パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの15人目

「へぇ、あてどもない旅で遠路はるばるアンダーエデンに? そりゃすごい話だ、正気を疑うよ」

「悪かったですね正気の沙汰じゃないマネなんてして」

「別に悪いとは言ってないさ。ただ最高に運がないだけでね! ハハハッ!」

「ホーリーシット!」

 

朗らかに人のことを馬鹿にしてくる少女──アルセナーレに、私は隠すこともなく悪態をつく。この野郎人が大人しくしてれば調子に乗りやがって、ぶん殴ってやろうか。

……とはいえ、さすがに恥も外聞もなく人前で誰かを殴り倒すほど外道に堕ちた覚えはないので、渾身の力を込めて我慢する。

 

「さて、それじゃあどこに案内したものか。見ての通り私の店は木端微塵に吹っ飛んじゃった訳だし、適当なカフェかなんかに連れてくくらいしかできないかもだけど……っていうかそうだ、何が目的で昏迷市場(こんなところ)に来たのかを聞いた方が早いか」

「何が目的と言っても、普通に物資を見に来たんですけど。なんでもアトリエル・アーセナルってところがN.E.S.T.から一番近いみたいだったんで、そこから順繰りに見ていこうかなーくらいの気持ちで」

「なるほどね。そりゃ申し訳ない事をしたなぁ、ちょうど今しがた店じまいしたところだよ」

 

からからと笑いながら、アルセナーレはいけしゃあしゃあとそう宣った。まあ、あれだけド派手に大爆発してればそりゃあ休業を余儀なくされるでしょうよ。

ローディに曰く、今までもこんなことが何回かあったらしいけど……この規模の爆発を何回も繰り返してるのであれば、もはやどうして廃業していないのかが不思議になってくるレベルだ。なんだろう、人の夢は終わらないとかそんな感じの果てしないフロンティアスピリッツでも胸に抱いてるんだろうか。

そんなことを考えていると、私の横に立っていたローディがボソリ。

 

「コイツに限らずクラックマーケットの連中ってのはバカの一つ覚えみたいに変なもん作っては周りに広めるのに命かけてるからな、そりゃ爆発の一つや二つじゃへこたれねぇよ」

「はいそこー、うるさいぞローディ~、また躯体ハッキングしてあんなことやこんなことされたいのかな~?」

「御免被るわバカ野郎! なんでどいつもこいつも人様の体の制御奪いたがるやつらばっかなんだ畜生め!」

 

私の背後にささっと隠れながら、アルセナーレに向けて抗議するローディ。っていうか体乗っ取られたの初めてじゃないんですか。もうちょっとこう、セキュリティ意識ってものをですね……。あと服の裾を掴むんじゃない。伸びたらどうしてくれるんだ。

ともあれ、どうやら私たちのことを案内してくれるようなので、ここは大人しく世話になることにしよう。いくら地図があったとて、結局現地人に頼るのが一番手っ取り早いしね。

えーと、それで今必要なのが。通信端末と食料の類、それから……あーそうだ、あの自立できなくなったニート四脚ロボの補修のためも道具とかも見繕わないといけないじゃん、忘れてた。

そんなわけで、今探しているものを一通りアルセナーレに伝える。彼女はどこからともなく取り出したメモ帳とペンを片手に、私から聞いた商品のリストをすらすらと記録していく。

 

「ふむふむ。そのラインナップだったら、工具と通信機器だったらクラックマーケットで見繕えるねー。食品類はまあN.E.S.T.のマーケットで十分補えるんじゃないかな? まあより旨いものをってなったらプレジャーナル辺りに行くしかないと思うけど」

「食事のためだけにわざわざあんなエロゲ地区に行ってたら命がいくつあっても足りませんよ」

「まあそれはそう。一人知ってるよー、食に妥協しなさ過ぎたせいでプレジャーナルでフォアグラ養法の被検体にされちゃった子。どうなったのかは知らないけど、まあモーモー啼きながら元気に乳牛プレイに勤しんでるんじゃないかな?」

「ろくでもない末路ですね」

「人間に限らず、あきらめが肝心ってことだね。それで? ローディも諦める気になった?」

「うるせぇくたばれ糞ビッチ! またしれっと人様の体の制御乗っ取りやがって!」

 

その発言に後ろを振り返ると、さっきまで幼子のように人の服の裾をつまんでひしっとへばりついていたはずのローディがカタカタとダンスロボットダンスしていた。流石にちょっとかわいそうなので、さっきのように指示系統をオーバーライドして強制停止させる。

