きっとそれは、素晴らしい魔法だった   作:青い灰

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魔法講義 貫く氷の魔法

 

 

 

 

「じゃあ、ぞるとらーく!」

 

「だからそれは駄目なんだってば」

 

「なんで!? 出来るもん!」

 

「『今』出来たら困るんだよ」

 

 

ごねる少女に、グレゴールはふぅ、と息をつく。

先程の憂いはどこへやら、その吐息は困った様子だ。それもそのハズ、魔族の魔法を、それも大量の死者を生み出した〝腐敗の賢老〟クヴァールの生涯の魔法を使いたいと宣っているのだ。グレゴールの記憶では、確か彼は封印されただけだったが……

 

もし封印を破って出てこられたら。

グレゴールはかの旧友の魔王への忠誠を知っている。それを人間に教えたとなれば、呆れられるか、または怒りを向けられるか……後者はなさそうだが……

そも無許可で勝手に解析・再現したものであるし。

 

それに、あまりにも人間たちに悪目立ちしてしまう。それはそうだ、現在人間たちが挙って研究中の魔法を何も知らない少女が使いこなせてしまえば困る。更に質の悪いことに、この少女は恐らく記憶の中からその魔法を解析し再現する、なんて可能性を考えてしまう才まで持っている。

 

……

 

グレゴールは、渋々といった様子で少女を見下ろす。

 

 

「……攻撃魔法が使いたいのかい?」

 

「ん!」

 

「………ふ、む……」

 

 

迷いなく頷いた少女に、グレゴールは顎に手を当てて考え込む。髪を綺麗にする魔法なんかの民間魔法ならともかく、攻撃魔法は危険を伴う。それこそ、自分の魔法で自滅することだけは避けなければならない。

 

そんな魔法があったかなぁ、とグレゴールは記憶から所持している魔導書を探り始め……

 

そして、一冊の魔導書を新たに取り出す。

渋い顔で。

 

 

「………これで人間を撃たないと誓えるね?」

 

「えー」

 

「………危険だと思ったら使って構わない。

 魔族や魔物、人間の盗賊なんかにはいいよ」

 

「……………分かった」

 

 

少女、こちらも渋い顔で了承する。

同じ人間に虐げられていたとはいえ、やはり人相手に攻撃魔法を使おうとしていたらしい。純粋無垢は良い性質だとグレゴールは考えたが、同時にそれを極めて危険なのではないか、と思い至った。生物としては、外敵に対して攻撃したいというのは間違ってないが。

 

………何はともあれ、である。

危険を取り除くのならば、攻撃魔法は必要不可欠だ。グレゴールは魔導書を再び浮かばせ、頁を捲る。

 

 

「……貫く氷の魔法(ペルフォラキエス)

 殺傷力はあるが、同時に不殺にも向く魔法だ」

 

「? どういうこと?」

 

「説明よりも、まずは実際に見てからね」

 

「ん」

 

 

頷いた少女に、グレゴールはその掌を上げ、遺跡群の一つの柱へと向ける。

 

 

 

貫く氷の魔法(ペルフォラキエス)

 

 

 

その掌に青い魔法陣が広がる。

瞬間、周囲の温度が下がると、魔法陣の中心に冷気が集中し、そして、小さな、まるで小指の大きさほどの氷の刃が生成される。

 

 

 

そして、次の瞬間には。

 

 

 

「え」

 

 

 

ばぎっ、という音と共に、少女は声を漏らした。

少女の認識すら追い付かぬ速度で、それは遺跡の柱を確かに抉り抜き、その風穴を凍結させていた。

 

少女は、グレゴールを見上げる。

その眼は冷ややかに、その柱に向けられている。

 

瞬き。

 

それを終えて、その眼は普段のものに変わる。

 

 

「………直線上にある対象を()()()貫く魔法。

 貫いた場所は凍りつき、足を狙えば動きを、

 武器を狙えばその得物を確実に破壊する」

 

 

