意思表示苦手なTS盲従強化人間少女はおしごとが大好き 作:九曜ナーラ
わたしはこれまで、生まれ(かわっ)てからの時間すべてを、特務機体を操るためだけに費やしてきた。
ものすごく『閉じた』世界で、ただただ『大佐のために』と生きてきたわたしが、その無知ゆえに大失敗を被ったことは……あの喪失感は、生涯忘れることはないだろう。
そんなわけなので、わたしには可及的速やかに『常識』のインストールが求められることとなった。
……思えば一度『人間観察して常識を身に付けよう』と意気込んだこともあったが、やっぱり
奇しくも現在、結果としてわたしは『戦うための
また戦力に関しては、テオドシアさんのツテで例の傭兵団と契約できたこともあり、レッセーノ基地とトラレッタ領の防衛に力を貸してもらえることとなった。
併せて、ジーク大尉と【ヴェスパ】部隊も近々帰投する予定であるし、また戦況の落ち着いたセーイアル解放軍からの支援も期待できそうとのこと。
ようするに、わたしが戦わなくても大丈夫な状況になりつつあるらしく。
つまるところ……とっても手持ち無沙汰なわたしは、大佐のお側で出来ることが、無いわけでして。
……そんな折、大佐からわたしに下された、新たなる指示。
それこそが『今度こそきちんと一般常識を身に付けて来い』といった、いわく『極めて重要度の高い』ものであるらしくて。
その結果、わたしは……いや、わたしとアムのふたりは。
――連邦国の、とある学校に、通うことになりました。なんで?
「……はい、とうちゃく。ここ、ノールと、アムの……ふたりの、お部屋、ですっ」
「メガネのおじさんは『日常生活さえ送れるか怪しい』って言ってたから、わたしたちの近くにお部屋用意したよ。すぐお手伝いできるからね」
「んうー。……まあ、よういして、くれた、軍のひと、だけど」
「そうだね、今度またお礼しないと」
白髪の姉妹――傭兵団の団長とその妹様――に連れられ、わたしたちが足を踏み入れたのは……軍施設のものではない、一般のひと用の、居住用のお部屋。
わたしとアムが、生まれ(かわっ)て初めて目にする……純粋にやすらぎを得るための、生活の空間である。
ほんのりと残ったかつての記憶、ノールではないわたしの残滓が、新生活に心を踊らせていたときのことを想起させる。
そうとも。平穏な環境、かわいくて大切な子、そして学びのための施設。遠く離れた(とはいっても空路で2日くらいの)故郷では、かぞく(って言ったら怒りそうなひと)が帰りを待ってくれている。
生命を、尊厳を脅かされることなく……わたしのたいせつなひとたちも、また安全を脅かされることは無い。
わたしが長らく願っていた、むしろ願っていたことさえ忘れていたものが、やっと手に入ったのだ。
「がっこ、の、こと……べんきょ、のことわ、また別の日、いっしょ案内、しますっ」
「あっ、そっか。先に『ひみつきち』案内するの?」
「んうー。ノールの……あと、アムの、いっしょ。わたしと、シスと、アウラと……オーネとティア、も、なので」
「え…………えっ?」
ここまで並べられれば、さすがにわたしでも思い出せる。
オーネとティア、そしてシスにアウラ。それぞれ順に『
戦うために生み出され、エメトクレイルを操るために身体を弄られ、人権も名前も尊厳も奪われた、ヒトの形をした制御装置。
それが、ここに……この平穏な場所に、4人も集っているというのか。
……いや、ちがう。眼前の少女たち……傭兵団の団長もまた、同じ存在であるはずだ。
「あははは。……いやー、びっくりだよね。もと特務制御体が、こんなにそろうなんてね」
「で、でも、ここは『たたかえ』いわれない、からっ! ……あと、くすり、とか……へんな処置も、ない、からっ!」
「そうそう。もうアイツらにナニカされる心配、ないからね。原因のもとはちゃんと、わたしたちがやっつけたから!」
「え、っと…………はい」
なんてことだ、特務制御体が6人も……しかし
