猫に選ばれた彼は十二神将の護衛役   作:塩なめこ

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西南西の守護神アンチラはいくらなんでも幼すぎる

 

 

「あぁ、待っておりましたよイオウ様」

「お出迎えありがとうございます。では早速⋯⋯天干地支刀・申之飾を献上致します」

「おぉ、これはこれは! 今年も良い出来で……」

 

 

 猿神宮に辿り着いてまず出迎えにきてくれたのは、歳神たるアンチラのおじいさんだった。彼はこの島の長のような立場にあり、政に関しては彼の管轄にある。

 

 今俺が彼に渡したような、干天地支の名を持つ武器は歳神が行う新年の祭事において使用される祭具である。

 星の民から空の世界を守り、星の世界の監視者として民を守護し続けた十二神将へ、空の民たちが感謝の念を込めて贈ったことが始まりとされている。

 

 その意匠は各干支を象徴するようにデザインされており、最上級の飾りが施されている。

 現代においては十二神将に守護される民の代表として、応援隊隊長の俺が作成して献上する形を取っている。作るのは飾りだけで、武器本体は覇空戦争時代から修繕を繰り返して保存されてきたものを使用している。

 

 だから、俺の表向きの職業は医者兼飾り職人ということになっている。本当の所はニャンえもんが加護を与えた素材を、彼の言うように飾り付けているだけなのだが。

 

 猫神のことは長い歴史の中で完全に隠匿されている。十二神将の栄光に陰を指す猫神のエピソードは完全に黒歴史扱いなのだった。

 

 

「さて、それでは猿神宮へご案内いたしま「イオウ! 待ってたよ〜!!」───アンチラ!」

「げ」

 

 

 この”氣”は……筋斗雲のもっくんか! ならば───! 

 

 

「こっちだ!」

「残念! こっちが本物──あひゃぁ!?」

「見える”手”だけじゃないぞ」

 

 

 左手の先に、見えない何かにしっぽでぶら下がっているような形で浮かんでいるアンチラがいた。先程大声をあげて向かって来たのが陽動でこっちが本物である。

 

 

「もっくんによって突撃してきた分身の後ろに、本物を隠しておいて不意を突く。もっくんはお前以外には触れられないから、相手の視界を潰す煙幕にもなってくれる。いい戦法だ」

「失敗したことを褒められても嬉しくないよ!」

「俺はお前との付き合いが長いからな。”氣”で分かっちまうんだよ。今回は”仙術”で気配のカモフラージュもしてたみたいだが、そっちはまだ及第点とは言えなさそうだ」

「むむ〜〜〜!」

 

 

 おっと怒気の気配。”氣”で掴んでいたアンチラを前方へと放り投げて距離をとる。アンチラは空中で一回転して着地するとそっぽを向いてしまった。それで遠慮なんてしないけど。

 

 

「あと付け加えるならもっくんが突撃してくる角度だな。俺みたいに小さ………………うん、ちい………………うん、小さい手の視界を奪うだけなら今のでいいが、ドラフの男とかだと反応されるぞ」

「全然カッコつけられてませんよ」

 

 

 あはははははは!! なんでなんだろうね! ……いやほんと、なんで身長伸びないんだろうね。成長期は終わってるのにね。13歳も年下の女の子との差が10センチないって……マジ? 

 

 

「そうですよーだ。どうせ俺なんて……俺なんて……」

「あぁ、もう! なんでこれが一番効いてるの!? ボクの攻撃なんかよりも身長の方が強力なんですか!?」

「うるさい! 男はなぁ! 男はなぁ! 小さいってだけでなぁ! ハーヴィンもなぁ! 差別されてなぁ! ほんっと許せねぇよなぁ!」

「えぇ……そこ本気で怒るの……? こっち来てから一番大きな声出てますよ……」

 

 

 俺が今戦ってるのは生物の理だからね。そりゃ本気度も段違いですわ。

 

 

「気にしなくたっていいじゃないですか。イオウは”氣”で遠くの物に触れられるんですし」

「あのなぁ……。これだって力を消耗するんだぞ? 体で直に触れる方が燃費がいい。それに元々手が長い方が、”氣”を込めた時のリーチも広がって更に有利になるだろ」

「そうですか? 今のままでも十分だと思いますけど」

「お前たちへ差し出せる手が短くていいことなんてあるか!!」

 

