──トガガガッ! バスッバスッ! ドゴッ、バキンッ!!
放棄された前線基地のもとで、銃声と破壊音が立て続けに響き渡る。
片や、鉄血工造の誇るハイエンドモデル『ジャッジ』。優秀な機動力と射速・命中に秀でた二門の銃口で相手を始末する審問官。片や、パラデウスが新たに生み出した最上級NYTO『ストレリツィア』。精神の問題で戦闘技術には粗が目立つものの、それを補って余りある躯体性能を誇るサイボーグ。
そんな彼女たちは、互いに相手を殺そうとしながら全く同じことを考えていた。
((──硬ってぇなコイツ!!))
……私には偏向障壁があり、相手にはフォースフィールドがある。性能の差こそあれど、どちらも敵の攻撃を無効化するには申し分ない性能だ。まあつまり、互いに敵の防御をぶち抜けない武器を使ってる時点でこうなるのは目に見えてたわけで……。
お互いに攻め手を欠いた、悪い意味での膠着状態。多分相手もその事実には気付いているだろうが、私があいつの部下を皆殺しにした以上意地が邪魔をして退けないのだろう。下手な人間よりもよほど『らしい』考え方だ。
「チィッ! 埒が明かんな、これは」
「同感だね! アンタのフォースフィールドが消滅するか私の偏向障壁が焼き切れるか、地獄の意地の張り合いだよ」
「貴様が諦めて死んでくれれば早いんだがな?」
「ハハッ、またまたぁ。私がそんなタマじゃないって相手してるアンタが一番わかってるでしょ?」
「業腹だがその通りだ、なぁッ!!」
何度目かもわからない飛び蹴りが偏向障壁によって弾かれ、嫌がらせのようにパルスシールドをバラまいてまた距離をとる。このシールドエリア面倒なんだよな……相性の問題なのか偏向障壁じゃ防げないし、エリアに巻き込まれると体がビリビリする。とはいえ、影響としてはその程度で躯体にダメージが入るほどでもない。体の大半が生身ってのも大きいだろうな、自律人形とかならこうはいかなかったかもしれない。
ともあれ、どうしたものか。さっきから遠慮なくバカスカ撃ちまくってはいるけど、弾丸だって有限だ。っていうか補充のめども立ってないのにこれ以上浪費を重ねると流石にまずい……あの謎メカの中に予備の弾薬が残っているといいんだけど、期待しすぎないほうがいいだろう。
と、いうわけで。カチッ、とおもむろにライフルのセレクターを入れ替える。セミオートからフルオート、バースト、レーザー……最後尾のプラズマに。ガシャガシャと大掛かりな音を立ててライフルが変形し、チャンバーから銃弾が排出されたかと思えば、かわりに励起ユニットが内部にセットされた。なるほど、こういう仕組みか。
目にもとまらぬ速さで駆け回るジャッジに照準を合わせ、引き金を引く──特徴的な音ともに青紫色の閃光がそれなりの速度で放たれ、危険を察知して急ブレーキをかけたジャッジの目の前で炸裂。プラズマの爆風を撒き散らす。
「なるほどね、だいたい分かった。じゃ、続けようか♪」
「面制圧のつもりか! 小癪!」
これは細かく狙いを付けないほうがいいな。両手でライフルを保持し、体ごと銃口を振り回す……視界に黒い影が映り次第即座に引き金を引く、プラズマ炸裂の雨あられでの強引な制圧行動だ。原理はわからないが、連射してもオーバーヒートするくらいで弾薬の類を消費している気配がない。これは超便利なんじゃないか? とか一瞬思ったけど……これアレか、この励起ユニットが弾薬の代わりなのか? コレ一つで何発撃てるかは知らないけど、まあこいつも撃ちすぎはNGかなぁ。
脳内でパチパチとそろばんをはじきながらも、ジャッジを追尾する視線と銃口の動きは緩めない。弾が有限なのは相手も同じだ、現に最初の方はフルオートで乱射していたのに今となっては時折牽制で発砲するくらいでほとんど肉弾戦に持ち込もうとしてきている。偏向障壁がクロスコンバットにどこまで有効かはわからない以上、ここでプラズマ弾薬の接近拒否性能が光るわけだ。紫電の爆風がマジでありがたい。
それにしても不毛だ、マジで不毛だ。泥仕合ほど精神を削り取るものはない。見れば、徐々に東の空が微かにだが白んできている……え、ってことは私コイツとざっと6時間はこんな不毛な争いしてんの? 噓でしょ?
