この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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人や物事は第一印象で決まる

朝 0730

 

 

「遠路はるばるお疲れ様です」

 

保全「出迎えご苦労様。時雨はどうだった?」

 

「その事で幾つか報告がありまして…」

 

保全「…分かったよ。とりあえず執務室にでも行って話をしようか」

 

「あの、時雨は?」

 

保全「時雨ならあとから来るよ。やらせておきたいことがあるし」

 

「了解しました」

 

 

並んで立ち歩く男二人。自分とガタイはほぼ変わらず、顔も何処か優しげな男をしているこの男。初めて出会った時はまくし立てるように話してきたが、今はそんな面影を感じさせない程に静かだった

 

横目に顔を見ても無表情のままで何も変わらない。しかしコチラの視線に気づくと優しく笑顔を見せてくれた。イケメンだった

 

自分に男の趣味は無い。男の娘であるなら性的なとまではいかなくとも恋愛するのなら可能ではあるが、それでもやっぱり女の方が良い

 

…しかし先程から顔を見られると若干の寒気がする。少しだけ用心しておこう

 

 

「あまりいい部屋でおもてなし出来なくてすみません」ガチャ

 

保全「構わないよ。それで、時雨はどうなったのかな?」

 

「まずは謝罪からさせて頂きます。時雨なのですが、先日命令無視を行い、現在はその罰を受けさせているところです」

 

保全「ふぅん?こっちの方針に合わせてくれるんだ」

 

「否定する訳にはいきません。その方法で良い結果が出るのなら問題はないでしょう」

 

保全「つまりウチの時雨は此処にいたことで変わったと。そういう結論で良いんだね?」

 

「はい。間違いありません」

 

保全「じゃあ聞きたいんだけど、その変化によって何か取り返しのつかない程の大きなミスを犯したりしたかな?」

 

「……いえ。そのような事はありません」

 

保全「なら良いよ。命令無視は確かに受け入れがたいけど、大きなミスを生み出した訳じゃないのなら大した問題はないかな」

 

「ありがとうございます」フゥ

 

保全「さて、今度はこっちの番だね。と言っても特段報告することは無いかな」

 

「と言いますと…」

 

保全「優秀だったよ。出来過ぎてると言ってもいいくらいにね」

 

 

やはりと言うべきか。時雨は他の所でも良い評価を貰っているようで安心した

 

コレならば手綱を離れた時でも問題無いだろう。何処か寂しい感じがしたが、それ以上に安堵の気持ちが大きくあった

 

 

携帯 ブーッ

 

保全「ん、時雨が来るみたいだ」

 

「そういえば何をやらせていたんですか?」

 

保全「まぁ、時雨が来たら分かるよ」

 

 

要領を得ない回答に頭を悩ませるが、何かしらのサプライズでもするつもりだろうか?そんな考えが頭をよぎらせ、少しワクワクした

 

 

ドア コンコン

 

 

保全「お、来たみたいだね」

 

「入れ」

 

時雨「失礼します」

 

 

先程感じていたワクワク。それは一瞬の内に暗い谷底へと突き落とされていた

 

ドアを開いて時雨が入室してきた。だが自分の知っている時雨の顔では無く、別人かと錯覚した

 

【挿絵表示】

 

まるで相手を安心させるかの様な優しい笑み。だがそれは意味を為さなかった

 

頬に焼け溶けたような赤い傷。そして右目を縦にザックリと切られた痕があった

 

呼吸が止まった。それは呼吸だけでなく、血液の流れや心臓の音まで、生に関する全てのものが止まったような気がした

 

ドクンという大きな鼓動で身体が跳ね起き、未だ血が足りないせいで頭がふらつくが、それでも確実に一歩を踏んで時雨へと近付いた

 

 

「…時雨」

 

時雨「ごめん。僕じゃ皆の役には立てなかったみたい」

 

「説明…してくれるんでしょうね?」ガリッ

 

 

歯を食いしばる。強く噛みすぎたせいか歯が折れた気がする

 

だけどそれで少し落ち着いた。もし歯が丈夫であったのなら、迷わず殴りにいっただろう

 

 

保全「いやいや。僕から見て本当に優秀だったよ。言う事無し。百点満点だったよ」

 

