パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの12人目

ローディ=パンフルート。妖怪白そば娘は、自身のことをそう称した。

肩にペイントされた見覚えのある6角形のマークが、彼女もまた"410"のメンバーであることを物語っている。

 

「あんたもパラデウスの出身? 奇遇だね、私もそうさ。と言ってもまあ、元をただせば一山いくらの雑兵だけど」

 

そう言って、からからと笑うローディ。

なんでも、彼女はロデレロという砲撃兵の亜種のようなタイプの人形であり……さらに言えば、その大元はどこにでもいるような一人の少女だったそうだ。「見るかい?」と投げ渡された1枚の古ぼけた写真には、屈託のない笑みを浮かべる、今の姿とは似ても似つかない"ローディ"が写っていた。

何とも言えない気持ちになりながら、私は無言でその写真を彼女に返す。

 

「あんたまた手足変えたの? よくもまぁそんな真似して頭がバグらないわね……」

「どうせこの体になるときに全身バラバラにされてるんだ。今更手足の一本や二本挿げ替えたところで同じだよ」

「いつ聞いても正気とは思えない理論ね。あやかりたいとこだわ」

 

呆れたように言うキルスティン。別にあやかるようなものでもないと思うが、まあ彼女の口癖のようなものなのだろう。

……っていうか、よく考えてみればこの人なんで自分のでもない部屋でカップそば食べてたんだろうか。謎だ。

 

「で、サブリナの指示でこいつが"410"に入ることになると思うから、まあ納得するとは思わないけど飲み込んで」

「んー? いいんじゃないか、私は別に構わないぞ?」

「……随分吞み込みが早いのね。いつもなら断固拒否するじゃない、どういう風の吹き回し?」

「いやぁ、そりゃあまあ、ねぇ?」

 

そう言って、ちらりと私のほうに視線をやるローディ。え、私? なんで?

自分の顔を指さして頭上にハテナマークを浮かべれば、砲兵少女は笑いながら続けた。

 

「来るのがその辺にいるようなG&Kのガラクタとか鉄血のスクラップだったらまた追い返してたさ。だけどキルスティン、あんたはよりにもよってパラデウスの傑作NYTOシリーズ、その上位権限持ちを連れて来た! 笑えるじゃないか、コイツを断る理由なんて私にはないね!」

「……は? 上位権限持ち? どういうこと?」

「えっ何それ私知らない」

 

初対面の相手に突然知らない事を暴露されて困惑する。え、なに? 上位権限? 何に対する権限がどうして上位なんです?

ローディに曰く、各種NYTOにはそれぞれ所定の権限が設けられているらしい。それによって作戦行動などの与えられる裁量が変わってくるため、権限のランク次第では独自の行動をとることもたやすいのだそうだ。……彼女がそんなことを知っている理由については知らないけど。

 

「ぱっと見である程度相手の持ってるクリアランスに検討を付ける手段がある。ずばり言ってしまえば、それは『髪の色』だ」

「この世の摂理に喧嘩を売ったようなグラデーションにそんな秘密が!?」

「……私には染めるの面倒くさがった結果地毛が伸びてきたみたいに見えるけど?」

「それはそれで傷つきますキルスティン!」

「あー、本題戻すぞ。大雑把に言えば、髪色が白い奴ほど上級権限を持ってる可能性が高い。まあ、絶対とは言えないけどな」

 

なるほど、そんなギミックというか法則があるのか。……ってことはあの場にいたあのロリ集団、あれで意外と立場自体はそこまで高くなかったのか?

そんなことを考えている間にもローディの説明は続く。NYTOは全員が例外なく誰かのクローン体を素体としており、その出来によってランクが決まるのだそうだ。で、最低ランクにも満たなかった失敗作がどうなるかというと……廃棄。なんとまぁ、屠殺すらせずに貨物列車に積んでどこかへ出荷するらしい。NYTO化手術(せいぞう)に失敗した段階でだいたい死ぬから一切区別せずまとめて投棄してるんだろうとのことだけど、まあ聞くだけでただでさえ底値に近いウィリアムの株がズンドコ下がっていく。

長ったらしい話を半分聞き流しながら、私はジト目でローディに問うた。

 

「……で、結局結論としては何が言いたいんです?」

「あんたさ、あのキチガイ陰険クソ野郎に復讐したくない?」

「したいに決まってんでしょ何をいまさら」

「だから気に入った! "素晴らしい、100点だ"ってな!」

 

どうやら私の返答がお気に召したようで、ローディはケラケラと笑いながら手を叩いている。これいっつもこんな調子なのだろうか、とキルスティンのほうに視線を向けてみれば、こっちはこっちで頭のおかしいやり取りを見たかのような視線をこちらに向けてきていた。いやあの、アンタにそんな目で見られるのは割と納得いかないんですけど?

