意思表示苦手なTS盲従強化人間少女はおしごとが大好き   作:九曜ナーラ

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わたしたちのおわり

 

 

 イードクア帝国軍の戦闘用機材に多く搭載されている、一般に『自翔誘導爆弾』と呼ばれる武器がある。

 わたしが見た限りでは、ホーミングミサイルと呼ばれるモノに酷似している、ソレ。どうやら敵の探知や飛翔なんかの部分に魔法的な技術を用いた、高度な技術の結晶であるらしい。

 

 この世界においては、現在のところ帝国軍でしか使用を確認できていない。

 つまり『帝国ならでは』の武器と言ってしまえるだろうし、そのあたりの詳しい研究や技術開発が進んでいても、おかしくはなかったわけだ。

 

 

 敵を追尾し、高威力な『爆発』の魔法で攻撃を行うだけでなく。

 敢えて敵の進路を防ぐように飛翔し、弾頭に積んだモノを周辺にぶち撒ける特殊弾であるとか……そんなモノの研究開発も、どうやら進んでいたらしい。

 

 

 

「…………まだ、いけるし。……そうこう、やわ、じゃ……ない、もん」

 

――――それはそうだけど、面倒だね。

 

 

 わたしの【パンタスマ】の表面装甲は、そのへんのエメトクレイルよりも幾分か堅固である。それに加えて高出力の防性力場(シールド)も併せ持つため、打たれ強さに関しては反則レベルなのだが……今となっては、装甲の硬さに頼るほかない。

 例の『わたしの進路に先回りしてくる』特殊弾頭によって、わたしの行く先々に攪乱粒子(チャフ)をばら撒かれ、魔力機関由来の防性力場(シールド)を執拗に溶かし崩されては、いつものような守りは発揮できないのだ。

 

 そして、一方の敵側エメトクレイルに関してだが……こちらもどうやら、特殊な機能を賦与されているらしい。見たところ、背中に大きな追加装備を背負っている。

 そしてそれは、おそらく『増設された動力機関』であるようだ。機動性能の更なる低下と引き換えに、その防性力場(シールド)の出力は一般的な【アルカトオス】よりも明らかに強い。

 それの意味するところは……攪乱粒子(チャフ)の舞い飛ぶ汚染区域であっても、強引に戦闘行動を継続できるということだ。

 

 今のところ、敵【アルカトオス】の銃砲撃での痛手は被っていないが……これは、ちょっと、全くもって油断できない。

 わたしがちょっとでも隙を晒したら……遠距離を悠々と飛び回りながら攪乱粒子弾頭を撃ちまくっている【ユディキウム・パンタスマ】の艦首砲が、ここぞとばかりに飛んでくることだろう。

 ……ご丁寧にも、敵の艦主砲は電磁加速砲(レールキャノン)のような代物らしい。初速を確保して以降は物理法則によって飛翔するため、この攪乱粒子(チャフ)の中でも減衰しない、アホバカ威力の実体弾頭だ。

 

 

「…………っ、もお! うっ、とー、しー、なっ!」

 

――――これ……対策、されてる? ボクを、殺すために。

 

「いやだ、けど! わたしは、しぬたく、ない、けど!」

 

――――そうだよ、まだ足りない。憎くて、憎くて……殺し足りないよ、ぜんぜん。

 

「うん。……わたしがいる、から。てつだう、から……ねっ」

 

 

 もはやこのあたり、戦闘空域のほぼ全域にわたって、濃度の差はあれども攪乱粒子(チャフ)が展開されてしまっているらしい。

 見れば敵艦も砲塔群による攻撃は控えめで、防性力場(シールド)を厚めに展開することによって、攪乱粒子(チャフ)の効力を打ち消そうとしているようだ。

 それに伴い、敵艦そのものの守りも固くなってしまっている。攻撃をほぼ諦めたことによる防性力場(シールド)は、攪乱粒子(チャフ)に溶かされてなお並以上に硬い。

 

 なるほど……浮遊艦レベルの機関出力なら、そんな無茶な戦法も可能なのだろう。

 それとも先んじて、入念に試験でもしていたのだろうか。どちらにせよ忌々しいことこの上ない。

 

 

 敵艦の守りはそれなりに固く、こちらは魔法由来の攻撃兵装が封じられ、しかし敵からは遠慮なく攻撃されてるし、足を止めると更に強力な攻撃が飛んてくる。

 ……なんだこれは、くそげーってレベルじゃないぞ。難易度の高さと理不尽さを履き違えてるんじゃないか。

 

 

――――くそげー、ってなに?

