パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの7人目

臨時基地に戻ってから。

 

手に持ったタブレット端末を手慣れた様子で操作しながら、サブリナはなにやら大量に表示されたファイル群をスクロールして流し見していく。

 

「そうね、まずはこれかしら。違法カジノへの潜入調査任務」

「あんたさっき自分で言った『初心者でもできる』って文言忘れた???」

「冗談よ。とっくに貴女の仲間が喜び勇んでやってるわ」

「……シャルロッテさんかぁ……」

「……アレを仲間とは正直思いたくないんだけど……」

 

開口一番明らかに高難易度であろう任務を押し付けようとするロクでもない上司にキルスティンが半眼で言う。私と感性が似ているのか、だいたい私が思っているのをズバッと言ってくれるのはありがたい。ありがたいんだけど、さすがにここまで意見が一致すると心を読まれてる疑惑がちょっと……。

しかし、見た感じいい人そうなこの二人にそこまで嫌な顔をされるシャルロッテ何某とはいったい何者なのだろうか。この基地の特性から考えると自律人形なのは間違いないし、キルスティンとシンシアの反応を見るに、おそらくは同じ小隊の人なんだろうけど。

こてんと首をかしげながら問いかける。

 

「……違法カジノの潜入調査っていうのは?」

「ここが3つの勢力によって統治されてるってのはさっき言ったでしょ? これはそのうちの一つ、歓楽魔都"プレジャーナル"からの依頼よ」

「なんかもう名前からして嫌な予感しかしないんですが」

 

エロゲーでもなかなか聞かないような単語に思わず耳を疑う。なんだよ歓楽魔都って。名前聞いただけで分かる、絶対その勢力は世紀末三権分立のSEX担当だ。

そんなことを思いながらも、つらつらと述べられる依頼内容に耳を傾ける。

 

「3大勢力って言っても基本的に一枚岩なところはどこにもない。だから、まあ国に対する州議会、市役所って感じで統治用の下位組織がいくつも設けられてる……依頼人はある区画を統治する連中のひとつ、中の下くらいの所よ。ま、要するに木端が調子に乗って幅を利かせ始めたから、変に騒ぎ立てられる前に目障りなそいつを違法ってことにして潰そうって魂胆ね」

「それつまり依頼してる側も違法ってことでは……」

「知ってる? こういうのは先に足がついた方が負けなのよ」

「さいですか……」

 

いくら外面がよくともその実水面下では殺し殺される潰し合いが繰り広げられているらしい。これで見た目は他の区域と変わらない法治形態を維持できてるんだから大したものだ……あるいは、ヤバいものを無数に内包しているからこそ外面を取り繕うのが他の区域よりもずっと上手なのか。

とはいえ、明らかに私がやるようなものでもないしなんならもう既にほかの人が遂行中の依頼に首を突っ込む気はない。

 

「……なんかよさそうなのってないんですか?」

「他に? そうねぇ、地下下水道で異常繫殖した巨大虫型生物の駆除とか、怒涛の量で徒党組んで輸送路を遮断してるELIDの撃滅とか──」

「あら、ELID撃滅とかいいんじゃない? しょせん雑魚の寄せ集めだから火力あるなら楽だし、どいつもこいつもELIDの脅威度を過剰にカウントアップしてるせいで実入りもそこそこいいわよ。今なら初回特典でサポートメンバーも二人付くし」

「……え、もしかして私も?」

「当然じゃない。色情魔のシャルロッテは今頃カジノとは名ばかりのヤリ部屋で嬉々として腰振ってるところだろうし、ソルフェージュはあんた呼んだ後すぐ寝たし。ローディは……呼べば来るかもしれないわね。呼ぶ?」

「……分け前が減るからいいです」

「あんたも大概欲深いわね……」

 

躊躇なく戦力よりも自分の収入を優先したシンシアに呆れるキルスティン。金は命より重いなんて考えのタイプなのか、ELID程度歯牙にもかけない実力者だから少人数で稼いだほうが実入りがいいと考えたのか……なんとなくだけど前者な気配がするなぁ。

ともあれ、その道のプロが二人も付いてくれるならこんなにありがたいことはない──サブリナに言ってELID撃滅を受注する。

 

「さて、それじゃあブリーフィングを流すわよ。3番の部屋に入って適当に座って待ってて」

 

