「そういや、502小隊の5人目についてまだ話してなかったな?」
道中で、ローディはそう切り出した。
私はアルセナーレを担いだまま、その言葉にコクリと頷く──
「喜べストレリツィア、次に紹介する奴が筆頭格だぜ。サブリナが502の中心ならそいつは502の筆頭、どこに出しても恥ずかしくない正真正銘のイカレ野郎だ」
「全く全然嬉しくないですね」
なんでそんなボロカス言われるような奴を最後に残したんだよ。一番最初に言うべきだろそんな奴、後生大事に取っといてるんじゃないよ。何をちょっとメインディッシュ感出してるんだ、勘弁してくれ。
顔が若干ひきつるのを感じ取りながら、私は意を決してローディに先を促す。
「んじゃ最後、5人目……MAG、マグノリア=ハースタル。こいつが502小隊の筆頭であり、恐らくサブリナの奴が無言で首を横に振るだろう向かうところ処置無しのパーフェクト
「なんでちょっとかわいい感じに言った?
「悪いちょっとふざけた。まあそれくらい言っても文句が出ないレベルでおかしいやつだと思えばいい」
「具体的にどこがどうおかしいんですか?」
「マシンガンに富・名声・力・この世のすべてを捧げたイカレ野郎だよ。マシンガン教の大司教みたいなのもやってるらしい」
「想像よりも数倍様子のおかしい人だった」
マシンガンにこの世の全てを捧げたってなんだよ。もうちょっと有意義なものに捧げろよ、海賊王が見たら泣くぞ。
何がどうしてそんな風に狂ったのやら、ローディに聞いてみても黙って首を横に振るばかり。少なくとも、マグノリアとやらが502小隊ともども
「実際何があったのかは同じ502の連中にしか分からんだろうが、私から言えるのはただ一つだな」
「その心は?」
「"触らぬ神に祟りなし"」
「なるほど、そりゃ至言ですね」
「だろ? ……よし、着いたぞ。ここがお前の目当ての場所……ラボラトリー・ラブラドールだ」
「しかしいつ聞いても誤解を招きそうな名前」
「ここだけの話、プレジャーナルにはよく似た名前の人形風俗があるぜ」
「聞きたくなかったそんな事」
そんな馬鹿な会話を続ける私たちの前にそびえたつ、いかにもな雰囲気をしたレンガ造りの工場。ここが噂の施設のようだ……といっても、実際ここは何を作ってる場所なんだろうか?
未だに目を回したままのアルセナーレの頬をぺちぺちしてたたき起こす。
「んえぇ何……? すごいお腹痛い……」
「よし、起きましたね。貴女ってばあの後もう一回起きた爆発に巻き込まれてお腹に瓦礫の直撃食らってたんですよ」
「そうだっけ……そうだったかも……」
「流れるように噓吹き込むじゃんお前」
「キルスティンの真似事です」
「仮にも新入りに何教え込んでんだアイツ、あとできっちり話聞かないといかんな」
脳内で不信任決議案を書き連ね始めるローディをよそに、担いでいたアルセナーレを下ろす。すると、彼女は入り口の扉前へと歩いていき、ドア脇の壁を形作っていたレンガを一つ慣れた手付きでカパッと取り外し……って、えぇ?