 

 リーチが長いゆえに敵に対して先手を取りやすく、体重があるゆえにより重い武器が持って破壊力を上げられる。デカさというのはそれだけで強力な武器なのだ。欲しい。

 

 

「……って、何か言って貰えませんかね? そこで黙られるとこっちも困るんですけど」

「う、うるさいです! さっきも尻尾を無遠慮に掴んできて、イオウには”でりかしー”ってものが無いんですか!?」

「えぇ……? 昔はよく腕に巻き付けてきてたじゃんか。ていうか俺今デリカシーを侵害するようなこと言った?」

「い、いいから神宮に行きますよ! 年越しの準備で忙しいんですから!」

 

 

 そう言ってプンスカしながらもっくんに乗って行ってしまうアンチラ。なんで怒ってるんだろ。一部始終を見ていた爺さまに顔を向けてもただニコニコとしながらこちらを見るばかりである。

 

 多分、自信満々に編み出した戦法が完封されて説教までされて癇癪を起こしたんだろう……と自分を納得させることにした。子供の感情なんて二転三転するものだからな。

 

 とりあえず、猿神宮の応援隊屋敷に顔を出しに行きますか。アンチラの言う通り、やることは多いからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んで、見ての通り事務仕事に追われている俺なわけだが、今度はどうしたんだ?」

 

 

 正月における応援隊の配置の確認を終え、襲来するであろう騎空団の騎空艇の管制に関して手をつけようとしていた時、モジモジしながらアンチラがやってきた。先程港で会ってから丁度三時間経つか経たないか、時刻にして午の刻に入ったくらい。

 

 

「さっき確認し忘れていたことを思い出しましたので、それを」

「確認したいこと?」

「はい。……”約束”のことです。本当に、協力してくれるんですか……?」

「何不安そうにしてるんだ。羊神宮でそう言っただろ」

「でも、さっきは勝負に負けちゃいましたし……」

「あのなぁ……。うん、ちょっとこっちに来い」

 

 

 ポンポンと隣にある座布団を叩いてアンチラを招き寄せる。とぼとぼと寄ってきた彼女をそこへ座らせると、俺は彼女の頭に優しく手を置いて雑に撫で回す。

 

 

「お前との約束を破った時があったか?」

「いえ……、ないですけど……」

「そうだ。おいかけっこで勝負をした時、星空を見て流れ星が出るか賭けをした時、山で一人迷子になった時、いつだって俺は言葉通りにしたはずだぞ?」

「はい。僕が勝ってお汁粉を作ってくれましたし、流れ星の形をしたお守りもくれました。迷子になっちゃったことは少し恥ずかしいけど、イオウは約束通りに僕を助けてくれた」

「そうだ。今回だって同じことだ。お前は俺との約束を守るために必死で努力して俺を打ち負かしたんだ。もっと自信を持てよ」

 

 

 言って、手に入れる力を強くして更に撫で回す。ここは応援隊の屋敷。隊の皆の前だ。手の力で顔が俯いてしまっているが、視線を感じたのか恥ずかしそうに顔を赤らめているのは分かった。

 

 撫でる手を止め、両膝にある彼女の手を取って瞳をじっと見る。俺は安心させるように言った。

 

 

「なんであんな”約束”をしたのか、理由は話したよな?」

「分身なら、もしやられても大丈夫だからですよね?」

「そうだ。ても分身は分身でも、お前だ。俺は安易な気持ちで旅に出て欲しくなかった。でも、お前の”夢”も分かってたつもりだ」

 

 

 だから本体ではなく分身だけで俺を打ち倒せるようになるまで、彼女の旅立ちを反対することにしたのだ。

 仙術と性質の近い”氣”の使い手である俺ならば、アンチラの戦法をほぼ完璧に対策できる。仙術は生命力と気力がものを言う術。意志がブレれば容易に瓦解してしまう。

 

 アンチラは幼すぎた。外からの刺激をほとんど知らなかった。

 害意、敵意、恐怖、殺気。ありとあらゆる悪い刺激を旅立つ前の彼女に叩き込む必要があった。そして、それに対抗するために最も必要なものを捨て去らないようにも。

 

