この学生、元放置提督 世界が変わっても、やることが変わっても、いつも通りにする。ただそれだけ   作:七福えると

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無能よりも出来ないと失敗で作られた僅かに出来る人間こそタチが悪い

筑摩「…とんでもない鎮守府に来てしまいました」

 

利根「じゃっ、じゃがのう、悪い所では無いように思えるぞ?」

 

 

それを聞いて同意が1割。反対が9割だ

 

ここはまともじゃない。ここにいる艦娘には未だ会えていないが、それでも深海棲艦がいるというのはおかしいだろう

 

それに一番気に食わないのは…

 

 

筑摩「姉さん。今からでも異動しませんか?」

 

利根「そっ、それは些か早計すぎじゃ…」

 

筑摩「いいえ。このままでは私達二人とも、あの男の毒牙に掛かります」

 

利根「毒牙って…」

 

筑摩「良いですか?あの人は提督という人でありながら真面目ではありません。しかし機転は利く人間です」

 

利根「う、うむ?」

 

筑摩「真面目な振りして上手く隠しているつもりかも知れませんが、アレは紛れも無い怠惰です。間違いありません」

 

利根「……」

 

筑摩「私達に自分が無能であるという自身のレベルを伝えて同情を誘い、異動という逃げ道を用意しましたがソレも罠。確かな逃げ道を用意してより強く同情させるという妥協を狙っているんです」

 

筑摩「あの人と一緒にいては駄目です。もしこのまま一緒にいてしまえばいずれ破滅します。必ず」

 

利根「…筑摩。流石にそれは言い過ぎなのではないか?」

 

筑摩「いいえ。全く思いません。寧ろコレでも足りない位です」

 

 

妖精 チョイチョイ

 

 

筑摩「妖精さん?」

 

妖精プラカード『極悪非道ではないよ(精一杯のフォロー)

 

筑摩「…それでも、結局は多少使え…いえ、いなくてもマシな程度でしょう?」

 

利根「筑摩!」

 

筑摩「…すみません。どうしてもあの人の事が好きになれなくて」

 

利根「その気持ちは分からんでもない。確かにあの提督は自分に自信がないというレベルというものではなかった」

 

利根「まるで…自分はそうあるべき。そんなものを感じた」

 

 

私もそれが気になっていた。いっそのこと自信の無さの根拠を示してくればコチラもやりようがあるのだが、プライドの高い提督がそんなもの見せるわけないと思うし、どうしたものか…

 

…いや、自分が考えることではないだろう。何でそんなことを考えなくてはいけないのか

 

 

筑摩「はぁ…僅かでもこんな事を考えてしまうとは、少し反省しなくてはなりませんね」

 

利根「…なぁ筑摩よ。少しばかり聞きたい事があるんじゃが」

 

筑摩「何でしょう姉さん?」

 

利根「初対面の人間からな、申し訳なさと懺悔の念を抱いた顔をされた時ってどうすれば良いかのう?」

 

筑摩「う、うーん…流石に私もそういったことは経験が無いので何とも言えませんが…」

 

利根「…やっぱり、これは一度話してみる必要があるか」

 

利根「すまん筑摩!先に部屋に行っといてくれ!」タッタッ

 

筑摩「ね、姉さん!?」

 

 

踵を返してすぐさま執務室へと走っていってしまう姉さんを止めることすら叶わず、そのまま見送ることになってしまった

 

一体姉さんはあの人に何を感じたと言うのだろうか。私にとってはあの提督は嫌悪感しか抱けなかったが、私と違って姉さんもまた何かを感じていたのだろう

 

後を追いかけようと一歩踏み出した瞬間に再び体が止まった

 

私がこうして追いかけたとして何が出来ると言うのだろうか?仮に追いついたとしても、それは姉さんの聞きたいことに対してブレーキをかけてしまうのではないだろうか?

