パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの10人目

「……驚いた。ちゃんと撃ったのね」

「はい?」

 

臨時基地へと戻ってきた私に、サブリナは驚いたような表情を浮かべて開口一番そんなセリフを投げかけてきた。どういうわけかと話を聞いてみれば、どうやら私がNYTOであることはハナから見抜いていたらしい。そこで、パラデウスの撃滅にかこつけてこっそり隠蔽していた敵方NYTOとかち合わせ、どんなアクションをとるかを計っていたいたのだとか。

……うん、なるほど。まあ、考えることは理解できたよ。一歩間違えれば思いっきり外患誘致だし、まあ妥当なところだよね、うん。

 

「ブチ殺ぉす!! こんのサブリナ野郎なんてことに私を巻き込みやがったのよ! 危うく私たちも死ぬところだったじゃないの!!」

「キルスティーン! 落ち着いて! 殿中! 殿中にござる!!」

『二人がかりでようやくなんですけど……!?』

「だから最初から言ってるじゃない、誰しも代わりはいるのよ」

「むぎーっ!!」

「サブリナさんも煽んないでくださいよー!?」

 

そんな私は、今にもサブリナに襲い掛からんとするキルスティンをシンシアと二人がかりで押さえつけていた。マジで力強いな!? おっかしいなぁ仮にもNYTOと戦術人形の膂力で押さえつけてるはずなのにそれでも相当ギリギリなんだけど!!

とはいえ、サブリナの方も別に考えなしで煽ったとかそういうわけではないらしい。

 

「ほぉらぁ、キルスティンちゃあん? あんまり司令官に迷惑かけちゃダメでしょう?」

「あぁん!? 誰がコイツに迷惑なんかかけて──むがっ!?」

 

誰かが私たちの後ろから手を伸ばし、ひょいっ、と暴れるキルスティンの体をいともたやすく持ち上げる。私たちがそれに気付くよりも早く、キルスティンの顔はその下手人の胸元に押し込まれ……うぉ……でっか……。

そこに立っていたのは、身長180はあろうかという長身のドスケベボディだった。豊満という概念を人間大に押し固めたかのような蠱惑的な姿に、思わず視線がくぎ付けになってしまう。胸も背丈もデカすぎるあまりに、その谷間に押し込まれたキルスティンの体が浮いてしまっている。

その後もジタバタもがいていたキルスティンだったが、蕩けた視線でその様子を眺めるドスケベボディ、もとい女性に頭を撫でられることしばし……やがてだらりと腕がぶら下がったかと思えば、ぷらん……とその体が力なく揺られ始めた。まさか、乳圧だけで意識を刈り取ったとでも……!?

 

『シャルロッテ……その様子だと仕事は終わったみたいだね……』

「そうねぇ、せっかくカジノのVIP対応にかこつけてハメ潰してもらえるって思ってたのに、どいつもこいつも短小早漏ばっかりで醒めちゃったのよねぇ」

『……あ、ストレリツィア。シャルロッテの言う「短小」とかそういうのは当てにしないでいいよ……こいつの性欲に付き合わせようとしたら馬とか豚でも持って来いって話になってくるし……』

「世にも恐ろしいことをさも当然のように言われても私としては恐怖でしかないんですが?」

「……あら?」

 

そこで、その女性は私の存在に気付いたようだった。とろんとした、うっかり手を伸ばせば最後絡めとられてしまいそうな危険な甘さを纏った視線が私に向けられる。

彼女はぽいっと自身の胸元に挟まったままだったキルスティンをガサツに投げ捨てると、そのまま流れるように私に抱き着いてきた。身長差の関係でキルスティンのようにその豊満な胸に顔をうずめる格好となり、ふにょりと柔らかい感触とともにやや暖かくしっとりとした女の匂いが鼻を通り抜けていく。

 

「あら、あらあらあらまあまあまあ! 新入りね! ようこそアンダーエデンへ、歓迎するわぁ!」

「ちょっ、待っ、力強いなぁ!?」

 

一体全体どんな膂力をしているのやら、それなりに力を込めて引きはがそうとしているのに全くもって微動だにしない。

さすがに少しばかり息苦しくなってきて、このままキルスティンのように締め落とされるのかと焦りを覚えたタイミングで頭を引っこ抜かれる。ぱちくりと目を瞬せて後ろを振り向いてみれば、呆れた表情を浮かべたサブリナが私の首根っこを掴んで持ち上げていた。

 

「全く、欲望に正直なのは構わないけれど、タイミングをわきまえなさいシャルロッテ? 街中で男を誑かす分にはそれでもいいけどここはN.E.S.T.よ」

「はぁい」

 

反省しているんだかしていないんだか判然としない返事とともに、一歩後ろに下がる女性──シャルロッテ。その服についた、サングラス越しにこちらを睨む眼光のような図柄の部隊証を見て、ようやく目の前の不審者の正体に見当がついた。

あれか、この人がキルスティン達がちらっと言ってた『色情魔のシャルロッテ』か!

