パラデルフィア・ミレニアム   作:りおんぬ

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NYTOの9人目

「それじゃーまずは小手調べだ……死なないでくれよ? いやまー、死んでくれたほうが私としては助かるんだけどな」

 

そう言うや否や、だんっ!! と大地を蹴り、アレフティナが跳ねた。そして、空中で尻尾の先端をこちらへ向けて突き付ける。そこに設けられた砲口が輝き、膨大な量の光の束が私めがけて吐き出され──その全てが私の展開した偏向障壁によって捻じ曲げられ、あらぬ方向へと逸れていく。

負けじと私も大型ライフルを構えてバスバスと銃弾を叩き込むが、こっちもこっちで相手の偏向障壁によって防がれ、とくに効果が出ることはなかった。

……予想はしてたけど、やっぱりクソゲーじゃんか!

 

「眩しいんですよこの馬鹿野郎! 目が悪くなったらどうしてくれんですか!」

「仮にも私の砲撃を食らっておいてその程度で済むっていうのも大概おかしーとは思うんだけどね。やっぱり同族相手じゃ効果は薄いか」

「そりゃお互い様ですね!」

 

銃弾とレーザーが幾度も交錯する。時折光条に飲み込まれた銃弾がジュッと音を立てて融解し、煮えたぎる溶鉄をうっかり真正面から浴びそうになったアレフティナが慌てて飛びのいたりする光景も見られたが、結局互いに有効打を与えることはなくただ無為に時間だけが過ぎていく。またこの展開か、畜生。

 

「キルスティーンッ! 障壁抜けない! どうしようこれ!」

『あんたでダメだったらこの場にいる誰もあいつに手出しできないわよ! いいから死ぬ気でそいつを釘づけにして! 他の雑魚はこっちで片付けとくから!』

「ありがたいお言葉に涙が出てきそうですよ畜生め!」

 

吐き捨て、ゆっくりと後退しながら銃弾を撃ち込み続ける。幸いにもアレフティナは現状私以外に手を出すつもりはないらしく、吞気にあくびまでしながらこちらへ向けてレーザー砲を乱射してきていた。私たちの戦闘の余波で私へ向けて同じように銃口を構えていたヘルメット兵が弾痕だらけになって崩れ落ち、ELIDが極光に焼き尽くされてガラス質の赤い水たまりに変貌する地獄が繰り広げられる。

 

「全く、こんなことになるならドッペルゾルドナーの一体でも連れてくるんだったなー。まあ『お父様』は失敗しても問題ない任務だって言ってたし、時間稼ぎだけでも出来れば十分か」

「けっ、あのクソ野郎今度は何企んでるんだか!」

「さーねー。あの中年クソオヤジ……げふん、『お父様』が考えてることなんて私には分かんないな。あーしろこーしろばっかりで意図を何も言わないんだもの」

「しれっとクソ親父呼ばわりしましたね」

「事実だろ?」

「確かに」

 

そんな微妙に気の抜ける会話をしながらも、引き金を引く手は緩めない。あまりにも不毛すぎて忘れそうになるが、これでも命と命のやり取りを繰り広げているのだ。幸いにもキルスティンとシンシアの二人は相当なやり手であり、ちょっと目を離した隙に雑兵は壊滅状態に陥っている。そしてその残党も私たちの撃ち合いに巻き込まれる形でどんどんとその数を減らしていた。

やや眉間にしわを寄せ、不機嫌そうな表情を浮かべるアレフティナ。

 

「……やっぱり埒が明かないなー。いくら勝敗不問とはいえ一方的に負けるのは気分が悪い」

「それなら尻尾巻いてとっとと逃げ帰ってくれたほうがいいんですがね! こっちとしても千日手で嫌気がさしてるんですよ」

「よし、それじゃーこうしようか」

「は?」

 

レーザーの弾幕が止んだかと思えば、ブンッ! と特徴的な発振音を立てて尻尾の先から光の刃が生えていく。アレフティナが尻尾を振り回せば、彼女のそばに侍っていたヘルメット兵共が一瞬にして細切れのスクラップに仕立て上げられた。自分の顔が引きつるのを感じながら、恐る恐る口を開く。

