パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの14人目

「な、なあ……マジで行くのか? 悪いことは言わない、戻ったほうがいいんじゃないかと私は思うんだが……」

「めっちゃ止めるじゃないですか」

 

初対面の時に見せた豪胆な様子はいまや跡形もなく、年相応?のおどおどとした様子で私を引き留めにかかるローディ。そうまで言われるとむしろ行きたくなるんだよなぁ……。

かといって、恐らくこの調子だと私が件の場所に向かうまでに彼女は強固に抵抗してくるだろう。NYTOとして躯体を使えば抑え込むのは間違いなく容易い、とはいえ暴力で無理やり従えるのは好みじゃないし、なにより仮にも仲間に対して銃を振り回したら終わりだろう、いろいろと。

そこまで考えたところで、私の16ビットメモリな脳みそがある耳寄り情報を拾っていたのを思い出した。

 

「……あ、そうだ」

「おい、なんだよその嫌な予感しかしてこない『あ』は」

「いや、ね。そういえば私ってパラデウスの中でも最上位権限持ちなんでしょ? 他でもないアンタが言ってたことだと思うんだけど」

「……おい、まさか……」

 

ひきつった表情を浮かべるローディ。私はニコリとほほ笑み、その両手を掴んで言った。

 

「それじゃあ、ストレリツィア(わたし)の権限で命令☆ 大人しくついて来てね?」

「鬼! 悪魔!! NYTO!!!!!」

 

『識別コード"Roderero"に対して優先指令コードを実行しますか?』答えはもちろんイエスだ。

ガクン、と少女の四肢から力が抜ける。そして、ギクシャクと若干ぎこちない動きで私を先導するように歩き始めた。なるほどねぇ、こんな風になるのか……なんか緊張で体が固まってるみたいになってるな。

 

「あれれ、もしかしてこういうのは初めて? 力抜きなよ」

「初めてなんだよバーカ!! 力抜けっていうならとっととこれ解除してくれないかなぁ!?」

「ごめんて」

 

声を荒げるローディ。

まあさすがにこれはちょっとないかなと自分でも思ったので、指令を飛ばしなおして強制操作モードを解除する。いつでも体の制御権を乗っ取れるという事実に背筋をゾクゾクとした優越感のような何かが撫で上げるが、これ以上やるとちょっといろいろな意味で戻って来れなくなりそうなのでやめておこう。

改めてローディに道案内してもらう。地図を見る限りだとどうやらここら一帯はクラックマーケットとN.E.S.T.の領地が複雑に絡み合っているらしく、子供の落書きかってくらいうねうねと曲がりくねった境界線が縦横無尽に走り回っていた。これなんか問題あったとき面倒くさそうだなぁ。

 

「実際面倒なのは間違ってないな。だからこの辺は特例的にN.E.S.T.とクラックマーケットの警察組織が手を組んで何とかしてるって感じだ」

「へぇ、それはどういう?」

「んまぁ簡潔に説明するとだな──」

 

次の瞬間、爆音とともにアンダーエデンの一角がまばゆい炎色に染め上げられた。熱風がこちらまで押し寄せ、焦げ臭いにおいが鼻をつく。

何事かとそちらに視線を向ければ、突然の事態に一斉に逃げ出す人々の向こうで、今しがた発射したと思しき弾頭部分のないRPG-7を構えた少女が無線機片手に誰かと会話していた。さらにその少し先では、一台の車が見るも無残な状態になって大炎上を起こしている。

 

「治安維持局レジーナ現着ゥ! 銀行強盗働いたクソ野郎ってのは今しがた現行犯処刑したコイツで間違いないな!?」

『おまっ……カスゥ! 被害者にロケランぶっ放す公権力がどこにいるんだ!?』

「なんだと!? 畜生やられた!」

『やったのはお前だバカ!!』

 

……。

ぎぎぎぎぎ、とさっきのローディを彷彿とさせるぎこちない動きで首を回し、隣で同じように惨劇を眺めながら虚無の表情を浮かべるロデレロの方を向く。

やがて、彼女は何とも表現に困る感情のこもった笑みを浮かべて無線機片手に怒鳴る彼女を親指で指していった。

 

「──ああいう連中だ」

「なるほど。つまりこの街で問題を起こすとロケランが飛んでくるってことですね、やりたい放題かアンダーエデン」

「そんなもん今に始まったことじゃないよ」

 

ははははは、と二人揃って乾いた笑い声をあげる。

それを聞きつけてか、ロケラン少女がぐるん! とこっちに振り向いた。イエローブラウンのレンズ越しに向けられた鋭い視線が、私の胡乱な視線に絡みつく。

そして、担いだロケットランチャーに次弾を詰め込みながらずかずかとこちらの方へ距離を詰めてきた。

 

