勘違いから始める物語   作:影後

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ランサーとマスター

青年は聖杯戦争を生き残った、正確には亜種聖杯戦争を。

名は、藤原蓮司。

本来、起こるはずのない亜種聖杯戦争に巻き込まれ、ランサーのマスターとして戦い勝利した青年である。

当時、14歳の少年であったにも関わらず、自身の魔術を開発。起源である『加速』を使った戦闘を行いながら戦った。

この『加速』とは衛宮家の魔術『固有時間制御』とは似て非なるものである。

この『加速』は物体の速度を加速させるものであり、これを利用して[とある――の超――砲]のようにコインやら、何やらを加速させ、戦った。

 

「マスター、お前は子供だが……良い奴だった。彼奴みたいだよ、背中を預けるにいい相手さ」

 

「なんでだよ……ランサー!何で」

 

「願いなんで意味ないんだよ、終わった事をぶり返しても意味がない」

 

「……でも」

 

「決めた、俺。お前が死ぬまで絶対お前の敵にならないから!もし、聖杯戦争に呼ばれたら俺を呼べよ?相棒」

 

ランサーは最後にそう言って消えていった。

親友のために戦って、親友のために死んだ彼を…

青年は決して忘れることはない。

 

「っぅ……れ、令呪が」

 

それは消えたはずの令呪。

最後の1画は遺していたが、3画余分に増えている。

それどころか、5年前の様に右腕が熱い。

 

「来た……でも、何処で行われるんだ」

 

前回は巻き込まれた程度であったが、今はどうだ。

このときのために肉体を鍛え上げ、彼から受継いだ槍を練習してちる。

槍術、日本武芸になってしまい違いは出るが、それでも槍には違いない。

 

「……ランサー」

 

写真の中の彼、憧れた存在。

もう一度、彼に出会うために。

 

-ピンポーン-

 

誰も居ないはず、訪ねてくる人間も居ないはずなのにチャイムが鳴った。

 

「……」

 

青年は槍を隠すように背負い、ポケットに小石を入れる。

生身の人間なら小石を使った指弾で気絶させられる。

殺す時は加速させれば良い。

 

幸いな事にサーヴァントの気配はない。

ランサーから教わった敵の気配というものも感じない。

 

「あっ…ひっ!久し振りだね!!」

 

「……立香?」

 

それは向かいのマンションに住んでいる藤丸立香だった。

彼女の両親の話では何も言わず、「国連の組織に勤務することになった」という電話1本の後に、所在不明、連絡がつかなくなっていたという話だ。

彼女も就活をしていたのにいきなり、国連の組織とはと驚きはしたものの、幼馴染の道に何も言う気はない。

 

「どうした、俺は忙しいんだ」

 

「……実はね、私の職場に推薦したいなぁって」

 

「何を……」

 

「だって、レンジって家族誰も居ないでしょ?私の職場は住込みだし、お給料も良いよ」

 

「いや、だが……」

 

亜種聖杯戦争の事は話せなかった。

目の前の存在は神秘を知らないはずなのだ。

だが、何故かそこに行けば何かが判るのではと感じた。

あり得ない、理解できないことなのだ。    

 

「…わかった、でも推薦って言っても」

 

「大丈夫だから、面接官は私が担当!私がOKした!採用!」

 

「…馬鹿な」

 

何処か混乱しつつも、青年は話を繋げた。

 

「なら1日待ってくれ、この家から必要な物を持っていく」

 

「わかった!荷物とかは安心してね!検査とかないよ!ちょっとエッチな物とかあっても」

 

「コラ!」

 

簡単に頭を小突くと、痛い振りをしながらも笑顔となる。

 

「じゃあ、私お父さんとお母さんに挨拶してくるね」

 

「あっあぁ……」

 

何処か、あの笑顔が懐かしく思える。

 

「懐かしい?」

 

別に1年程会わなかっただけだ……1年?

