──道中は熾烈を極めた。
従来の籠城戦で使われるようなワイヤートラップはもちろんのこと、天井壁床を問わずどこからともなく生えてくるガトリングでの一斉掃射、気を抜くと頭上に振ってくる金床、挙句の果てには古典的な落とし穴とクレイモアを組み合わせた悪趣味かつ殺意フルマックスな爆殺トラップまで。
私とローディは偏向障壁がある都合上よほどのものでなければ無視してガンガン進めるが、一般鉄血ハイエンドのアルセナーレはそうもいかない。おかげで、ある程度進んだころには彼女の背中はすっかり煤けていた。物理的に。
「こ、こんなハードワークは
ぜえはあ肩で息をしながら愚痴るアルセナーレ。ってか翌日納期ってすごいな、あのカスとクソの煮凝りみたいな工場でも翌日はなかったぞ。二日後ならあった。マジで殺してやろうかあのクソ野郎って本気で思った。まあ今となってはどことも知れない場所で野垂れ死んでるんだろうし寛大な心で水に流してやるけど。
さて、ここからどうしたものか……さっきはあんな威勢のいいことを言ったけど、正直な話をすれば現在地がどこか把握できているかと聞かれると限りなく怪しい。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、階段を上ったかと思えば梯子を下り、次の瞬間にはらせん状のエスカレーターであらぬ方向に昇っていく。目まぐるしく方向が変わっていくおかげで、私の脳内コンパスは白旗を上げて病院に運び込まれてしまった。
「ローディ、今どのへんだと思う?」
「私に聞かれても困るんだがな。まあ、そうだ……1/4くらいは進んだんじゃねぇの? 知らんけど」
「……なんかあれだな、正直ちょっと面倒になってきた自分がいるんだよね」
「めっちゃわかる、すげぇかったるい」
「なんかこう、一撃で一切合切ぶっ貫けるようなステキウェポンとかない?」
「よし来た任せろ、実はちょうど試したいオモチャがあったんだ。ええと、確かこの辺に……」
そう言って、ローディは懐をガサゴソと漁り始める。服の内側からなにやらガチャガチャと普通だったらどう考えてもしないような金属同士のぶつかり合う音が響き、その中をあれでもないこれでもないと探し回っていく。
やがて、目当てのものを見つけたのか、懐から腕を引っこ抜いた。
「よし、見つけた。コイツが使えるはずだ」
「……なんですそれ?」
「まあまあ百聞は一見に如かずだ、とりあえず使ってみようぜ。アルセナーレ! そこどけ、まとめて吹っ飛ばすぞ!」
「えぇ……?」
ジト目でローディを見ながら私の後ろにつくアルセナーレ。……ナチュラルに人のことを盾にするような立ち位置に陣取ったのは見なかったことにしてやろう。手に持った銀色の筒のような何かを弄びながら、ローディは通路の隅にそれを放り投げた。
カランカランと硬質な音を立てて転がっていくそれを見ながら、私は改めて問いかける。
「……それで、離れるのはいいんだけど結局それなんなの? 爆発物かなんかだとは思うんだけど……」
「んー? プラズマまき散らして自分の周りの物質消し飛ばすアーク放電装置」
「は?」
「え?」
「おっしゃー吹っ飛ぶぞー! 気合入れろー!」
ローディがそう言うや否や、目の前で閃光が弾けた。それは莫大な熱量とともに自身の周囲にある一切合切をぐずぐずに融解させながら、呆けた表情を浮かべた私たち二人を飲み込む。幸いにして偏向障壁を起動してあるおかげでノーダメージではあるのだが……一体全体どんな破壊力をしているのか、とんでもない熱量が私を包み込むことで汗が噴き出てくる。
視界が白一色なせいで平衡感覚までぶっ飛びそうだが、幸いその辺はこのいくらかかってるかも知らない高級ボディ(ただし違法)がどうにかしてくれる。とりあえずセンサーで近くに二人がいるのは確認できているので、顔が引きつるのを感じ取りながら声をかけた。
「ねぇローディ、これ本当に大丈夫なの? 眩しすぎてなんも見えないんだけど」