 

「もー! かえったら、せつめいする、からっ!」

 

――――ノールは、そればっかり。

 

「しょがない、しょっ! いまいそがし、だからっ!」

 

 

 とにかく、こちらのやることは決まっている。最終的な目標としては、敵性浮遊艦隊の殲滅……少なくとも旗艦と、あと【ユディキウム・パンタスマ】くらいは墜としたい。

 そのためには……えっと、攪乱粒子(チャフ)の撒き散らされた汚染空域で、実体弾もしくは直接打撃で、堅固な防性力場(シールド)を展開した浮遊艦を攻撃しなきゃならないわけで。

 しかしそれを阻もうと、鈍足ながらもしっかりこちらを狙ってくる【アルカトオス】の群れと、自翔誘導爆弾をばら撒きながら重い一撃を狙っている【ユディキウム・パンタスマ】が邪魔してくる……というわけで。

 

 ……なるほど、だいたいわかった。この状況を打破するためには。

 

 

「こっち、しょっ!」

 

――――わかった。機関出力上昇、推進機へ。ふりまわされないでね。

 

「あたりま、えっ!」

 

 

 まずは厄介な【ユディキウム・パンタスマ】に狙いを絞り、一気に距離を詰めて近接打撃を叩き込む。

 そんじょそこらのエメトクレイル以上の防性力場(シールド)を持つ相手に、速射砲程度で有効打が入るとは思えない。大質量を誇る機体での質量攻撃、ならびに圧砕機(クロー)による物理的な攻撃であれば、あいつとてタダではすむまい。

 

 ふわふわと蛇行しつつ逃げ回る敵を、こちらは推進機を酷使しながら追い立てる。

 有効打たりえない速射砲とて嫌がらせ程度にはなっているらしく、逃走を図る敵機との距離を()()()()と詰めていく。

 

 

「しゅ、かん、かそくっ!」

 

――――えいやっ。

 

 

 最後の一押し。爆発的な急加速とともに多関節機構を展開、腕を伸ばすとともに爪を広げ、【ユディキウム・パンタスマ】の艦尾(尻尾)を掴み、引き寄せる。

 特務制御体の面目躍如というやつだろうか。巨大な機構を生物のように操り、有機的な動きでもって獲物を手繰(たぐ)り寄せ、両の手で艦隊中枢部に「逃すものか」と爪を立てる。

 

 後背部から覆いかぶさるように組み付いた【パンタスマ】、一方の【ユディキウム】には振りほどく手段が無い。

 前方へ向けて固定された艦首砲は勿論のこと、背面上部砲塔や迎撃用砲塔群は射角が取れず、虎の子の自翔誘導爆弾は自爆の危険が高い。

 残る手段は作動肢で叩き落とすことくらいだろうが、それだって言うほど容易いことじゃない。

 

 機体と直接接続がなされた特務制御体でもなければ、大型作動肢を意のままに操ることは困難だろう。視界に収めやすい前方、あるいは静止中ならまだしも戦闘機動中であるし、そもそも後方や上方は可動範囲も狭い。

 機体そのものが圧砕されつつある状況で、落ち着いて馬鹿デカいマシンアームを動かすなんて、想定されているはずが無いのだ。

 

 

 あとはこのまま、思うように料理すれば良い。こちらの艦首砲は【ユディキウム】の土手っ腹に突き付けられてるし、このまま構造体を圧砕機(クロー)()ぎ取ってやってもいい。

 この体勢なら、どう考えても負けるはずがない。あとはトリガー信号を送るだけ、1秒もしないうちに厄介な【ユディキウム】は大破させられる。

 

 

 

 そこで気が緩んでいたのだろう、わたしは間抜けにも失念してしまっていた。

 

 

 敵機へと接触するにあたって、敵機の展開した防性力場(シールド)と盛大に干渉したことで……今このときは【()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということに。

 

 

 

――――っ、がァ゛…………ッ!?