 

「キルスティンちゃんにシンシアちゃんと一緒に居たなら"410(ウチ)"についてはだいたい知ってるわよね? DSR-50の戦術人形、シャルロッテ=シャイトホルトよぉ。よろしくね☆」

「ストレリツィア=オズフェストです、よろしくお願いします……?」

「うーん、それにしても……」

 

じろじろと私の方に不躾な視線を送るシャルロッテ。……その視線は、特に胸や股間に向けて浴びせられていた。さらに、私の周りをぐるぐると歩き回り、時折「ふむふむ」「あらあら」とか独り言をこぼしながら全体像を眺めてくる。

そして、一周して正面まで戻ってきたタイミングで私の手を両手で包み込むように掴んでシャルロッテは言った。

 

「……とても好きだわぁ! ねぇねぇ、この後私の部屋でお話でも「やめんか!」いったぁい!?」

 

バコン! と危険なことを口走った不審者の頭に拳が振り下ろされる。涙目で頭を押さえたシャルロッテが後ろに振り向くと、どうやら意識を取り戻したらしいキルスティンが呆れ顔で右の手をグーにしていた。

シャルロッテはいかにも私不満ですといった表情でぶー垂れながら、

 

「いいじゃない別に食べちゃって! 私だってカジノの連中がちょっと胸でズッただけでびゅるびゅるお漏らしする早漏の集まりで欲求不満なのよぉ!」

「そういうのは一人で右手かシリコン棒にでも相手してもらえっつーの! 仮にも新人に対して第一声がそれで恥ずかしくないわけ!?」

「ぜぇんぜん!」

「その度胸だけは褒めてやるわこの色狂い! 両手足切り離してオナニーだって満足にできない体にしてやってもいいのよ!」

「そんなぁ! ……達磨プレイがお好みなんてキルスティンも案外進んでるのねぇ?」

「くっそ無敵かコイツ!」

 

ぎゃいぎゃいと言い争う二人。ちらりとシンシアの方を向けば、あきらめたような表情で静かに首を横に振っていた。まあ、そんな気はしてた。

サブリナも同じように呆れ顔で二人が言い争う──正確にはキルスティンが嚙みついて、それをシャルロッテがのらりくらりとかわしている──光景を眺めていたが、いい加減我慢の限界を迎えたのか二人の頭に容赦なく拳を振りおろす。ガンッ、ゴンッ! とおおよそ生体パーツ同士がぶつかり合ったものとは思えない重厚な音と主に、二人の自律人形が今度こそ両手で頭を押さえながら執務室の床に沈んだ。

 

「乳繰り合いならよそでやりなさい。殴るわよ」

「……な、殴ってから言うことないじゃない……」

「あ、頭が割れるぅ……」

「割と残当では?」

『いつものことだよ』

「さて、それじゃあ本題に入りましょうか。依頼の褒章についてよ」

 

二人の敗北者を足元に据えながら、サブリナが懐から取り出したタブレットを操作して言う。っていうかえらい振込早いですね、昨日の今日どころか今日の今日ですよ?

気になって聞いてみれば、正確に言えば企業からの報酬はまだ届いていないのだとか。今回が初仕事なのとわざと騙して悪いがじみた依頼内容に仕立て上げた謝罪も込めて、ちょっと割増しで建て替えてくれるらしい。やったぜ。

 

『……怒らないんだね。こういうのって大体された側はものすごく起こるのが常なんだけど』

「シンシアの言うとおりね。……騙した側が言うのもなんだけれど、割とキルスティンみたいな反応が普通よ?」

「確かに多少イラっとはしましたけど、別に思い入れとか情の類もないんで同族殴って金になるんだったらいくらでもボコしますよ。クソ親父への嫌がらせにもなりますしね」

「……まあ、変に感情に惑わされたりしないで行動できるのは傭兵としてはある種ステータスよ。誇っていいわ」

「それ褒めてます?」

「まあ、私基準ではね。はい、入金しといたわよ」

 

微妙に信用ならねぇ。

ともあれ、依頼報酬は口座に振り込まれたようだ……で、その口座ってどこから参照するの? と口を開こうとした矢先、通帳とカードを投げ渡された。……一応アンダーエデンにも銀行という概念はあるらしい。

 

「さて、これで今日の仕事は終わり。それじゃあ、シンシア……は、いないわね。相変わらず影が薄い」

「えっ」

 

言われて横を見てみると、さっきまで確かにそこに立っていたはずの少女の姿が跡形もなく消え去っていた。あの、NYTOボディの感覚器官をもってしても何も感じ取れなかったんですけど。隠密に命賭け過ぎじゃない? 敵に視認されると死ぬの?