 それは生き残ろうとする意志だ。生存本能とも言っていい。それをアンチラには持っていて欲しかった。

 分身だから大丈夫と、簡単に命を投げ捨てて欲しくなかった。諦めて欲しくなかった。そうした経験は本体であるアンチラ自身にも還元される。

 本当の危機に相対したときに、彼女をなまくらにしてしまう危険性がそれにはあった。

 

 

「アンチラ、お前は俺の期待に応えてくれた。もう俺に気圧されることは無くなったし、仙術の腕も上がった。十二神将という立場に追われながらも、お前は俺から信用を勝ち取ったんだ。俺はそんなお前を誇りに思うと同時に尊敬している」

「はい」

「だから俺はお前の味方をする。お前の家族や身内が何を言ったって、お前なら大丈夫だって言ってやるし、もし必要なら戦ってもやれる」

「はい」

「というか、俺がそうしたいんだ。俺がお前を『テンジク』に連れて行ってやったんだ! って言いたいんだ。だからやらせてくれ、お願いだ」

「はい……もぅ、分かりましたよ〜。どうしてイオウがお願いするんですか? お願いするのは僕の方です」

 

 

 不安は、無くなったのだろうか。少し笑顔がぎこちない様に見えるけれど、確かに彼女は笑っていた。

 

 

「こちらこそ、まだハンパ者ですけど、よろしくお願いします」

「うん。よろしく」

 

 

 頭を下げる彼女にまた手を置いて、今度はガシガシと撫で回す。彼女はしばらくされるがままだったが、やはり恥ずかしくなったのか「もう、やめてくださいよ」と言うと手を振り払って立ち上がり、屋敷を出ていった。ご丁寧に「失礼しました」と一言添えて。相も変わらず礼儀は弁えている。

 

 しかし、なんで急にあんな感じになっちゃったんだ? 羊神宮では話を聞かなくなるくらい喜んでいたのに。

 こっちで何かあったのか? でも、そもそも猿神宮に彼女の旅立ちを反対する人はほとんどいないしな……。彼女の才能と強さは猿神宮の人の方が理解っている。でなければ歳神になど任命されていない。

 

 社会経験のなさを指摘でもされたか? 神社から一歩も出てないし、それを言われると痛いが、アンチラの性格的にはポンと外に放り投げてやらせてみた方が合ってると思うんだよなぁ。

 分身だから料理とかしなくても本体に食わせておけば問題ないし、ぶっちゃけ生活スキルについてはあんまりなくても大丈夫だよな? ……一応、本体も出ていく時に備えて計画だけは練っとくか? 

 

 

「ん? どうしたんだよお前ら」

「いえ、隊長ってアンチラ様に対しては先生みたいな顔をするなと思いまして」

「いや、実際そうだからな」

「娘か妹ー! みたいな感じですよね〜隊長って」

「親心が無いと言えば嘘になるな。あんなに可愛い子に育ったんだ。将来はあのまま何事もなく、より良い女性に育って欲しいもんだ」

 

 

 あれでアニラみたく家庭的な面まで育ったらもう完璧だと思う。アイツを嫁に貰う男はすげー幸せになれるぞ。

 

 

「いやー、アンチラ様可愛いかったなぁ」

「おいそこのチャラ男エルーン。隊員規則その1は頭に入ってるんだろうなぁ?」

「えぇっ!? これでキレんの!? 親バカかよ……!」

「隊長。実際アンチラ様はお可愛らしいので仕方の無いことかと」

「うん。それはそう」

 

 

 だが色目を使う奴は断じて許さん。隊員規則その1! 『十二神将に危害を加える者は厳罰に処す』だ! 