気付きたくなかったその事実に、ピキッ、と青筋が走る。ガシャッ、と銃口を上げ、セレクターの向きを変更。設定はレーザーとプラズマ……の、
さらに、とライフル側面からしゅるりと伸びたエネルギーチューブが服の中に入り込み、私の体に設けられたサーキットコネクタに接続された。どこにコネクタがあるかは内緒だ。
「ああもうまだるっこしい! こんなことならハナっから最大火力で終わらせたほうがよかった!!」
もう残弾の節約なんて考えてられっか! 手持ちの最大火力で目の前のドチビをぶち殺ーす!
私の心臓兼ジェネレータもまあずいぶんといいものを使っているらしく、見る見るうちにライフルにエネルギーが充填されていく。銃口に収束する光がどんどんと大きくド派手になっていき、尋常な事態ではないと認識したジャッジの攻勢がさらに苛烈なものになる。もはや恥も外聞もないフルトリガーに飛び蹴りの乱舞、パルスシールドユニットの雨あられだ。だが、そのいずれも私の偏向障壁を貫くには至らない。唯一パルスシールドだけは障壁を潜り抜けてきているが、そもそも素の威力が銃弾などとは比べるべくもないので目立った問題にはなっていない。
──チャージ完了、火器管制シークエンス最適化率100%、照準補正もエネルギー管理も全部オフ! 倒れるときは前のめり、全部まとめて火力に回せ!
ジャッジが全速力で妨害せんと駆け出す──だが、もう遅いっ!
「貴様──!」
「くたばれ必殺『クラッシュヴァンキッシュ』、撃ちー方はじめーっ!!」
カッ!! と銃口から眩いプラズマとレーザーの奔流が吹き荒れ、辺り一面を青白く染め上げる。すさまじいまでの反動を膂力に物を言わせて全て受けきり、力任せにライフルを横薙ぎにぶん回した。
泡を食ったジャッジが間一髪でそれを避けるが、別に今のであいつを食えなくてもそれはそれで問題ない。本命はこっちだ……!!
ぐるりと踊るように一回転。マルチエネルギーの閃光は前線基地の建屋そのものを斜めに寸断し、天高くへと飛び去っていく。効果は覿面、鉄筋コンクリート造りのがっしりしたビルが粉塵とともに崩壊し、断面を滑り落ちるようにしてズレ始める──私たちのいる方向に。
すかさず地面にもう一発撃ち込み、風穴を開けることで退路を作ろうとするが……地面に銃口を向けたタイミングで、バシュウ、とライフルの銃身が展開し、大量の蒸気を勢いよく放出する。……これは……オーバーヒートじゃな? そりゃあんなゴツいもん撃てばそうもなるか。
瓦礫の豪雨から障壁で身を守りながら、私は驚愕で表情を歪めるジャッジに笑顔でひらひらと手を振った。
「お前、まさか──!」
「ハァイジャッジィ、ご自慢のシールドの耐久試験と洒落込もうか!!」
正直ライフルがオーバーヒートしたのは計算が甘かったが、それでも偏向障壁さえあればなんとか耐えられるだろう。っていうか、重火砲クラスの一撃がないと砕けないって話なのに建物の残骸程度で割れられても大いに困る。
そして、ガラガラと音を立てて建物の上半分がついに断面から放り出され、重力に従ってこちらめがけて一直線に降ってきた。
それが障壁に接触する刹那、「パソコンとあの謎メカくらいはちゃんと避難させとくんだったな」と少しだけ後悔して──衝撃。
すさまじいまでの轟音と粉塵が五感を塗りつぶすまで、そう時間はかからなかった。
──
「っぶはぁ!」
バコンッ! と頭上で存在感を主張していた大量の瓦礫を吹っ飛ばし、青空の下に躍り出る。偏向障壁のおかげで仮にも建物の崩落に巻き込まれたとは思えないほどダメージは少ないが、どうやら攻撃としてみなされなかったらしい粉塵の方は全身で堪能する羽目になってしまった。おかげで全身がまんべんなくすすけてしまった。うあぁ、外も空気が埃っぽい。
「けほっぇほっ……あー、ひどい目に遭った……」
咳き込みながらもしばらくぼんやりと青空を眺める。空はあんなに青いのに、とはよく言ったものだけど、今やあの大空は近づいたもの全てを崩壊液の暴威によって殺しにかかる死の領域だ。手を伸ばしても届かない場所だが、今となってはそのほうが幸せなのだろう。人類が再び宇宙に進出出来るようになるまでいったいどれだけかかる事やら……。
