その時のヒメグマは状況を飲み込めていませんでした。
簡単に説明しますと、男は村人たちを説得してヒメグマを引き取り、一緒に飛脚をするように言ったのでした。
『どうしてこうなった?』ヒメグマの頭の中は『?』でいっぱいでした。
初めて他者に受け入れられたヒメグマは、男に疑いの目を向けました。
今まで煙たがられていた自分を引き取るなんておかしい、何か悪いことをと眩んでいるのではないだろうか?
見返りもなく自分を引き取った謎の男は、ヒメグマにとって得体の知れない恐怖の対象でした。
しかし、男はヒメグマの見た目やドスの効いた鳴き声を気にする様子はなく、ヒメグマをまるで生き別れた唯一無二の親友の様に可愛がりました。
そんな男の行動を、ヒメグマは理解できませんでした。
ある時、自分と同じように男の元にいた緑色の鬼に聞いてみることにしました。
何故、自分にここまで良くしてくれるのか。何か裏があるのではないか。
その言葉を聞いた鬼は一瞬だけ“キョトン”として、次の瞬間“ゲラゲラ!”と笑い始めました。
その反応を予想していなかったヒメグマはさらに困惑します。
やがてひとしきり笑った鬼はヒメグマに対してこう言いました。
あの人は嘘や悪企みができない、本心からの行動だよ――――と
ヒメグマはその言葉を信じることが出来ません。
どんな生物でも、自分本位で裏の顔を持っているものです。きっとこの鬼もグルになって自分を騙そうとしているのだ。
ヒメグマはそう考えて鬼から離れて行きます。
……しかし、心の中に何か暖かいものが流れ込んでくるのをヒメグマは確かに感じました。
それからしばらくの時間が流れました。
男と飛脚の仕事をして、色々な土地を旅しました。
時には、人やポケモンが変異した本物の鬼と戦い、神と呼ばれるポケモンと対峙する大冒険もあったほどです。
あれからヒメグマも成長し、今ではガチグマへと進化しました。
その頃には、男の事は鬼の言った通り悪だくみができる人間ではないと理解し、すっかり信頼を寄せていました。
男や鬼、他の毒々しいポケモン達との過ごす日々。ガチグマにとってはもうかけがえのない大切なものとなっておりました。
ガチグマにとって、ここが自分の居場所と疑いませんでした。
しかし、ガチグマにも悩みがありました。
男達には、人やポケモンが変異した鬼と戦うという使命がありました。
最初はガチグマも戦いに付いていけていたのですが、年を重ねるにつれ体が思うように動かなくなり、弱い鬼にすら勝てなくなってしまったのです。
ガチグマはこれでは駄目だと思い、色々と努力したのですが、あまり効果はありませんでした。
ある時、自分以外の仲間が巨大な鬼と戦うために、その身を一つの巨神に変えて戦いに挑んだ姿を見てガチグマは悟りました。
――――あぁ、自分はあの人の
「―――――セキ?」
目の前の男はサザレを見てそう言葉を漏らした。
その目は見開かれ、まるで信じられないものを見たかのような驚愕の色に染まっていました。
対するサザレは、困惑の表情を浮かべた。
せ、せき?どういう意味だ?
単語の意味がまるでわからな……いや、遠い昔、その単語を聞いた記憶があるような気もする。詳しくは思い出せないが…たしか人の名前だったような気がする。
……もしかすると、この男は自分を他の誰かと勘違いしているのだろうか?
人違いで相手に話しかけて、後でまったく別の人であった時の恥ずかしさはサザレにも覚えがある。……これは男の為にも早めに誤解を解いたほうがいいだろう。
「………いや、人違いだ。すまん」
しかし、サザレが誤解を解く前に男は自分で勘違いに気が付いたようだ。
男はそう言うと、目を下に向けてサザレから顔を逸らした。
人違いの恥ずかしさから顔をそむけたというよりも、どこか寂し気な表情を浮かべていたような気がした。
「あ~…うん、気にしないで~、暗いから見間違うよね」
サザレの言葉に「そう、だな」と短く返す男。
そこから会話は続かず、場に微妙な空気が流れた。
(なんで、こんな森の中で見ず知らずの男とこんな空気になってしまったのだろう…)
気まずさから、サザレは男に近づいてしまった事を少し後悔した。
「くぅぅん?」
そんな気まずい沈黙を破ったのは、ガーディであった。
ガーディは「何かあったの?」と言うようにサザレと男を交互に見やる。
「このガーディは、アンタのか?」
男はそんなガーディを再び撫でながらサザレに問いかけてきた。
「う、うん、そうだよ」
「いいガーディだな。いわタイプの本能なのか、岩場を好む習性がある。その為砂や小さい石のせいでごわごわした毛並みの場合が多い。だがこのガーディは毛並みが柔らかく、温かみがある。手間をかけて洗ったり、トリミングしたりしている証拠だ。それに、ガーディは水を嫌がる。だから無理矢理風呂に入れようとするとトレーナーに恐怖感を抱いたりするものだが、こいつにはそれを感じない。こいつは、アンタが自分の為に行動してくれていると理解し、信頼しているのだろう」
「良いパートナーを持ったな」とガーディに語り掛ける男。
その様子を見て、サザレは“ポカーン”としていた。
男の言う通り、ガーディは元気が良すぎる部分もありすぐに汚れてしまうため念入りにシャンプーなどをしているし、水に苦手意識を持つガーディを安心させるように言葉がけ等工夫はしている。
しかし、まさかそれを撫でただけで言い当てるとは…この男、只者ではないのかもしれない。
…それはそうと、陰で努力していたことを称賛され、サザレは気恥ずかしさと嬉しさから男から視線を外し、頬を掻く。
「そ、それほどでもないよ~!」
「いや、本当にいいものだ。点数にするならば53点だ」
“ガクッ!”とサザレは少しずっこけた。
いきなり褒め始めたと思ったら、今度は点数を付けるとか失礼すぎはしないか?