 

 

「触れるだけ、どころか色目を使うだけでダメなら隊長ももうダメだっつーの。あーし、アンチラ様が気の毒だわ」

「どこがだ、ギャル系エルーン!」

「うわテンション高っ。えーそれはもにょもにょん……」

「は〜い。この話はおしまいです〜。お仕事は沢山ありますから手を動かしましょうね〜」

「???」

 

 

 まぁ、ゆる系ヒューマンの言う通りなので手を動かすことにする。さて、今の猿神宮の港にはどんくらいの騎空艇が入るかなっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、正月を迎える前に猿神宮の人々の説得は済んだ。アンチラは分身のみ旅に出ることを許されたが、来年は歳神。年明けからの三が日はめちゃくちゃに忙しくなる。

 そのため、旅立ちは三が日が終わってからと相成った。それまでは分身を活用して”お役目”を果たすようにと。

 

 日取りが決まってからのアンチラはもう凄かった。そのハリキリぶりはこれまで見たことないほどであった、と言えば伝わるのだろうか。年明けの準備をと旅の準備を並行して進め、いざ正月になると凄まじい速度で騎空士たちを捌いていった。

 

 しかも本来なら俺たちの仕事である境内の治安維持にも協力し、出店でのトラブルや、迷子になってしまった人の案内、騎空士同士の喧嘩など、分身を最大限に利用して対処していった。

 

 八面六臂の活躍というのはこういうことを言うのだろうと、三が日を終えた夜に思っていたが⋯⋯、正直油断していた。

 

 

「むぅ⋯⋯、あつぃ⋯⋯ですぅ〜〜⋯⋯」

 

 

 彼女は頑張り過ぎていた。

 旅へのワクワクでギンギンだったのは気力だけで、体の方はついて来れなかったのである。

 

 いざ旅立ちの日となる新年4日目。朝になっても彼女は床に伏していた。

 

 

「酷い熱だな」

「そんなこと⋯⋯ないですよぉ〜⋯⋯。ボクはぁ、だいじょぅぶ⋯⋯」

「俺の本職を忘れたか? 医者の言うことは聞いとけって」

「む〜〜⋯⋯。イオウみたいな医者なんて、いないよ⋯⋯」

「はいはい」

 

 

 言いながらアンチラのお腹に手を当て、彼女の”氣”の流れを確認する。うん、典型的な風邪だな。

 

 

「⋯⋯くすぐったい」

「まぁ少し待てって。”氣”の流れを調律するようにと⋯⋯」

 

 

 アンチラは子どもということもあって気力がある。しかも仙術を習得しているため、風邪自体は早く治るだろう。

 問題なのはこの3日間で仙術を使い過ぎていること。体力さえ戻れば一日二日程度で回復するだろうからそこを補助する。

 俺の生命エネルギーから”氣”の波動を練成し、掌からアンチラへと直接注入していく。これが癒し手の波動と呼ばれる技だ。

 

 

「ん⋯⋯」

「これでよし、と。ちゃんとご飯食べて水飲んで、トイレに行って寝てれば明日には全快だろうさ」

「今日は寝なきゃ、ダメ?」

「うん。⋯⋯分身なんて使うなよ? 仙術に気力を回すくらいなら、今日一日は安静にしてとっとと回復してくれ」

「分かってるよぉ⋯⋯。もぅ、ボク歳神なのに⋯⋯」

「歳神の不養生。なんちて」

「む〜〜⋯⋯。イオウのイジわる」

 

 

 まぁそんなこと気にしたって仕方がない。十二神将だって人間なのだから、病の一つや二つ患うことだってある。

 ”無病息災”の”無病”とは、取り返しのつかないような病にかからないように、という意味だと俺は考えている。”息災”は天災に見舞うことなく、営みを行えることを願うものだ。

 つまり、生きていれば大抵叶えられる願いなのである。風邪なんて、呪いや疫病なんかと比べたら軽症も軽症だ。

 

 

「さてと。それじゃあ俺は仕事に戻る。4日目と言ってもそこそこ参拝者はいるしな」

「行っちゃうの?」

「居て欲しいのか?」

「⋯⋯うん」

 

 

 あら珍しい。

 昔、こういう風に看病することになった時は、熱で意識が朦朧としている自分を見られたくなくて、やることやったらとっとと出てけと言われたものだが。

 それほど弱っているのだろうか? 症状はそれほど重くない。あるとするなら、病とは別の⋯⋯”氣”に現れづらい別の何かが原因か。

 

 例えば精神的なものとか。

 

 