 

「!!? だめじ、こんとろ……っ! ちゅ、すうく、そんしょ」

 

 

 やられた。完全にしてやられた。まさか【ユディキウム】そのものが(オトリ)を務めるとは……そこまで対策が煮詰められているとは、正直思っていなかった。

 

 広域視界の隅、戦闘開始から長いこと空気だった敵艦隊の()()()。わたしたちに痛打を与えたのは、そいつら三隻だ。

 格納庫扉は大きく開け放たれ、その内包物が【パンタスマ】の望遠視覚で見て取れる。上空の暴風に曝されているのは、軍需物資やエメトクレイルなんかではなく、対高空迎撃用の超射程(ロングレンジ)電磁加速砲(レールキャノン)

 

 そしてそれに篭められていた弾頭は……物質化した魔力で形成される防性力場(シールド)を貫くためのもの。

 おそらくだが、複層構造の徹甲弾頭。先端から圧縮攪乱粒子を放出、魔力の壁を砕き崩して突き進み、更に硬質目標を貫き穿つための……どれだけコストが掛かったのかも不明な、特別なもの。

 

 

 ――それが、三発。

 

 うち二発は、まんまと(【ユディキウム】)に食い付いて動きの止まった【パンタスマ】を貫き。

 

 左舷推進機と、魔力主機の息の根を止めた。

 

 

 

「…………せん、とう、きたいち……さいけいさん」

 

――――ち、ッ…………く、しょォ……!

 

 

 あぁ、本当に……最悪も最悪、間違いなく致命傷だ。

 

 これ程の規模の機体、さすがに動力機関がひとつというわけではないが……いちばん出力の高い主機が、先程から応答していない。

 伝達系統に異常を(きた)したらしく、行場を失った膨大なエネルギーが炉心を加圧し、温度が一気に上がっていく。

 

 取り急ぎ、まだ生きている動力機関の稼働率を引き上げ、機体の強制放熱と冷却を開始する。中枢区画まではさすがに攪乱粒子(チャフ)も効力が及ばないのか、魔法由来の冷却機構が使えたのは僥倖だった。

 ただ……機体全身、表面装甲の隙間という隙間から高熱を漏らす【パンタスマ】は、はっきりいって満身創痍だ。先程までのような無茶な戦闘機動でも取れば、たちまち機体温度が危険域に突入するだろう。

 

 

 つまり、これ以上の戦闘継続は、極めて困難。

 

 加えて、主たる推進機の片方を喪失している現状、周囲が敵だらけのココから安全圏までの離脱も……また同様に、極めて困難だろう。

 

 

 

「…………し……く、……ない、なぁ」

 

――――こんな、ところで…………くそっ。

 

 

 被弾からほんの一瞬、三秒にも充たない間に、損傷確認とダメージコントロールを済ませ……この先に辿り着くだろう結末へ、思い至ってしまう。

 わたしたちは……わたしは、きっともう駄目だろう。命令を無視し、自分と【パンタスマ】の性能に驕りを抱いた結果、敵陣の真っ只中で孤独な終わりを迎えようとしている。

 

 

 いっときとはいえ、わたしに戦う力を与えてくれた【パンタスマ】に……わたしの相棒アムの願いに、報いることが出来なかった。それはもちろん、心苦しいけれど。

 

 なによりも……もうあのひとに、ユーハドーラ・ウェスペロス大佐に、会うことができないのが。

 

 声を聞くことができないのが。声を掛けてもらうことができないのが。叱ってもらうことができないのが。褒めてもらうことができないのが。

 役に立つことができないことが。お仕事を途中で投げ出してしまうことが。最後まで手助けをすることができなかったことが。恩を返すのができなかったことが。

 

 これで、こんなところで、おわかれなのが……とてもつらくて、かなしい。

 

 

 

 

 

――――ふざけないで。

 

「……ぇ? あ、あむ?」

 

――――失望した。がっかりした。ノールがしょせんはその程度のやつだって……それを知ってたら、ボクは頼んだりしなかった。

 

「な、なに、を……?」

 