 

「仕方ないわね。ほら、そこのバカ二人、さっさと起きなさい。追加の仕事よ」

「……だ、誰がバカですって……?」

「こんなところで寝転がってる貴女とそこの娼婦以外に誰かいるかしら」

「うぅん、あと五分……」

「そのまま永眠させてやってもいいのよ、シャルロッテ? ラプアマグナムの在庫なんて有り余ってるもの」

「うぅ……起きるわよ、起きればいいんでしょう……?」

「結構」

 

こっちもこっちで大概恐怖政治だった。ペットは飼い主に似るってよく行くけど、部下も上司に似るんだなぁ……そんなことを、渋々立ち上がったキルスティンの姿を見ながら思う。そして、同じように執務室のジョイントマットに寝ころんだまま渋っていたシャルロッテもやや億劫そうな空気を漂わせながら立ち上がる。

 

「シンシアは帰ったみたいだし、貴女たちに新人の案内を任せてあげる。私の指示を受けれること、光栄に思いなさい?」

「あんなそんなキャラじゃないでしょ、どうしたのよ急に」

「ちょっと言ってみたくなっただけよ、気にしないで」

「あっそ。で、今度はどこに連れて行けって?」

「自室。居住区Gに空き部屋があったわよね? そこに案内してあげて」

 

そう言って、サブリナはキルスティンに鍵を投げ渡した。パシッと片手で受け止め、そこに記載された部屋番を見る。

 

「ええと、居住区Gの2階、403号室……ってあんたこれ私たちの部屋のすぐそばじゃないの!」

「あら、そうだったかしら? 忘れてたわ」

「あんたねぇ……まさかとは思うけど"410(ウチ)"にこの子をぶち込む気じゃない? 断言するけど誰も得しない選択ね」

「その質問に関してはノーコメントと返させてもらうわ。けれどそうね……何故かはわからないけど、顔合わせくらいは一通り済ませておいたほうがいいんじゃないかしら? そんな気がするわ」

「それがもう答えじゃないのよ……」

 

すまし顔で当然のように宣うサブリナにげんなりした様子で返すキルスティン。シャルロッテは頬に片手を当ててまあまあというばかりで特に肯定も否定もする様子がない。

……っていうか、所属して早々そんなよくわからない小隊に配属されるんですか、私? 内輪のノリにあとから参加してついていこうとする事ほど苦痛なことってなかなかないと思うんですけど……。

キルスティンは相手が意見を曲げるつもりがないことを察したのか、はぁ~~~~~~~~、とものすごい嫌そうな長い溜息をつく。そして、レモンでも直でいったのかと問いかけたくなるような渋面を浮かべて言った。

 

「……あー……とりあえず、そういうことらしいわ。正直子供をマリアナ海溝とかに突き落としてる気がしてすっっっごく癪だけど」

「千尋の谷どころの騒ぎじゃないですね」

「まぁ、"410(ウチ)"って良くも悪くも個性的なメンツが揃ってるしねぇ。私だってその一人なわけだしぃ」

「っていうかいまさら人員が増えるって言ったってあいつらがはいそうですかって素直に首を縦に振るとは思えないんだけど……」

「そこはまあ、そうね。いい感じに説き伏せといてちょうだい」

*H&Kスラング*!」

「今なんて言った??」

 

おおよそ世間様には聞かせられないようなとんでもない罵倒に思わず聞き返す。シャルロッテに動じる様子がないあたり、もしかして珍しいことでもないのだろうか。すごいな。

当のキルスティンは話すことはないと言いたげにサブリナに背を向け、手に持った鍵を弄びながらさっさと執務室を出て行ってしまった。

 

「え、ちょっと……?」

「あの子はあれで責任感は強いほうだしぃ、あの鍵を突っ返さなかった以上最低限の面倒は見るつもりなんじゃないかしらぁ?」

「そうなんですかね……?」

「まあ、ついていけば分かると思うわよぉ? 私たちも行きましょうか」

「あっはい」

 

同じように歩き始めたシャルロッテについていく形で、私も執務室を後にする。

その場には、相変わらず胡乱げな笑みを浮かべながらひらひらと手を振る、漆黒の麗人ただ一人だけが残されていた。

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