しかも53点て……微妙過ぎる。そりゃ、プロの人と比べたら至らない部分もあるだろうが…どういう反応したらいいのか分からない。
言い出しっぺの男はそんな事気にも留めてないようにガーディに構ってるし…もうめちゃくちゃだ。
まったく、ガーディの身体を洗う苦労を理解して貰った時は“おぉ!”と感激を覚えたのにこれではモヤモヤする―――?
(……あれ?)
ふと、サザレは先ほどの会話の内容に違和感を覚えた。
特に変なことは話していないと思うのだが…しかし何かが引っ掛かる。
サザレは違和感について考え――
『いいガーディだな。いわタイプの本能なのか―――』
(…あっ)
サザレは違和感の正体に気が付いた。
目の前の男は、ガーディの事を
ここで、ガーディの事を説明しておこう。
ガーディはカントー地方等に生息するポケモンだ。
人懐っこくて誠実な性格で、ポケモンバトルをしない一般家庭でも家族として迎えられている事が多く、外敵に果敢に立ち向かう勇敢さも持ち合わせているためとある地方では警察官のパートナーポケモンとして重宝されている。
またバトル面でも優れており、すばやく動き、覚える技も比較的豊富。人気の高いほのおタイプという事もあり、その進化系はどこかの地方のジムリーダーも切り札として使用している程だ。
そう、人気の高い
では、男の言った事は勘違いなのか?一般常識すらない不審者なのか?
否、実は男の言った事も正しい。
ガーディは
大昔、ヒスイと言う地にてガーディたちは他の地方のガーディとは違った進化を遂げ、ほのおといわの複合タイプだったのだ。
どの様な過程でいわタイプの複合になったのかは定かではないが、ポケモンはその地方に適した姿となってた地方とは見た目やタイプ、進化先まで変わってしまうという現象がみられるのだ。これはのちにリージョンフォームと名付けられ、学会でも取り上げられるほどのテーマとなっている。
このように、ガーディにはいわタイプを複合している個体も存在するのだが、時代が進むにつれ生存競争に遅れていき、以前ヒスイと呼ばれていた地―――シンオウ地方でもその姿は見られない程に数が激減した。
数が減り、その存在を知る者も少数となったのだが、サザレの家は昔ヒスイの地にて大きな力を持っていたらしく、その伝手でヒスイガーディを数匹所持していた為、サザレ自身も存在は知っていたし、手持ちに入れる事も出来たのであった。
さて、話を現在に戻そう。
ヒスイガーディを持つサザレであるが、一般的にほのおタイプと認識されているポケモンな為旅先で出う人々や写真仲間からその正しいタイプを言い当てられたことはない。
『その子かくとうタイプのポケモンも過剰に怖がるけど…なんで?』とか『あら~この子他のガーディと違って毛深いのね。冬毛かしら?』等と訝しげに見られることはあるが、ヒスイガーディだと指摘する者はいなかった。
しかし、目の前の男は、ガーディがいわタイプであるという事を解っていたのだ。
しかもヒスイガーディが岩場を好み、そこに生息することも言い当てたのだ。勘違いやあてずっぽうとは思えなかった。
「ふ~ん…知ってるんだ、その子がいわタイプだって」
サザレは目の前の男を探る様に言葉を掛けた。
ヒスイガーディの存在を知っているとは、ただの配達員とは思えない。
人付き合いが好きな方の人間であるサザレはこの男について好奇心が沸いてきたのであった。
「……あぁ、昔…うんぬんかんぬん、でな」
サザレの言葉に、男は少し間をおいてから答えた。
男の顔は、どこか昔を懐かしむような感傷的な表情を浮かべているのをサザレは見逃さなかった。
『ガーディ、か…懐かしいな』
その時、サザレは先ほど男が漏らした言葉を思い出した。
『懐かしい』…?
