パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの16人目

ガンガンギンギンという金属のぶつかり合う音、フシューッという蒸気の噴きだす音を聞き流しながら、アルセナーレに率いられてクラックマーケットを進んでいく。

 

「そっちで金属ぶっ叩いてるのが鉄鋼屋のアイアンテンポ、向こうでタービンブン回してるのが動力狂いのシャフトドラフト。それからあっちでクレーン動かしてるのが~……あー、ありゃジャンク屋のシンダーチェーンだね。そうか、今日のクレーン担当はブリッククリックじゃなくてあいつらなんだ」

「知らない組織名がズンドコ出てきて私としては困惑しかないですよ」

「安心しなストレリツィア、私もだ」

「何も安心はできないんですけどね?」

「そんな怖がらなくたっていいんだけどなぁ。別に取って食いはしないよ」

 

口を尖らせたアルセナーレがそう愚痴るが、生憎はいそうですかと馬鹿正直に信じられるほど品行方正な人生は……まあ、送ってはいないつもりだ。正直N.E.S.T.も100信用してるかって言われたら大分微妙なラインではあるし。サブリナを筆頭にした502小隊とやらも具体的な内情とか全く知らないしなぁ。

……っていうか、知らなけりゃ他の人に聞けばいいじゃん。そう思い至った私は、隣を歩くローディに声をかける。

 

「へいよーローディ」

「なんだよストレリツィア」

「あのさ、502小隊についてなんか知ってたりする? 今のところサブリナとドロシーさんくらいしか知ってる人いなくてさ」

「あの脱法小隊についてだぁ? いやまぁ、そりゃ知ってるけどさ……んなこと知ってどうするんだ?」

「別にどうもしないよ、気になっただけ」

「そうかい。悪いことは言わない、あの連中とかかわるのはやめときな。ロクな目に合わん」

「まさかの断定形」

 

そんなに恐ろしい集まりなのか、502小隊っていうのは。さすがにそんなことはないだろうと思い、今までに会った推定所属メンバーを思い浮かべる。

一人目、サブリナ=オクトーバ……110BA。全身黒づくめでライフル持ちの女性。周囲の発言を鑑みるにアンダーエデンで盾突く相手を全て処刑して臨時基地N.E.S.T.を立ち上げ、そのトップに立った生粋の世紀末覇者。

二人目、ドロシー=ティンパニ……MGL-140。顔の半分を道化師めいた仮面で覆った少女。言動はいたって普通、ネット関連に秀でている?

……以上二名。残りは一切不明、名前すらも知らない。それをローディに伝えると、彼女曰く一番ヤバい連中を知らないからそんな甘いことが言えるんだとか。

 

「それじゃあ私が懇切丁寧に伝えてやろう、聴覚センサーの倍率フルマックスにしてよーく聞きやがれよこのデカパイ女」

「張っ倒しますよ?」

「殴ってから言うこたないだろあっぶねぇな! 避けられたからよかったけどさぁ!」

 

ぶん、と薙ぎ払われた拳をすんでのところでかがんで躱すローディ。頭を下げればぶつかりませんって? それなら縦に振ればいいじゃんと返す刀で拳を振り下ろすが、返ってきたのはスカッと空を切る感覚。

どういうこっちゃと腕を真横に伸ばしきった状態で煽り野郎の方に視線を向けると、ちょうどローディの胸の前を素通りしている。

そのバストは平坦であった。

 

「……その……ごめん」

「謝るんじゃねぇ、自分が悲しくなってくる! くっそ、こんなことならプレジャーナルにバインバインのボディでも発注しとけばよかった!」

「おや、出るとこ出たコアパーツが入り用? それならクラックマーケットのどっかで売ってると思うけど」

「私が欲しいのは巨乳のボディであって文字通り胸部装甲ガン盛りの重コアじゃねぇんだよ! っていうかこの足でそんな重量物が乗ると思うか!?」

 

そう言って彼女は自らの脚を指し示す。すらりとしたフォルムの脚部が目に入るが、確かにいくら機械仕掛けの豪脚と言えどもこのサイズじゃそんな重量物を積むのは難しそうだ。

……そう言えばこの体って身長体重とかどれくらいなんだろうか。身長はある程度見当がつくけど、体重は本当になんもわからないな。機会があれば計ってみるか。

げふんげふん、とこれ見よがしに力強く咳ばらいをし、ローディが改めて502小隊について説明を始める。

 

「いいか、502ってのはサブリナの奴を筆頭にした5人からなる小隊だ。その内の1人が、お前もあったドロシー……あいつはグレネーダーだな。両手にグレラン担いで気に入らない奴を手当たり次第に爆撃して回る危険人物だ」