 

「……あのーまさか、それって……」

「安心するといーよ、これなら偏向障壁もぶち抜けるのは前に実践済みから」

「バーカ! 微塵も安心できないよこのバーカ!!」

 

遠回しな死刑宣告に悪態をつき、即座にバックステップで距離を取ろうと試みる。アレフティナはおもむろに地面に両手を突き、尻尾を持ち上げて前傾姿勢でこちらに砲口……改め切っ先を向けるサソリじみた体勢を取り始めた。そして、私の見ている前で体を後ろによせ、伸びをするような態勢になり──

 

「──そーれっ!!」

「うおわぁ来たァーッ!!?」

 

ズバンッ!! とその場に土煙を残しながら勢いよく飛び跳ね、私めがけて一直線に迫りくる。さきほどまで寝ぼけ眼で悠然と歩いていた姿からは想像もつかないその速度に思わず恐怖の声が喉から飛び出る。すさまじい勢いで距離を詰められ、気付けば一瞬にしてクロスレンジにまで押し込められていた。

ブオンブオンと情け容赦なく振り回される尻尾という名の大型レーザーブレードを這う這うの体でよけ続けながら、半泣きでインカムに叫ぶ。

 

「たっ、助けてー! タスケテー!! キルスティーン! シンシアーッ!! 死ぬっ! マジで私死んじゃう!?」

『まだ死んでないならいけるわ! 頑張りなさい!』

「頑張りなさいじゃなくてアンタも頑張るんですよぉ!」

『こちらシンシアです、敵戦力の約80%を撃滅しました……もうちょっと耐えてください……』

「結局増援はまだないんですね!? うわーん!!」

 

涙目でライフルを構えなおし、適当に引き金を引く。ここまで近いと狙ってる暇でなます切りにされて終わりだからこうするしかないのだ。ってうわぁブレードが障壁かすった! ジジって! ジジって言った!?

……偏向障壁はもはやあてにならない。今のところなんとか致命打は避けれているが、こんなことを続けていればそう遠からず事故って細切れのサイコロステーキに生まれ変わる羽目になるだろう。ギリッ、と相手の攻撃を決死の思いで捌き続けながら歯ぎしりする。弾は当たらない上に当てたところで偏向障壁も勘定に入れれば1発2発程度じゃあ大した有効打にはならないし、翻って相手は普通に偏向障壁を突破できる即死攻撃をブンブンと振り回してくる。どうしろってんだ。

あの二人おいて尻尾巻いて逃げ出そうかな、とゴミクズのような案を半ば以上本気で検討し始めたその時、ふと脳裏をよぎったのは昔プレイしたとあるゲームに出てくる武器だった。

ちょうど今使っている偏向障壁のような自機を覆う球状のシールドを利用し、しばらくのシールド利用不可と引き換えに絶大な威力と衝撃を叩き出す諸刃の剣。

 

(どのみち偏向障壁もこの状態じゃ役に立たない、だったらせめて有効活用くらいはしてやる……!)

 

駄目で元々、人生はギャンブルだ……とは誰の言葉だったか。冷静に考えれば馬鹿の発言なのは間違いないが、それでも今の私にとってはすさまじくナイスな名言だ。やって見る価値はあるだろう。

 

「……さーて、そろそろお遊びも終わりかな。とっととあなたを始末して、残りの二人もスクラップにしちゃおーか。それで……なに?」

 

ガシッ、と大上段に振り下ろされたブレードを紙一重でかわし、腕を伸ばしてガシッとその襟元を掴む。普通であれば自殺行為としか考えられないその行動に、アレフティナは理解に苦しむような何とも言えない表情を浮かべた。

しかし、次の瞬間には、バチバチ私の体を走る無数の稲妻を見てその目的に気付き、その顔をゆがめる──それを見逃す私の目じゃあない!