 

「さて、以上の理由で私にそいつの入隊を拒む理由はない。んじゃキルスティン、なんか申し開きはあるか?」

「なんで私が悪いみたいな話になってるのよ」

「お前が拾って来たんじゃねぇの?」

「………………………………それはまあ、そうだけど」

「なんでそこちょっと嫌そうにどもるんですか。おいこら、こっち見なさいキルスティン」

 

ぷいっとそっぽを向くキルスティン。助けられた側が言うのもなんですけど、シンシアといいアンタといいどうしてそうカジュアルに失礼なのさ。喧嘩なら買うぞ。

 

「キルスティンはここにいるし、この私、ローディともこうして邂逅した。で、あと顔合わせが必要なのは誰だ? シンシアか? それとも色情魔?」

「ソルフェージュよ。どうせ自室で寝こけてるだろうから後回しにしてんの」

「そりゃ正しい判断だ、実際あいつ今寝てるだろうしな! ハハハ!」

 

そう言って、ローディは笑いながら部屋を後にしていった。あとに残されたのは、何とも言えない表情を浮かべる私とキルスティンの二人。

一転して静寂に包まれた部屋の中で、私はぽつりと呟いた。

 

「……それで、結局なんであの人この部屋でそば食べてたんでしょう」

「そんなの知るわけないでしょ。あいつの行動に意味を求めることほど意味のないことはないわ」

「さいですか……」

「それじゃ、次行くわよ」

 

キルスティンがさっさと部屋の外に出ていく。……わざわざ自室まで案内されたのにここで終わりじゃないんです?

仕方なしについていくと、今度は403号室の二つ隣、401号室へと歩いて行く……どうやらここで410小隊の最後の1人が生活しているようだ。

特に施錠されている様子もなく、当然のようにドアを開けて入っていくキルスティン。傍から見れば空き巣か強盗にしか見えないけど、まあ勝手知ったるなんとやら、ということなのだろう。

……室内はまさしく魔窟だった。所狭しと無数のケーブルや電子機器が張り巡らされ、薄暗い室内で色とりどりの光を放っている。本来の壁紙の色すらほとんど伺えないその有様に、思わず息をのんだ。ずかずかと中に入りこんて行く先輩をよそに、うっかり変なものを踏まないようにそろそろとおっかなびっくり歩みを進めていく。

果たして、その最奥部で彼女は眠っていた。

蛍光色に輝くサイケデリックな水色のロングヘア。ネグリジェめいたインナードレスにジャケットを纏い、腕に巻いた腕章にはやはり六角形の部隊証が描かれている。

大量のモニターが配置された机に突っ伏して堂々と寝るその姿を眺めながら、私は口を開いた。

 

「……くぅ……すぅ、すぅ……」

「……あの、キルスティン? もしかしてこの子が?」

「そうよ。ソルフェージュ=ブラスセクション、私たち"410"のオペレーターをやってるわ」

 

基本いつも寝てるから役に立ってるかどうかは怪しいけれどね、と肩をすくめる。

んぅ、と少女──ソルフェージュが身じろぎすると、それに合わせて彼女の体とデスクに挟まれて圧し潰されていた柔らかそうなお餅がふにょんと弾んだ。……なんか誰も彼もスタイルいいな。今のところ明確に『薄い』って形容できるのがローディくらいしかいないぞ。シンシアもぱっと見薄そうではあるけれど、あれは着やせするタイプと見た。

 

「それで、いつまでこうしてればいいんです? まさか彼女が起きるまでここで立って待ってるって訳にも「ほら、新入りがお望みよ。早く起きろ」っておぉーい! 何を!? 人の後頭部を掴んで顔面叩きつけて何をしておられる!?」

「何って、今あんたが言ったとおりのことをやっただけだけど?」

「仮にも同じ部隊の仲間に対してやる事じゃねぇってんですよバーカ!」

 

バコン!! とすやすや眠る少女の顔面を一切の躊躇なくデスクの天板にぶち込んだ頭のおかしい先輩に思わず大声で突っ込む。「ぷぎゃっ!?」という悲鳴が短く響き、少しの間をおいて鼻を赤くした少女が涙目で上体を起こした。

 