保全「だけど部下である皆はそうは思わなかったみたいでね。何ていうのかな、イジメにあっちゃったんだ」

 

保全「当然やめるように言ったよ。でもそしたらさ、皆声を揃えて言うんだ」

 

保全「協調性の無いコイツが悪い。私達を罰するならボイコットする。ってさ」

 

「ふざけんな!」

 

 

思わず出た怒鳴り声に時雨がビクッと反応する。だがそれを受けても尚、相手の顔は涼し気だった

 

 

「女だぞ!女にとって大切な武器でもある顔をこんなにして、本当にそこまでさせる程だったのか!?」

 

保全「そうだと思うよ。僕もここまでするとは思わなかったから」

 

「入渠は!?こんなになって何でさせないんだ!?」

 

保全「そんな事に使えないよ。少なくとも大破する位じゃないと」

 

 

正論だ。どんな方針で艦娘を運用するかは提督の自由。時雨を押しつけた様な形で異動させることになってしまった為、これ以上言葉を返す事は出来なかった

 

だけど納得するかと言えば話は別だ。こんな事になるのなら自分は絶対に行かせなかった。少なくとももっと相手の事を知ってから決めるべきだった

 

先を見据えられなかった自分のミス。それだけに後悔は大きく、そして怒りが積もった

 

 

「…時雨、先に顔の傷だけ治してこい。何だったらバケツを使って綺麗にしても良いから」

 

時雨「……」

 

 

俯いて顔を上げない時雨。そのせいでどの様な表情をしているか分からず、声をかけたくてもなんて声をかければ良いのか分からなかった

 

 

保全「その必要はないよ」

 

「今は俺の鎮守府だ。わざわざそっちに合わせる必要はないだろ」

 

保全「別にふざけてないよ。至って真面目さ」

 

保全「だってこれ、ドッキリだもん」

 

 

…………は?

 

 

時雨「ほら、シールだよ」ペリペリ

 

 

時雨の目に付いていた傷がペリペリと音を立てながら取れていき、赤く痛々しい傷も綺麗に剥がされていった

 

思わず時雨の顔を触り、傷のあった場所を確かめる様に念入りに触る。少し顔を赤くしていたが、気にもとめずに念入りに確かめた

 

しばらくモチモチとした頬を触っていたのだが、軽い咳払いが聴こえたのでハッとしてそちらに振り返る

 

 

「も、申し訳ありません」

 

保全「いやいや、君の艦娘に対する扱い方が分かったよ。ところでコチラの時雨は?」

 

「あ、それでしたらそろそろここに着くと思います」

 

ドア コンコン

 

「入れ」

 

時雨(保全)「失礼します」

 

 

入室してきた時雨に対し、2人がポカーンとした表情を浮かべる

 

【挿絵表示】

 

犬耳のカチューシャ、赤色の首輪、ミニスカートのメイド服を着こなし、呆れを隠そうともしない顔がどストライクだ

 

犬耳は丸耳ではなく柴犬の様な耳であれば良かったのだが、流石に無かったので断念した。それを差し置いても中々似合っているので勝手に70点をつけておく

 

 

時雨(保全)「なにか御用でしょうか?」

 

「君の提督が来たんだ。呼ぶのは当然だろう?」

 

時雨(保全)「…お帰りなさいませ。ご主人様」ペコッ

 

 

まるで稲妻でも落ちてきたかのような驚き口を2人同時にぽっかりと開け、すかさず写真で1枚撮っておいた(時雨だけ)

 

自身の提督が来たとしても呆れ顔は継続して行われ、その提督と言えば開いた口が更に大きくなり、もはやギャグキャラの様な顔芸を彷彿とさせた

 

 

保全「何させてるの!?」

 

「やだなぁ。ドッキリですよ。ドッキリ」

 

保全「ドッキリでこんな格好されてたまるか!」

 

「…ま、言ってしまえば罰ですよ。命令無視を矯正するためのね」

 

保全「し、しかしだな…」

 

「時雨」

 

時雨・時雨(保全)「「はい」」

 

「お手」スッ

 

時雨「…僕は犬じゃないんだけど」

 

時雨(保全)「ワン」トンッ

 

 

そっぽを向いて拒否する時雨と犬耳を付けた時雨の相対図が出来上がり、お手と出された手には犬耳時雨が丁寧に犬の手を再現してまで乗せてくれた

 

