ぽにおとタロウ   作:生牡蠣

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これでストック分はラスト
今回写真の現像描写があるんだけど、私にわかだからこれであってるかわからない……間違ってたらごめんね…


れんずごしのつき そのし

とこしえの森の中心部から少し離れた場所に、それは建っていた。

明らかに自然の物ではない、人の手で建てられたものだ。

建物というには小さく、細めの骨組みと防水性の高い布のみで作られた脆そうな簡易的な作りのもの。

緑色を基調としたそれには、よく見るととある地方に伝わる幻のかんしゃポケモンの柄がプリントされていた。

そう、それの正体はテントである。

 

テントの入り口は閉まっており、その前にはリーフィアとヨルノズク、ガーディが、まるでテントを守るかのように佇んでいた。

……それぞれに、口元にご飯粒を付けているのが少し頼りないように見えるが、安心して欲しい。この子達、普通にジムバッジを狙えるくらいには強いから。

 

そんなテントの中では一人の女性―――サザレがモゾモゾと何かをしていた。

彼女は、袖口の付いた奇妙な形の黒い袋の様なものに手を突っ込み、その中で手をしきりに動かしているようであった。

 

「ふぅ~……ようやくひと段落付いた、かな」

 

サザレはそう言って袋から手を抜き、額の汗を拭う。

今夜はあまり暑くはないはずだが、物事に集中するとどうしても汗をかいてしまうのは背物の性というもの。それだけ身体も熱中してしまうという事だろう。

 

サザレはふと、時計に目をやる。

…予想より時間が経っているな。どうやら、予想より手こずっていた様だ。

いつもより慣れていない環境という事もあるが、できれば()()までには間に合わせたい。

 

「…もうひと頑張りしますかね」

 

そう呟くと、サザレは再び黒い袋に手を伸ばした。

 

この袋の名前はダークバックというもので、写真の現像の際に光を遮るものだ、

そう、彼女はテントの中で写真を現像しようと試みているのだ。

『別に人里に戻ってからすれば良くない?』と思っている読者諸君の考えはもっともだろう。

 

何故、こうなったかと言うと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分の撮った写真を見て、感想を述べて欲しい』

 

それが、サザレが男に頼んだことであった。

ただの配達員の男に頼むことではないとサザレも頭の中で理解しているが、どうしてもこの男の…自分が撮りたくなったガチグマと男の写真を撮り、感想を求めたくなったのである。

 

男は少し“キョトン”としたが、サザレの頼み事を聞く事に了承した。

しかし、男は別の配達があるとの事でタイムリミットがあった。

それは明日の朝一。つまりサザレは今晩中に写真を完成させる必要があったのだ。

 

そこまでして、専門家でもない男に写真を見せる必要があるのか?

この写真で、何が変わると言うのか?

それはサザレにもわからなかったが、どうしようもなくそうしたいと思ってしまったのであった。

 

「……………よしっ!後は乾燥させるだけ…」

 

サザレは出来上がったフィルムを吊るし終え、一息つく。

本当は早く乾いてほしいが、これも写真の仕上がりに関わる大切な事だ。この過程を飛ばすことは出来ない。

 

“ぐぅぅぅ~”

 

一息ついたところで、サザレは自分の腹の虫が鳴った事に気が付いた。

そういえば、夕食を食べ損ねていたな…さっきこれを貰っておいて良かった。

そう思いながらサザレはガチグマから分けて貰ったおにぎりを口にした。

これは美味しい。ころころマメともちもちキノコの食感が楽しく、いい具合の塩加減が失った塩分を補ってくれるのを感じる。

サザレは思わず頬を緩ませてしまった。

 

「……………」

 

おにぎりを食べている最中、サザレの顔は少しだけ不安そうな色を浮かべた。

思い出せれるのは、先程ガチグマと男を撮った時の出来事。

あの時、胸の奥底から湧き上がる高揚感と衝動に任せて、サザレは一心不乱に写真を撮った。

それはもう、夢中になって撮影した。夢中になりすぎて角度や被写体の写り方、光の角度などを気にする事なんてすっかり忘れてしまう程に。

気付いた時にはフィルムもなくなり、時間も迫る状況だった為これを現像するしかなかったのだ。

 