レンガの壁の中に一つだけ、キーパッドの仕込まれたダミーが紛れ込んでいた……いやいや、いくらなんでもそんなベタな……。
啞然としている私の前で、カチカチと何やらコードを入力するアルセナーレ。ええと、1,1,2,6……
ガチャリと扉を開ける。
「さ、入って入って」
「いやいやいや……なんですか今の」
「これ入力しないで開けるとガトリングの掃射でお出迎えされるんだよね」
「いくらなんでも物騒過ぎません? っていうか多分部外者だと思うんですけどなんでそんなこと知ってるんです」
「死ぬほど痛かったからね」
「経験者だったか~~~~」
経験者ならしょうがないな、うん。ローディもそう思わない? 思ってないねこれ、ドン引きしてるね。まあ実際私も大分引いてるし。
……とりあえず入るか。アルセナーレを見た感じ土足のままで大丈夫そうなので、そのまま施設内に入り込んでいく。
頭上から金床が降ってきた。
「あっっっぶない!!?」
泡を食って一歩後ろに飛びのく。ドスンと重厚な音を立てて金床が地面にめり込み、埃が舞い上がった。突然の事態に目を白黒させていると、玄関脇にセットされていたインターホンから声が聞こえてくる。
『ようビジター、挨拶もなしにこのラボラトリー・ラブラドールに入ってくるたぁいい度胸だ。せいぜい歓迎しようじゃないか、そこのバカ娘ともどもな』
「私までぇ!? ちょっとおじさんどういうこと!?」
『どうも何もこっちは今忙しいんだよ! お前が来るってことは絶対面倒ごとだろうが冗談じゃねぇ!』
「そんな面倒ごと持ってってないじゃん! いくら何でも誹謗中傷だよ!」
『
「………………………………………………………………、」
「ねぇ何したの!? 本当に何やらかしやがったのアンタさぁ!?」
インターホン越しの音声がその単語を口にした途端、アルセナーレは冷や汗をダラダラ流しながら明後日の方向に顔をそむけた。
思わずその襟首を引っ掴み、前後にガタガタ揺らしながら問い詰める。すると、ポツポツとだが事の全容を話し始めた。
──元をただせば、事の発端になったのはとある一機の自律人形だった。それはアルセナーレがとある鉄血のハイエンドモデルを参考に作った代物だったが、これが曲者。なんとまぁ無限に自己増殖を繰り返して文字通りのワンマンアーミーを作り上げるトンデモ兵器だったそうで、あっという間に生みだした当人の手に負えなくなったらしい。
そこでなんとこの小娘、何を思ったかそいつらを誘導してクラックマーケットに全員まとめてぶち込んだのだとか。当然クラックマーケットとしても黙っていられるわけもなく、例の治安維持局やクラックマーケット側の治安維持組織『フラックラック』をも巻き込んだ上へ下への大騒ぎ。それでも倒した先から瓦礫やスクラップを材料としてねずみ算的に増えていくトンデモ軍団にいよいよ耐えかね、最終的にアンダーエデンの一部エリアを隔離したうえで増殖を担っている部分を大規模破壊兵器でまとめて圧壊してから残存勢力を始末する『
とはいえ被害は甚大で、クラックマーケットのインフラは半壊、N.E.S.T.の人員にも少なからず被害が出た。が、クラックマーケットの連中は自分たちで製造した秘密兵器の試運転が存分にできたためこれと言って文句を言わず、N.E.S.T.側ももっとも甚大な被害を受けたクラックマーケット側に文句がないならと引き下がり……ほぼ傍観していただけのプレジャーナルもまた、機能停止した『
一連の流れを聞き、マジかお前、とローディと二人揃ってドン引きする。
『直接的な発端はそこのバカ娘だが、「
「……、」
(……ねぇローディ、これ帰ったほうがいいかな?)
(……シッ! 余計なこと言うんじゃねぇストレリツィア!)