「ようそこのお嬢さん二人! ちょっと話を聞きたいんだが、この近辺で銀行強盗を働いてくれやがった不審人物に心当たりはあったりしねぇか!?」

「今まさに推定無辜の人物を爆殺した危険人物なら目の前にいますけど」

「なるほど、つまり手掛かりはないってこったな。さてどうしたもんか……」

 

ガシガシと後頭部をかきながらぼやく少女。近くでよく見てみればスタイルも顔立ちも整ってはいるが、アロハシャツにサングラス、挙句の果てにはその手に今さっきぶっ放されたばかりのRPGがリロード済みの状態で握られているせいでどう頑張っても危ないヤツとしか受け取ることができなかった。これについてはローディも同意見のようで、横を見れば明らかに危険人物を見るような顔でアロハの少女を睨んでいる。

 

「……で、要件は終わりか? 特に何もないなら私たちはさっさと先に行きたいんだけどさ」

「ん? おーおー! 話はおわりだ、悪かったな! 見る限りあんたらはこの件には関係なさそうだしな! なんかあった時には治安維持局をよろしく頼む!」

 

そう言って、アロハ少女は鼻歌交じりにまたごうごうと燃え盛る車の残骸の元へと歩いて行ってしまった。……なんだったんだあれは。

……ともあれ、問題がないならそれでいいか。そんな風に考え、私はローディを連れて目的の店の方へと再び歩き始める。背後で「テメェ見つけたぞコラァ!! いっせーのでぶっ飛べクソ野郎ォ!!!」という怒号と共に再び爆音が聞こえてきたのは気のせいだと信じたい。

 

「それで、結局今行こうとしてるところってどんな場所なんです? 近いからまずここに行こうって決めただけで具体的な内情とか全く知らないんですよね」

「まあそんな事だろうとは思ったわ、知ってたら絶対好き好んで行こうとはならないだろうからな」

「そんなに?」

「そう、そんなに」

 

大真面目な表情で頷かれる。……一応聞くけどここ本当に店舗として成立してるんだよね? え、きわめて客観的な評価? むしろ今まで死人どころかけが人すら出てないのが奇跡? ……嘘でしょ?

ここまで言われるとさすがの私としてもやめといたほうがいいんじゃないかという考えが若干鎌首をもたげてくる。もしかしたら多少距離が離れることを許容してでも違う場所に行っといたほうがいいんじゃないかと。

しかし、私の本能(POWER)はその理性的選択にNOを返した。

 

「いや、日和ったら負けじゃない?」

「お前のその謎の克己心はどこから出てくるの? 今の自分より強くならないと死ぬタチなの?」

「へへっ、自分立ち止まるのが苦手なもんでして」

「マグロかよ」

「カツオかもしれませんよ」

「どのみち止まったら死ぬじゃん」

 

ははははは、と顔を突き合わせて笑う。やっぱりなんかあれだな、話しやすい。

そのままあれこれとたわいのない雑談をしながらてくてくと歩いていく。そうこうしていると、いつのまにやら私達はN.E.S.T.を抜け、昏迷市場"クラックマーケット"の勢力圏に入り込んでいた。

嗅ぎなれたオイルの匂いが鼻をつき、鍛造でもしているのかガンゴンと鉄を叩く音と配管の隙間から蒸気の噴き出る笛の鳴るような音がハーモニーを奏でる。

なんというか、すごいな。うっかりスチームパンクかなにかの世界観に紛れ込んだかもしれない。

 

「さて、ここまでくれば目当ての店はもう少しだ……私の与り知らないところで適当な事故とか起こして死んでてくれないかなぁ……」

「しれっととんでもないこと願うじゃないですか」

「そうでもしないとやってられないんだよ。そら、見えてきた、あのビルに陣取ってるのがお目当ての──」

 

再びの爆音。

私たちの視界の先で、今まさにローディが指し示していたビルが木っ端みじんに吹き飛んだ。一瞬にして自信を構成する材料の大半を喪失したビルは轟音とともに倒壊していき、灰色に濁った粉塵があたりを包み込んでいく。私は無言で偏向障壁を起動し、バラバラと辺りに撒き散らされるコンクリートの破片の雨から身を守りながら、すぐ隣でフリーズしているローディに声を掛けた。

 