命令に忠実な犬の出来上がり。一方でウチの時雨には威嚇の様な感情を感じざるを得なかったが、嫉妬だと思って楽しんでおいた

 

 

保全「ちょっ…」

 

「どうです?コレなら丁度いい罰でしょう?」

 

保全「いや…けど…」

 

「じゃあ本人にどうか聞いてみましょうか」

 

「時雨、どうだ?今の格好や、やらされた事は嫌だったか?」

 

時雨(保全)「いや。割と悪くないよ」

 

 

そうは言うが目は全く変わっていない。打ち合わせ通りと言えばそうなのだが、やはり感情にも変化を加えさせるべきだったと後悔した

 

 

時雨「…いや。どう見ても目が呆れてるよ。寧ろ若干の嫌悪感まで感じるよ」

 

「そう?結構喜んでると思うけど」

 

時雨「もしそう見えるなら提督の目は腐ってるか頭空っぽ能天気なんだと思うよ。頭の病院でも行ったら?」

 

「ツッコミにキレが増してきたな…ってかシンプルに悪口だろ」

 

保全「……」

 

「…何で悩んでるんですか?せっかく元の時雨に戻せたというのに」

 

保全「う、うん…」

 

「…良しっ。じゃあ私が何故そこまで悩んでいるのか当ててみましょうか?」

 

保全「えっ」

 

「同族嫌悪、じゃありませんか?」

 

 

顔に出した一瞬の動揺。そこを見逃さず、さながら獲物が網にかかったのを感じていた

 

 

「同じ様に艦隊運用している提督を見るのは初めてなんですか?こういう事をする提督が多いとも僕は聞き及んでるんですけどね?」

 

「貴方が何に嫌悪したのか分かりませんが、NTRでもさ「提督?」ウィッス」

 

 

時雨からのガチトーンが飛んできた。流石にNTRはマズかったか

 

それでも相手の提督が見せた反応。それは紛れもなく嫌悪であり、否定でもあった

 

コロコロと自分の心境が変わる人間だとは思うが、自分が時雨を変えたのと同じ様に、この人も時雨によって変えられたのかも知れない。男子三日会わざれば刮目して見よとも言うしな

 

……デジャヴを感じるのは、気の所為。だと思いたい

 

 

「とりあえず飯にでも行きましょう。詳しい話はそこで」

 

保全「…そうだね」

 

 

 

_____________

 

 

 

カチャカチャ

 

ジュクッ バリッ

 

ズズズッ

 

 

時雨「…提督さん。聞きたいことがあるんだけど良いですか?」

 

保全「…多分、僕も同じ疑問を持ってると思う」

 

 

パリッパリッ モグモグ

 

グッ…!ゴクゴク

 

フー…カチャカチャ

 

 

時雨「……人ってあんなに食べるんですね」

 

保全「……人って体から蒸気出るんだね」

 

「ふぅ〜…こんなものか」

 

時雨(保全)「ご飯食べてなかったの?」

 

「献血に行ったら想像以上に血を吸われてな。おかげで血が足りないわ、腹は減りに減るわで…」

 

時雨(保全)「左腕でも吸われたの?」

 

「…どうしてそう思った?」

 

時雨(保全)「左手の指があまり動いてない気がしたんだ。もしかしたらその時の痛みで動かし辛いのかと思ったんだけど」

 

「うーん…流石にそれは分からんがそうなんだよ。痛みあるし指も動かし辛くてな。とんだ献血だったよ」

 

保全「で、そろそろ本題に入っていいかな?」

 

「あ、すいません」

 

保全「これが時雨の活動内容の書類だよ。後で目を通しておいてほしい」スッ

 

「確かに。コチラも報告書をまとめました。それと時雨の課題と言える問題ですが、その過程や解決を別途こちらに記載しております」トントン

 

保全「助かるよ。コレなら更なる近代化改修も可能そうだね」

 

「…ちなみに聞きたいのですが」

 

保全「なんだい?」

 

「近代化改修って何でしょう?」

 

保全「知らないのかい?」

 

「いえ。というより近代化改修の方法に疑問がありまして。今一度ご教授いただければと思います」

 

保全「ま、良いよ。と言っても簡単さ」

 