『……とはいえ、今回用があるのはそこのバカ娘じゃなくて後ろの嬢ちゃん方なんだろう? それなら少しばかり話が変わってくる』
「……つまり?」
アルセナーレが聞き返すと、アナウンス越しにパチン! と指を鳴らす軽快な音が響く。その直後、建物全体が重厚な駆動音とともに激しく振動し始めた。そして、私たちの見ている前でただの出入り口だった通路が見る見るうちに変形していき、順路がブロック細工のように組み替えられたり壁が開いて中からおびただしい数の兵装が出てきたりとそうはならないだろと言いたくなるような超変形ギミックが繰り出されていく。
おいおい、とローディと二人で顔を見合わせていると、ド派手な発砲音とともに目の前から迫りくる巨大掌底。いや比喩とかそういうのはなんでもなく、マジで高さが私の身長よりもあるサイズの掌がこちらに向かってすっ飛んできたのだ。
「「「ウワーッ!!?」」」
泡を食って偏向障壁を起動するが、いくら何でもこんな面制圧の極致みたいな攻撃はさすがに想定外──ダメージそのものは皆無だが、圧倒的な衝撃力によって全員まとめて建物の外に放り出された。
なんとかすっ転ばないように踏ん張り、ザリザリと靴裏で地面を削りながらブレーキをかける。私の視線の先には、もはや
『小型自律建造プロトコル"ハウスキーパー"……コイツを披露するのは久々だ、退屈させてくれるなよ。』
「なんだろう、もしかしてクラックマーケットの連中ってだいたいこんなんなの?」
「……まあ、私が知る限りじゃどこも似たり寄ったりだな」
「…………、とりあえずローディ先に行ってくれない? どんな動きするか見たい」
「私に死ねってか!?」
「まあ偏向障壁あるから死にはしないんじゃないかなぁ」
「確かに私も搭載してるけどNYTOサマほど高出力じゃねぇんだわ。うっかりすると対物ライフルで死ねるんだわ」
「そうなんだ。知らなかった」
「……そういやお前放逐されたんだっけか……」
言いながら、ローディは腕に仕込んでいたらしいパルスシールドを起動する。私は……そういや武器ないな。誰かなんか持ってない?
そう言うと、アルセナーレがどこからともなくサブマシンガンを2丁とマガジンを大量に投げ渡してきた。いや、あの……助かるは助かるんだけど、えっ今どこから出したのコレ? 見間違いじゃなきゃスカートの中から出さなかった? この量のマガジンを?
そういうと、彼女はウインクしながら一言。
「クラスのみんなには内緒だよ☆」
「あっはい」
左手にレンチを持っているのも相まって「それ以上追及したら消す」という言外の圧を感じ取り、私は大人しく引き下がる。
……まあ、それじゃあやりますか。
「よーし行こう、それじゃあ私たちはインペリアルラインという陣形で戦うよ」
「インペリアルライン?」
「私が真ん中、ローディが後ろ、それから……アルセナーレ、アンタが一番前。アンタのポジションが一番危険だから覚悟して戦うようにね」
その言葉を聞いたアルセナーレはその場に停止し、3秒くらい首をひねってからひと言。
「……いや、それってもしかしなくても単縦──」
「そーら突っ込めっ!!」
「バッカ蹴るんじゃないって危なぁあああっ!!!??」
その尻を躊躇なく蹴り飛ばし、施設内に叩き込む。そのあとに続くように、私たち二人も勢いよく突入した。
ガシャコン!! と音を立て、すぐさま4門のガトリングが展開する。これがさっきあいつが言ってた出迎えガトリングか。だがなぁ、
「ちょっ、おまっ、ストレリツィア──ぐえっ!?」
「まかせろ!」
脚をもつれさせて見事にすっ転んだアルセナーレを踏みつけにして、最前面に躍り出る。瞬間、私を照準したガトリングが一斉に火を噴いた。人間はおろか、下手な自律人形でも防御を固めなければ一瞬で蜂の巣になるであろう鉛の暴風雨。しかしそれは私に触れる前に全て偏向障壁によって押しとどめられる。
勢いを失った銃弾が重力に囚われ、ジャラジャラと音を立てて地面に落ちていく。メダルゲームだったらジャックポットが出てるな、この音。
一通り弾丸を体で受け止めたところで、両手にもったサブマシンガンを何回かに分けて連射。ガトリングを支えるアームと給弾部に弾丸を叩き込み、駄目押しに蹴り飛ばしてバラバラに砕いて見せる。
『ほう、中々やるじゃねぇか。見慣れないタイプの障壁だが、フォースシールドの類型か? 面白い、その装甲でこの迷宮工場をしのげるかな!』
「うるっせぇ! このまま最短距離で押し通る!」
威勢よく叫び、私は床に散らばった鉛玉を踏み砕きながら前へと進み始めた。