ハイラを引いて衝動書き
十二神将という者たちがこの『空』には存在する。
その始まりは覇空戦争時代まで遡ることになる。
覇空戦争が終了して間もなくの頃、空の民は星の世界を監視するため、星と空の世界の境界の十二の方角それぞれに拠点となる社を設けた。
星晶獣との戦いが想定されたため、十二の社には十二の神聖な獣に選ばれた十二の実力者たちが身を置いた。それが初代十二神将である。
十二の神聖な獣たちは干支として各々の社に祀られ、現代の空では無病息災を祈る参拝者が訪れる神宮として名を馳せている。
神宮には初代十二神将の末裔や、彼らの力を発現させた者たちが新たな十二神将となり、無辜の民の守り手として【厄祓い】などのお勤めを果たしている。その甲斐あってか、今の空においてはすっかり人気者集団となった。
そんな輝かしい歴史を持つ十二神将。
だが光あるところには必ず影があるというもの。
彼らに纏わるある裏話が、現代の空においてもまことしやかに囁かれていた。
曰く、聖なる獣は十三体いたとか。
曰く、聖なる獣に選ばれた十三人目の将は、十二神将のお務めから逃げ出してしまったのだとか。
曰く、その十三人目の将の後継者は、贖罪として現代に至るまで十二神将に仕え続けているのだとか。
そして、残念な事にこの十三人目の将の噂は真実なのだった。確かに彼は存在していた。
十二神将が守護する空域のその中心で、獣に選ばれながらも戦わなかった幻の将。
その後継者こそが。
「イオウ、お前なのだニャ」
「は?」
年の瀬が近付きつつある冬のある日。今日も今日とて俺は事務作業に追われていた。
なんかよく分からん因縁から『十二神将を応援し隊』などというふざけた名前の集団に所属するようになってはや十数年。
こんな名前の組織でよく続くもんだなぁと思う。歴史を重ねれば当然、世代交代というものはやってくるもので、俺は2年ほど前からこの隊の隊長に就任してしまっていた。
この時期の十二神将たちはそれぞれの社にて年越しと新年の準備に勤しむことになる。当然、彼女たちを応援する俺たちも忙しくなっていく。
「犬神宮へ送る物資のリストはこれで完成と。鶏神宮は……なんかよく分からん素材を要望されてるな。辰神宮へと送るお宝と併せて早めに確保をよろしく」
「了解しました! 輸送船や騎空団の配備などはいかが致しますか?」
「そっちはまだいいよ。お務めが終わる羊神宮と、次の恵方の猿神宮への支援が最優先だ。他の神宮への輸送云々はそっちが片付いてから。食料の確保、特にお酒の準備はできてる?」
「一応手配は済んでおりますが、輸送計画についてはまだ練り込み中です」
「OK、引き続きよろしく。牛神宮からはとくに変わったことはなし。鼠神宮は……なんか去年と色々と違いすぎない???」
「牛神宮は先代のご息女が就任なされましたが、鼠神宮には全く新しい十二神将さまが現れたと聞いております。その影響では?」
「うーん。バルーンに光源に……要求量が多いな。恵方でもないしこちらからの支援は最小限にせざるを得ないか。先方にもそう伝えておいてくれ」
「了解しました」
ぱっぱぱっぱと机の上にある書類を捌いていきながら部下たちに指示を飛ばす。
十二神将全員を応援することを目的に活動する俺たちは、それぞれの神宮から求められる物資の確保と配送の管理、ついでに年の瀬におけるイベントの警備の手配などなど、十二神将に関連するあらゆる事柄について対応を行っている。
基本的に一番忙しくなるのは今年の恵方となる方角を守護する神宮だ。しかし、それ以外の神宮が新年を祝うイベントを行わないかと言えばそうでは無い。
今年の守護神が担うのはあくまで厄除けの任だけだ。それぞれの神宮で形成された慣習というものは、毎年のようにやってくる。
例えば犬神宮なら、闘神と謳われる十二神将にあやかろうとやってくる戦士たちに対応しなくてはいけないし、辰神宮ならお龍玉のための糸などを用意しなくてはいけない。
