パルデア地方 南3番エリア
ゴツゴツとした岩肌に囲まれた場所であり、主にコジオやマメバッタといったポケモンが好んで生息している場所である。
そんな南3番エリアに、僕はいた。
僕の名前はハルト。最近パルデア地方に姉のアオイと引っ越して来て、アカデミーに一緒に通っている学生だ。
アカデミーに入学してから数日しか経っていないが、気のいい友人や優しい先生に囲まれ、中々充実した学校生活を送れていると思う。
そんな僕が何故学園を飛び出し、南3番エリアにいるのか。
始まりはアオイの一言であった。
『私達はパルデアについて知らな過ぎる。せめてアカデミー近くに生息するポケモンだけでも知っておこう』
これは、僕自身も考えていた事で、やはり双子だから以心伝心するものだなと感心した。
アカデミーでの授業はパルデア特有のポケモンやその地域に関することが多い。これは元々パルデアに住んでいた人々なら経験などからある程度楽に答えられる問題だが、別地方からの転校生である僕達にとっては一から学ぶ必要がある。
言ってしまえば入学時点で同級生たちとの知識アドバンテージの差があるのだ。これからの為にも、こうして空いた時間でできる事はやっておいた方が良いだろう。
「えっと…あれはメェークル、あっちはマクノシタ…ん、どうしたのホゲちゃん?崖なんか見て……あっ、なんか居るわ」
そんなわけで、僕は南3番エリアでこうして相棒のポケモンであるホゲちゃん―――ホゲータと一緒にフィールドワークをしているのだ。
ホゲちゃんとの付き合いはまだ数週間程度だけど、結構仲良くやれてると思う。
……なんか見た目通り“ボーッ”として指示とかよく忘れるけど、きっとこれから改善するよね。
「あれは……“ガケカニ”ってポケモンかな?後でアオイにも教えてあげなきゃ」
僕はスマホロトムで崖に居たポケモンの写真を撮り、空を見上げる。
もう日が結構高くなってる……早朝から探索を始めたのだが、もうすっかりお昼近くになっていたらしい。
これはそろそろ休憩した方が良いかな……
「ハルトー!」
そんな事をなんとなく思っていると、分かれて探索をしていたアオイが手を振りながらこっちに向かって走ってくる様子が見えた。
大方、アオイもそろそろ休憩を挟んだ方が良いと判断したのだろう。
「お疲れ、アオイ。どうだった?」
「うん、絶好調!トレーナーとのバトルも全勝だし、私とニャオピは最高のパートナーね♪」
「ニャッハー♪」
アオイの言葉に、彼女の肩に乗っていたニャオピ―――ニャオハも得意げな笑みを浮かべた。
……今日は一応、この辺に生息するポケモンについて学ぶのが主目的だったはずなのに、いつの間にかポケモンバトルがメインになってる…
パルデアに来る前はそんなにバトルに興味なかったはずなんだけどなぁ……
(これも、ネモの影響かなぁ…)
僕は頬を掻きながら、ぼんやりとそう考えた。
ネモは入学初日から何かと僕達を気にかけてくれる良い友人なのだが、どうも生粋のバトルジャンキーの気質がある。
三度の飯よりバトル、口を開けばバトル。冗談抜きでこんな人物だ。
例えばそうだな……彼女との会話を例文風にするとこんな感じだ
『こんにちは、今日もいい天気ですね』
『えぇ、こんにちは。というわけでバトルしましょう!!』
『この朝食はおいしいですね』
『はい、とてもおいしいです。じゃあバトルしましょう!!』
『すみません、トイレはどこですか?』
『バトル!!!』
……こんな噛み合ってない会話を日常的に耳にするくらいに、ネモは日常的にしてくるのだ。
そんな感じで毎回ポケモンバトルに誘われるのに、若干うんざりしている僕だが、アオイの方はまんざらでもない様子、むしろポケモンバトルの楽しさに目覚めた様で最近はどうするばバトルで強くなれるのかを独学で学んでいるという有り様だ。
「私達、絶好調!今ならネモどころか誰にも負ける気しないよ!!」
「ニャー!!」
連勝してテンションが上がっているのか、アオイとニャオピは高笑いをする。
……まぁ、アオイもニャオピも楽しそうでなによりです…
それにしても、アカデミーって変わった人多くない?
