パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

4 / 19
NYTOの4人目

あれからどしたの。

 

「全ッ然ねぇじゃねぇかよ! どんな辺境に人の事放逐しやがったあのクソ野郎!??」

 

……まさか1ヶ月近く歩き通しで何もないとは思わなんだ……。

どこを見ても荒野荒野ときどき廃墟荒野荒野荒野まれに河川。今は比較的環境の安定した平原を歩いているが、それもいつまで続くやら……。もはやあのクソマズ拷問エナジーバーの在庫も底を突いた。早いところどこか町を見つけなければ、私はシナシナの干物として2度目の生涯を終えることになるだろう……最悪だ。

土地勘も実感もあてどもない旅を半ば以上ヤケクソで続けているが、一つだけ心に決めたことがある。それすなわち──ウィリアム許すまじ。どういう意図かは知らんがこんな田舎を極めたような場所に人の事放り捨てやがって、これが私じゃなかったら叛逆してる所だぞ。その私も正直な話割ともう限界が近い。てか意図を話せ、マジで。

勝手に人の体を改造したのでワンアウト。事情をこれっぽっちも説明してないのでツーアウト。そして今回の辺境放逐でスリーアウトだ──むしろよく許せてるな、私も。あのクソみたいな住環境から意図がどうあれ救い出してくれたことでワンストライク分の寛容さはあるが、それでも普通ならキレてる。てかなんだったら野宿ばっかしてるせいでむしろ住環境悪化してるし。……あれ、スリーアウトチェンジでは? あの野郎ぶっ殺してやる。

 

「マージでおうち帰りたい……ここどこ……ウィリアムの野郎絶対許さねぇ……」

 

泣き言を吐きながらも足は止めない。発言と行動を分割するのはお茶の子さいさいだ──これもまぁ、工場勤めの時に習得したスキルだけども。なんで業務内容に関係ないスキルばっか身につくんだあの職場。いやまぁ、それもこれもいつ何時どんな作業中であれ上司に話しかけられたら絶対に返事をしろとか言うカスみたいなルールを作ったカスのボブとか言うカスが十割がた原因なんだろうけどさ。せっかくだしアイツも抹殺対象に入れとくか……どうせ立場上は人類の敵なんだし、一人くらい始末しても許されるっしょ。私が手を下すまでもなくもうどこかでくたばってるかもしれないけど。

ぐぎゅるるる、と今までの比ではないくらい腹の虫が騒ぎ立てる。今まで何とかだましだまし水で持たせてきたが、いよいよ限界が近づいてきたようだ。現実とはかくも無情なものなのか……。

 

「──ん?」

 

ふと立ち止まり、目を凝らす。

若干の霧に覆われてよろしくない視界に重ねて、強化改造されたNYTOの体に無理をさせてようやく見えるか見えないかといった距離──そこに、四角い影のようなものがいくつも連なって見えた。

しばらくそれを目を細くして眺めて、パチパチと瞬きする。ぐしぐしと目元をこすって改めて見てみても、それが消える様子はない。少なくとも空腹からくる幻覚とかではなさそうだ。

 

「建物かな、あれ?」

 

廃墟かどうかは距離があり過ぎるせいでうまく判別できないが、少なくとも今まで見てきた建物とは名ばかりの瓦礫の山よりかはよほどきれいな形をしている……様に、見える。それに見た感じ地面近くには壁みたいなものも建築してあるし、今度こそどうだ?

もうこの際贅沢は言わないから雨風しのげる環境になるだけでも十分ありがたいや。そんな後ろ向きな期待を抱いて足を踏み出そうとしたその時、ピコン、と躯体に搭載されたセンサーが何かの反応を検出する。これは……動体反応が複数? 場所は……え、すぐ右?

言われるがままに右を見ると、手に持ったライフルを今まさに私めがけて発砲しようとしていた自律人形と目が合った。

 

「あぇっ?」

 

気の抜けた声が私の口からこぼれると同時、その銃口が煌めく。条件反射でもって全力で首を横に振れば、チュインッ! と耳のすぐ横を銃弾がかすめていった。回避間に合ってなかったらヘッドショットでお陀仏だったな、と思考するよりも早く、偏向障壁を即時展開する。もはやこの作業にも慣れたもので、コンディション最悪の今でも展開には0.5秒とかからない。

それでアイツらは……整備工時代に何回か見たことがあるな、確か名前はイェーガーだったか。鉄血工造の傑作、他のタイプと比べても壊れにくいと評判だった奴だ……多分こいつが特別頑丈とかそういう訳じゃなくて、スナイパーな性質上動き回ることが少ないからその分長持ちしたんだろうなーとは思うが。

ともあれ、その傑作が徒党を組んで私の前に立ちはだかっているわけでして。

 