滞りなく新年を祝うため、俺たちは年越しの約一月前から準備を進めるのである。
「はぁ〜〜〜〜! せめてそれぞれの神宮がもっと近くにあったらなぁ〜〜〜〜!!」
「イオウ隊長、それ毎年のように言ってますね」
「だってそうじゃん! 物理的な距離が遠すぎるせいで、それぞれの島に割り当てられる騎空艇の数に限界が生じてるんだからさぁ!」
仕方ないというのは分かっている。星と空の2つの世界の境界をカバーできるように建てられたのが始まりなのだから。だが理解していても愚痴というものは止められない。
あーブラックブラック。どこかの輸送でミスでも起きればすぐに調整。物資の確保をミスっても調整。騎空団が依頼をバックれた時も調整。そして新年当日は各神宮に護衛を配備せなあかんし……。猫の手も借りたいよマジで。あ、俺が猫役なんだっけ……。
「そんなこと言っとる場合ではニャイぞ、イオウ」
「げ、出たな毛むくじゃら」
「そろそろ祭事の為のお飾り付けの時間だニャ。とっとと支度するのニャ」
「いっつも思うけどニャンえもんの方でどうにかできないの?」
「加護を与えるのが我の役目だニャン。こんな手で依代が作れると思うかニャ?」
「うん。無理だね。じゃあ書類作業とかさ……」
「彼女たちの要望に応えたいと言ったのはイオウだニャ。責任はお前がとれニャ。イオウが勝手に決めたことに我は関与しないニャ」
「ひでぇ!」
そもそもいきなり贖罪がどうこう言い出したのはテメーじゃねぇか! ざけんな!
「イオウ隊長、アンチラ様の分身がお見えになっております。お会いになりますか?」
なんて言ってたら仕事が増えやがった!!
「十二神将様が直談判しに来た案件が最優先だ。すぐ向かう」
「多分いつものアレだと思いますが……」
「分かっている。なら尚のことだろう。彼女の安全に関わることだ」
「はぁ」
部下に応対しつつ、部屋の隅に立てかけてあったひとつの棒を手にとって執務室を出る。
慌ただしい羊神宮支部から羊神宮境内の方へ向かってみれば、そこには今代の南南西の守護神アニラと、彼女と楽しそうに会話をしている少女が一人。
「あ、イオウ! 今日も勝負だよ!! 今度こそ勝つからね!」
「やってみろ小娘が。まだまだ外に出るのは速いってことを教えてやるぜ」
「ほどほどにするんじゃぞ、お主たち」
今代の西南西の守護神アンチラが勝負をしかけてきた!!!
「……負けました」
「っ〜〜〜〜! やったぁ!」
「なんと意外! 恐ろしく速い決着であったの!」
まさか速攻で片付けられるとは思わなかった。大の字で仰向けに倒される、完璧な敗北だ。……油断してたつもりは毛頭ないんだけどな。
「『分身一体で俺から一本取ったら許す!』だったよね!」
「……あぁ、男に二言はない。棍棒術においてはアンチラは俺に勝っている。『テンジク』を目指す旅への出奔、認めてやるよ。じいさんにも掛け合う」
「やったぁ!!」
あはははと楽しそうに笑うアンチラ。つくづく天才というものは恐ろしい。本当に齢10歳の女の子の一撃かよ。『仙術』抜きにしても末恐ろしすぎるだろ。くっそいってぇ…………立ち上がれねぇ……。
「それじゃあイオウ、猿神宮で待ってるからね〜!!」
「あ、おい待てまだ話は」
「…………もう手遅れじゃよ」
声で制止しようと顔を上げた時にはもうアンチラの姿はなかった。
とはいえ、気持ちが分からないでもなかった。まだ若いから、子供だからという理由で『テンジク』行きの夢を中断してもらっていたのだから。
「敗者は勝者に従うもんだ……。これくらいの我儘なら可愛いもんだな」
「コテンパンにやられておいて、なーにをカッコつけておるんじゃお主は」
「カッコつけるも何も素直な感想だよ。あぁ、弟子の独り立ちを見守る師匠の気分だ……」
「お主、たまにバカになる時があるよのう……」
「別に10歳以上も歳が離れた女の子に負けて悔しいとかじゃないから。それを誤魔化したくてバカになってるとかじゃないから」
