パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOのXX人目Ⅰ

窓も何もない、吊るされた電灯だけが唯一の光源である薄暗い部屋の中央に置かれた円卓。それを囲うようにして三人の男女が椅子に座っている。

片や、黒いパンツルックのスーツに濡羽色の髪、黒曜石のような漆黒の瞳を持った漆黒の麗人。顔の前で組まれた手にも黒いグローブが嵌められていて、黒くないところはほぼ顔しか残っていない。

片や、薄汚れた作業服を着て黄色いヘルメットを被った作業員か何かにしか見えない青年。いっそ露骨なまでにつまらなさそうな表情を浮かべ、右手に持った工具を所在なさげに弄ぶ。

片や、燕尾服をベースにゴテゴテとアクセサリーなどを過度に増設した珍妙ないでたちをした男。センスを疑うコーディネートの下で清純さと危険さ、相反する気配を同時に纏っている。

 

「……さて、それじゃあ始めましょうか」

 

おもむろに口火を切ったのは、漆黒の麗人だった。

 

「"臨時基地"N.E.S.T.総司令、サブリナ=オクトーバ。別に逃げたりなんてしないわよ、する意味がないもの」

「"昏迷市場"クラックマーケット製造長、リワルディ=トロンボーン。正直誰がいて誰がいないかなんて一目でわかるしこのやりとりはいらねぇと思うんだがな」

「"歓楽魔都"プレジャーナル支配人、ブルーデル=ソートゥースリード。このようにまた三人での歓談ができるとは……感激だ……」

 

以上、三名。各々がこの場にいることを確認して、アンダーエデン最高権力者たちの話し合い、『三角姦計(トライアンドエラー)』が幕を開ける。

 

「ブルーデル、いい加減あんたの所の部下を何とかしてくれないかしら? こっちの新人が教育した先から引きずり込まれていくせいでいつまで経っても戦力が一定ラインを超えないんだけど」

「ああ、なんということでしょうか。支配人と言えど私とて一人の人間、限界はありましょう。私の目の届かない場所でまた哀れな被害者が……不憫だ……」

「哀れだと思うんだったら対策の一つくらい講じろやアホ、N.E.S.T.の防衛戦力はアンダーエデンの貴重な手札だぞ?」

「えぇ、当然私も尽力させていただきます。歓楽魔都の総員の代表と言う訳にはいきませんが、それでも支配人の座を戴く身です──友人の意思を無下になどなぜ出来ましょうか」

「お前と友人になった覚えなんざこれっぽっちもねぇんだがな」

「奇遇ね、私もよ」

 

にこにこと一見すると人当たりのいい笑顔を浮かべて青年と麗人の要求を快諾する男。しかし、二人はその本性を知っているが故にその発言については欠片も信用してはいなかった。

これ以上詰めても無駄だと判断したのか、麗人は話題を切り替える。

 

「そうそう、例のカルト集団……パラデウスについてなにか集まった情報はあるかしら。連中、最近アンダーエデンにも手を伸ばし出してるから早めに手を打っておきたいところだけど」

「プレジャーナルでは特には。ですが、明らかに人間ではないのに人形用洗脳ウイルスの効かない娼婦がいるという噂は流れていますね」

「後でそのウイルスよこしなさい、なんてモン扱ってやがるのよこのクソ野郎。……クラックマーケットは?」

「こっちもこれだって情報はねぇな。だが、最近妙に特定方面からの大口の依頼が多い。金はしっかり払ってるから今のところ問題視はしてないけどな……しっかし、人型兵器のガワだけなんざウチに頼むことでもないとは思うんだが」

「逆でしょう、中身にアテがあるからこそそれに合うようなガワを貴方の所に受注したんだと思うわよ」

「まあそういう事だよなぁ……。知らない間に面倒ごとの片棒掴まされてやがる、嫌だぜ自分で作った商品に首締められんの」

「まんまと、って感じかしらね。報酬さえ手に入れば後は何でもいいっていうスタンスにも大いに問題はあるところだと思うけれど」

「うるせぇ。──で? お前のところはどうなんだ?」

「そうですね、私たちだけが情報を提供するというのもいささかフェアではありません。貴女の得た情報をお聞かせいただいても?」

 

青年の問いに男が同調する。

麗人ははあ、とため息をつき、テーブルに置いていた資料を二人に投げ渡した。

 