彼女はそれだけ言って脇のバックヤードに入っていった。突っ立っていてもしょうがないので、その言葉に従って③と壁に書かれた個室に入る。

──中はいわゆるカラオケとかそんな感じの作りで、3面モニターと一脚のテーブル、その周りを囲むようにソファが配置されている。おそらくメイン使いは真ん中のモニターで、資料とかがあれば都度左右のモニターに投影して情報を送るんだろう。

ブン、と音を立てて液晶に光が灯る。そして、真正面に精悍な顔立ちをしたヒゲ面のおっさんが映し出された。……傍からみれば、タクティカルゲームとかでたまに見る通信相手が表示される描写みたいな感じだな。こういうの、嫌いじゃない。

おっさんはパチパチと瞬きをした後、ゴホン、と咳ばらいを一回。そして、口を開いた。

 

『独立傭兵の諸君!! これはカノネード・ヘヴィーインダストリアルの系列にある企業、グレナディアル・ファクトリーからの公示だ!!』

「うわうるっさ」

「……どこの依頼かと思えば、グレ公また公示出したのね」

「よ、よく飽きないですよね……?」

 

二人の口ぶりを見るに、この企業……グレナディアルとやらが不特定多数の傭兵に向けたばらまき依頼を出すのはこれが初めてではないらしい。

ともあれさっきまで口を酸っぱくして人の話は聞くよう教え込まれたので、モニターに視線を向けたままその発言に注視する。

 

『我々、正確に言えば企業群に対する敵対勢力として方々でテロ工作を働いているカルト教団、通称「パラデウス」が輸送路付近に複数の陣地を構築したとの情報が入った!』

「ぶふっ!!」

「わっ」

「急にどうしたの」

「い、いえなんでも……」

 

思わず吹き出してしまう。クソ親父ィ! 秒速で足がつくようなことしてんじゃねぇよ!!

心配するシンシアとキルスティンをごまかし、改めて視線をモニターにやる。どうやら資料が展開された様で、左のモニターに光点で示された都市とそれらを結ぶ矢印が表示されていた。そして、そのうちの一本にバツ印が書き足される。

 

『輸送路自体は他にもまだ残っている、従って一本潰された程度であればさしたる痛手ではない。だが、企業に対して明確に反抗的な態度をとった、その一点において我々には懲罰の理由たりえる! ──野心ある傭兵の諸君! 当該区域に展開したパラデウスの防御陣地をすべて破壊せよ!』

「相変わらずプライドが高いわね、企業ってのは」

「ま、まあ事によってはマフィア以上にメンツの重要な組織ですし……」

「その割には私たちがいくつ下位組織潰しても特に報復が来る気配もないわよね。切り捨てても痛くないと踏んでるのか、それともただのプライドだけの木偶の坊なのか──」

『我々は連中の自律人形の撃破にも追加報酬を設定した。いい機会だ、敵方の戦力を可能な限り削いでもらおう』

「──訂正、金払いのいい顧客ってのは嫌いじゃないわ。グレナディアルもわかってるじゃない」

『連中を倒せば倒すほど金と実績が手に入る、諸君らにとっても悪い話ではないだろう。傭兵各位の奮闘を期待する!!』

それだけ言って、ブリーフィングは終了した。……なるほど、こういう感じか。

隣を見ると、キルスティンはふわぁ、と大きなあくびをして目じりに涙を浮かべ、シンシアはぶつぶつとつぶやきながら指折り数えて何かをカウントしていた。二人の準備が整うのを待ち、よっこいせ、と席を立って伸びをする。

 

「あんたの装備が置いてある場所に案内するわ。ついでに安物だけどいくらか装備も支給する。さすがにライフル一本だけってのはこの先厳しいだろうし」

「ありがたい限りです」

「ほ、本当に安物なのであんまり信用はしないほうがいいですよ……」

「シンシア、余計な事言わない」

「で、でも……」

「最近事実陳列罪って重罰化されたらしいわよ? もしかしたら娼館堕ちもありえるかもね」

「はい黙ります……」

 

ひどい言論統制を見た。

有無を言わせぬ圧殺に涙目で縮こまるシンシア。そして、ブリーフィング映像を流し終えて戻ってきたサブリナがそれを見て呆れたような表情を浮かべる。

 