「やったじゃないですか、廃業確定ですよ」

「……いや、いや……えぇー……またやったのかよ……」

「『また』って言いましたか今、っていうことはまたさっきの治安維持局とかいうのがロケラン撃ち込んだとか?」

「いや、あそこでロケラン担いでる局員はさっきのアイツしかいないはずだ。なんならロケランの戦術人形だしな」

「そんなテロの申し子みたいな」

「元をただせば重装部隊とかいうのの出だったらしいけどな。よし話を戻そう、実際の所あの店で爆発事故っていうのは日常茶飯事だからな、この程度じゃ閉業はしないんだよ」

「ろくでもない店だな」

 

なんだ爆発事故が日常茶飯事って。そんなここ(アンダーエデン)の縮図みたいな店があるんですか? ……あるから今目の前でビルが一棟吹っ飛んだのか、HAHAHAふざけんな。 

とりあえずこのビルの残骸が目当ての場所というのはわかったので、うっかり瓦礫を踏んですっ転ばないように二人揃って慎重に進んでいく。残念ながら偏向障壁は地面に落ちて完全に静止した瓦礫まではふせいでくれないのだ ……ラッセル車みたいに範囲内に入ろうとする地面以外の物質をなんでもかんでも弾いてくれたらだいぶ楽だったんだけどなぁ。まあそれはそれでまた違う問題が出るだろうし結局今の状態が一番扱いやすいのか。

いよいよ目前に迫ってきたその時、目の前に鎮座していたひときわ大きな瓦礫がバゴン! というくぐもった轟音とともに粉々に砕け散った。

そしてその下から、すっかり煤けた全身塵まるけの少女が咳きこみながらのっそりと姿を露わにする。

 

「ゲッホ、ゲホッ! ああ畜生、*鉄血スラング*! こんのじゃじゃ馬め、また吹っ飛びやがったな! おかげで一からやり直しだーっ!」

 

──星のような黄金のメッシュが混ざった、夜空を思わせる群青色の髪。片側に付けられた月の形の髪飾り。

──赤いフレームの眼鏡の奥で光る夜空色の右目と燦然と輝く月色の左目のオッドアイ。勝気に傾いた眉毛と、口の端から覗く八重歯。

──紐リボンのついた縦セーターの上から袖が余り気味のブレザーを纏う一風変わったスタイルで、首に巻かれているのは金具のついたチョーカー。

──そして、ブレザーの胸にあしらわれた三本の爪痕に切り裂かれている鉄血構造の社章……え、鉄血工造所属なの? この出で立ちで?

私の知っている鉄血工造の自律人形とはかけ離れたその姿に目が丸くなる。いつの間に鉄血工造ってのは無彩色主義から脱却したんだろうか、他のモデルと比較するとえらくカラフルな仕上がりになっている。……ああいや、もしかしてハイエンドとかじゃなくて下級人形の出なのかもしれない。

 

「ん? ん?? ──ああ! ハローローディ! こっちに来るのは久々じゃん、なんかあったの?」

「やかましいわ耳元で騒ぐな! 私だって来たくて来たわけじゃないっての! ああもう、ストレリツィアと鉢合わせなければこんなことには……」

「どんな事情があるのかよくわかんないけど……それで、そっちの子は? セクサロイドでも拾ってきたの?」

「ぶっとばすぞ、開幕人のことを性処理人形呼ばわりとはいい度胸だ」

「あれ、違った? ごめんごめん」

 

めっちゃカジュアルに失礼だな。いやまあ確かにセクサロイドって名乗っても通るような肉付きの体してるのは否定しないけどさ。つくづくウィリアムのクソ野郎を恨みたくなるぜ、なんなんだよこの体。ていうか素体誰だ、せめてそれだけ教えろ。

ぱんぱんと服についた粉塵を申し訳程度に払い落し、かけていた赤縁のメガネを外す少女。折りたたんで胸ポケットにしまいこみ、ふんすと鼻を鳴らしながら腰に手を当てて胸を張ってきた……開口一番人のことセクサロイド呼びしてきたわりに大概いいスタイルしてんな。この街の自律人形はみんなオス媚び性能が高すぎる。

真横にいるつるぺったんなまな板人形については見なかったことにして、私は少女に先を促した。こほん、と咳払いを一つ、少女は高らかにこう告げる。

 

「それじゃあ改めて──ようこそビジター(Welcome, Tourist)、昏迷市場"クラックマーケット"へ! 僭越ながらこの私、『アトリエル・アーセナル』技術長のアルセナーレ=アリエッタが歓迎させてもらうよ!」

 

──まあ、歓迎するための道具とか全部瓦礫の下なんだけどね!

朗らかに笑いながらそう宣われ、私はその場でずるっとすっ転んだ。おいこらローディ、「ずいぶん古典的なリアクションだな」とかいうんじゃないの。




うちのアンダーエデンを書いてもらったよ。ぜひ読んでね。(リンク先R18注意)
https://syosetu.org/novel/291534/
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