すると、アルセナーレがまたぞろ指示を飛ばしたのかカタカタと不思議な踊りを舞い始める。アルセナーレの方に目をむけると、向こうも同じ考えだったのか目が合った。

動きを止める。踊り始める。動きを止める。踊り始める。止める。踊る。止める、踊る、止める……。

 

「「……ふふふふふふふ……」」

「バカやってないでコレ止めろストレリツィアー! あとアルセナーレはいい加減人の体の制御返せコラァ!」

 

ガッ!! 両腕でがっしりと組みあってギリギリせめぎあう。横からくるくる優雅に踊るプリマの苦情が聞こえてきたような気がするが、まあ気のせいだろう。

しかしこのハイエンド、第何世代かは知らないが結構いい膂力してんな! だがこの違法改造NYTOボディに勝てる道理無し! このまま押し切ってやる!

 

「えっ、ちょっ、思ったより力強っ……!?」

「ふはははは鉄血工造なにするものぞ、この国際法順守意識皆無の肉体の前にひれ伏すがいいや!」

「何それぇ!? ちょっと細胞単位までバラシて中身見せてもらっていいかな!?」

「くたばれ! 良い訳ないでしょうがこのマッドテクノロジスト!」

「そんなこと言わずにさー! ちゃんと元通りにするから……多分!」

「欠片も信用できないってんですよバーカ!」

 

目をキラキラ輝かせて詰め寄るアルセナーレ。踊り狂うローディをほっぽらかして全力で互いを制圧しようとするが、そこで横やりが入った。

ゴガン!! という重厚な金属音とともに、私含めた3人の脳天に極太のパイプのような何かが振り下ろされる。その威力たるや、3人揃って地面とキスしてそのまま起き上がれなくなるほど。

「な、なんで私まで……」と恨み節をこぼすローディをよそに、私は横倒しになった視界の中で下手人を探す。見覚えのある銀色の髪に翡翠のジト目と目が合った。

 

「き、キルスティン……? なんでここに……」

「何よ、私がいたら何か文句があるっての?」

「いやぁそういう訳じゃあっあっ頭踏まないで下さいぐりぐりもしないで……」

 

情け容赦なく人のことを踏みにじるこんちくしょうの足を払いのけ、よっこいせと体を起こす。キルスティンの右手には使途不明の鉄の筒のようなものが握られており、どうやらそれで私たち3人をしばき倒したようだ。

そうこう言っている間に残りの二人も各々起き上がる。

 

「あー頭割れるかと思った……おいキルスティンこの野郎、一体全体人のことを何でぶん殴りやがった!」

「クラックマーケットのバカが作った『宇宙戦艦の砲塔』らしいわよ。コーラップス弾頭の直撃にも耐えるっていう触れ込みのね」

「何から何まで怪しいにもほどがあるだろ、どこの詐欺師の商品だよ」

「ついこの前詐欺容疑の現行犯で治安維持局に押しかけられてロケランの錆になったバカの商品よ? まあ、鈍器にはちょうどいいわ」

「ご丁寧に持ち手まで溶接してあればそりゃあな! 艦砲っつーかバズーカだろそこまで行くと」

「いっつつ……宇宙戦艦ってことはセントビルの奴のですか、やっぱあいつ誇大広告してやがったんですね……まあそれで死んでりゃ世話ないか、雑魚乙」

「……それで? まとめてぶん殴っちゃったけどそこの青いやつはどこのどいつよ」

「知らずに殴ってたのかお前!?」

「はぁ? なに、そんな有名人なの?」

「有名……まあ悪い意味で有名っちゃそうだな。天の恥地の恥人の恥、八面六臂どこに出しても恥ずかしいクラックマーケット火薬庫十天王……まあその一人がコイツだ」

「そう。あやかりたいものね」

「えへへ、そんな照れますよ」

「どう考えても褒められてねぇよ、気付けアホ」

 

そんな治安の悪い会話を続けることしばし。キルスティンは用事があるといってその自称『宇宙戦艦の砲塔』をブンブン振り回しながら鼻歌交じりに歩き去っていった。危なっかしいなぁ、あんな振り回して誰かに当たったらどうするん……思った先から誰か殴り倒してる!