 

 鳴り響く警告音。それは【パンタスマ】内部、中枢区画の急激な温度上昇を知らせるもの。……危機的情報を、伝えるもの。

 高熱を孕む空気とともに煙を吐き出した【パンタスマ】を見て、好機と判断したのだろう。敵性エメトクレイル【アルカトオス】の一団が、揃ってこちらに銃口を向ける。

 

 しかし今は、この瞬間だけは、()()()()()など眼中に無い。

 

 

 

――――ボクはまだ、ぜんぜん足りないのに。ボクの身体を、魂を切り刻んだあいつらに、まだぜんぜん復讐し足りない……殺し足りないのに! こんなとこで終わりなんて、納得できるわけがないのに。打開策を考えもしないで、大佐大佐大佐って……ほんっと、失望した。

 

「ま、まって! あむ、ちが――」

 

――――何も違わない。やっぱりノールは役立たずだ。失敗した、おまえなんかに頼んだボクがバカだった。もういい、もう知らない。おまえなんて……ノールなんて、いらない。

 

「……………………え、…………っ!!?」

 

 

 なおも鳴り響く警告音と、それとは別の指示音声が、嫌な振動を発し始めた貨物室内に、けたたましく鳴り響く。

 

 長い間苦楽を共にした相棒からの罵声に、思わず思考が止まったわたしをよそに……【パンタスマ】貨物室の搬出機構が、勝手に動き始める。

 

 開け放たれるカーゴドア。力を失う機体拘束具。破裂音とともに離脱していく有線接続。いきなり動き始めた搬出レール。

 

 直後、身構える間もなく襲ってくる、わたしの意に反した急激な加速。

 【()()()()視覚素子を赤々と焼く、鋭く突き刺さる夕陽の光。

 ぐるぐると回る視界の隅、わたしから急速に離れていく【パンタスマ】の開いた貨物室(おなか)

 

 そして……わたしに向けて飛んでくる、()()()()()()()()()()()()()()()、外から制御された2基の制御子機(ハンドル)

 呆然とするわたしへ、【9Pt(ネルファムト)】の頭部と胸部へと、それは勝手に組み付いていき。

 

 

 

――――足手まといは、もういらない。……あっちいけ。

 

「……っ!!? まっ、あむ!? まって! やだ……やだ、ねるあむと!!」

 

 

 

 勝手に加速する【9Pt(ネルファムト)】が捉えた視界……急激に小さくなっていく【パンタスマ】の動力機関が唸りを上げ、捕まえたままだった【ユディキウム・パンタスマ】の構造体を握り潰し、引きちぎり、砕き潰し。

 

 大幅に体積の減った()()を掴んだまま、半壊した推進機が悲鳴を上げるのを全く(いと)わず急加速。突き進んでいく先に浮かんでいるのは……迎撃用の砲塔群をフル稼働させている、敵性浮遊艦隊の旗艦。

 

 攪乱粒子(チャフ)が減じたことで勢いを増した砲火の嵐は、しかし前面に掲げられた【ユディキウム・パンタスマ】の残骸によって阻まれ、その後ろまで届くことは無く。

 

 

 

 

――――しぬまで大佐に使い潰されろ。……ばーか。

 

 

 

 肉薄した敵旗艦の土手っ腹へと、盾としていた【ユディキウム】ごとぶち抜く艦首砲を放った巨大な機体。

 ずっとわたしと共にいてくれた、相棒の魂が乗り移っていた【パンタスマ】は。

 

 

 敵性攻性特型戦術構造物(コンバット・リグ)と旗艦級浮遊巡航艦、レッセーノ征伐艦隊戦力の過半を巻き込んで。

 

 

 いちばん弱い特務制御体であるわたしと、機能の殆どを喪失した【9Pt(ネルファムト)】と、たった2基だけの制御子機(ハンドル)を、この世に残して。

 

 

 

 

「…………ぁ、……あぁ……っ、あむ、…………やぁ、……やだぁ……っ! やだぁああ!!」

 

 

 

 太陽と一瞬見紛うほどの、とても大きな爆発とともに。

 この世界から……あっけなく、跡形もなく消えてしまったのだった。

 

 

 

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