 

「アンタ、今『焦った』な!? それならこいつは有効ってわけだ!! くたばれっ──」

「やめ、この大馬鹿野郎──!?」

「──偏光障壁(アサルトアーマー)ァッ!!」

 

直後、私を中心にして青白い雷電の球体が形成された。それは範囲内にいたものすべてを平等にこんがり焼き焦がし、不格好な炭化物へと仕立て上げていく。

数秒後、私の周囲数メートルの範囲内にいた不幸な連中はそのほとんどが黒焦げになっていた。

 

「はあ、こいつで……うぶっ!?」

 

大きく息を突いた直後、尻尾で顔面を殴打され、もんどりうって地面に倒れる。当たりどころが悪かったのか、軽めの脳震盪を起こしたらしく上手く立ち上がれない。ぐええ世界が回ってる……。

横倒しになった視界で何事かと辺りを見回せば、私から少し離れたところで、体のあちこちを焼き焦がしながらも二本の足でしっかりと立ったアレフティナがこちらを見下ろし、睨みつけていた。

肩で荒い息をしながら、とっさに展開したと思しき偏向障壁を不自然に明滅させている。

 

「あー、畜生……やってくれたね……。まさか偏向障壁を、ゲホッ、そんな使い方で運用する馬鹿野郎がいるとは思わなかったよ……」

 

おかげで私もボロボロだ、とややぎこちない動きで尻尾ユニットを動かす。ダメージの大きさを物語るようにギリギリと可動部がきしむような不気味な音が響き、燃料が切れかけの火炎放射か何かのように焼け焦げた砲口からレーザーブレードが飛び出ては消失するを繰り返している。

 

「これが終わったらオーバーホールだ、全く……まさか偏向障壁を真っ正面からぶち破ってくるとはねー……ただ、そー何度も連発できるようなものでもないんだろう? あんな乱暴な運用をしてシールドオシレータに負荷がかからないわけがない……」

「……ふふっ」

「……なんだい」

「いやぁ? 随分と饒舌になるんですね、余裕そうで何よりですよ」

「……状況がわかってないみたいだねー?」

 

ガシャン、と砲口が私の顔に突き付けられる。それで私は薄ら笑いをやめない──状況がわかってないのは、さてどっちなんだろうな?

次の瞬間、何かを感じ取ったアレフティナは首を大きく横に振った。さきほどまでその頭があった場所を銃弾が通り抜けたと同時、同じように銃弾を浴びせられたテイルユニットが弾き飛ばされ、照準が明後日の方向へと強引に外される。

振り返れば、そこに立っていたのは銃を構えたまま鋭く舌打ちするキルスティン。こちらに救援にくる過程で少なからず攻撃を受けたのか、あちこちに傷を負っている。

……気付けば、あれだけの数を誇っていたヘルメット兵とELIDはそのほとんどが殲滅されていた。そして、その残りの生き残りにシンシアが躍りかかっているのが遠目に観察できる。

 

「──っ!?」

「ちぃっ、バレた! パラデウスの上級人形サマはセンサーもいいの積んでんのね、あやかりたいとこだわ!」

「……自律人形と一緒くたにされるのは、ちょっとばかり癪だねー……!」

『キルスティン、こっちはこれで最後だよ……』

「オーケイ、それならそいつら片付けてとっととこっち来なさい! あとはこのガラクタさえ片付ければ褒章は全額私たちのものよ!」

「おーおー好き勝手言いなさる……!!」

 

いら立ちを隠さないアレフティナの声とともに、彼女の周囲を覆うように偏向障壁が再展開された。しかし、アサルトアーマーによって無理やりぶち抜かれたダメージが響いているのか明らかにシールドの強度が下がっているのが見て取れる。……それこそ、キルスティンが持っている416Nの銃弾で多少減衰こそされるものの問題なく貫通できる程度には。