サザレ自身、これらの写真は人に見せるものではない、駄作の類だと確信していた。

歯に衣着せる男の事だ。きっとこの写真も酷評するだろう。

あの男に見て貰いたいという思いは消えていない。しかし、何か悪いことを言われたら、完全に自信を喪失してしまうのではないかとサザレは不安を胸に抱えていた。

 

―――今度は、心が折れちゃうかもなぁ…

 

引退

 

サザレの頭の中に、一瞬だけその言葉が浮かんだ。

 

 

 

「ぐおぉん!」

「! ホー」

「リファ!」

 

「おう、ご苦労だな」

 

サザレがそう考えていると、テントの外でポケモン達の鳴き声、そして男の声が聞こえた。

どうやら、足音に気が付かない程に考え込んでしまっていたらしい。

 

「!! あー…ごめんね!まだ写真出来てないんだ」

 

サザレは動揺しているのを隠しながら男に声を掛けるが、少し声が上ずってしまう。

 

「…そうか……………時間もまだある、待たせて貰おう」

 

そう言う男はテントの前に座り、そのまま話さなくなってしまった。

お互いが話さなくなり、辺りは再び“シンッ”とした夜へと戻った。

 

(……………なんか気まずッ!)

 

しかし、サザレはこの状況に居心地の悪さを感じていた。

テントの中にいるサザレ、外で黙って待っている男。おまけに男は自分の写真を待ってくれている状況だ。申し訳なさと気まずさを感じるのも無理はないだろう。

何か、話題を振った方がいいのではないか…

 

「写真、好きなのか?」

 

そうサザレが考えていた時に、男の声が聞こえてきた。

 

「へっ?………あぁ、うん。一応これで生計立ててるしね」

 

 

「ほぉ、期待してるぞ」

 

さらに男から、若干上から目線な返事が返ってくる。

期待…その2文字が、サザレに重くのしかかった。

 

「期待かぁ……最近スランプだし、正直自信ないなぁ」

 

「確かに、あんたの写真の撮り方はなっていなかった。構図、角度、どれをとっても俺の方が上手いだろう」

 

男は自身に溢れた声で言った。

聞く人によっては怒りを感じても仕方がない言い草だが、今のサザレには言い返す余裕どころか、まったくその通りだと思えてしまう。

 

「ははっ、そうかもね…「だが」……?」

 

 

 

 

 

「写真を撮っていたあんたは、楽しそうだった。本当に写真を撮るのが楽しいのが伝わってきた。写真というのは、きっと風景や被写体だけでなく、撮影者の思いも伝わるものだと思う」

 

「仮に俺が写真を撮れば、完璧な写真になるだろうが、きっとそれはお手本通りのつまらない写真になる」

 

「それがどんな出来栄えだろうが、俺は本当に写真が好きな、あんたのありのままの作品が見たい」

 

 

 

「それはきっと、俺には撮る事が出来ないものだからな」と男は続ける。

……………あぁ

そうだ、そう言えばそうだった。

セオリーはどうか、どんな写真が審査員受けがいいのか、自分が何を撮りたいのか。

自分は深く考えすぎていたのかもしれない。

 

 

私はただ、写真を撮るのが好きなだけじゃないか

 

 

サザレの頭の中で、今まで何度も自問自答してきた疑問が一番しっくりする形で消えていくのを感じた。

あぁ、こんなに簡単な事、いつの間にか忘れていたんだなぁ…

 

「――――ありがとう」

 

サザレは、男に対して自然とそんな言葉が出てきた。

 

「…まぁ、それはそれとして点数は付けるがな」

 

“ガクッ!”とサザレはズッコケそうになるのを何とか抑え、代わりに苦笑いを浮かべた。

まったく…色々台無しだなぁ……

 

………あっ、そういえば――

 

「ねぇ、初めて会った時、私を誰かと間違えたとおもんだけど…知り合い?」

 

サザレは、男との初対面の事を思い出し、なんとなく聞いてみた。

自分と見間違うとは、どんな人物なのか気になったし、あわよくば男が人違いしたのをからかってやろうと意地悪な気持ちも少しあった。

 