バトルジャンキーのネモ
ヒロイン力が高すぎるツンデレ系少年のペパー
マッチョな家庭派、何かと号泣する芸術家、歴史キチを始めとした色濃い教師陣たち
そして、学園中の生徒があまり関わりたがらない男―――ジロウ
実は入学して数週間、あれ以降ジロウと直接会ってはいない。
しかし、学園内で何度か見かける事ができたのだが……その時の行動や聞こえて来た会話の内容から、ネモから聞いた評判通りの男だと僕も思った。
学園の誰にでも明るく接する事のできる人間なのだが、自己主張が激しいというか、押しが強いというか……悪い奴ではないのだが、深く付き合っていると疲れてしまうという、そんな男であると感じた。
この様に少し存在が浮いているジロウだが、それに加えてとある要因も彼が他の人から浮いている理由に拍車がかかっていた。
それは、
アカデミー内…いや、世界ではポケモンが関わらない事の方が少ないと断言できる程にポケモンと密接にかかわっていると言える。
そんな中でポケモンとあまり関わらない人間は、周りと温度差が出来てしまう事があるのだ。
もちろん、ポケモンを持っていなくても仕事仲間や研究目的程度で丁度良く関わる人もいれば、そもそもポケモンの存在自体が苦手という人もいるのはわかる。そう言った人たちへの配慮も必要だろう。
しかし、ジロウの場合はどうやら違うらしい。
これは人から聞いた話なので真偽は不明だが……どうやらジロウはポケモン相手にも同じような対応をしている様で、ポケモンからもあまり好かれていない様なのだ。
本人はポケモンの事を嫌っているわけではないのだが、好かれない。そう言った立場も彼と関わるのが難しい要因にもなっているのかもしれないと思う。
「さて…フィールドワークはこれくらいにして学園に戻ろっか。ニャオピも休ませたいし」
ジロウについて考えていると、アオイがそんな事を言ってきた。
……ジロウについて長くなってしまったな。まぁ、多分僕自身もこれから先ジロウと関わるかどうかわからないし、考えても仕方がないか。
……できれば、あんまり関わりたくないなぁ…なんか、自己顕示欲とかの圧がすごいし……
「うん、帰ろう」
僕はジロウの事を頭の片隅に仕舞い込み、アオイの言葉に同意する。
僕も少し疲れたし、午後からは学園でホゲちゃんとのんびりしたい気分なのだ。
「それじゃあ学園に向けてしゅっぱーつ!……あれ?どうしたんだろ、あの人」
アオイの後に続いて歩こうとした時、彼女の足が突如止まり、学園とは万体の方向へと視線を留める。
僕もその視線を追うと、そこには一人の男の人が歩いてくる姿があった。
男の人は、髭面のタンクトップ一枚といったやばそうな……もといバックパッカーのような格好で、下を向きながら歩いてくる。
その足取りはふらふらとおぼつかない様子で、今にも倒れてしまいそうだ。
明らかに様子がおかしい…ただ事ではない雰囲気だ。
「なんだろう、あの人…怪我でもしてるのかな?」
「えー!それ大変じゃん!!おじさーん、大丈夫ですかー!?」
そう言いながらアオイも走って男の人に近づいていく。
もちろん僕もアオイの後に続く。本当に具合が悪いのなら一刻を争う事態かもしれない。前に授業で習った応急処置が役に立てばいいのだが…
やがて、僕とアオイは男の人の元へと到着した。大事ないといいのだが…
「おじさん、大丈夫で「……なきゃ」…すか?」
「強くならなきゃ…もっと強くならなきゃ……あの子に振り向いてもらうためにもジムリーダー…いいや、チャンピオンよりも強くならなきゃ…!!」
アオイが男の人に声を掛けるが、そんな事にも気が付いてないかのように男の人は虚ろな目でぶつぶつと何かに取り憑かれたように繰り返している。
…うん、大丈夫そうだけど一大事だわこれぇ!?絶対関わっちゃいけない奴だぁぁぁ!!!
「あ、あははは…大丈夫そうですね!すみません、勘違いでした!!」
アオイも何かを察したのか、わざとらしいリアクションをとりながら後ずさりする。
声掛けといてなんだけど、これは仕方がない。あぁいう人と関わるのは危ない、絶対にろくなことにならない。
何かが起こる前に避難しなくては…!