「貴女ねぇ、気に入らないことがあったらそうやって圧かけるのも悪い癖よ」

「あんたも人のこと言えないじゃないの。知ってるのよ、自分の子飼いの手下相手に独裁政治してんの」

「子飼いって言い方はやめてほしいわね。あんなの飼ったら手を嚙まれるどころか腕ごと持ってかれるわ」

「……毎回思うんだけど、仮にも自分の直属の部下をそんなボロクソ言っていいの?」

「そう思うなら隊長権限を貸与してあげてもいいのよ、キルスティン? 貴女なら3日で半泣きになって一週間で泣いて許しを請うと思うわ」

 

冗談抜きにすさまじい言いようだな? ……煮ても焼いても食えなさそうな底知れなさを持つサブリナをして疲れた表情でこう言わしめる部下……ちょっとだけ興味があるけどめちゃくちゃ怖いなぁ。まあ偶然会えたら儲けものくらいに考えておこう。

 

「……そういえば、貴女たちの所属している小隊については何も話してなかったわね。ストレリツィア、ちょっといい?」

「は、はい?」

「そんな怯えなくても、別に取って食ったりなんてしないわよ。そこのキルスティンとシンシアがつけてるワッペン、貴女はもう気付いていたかしら?」

「え? あ、はい、目覚めてすぐ目に入ったので……どこかの部隊証なのかなぁくらいにしか考えてなかったんですけど」

 

そんな私のふんわりした答えに、顎に手を当ててクスクスと笑うサブリナ。それを見たキルスティンはボソッと「いつ見ても気味の悪い所作ね」とつぶやき、シンシアはそれを聞いて肯定とも否定とも取れない微妙な表情を浮かべる。

 

「うちは基本は独立傭兵の寄せ集めだけど、それだけじゃ流石に限界があることっていうのも珍しくはないのよ。だから、臨時基地創設者の権限を使っていくつか小隊規模の集まりを作ったってわけね」

「はあ。となると、ここの二人は……?」

「ええ。N.E.S.T.専属特務執行部隊、"Error 410"。早い話が410小隊ね。ペルシカの子飼いの404小隊、私が率いていた……ああいや、率いている502小隊、そこに合わせて創設したのよ。まあ全然普通に非合法だけれど」

「そもそもあんたが所属してた小隊自体が黒寄りのグレーじゃないの」

「ふふ、それを言われると弱いわね。まあ文句を言ってくるような連中は合法非合法問わずあらゆる手段を使って叩き潰したから、今は胸を張って清廉潔白を謳えるのよ?」

「いや、そのりくつはおかしい」

 

言ってることが全員殺せばステルスと同じくらい暴論だ。

しかしそんなことどこ吹く風で、サブリナは続ける。はぐらかしもせずにサラッと流してしまうあたり、100%本心ではないにせよそんな感じの考え方で普段押し通しているのは間違いなさそうだ。こわい。

 

「ま、410の他にもいくらか小隊は組んであるのだけど、その辺はまたおいおいかしら。さ、早めに準備して行ったほうがいいんじゃない?」

「と言うと……?」

「あら、内容に注力しすぎて前提は聞き流してたかしら。あの依頼、グレナディアルの『公示』なのよ?」

 

公示、とは──

──特定の事柄について周知を図るため、それを公衆が知ることの可能な状態に置くこと。なんらかの公的機関が行う場合と、私人が行う場合がある。

……ああ、なるほど。

ちらりと後ろを見る。シンシアとキルスティンもどうやら同じ考えの用で、こちらに視線を送ってきていた。

3人で顔を突き合わせ、コクリとうなずく。

 

──ダッ!!

 

「キルスティンさん! 「別にさんはいらない!」わかりました、じゃあキルスティン! 私の武器が置いてある場所ってどこですか!?」

「こっち! 私が案内するからシンシアは車を用意しといてちょうだい! 頼んだわよ、これ以上取り分が減る前に現地に向かわないと!」

「は、はい!」

 

各々が大急ぎで準備に取り掛かる。

その場に置いて行かれた形になったサブリナは、一瞬きょとんとした表情を浮かべた後、またクスクスと真意の読みにくいほほえみとともに呟いた。

 

「……まあ、初心者向けとは言ったけど初見殺しがないとは言ってないものね」

 

タブレット端末を取り出す。

そこには、先ほどブリーフィングで開示されていた情報のほかに一文だけとってつけたかのような文章が追加されていた。

 

 

「パラデウスの産んだ傑作にして忌むべき妄執の産物、NYTO──さて、貴女は自分と同じ存在を前にして引き金を引けるのかしら?」




リメイク前という名のストックがなくなったので以降は更新頻度が遅くなります。
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