「はぁ……。ほれ、動かすぞ?」
ポンポンとアニラの傍から音がする。その音に合わせて現れたのは大きな羊だ。
これが南南西の守護神アニラの能力だ。戦闘においては羊の爆発力と質量が彼女の槍術と合わさり莫大な火力を生む。日常生活においては、こんな風に倒れた人を運ぶのに使えるし、もふりがいのある抱き枕の代わりとしても機能する。
「ごめん、アニラ。助かる」
「お主は無茶をし過ぎなんじゃ」
「別に無茶なんか」
「しとるじゃろ。 先程の勝負、お主全く万全ではなかったじゃろう?」
……なんの事だかね。
「目を逸らすでない」
「いやー実際無茶なんかしてませんし? すこぶる元気ですし?」
「お主が嘘をつく時はそうやって目を逸らす。癖じゃぞ、それ」
「え、マジ?」
「伊達に今年一年、共に過ごしておらん。知る人が見れば一目瞭然じゃと思うぞ。まるで”氣”が感じられん。というか、”氣”が巡っておればそのようにノビていることもないじゃろ」
「…………まぁそれはそうなんですけどね」
”氣”というものは闘気に近い、人なら誰もが持つ見えない力のことだ。俺はこの”氣”を使って人々に癒しの力を与えることができる。無論自らの治癒能力だって上げられちゃうので、長期労働には必須のスキルだ。
戦闘能力の向上はこのオマケのようなもの。”氣”がないと十二神将のような実力者たちには手も足も出ないのである。
「お主は色々と背負い込みすぎじゃ。聞けばアンチラだけでなくフアンとパイの面倒も見ておるらしいではないか」
「いやー……ラオラオ様にああも泣きつかれたら断れないよ」
「その年の歳神に付きっきりで護衛、各神宮への物資の運搬の手配、警備体制の構築などなど、業務を挙げればキリがない。この上、個人的な頼み事まで引き受けるつもりかの?」
「それが俺の”お役目”だからな」
十二神将たちの命を守ることは当然として、彼女たちの幸福を保証するのも俺たちのお役目だ。彼女たちが安全安心に過ごすことこそが、その年の安寧の象徴になるのだから。
今回の件で反省すべきなのは働きすぎたことではない。この時期はいつもこんくらい忙しい。
真に省みなければいけないのは、この繁忙期に”氣”を安定させられず、全力で戦えなかったことだ。
歳神が大衆の面前に露出することが多くなる年末は、彼女たちか最も危険にさらされやすい時期である。そんな時に実力を発揮できないのは大問題である。更に”氣”の修行を重ねなくてはいけないだろう。
「のう……お主は本当にそれで良いのか?」
「どうした急に」
「我も十二神将が一人じゃ。お主がニャンえもん様に選ばれた経緯ももちろん知っておる。……お主はそれで本当に満足しておるのか?」
確かに、名目上では13人目の十二神将、初代猫神の贖罪のために、今俺は彼女たちへ奉仕していることになっている。
事情を知るものには、顔も知らない、血の繋がりがあるのかも分からない先人のために、人生を縛られているようにも見えるだろう。
初代と同じ能力を受け継いだがために、俺は家を離れて羊神宮にいる。ニャンえもんから唐突にお役目を告げられて以降、俺の生き方は定まってしまった。
だが、まぁ……。
「そこそこ満足してるよ。……うん。自分の実力が不足していること以外は概ね満足だ」
「何故じゃ?」
「何故ってそりゃあ、(人物的に)好きだからだよ、お前(含めた十二神将の全員)が」
「なっ……! 我(だけ)が、(恋愛的に)好きだからじゃと!?」
「うん。(皆の)笑顔が好きだ」
「〜〜〜!!」
十二神将の皆を、俺は心の底から尊敬している。
アニラは俺に自由がないと言った。だが俺に言わせれば彼女たちこそ自由がない。
式神や神器を操る才がある者は問答無用で歳神の後継者として”お役目”を果たさなくてはならなくなる。彼女たちの選定基準に年齢は考慮されない。