ひとしきりセンチメンタルな気分に浸った後、ずるりと瓦礫の中から体を引っこ抜く。クラッシュ症候群とかがちょっと怖い脱出方法ではあるが、特に怪我自体はしていないし大丈夫だろう。……多分。このNYTOボディを信じろ。
伸びをしてぐいっと体を反らす。大きさに反して形のいい胸がぶるんと揺れ、ぐぐっとローブを持ち上げる。ぴったりフィットするような作りにはなってるけど、さすがにこんな動きをすると少しきついな……世の女性ってのはこういう些細な動作にも困ってるのか。ま、今となっては私もその女性の一員ではあるのだけれども。女体ってのはなるものじゃなくて見るものってのが今までだったんだけどな。
一通り体を動かしてすっきりしてから、足元の瓦礫に手をかけてその辺に放り投げ、装備品を掘りだしていく。ライフルも謎メカも比較的大型であることが幸いしてすぐに見つかった。ただ、謎メカの方は脚部がイカれた様で、タイヤとキャタピラでしか動くことができなくなっているみたい。まあ生きてる脚部があるならひとまず問題はないけど、壊れた個所を軽く検分してため息をつく。
「うーん、どっかで一度本腰入れてオーバーホールしないとかなぁ」
……といっても手元には機材がない。道具のある自宅も10年前から放置されてるとなれば失踪扱いでとうの昔に取り壊すなりなんなりされてるだろうし、そもここがどこかすら相当あいまいだ。新ソのどっかなことは確実だろうけども、うーん……。
……となると、選択肢としては……。
「……とりあえず人がいる場所を探すか。普通の市街地とかだとどうせ検問みたいなのがあるだろうし、狙い目はスラムかなぁ」
この10年でどうなったかはわからないけど、少なくとも当時、スラムってのは珍しいものではなかった。っていうか私が元居た町もスラムに片足突っ込んでるような有様だったし。
……中国を発端とする超大規模コーラップス汚染によって居住可能区域が大きく削り取られた今、地上にあぶれ者が寄せ集まるだけのスペースは基本的にない。ないんだけど、まあそこはそれ。人類っていうのは当人たちが思っている以上にしぶとい生命体だ──廃都市はもちろん、下水道、果ては何もない荒野でも。居住できそうな場所を見つければ、総力を挙げて最低限の生活ができる環境を作り上げてしまう。そこに私も入り込んで居座るっていう寸法だ。生活費に関してはまあ、適当に傭兵稼業なり元々やってた整備工を始めれば何とでもなるだろう。
さて、そうと決まれば……の、前に。
「おなかへった」
ぐきゅるるる、と元気に騒ぐ腹を片手で押さえる。
謎メカ──いい加減この呼び方もあれだな──改め自律ユニットに指示を飛ばし、エナジーバーを出させる。相変わらず最悪としか言いようのない味だが、何もないよりかは幾分マシだ。
………そういえばあのジャッジ、なんでこんなところで部隊を率いてたんだろうか? 人間からの制御を無視して暴走してるという事は鉄血工造の自立人形間で何かしらのヒエラルキーが構築されてるのは想像に難くないし、それであれば自身の開発コンセプトに沿った行動をするのは想像に難くない。じゃああの防衛線特化モデルは何のためにここにいた? ……アレが守っているものってのは一体なんだ?
思考の海に潜りかけたところでハッと我に返る。そんなこと考えたってどうしようもない、とりあえず目先の事を考えよう──食べ終わったエナジーバーの袋をその辺に放り捨て、地面に置いていた大型ライフルを拾い上げる。
「さぁて、行くとしますかね。目標、私の忍び込む余地がありそうなスラム! いざ行かん!」
さすがに村とかは潜む余地がないし、後々の事も考えるなら『町』ではなく『街』を見つけておきたいところだ。規模はデカければデカいほど隙も大きくなるからな、私という異物を一つ丸ごとねじ込んでもバレない、あるいは問題が起きないような場所に行く必要がある。
ともあれ、さっさと出発しよう。ジャッジの奴は瓦礫の下に埋め込んだけど、腐ってもハイエンド──この程度で機能停止するとはあんまり思えない。ならまあ、あいつが瓦礫の下で大人しくしているうちにさっさと逃げるが勝ちだろう。
さて、近くに私のお目に適うような居住区はないかなーっと。
リメイク前は3話目だけどういうわけかタイトルの数字が全角でした