珍しい、ならまだわかる。懐かしいとはどういうことなのだろう。
もしかしたら、男は昔ヒスイガーディに出会ったことがあるのか?
しかし、ヒスイガーディの生息地は限られていて、その存在を知っている組織や一族について、サザレも実家のつながりでいくつか顔合わせはしたことはあるが、男の顔は全く見覚えがない。
……もしかしたら、自分の知らない場所にヒスイガーディの生息地があり、男はそこにいたのかもしれないな。
そう、サザレは結論付けた。
…実は、もう一つ頭にとある考えが浮かんだのだが、流石に突拍子もなさ過ぎてサザレ自身“バカバカしい”と思い、すぐにその考えを捨てた。
それも無理はないだろう。
なんせ、その考えは『ヒスイガーディが多く生息していた時代を生きていた』なんて正気を疑う可能性だったのだから
……それにしても
(なんだ、うんぬんかんぬんって)
サザレは宇宙の深淵を見たニャオハの様な表情を浮かべた。
「…そうだ、ここであったのも何かの縁だ。何か困りごとがあれば言ってみろ。俺が力になろう」
宇宙に旅立とうとしていたサザレは、男の言葉で引き戻される。
「えっ……どうしたの、急に?」
サザレが第一に放った言葉は疑問であった。
そりゃそうだ。初対面の相手に何の脈略もなく「困ってることあるん?力なるで!」と言われたら、どんかんポケモンのヤドンですら困惑するかもしれない。
「どんな小さな縁も縁は縁。この世には無数の縁が絡み合い、結び合い、奇跡が生まれる」
男は噛み締めるように、先程の言葉の説明(?)をする。
もっとも、それを聞いてもサザレの頭の中は「??????」でいっぱいであったが……
「えっと……つまり、ここであったのも何かの縁だし、私の困りごとを手伝ってくれる……てこと?」
「あぁ、縁にも色々あるが―――」
「俺との縁は超良縁だからな!!」
男は眩しい笑顔で自信満々に言った。
対するサザレは、男への警戒心が爆上がりしてた。
――あかん、こいつ宗教染みた事言い始めたわ。これは関わっちゃいけない奴だ。
サザレは警戒心が限界突破し、もう爆上ノンストップブンブン状態である。
「あー…せっかくだけど、今困りごとないからッ!また今度お願いねッ!!ガーディ!行くよ…?」
サザレはガーディを呼び戻し、ここから離れようとするが、その動きは止まる。
サザレの目線の先では、男に撫でられてご機嫌だったガーディが、自分の後ろを見て“ウ゛ゥゥゥゥゥ…!”と唸っていたからだ。
相手を威嚇するような、恐怖で染まっている様な、今まで見た事のないガーディの表情にサザレは思考を一瞬だけ止めてしまった。
こんなガーディ、初めて見た…
今まで、格上の相手に威嚇することはあっても、本当はバトルがあまり得意ではない事をなんとか隠して威嚇をするガーディ。
しかし、今のそれは、恐怖の色を全く隠せていない。
何故…ここまでガーディを怯えさせる存在って――――ッ!
サザレは、頭の中で『とある可能性』を浮かべ、ゆっくりと後ろを振り返った、
そこには、綺麗なお月様が佇んでいた。
まん丸の満月。その輝きは、今にも吸い込まれてしまいそうな程に美しいと感じた。
……しかし、妙だな
月と言うのは、
「ッ!?」
その時、サザレは気が付いた。月の後ろに佇む影の存在に
毛むくじゃらの身体は、まるで呼吸をするかのように上下に動いている。
他者とズタズタに引き裂けそうな爪や、鉄をもかみ砕けそうな鋭い牙は見ているだけで脅威だと感じてしまう。
そして、真っ赤き輝く月の真下には、こちらを値踏みするかのような一つの目が動いていた。
そう――――
―――――赫い月が、サザレの前に姿を現した
Q.ガーディってお風呂嫌いなん?
A.ほのお/いわタイプのポケモンだし、他のポケモンより水に苦手意識があると思いまして…
Q.赫月とオーガポンって時系列一緒なん?
A.まぁその…よくわからなかったのです…
間違ってたら独自解釈って事で…許し亭許して……
Q.ノンストップブンブン?
A.ノンストップブンブン!
これ書いてる最中に、カクレンジャーの新作決まって爆笑してた。めっちゃ面白いんよなあれ……
この調子でギンガマンも新作やってくれませんかねぇ…
ここまでご拝読ありがとうございました