意思表示苦手なTS盲従強化人間少女はおしごとが大好き 作:九曜ナーラ
わたしはこれまで、この世界に対しての興味が、無さすぎたのだろう。
自分のまわりだけ、大佐のまわりだけ、目の届く範囲だけを見ていれば、それでいいと。
方針の提示はぜんぶ大佐がしてくれるからと……じぶんで考え、判断することを、放棄していたのだ。
下された命令だけを、忠実にこなしていればそれで良いと、それで大佐の役に立てると思いこんで。
世界が今どうなっているのか、帝国がどうなっているのか、大佐がなにをしているのか、それらをすすんで知ろうとはしなかったのだ。
大佐は、レッセーノ征伐艦隊の発足を、早い段階から察知していた。
それをはじめとする帝国の派兵から、独立したトラレッタ領を守り抜くため、打てる手は既に打っていたのだ。
その一環が、この『エメトクレイルを用いた傭兵団』の登用であり……なんとこちら、輜重委託先のテオドシアさんの
わたしが「やるだけやってみよう」と提案したことが、まさか実を結ぶことになっていようとは。言っておいてなんだが、予想外だった。
……そうとも。たしかに旗艦級浮遊艦や、攻めの
たった二機……いや、初手の光条魔砲も含めれば三機か。ともあれたったそれだけで、ほんの数分で、輸送艦含め敵部隊をことごとく無力化してしまうとは。
……わたしの命が、救われようとは……思ってもみなかった。
≪戦力補充の段取りに関しては、ジークも心得ていた筈ですが……呆れて物も言えませんね。アレの指示を聞かなかったのですか?≫
「っ、たいい、は……たいさ、なら、だいじょうぶだろ、って……」
≪…………それで? それがどうして
「わ、わたしが…………わたし、たいさ、しんぱい! だから、きました!」
≪………………≫
援軍のおかげもあって、あれから残存敵勢力は『あっ』と言う間に駆逐され、周囲の安全が確保された。
晴れて作戦完了した大佐たち、そして生き延びたわたしと【
わたしの機体はあちこち損傷しているが、通常航行する分にはどうにか問題ないようだ。とはいえ中破している【
まあ……壊れ掛けてても、特務機体だからな。他ではなかなか見かけることのない、珍しい機体であるのは確かである。
わざわざ駆けつけ、私を助けてくれていたひとたちだもの。観察されようと、嫌悪感は浮かばない。
そう、そもそもの『援軍』に関してだが……大佐の反応を見るに、レッセーノ基地に援軍が向かっていることを、ジーク大尉はおそらくちゃんと知っていたのだろう。
だからこそ、セーイアル解放軍からの第一報がもたらされたとき、レッセーノ基地があぶないと知らされても、あんなにも平静を保っていられたのだ。
つまり本来ならば、全くもって心配の必要は無かった。援軍というか傭兵のひとたちは、はっきりいって真正面から【パンタスマ】級をねじ伏せることができる力をもっているのだろう。
おそらくは連合国系の技術によって仕上げられた、超強力な特務機体。それを味方にできるというのなら、なるほどこれはとっても心強い。
……しかしながらそんな状況下で、べつにほっといてもレッセーノ基地は守り抜けるというタイミングで、迅速な帰還を望んだ
そんなわたしのわがままを聞き届け、ひと足早く帰還の許可を出してくれたジーク大尉だったけど……それは決してわたしを見捨てたとかじゃなくて、純粋に『傭兵団と合流できれば戦力的に何の心配も無いだろ』との判断だったらしい。
うぅん……たしかに、あの場面でのわたしは、かなり必死だった自覚はある。大佐のことになると感情的になりがちなので、大尉がわたしの説得を諦めて『好きにさせてやろう』と考えたのかもしれない。
しかしジーク大尉にとって誤算だったのは、征伐部隊の追撃に本気を出し(てしまっ)たわたしたち【パンタスマ】の速力が、想定の二段階くらい上を行っていたこと。
そして敵艦隊が、あそこまで徹底的に【パンタスマ】対策を講じてきていた、なんなら【パンタスマ】の破壊に全力だったということ。
結果として、わたしはレッセーノ基地から遠く離れた地点、味方の居ない孤立無援の状況で、徹底的に対策された浮遊艦隊とやり合うこととなってしまった。