「もう、こっちも限界が近いってのに……!」

 

舌打ちしながらスリングで背負っていた大型ライフルを引っ掴む。残弾は……実弾の方はワンショットワンキルでギリギリ持つって感じか。レーザーならまだ多少余裕があるしそっちだな。

前線基地跡を盛大に吹き飛ばした時以来ずっとマルチエネルギーのままだったライフルのセレクターを弄れば、ガシャコン、とほぼスッカラカンのプラズマ励起ユニットが排出され、チャンバー内がレーザー発振器のみの状態になる。とりあえずこれで撃てる状態にはなったかな。

こんな奴ら何匹ぶち殺しても腹の足しにもなりはしないっていうのに出るわ出るわわらわらと……。確か鉄血工造の設備類って軒並み最上級AIに接収されたらしいから、生産ラインをそっくりそのまま流用してるのだろう。面倒な!

さてさて……とこちらに向けてパンパカ撃ってきてる連中をぶちのめす算段をつけはじめた、まさにその時だった。

──チュインッ!

 

「ヴぁっ!!?」

 

今度はすぐ足元に銃弾が着弾し、土ぼこりを立てる。驚きの余りその場でピョンと10cmほど浮き上がった私は半ばパニック状態で辺りを見回す。

荒野の一角に迷彩塗装によって巧妙に擬態した四脚──なんかあちこち変わってるせいで微妙にわかりにくいけどプラウラーか?──の群れが陣取っているの光景が目に飛び込んできた。向こうも私に発見されたのを察知してか、ガシャガシャと一斉に体を起こして発砲しながらこちらに向かってくる。その中心部にはアンテナの生えた大型のバックパックを背負ったヴェスピドが陣取っていた──こっちの集団だけセンサーに引っかからなかったのはあいつが原因か!

そこで私はようやく思い至った──連中が何を目的にしてるのかは知らないが、それにしたってライフルだけで徒党組んで動くか、普通? そりゃ護衛の一つや二ついてもおかしくないだろうっての。

我ながらアホさにげんなりするが、そうしている間にも偏向障壁にガンガン弾は当たってきている。まあ破られることはないだろうけど、シンプルに鬱陶しい。

 

「……あ、そうだ」

 

わざわざこんなところに潜んでるからには十中八九狙いは目前の推定居住区域だろう。偶然私が通りかからなければこのまま潜入するなり襲撃するなりなんなりしていたに違いない。

という事はつまり?

その時、NYTOに電流走る──短絡的かつ合理的で画期的なアイデアが浮かんだのだ。見る人が見れば、私の頭上に浮かんだ豆電球が過電流によって四散五裂する光景が見えただろう。

 

「……ぶち殺してスコアに変えれば、あそこに大義名分と一緒に入り込める……?」

 

つまるところ、こいつらの首持って恩を売りに行けばあの町に安全に棲みつけるのでは? まあ、あそこが本当に居住区ならの話だけど。

そう考えるとあら不思議、視線の先でこっちをねめつけてくる鉄血人形の群れがふかふか布団や温かいお風呂、美味しいごはんに見えてきて……見えてきて……?

 

「……って危ない変な幻覚見えてた!」

 

危うくトリップしかけたところで頭を振って正気に戻る。そして、手に持ったライフルの感触を確かめた──さて、やるか。

ドンッ!! と地面を踏みしめる。衝撃で土煙が立ち、私の体は一瞬にしてトップスピードに到達した。

前方から押し寄せてくる猛烈な風圧。ビルの倒壊に巻き込まれた時とはまた異なる前からの圧迫感に、感嘆の声が洩れる。

 

「はっや、マジか」

 

ほとんど周りを動き回る相手を迎撃するだけだったためにジャッジ戦でもついぞ出すことのなかったスピード。それをもって、イェーガーの集団めがけて一直線に突き進む。

ガチャガチャガチャッ! と一斉にこちらに銃口を向けたかと思えば問答無用で撃ってくるが、その全てを偏向障壁の圧力によって強引に受けきる。私に傷をつけたくばレールキャノンでも持ってくるんだな。

 

「まず一発……!」

 

集団の前方、私から一番近いところにいるイェーガーへ銃口を向け、引き金を引く。銃口からプラズマよりかは控えめな一条の白い閃光が迸り、その体のド真ん中を貫いた。さらには、そのまま貫通してその後ろに陣取っていた後続をも巻き込んで被害を与えていく。しかし被害を受けなかった残りのイェーガーは動揺することなく、冷徹にこちらへと狙いを定め続ける。

その銃口が煌いた瞬間、ひときわ強く地面を蹴った。NYTOとして強化改造された膂力で以て、私は重力の軛を強引にねじ伏せる……!