 

…しかし姉さんを一人あの提督に会わせるというのも不安だ。提督の権限を利用して襲うなんてことは容姿と立場的にもする事は無いはず

 

だが艦娘としての存在を危うくする様な事なら出来るはずだ。万が一姉さんの話に気分を悪くした提督が轟沈一歩手前まで出撃を繰り返す。なんて事になったら出撃自体に恐怖を覚えるかも知れない

 

それだけは決してあってはならない。私達は戦うために生まれたのだから、戦いを避けるなんてことをしてしまえば今後生きる事すら出来なくなってしまう

 

 

筑摩「待っててください。利根姉さん」

 

 

自分の勝手な心配だと分かってはいるが、そんな心配を差し置いて私もゆっくりと執務室へ向かうのだった

 

 

 

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食堂 0900

 

 

「まずは朝の出撃だがお疲れ様。後は昼3回。夜に2回程行く予定だ。連続の出撃となるが、気合入れて頑張ってくれ」

 

艦娘達「「「はっ」」」ビシッ

 

「それと、建造して仲間となった利根と筑摩だ。皆、仲良くしてやってくれ」

 

利根「吾輩が利根だ。よろしく頼む」

 

筑摩「妹の筑摩と言います。姉共々よろしくお願いいたします」

 

艦娘達「「「よろしくお願いします」」」

 

「それじゃ飯にしよう。今日は他鎮守府の提督もいらっしゃるので普段みたくするなよ」

 

 

その言葉を最後に皆が目前にある料理へと体を向け、全員が同じタイミングで手を鳴らして食事を開始する

 

食事場はおしゃべりで賑わいつつ、自分は一人その場を離席して食堂の裏へと移動する

 

裏道を通って離れた部屋へと移動し、部屋前でノックをしてドアを開放する

 

中には少し不満げな顔でル級がコチラを見つめ、普段通りではあるが少しばかり不満な様子を出しているヲ級が座って待っていた

 

 

「よ。すまんな。食堂からわざわざ退いてもらって」

 

ル級「全くデス!これは何かしてもらわないとネー?」ガバッ

 

ヲ級「だからって抱きつきに行こうとするのは違いますよ」ビシッ

 

「後でな。それより2人は飯食ったよな?」

 

ヲ級「はい。皆さんより早い段階でいただきました」

 

「良し。ならお前等にも今後について伝えておくぞ」

 

ル級「それって、今の艦娘の皆さんみたいに出撃三昧ということですか?」

 

「あぁ。だが語弊の無い様に言っておくと、今回の様な出撃をするのは今回だけだ」

 

ル級「というと?」

 

「お前等の限界を見ておきたい。体力、精神的にかなり辛い思いをするだろうが、その分ちゃんと休みは取らせるつもりだ」

 

ル級「…ちなみにそのお休みは」

 

「1日」

 

ル級「…ふむ」

 

「お前等は明日だ。というのも今他所の提督が来てるからな」

 

ヲ級「了解しました。ですが時雨さんから漏れるのでは?」

 

「それならしゃーない」

 

ル級「しゃーないって…」

 

「お前等がウチの弱みとしているのは事実だろう。だけどそれも分かったうえでお前等にはいてもらいたい。肩身の狭い思いをさせるだろうが、お前等が必要なんだ」

 

ル級「んっ!もうっ!そんな事言ったって誤魔化されないんだからね!」ベチィッ!

 

 

目の前の景色がすれ違う電車の様に右から左へと流れて行く

 

1秒も経たないまま体は壁を破り、地面へと転がった

 

 

「おっ、お前なぁ…俺じゃなきゃ死んでるって…」1/3

 

ヲ級「…ル級?」

 

ル級「ご、ごめんなさーい!」

 

 

 

「ったく。腕が無事で良かった」E.包帯

 

ル級「ほ、本当にゴメンね?」グルグル

 

ヲ級「普通はこんな事すれば即刻解体ですね」

 

「しねぇよ。そんなんよりお前は力をコントロールする術でも身に着けろ」

 

ル級「はーい…」

 

「それと今回から新たに2人。利根と筑摩が着任した。あんまり喧嘩しないようにな」

 