本来〝貫く〟ことに特化した魔法だが、グレゴールの手によってそれは〝凍結〟という特性を付与された、改造魔法。グレゴール、もといこの魔族は、知り得た魔法の術式を弄ることで、魔法を新たに作り上げる、ということをやってのけている。本来ならば、魔法の術式というものは緻密かつ繊細であり、そこに改造の余地など在りはしないのだが………

 

 

「殺すことも出来る。

 だが、無力化させることも出来る。

 使い手次第でそれは変わるけれどね」

 

「…………」

 

「さっき……人に向けるな、と言ったね。

 悪いが撤回する。その魔法、()()()()()()()()

 そしてその結果を、私は決して咎めない」

 

 

グレゴールは、魔族は、穏やかにそう語る。

そして。

 

 

「なら」

 

 

少女は、その掌を魔族へ向けた。

魔族はそれに穏やかな笑みをたたえたまま、動かない。

 

………いや、動く必要がないだけ。

魔族は、動かずとも少女を一瞬で葬り去れるから。

 

少女は静かに首を傾げる。

その顔は、無表情に、何の感情もないように。

 

 

「こうしても?」

 

「あぁ、咎めやしないとも」

 

 

少女は魔法を発動する。

魔力が爆発的に高まる。周囲を満たす濃密なそれに、グレゴールは静かな微笑みを崩さず、だが動かない。

 

魔法陣が展開される。

少女の頭上に、左右に、前方に、計10門の魔法陣。

 

 

 

 

貫く氷の魔法(ペルフォラキエス)

 

 

 

 

輝きが放たれる。

 

それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん。見事だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現れた土の壁を貫いて、だが、消失した。

グレゴールは動いていない。

 

大地の魔法(テラ)

発動条件は体で大地に触れていることであり、魔族はそれを足で発動したまで。靴から魔力を流して土壁を造り上げた……それだけ。

そしてグレゴールを守るように現れたそれは、複数の防護魔法が自動で発動するよう改造されているもの。

 

 

それを貫いて、だが届かず。

 

 

少女は首を傾げて、不満げに口を開いた。

 

 

「………貫くって言ったのに」

 

「〝直線上にある対象を〟ね」

 

 

自然に、グレゴールも言葉を返す。

確かに〝貫く氷の魔法〟は土壁を貫いた、が、そこでそれは魔法としての効力を失い、消失してしまった。少女が不満げなのはそこだろう。

だがこれは、グレゴールの言葉通りである。

 

 

「その〝対象〟は一つまで。

 そしてその対象の指定は不可能。

 盾は必ず破壊する。だが、鎧までは届かない」

 

「重ねて撃ったよ?」

 

「そうだね。これはまぁ、複数の防護魔法が

 受け皿になって最後の一発が貫通したようだ」

 

「………むう」

 

「防御魔法に対しては強力な魔法だよ。

 それに関しても〝対人用〟の魔法と言える」

 

 

少女は不満げにグレゴールを睨む。

対するグレゴールは、静かに目を伏せる。

 

………幾らなんでも、解析が早すぎる。

少女は見ただけで10門もの魔法を同時展開した。

これほどの才は、彼の記憶でも見たことはないほど。それは、古い記憶にある、あの魔法使いよりも。

 

幾ら、人間だとしても………いや、これは………

 

 

「ねえ」

 

「………うん。どうかしたかい?」

 

 

そこでグレゴールは、思考を止める。

声をかけた少女を見下ろせば、何故か満足げに彼女は胸を張っている。

 

 

「すごいでしょ」

 

「驚いたよ。私を撃ったのも含めて」

 

「大丈夫だと思ったから」

 

「それはそうだけど」

 

 

思ったより容赦ない言動にグレゴールは苦笑い。

魔族などよりよっぽど純粋な動機である。その魔族が若ければ即死させられる威力と速度の魔法なのだが。…それもそのはず、これは戦争の時代の魔法である。

 

 

「……純粋さとは、怖いものだね」

 

「むふー」

 

 

どや顔の少女の頭を撫でながら、グレゴールは呟いた。

 

 

 

 

 

 

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