現在の十二神将において、20歳を超えるのはマコラとハイラ様だけだ。アンチラに至っては10歳にして歳神に選ばれてしまっている。
彼女たちは、これから訪れるであろう青春を犠牲にして歳神として全空のために働くことになるのだ。
だが彼女たちはそのことについて悲観的ではなく、むしろ進んで全空の無病息災に祈りを捧げている。
人々に笑顔を届けるために祭りを開いたり、料理を提供したり、時には騎空士のように依頼を受けたりしている。年端も行かぬ少女たちがだ。
俺はそんな彼女たちの姿勢にいたく感動している。だから、たとえブラックでも彼女たちの役に立てるように頑張るし、彼女たちの身を案じて色々と世話を焼くのである。
全てはそう、彼女たちの笑顔のために。
「変なところで素直なのは昔から変わらんのう……。これでは本気にしてしまうでは無いか……。……いや、して良いのかの?」
「アニラ、納得してくれた?」
「あ、あぁ! お主の思い、しかと耳にした。不満がないのであればそれで良いのじゃ……うむ」
「?」
それにしては随分とモジモジしてるような気がするんですが。
……あーもしかして。
「アニラ、やっぱり寂しいのか?」
「ほぇ?」
何その顔めちゃくちゃかわいいんですけど。いや、そうじゃなくて。
「俺の今年の”お役目”ももう終わる。祭事に使う天干地支刀を納めたらもう猿神宮だ。……お前、寂しがり屋だからさ」
「あ、あぁ、そのことか」
数ある神宮と共に初代十二神将の子孫が住まう街が築かれていることは珍しくない。しかし、羊神宮のある島はそうでは無い。今のアニラは両親や弟妹たちとは離れて暮らしている。
羊神の本家は除夜の鐘が祀られている島にある。この島の近くにあるため、羊神宮で働く者たちはそちらからやってくるのである。
だが、アニラだけはそうもいかない。神宮の主としてここの管理と守護をしなくてはいけない関係上、常駐していなくてはいけないことが多い。歳神ともなればほとんど実家に顔を出す事も出来なくなる。
家族思いなアニラは、それ故に一人孤独に羊神宮を取り仕切ることに寂しさを感じていた。だから俺は、歳神を護衛するという名目の元、各神宮に応援隊用の屋敷を造らせ、一年間生活を共にしてきたのである。
それももう終わる。来年は歳神ではなくなり、今年ほど忙しくならないとはいえ、やはり彼女は独りここに残ることになるのだ。それが少し気がかりだった。
「寂しくないと言えばうそになるかのう……。お主のお陰でこの一年の羊神宮は珍しく騒がしかった。今年の恵方であることを加味しても、じゃ。それが無くなるのは……うむ、やはり寂しい」
俺を運ぶ羊を撫でながら、アニラは言う。こればかりは俺にはどうすることもできなかった。一応、応援隊の者数名を屋敷に置いてはいくつもりではあるが、彼らがアニラと対等な関係でいようとするとは思えない。
「来年はアンチラと一緒にここに来るよ。いや、こっちに来たっていい。歓迎する。だから……」
これ以上言葉は続かなかった。彼女に必要なのは三食を共にする家族であって、お客では無いのだ。俺の全てを賭したとしても、物理的な問題の解決には繋がらない。
アニラにもそれは解っていた。彼女は必死に言葉を紡ごうとする俺の口に人差し指を当てて、首を横に振ると、頬笑みを浮かべた。それは俺を安心させるための笑みだ。
「くふふふっ、そう心配そうな顔をするでない。我は大丈夫じゃ。お主の言うように、もう歳神ではないのだ。寂しくなったら皆の元を訪ねればよいからの」
「アニラ……」
「だが、そうじゃな……。一つだけ、我の願いを聞き届けてくれんかの?」
「あぁ、もちろん! 何でもするさ!」
即答だった。それで彼女の気が少しでも紛れるのなら、と。
だが、考えが浅かった。一年ともに過ごしたのだから、もう少しよく考えれば彼女が何を望むのか、思い至ってもおかしくなかっただろうに。
「今夜だけで良い。我と……その、同衾して欲しい」
……あれぇ〜〜?