ヲ級「それを言うのは私達ではなくそのお二人ではないですか?」

 

 

お前が一番心配なんだよ…という言葉は飲み込んだ。だって目が分かってるなとでも言わんばかりに怖いんだもん

 

 

「分かってるよ。それと最後になるんだが…」

 

ル級「何でしょう?」

 

「俺以外の奴がお前等を引き取りたいって言ったらどうする?」

 

ル級「わ、私達をですか?」

 

「あぁ。どうだ?」

 

ヲ級「うーん、私は今よりも待遇が良ければ行こうかと思います」

 

ル級「私はー……」

 

「言っとくが俺を理由にしたこと以外でな」

 

ル級「…退路を防がないでくださイ」

 

「退路を求めんな。今は先の事だけ考えてくれ」

 

ル級「…でしたら、もう少し他の人達と話し合える場所。そんな所があれば行ってみたいです」

 

「はいよ」メモメモ

 

ヲ級「…提督。私からも質問してよろしいでしょうか?」

 

「ん?別に良いぞ」

 

ヲ級「では、どうしてご自分で何とかしようと思わないのですか?」

 

 

その言葉にピタリとメモを書く手が止まる

 

心がざわつき、頭の中で考えを巡らせようとしたが、頭の中が石で埋まってしまったかの如く、考えを巡らせる事が出来ない

 

数秒間程の間を置いても尚頭は回ることなく、結論だけを急がせる結果になった

 

 

「あー、うん。無理だからだ」

 

 

これ以上考えても無駄だと判断し、率直に頭の中でとにかく言いたかった言葉を口に出す

 

 

ヲ級「無理というのは?」

 

 

うん。やっぱり言葉が足りなさすぎるか

 

 

「んー、いや、語弊がある。俺じゃ無理だからだ」

 

ヲ級「同じ意味では無いのですか?」

 

 

すぐに返そうと思ったが言葉がまとまらず声が出ない。何かを言葉にしようにも同じ問答になってしまうし、かと言ってこのまま話せば言語崩壊した言葉を話すことになる

 

頭の中にある言葉を全て忘れるべく、頭で考える事をやめて何もしない時間を数秒間だけ生み出す

 

頭の混乱が起きなくなった時、再び考えを巡らせるが、それでも求められた答えには程遠いものしか生まれなかった

 

そんな様子を2人はジッと待ってくれている。答えの出せない申し訳なさに、さらなる混乱を自分に与えていった

 

だがこのやり取りの中、決定打として伝えられるものを思いついた。コレならば納得してもらえると確信出来る

 

 

「コレだよ。問題に当たると混乱して何も話せなくなる。それはつまり先を見通して考える事が出来ないからなんだよ」

 

ヲ級「……つまり提督は、自分で何かをするにも問題が起きるからやりたくない。問題が発生するかも知れない先の出来事に対しても、考える事が出来ないから誰かに任せようと?」

 

「いやいや、さっき言ったそれも自分ではやってる。だけど自分がした所で何の解決にもならないからそう言ったんだ」

 

ヲ級「つまり解決する術を考えつかない馬鹿ということで構いませんね?」

 

ル級「ちょっ、ヲ級…」

 

「…そうだな」

 

 

瞬間、平手打ちが飛んでくる

 

首が飛んでいきそうになる程の強い痛み。首がへし折れてしまったのではないかと思う強烈な痛みに思わず涙が出た

 

 

「ってぇ…!」

 

ヲ級「貴方と共にいると私達の身まで危うくなる。そう考えても良い訳ですね」

 

「そっ、そう捉えてもらって構わない。結局俺はただの新人提督だしな」

 

ヲ級「…ッ!そう言うことでは無いのです!貴方はどうして自分でやろうと思わないのですか!?どうしてそんな気概だけを見せることしかしないんですか!?」

 

 

今までに聴いたことのない程に懇願が入り混じった怒気のある声に、心が何かにぶつけられたかのような気がした

 

だが必死に伝えてくる気持ちでさえ、意味を理解した途端にスッと心の奥へと消えていき、何も感じなくなってしまう

 

