。旗艦天龍に提案』

 

天龍『コチラ天龍。用件は手短に頼む』

 

山風『コチラ側が一切の負傷を負わず、この状況を維持するのはどうでしょうか?』

 

天龍『…詳しく頼む』

 

山風『まず30分後にやってくる応援ですが、どちらの応援でしょうか?』

 

天龍『艦娘じゃないのか?』

 

山風『それでしたら誰が来るか具体的に話す筈です。しかしそこは話さずに応援が来ると言っていただけなので、深海棲艦側の応援である可能性があります』

 

天龍『それなら尚更不味い事になる。それは愚策じゃないのか?』

 

山風『いいえ。コチラの敵意が無いことを判断してもらえば、まだ可能性はあります』

 

天龍『……』

 

山風『それに提督はこうもおっしゃっていました。結果で答えろと』

 

天龍『…あっ!』

 

 

衝撃が身体を走った。瞬間、行き詰まっていた思考が次第にクリアになっていき、様々な事が考えられる様になってくる

 

 

山風『確かに私達が負傷してしまえば、提督の命令を受けた時雨が深海棲艦の子供を撃つ理由ができ、事態の仲裁に失敗してしまいます』

 

山風『しかし負傷さえ負わなければ時雨は深海棲艦を撃つ理由は無くなります。そうすれば僅かではありますが、まだ交渉出来る余地は残されていると思います』

 

山風『敵が増える事によって被弾率はより高まる事とは思います。ですがその中で一人でもこちらに敵意が無いと分かれば結果は分からなくなるかと』

 

 

分の悪い賭けだ。しかしそれは天から下げられてきた蜘蛛の糸の様な、確かにある解決への糸口でもあった

 

天龍と合流し、一時的にドラム缶に入れている深海棲艦の子供と共にル級の前へと立つ。すると感覚的に子供が側にいる事が分かっているのか、僅かに興奮しているのか身体が震えていた

 

 

天龍「お前等、いけるな?」

 

島風「いけます!」

 

雷「勿論!」

 

天龍「時雨、お前は?」

 

時雨(保全)「協力するよ。わざと自分が負傷する事もしない。ただし、誰かが負傷したら迷わず撃つからね」

 

天龍「あぁ。分かった」

 

天龍『コチラ天龍。山風の提案を受理。ただいまより行動を開始する』

 

山風『…皆、頑張って』

 

天龍「いくぞ!全員覚悟を決めるんだ!」

 

全員「了解!」

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