一瞬にして宙に浮いた私の足元を、無数の銃弾が空を割く軌跡とともに通り過ぎていく。その直後、腹の中身が浮き上がるような気味の悪い浮遊感とともに私の体が降下し始めた。徐々に地面に近づいていく視界の中で、大型ライフルを構えて狙いを定める。

 

「アンタらに恨みはないが、ここで死んでもらう……! 人類の敵だってんだし、私が売る用の恩になってもらおうか!」

 

カチカチカチッ、と細かに引き金を引く。無数の光条が放たれ、その射線上にいた目標を例外なく串刺しにしていく。トリガーひきっぱだとチャージ始めちゃうし、レーザーのバーストも欲しいんだけどなぁ。

そのまま、重力に従って着地。足元に立っていた不幸な自律人形を踏みつぶし、ここぞとばかりにチャージしたレーザーで薙ぎ払う。度重なる連射とチャージショットによってオーバーヒートし、銃身が展開して排熱モードに入る。

それを見た私は、足元に落ちていた元はイェーガーのものだったライフルを蹴り上げ、空いているほうの手で引っ掴んだ。

 

「ちょっと拝借」

 

適当に近くにいた生き残りに狙いを定め、発射。目標の体に寸分たがわず命中し、その躯体を大きく傷つけた……火力ひっくいな。いやまあ一山いくらの量産品ならこんなものか? それとも当たり所の問題?

……どちらにせよ、これなら殴ったほうが早そうだな。

胴体に銃弾を受けたことでたたらを踏んで姿勢を崩したイェーガーに肉薄し、今しがた撃った鉄血ライフルを振りかぶる。バイザー越しに視線が合った瞬間、その顔面にライフルの銃身がめり込んだ。ゴシャッ!! という鈍い音ともにライフルと自律人形の破片が飛び散り、頭をかち割られたイェーガーがその場に崩れ落ちる。ビチャッと体に返り血……もとい返りオイルが飛び散るが、気にせずにその手に持っていたライフルをもぎ取った。

 

「うん、やっぱしこっちのほうが早いし効率的だ」

 

弾薬の節約にもなるし。

手当たり次第次々に銃を奪っては撲殺、また奪って殴殺を繰り返す。……手っ取り早いは手っ取り早いんだけど、はたから見た絵面は多分最悪なんだろうな。とはいえそんな外部からの評価なんていちいち気にしてらんない。

最後の一体の頭を砕く。これでイェーガー隊は全滅だ。服もオイルでドロドロだよ、どこかで洗浄したい。

 

「はいお疲れっ」

 

そんな言葉が口から洩れる。さて、あと残ったのはプラウラーの集団とあの妨害アンテナおっ立てたヴェスピドか。

イェーガーを殴り殺したことですっかりひしゃげてしまった鉄血ライフルを適当に投擲し、冷却の済んだ大型ライフルを構えなおす。さて、イェーガーでも抜けなかった偏向障壁があいつらに抜けるとも思えないし手っ取り早く済ませるとしようか。

 

「そーれっ」

 

パスパスと近づいてくる相手を狙い撃ちにする。プラウラーなんて基本的に偵察ドローンみたいなものだし、ステルスの補助があるとはいえこちらから視認できているとなればデカい遅い脆いの三拍子揃ったただの的だ。唯一ヴェスピドが人間型なのもあって多少足が速いが、一番前に出て先行し始めた段階で即座に額を打ち抜いて黙らせたのでもはや敵なし。

そうして、ガシャン、と最後の自律人形の残骸が地面に落ちる。異変を感知したのは、敵部隊が全滅したのを確認した直後だった。

 

「あ、やっべ……」

 

目が回る。体に力が入らない……もはや膝をつくことすらもできずにどさりと地面に倒れ込んでしまった。流石にもう、限界か……。

ここが私の終わりというわけか……出来ればこんな所で野垂れ死ぬ前に、ウィリアムのクソ野郎を一発ぶん殴りたかった、な……。

視界が暗転する……躯体内残存エネルギー危険値に到達、強制シャットダウンを実行……無念……。

 

「……きゅう」

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、もしかして人? あなた大丈夫? ……大丈夫じゃなさそうね、ちょっと運ぶわよ!」

 

「って、全身オイルでドロッドロじゃない……もしかしてこの辺にいるガラクタ連中ってこいつがやったの? ……まあいいわ、あとでゆっくり聞くから」

 

「せーのっ……おっもい! この重さは人じゃないわね……! ソル、聞こえる? "新入り"よ、行き倒れの人形を拾ったわ……運び込むから適当に誰かよこして! こいつ重すぎて私一人じゃ持ち物の面倒までは見れない! この胸のサイズだけじゃ説明つかない、体の中に何詰め込んでるのよ、こいつ?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。