「……………あぁ、あんたによく似た男を知っていたんだ」

 

「お、男って……失礼だなぁ」

 

サザレは少し口を尖らせる。

女性と見間違えたら、その女性との関係を根掘り葉掘り聞こうとしたのだが、普通に男と間違えられたのは少しショックである。

 

「ねぇ、どんな人なの?」

 

「そうだな……」

 

男は少し考えて、口を開いた。

 

 

 

「一見不真面目そうに見えるが、周りを安心させられるようどっしりと構え、しっかりとした固い意思を持つ――――まるで“コンゴウ”のような男だった」

 

男は昔を懐かしむかのように語った。

表情は見えないが、きっと柔らかな笑みを浮かべているだろう。

 

「へぇ~コンゴウみたいな人ねぇ…一度会ってみたいかも」

 

サザレは何気なく呟いた。

金剛のような男。どこぞの力士像の様な屈強な男なのか、それとも経験豊富なお年寄りなのか、どんな人物なのか興味があっての発言であった。

 

「……………あぁ…叶うならば、もう一度会いたい」

 

そんなサザレの言葉に対して、男は寂しそうに言った。

その反応で、サザレは察した。

 

コンゴウの様な男とは、もう会うことが出来ない存在なのだと

 

「……だが、会わなくてもいいとも思っている」

 

サザレが男に嫌な事を思い出させてしまった事を詫びようとした時、ふいに男が発した言葉に疑問を抱く。

 

「どういう意味?」

 

「確かに見たからだ」

 

「…何を?」

 

「あいつなりに瞬間瞬間を必死になって生きて、その意思が、精神が、輝きが、きちんと受け継がれているのを」

 

「……そっか」

 

男の言った意味をサザレはよく理解できなかったが、男が満足しているのはわかった。

それなら、私からとやかく言うのは無粋だろう。

サザレは謝罪の言葉を引っ込めた。

 

“ピピピピピピピッ!”

 

会話が途切れた所で、丁度セットしていたアラームが鳴り響いた。

フィルムの乾燥が済んだのだ。

 

「よし、後はここをこうして………完成!!」

 

サザレは写真の完成を少し喜んだ後、テントの外へ出た。

テントの外では、自分の手持ちポケモン達と、地べたに座り込んでいる男の姿が見えた。

 

「お待たせー!完成した写真だよ!」

 

「ほぅ、どれ…」

 

サザレは男に写真――男にガチグマが抱き着いている写真を手渡す。

真剣に写真を見る男。しかし、写真を見る男の目は厳しいものであった。

 

「駄目だな。若干見切れてるし、何が写っているかわからない。点数を付けるなら16点だ」

 

やがて男から聞こえてきたのは罵倒にも近い酷評。

何もここまで言わなくてもと思わず同情してしまう程酷い言われようである。

だが――

 

「…そっか」

 

サザレは、その酷評を受け止めた。

現像している時に、自分でも思っていたことだ。

カメラのセオリーも何もない、ただがむしゃらに撮った無茶苦茶な写真。

 

「でも――」

 

しかし――

 

 

 

 

 

 

「それが、今まで撮ってきた中で、一番のお気に入りになっちゃった!」

 

サザレは、ダイヤモンドの様に輝かしい笑顔を向けながら言った。

 

「…そうか」

 

男は照れくさそうに顔を逸らしながら――

 

 

 

 

「…俺もだ」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ~~~~ん……いい朝日……って昼か」

 

サザレは日の光を浴びて身体を伸ばしながら、ノリツッコミをした。

『配達の時間だ』と言って去っていった男と別れたサザレは、徹夜での作業の疲れでひと眠りしたのだ。

自分も疲れていて余裕がなかったとはいえ、名前ぐらい聞いておけばよかったなぁ…とサザレは少し後悔した。

現在の時刻はPM1時。すっかり寝過ごしてしまった。

 

「さて…片づけますかね」

 

そう言って、サザレはテントの片づけにかかる。

時間の縛りはもうなく、のんびりと片づけるのも悪くないが、今はもっと色々な場所へ行って、もっと写真を撮りたいという衝動に駆られていた。

これから先、きっとお気に入りの写真をもっと撮れるはず。そう思ったら立ち止まってはいられないのだ。

それに、自分がスランプに陥っている間、色々な人に心配をかけてしまった。まずはその人たちを安心させたいという気持ちもあった。

さて、とりあえず実家に帰ってから、最近噂のイッシュ地方の学園にでも行ってみますか!