「そ、それじゃあ僕らは用事があるのでこれで!行こうアオイ!!」
「が、がってんでぇ!!」
若干変なテンションになりながらもなんとかフェードアウトする空気を作る。
そうだ、今回は縁がなかっただけ。このままこの人とはもう会わないだろう。
男の人とも十分距離が取れた所で、アオイが分かれの言葉を紡いだ。
この言葉で、全て終わりになる―――はずだった。
「じゃあそう言うわけで!色々頑張ってねおじさ「強くなる…俺は強くなるんダアアァァァァァァ!!!!!」ん…ッ!?」
男の人の大声に、僕もアオイも息を飲む。
…いや、息を飲んだのはそれだけが理由ではない。
男の人は叫んだ後、突然紫色の光に包まれ、光が収まるとその姿が異形のモノへと変化したからだ。
全体的に細かった身体は、紫蘇色の筋肉で覆われ
顔はこの世のものとは思えない恐ろしいものへと変化し
頭からはケンタロスの様な2本の太い角が生えて来たのだ。
僕達は生まれて数十年、目の前の存在を初めて見たのだが、僕達はその存在が
そのとある者とは、昔話に出て来る、人々やポケモン達を困らせる存在。
強大な力を持ち、生きとし生けるものたちを害する脅威。
名前は――――
―――鬼だ。
「な…に、あれ……?」
私ことアオイは、驚きすぎてそんな言葉をやっとの思いで捻りだすのに精いっぱいであった。
でも、仕方がないと思う。なんたってたった今、私達の目の前で、少し変なおじさんが理解の範囲を超えてしまった存在―――鬼に姿を変えてしまったからである。
鬼
昔話や伝説に登場する生物で、恐ろしい力を持つ存在。基本的には人間やポケモンの脅威として描かれることが多い。
当たり前だが、私は今まで鬼を見たことはない。しかし、目の前のソレを見た瞬間、それが鬼だとすんなり理解できてしまったのだ。
突然だが、ポケモンの中で怖い印象を受ける種類を問われたら、私はボーマンダやバンギラスの名前を上げるだろう。
町一つを簡単に破壊し尽くしてしまえるパワーやそれに伴う凶暴性がその容姿にも表れており、自分自身知識としてある程度知っている事も恐れを感じている理由だと思う。
しかし、目の前の存在はそれとは違う恐怖を感じる。
ポケモンとは明らかに違う禍々しいオーラとまるでこの世界に居ること自体が間違っているかのような風貌。まるでこの世界に生きる命を冒涜している様な、決して見つけてはいけない存在を見てしまった。
そんな感じの、本能から拒絶しているかの様な恐怖だ。
「強ク……モット強クウウウゥゥゥゥゥ!!」
鬼は雄叫びを上げると、私達に向かって一歩ずつ距離を詰めて来た。
何処かおぼつかない足取り。生まれたてのシキジカのような不安定な歩行だ。
今がチャンスかもしれない!
「ハルト!! 走って……!?」
私はハルトに逃げるように促すが、彼の顔を見て言葉を止める。
ハルトは目を見開き、口をパクパクとさせている。目の前の現象に理解が追い付いておらず、完全に頭が働いていない様子だ…!
「ホゲッ!ホゲッ!!」
ハルトの足元でホゲちゃんがズボンを引っ張っている事にも気が付いていない…まずい!
「ニャオピ! “このは”!!」
「ッ!? ニャッハー!!」
同じように鬼に驚いていたニャオピは、私の言葉に一瞬“ハッ!”と相手を威嚇するような顔つきになり、葉っぱの塊を放つ。
「強…グゥ!?」
“このは”は鬼の顔面に命中し、怯ませることに成功した。
よっしゃ!
「ハルトッ! いつまでもボーッとしない!!」
「ッ!? ほ、ホゲちゃん、“ひのこ”!!」
「ホぉゲぇぇぇ!!」
私の言葉に正気を取り戻したハルトも、ホゲちゃんに技を指示する。
ホゲちゃんの口から放たれる炎の弾丸が、鬼の身体に打ち込まれる。
正直、ニャオピもホゲちゃんもレベルが低い、弱い部類のポケモンだ。
しかし、いくら弱くても流石に2体のポケモンの攻撃をまともに受けたのだ。相当なダメージを受けているはず……ッ!?!?
「ツ、強オオォォォォォォ!!!!」
「そ、そんな!?」
「ニャ!?」
「ホゲゲ!?」
しかし、私の予想とは裏腹に、鬼の身体には傷一つ付いておらず、まったくダメージを受けていない様子だ。
そんな、2体分の攻撃だよ!?進化系のポケモンだって倒せちゃうくらいの技なのに、無傷なんて…!?
「ハアアァァァァ…!!」
私達が驚いていると、鬼は左腕に力を込めている仕草を見せた。
すると、鬼の手には大きな玉…否、いくつもの小さい玉の集合体が現れ―――
「グオォォォォォォ!!!」
その玉を、右手の棍棒でフルスイングし、玉は野球ボールのように辺りに飛び散って私達に降り注いだ!!
「にゃぶっ!?」
「にゃ、ニャオピ!!」
「うわぁ! ホゲちゃん!?」
「ゲッ!」
反応が遅れた私達を庇って、ニャオピとホゲちゃんが代わりに攻撃を受ける。
玉が当たる度に鈍い音が聞こえ、そんな玉がいくつも2体の身体を襲う。
あぁ、そんな!?ニャオピッ!!
