意思表示苦手なTS盲従強化人間少女はおしごとが大好き 作:九曜ナーラ
多角的統率戦闘パッケージ【
他の実験個体とは異なり、単独での戦闘能力はそれほど追求されなかった。
超長距離から敵を殲滅する光学砲や、敵部隊を焼き尽くす自翔誘導爆弾投射機なんかのような、テンション上がるような装備は貰えなかった。
しかしその代わりにと詰め込まれたのが、遠隔制御のための通信能力や観測能力、離脱のための速力といった『直接戦闘を避ける性能』である。設計したやつもどうやら、【
加えて、重要となるのはやはり遠隔制御の信頼性と確実性、要するに『リンクの強度』であるようで。
そこでイードクア帝国の技術者たちは……強固なつながりを発揮するため、前例の無い新技術の導入を決断した。
被検体の魂を切り分け、霊魂概念的に同一の存在を複数生み出し、それぞれを別々の魔力演算制御端末に封入し、端末間での繋がりを得ようとする手法。
それによって『あの子』の魂は、多角的統率戦闘パッケージ【
そこまで切り分けられては、魂の濃度も非常に薄れてしまう。およそヒトらしい思考や会話など、十分の一の魂では出来ようはずもない。
それまで『あの子』が使っていた身体に、何の因果かこうして入り込んだわたしでさえ……とても薄れてしまった『あの子』の存在には、しばらくの間気づくことが出来なかったのだ。
契機となったのは、シュローモ大尉が持ってきてくれた【パンタスマ】へ、わたしたちを接続することになってから。
これまで、独立した九つの
【パンタスマ】を媒介として魂の欠片が集約され、本来の魂の六割がひとところに集まったことで、ついに『あの子』は意識を取り戻した。
これまでは意識が薄すぎて、声すら発することが出来なかったが……それでもずっと共にあり、私を助けてくれていた『あの子』の声を、わたしは初めて聞くことが出来たのだ。
切り刻まれた希薄な魂で長いときを過ごし、意識もはっきりしないまま部品として扱われていた『あの子』は……まあ当たり前の帰結だろうけど、そんな目に合わせた帝国に対して、深い憎しみを抱いていた。
箱庭の中で生を受け、外を知る機会の無いまま魂を切り刻まれ、意識すら保てなくなった状況で、戦闘機械の一部とされたのだ。無理もないだろう。
「自身をこんな目に合わせた奴らを、一人でも多く地獄に送りたい」と願っていた『あの子』は、帝国に抗うと決めた大佐を助けるため、戦う力を欲していたわたしと、完全に利害が一致したわけで。
ここ最近は『あの子』の力を借りながら、与えられた【パンタスマ】の性能をもって、帝国相手に大暴れさせてもらっていたわけなのだが。
そんな快進撃も……入念に対策を施した敵艦隊によって、ついに終止符を打たれてしまった。
「しにたく、ない、っ! ……しに、たく、ないっ!」
魂を十に分断されながらも、これまでずっとわたしと共に居てくれた『あの子』は……
艦隊旗艦と、特殊機材【ユディキウム・パンタスマ】……最後の最後で、数百人単位の帝国人を道連れにできたことは、果たして『あの子』にとって幸運だったのだろうか。
もっとわたしが、早く『あの子』の存在に気づいてあげていれば。もっと世界に目を向けて、色んな情報を積極的に入力していれば。暴れまわった【パンタスマ】対策に、帝国が本腰入れて取り組んでいることを知っていれば。
こんなところで、
……いや、正確にはまだ三割の魂は、この世界に存在している。アムの存在が、完全に消えてしまったわけじゃない。
だが……媒介であった【パンタスマ】ごと七割の魂を失い、意識レベルが低下してしまった現状、これまでのように言葉を交わすことは不可能だろう。
仮に【
アムの魂は、もう目を醒ますことはない。分断され薄まった魂はずっと昏睡したまま、残された時間を『部品』として過ごすことしか出来ないのだ。
「……っ、……しつ、こいっ! あっちいけ! ばかぁ!」
しかし、それでも。だとしても。
残されたたった三割であろうと、これ以上アムを失うことは、わたしにとって耐え難い。
それに……せっかくアムが、わたしの半身が、命を賭してわたしを逃がしてくれたのだ。わたしだけが、最後のチャンスを貰えたのだ。
ぜったいに、絶対に、やさしいあの子の人生を、無駄にするわけにはいかない。
特務機体【
大腿部に集中搭載された推進機の噴射ベクトルを一方向に集約し、これまでは分散制御に割り振っていた主機出力を速度に割り振れば、鈍足の【アルカトオス】くらい振り切れる……はずだった。
「……っ! くるな、くるなっ! ……くそぉっ!」
本来ならば、逃げ切れるはずだった。アムが最後にくれたチャンスを活かし、命をつなぐことが出来たはずだった。
それを愚かにも不意にしたのは……爆散する【パンタスマ】を目の当たりにして、間抜けにも呆けてしまっていて、隙を晒したからにほかならない。
初動の遅れは、今となっては致命的だ。左膝部に弾を受けてしまった【
膝を動かしての推進ベクトル制御もうまくいかず、回避行動の精度もひどいものだ。
得意のはずの『引き撃ち』でさえも……右足部は『まあまあ』の命中率だが、左足部は牽制程度にしかならない。
いかに鈍足な【アルカトオス】とて、囲まれるように展開されては振り切れない。このままでは遠からず包囲され、捕まるか……単純に、撃墜されるだろう。
「…………やだ……やだぁ、っ!」
ほんの少ししか、言葉を交わす時間が得られなかったけれど。