こうなった時、自分の中で回答が出来ている時の証明であった。つまり自分は、この問いに対して返す解を持っているんだ

 

 

「もうやった」

 

ヲ級「はぁ…!?」

 

「過去に同じ事があった。お前の言うように過去に自分でやろうとして、更には気概まで見せた上でやった。そしたらどうなったと思う?」

 

「一度は大失敗だったよ。だが気概を見せた以上、一度の失敗で終わらせる訳にもいかなかった」

 

「機会が訪れた時、2度目、3度目と同じ事をした。全く同じでは失敗を繰り返すしかないと思って変化も入れて取り組んだ」

 

「それでも…俺は失敗したんだ」

 

ヲ級「だったらもう一度…!」

 

「それが出来ない。同じ機会が今また起こり得たとして、あの時に失敗を見て笑った奴や馬鹿にしてきた奴に見返す事も出来ん」

 

「仮に今出来たとて所詮は子供時代の失敗。今なら当たり前に出来るし、出来なければ本当に生きてる価値が無いと言っても良い」

 

「俺の過去の失敗は…取り返しの付かない所まで来ちまったんだよ」

 

ヲ級「……」

 

ル級「…でもそれって、結局の所過去の話ですよね?それも見返すと言う辺り、自分に責任があるというより誰かに責任があるって考えてるんじゃないんですか?」

 

「……正論ばっかで辛いからそろそろ吐いていい?」

 

ル級「吐くなら弱音にしてください。結局、提督はどうしたいんですか?」

 

 

ル級の言葉が耳に届き、そして頭でその意味を理解した瞬間、言葉が頭の中で靄がかった様に分からなくなってしまう

 

生理的嫌悪でもするものがコチラに向かってくるかの様に、ハッキリとした理由が無い、言いようの無い気持ち悪さで頭が重くなり、自分の中で強い何かがそれを拒否していた

 

これを言ってしまえば楽になるだろう。きっと泣きはらす位には今まで溜まっていたものを吐き出す事が出来るのだろう

 

最早どうしてこうなってしまったかも分からない。周りと過ごしていく内に分かる自身の無能さ。そうとは知らずにただただ周りから放されていく理不尽

 

周りは見下してくる奴ばかり。そんな奴等に向かって助けて?

 

そんな言葉を言ったところで彼奴等は助けない。寧ろ面白がるか、より見下してくる。そんなの耐えられない

 

 

「お前等が絶対にそういうことはしないのは頭で分かってる。だけど俺の心が耐えられない」

 

ル級「はい?急に何を…」

 

「だから行動で見せる。それで理解してくれ」

 

 

自傷行為は前々からやってきてはいたが、ここまであからさまな自傷行為が残る事をするのは今回が初だ

 

日常的に持ち歩いている胸の内ポケットにしまってあるペンを取り出し、上着とカッターシャツを脱ぎ捨ててシャツ一枚になる

 

何かを察したのか二人が動きを見せた時、既に腕へとペンを振り下ろしていた

 

あらわとなった腕へとペンを突き立て、痛みと切り裂かれる肉を感じながら、そのまま腕に沿って切り裂いた

 

 

 

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保全「じゃあ、コレにて失礼するよ」

 

「本日はありがとうございました」

 

保全「それと、今一度確認なんだけど、その体の傷は本当に事故で起こったものなんだね?」

 

「はい。鎮守府に仕掛けてある侵入者用の罠を起動させてしまいました。それがこの怪我の理由です」

 

保全「分かったよ。壁も壊れてるみたいだしね」

 

時雨「提督」

 

「ん?」

 

時雨「僕の事、ホントに女性だと思ってる?」

 

「当たり前だろ。寧ろ男だと思われたいのか?」

 

時雨「う、うぅん!違うよ!」

 

「だろ?お前は間違いなく女なんだからもっと女としての自信を持て。じゃないと将来良い女になれないぞ」

 