その結果はというと……これまでさんざん見てきたとおり、わたしたちの大敗という結果に終わったわけだ。
大佐が増援の傭兵部隊を差し向けてくれなかったら、わたしも撃墜されて死んでいたか……あるいは捕らえられて利用され、ヒトとして死んでいたことだろう。
帝国のやつらが、わたしたち特務制御体をどういう目で見て、どんな扱いをしているのか。思い出すのも
≪エスペはスグにノールを
≪余計な口を挟まないで頂きたい。これは私とノールの、管理責任上の問題です≫
≪ホォ? 偉そうに言えるカ? 増援デキたはワタシのおかげヨ? ワタシのおかげでノールたち助かたヨ? 何か言うことアルカ?≫
≪…………ッ! ……チッ≫
竜人商人少女……もとい『シャウヤ』のテオドシアさんは、傭兵部隊と繋いでくれただけでなく、わたしの危機を察知して戦力を動かすよう進言してくれたらしい。
わたしがあのとき、万策尽きて敵に囲まれたときに助けてもらえたのは、大佐を動かしてくれたテオドシアさんのおかげだったのだ。
いつもはことあるごとに「手間を掛けさせるな」とか言っている大佐が、わたしを助けに来てくれたこと。
きっと大佐は、もっともらしい理由をいろいろ言うのだろうけど……大佐が動いた理由がどうであれ、目の前にある事実だけで、わたしはうれしい。
≪…………まぁ……良い働きでした。アナタの『知り合い』とやらも、戦力として申し分ない働きです。感謝して差し上げましょう≫
≪カカカ! ワタシのトモダチ、ワタシの人脈は、つまりはコレもワタシの
≪…………良いでしょう。……アナタ達とは、敵対せずに居たいものです≫
≪ソレはエスペ次第ヨ。ワタシたち『シャウヤ』は、考え曲げるはナイネ。イロウアと同じ道を進めば、スグにサヨナラ間違いナイヨ≫
≪心得ておきましょう≫
わたしが焦って動かなくても、レッセーノ基地は無事だった。
わたしが動いたことで、大佐はわたしを助けに動いてくれた。
わたしが焦って、動いてしまったことで……あの子の意識が戻る機会を、永遠に奪ってしまった。
何が悪かったかと言われれば、ジーク大尉に詳しい事情を聞こうとしないで、自分のわがままを押し通して出てきてしまったことだろう。
そのせいで【パンタスマ】は失われ、アムの魂の七割も、一緒に消えてしまうこととなったのだ。
大佐がある程度評価してくれていた、特記戦力である【パンタスマ】を喪失してしまったことは、きっとすごく怒られるだろうけど。
自分のわがままで、不注意で、相棒を実質的に死なせてしまったこと。今のわたしにとっては、それがとても……すごく、つらい。
たしかにわたしは、わたしと特務機体【
しかしながら……わたしの性能を、多角的統率戦闘パッケージ【
相棒が消えてしまい、その
確かにわたし
しかし半身といえる存在を喪い、戦う力も、無人機を統括制御する機能をも喪い……そんなわたしが、生きている意味なんて、あるのだろうか。
「…………わたし、の、せいで…………あ、む……ゔぅぅぅ……あむぅ、……っ」
≪……ッ! ホぉラ! エスペが空気読まナイでノールを虐めるせいネ! ちゃんとゴメンネするヨ!≫
≪他人に責を
≪問題ナイネ、そのテの『専門家』も帯同してるヨ。事情も把握済み、
≪くれぐれも、頼みますよ。……業腹ですが、アナタ達にしか出来ない芸当です≫
≪任せるヨ。事情が事情ネ、ビオもヤル気モチモチヨ≫
「ゔぅぅぅ………あむ……ゔぅ……あむゔー」
これからのことに思考を巡らせ、お先真っ暗だったわたしには、このときの大佐とテオドシアさんのやり取りを聞いている余裕なんて無かった。
このときに詳しく話を聞いておけば、あんな苦しくて悲しい思いをすることは無かったのに。
まあ……半身ともいえるアムとの離別で滅入っていたわたしには、落ち着いて話を聞く余力なんて無かったのだから、仕方ないといえば仕方ないことなのだけど。
やっぱり『周りのことを気にする』というのは、まだまだわたしにとっては慣れない動作のようで。
長いこと