私という例からだいたい推測がつくけど、元よりNYTOっていうのは偏向障壁を前提としたスペックをしているからサイボーグという特性も相まって素の防御自体はそこまで高くないんだろう──その推論を証明するかのように、見る見るうちにアレフティナの纏ったローブに弾痕が刻まれていき、その奥から赤黒い血があふれ出る。アレフティナも負けじと尻尾のレーザーブレードを振り回すが、出力自体がかなり不安定になっているうえにテイルユニット自体の稼働が怪しいせいでことごとくが躱されていた。

苦痛か、あるいは屈辱で表情を歪めながらアレフティナが恨み言を口走る。

 

「あーもー面倒くさい……! 障壁さえ万全ならこんなガラクタに……!」

「誰がガラクタだってのよこのアバズレ! 完璧で究極な私に対して随分な物言いじゃないの!」

「あまりにも自尊心の塊すぎる」

 

心の底から自分が一番だと信じて疑わない発言に軽く引いていると、誰かに首根っこを掴まれてずるずる後ろに引きずられ始めた。ちらりと後ろを見れば、シンシアが両手で私の服の襟元を掴んで引っ張っている。キルスティンとは対照的に、その姿はきれいなものだった──傷跡はおろか、ELIDやヘルメット兵の返り血すらついていないあたり、その技量のすさまじさがうかがえる。

 

「あ、助かります」

『……重い……ダイエットしたら……?』

「助けてもらってる立場でこんなこと言うのはアレですけど喧嘩売ってんですか? 買いますよいくらだ言え」

 

ピキッ、と額に青筋が走る。悪かったな重くて、こちとら丸一ヶ月ゲロマズエナジーバーで頑張ってこの重さなんだぞ。あんな拷問ダイエット法で瘦せないんだからどうしようもねぇよ。

とはいえ、時間も経ったおかげでようやく脳震盪の影響も収まってきたので、シンシアの手を借りて何とか立ち上がる。それとタイミングを同じくして、向こう側でも進展があったようだ。

 

「くそっ、こんな所で死んでられないねー! 私はこの辺でお暇させてもらおーか!」

「あっクソッ!?」

 

ばふんっ!! という音ともに、辺りに白い煙が撒き散らされる。どうやらアレフティナが煙幕か何かを焚いたようだ。煙の中でキルスティンがゲホゴホ咳き込んでいるのを見るに催涙弾か何かを足元で炸裂させたのか?

シンシアの方を向けば、同じことを考えていたらしく私の方を向いていた彼女と目があった。こくん、と頷きあい、同タイミングで手に持っていた銃を構える。シンシアの銃は……なんだっけ、LVOA? AR-15の親戚かなんかだったはず。何も言わずにお互い背中合わせになり、周囲を警戒する。

やがて、煙がゆっくりと晴れていく。そこにはNYTOの姿はなく、涙目でぱたぱたと顔の前を手で扇ぐキルスティンの姿だけがあった。念のために対人センサーを起動して探査を試みるも、私を含めた自軍3人以外のヒットはなし……どうやら本当に逃げたらしい。

 

「……終わり? ですかね?」

『……そうみたいだね……』

「ゲホッ、ゲホッ! ああ、畜生! あのクソアマ、次会ったら絶対蜂の巣にしてやる!」

 

悪態をつくキルスティン。少なからずダメージを負っているはずなのだが、それを感じさせない自然体でふるまっている。

ともあれ、これで作戦は終了。めでたく私は初ミッションを終えたルーキーへと進化を遂げたのだ。

 

「……はあ、ともあれこれで仕事は終わりね。抜け駆けしてくたばった連中のドッグタグだけ回収して帰りましょ」

『……抜け駆けっていうか、私たちがおっとり刀っていうか……』

「シンシアー? 単騎でプレジャーナルの娼館に潜入したいなら最初からそう言ってくれればいいのよ」

『……なんでもないです……』

「よろしい」

「なにもよくないと思うんですがあの」

「よかったわねシンシア、ストレリツィアも一緒に行ってくれるらしいわよ」

「なんでもないです」

「よろしい」

 

娼館送りには勝てないっすよ。

 

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