時雨「セクハラ」

時雨(保全)「セクハラ」

保全「セクハラ」

 

「…悪かった」

 

時雨「でも…うん。ありがとう」

 

保全「じゃあまた。次会う時は時雨との交換だね」

 

「ウチの時雨は物じゃ無いんですけどね」

 

保全「分かってるよ。”女”なんだもんね」

 

「?そうですね」

 

時雨(保全)『アレ分かってないよ』ヒソヒソ

時雨『うん…』

保全『何だったら一発殴って良いんじゃない?』ヒソヒソ

 

「僕に何する気ですか…」

 

保全「なんでもないよ。それじゃまたね」

 

時雨「提督。行ってきます」

 

「気をつけてな」

 

時雨(保全)「またね、時雨」フリフリ

 

 

二人がここに来る時に使用していたバスへ乗り、中に乗っていた初めて出会った保全提督の艦娘達がコチラに向けて敬礼をしてくれて為、コチラも敬礼して返す

 

ちなみに演習も当時と同じメンバーで一回させてもらったが、見事にボロ負けした。敗北Dだった

 

何とかコチラ側の攻撃を当てたので完全敗北とはならなかったが、当たった攻撃は片手で収まる程度。今回は特に提督としての能力差とコンディションの重要性を思い知らされた

 

その結果、皆からの期待が下がったのを感じていた。提督として更に精進せねばなるまいが、その前に皆が出ていくのが早いかも知れない

 

 

夕立「提督さん」赤疲労

 

「…お疲れ様」

 

夕立「抱っこ」スッ

 

「……今回だけだぞ」ギュッ

 

時雨(保全)「あ、僕も」

 

「お前は歩けよ…」

 

時雨(保全)「…僕もちょっと疲れてるんだけどな」黄疲労

 

「あーもう分かったよ。じゃあ背中に来い」

 

 

時雨と夕立を前と後ろから挟まれる様な形で抱える

 

やはり軽い。だが時雨はともかく、夕立の方はしっかりと育ってきている重さを感じた。このまましっかりと育っていってほしいものだ

 

 

夕立「報告良い?」

 

「おう。頼む」

 

夕立「昼の2回目となる出撃にて大破者が発生。その場で撤退を判断してすぐさま帰投。高速修復材を使用して傷を癒した後、すぐに出撃を開始。この段階で既に全員の疲労が蓄積されていました」

 

夕立「昼の3回目の出撃では海域の主力艦隊を撃破。大破者は出なかったものの、ほぼ全員が中破しており、コチラも高速修復材を利用して急遽回復に努めました」

 

夕立「昼と夜の間で保全側の艦娘達や他鎮守府と演習を行い、演習ではない者達は出撃を行いました。全ての演習が終了した時点で愛宕さんの髪が白く変化して深海棲艦の雰囲気を感じさせました。コチラの経緯は書類にて詳しくご報告予定です」

 

夕立「演習は殆どが敗北D。夜の出撃も全て主力艦隊に出会う前に大破者が続出した為、途中で帰還しております」

 

 

…長い。覚えられるかな

 

しかしある程度の限界値は分かった。やはりと言うべきか、ウィンドウの方でも確認した通り、ゲームの疲労度システムと同じレベルで疲労が重なっていくな

 

利根と筑摩も参加させた甲斐があったのか、今回の出撃で7まで練度が上がっている。まだまだ毛が生えた程度でしかないが、改造可能レベルになればかなりマシになる筈だ

 

だが不満はやはりあるようだ。夕立の態度がそれを表している

 

どうやって挽回しようか考えようとしていたのも束の間、一人の大きな声に思考は遮られた

 

 

島風「あーっ!夕立ちゃんずるーい!」プンスカ

 

 

声の主へと振り向くと島風がいた。その場にいた全員がそちらへ振り向くと、夕立が悪戯な笑みを浮かべていた

 

 

夕立「何がズルいの?」

 

島風「提督に抱っこされてるじゃん!最近はしてくれないのにー!」

 