自分でもなんだそれはと思ってしまうような、ふざけた返事が羊神宮に響き渡るのだった。
「……ごくり」
その日の夜。一日の仕事を終え、風呂と食事を済ませた俺は、一本の刀を携えてアニラの部屋の前まで来ていた。無論、寝間着である。
あの後、アニラとは一言も交わすことはなかった。
夕食の時でさえも話すことはなく、入浴のため、先にお風呂場へと向かった彼女から「待っておるぞ」と一言告げられただけだった。
少なくとも、昼の約束が冗談では無いということは確かである。
どうしてこうなった。
「いや、身から出た錆だ。口は災いの元とは言うが……ここで引き返してしまうのは……」
無理だ。先程の発言からして、彼女は俺が来ることに期待している。その期待には応えなくてはならない。
「……アニラ、イオウだ。……入るぞ」
意を決して、彼女の領域へと足を踏み入れる。瞬間漂ってきたのは、彼女から発せられている匂いの濃度を何十倍にも濃くしたような、とてつもなくいい匂い。
「来たかの……」
アニラはベッドの真ん中に転がっていた。無論、寝間着である。
普段以上に無防備な彼女は、眠気があるのかトロンとした目でこちらを見つめてくる。
その色気に当てられて、思わず固唾を飲んでしまった俺を誰が責められるだろうか。
これは、まずい。
「なんじゃ、刀を持ってきおったのか?」
「え、えぇまぁ……。護衛が俺の”お役目”ですので……」
何を敬語になっているんだ馬鹿者が! それこそ意識していますと言っているようなもんだろうが!
相手は18歳の少女。対してこちらは23だぞ!?
手を出せば確実に事案だ。理性を保て。
心頭滅却、我が心を無にすれば切り開けぬ苦難なし。明鏡止水、ひとつの濁りもない固い意思にて到達する境地へ。
「くふふふ……。ご苦労さまじゃ。ほれ……」
「……失礼します」
あはあ〜^ ダメかもしれん。むりかわいい。
アニラに誘われるがまま、俺はベッドに腰かけた。刀は傍の壁に立て掛けている。
アニラのベッドは式神の羊たちと寝る関係上めちゃくちゃでかい。だがそれでも羊の数が多く、スペースが全く足りていない。羊同士が重なり合うなんて言うのはザラである。
アニラも当然のように羊を枕替わりに使っている。どうにか空間を確保していたようで、彼女の横にきっちりと、俺が入り込めるスペースがあったのだった。
周りで眠る羊たちを起こさぬように、そーっと彼女の傍による。そして、彼女の顔の横に右手を置いた瞬間。
「ぎゅむっ!?」
「くふふふふっ! 捕まえたぞ〜」
彼女の胸元へと一気に頭が吸い込まれた。
背中にはもう手が回っており、眼前にある女性のドラフ特有の胸から逃れられなくなっていた。
ここは
「イオウは本当に小さくて、抱き心地があるのぉ。本当にヒューマンなのかのぉ?」
「〜〜〜ッ! ん〜〜……!!」
か、体が……! 抜け出せない……!
顔をはやくこの天国から出したいけど、アニラとの身長はほとんど同じ。上にいけば彼女の顔が至近だ……!