保全「まずは轟沈した艦娘をサルベージする。或いは艦娘を轟沈させ、轟沈した艦娘から近代化改修を行う専用の機械に入れた後、近代化改修をさせたい艦娘を機器に入れて実行」

 

保全「コレで近代化改修の完了だ。参考になったかい?」

 

時雨「待ってください」

 

 

時雨の言葉で全員が静止する。皆が一斉に時雨の方を振り向くと、その顔は暗い陰があった

 

知らなかったの?という顔で提督の方を向くと、こちらの心境を察知していたのかコクリと頷かれた

 

 

時雨「轟沈って…どういう事なんですか?」

 

保全「そのままの意味だよ。要はリサイクルさ」

 

時雨「っ…!」

 

「あー時雨」

 

時雨「落ち着けって言うの!?」

 

「それもある。けどこっちにも言わせろ」

 

時雨「……分かり、ました」

 

「サルベージ。と言いましたが、具体的に何をサルベージするのですか?」

 

保全「…君は察しが良いね」

 

保全「そう。サルベージするのは艤装だけ。艦娘本人は拾わないんだ」

 

時雨「なん「時雨」……!」

 

保全「一度艦娘ごと拾った事がある。だけど体はぶよぶよにふやけていて、最早ちゃんとした人の姿を持っていなかった」

 

「ふむ。では艤装だけを取ったとして、そこで艤装を取られた艦娘はどうなりました?」

 

保全「えっ…いや。流石にそれは知らないな」

 

「では艦娘は?仮に艦娘もサルベージしたとして、その艦娘はどうなるんです?」

 

保全「その時は海に還すさ。勿論ね」

 

「……」トントン

 

 

疑問。それと妙にズレた認識。この二つが難題として自分の目の前に立ちはだかっている

 

疑問点としては艤装を取られた艦娘がどうなるのか?サルベージ後に水死体の様な姿で引き上げられている点からして、恐らく泡となって消える。みたいな事はない筈だ

 

だが海に還すという言葉から信頼の様な確かなモノを感じさせていたのも事実。まるで海に死体を投げ入れるのが当然かのように

 

…次に認識。コレはどちらかと言えば町中でポイ捨てする人間の心境に近い物を感じていた

 

町中で捨てても捨てた所が何時の間にか綺麗になっているからまた捨てても大丈夫。そんな考えが軍の上層部までに影響しているのはどうにもおかしくないか?

 

……艦娘は人間じゃないから?艦娘という存在だからか?

 

まただ。またこの問題で足が止まる。このまま進めても前と同じく分からない。という結論に飛んでしまうだろう

 

 

「海に還す。と言いましたが、それはリサイクルと何か関係が?」

 

保全「それは勿論」

 

「何故です?自分からしたら艦娘を海の底に置き去りにする行為は、死体を海に投げ捨てる様なものだと思うんですけど」

 

保全「…もしかして知らない?」

 

「何を?」

 

保全「艦娘は轟沈状態でしばらく放っておくと、その体は溶けて消えるんだよ」

 

「…はい?」

 

保全「消えた艦娘については色んな説が言われてるけど、その中でも特に信憑性が高いと言われてる噂がある」

 

保全「海域で眠っている資材への返還。艦娘達が出撃中に資材を入手したり、遠征で資材を採掘したりするのも、全てはコレによって行うことが出来るのではないか?とまで言われてるんだ」

 

「ちなみに記録の方は?」

 

保全「とある潜水艦が偶然轟沈した艦娘を発見したらしいんだけど、目の前で泡になったとの報告を受けてるよ」

 

保全「廃棄予定だった艦娘にカメラを持たせ、戦闘で轟沈した後の映像を撮ろうとはしたらしいんだけどね、途中でカメラが潰れて映像による記録は出来てなかったらしい」

 

「……なるほど」

 

 

製造という認識で艦娘達が生み出される。そう考えると周りの認識はリサイクル可能なプラスチックのペットボトルなのだろう

 

あくまで人から産み出る訳では無いので製造。しかも元となっているのは資材だ。それならばこういった考えになるのも納得出来る

 

…しかし釈然としない。カメラが潰れてというのはあくまで水圧によるものなのだろうか?

 

それに艦娘は泡となって消える。なんて言ってるのに艤装を取らずに引き上げれば艦娘の体は残る。おかしな話だと思わないのか?