「歳神の頼みだ。聞かないわけにいかないな」

「ありがと⋯⋯」

「ただしお前が寝るまでだ。いいな?」

「うん⋯⋯。分かった」

「んじゃ、ほれ、手」

「ん⋯⋯」

 

 アンチラはモゾモゾとベットの上で体勢を整えると、こちらを向いて右手を差し出してくる。俺はその手に触れて、彼女が安心できるような”氣”を練成して流し込んだ。

 

 

「イオウの手ってさ、凄くあったかいよね」

「そりゃあそういう”氣”を纏ってるからな」

「もぅ、そういうことじゃないよ⋯⋯。そんなの関係なく、安心するってこと!」

「そうか?」

「うん。自分でも不思議なんだ。アニラ姉ちゃんやクビラ姉ちゃんたちとは違って全然柔らかくないし、もふもふできないし、小さいし」

 

 

 言いながら、彼女は両手で俺の手を弄り出した。手のひらを人差し指でなぞったり、指を一本一本つまんでみたり、指の間に指を入れ込んで握ってきたり。⋯⋯流石にちょっとくすぐったい。

 

 

「俺も小さくあって欲しくはなかったかなぁ⋯⋯」

「ふふっ、でもそのおかげで、こうやってぎゅっと握れる。とっても硬くて、小さいのに、すっごく頼りになる手だよ」

「光栄でさぁ。ついこの間も似たようなこと言われたな

「何か言った?」

「いや、何も」

「⋯⋯あやしい。けど、いいや。今はボクがイオウを独り占めしてるんだから」

「?」

 

 

 アンチラは指を絡めた俺の右手を自らのほっぺたに誘導する。撫でろ、ということだろう。ほっぺたから顎にかけてを、ゆっくりと優しく指先でなぞる。

 

 

「んふふっ⋯⋯♪」

「気持ちよさそうでなにより」

「頭も撫でて」

「へいへい」

 

 

 今日は随分と甘えん坊だな。顔の端麗さも合わさってめちゃくちゃかわいい。この子の顔を撫でられるのは役得と言うやつだろうな。

 

 

「⋯⋯イオウのせいなんだから」

「なんだいきなり」

「ボク、イオウに勝って旅に出られるってなったときすっごく嬉しかったんだ」

「そうだろうな」

 

 

 近くで見てたからよく分かる。

 

 

「でも、でもね? 猿神宮に戻ったらそうでもなくなっちゃったんだ。ここを出たら、みんなと会えなくなるんだなって、思って⋯⋯。今年は歳神だから外に行くのは分身だけだけど、来年はボクも行く」

「不安になったのか」

「うん⋯⋯。おかしいよね?」

「そんなことないさ。俺だってそう思った時がある」

「イオウも?」

「あぁ」

 

 

 あれはニャンえもんと会う前のことだ。暮らしていた孤児院で生活を続けるために金が必要になった。その時俺は院長たちの止める声も聞かないで仕事を探しに行った。

 幸運なことに、10歳にも満たないガキに仕事をくれる人と出会えた。あの人と一緒に院長を説得し、とうとう俺は島から出て行けるようになった。

 その時に感じたものだ。嬉しさと、孤児院の仲間たちと離れ離れになるという孤独感と、この先のことに対する不安感を。

 

 

「イオウもそんなこと考えるんだ」

「人だからな。でもそうした経験のおかげで、こうしてアンチラを励ますことができる」

「あははっ、そうだね⋯⋯」

「旅っていうのは色んな経験を積めると聞く。テンジクに行って、立派な歳神に成長してこい。そんで、寂しくなったら戻ってくればいい。行き先を自由に決められるのが、旅人の良いところなんだからさ」

 

 

 その時は色々と準備をして、暖かく出迎えてやろう。アニラとかも呼んで。

 

 

「うん⋯⋯。やっぱり、イオウのせいだよ」

「なんで?」

「イオウが優しくしすぎるから、離れたくないって思っちゃうんだ」

「それは⋯⋯なんというか複雑な気分だな」

 

 

 そう思ってくれるのは猫神として冥利に尽きる。とても光栄なことだ。しかし、それがアンチラの”夢”の障害になってしまっている、というのはあまり喜ばしくない。

 

 