夕立「旗艦だったから報告しに行っただけだよ。こうやって抱っこされてるのは提督が労ってくれてるんだよねー?」チラッ

 

「……まぁ、まちがっちゃない」

 

島風「ズールーイ―!それに時雨はどうしておんぶされてるの!?旗艦じゃなかったよね!」

 

島風「僕は居合わせただけだよ」

 

島風「ムー!ズルーい!」

 

「後でやってやるから。それより明日休む奴って聞いてるか?」

 

島風「…んもう。とりあえず、私と龍田さんがお休みだよ。明日利根さん達の買い物に行かないといけないから」

 

「了解。クレカ渡すから適当に見繕ってやってくれ」

 

島風「はーい」

 

時雨(保全)「……請求大丈夫なの?」

 

「限度は守ってくれてるから大丈夫。それに金あってもゲームか娯楽ぐらいにしか使わんしな」

 

時雨(保全)「優しいんだね」

 

「適当なだけだ。つまらんこと言ってると降ろすぞ」

 

 

ボソッと島風の口からツンデレという単語が聞こえてきたので今度攻略中の海域に一回出撃させるとして、今後も艦娘が増えて来たらこうやって自分が金を出していくのにも限界がある

 

というものウチの鎮守府は余裕があるかと言えばそうではない。遠征やら出撃や行う為の資材は程々に蓄えがあるのだが、金は別なのである

 

一応血税だからね。鎮守府の数が増えて守るべき拠点も増えており、提督だけの数が足りていないというこの状況。社会的に言えば病院の看護婦が足りない状況なのである

 

提督という人員の重要性が増した今、鎮守府自体に支払われる金は結構微妙なラインで、提督については鎮守府に入る金と比べると少なくはあるが、それでもかなり多いと言っても良い

 

この理由として、大多数の提督が個人を優先した結果、鎮守府への金渡りが少なくなっている事にある。理由は自分がいるから今の安定した世の中がある。という理論だ

 

鎮守府の運営資金=艦娘への給料。だが提督の給料というのは運営資金からはまた別口で入ってくる。正直おかしな話だと思わざるを得ない

 

自分もその恩恵にあやかっている一人ではあるのだが、自分はそこまで立派に提督としての仕事をこなせてる訳ではない。今も大淀に頼りっぱなしである為、そういった謝罪的な意味も込めて艦娘へと金を流してはいる。決して優しさという訳ではないので勘違いしないで貰いたい

 

 

「そろそろ腕が疲れてきたから降りてくれ」

 

夕立「えー…」

 

時雨(保全)「しょうがないね」

 

夕立「ぶー……」

 

「島風、忘れんうちにクレカは渡しとく。無くすなよ」スッ

 

島風「へへっ。分かってるもん!」

 

「…あくまで利根達に対してだからな。程々に自分の分は抜いとけよ」

 

島風「分かってるー!」

 

「お前等も休め。今日は本当にお疲れ様」

 

時雨(保全)「ありがとうございます。提督もお疲れ様でした」

 

夕立「それじゃ提督さん、また明日ね!」

 

「あぁ」

 

 

二人が仲良さげに並んで戻るのを見送ったのち、自分もやり残した執務の為に執務室へと戻ろうとした

 

 

潮「提督。今良いでしょうか?」

 

 

……しょうがないな

 

 

 

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執務室 2030

 

 

モヤモヤとした感情が渦巻く自分の中で、私は問題と対峙している

 

 

提督「それで?わざわざ疲れ切った体で尋ねた理由は何だ?」

 

潮「提督が怪我をした原因。その過程やその後のやりとりをヲ級さんから聞きました。その事で言わせて頂きたい事があります」

 

提督「なんだ?」

 

 

澄まし顔だが飽きているかのように怠惰な声で話す提督。本人からしたら飽きる程に繰り返した問答なのだろうが、自分が聞きたいのは正にそれだ

 

 

潮「提督は当時と同じ状況に陥った場合、どうしますか?」

 

提督「失敗しないよう頑張るつもりだよ。()ではな」

 

 