 

もし、もしだ。カメラが潰れたのが水圧によるものではなく、誰かの意図したものであるとするのなら

 

そして、その発見した艦娘が嘘をついているのだとしたら。提督に命令されてもバレない方法があるのだとしたら

 

……やめよう。まだ今の自分じゃ無理だ

 

 

「分かりました。色々教えていただきありがとうございます」

 

保全「構わないよ。後輩の育人も大切だからね」

 

保全「ただ…さっきから聞きたかったんだけど…」

 

 

辺りをキョロキョロと見回し、人の有無を確認しているかのようにあらゆる方向へと首を回して観察されている

 

それどころか人の気配すら感じないのだから多少気味悪く感じているのだろう。まぁその通りなのだが

 

 

保全「艦娘達は何処に?」

 

「全員出撃中か演習中です。練度上げとドロップ艦の為に」

 

保全「なるほど。ただ、鎮守府を留守にするのはあまり褒められたものじゃないかな」

 

「ご心配なく。警備の方は別でいますので」

 

保全「ふんふん。それともう一つ良いかい?」

 

「何でしょう?」

 

保全「キッチンから顔出してるヲ級はどういう事…?」

 

 

震える手でキッチンの方を指差す提督。そちらを見るとヲ級が顔を出してこっちに向かって小さく手を振っている。小さく笑う顔はとても可愛らしく思える

 

…まぁ、知らない人間からしたら死ぬほど怖いだろうけど

 

 

時雨(保全)「あの人は敵じゃないよ」

 

保全「いやいや!どう見たってヲ級だよね!?」

 

時雨「敵がこんなところにいるわけ無いじゃないですか」

 

保全「いや、まぁ、それは…そうなんだけど…」

 

「アレは鳳翔のコスプレです。そっくりでしょう?」

 

保全「鳳翔!?アレ鳳翔なの!?」

 

「良く出来てますよね。最近のコスプレって」

 

保全「最早ヲ級本人って言われた方が納得出来るレベルなんだけど…」

 

「過去にヲ級にボロ負けしましてね。その時の悔しさを忘れない為にコスプレしてるらしいです」

 

保全「絶対努力の方向性間違えてると思うけどなぁ…」

 

妖精「提督。建造が終了したよ」

 

「お、分かった」

 

保全「どうかしたの?」

 

「建造が終了したみたいなので行ってきます。提督はゆっくりしていってください」

 

保全「出来る事ならついていきたい位だけど…分かったよ」

 

 

 

_____________

 

 

 

工廠の扉を開く。中には膝下でペラペラとした布が垂れ下がった服を着た二人がおり、方や腕組みをして楽しそうに会話をしており、もう片方は自然な笑みと落ち着いた表情で楽しげに笑っていた

 

コチラが入って来た事に気付いたのか、二人とも綺麗な敬礼を見せてくれた

 

尚、振り返った時に絶対領域は固く守られていた

 

 

???「お主が提督か?」

 

「そうだ、早速だが自己紹介をしてくれないか」

 

利根「うむ!吾輩が利根である!吾輩が艦隊に加わる以上、もう、索敵の心配はないぞ!」

 

筑摩「はじめまして、利根型2番艦、筑摩と申します」

 

「よろしく頼む」スッ

 

 

二人と握手しようと手を伸ばす。しかし差し出された手を見て二人して僅かに照れの様な表情を見せた

 

僅かな時間の間を置いて、ゆっくりと手が伸ばされる。僅か数秒である筈の出来事だが、何故だか妙に熱く感じた

 

 

利根「……」ワキワキ

 

筑摩「……」ワキワキ

 

「…何してんの?」

 

利根「いっ、いやっ!なんでもないぞ!」

 

「?それじゃあ今後だが、部屋は用意してあるので先にそこへ行ってくれ。荷物何かはおいおい増えるのを考慮して少し広めの2人部屋にしておいた」

 

「自室の確認が済んだら妖精さんにここを案内させるから、何かあれば妖精さんに聞いてくれ」

 

利根・筑摩「「了解」」ケイレイ

 

 

…何だろう。この反応が凄く懐かしい感じがする

 

 

「それと最後に、午後からは二人と他の艦娘とで演習に行ってもらう。昼飯を食べ終えたら行うつもりだから準備はちゃんとしておいてくれ」

 