「んぅむ……な、何さぁ……? 今度は何ぃ~……?」

「やっと起きたわね。何回声かけても起きないから実力行使させてもらったわよ」

「ノータイムで顔面スパーキングしてましたけど!?」

 

しれっと嘘をつくキルスティン。そうなんだぁ、ごめんねぇ……と少女が顔を手でこすりながらふわっと間延びした口調で謝罪するが、当の犯人はどこ吹く風で明後日の方向に視線を向けていた。いやマジかコイツ……。

 

「それで、今度はどうしたの~……?」

「サブリナのあん畜生からの命令よ、410に新しく入隊する奴がくるって」

「へぇ~、そうなんだ~」

「その新入隊員がまさしくあんたの目の前にいるそいつなんだけどね。ほら、自己紹介」

 

こちらに二人分の視線が向けられる。となれば、私もそれに応えねば無作法という者だろう。

ごほん、と一度咳払いし、両腕を背中で組む。そして背を反らし、ゆさっ♡とただでさえ自己主張する豊満な胸をさらに前へと突き出しながら大声で叫んだ。

 

「オッス! 自分はストレリツィア=オズフェストという者であります! 不肖の若輩者ではありますがっ! 粉骨砕身の覚悟で頑張──」

 

轟音。

コンクリート張りの壁にキルスティンの拳が突き刺さり、蜘蛛の巣状の亀裂が生み出される。部屋そのものが不気味に振動し、天井からぱらぱらと小さなコンクリート片が降り注いだ。

目を丸くして硬直していると、キルスティンが青筋の浮かんだ笑顔で言う。

 

「……悪いわね、ちょっと羽虫がいたみたいで条件反射で手が出ちゃったわ。さぁ、続けていいわよ?」

「ハイ! 本日付で貴小隊に配属予定のストレリツィアであります! なにとぞご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いする次第です!!」

「結構」

「……うへ~……」

 

見よう見まねで敬礼の態勢を取り、大声で返答する。そんな私の様子を見て、眠たげな少女はなんとも感情の読みにくいリアクションを返した。キルスティンのほうにぼんやりした視線を向けている当たり、基本的にあいつが諸悪の根源ということは把握しているようだ。一応恩人ではあるんだけどやりづらいな、本当に。

 

「ほらソル、あんたも」

「ふわぁ~……私はソルフェージュだよ~、よろしくね~」

 

間延びした声とともに手が伸ばされる。その手を掴むと、眠そうな言動のわりにそれなり以上にしっかりした力でぶんぶんと腕を振り回された。腕の動きに合わせて4つの大きな風船がたぷたぷと弾む。

一通り人の手を堪能して満足したのか、ソルフェージュは手を放し、椅子に座りなおしてキルスティンの方に向き直る。

 

「そう言えば~、この子がこの前キルスティンが言ってた子~?」

「鉄血のガラクタ共を血祭りにあげた挙句行き倒れた奴を指してるならそうね」

「そうなんだ~」

 

なんだかすごい覚えられ方をしているが、なるほどキルスティンの他にも私を助けてくれた人がいたようだ。話を聞いてみれば、なんでもキルスティンだけでは諸事情で運びきれなかったところにソルフェージュが応援をよこしてくれたらしい。で、その応援がシンシアだったんだとか。

……今のところ"410"だけでここ(アンダーエデン)に来てからの交友関係がほぼ完結してるな、ある意味すごいんじゃないのこれ? いい意味でか悪い意味でかについてはちょっと発言を控えるけど。

 

「……さて、これで顔合わせも終わりね」

「はぁ」

「正式な入隊通知とかはまあ後で届くだろうけど、小隊長である私が最初の命令をしてあげる」

「隊長なんですか? 本当に?」

「そうだよ~。名目上だけどね~」

「そこ、うるさい。……コホン、それじゃあストレリツィア。最初の命令は……"FREE"よ」

「フリー?」

「自由行動ってこと。さ、散った散った! 堅っ苦しいのはもうおしまい!」

 

パンパンと手を叩くキルスティン。……全然堅苦しくはなかったけどなぁ……。

ともあれ、これで私も独立傭兵兼、ええっとなんて言ってたっけ……そう、特務なんたら部隊の一員と言う訳か。なんだろうなぁ、急展開が過ぎるような気もするけど、意外と悪くないかもしれないな。

早くも二度寝の態勢に入って寝息を立て始めたソルフェージュを尻目に、部屋を後にして廊下に出る。

……さて、これからどうしたものか。未来が見えるわけではないけれど、これからはそれなりに忙しそうだ。

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