自信満々にそう答えられる提督の顔は真面目そのものであるが、何処か影を感じさせ、それが自信のなさを表しているようにも見えた

 

この人はお面を被っている。提督というお面を被りながら、その下は自信の持てない人間が自分を隠すかのように提督というお面で自身を隠す様に守っている

 

 

潮「頭ではって…」

 

 

出来ない改善を前提として話すあたり、あたかも自分は努力している様に見せているが、結局は無理なんだと諦めている。この人の決意は結局の所、お面のように張り替えが出来るものなのだろう

 

そういう所にヲ級さんは激怒した。今も目の前でされている説明を聞き、自分でもようやく理解が出来た気がする

 

 

提督「それに同じ状況に陥った時の具体的な行動は今もやってるよ。現在進行形でな」

 

潮「……それは、どういう意味でしょうか?」

 

提督「提督としての仕事。その全般だ」

 

潮「でも、提督が何か失敗した事はあまりお聞きしませんが…」

 

提督「…失敗はな、本人だけが被るもんじゃない。周りも一緒になって被るもんなんだ」

 

 

…いや、これもまた詭弁なんだ。そういった心構えで聞けば良いとヲ級さんにも言われていたんだから

 

 

提督「潮は秘書官になった事あったっけ?俺の仕事ぶりは電か大淀から聞いてると思うが」

 

潮「あ、はい。ちゃんと仕事をこなして頂いていると聞いています」

 

提督「そうだろうな。それじゃあ二人から仕事が大変だって話は聞いたか?」

 

潮「…すいません。あまりお二人とは執務のことで話さなくって」

 

提督「ふむ。なら良いか。こっちから説明すればいいし」

 

提督「確かに仕事はこなしている。だがそれと比例して大淀と秘書官でない時の電だって仕事をしていることがある」

 

提督「仕事内容は主に鎮守府に関する雑務書類。本来は俺がするべき書類だったものを電がやっており、大淀は一部の出撃や演習、遠征といった書類をしてもらっている」

 

提督「対して自分は何をしているかと言うと…他鎮守府との連絡。演習の申請や出撃の結果等の取りまとめだ」

 

 

結果を記録したり、連絡網として活動している。コレだけならば当時関わっていればかなり簡単な作業の部類だ。だが…

 

 

潮「…少ない、ですね。それに業務作業かと言われると…」

 

提督「そうだ。提督はさっき言った仕事を全部こなす必要がある。そしてそれら全てを把握しておかなきゃならない。どうしてか分かるか?」

 

潮「提督が鎮守府の最高責任者であり、艦隊の運営・艦娘の出撃や作戦の立案も含めての業務であるからです」

 

提督「うん。じゃあさっき潮が言ったことを前提として、提督としての業務はどういった事をすると思う?」

 

潮「先程仰っていた業務全て。ということですね」

 

提督「正解。つまりそれが一人で出来ていないのが今の現状なんだ。それは提督としての能力…とはまた違うかも知れんが、要は仕事に対する作業能力がないんだ」

 

提督「それにこんな事言うのもアレだが…俺は仕事が遅い。正直大淀や電に任せた方が早いまである」

 

潮「それは提督のご経験が少ないからです。大淀さんは前任の時に書類業務の殆どをこなしていましたし、電ちゃんも艦娘としてかなり長く活動をされているから可能なんです」

 

潮「でも提督は社会で言えばまだ子供です。そうなるのも仕方がありません」

 

提督「その話は前にもした。子供だろうとな、役職っていう立場がついた以上、それ相応の働きをしなきゃならん」

 

提督「それにお前こそどうなんだ。まだまだ遊び盛りの子供にしか見えん。そういうヤツに言われても説得力なんか無いぞ」

 

潮「私は艦娘ですから。提督のおっしゃる役職で言いますと、艦娘という役職に付いているんです」

 

提督「…はぁ。例えを間違えた気がする」

 

 

少しガッカリする様に話されるが、それが現実です。なんてことを言うのは野暮と思ってやめておいた

 

 