「思ったよりもヤバい人だった」

「聞いて驚け、あれでも平時はちゃんと意思疎通ができる分ヤバさは下から数えたほうが早い」

「噓でしょ!!?」

「残念ながら本当だ、震えて眠れ?」

 

衝撃の事実に恐れおののく。確かに顔の半分仮面で隠してる時点で相当危ない人だとは思ってたけど、それでもなお様子のおかしさでは下位に位置するというのか。

っていうかその観点で行くともしかして実はサブリナが一番マシなまである……? 502小隊に限らずN.E.S.T.のトップ張れるくらいにはまともな社会性持ってるみたいだし……。

 

「んで、3人目……XTR-12、エクスティア=アルトホルン。ショットガンの戦術人形だな。こいつは当人がヤバいというよりかはどちらかというと製造経緯がヤバいタイプだ。ところでストレリツィア、鉄血工造のハイエンドモデルでウロボロスってのがいるのは知ってるか?」

「ウロボロス? まあ、名前と軽い仕様くらいなら。確か自律砲台とコンビ組んだガン待ち戦法が得意な陰キャでしたっけ」

「おおむね間違っちゃいないがそれにしたって覚え方よ。んでまぁ平たく言えば、そのウロボロスのIOP版がそいつだ」

「そりゃまた」

 

むしろあんな人格破綻待ったなしの蟲毒プロジェクトにゴーサイン出したアホがIOPにもいたんですか。ちょっと調べればどう考えても失敗するって気付きそうなものですけどねぇ。

そんなことを思っていると、私の考えを察したのか、ローディは意地の悪そうな笑みを浮かべて言う。

 

「言いたいことは分かる。だがな、聞いて驚け。なんとその実験、成功したんだってよ」

「なんと」

「まあ厳密に言えば、『成功か失敗かで言えば成功』されど『大成功か大失敗かで言えば大失敗』っていう有様だったらしいけどな。クラックマーケットの中で情報屋やってるサマ師の話によりゃ、噓かホントかそのプロジェクトにかかわった奴は例外なく失踪か発狂してるらしいぜ?」

「大失敗どころかもはや呪いの域ですね。むしろどうして当人なんにもないんだ」

「周りが気付いてないだけで案外『何か』起こってるのかもな」

 

けらけら笑いながらそういうローディ。

オカルト要素が高すぎて眉唾なことこの上ないが、あいにくとその手のオカルトに関しては(『ストレリツィア』)が割と筆頭格な感はあるのであんまり人のことは言えないけど。いや本当に、今まで考えないようにしてた……っていうかすっぽり頭から抜け落ちてたけど、私のもともとの体って今どこで何してんだ? もう火葬されちゃってんのかなぁ。

自分の体の慣れの果てとご対面とかは正直勘弁願いたいなぁ、とか思いながら、ローディに先を促す。

 

「それじゃ先進めるぞ、4人目だ。P90、パトリシア=ハースタル。サブマシンガンだ。こいつは……なんだろうな。まああれだ、冗談みたいに足の速い煙幕狂いのチビ女。以上」

「余りにもざっくり過ぎません?」

「仕方ねぇだろ、マジで動き早すぎて捉えれないんだ。神出鬼没(物理)なんだよ」

「物理」

「そう、物理だ。噓か真か、全力疾走すれば音速超えれるらしいぜ? 実際に見た奴がいるんだと」

「……いくら戦術人形といえど、音速超えたら普通に四肢ぶっ飛びませんかソレ? 正直本当だとは思えないんですけど」

「だから言ったろ、『噓か真か』ってさ。実際私もその光景を見たわけじゃないから半信半疑……いや三信七疑ってとこではあるんだが」

「パトリシアっていうと502のP90? あの子だったら単独で音速超えれるよ、なんだったらプロデュースしたの私だし」

「「噓でしょ!!?」」

 

唐突なカミングアウトに口を揃えて驚愕する。

なんとまぁ、目の前できょとんとした顔をして首をかしげる鉄血ハイエンドがどうやら下手人の一人らしい。いったいどんな魔改造を施したっていうんだ。

 

「えー? そんな大それたことは知れないよ。せいぜい脚部を総取っ換えしてプロペラントタンク付きの大型バーニアに差し替えたくらい?」

「大それ過ぎててもはや愛想笑いすら出てこない」

「戦術人形をなんだと思ってんだ、どこぞのピザ屋のマスコットみたくスクラップアンドビルドして遊ぶ玩具じゃねぇんだぞ」

「まあ噓なんだけど」

「ストレリツィア」

「任された」

 