「大丈夫だ、あと3分もすりゃ収まる。それで問題はこれでどれくらいぶち破れるかだな。さすがに壁の1枚は貫通してくれなきゃ困る」
「目が、目が~……何も見えない~……」
「人の後ろで悲鳴上げてるのもいるしできれば早めに済ませてほしいんだけどね……ってこらバカ! 抱きつくな! 胸を揉むのもやめろ!」
「おいそりゃ私に対する嫌味か? ん?」
背後から抱き着かれ、そのままたわわに実った双丘を揉まれる。反射的に甘い声が漏れそうになるのを噛み潰し、片足を上げて背後にいる変態娘のつま先めがけて振り下ろした。
悲鳴を上げながら片足を押さえてぴょんぴょん飛び跳ねる下手人をよそに、徐々に光が収まって視界が平常に戻っていく。ジト目でこちらを見るローディをよそに、私はプラズマ爆弾が炸裂した壁の方へを視線をやった。
「わお、すげい」
「思ったよりも効果は覿面だったな。完全にぶっ貫いてやがる」
先程まで白い壁紙の張られたいたって普通の壁だった場所は、ものの見事に融解してぽっかりと丸い風穴があいていた。……というか、例のユニットを中心にして球状に建材がくりぬかれている。マジか。
アルセナーレと二人してその光景に啞然とする。ローディは冷えて固まった壁の溶断面を撫でながら、
「……これ効率化したらもうちょい威力高めれそうだな」
「これ以上高威力にしてどうするんですかこんな呪物?」
「仮にも人のアイデアを呪物呼ばわりとはいい度胸だスト子」
「誰がスト子じゃ誰が」
「うへぇ、これ実際の現場とかでも使われるような耐熱耐衝撃対腐食の合成強化素材のはずなんですけどね。何をどうしたらこんな綺麗にぶち抜けるんだか……」
至近距離でバチバチとガンを飛ばしあうバカ二人。その横で、アルセナーレは冷えて固まった壁をコンコンと叩きながらドン引きしていた。
……たとえ対象がどんな素材だろうと、こんな球状に何もかも消し飛ばすような危険兵器は確かにどう考えてもヤバいな。私の
『La......♪』
──その声が聞こえたのは、人知れず自己保身を優先する選択をとったまさにその瞬間だった。
違法製造クローンに施された違法改造の数々によって会得した、常人をはるかにしのぐ性能を誇るであろう聴覚をしてようやく『微かに』聞こえるか聞こえないかの音量。
「……うん?」
「どうしたスト子、トイレでも近いのか?」
「張ったおすぞチビ助。じゃなくてですね……今の聞き違いか……? なんかこう、歌……でいいのか今の……?」
「歌ぁ? ついに幻聴でも聞こえ、ってあっぶねぇ! だから無言で殴り掛かるのやめろ!」
「胸があれば当たってたのに……」
「おいこらテメェ喧嘩なら買うぞ?」
「はいはい喧嘩するならよそでやってね。……それで、歌って言ったっけ? どこから聞こえてきてるのそれ?」
「どこからって言われると、そうですね……」
改めてかすかに聞こえる声に耳を澄ます。ええと、これは……?
相当奥地にいるのか、反響に反響を重ねているせいで極端に音源を把握しにくい状態だが、それでも大雑把な位置関係は辛うじて把握できた。どうやら、この迷宮の最奥部らしき部分にそこそこ広めのスペースがあり、そこから聞こえてくるようだ。
「キッショ、蝙蝠かよお前」
「はいそこ、うるさい。それで、どうやって突っ切る?」
「──せぇっ!!」
気合一発壁に右拳を叩き込む。ガコンッ!! と轟音が響き、硬質な感触とビリビリとした痛みが右手に走った。
手を離すと、壁には拳の跡がはっきりと残っていた。……これを100回くらいやれば壁はぶち抜けそうだけど、多分その前に普通に私の手が駄目になるなこれ。
「いってて……確かに素手じゃ無理そうですねコレ」
「いや、普通ならそんな跡すらつかないはずなんだけど……いや、えぇー……」
「正体現したな? プラズマボムまで使ってようやくくり抜けるインチキ素材にそんな跡付けるとか、やっぱりお前はゴリラの系譜だよ」
「やかましや。……っていうかそうだ、本体の位置が把握できてるんだから経路も把握できるじゃん」
「「確かに?」」
揃ってポンと手を叩く残りの2人。バカしかいないのかこのグループは?