提督「とにかくだ。ヲ級の言っていた事だが、それに一つ追加して話しておくことがある」

 

潮「というのは?」

 

提督「俺のIQが低すぎて会話が出来ん」

 

潮「…はい?」

 

提督「そのままの意味だ。俺の頭が悪すぎて会話が成り立たん」

 

 

………いきなりそんな事を言われても困ります

 

 

提督「詳しい説明すると面倒だから簡単に言うと、知能に差があるせいで成り立つ会話が出来ん。そう思ってくれて構わない」

 

潮「はぁ…」

 

提督「だから早いとこ俺じゃない何処かの提督の下へ行ったほうがいい。俺といてもロクなことにならん」

 

潮「そんな事あり得ません」

 

提督「そうかな?前任の事を怯えてたお前が、そこまでしてハッキリと自信を持てる理由にはならんと思うが」

 

潮「っ!それとこれは関係ありません!そんな事を言わないでください!」

 

 

それは決してありえません。それは貴方の思い込みであり、問題に当たる前に逃げようとしているだけではないですか?

 

何かを例えにして自分に優位を取ろうとするのは会話じゃありません。それはただ話を逸らしたいだけです

 

お願いですから逃げないでください。私達から離れようとしないでください。苦しくて辛くても一緒にいてください

 

その分だけ私達が貴方を助けます。貴方の傍に寄り添います。困ることがあるのなら、迷惑をかける事が不安ならば思いっきりかけてください

 

そんな事を沢山話したと思う。時計を見れば時刻は21時を回っていた

 

 

提督「…潮」

 

潮「…はい」

 

提督「ごめんな」

 

潮「…!」

 

提督「気付いていない様だからハッキリ言っておいてやる」

 

提督「お前の言う支えや寄り添いなんかは、結局の所ただの依存だ」

 

提督「確かにお前の言う通り、俺は逃げようとしていた。問題から目を背けないようにしていたつもりだが、その実問題を見てから逃げていただけだった」

 

提督「その通りだよ。俺は逃げばかりだ。だからこそこんなゴミになったんだ」

 

提督「けどな、そんなゴミで無能だからこそ分かることもある」

 

提督「俺を引っ張るや叩き上げるといった言葉を使わなかった辺り、お前は俺に気を使ったな。その優しすぎる心が依存のなり始めである事に気付いていない」

 

提督「お前のしたい事は俺に対しての事じゃない。お前がしたい事に他ならないんだ」

 

潮「……」

 

 

…何の言葉も返せない。返そうにも話す言葉は提督を思っての事ではない。全て自分が提督にしてあげたい事になってしまう

 

こんな時に曙ちゃんがいたら何というだろうか?もし龍田さんや大淀さん、長く艦娘を続けている電ちゃんなら何と答えたのだろうか

 

提督の言う通り、私は私のことしか考えられていなかったんだ

 

 

???『お前は俺の玩具だ』

 

 

潮「…ごめんなさい」

 

提督「…潮?」

 

 

???『持ち主の喜ばせる事をするのがお前の役目だ』

 

 

潮「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

提督「潮?大丈夫か?」

 

 

???『喜ばせてみろ。そうすればさっきやった事も許してやる』

 

 

潮「いや…」

 

 

???『お前のその体で、精一杯俺に「潮っ!」

 

 

自分の不安を吹き飛ばすかのように、大きな声で自分を呼ぶ声が聞こえた

 

額から大量の汗が流れ、髪が汗で体にひっついて気持ち悪い。だがそれ以上に自分の心が気持ち悪かった

 

 

潮「うっ…」

 

提督「トイレはすぐそこだ。そこまで歩けるか?」

 

 

肩に寄りかかった頭を擦る様にしてゆっくりと頷くと、少しずつ、ゆっくりではあるものの、私は歩く事が出来た

 

意識が混濁しているのか、様々な言葉にもならない考えが頭を駆け回り、トイレに向かう途中で聞こえてきた声はごめんと謝る声がぼんやりと聞こえた気がした

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