「にゃ…お…」
「ホゲ…ッ」
やがて玉の嵐が止み、その中心ではニャオピとホゲちゃんが私達に「逃げろ」と伝えるように小さく鳴き、そのまま倒れてしまった。
「「ニャオピ!/ホゲちゃん!」」
私達はそれぞれのパートナーの元へと駆け寄り、その身体を抱き上げる。
息は…ある。ひんし状態という奴だ。
よかった、ポケモンセンターへ行けば回復できるレベルだ。
でも、2体とも息遣いが荒く、苦しそうだ。早く、早くポケモンセンターへ!!
“ザッ!”
「ッ!? アオイぃッ!!!」
「え」
ハルトの叫び声を聞いて、私は顔を上げる。
そこには、いつの間にか目の前まで来ていた鬼が、金棒を振り上げている光景があった。
瞬間、私の脳裏に今までの人生が浮かんできたような気がした。
大好きなママとパパ、ハルトとの喧嘩と仲直り、友達との別れ、パルデアへの引っ越し、楽しい学園生活…あっ、これ、走馬灯ってやつだ。
私、死ぬんだ…死にたくないなぁ……無理だろうなぁ……
……ハルト、せめてあんただけでも逃げ切って。ホゲちゃん、ハルトの事を頼んだよ。
そして…ニャオピ、こんなトレーナーでごめんね。せめて、貴方だけでも守るから…
私はそう思いながら、ニャオピを庇う様に抱きしめ覚悟を決める。
――――ネモ、約束守れなくてごめんね
“
「グギャァ!?」
そんな軽快な声が聞こえたかと思うと、鬼の断末魔も後から聞こえて来た。
何が…起こったの?
私が顔を上げると、何故か遠くの方で鬼が倒れており、代わりに私の前には赤と金に輝く槍が刺さっていた。
これが…助けてくれたの……?
「見つけたぞ、鬼……今ぶっ倒してやるから覚悟しやがれ」
その時、聞いたことのある男の人の声が聞こえて来た。
思わずそちらを見ると、見た事のある熱血っぽい男の子が立っていた。
「ジロウ……なの?」
ハルトがその男の名前を呟いた。
そう、彼は同じアカデミーに通う同級生―――ジロウ…だと思う。
何故疑問系かというと、普段の彼とは全く様子が違っていたからだ。
ジロウという人間は、少し五月蠅い所もあるが、基本的には人懐っこく、誰にでも明るく振舞う人物だ。
しかし、目の前のジロウ(?)はどうだろう。
顔つきは鋭く、まるでナイフの様に全てを切り裂いてしまいそう。
声にも威圧感があり、絶対的捕食者が目の前にいるかのような錯覚さえ覚えてしまう。
この人……本当にジロウ?
ジロウ(?)は私の近くまで来ると、刺さっていた槍を引き抜き、視線を私に合わせる。
「―――失せろ。鬼退治の邪魔だ」
ジロウは短くそう言うと、私に興味を失ったかのように立ち上がりつつある鬼と向き合った。
「オ、俺ハ…モット強クナルゥ!!」
「そうか……だが、それでも俺の方が強い…!」
そう言うとジロウは槍の刃の部分を掴み、曲げるように倒す。
あれは……槍から斧に変わったの?
「あ、危ないよジロウ!?」
「いいから黙ってろ」
ハルトの心配する声を無視し、ジロウは歯車の様な何かを斧にはめ込んだ。
“タイ!タイ!タイガー! タイ!タイ!タイガー!”
するとどうだろうか、歯車をハメた瞬間、斧から軽快な音楽が鳴り始めた。
変な音だ…でも、不思議と力強いものに包まれるような安心感を感じる…
「…雲?」
ハルトの言葉に、私も上を向く。
そこには、黄金に輝く不思議な雲と、その上にカラフルな扉が乗っかっている光景があった。
なにが……起こってるの!?
「アバターチェンジ……フンッ!」
ジロウはそう言うと、斧を天高く振り上げる。
瞬間、雲の上の扉が開き、歯車の形をした光がジロウを包み込んだ。
まばゆい光に、私は思わず目を瞑る。
“エクス虎!ホアチョーッ!“
光が収まり目を開けた瞬間、私は再び言葉を失った。
そこにはジロウの姿はなく、代わりに一人の戦士の姿があった。
金と銀に輝く鎧
敵を威圧し、怯ませる凶暴なマスク
右腕には何でも破壊できそうな手斧、左腕にはどんな攻撃をもものともしなさそうな盾
見る者全てに感じさせる――――獰猛な希望の光
その戦士の名は――――
「ドン、トラボルト…!!」
ドンモモすら出てないのにドントラボルトが出たんだが…どーすんのこれぇ……
ドンブラはタロウが無敵すぎて敵の強さが良く分からんけど、ポケモンでシソツ鬼相手にできるレベルってどのくらいだろう? 個人的には並みのポケモンならアノーニもキツいと思うんだが……
特撮×ポケモン概念増えろ…増えろ……
ここまでご拝読ありがとうございました