 

“パサァ…”

 

「…ん?」

 

サザレが骨組みを畳んでいる時、荷物から本の様なもの落ちてきた。

なんだ…本なんて持ってきたかな?

 

「これは……サザレ家の家系図?」

 

サザレは本のタイトルを見てそう呟いた。

実家の家系図?なんでこんなものがあるのだ?

…あぁ、そう言えば荷物を準備する際に、蔵にあったテントとかキャンプ道具とかミリやり引っ張り出したっけ……その時に紛れたのだろうか?

 

「間違えて持ってきちゃったかぁ…無くさないようにしまっておか―――」

 

仕舞っておかないと。そう言おうとしたサザレの言葉が止まった。

サザレは、本が落ちた時に偶然開いたページに目が釘付けになっていた。

自分の上に両親の、そのまた両親の名前が連なる中、最近聞いた名前が載っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

『サザレ家 ○○代目当主  セキ』

 

 

 

 

 

『―――セキ?』

『ガーディか、懐かしいな』

『輝きが受け継がれているのを』

 

サザレの中で、バラバラだったピースがまとまっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ははっ…おばけ、見ちゃったかも」

 

赫月よりも、もっとすごいものに遭遇したかもしれない。

サザレは男が去っていった道を見ながら、乾いた笑いを浮かべる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男達はガチグマがこの森へ残りたいと言った時、驚きはしましたが、最終的にはガチグマの意思を尊重しました。

それぞれが、ガチグマとの別れを惜しみます。

 

オニはガチグマの好物をあげました。

イヌはガチグマを強く抱きしめました。

サルは今後ガチグマが困らないようにと自分の知恵を教えました。

キジは自慢の羽をガチグマへと送りました。

モモは毒を抜いた餅を送りました。

そして、男はガチグマへと言葉を送りました。

 

最後は、全員が涙をガチグマが見えなくなるまで手を振ってくれました。

ガチグマは、本当にこの人たちと一緒に入れてよかった、あの時、男に拾われてよかったと心の底から思いました。

 

ガチグマと男達が別れてから、長い年月が経ちました。

今では、この森の守り神として他のポケモン達にも慕われております。

 

…時々、男たちと旅をしていた頃が恋しくなることもあります。

心のぽっかりと穴が開いたような感覚に陥ることもあります。

 

しかし、ガチグマは―――ヒメグマはもう寂しくありません。

だって―――

 

 

『ギィちゃん。お前はおともではない。お前は最高の()()だ!』

 

 

ヒメグマの心の中は、ぬくもりでいっぱいなのですから。

 




〇ガチグマ
鳴き声が『ギィ』だったばかりに妖怪縁結びに目を付けられてしまった可哀そうなポケモン。
実は本家ギィちゃんとは全く関係はない事はタロウに感づかれているらしい。
現在はとこしえの森で静かに暮らしている。
むかーしむかし、ヒメグマはあばたろうに拾われ、幸せだったそうな…

〇ガチグマへのお届け物
どこの誰が送っているのかわからないふしぎなおくりもの…ではなく、中々会いに行かない男にしびれを切らしたどこぞの鬼様がおにぎりを作り、宅配便で郵送していたりする。
たぶん駄菓子屋みたいな喫茶店の厨房を借りて作っている。

〇おとも
今回は喫茶店にてお留守番。
キジが冗談半分でところてんを注文したらガチで出てきたのでドン引きしたそうな…

〇サザレ
今回の一番の被害者。
アオハルではなく妖怪と出会ってしまい、本編より疲れてしまった人。
なお、その後の写真会で賞を取り、スランプは脱した模様。
むかーしむかし、サザレは写真を撮るのが大好きだったそうな…


じかーいじかい……はあるのか?
一応まだ書いてみたいネタはあるんだが……気が向いたら書くかもねー


ここまでご拝読ありがとうございました
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