ともあれ、もう一回NYTO聴覚をフル活用して経路を把握することにする。えーと、そこを左ここが右、くるっと回って一着のポーズ……。
「……よーっし、
「ねえローディ、あれ大丈夫だと思う?」
「大丈夫じゃなくても従うしかないだろ、私達じゃ道分かんねぇんだから」
「うーん……」
「さあザーボンさん、ドドリアさん! ぶつぶつ言ってないでさっさと行きますよ!」
「誰がザーボンだ誰が、いってぇ!?」
「それ暗に私がドドリアって言ってるよねローディ? ぶっ飛ばすよ?」
「なんでお前ら揃いも揃って殴ってから言うんだよ! 頭が割れたらどうしてくれんだ!」
ガツン、と躊躇なくぶん殴られ、涙目で抗議するローディ。……全体的に荒っぽくなってる気がするな、おどけてはいるけど内心怒りのボルテージが全員揃ってまあまあ上がっていそうだ。とっとと出口まで行くとしよう。
そう思って一歩踏み出した矢先、目の前でガコン! と音を立てて見慣れた砲台が展開された。
「またガトリングか!」
舌打ちして一歩前に出る。私とローディは偏向障壁があるから別に構わないが、一般鉄血ハイエンドのアルセナーレはそうもいかない。もしかしたらフォースフィールドくらいは搭載してるかもしれないが、ここまでの道中で一回も使用してないあたりそういうのはないとみていいだろう。となれば、私かローディが盾になるしかないじゃない。
そう思った次の瞬間、バゴン!! と今までの比じゃない轟音が鳴り響き、すぐ目の前で偏向障壁に受け止められた弾丸が停止した。
目を丸くする私の視線の先で、いったいどれだけの速度でぶっ放されたのやら、赤熱を通り越して半ば融解した鉛の塊が地面に落下してべちゃりと湿っぽい音を立てる。わずかにではあるが確実に入っていた偏向障壁のひび割れが、パキパキと硬質な音を立てて修復されていく。
たらりと冷や汗を流す私の目の前で、今まさに発砲したと思しき煙をたなびかせたガトリングがモーター音を響かせながらおもむろに回転し始める。
決断は一瞬だった。
「とっ、突撃ーっ!!!」
鉛の暴風雨が吹き荒れる直前に床を蹴り上げ、根性で久方ぶりのトップスピードに到達。そのまま体を倒し、スライディングの体勢でガトリングの下を滑りぬけていく。
ワンテンポ遅れて、アルセナーレがローディを抱えて盾代わりにしながら強行突破を試みたが、そこへ今までとはどう考えても異なる発射音を伴った銃弾の雨あられが降り注いだ。なんかバチバチしてるし、もしかしてこれリニアか!?
「あででででで! 当たる! 当たってる! 野郎偏向障壁ぶち抜いて当ててきてやがる!?」
「しばらく我慢して! こんなの浴びたらひとたまりもなく蜂の巣になっちゃうよ私ぃ!」
非NYTO用の偏向障壁の出力では相殺しきれていないのか、バシバシとローディの柔肌を鉛の雨が打ち付ける。それでも十分減衰できているほうだろう、普通なら有無を言わさずスクラップにされていた。
手元のUZIで私そっちのけに二人を撃ちまくるガトリングの基部を撃ち砕いて黙らせる。
「単純な速度の暴力で偏向障壁ぶち抜きにかかるとか正気……!? こうなったら四の五の言ってられない、道はわかるから最短距離で突っ走るよ!」
「お前に同意するのは業腹だが仕方ねぇ! おいアルセナーレ、ヤバそうだと思ったらそっちのメロン峠盾にしとけ! NYTOサマの偏向障壁は私のよりかは頑丈だろうからな!」
「誰がメロン峠だ誰が!」
ほんのわずかとはいえNYTO用の偏向障壁に一発で傷をつける代物をガトリングの発射レートでバラまかれたらいくらなんでも耐えられるわけがないので、壁や天井、果ては床から飛び出した無数の砲台に片っ端から銃弾をぶち込み、踏み砕き、果ては強引に引きちぎってそれで別の砲台をぶん殴って破壊することで片っ端から黙らせていく。
別に脅威はガトリングだけと言う訳では全然ないので、その合間合間を縫ってしれっと投げ込まれるグレネードだったりさも当然のようにセットされているワイヤートラップだったりを無力化したり障壁で受けながらトップスピードで突き進む。
いよいよ目的地は目の前だ、はてさて鬼が出るか蛇が出るか……あっぶね、ジョイントマットに紛れて地雷おいてあんじゃん。踏むところだった。