あまりにも傍若無人な振る舞いにドン引きしていると、ポンと肩を叩かれる。振り向けば、悟った笑みを浮かべたローディが無言で首を横に振っていた。ああ、処置なしってことですか……。

さて、思いもよらぬ寄り道と自爆同然のトラブルで時間を食ってしまった。さっさと要件を済ませないといけないな。

 

「えーと、それで……何探してるんだったっけ? 戦闘爆撃機KM6とビームサーベル?」

「青い地球は守りませんし増えすぎた人口を宇宙に移民させるようにもなってません。携帯端末と工具だっつってんでしょ」

「あーね、そうだったそうだった」

 

それなら~、と懐から取り出した手帳をパラパラめくるアルセナーレ。そうしてなにやら頷いた後、パタンと手帳を閉じて懐に閉まった。

そして、くるりとこちらに振り返って言う。

 

「それじゃあまずは工具からだね~。こっからだと一番近いのは『ラボラトリー・ラブラドール』かな? あそこはいい場所だよ、頼め(ゆすれ)ば大体の事はやってくれるし」

「なんかちょっと邪悪なタイプの他意が含まれてません?」

「そうかな?」

「自覚無しだと……!?」

「諦めなストレリツィア、こーゆー奴なんだよこいつは」

「ローディ~、それ以上言ったら次はくるみ割り人形だよ~」

「何の嫌味だこの野郎!」

「あーもう喧嘩しないでってば! 用事が終わんない!」

 

また顔を突き合わせて言い争い始めようとした二人の脳天に拳を叩き込む。さっきのキルスティンの対応をまねした形だけど、まあ、変に言葉で丸く収めようとするよりかは多少角が立っても暴力で解決する方がよほど手っ取り早いし……。片手の数で足りる人数の寄せ集めだからこそ成立する荒業だ。さっき『恥も外聞もなく人前で誰かを殴り倒すほど外道に堕ちた覚えはない』とか偉そうなこと言った気がするけど、ごめんありゃ嘘だった。

私は頭を押さえてうずくまるアルセナーレに声をかける。

 

「……それで? そのラボ何某は一体どこにあるのさ」

「あたまいたい……あーちょっとこれは殴られたショックでどこにあったか忘れちゃったかもしれないな~」

「辞世の句はそれでいいですね?」

「あー分かった! 思い出した! 今思い出したからその拳を収めて! これ以上ぶん殴られたら本当に頭が割れちゃう!」

「最初からそう言えばいいんですよ。それじゃあ思い出せた記念に一発行っときますか」

「どうあっても私を殴りたいの!?」

「いやぁそんなまさか。ハハハ」

「あまりにも露骨すぎる棒読み!」

 

愕然とするアルセナーレをよそに、へたりこんだままのローディを引っ張り起こす。恨みがましい視線をこちらに向けてきたが、シャルロッテがやっていたように頭をおっぱいに埋め込むことによって封殺する。

若干蒸れ気味の谷間で暴れるローディを肩にかけていたコートを着込むことで懇切丁寧に梱包しながら、私はアルセナーレの方に視線をやった。

 

「……さて、それじゃあ案内してもらおうか」

「いやまあするよ、するけどそれは大丈夫なの? 陸に打ち上げられた魚かってくらい服の中でビチビチ暴れまわってるけど」

「まあ生身の人間でもないですし窒息しない以上大丈夫じゃないですかね。大人しくなったら引っ張り出します」

「いや、えぇー……」

「ローディの代わりにあなたを詰め込んでもいいんですよ?」

「よぅしじゃあ出発しようか! 私について来てね!」

 

くるりと振り返って威勢よくそう言い放つアルセナーレ。そのあまりにわかりやすい態度に思わず苦笑をこぼす。

そうして、早くも重機やら何やらが集まってガンガン解体作業をし始めたビル跡地を後にして、私達はラボ……ええと……ラブラドール・レトリバーとかそんな名前の施設へと歩みを進めることになった。しかしこれ思ったよりも長丁場になりそうだなぁ、スパッと済めばよかったんだけど。まあ何かあったらローディ経由でコンタクトとればいいかな?

 

「……そういえば、自分の店が今まさにバラされてるわけですけど立ち合いとかってしないんですか?」

「んー? んまぁ別に大丈夫だよ、これが初めてって訳でもないし、本当に重要な物はまた別の所に保管してあるしね」

「そんなものですか」

「そうだよ~。きっと私の本拠を見たら君もびっくりするんじゃないかな? 少なくとも今君の胸で一本釣りされてるローディはひっくり返ってたよ」

「それはまた、興味をひかれる話ですね」

 

……っていうかそうだ、ローディだ。

私の胸に顔をうずめたまま、いつのまにやらピクリとも動かなくなっていた少女をコートを脱いで引っ張り出す。彼女は胡乱な瞳のまま「甘ったるい香りと柔らかい肉感に包まれた地獄だった」とだけ言い残して私からそそくさと距離をとった。ちょっとだけ傷ついたかもしれない。

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