「ねぇ、イオウ。わがまま言っても、いいかな?」

「うん?」

「来年、歳神の”お役目”を果たしたら……ボクと一緒に旅に行こ?」

「アンチラ、それは⋯⋯」

「イオウにも”お役目”があることは分かってる。でもボクは、キミと一緒にテンジクに行きたいんだ⋯⋯!」

 

 

 ぎゅっと、手を握りしめる力が強くなった。これはアンチラの心からの願いであるのだろう。

 だが彼女の言うように、俺にも”お役目”がある。それも他の十二神将のように、12年に1度のものではない。

 その年の歳神に仕え続ける。一生を賭して。それが俺の”お役目”だ。

 

 だがまぁ、ぶっちゃけその”お役目”も年末年始以外は暇なのだ。それ以外の時期なら彼女について行くのもやぶさかでは無い。無論、その年の歳神に許可をいただくことにはなるだろうが。

 

 となると、別の問題が浮上してくることになる訳だが⋯⋯、こっちの方が重大だな。

 

 

「⋯⋯どうやって騎空艇を入手しようか」

「え?」

「いや、アンチラ1人の旅なら島を移動するのにもっくんを使うだけで済んだだろ? 俺も同行するとなると、移動手段を確保しなきゃいけないじゃないか」

「来て、くれるの⋯⋯?」

「まぁ、年中一緒は流石に無理だけどな。ただまぁ、暇な時に移動するためにもやっぱり騎空艇がいるなぁ⋯⋯」

 

 

『十二神将を応援し隊』は非営利団体だからな⋯⋯。俺が色々やって稼いで来たお金と、隊員たちの寄付や、十二神将ファンからのお布施で活動を行っている。

 その年手に入れた活動資金は、ほぼその一年のうちに使い切るように調整している。故に貯金がなく、騎空艇などという莫大な金がかかるようなものを購入するだけの費用がないのだ。

 

 うーん、応援隊の所有にするにしても、出来れば2隻欲しい⋯⋯。十二の社を時計回りに回るための船と、空域内を自由に動かせる船⋯⋯。何十万ルピが必要なんだろうか⋯⋯。

 

 

「本当の本当に!?」

「ん? あぁ。歳神護衛も、その年の十二神将が一緒に船に乗ってくれれば完遂できるしな。俺の”お役目”ははっきり言ってどうとでもなるぞ」

「⋯⋯2人っきりは無理かぁ⋯⋯。でも、ずっと独り占めにするのは皆にも悪いかも⋯⋯」

「他のみんなも居てくれた方が色々と楽だし、お前も存分にもふもふできる。うん、いい事づくめだな」

「まだ⋯⋯ダメだよね」

「お前もそう思うだろ、アンチラ?」

「もっと、オトナになってから⋯⋯」

「⋯⋯おーいアンチラ?」

「う、うん! ボクもそれで良いと思うな!」

 

 

 本当に大丈夫か? なんかモゾモゾ喋ってたし⋯⋯聞き取れなかったけど。

 風邪を引いてるってのに興奮させるようなこと言い過ぎちゃったかな? 実際、アンチラの顔は耳まで赤くなっているし、よくよく”氣”の流れを見てみればめちゃくちゃ速くなってるし⋯⋯。

 

 

「まぁこの話はすぐにどうこうなるわけじゃない。今はとりあえず体調を整えろよ?」

「うん⋯⋯。約束だからね?」

「あぁ、約束だ。ほれ」

 

 

 指切りげんまん嘘ついたら───。

 

 

「⋯⋯何にする?」

「おしりペンペン」

「おー怖。なら尚更守らないとな」

 

 

 ───おしりペンペン1万発! 指切った! 

 

 

「おやすみ、アンチラ」

「おやすみ、イオウ」

 

 

 





イオウ プロフィール
CV???
年齢 23歳 身長 140cm 種族 ヒューマン
ジョブ パナイケイア(?) 得意武器 ???

アンチラ プロフィール (以下グラブル公式より引用)
年齢 10歳 身長 133cm 種族 エルーン
趣味 温泉、もふもふ
好き わたあめ、里のみんな 苦手 眠気(不機嫌になる)

https://granbluefantasy.jp/sp/pages/?p=23023
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