そういえば大佐は、まだ帝国に従っていたときに『情勢の変化』とさかんに口にしてたような気がする。
特務制御体が6人も纏めて離反し、しかしそれを咎めることが出来ないでいたというのなら……確かに帝国には、かなり大きな情勢の変化があったのだろう。
……傭兵団長の子は「わたしたちがやっつけた」とか言ってるけど、まさかその『情勢の変化』は、彼女たちが起こしたことなのだろうか。
あの帝国を相手に喧嘩を売って、それで笑っていられるような……そんなつよくて、自由なところだというのか。
彼女たちに……傭兵団に助けてもらえるなら、大佐やトラレッタ領は安泰だろう。
わたしたちを助けてくれたひとたちは、わたしが思っていた以上につよくて、すごい子たちだったのだ。
「……はい! それじゃファオ、ちゃんとシャチョーさんとして案内してあげようね!」
「が、がんばりまひゅ」
「「えっ?」」
「「えっ?」」
「あっ、えっと、えっと…………よ、ようへ、だんちょ、は……その、」
「…………あの、もしかしてだけど……ふたり、そっくりで仲良しで、姉妹かな? っておもってたんだけど……お姉ちゃんって――」
「「わたしだよ!!」」
「「ぇえー……?」」
ま、まあ……とっても仲良しなのはいいことだとおもうけど、とにかく
見た目はもちろん、その口調もたどたどしいし、儚げで容易く手折られてしまいそうな女の子だけど……その実力と、そして行動力と、なによりもわたしが受けた恩はホンモノなのだ。
帝国の悪趣味な実験体として生を受けて、しかしわたしみたいに自暴自棄にならず、こうして立派に自立している。
……わたしも、なれるのだろうか。彼女のように、前向きで立派な『ひと』に。
わたしみたいに日陰で塞ぎ込んで、行く先もわからずうずくまっているものを、日向に引っ張り出してあげられるような『ひと』に。
「んんっ! 自己紹介、まだでした、のでっ! ……わたし、ファオ! もと特務制御体、多目的航空支援プラットフォーム、コード【
「わたしはテアだよ。ファオとおなじで、もと【
「ぽぇあ!? わ、わたしが! わたしが
「まずおしゃべりを慣れてからね、すっごくこどもっぽいよ」
「きいいいい!」
わたしと同じく、特務制御体の出身の『ファオ』と、アムと同じくヒト型ゴーレムの身体だという『テア』の……とってもなかよしな姉妹。
あらゆる点で、わたしたちのことをよく理解してくれそうな『先輩』たちのじゃれあいに……ふと隣を見てみれば、アムも楽しそうに笑みを浮かべている。
ここなら、きっと、わたしの夢も叶えられる。
ひとの常識を、今度こそちゃんと身につけて……立派な『ひと』になって。
そしていつか、トラレッタに戻って……大佐のお側で、もっともっといろいろ、たくさん役に立つのだ。
「わ、わたし、はっ……のーる、ねるふぁむと、ですっ! しょ、らい、の、ゆめ……かなえる、がんばり、ますっ!」
「アム、です。……夢、かぁ…………考えたことなかったなぁ。とりあえずノールとけっこんしたいなぁ」
「「「えっ!?」」」
「だって、ボクのノールだもん。メガネ大佐に取られたくないもん。けっこんすれば取られないもん」
「で、でも! わたし、わたし、たいさ…………あかちゃ、いっぱいうま、なきゃ――」
「「えっ!?!?」」
「ボクが協力するから、いいじゃん。ボクも身体もらったし、あかちゃん協力できるよ」
「「エッッッッ!!?!??」」
「えっ、えっと、えっと…………あむの、からだ、おんなのこ、だから……できない、よ?」
「えっ? なんで? ……え、だって『ちゅう』すればあかちゃんできるんでしょ?」
「「アッ………………!!」」
「ふふっ。……あむ、かわいい、ねっ」
「…………?」
立ち止まるのが長すぎて、歩きだすのが遅すぎて……たぶん目的地にたどり着くまで、ものすごく時間は掛かるだろうけど。
ここならわたしは、わたしたちは……わたしたちが目指す場所まで、遠からずたどり着ける。
そんな予感が、たしかに感じられたのだ。