「相変わらず連中の目的はわかってないけど、それでも多少進展はあったわ」

「それはそれは、素敵な話だ……」

「んで、そりゃどんな?」

「──NYTOを1体仲間に引き込んだ、と言ったら?」

 

その言葉に、麗人の言葉を聞いていた二人が目を丸くする。麗人は真意の読めない笑みを浮かべ、無言で今しがた投げ渡した資料を指さした。

二人は大慌てでその資料を手に取り、そこに記された内容に目を通す。そこには、どこから撮ったのやら、別のNYTOと向かい合ってライフルを構える一人の少女の姿が載せられていた。

……先端に進むにつれて黒から銀にグラデーションしていく世の摂理に喧嘩を売った長髪、無機質さを演出する金色の瞳、病的なまでに白い肌。

全体的に細めだがそれでいて付くべきところにしっかりと肉の付いた体、はちきれんばかりに豊満なバスト、170cmはある男勝りの長身。

その写真の下には、彼女の名前が記載されている──"Strelitzia"。

 

「ふむ……NYTO"ストレリツィア"、アンダーエデン首都前で行き倒れていたところを救出……おいおい、こりゃマジなのか?」

「これは、なるほど……」

「こんな所で嘘なんてついてもどうにもならないわよ。少なくとも今こっちで把握してる限りの真実がそれには書いてあるわ。まあ、持ち帰って適当に幹部連中と回し読みでもすればいいんじゃないかしら?」

「そこでデジタルデータを渡そうとしないあたりがお前らしいよ、まったく」

「あら、照れるじゃない」

「褒めてねぇ」

「でも残念、私はそういう関係は誰とも持たないって決めてるの」

「なんで俺が振られたみたいな空気感を出してやがる!?」

「素敵だ……なんと仲睦まじいことでしょうか」

「あ゛? 誰と誰がなんだって?」

「遺言は死んでから言うものよ?」

 

ジャキッ、とライフルとガスバーナーの銃口を押し付けられ、男は降参の意を示すように両手を挙げた。それを見た二人ははあ、とため息をつき、各々が手に持った武器を下す。

 

「……ともあれ、現状だと一番進展があるのは私達N.E.S.T.っていうことになるみたいね。プレジャーナルには最初から期待はしてなかったけど、クラックマーケットのほうはもうちょっと情報が入ってるものかと思ってたわ」

「金と技術にしか興味のない芸術家集団にそんな期待をされても正直困るんだがな。まあ前金はもらってることだ、何か耳寄り情報が入り次第そっちに伝えてやるよ。今回の要件はそれだけか?」

「私からはこれだけね。プレジャーナルのほうからは?」

「いいえ、私も目立って議題にあげるべき物は持ち合わせていませんね」

「そうかい。んじゃ、今回の化かしあいは終わりだな。俺は帰らせてもらうぜ」

 

そういって、青年はひらひらと手を振りながら光の届かない暗闇の向こうへと消えていった。その様子を見た男もまた、同様に座っていた席を立ち、暗闇に溶け込もうとする。

麗人はそんな男の背中に対して何を思ったかふと声をかけた。

 

「珍しいわね、いつもなら人の手を取って熱心に歓楽魔都に引きずり込もうとしてくるくせに」

「ええ、貴方のような可憐な友人を私自慢の『宴』へ案内するのも重要ですが、残念ながら今は少々別件で立て込んでおりまして。それはまた次の機会に、と言う訳です」

「ふぅん……? まあ私がそれに乗る気はないし、万一乗ったとしてもマグノリアあたりが黙ってないだろうからいいけれど」

 

──貴方、何か隠してるわけではないわよね?

刹那の瞬間、能面のような真顔を浮かべた麗人。その問いかけに、男は立ち去ろうとしていた足を止めて、しかし振り向くことなく背を向けたまま答える。

 

「──まさか、その様なことがあるはずがありません。友人に対して嘘をつくほど、私も落ちぶれてはいませんので」

 

そう言って、男は今度こそ闇の中に溶け消えていった。

最後に残された麗人は、頼りない光量の電灯に照らされながら、真意の読めない薄ら笑いを浮かべたままぽつりとつぶやく。

 

「……『友人に噓はつかない』、ねぇ……確かにそれは本当かもしれないわね。だって貴方に友人と呼べる相手なんて一人たりとも居ないもの」

 

ばつん──と電灯の電源が落とされ、麗人の姿が一片の光もない暗闇に飲み込まれる。

そうして、辺りには最初から何もなかったかのように黒々とした静寂の実が残されるばかりだった。

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