利根「うむ。心得た」

 

筑摩「…ところで、一つお伺いしたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「なんだ?」

 

筑摩「その…提督っておいくつなのか伺いたく…」

 

利根「筑摩!?いくら何でも失礼じゃぞ!?」

 

「いや、まぁ気持ちは分かる。一応18…だった筈だ」

 

筑摩「やけに曖昧ですね…」

 

年齢なんか一々覚えてない(ダラダラ話数が伸びすぎて)。それに歳いってるのに無能だと救えないじゃん?」

 

 

その言葉を区切りに筑摩から押し潰す様な圧を感じる

 

そりゃそうだ。自分達は今後命を懸けて戦うのに、その司令官が無能と自称している。そんな人に付き従いたくは無いだろう

 

 

筑摩「…ちょっとお話をお伺いしたいですね」

 

「また後でな。先に部屋の方を見といてくれ」

 

筑摩「…了解しました」

 

「それと、今ここに別鎮守府の提督が来ている。何だったらその人に異動させてもらう様掛け合うから遠慮せずに言ってくれ」

 

筑摩「はい。ありがとうございます」

 

利根「いやいやいやいや、ありがとうございますなのか?というか提督がそんなに自信無さげで良いのか?」

 

「良いんだよ。代わりは用意してるから」

 

利根「ん…むぅ…しかし…」

 

筑摩「姉さん。ここで時間を潰すのもアレですし、先に部屋の方に行きませんか?」

 

「いけいけ。こっちも話ばっかりは出来ないんでな」

 

利根「わ、分かった」

 

 

ようやく向かわせることに成功し、ふうっと一息をつくと同時に吐き気が襲い、喉に胃酸が僅かに登ってきている感じがした

 

自分の中にある足場の様な物が小さくなっており、それが震えて目眩と脱力感を誘発している

 

言葉にするとそんな感じの体調だ。そしてこういう時の自分は、心が弱って力が入らない様な状況である事が多い

 

原因は恐らく利根。というのも、自分が初めて轟沈させてしまったのが利根であったからだ

 

未だに記憶に残っている。アーケードで利根を轟沈させ、暗い水底へと沈んでいく様子に吐き気を覚えていた

 

 

「…妖精さん。意地悪にも程があるぞ」

 

妖精「でも、必要だったでしょ?」

 

「だな。索敵持ちで支障なく出来るのって現状ヲ級しかいなかったし」

 

妖精「そういえばなんだけどさ、深海棲艦がここにいること言わなくてよかったの?」

 

「…………あっ」

 

妖精「んもう。私達の方で伝えておくから、提督は書類でも作ってて」

 

「すみません…」

 

妖精「…それと、その深海棲艦の事なんだけどさ」

 

「ん、あぁ。どうかしたか?」

 

妖精「やっぱり…あまり受け入れが出来てない(妖精)が多いみたいだよ」

 

「…お前は?」

 

妖精「私は大丈夫。提督の味方だもん」

 

「俺の味方とかはどうでもいい。お前の意思が聞きたいんだ」

 

 

普段はポワポワとした表情であった妖精さんだが、今回は至極真面目な顔をして頭を悩ませている

 

時折ぶつぶつと話して考えをまとめつつも、何かしらの例外を仮説として考えたり、このまま深海棲艦の受け入れを続けて行く未来を考えていた

 

思えば自分は妖精さん達のことを考えていなかった。いくらここがゲームの舞台であるとはいえ、裏から支えてくれていた人達の事を考えられていなかった

 

これは反省だ。もう少し周りを気遣う事をせねばな

 

 

妖精「個人的な意見としてはやっぱり反対です。深海棲艦は私達にとって戦う敵ですから」

 

「なるほど」

 

妖精「…でも、艦娘が艦だった時代の事を考えたら倒した敵を助ける人物も極少数いました。その人物は艦の中で最高権限を持っていた人達です」

 

「……決めるのは俺。ということか」

 

妖精「はい」

 

「良し分かった。今後もそうさせてもらおう」

 

妖精「頼りにしてます」

 

「…深海棲艦にも穴ってあるのかな」ボソッ

 

妖精「節操無しの提督さんに下の棒は要らないと思うのです」

 

「やめて」

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