あの子が優しい子だということは、憎まれ口を叩きながらもわたしを助けようとしてくれたことは、よーく理解しているのだ。
大佐に会えないことは、それはもちろんだが……わたしのためを思って、逃がそうとしてくれたアムの遺志を無駄にしてしまったことが、なによりも悔しい。
だからこそ……逃げないと。生きないと。
この機体に残された全てをもって、這い寄る死の運命に抗わないと。
『
≪…………な、何だ!? この
『…………敵性エメトクレイル、制御掌握……完了、しました、ッ!』
わたしに最も近かった敵機体に
以前のようにスムーズにはいかないが、それでもなんとか外部制御に漕ぎ着けることができた。
突然味方に向けて発砲し始めたエメトクレイルに、旗艦を落とされた敵部隊は少なからず混乱したようだが……しかしそれでも、行動を阻害できたのはほんの一握りだろう。
わたしが乗っ取った【アルカトオス】が暴れているのを避け、敵部隊の半分くらいは何の問題もなさそうな様子で、相変わらず追撃してきている。
携行銃器で射撃を加えながら、わたしの行く先を潰すように、複数機が回り込むような機動を描いているようだ。
それに加えて……敵艦隊の生き残り、浮遊輸送艦の貨物室に据え付けられた
『…………生存、確率……再計算。逃走経路、行動最適化……生命活動の継続を、最優先…………っ、当該手法、該当せず』
ついに避けきれなかった敵弾が、【
衝撃によって体勢が崩れ、推進機の噴射ベクトルが一気に崩れ、これまで維持してきた速度が一気に落ちていく。
そこに殺到する……ざっと見た限りでも、十機以上のエメトクレイル。加えて遠方からこちらを睨む、三基の
……さすがに、もうだめだろう。わたしが足掻いてどうこうなるものでもあるまい。仮に強制着陸を試みたり、機体を捨ててみたりしたところで、生身のわたしが逃げ切れるとは思えない。
他の特務制御体ならまだしも……わたしの身体は、対人戦闘なんて考慮した構造になっていないのだ。
先程制御を乗っ取った敵性エメトクレイルも、既に破壊措置を講じられた後だ。こうもあっさりと『切り捨て』られるとなれば、人質として用いることも不可能だろう。
このまま捕まって、こっちが人質にされる可能性があるなら。あるいは機体を解析されたりして、万が一にでも大佐の迷惑になる可能性があるのなら。
……そんなことは、到底容認できない。わたしという存在が、あのお方の足枷となるわけにはいかないのだ。
『……しにたくない、なぁ』
機体主機の暴走自壊シークエンスを呼び出し、タイミングを図る。
大佐が楽になるように、敵を一機でも多く道連れにするために、爆発の殺傷範囲内まで敵性エメトクレイルを誘き寄せる。
『…………あいたかった、なぁ』
立て続けに敵弾が突き刺さり、搭乗席ががくがくと揺さぶられる。
中枢への致命打こそまだ無いが、それはつまりわたしを生け捕りにしようとしているということで、ちっとも安心なんてできない。
……いや、逆に好都合だ。いいぞ、一機でも多く近付いてこい。
最小の被害で。最大の効率を。大佐の口癖を思い出して。
おちついて、タイミングをはかって。
――さん。
――にい。
――いち。
≪ノール・ネルファムト! 最大速、進路直下!
『っ、……!?』
わたしの身体が反射的に、わたしがなにか考えるよりも速く、告げられた指示を履行する。
あちこち欠けた【
……直後。
先程までわたしが居た場所、敵性エメトクレイル部隊がいる場所を、まばゆい光条が薙ぎ払う。
「…………えっ? ……………………えっ?」
≪……攻撃成功を確認。【ノクトゥア】は直ちに第二射準備、【グリフュス】【インハビルス】は最大速! 至急【
≪……ねえファオ、なんかすっごい偉そうなんだけど。わたしべつにおじさんの部下じゃないよ?≫
≪いい、からっ! いまは、いうこときく、のっ!≫
≪当然です。この私の指揮の
≪…………やっぱむかつきます、おねえさま≫
≪オーネに同意です。誤射しちゃだめですか? おねえさま≫
≪だめ! だめだからっ! がまん、するのっ!≫
わたしに迫っていた、わたしの自爆で巻き込もうとしていたエメトクレイルを、一瞬で消し飛ばした青白い光条。
その飛んできた方向へと視覚素子を向けると……常識外れの速度でこちらへ向かってくる、ふたつの反応を捉えた。
それだけじゃない。見たことのないその二機より後方に見えたのは、あわせて四機の空戦型エメトクレイルの姿。
先の砲撃を行ったであろうものを含め、見たことのない機体が三機もいるが……最後の一機は、わたしにとって、とても見覚えがあるもの。
幻覚じゃない。妄想でもない。あれは、ああ、あの機体は。あの機体に、乗っているひとは。
≪まったく……貴官ともあろう者が、あまりにも迂闊が過ぎる。無謀な単独行動、挙げ句に何という有様ですか。……聞き分けのない駄犬には、帰ったら仕置が必要のようですね≫
「…………た、ぃ…………さあ、っ!!」
レッセーノ基地所属、広域統括指揮用エメトクレイル【アルカトオス・インペラトル】。
そして、それに乗っているひととは……ユーハドーラ・ウェスペロス大佐に、間違いない。
あたまがよくて、かっこよくて、陰険で、ねちねちとした小言が得意で、めがねがよく似合う……レッセーノ基地の総司令であり。
厭味ったらしくもやさしい、わたしのたいせつなご主人様だ。
こんなヒキしておいて今後の展開何も考えてないんすよね(あほ
どうしよ…………(ほんね