「140センチちょうど、じゃったか? 一度こうしてぎゅ〜っと抱きしめて、撫で回してみたかったんじゃ」
「モガッ……!」
こ、こいつ……! ナチュラルに片足を足で掴んでやがる! 背中の腕が外れたのに抜け出せない……! ていうか、なんか……くすぐったい。
「何故じゃろうのう。我はもふもふふわふわが好みなんじゃが……お主の硬い体を触っておると、妙に安心するのぅ……」
「あ、アニラ……!」
「くふふふふっ、すまなかったのう、イオウ。全身でお主を感じてみたかったのじゃ」
アニラは満足したのか、手で撫で回すのをやめた。そこで俺は、ようやく彼女の胸元から脱することができた。時間にしては一瞬の出来事ではあったが、とても長い時間が経ったようにも思えるひと時だった。
とはいえ、お互いの顔は至近距離にあり、体もいくつかの部分が触れ合っている。力は先程より弱いものの手は再び背中に回されていて、これ以上離れることができなかった。
全身から女性特有の柔らかさが伝わり、容赦なく俺の理性をゴリゴリと削っていく。
「もう少し、距離を……」
「嫌じゃ。今日はお主を抱いて寝ると決めておる。これ以上離しはせぬぞ。……近づくのは構わんがの」
今のアニラは無防備過ぎた。両の眼はこちらの顔をじっと捉えていて、目をそらすことしかできない。首には背中から手が回っていて思うように動かすことができず、彼女の視線から逃れることができなかった。
アニラは言うまでもなく美少女だ。その金色の髪は宵闇の中でも妖艶に光り輝いている。金色の瞳もまた同じように揺らめいていた。
これを真正面から直視することはできない。……ええい、ままよ! どうせ体を離してくれないのだから、こうしてやる!!
「む」
「お返しだ」
引くのではなく、攻める。こちらからアニラの頭へと腕を伸ばし、胸元で抱き留めた。
手の先にはサラサラとした髪の感触が、胸には彼女の吐息が当たるようになったが、彼女のあの表情を直視するよりかは幾分もマシだった。
それでも鼓動がはやくなるのは止められないが。
「……くふふふっ」
「何がおかしい」
「いやの、お主の体は我と同じくらいだと言うのに、なんと頼もしいのかと思っての」
「それは光栄なことで」
「うむ。触れてわかる。お主のこれまでの努力と鍛錬の成果が、ここにありありと現れておる。……とても安心するのう」
グリグリと、アニラは角を当てぬように頬擦りしてくる。その様子はまるで子供のようだった。
冷静になって見てみれば、そこに居たのはただの一人の女の子だった。大きな務めを背負うことになっただけの寂しがり屋の少女だった。
「そう思うならいくらでも頼ってくれていい。少なくとも今日は寂しがることなんてないんだ。ゆっくりとおやすみ」
「くふふふっ、くすぐったいのう……。うむ、とても……あたたかい。この音がとても、心地よい……」
ポンポンと、ゆっくりと彼女の頭を撫でる。心臓はもう落ち着いていた。
数分の間、心地よい沈黙が続いた。
俺の手がそうさせたのか、あるいは音がそうさせたのか、彼女はそのまま眠りについた。
俺もまた、彼女の体温を感じながら眠りにつく。
俺はここにいるのだと、離れることはないのだと、君は一人ではないのだと、伝えるように。
「もう行ってしまうのかの?」
「ああ。年明けまではあと一週間ちょっとあるが、騎空艇の調整と猿神宮との関係でな。今日で護衛任務は終了だ」
「羊神宮に戻ってくるのは11年後か。それまで寂しくなるのう……」
「大丈夫。この空にいる限りいつでも会いに行けるさ」
「うむ、そうじゃな。この空にいる限り。……アンチラにはよろしくと言っておいてくれ」
「わかった」
いくつかの荷物と天干地支刀・未之飾を携えて、俺は猿神宮行きの船に乗る。応援隊の面々もここを離れ、本部か猿神宮へと向かうことになる。
「のう、イオウ」
「?」
「11年後には、我々はどうなっておるのかのう」
「さぁ? どうだろう。10歳の時には今のこの地位にいるとは想像だにしなかったけど」
「我はお主と、も〜っと仲良くなっていたいものじゃな!」
「あぁ、それは間違いない。だって俺がお前を嫌いになるわけがないからな!!」
「……くふふふっ!」
さぁ、次は史上最年少の十二神将がいる土地だ!!
イオウ プロフィール
CV ???
年齢 23歳 身長 140cm 種族 ヒューマン
アニラ プロフィール(以下グラブル公式より引用)
CV 悠木碧
年齢 18歳 身長 142cm 種族 ドラフ
趣味 菓子作り(和菓子のようなもの)
好き 家族、二度寝 苦手 和を乱す人
https://granbluefantasy.jp/sp/pages/?p=16320
こんな感じで十二神将全員いきます