ガコォン!! と小気味いい音がし、両手で頭を押さえたマッドテクノロジストが崩れ落ちる。

 

「さて、じゃあ遺言を聞こうか」

「すいません大分話盛りました……やったのは装着型の外骨格とランディングギアの制作です……」

「よろしい。ローディ、判決は?」

「死刑」

「殺人でもない初犯なのに刑が重すぎる!?」

「ストレリツィア」

「よしきた」

「やめてー! お慈悲~!」

 

これ見よがしに片手に力を籠め、ゴキゴキと手のひらと指で音を鳴らす。べそ搔きながら命乞いしてきたアルセナーレを見ながら、私は笑顔でアイアンクローを仕掛けた。ローディに。

まあ脅すのはこの辺でいいかな、という自己判断。あと人を体よく暴力装置扱いしてくるこのまな板にちょっとだけ意地悪をしてみたくなったのもあるし。さっきみたいに体の制御乗っ取って恥ずかしいことさせてもいいんだけど、そればっかりじゃ芸がないしね。

 

「待てストレリツィア! やるのは私じゃなくてそっちであだだだだだだ!!!?」

「やっぱり片方だけいじめるってのも不公平じゃない? 喧嘩両成敗っていうしここは平等にしばき倒す感じで行こうと思うんだけど」

「それにしたってアイアンクローはやめぇぇぇあぁぁぁぁァッー!!!」

「いいぞーやっちゃえー! 人のこと散々痛めつけてくれちゃって、反省し……あ、あの、ストレリツィアさん……? なんで私の頭を掴んでおられるんです……?」

 

都合のいいことを言いつつ逃げの態勢を整えようとしていたアルセナーレの頭をがっちりホールドする。涙目でカタカタ震えながら、彼女は懇願するような表情でこちらに問いかけてきた。

私はそれに対して笑顔で返す。ほら、両成敗って言ったじゃん?

見る見るうちにアルセナーレの顔が真っ青になっていく。私は二人の頭を掴んで吊り下げながら、笑顔で足を動かし始めた。行先は……えーと、なんだったっけ、ゴールデンレトリバーとかそんな名前の場所。まあ迷ったら今掴んでるインテリアに道聞けばいいか。

さて、それじゃあキビキビ行くとしますかね。あー、そうだ二人とも、締め具合とか大丈夫?

 

「そんな処女の水揚げする時みたいなテンションで聞くようなもんでも「はいぎゅーっ」ぐわぁあああ締まる! 共産主義国の弾圧かってくらい締め付けが力強い!!」

「締め具合も何も最初から手を放してくれればそんな話をするまでもな「そーれぎゅうーっ」痛い痛い痛い割れる割れる!! 頭がハンプティ・ダンプティになっちゃう!!!」

 

悲鳴を上げながら暴れまわる二人。

流石にこれ以上やるとこの体の膂力じゃ本当に頭砕いちゃいそうだし、この辺で放してあげるか。

パッと手を放す。約170cmの高身長によって持ち上げられていた体がその場に落下し、二人揃って頭を押さえてのたうち回っていた。……そんな強く締め上げたつもりはないんだけどなぁ。

 

「ぐおおおお……私の頭どうなってる……? 頭蓋骨が3等分とかされてねぇよな……?」

「せ、世界が回って見える……そうか、宇宙とは……ゲッターとは……」

 

なんか片方ヤバいやつ見えてるのがいるな……えいっ。

筋肉式精神安定法(迅速な腹への殴打による意識の喪失)によって色々とアブなそうな妄言をその場で断ち切り、そのまま肩に担ぐ。思ったよりも軽いな。

ローディを引っ張って起こし、こちらに向けてくる恨みがましげな視線を受け流しながら言う。

 

「それじゃ、この子ダウンしちゃったし代わりに案内してもらおうか。ええと、ラボ……そう、『ラボラトリー・ラブラドール』だっけ。そこまでね」

「……お前、多分私以上にアンダーエデン向いてるよ……」

 

呆れたような表情とともに、そんな返答が返ってきた。まあ、この短期間でこれでもかっていうくらいに染まった自覚はある。

人間の頃はあのクソみたいな環境からの脱却ばかり願ってたけど、結局のところ系統こそ違えどクソみたいな環境に順応しているあたり、思ったよりも私の世紀末適性は高かったらしい。……モヒカンでも試してみる? いややめた、さすがに似合わないだろうし。

そんな事をつらつらと考えては記憶のゴミ箱に投げ捨てることを繰り返しながら、私はローディの案内の下で改めて目的地へと歩き始めた。

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