 

「そうだ、去年……何をしていた?俺は、何をしていたんだ」

 

気づけば1年が経過するという、皆が違和感なく生活していたがおかしい。

そうだ、俺は去年から今年にかけて何をしていたんだ。と青年は思案する、だが答えは帰ってこない。

 

「……ここで現れる立香。まさか、彼女が」

 

「ごめんね」

 

「!」

 

その時だ、後から何かが吹きかけられた。

激しい睡魔に襲われれば、身体の自由が効かなくなる。

 

「うん、ダ・ヴィンチちゃん。大丈夫、連れて行くね」

 

自由が効かない身体で進む、意識が朦朧とする中であの槍だけは離さない。

背負った槍を握り締め、その存在に振り返る。

 

「ごめんね、レンジ」

 

「……りっか」

 

  

目が覚めた時、俺はベッドに寝かされていた。

至福のジャケットと令呪を隠すためのレザーグローブ。

何処もおかしな所はない。

 

「……!」

 

「おかしいな、この部屋に居るはずなのだが」

 

それは人間ではあり得ない巨大な腕部。

 

(サーヴァント)

 

「…見ているな!」

 

「加速!」

 

「なっ!」

 

ジャケットの中に入れていたコインをレンジはサーヴァントに向けて放った。

魔力の籠もった一撃だ、サーヴァントといえど生身で受ける事は難しい。

 

「まちたまえ!」

 

「…!」

 

「…お前は」

 

「くっ…セイバーのサーヴァント!やはり、聖杯戦争か!」

 

「待て!話を」

 

「お前の真名は覚えているぞ!ジークフリート!!」

 

「ならば!」

 

ジークフリートの振るうバルムンクを紙一重で回避する、

流石のセイバー。最良のサーヴァント。

剣筋、速度、全てが一級品だ。

 

「…不味い」

 

強化魔術を使い、近くの扉に入る。

中では見慣れない服装をした人間達が食事をしている。

 

「……」

 

奇怪な目を向けられるが、セイバー。ジークフリートから逃げている最中、逃げることでどうにか。

 

「待て!」

 

「藤原蓮司が逃げた!諸君、確保を」

 

ジークフリートと館内放送の様な何か、レンジは近くで食事をしていた男を吹き飛ばし、逃げる。

 

「食堂で乱暴はヤメてもらおうか!」

 

「!」

 

赤い外套の男、歴戦の風格があり対峙すれば命の危機を感じさせられる。

 

「生憎だが、此方は自分の命の方が大事なんでな!」

 

「?待て!君は」

 

「待つんだ!」

 

「ジークフリート!!」

 

ランサーの槍もない、武具もない。

だが、強化魔術と加速魔術がある。

 

「…火の回りはどうかな!」

 

「よせ!やめろ!!」

 

青年はガスコンロに目をつけた。

火はまだついたままであり、ガスボンベも見える。

 

「加速」

 

コインがレールガンの如くガスボンベに命中する。

激しい破裂音と共に食堂は爆炎に包まれた。

 

 

 

 

それを管制室から藤丸立香、マシュ・キリエライト、そして万能の人レオナルド・ダ・ヴィンチは見ていた。

 

「彼はテロリストか何かかい!」

 

「いやぁ……そんなはずないんだけど!」

 

「マスター!職員の方が人質にされてます!」

 

「うそ!」

 

「え?嘘だろ、彼今エミヤの狙撃回避したぞ!」

 

「それだけじゃありません!先程からジークフリートさんの攻撃も紙一重で避けています!怪我はしていますが……というよりも皆さん殺気立ってます!」

 

「マスター!あの男は危険だ!此方もそれ相応の」

 

「やはりか!聖杯戦争のマスターである俺を殺しに来たか!ジークフリートも、貴様も!良いだろう!!」

 

「あっ!医務室に!!!」

 

「もう、不味いよ!立香ちゃん、不味いけど全サーヴァントを動かす!彼を捕らえるんだ!」

「此方、ダ・ヴィンチ、全サーヴァントにつく!黒ジャケットの一般男性を全力で確保してくれ!カルデアの危機だ!」

 

ダ・ヴィンチがその一言を発してしまった。

つまりは藤丸のサーヴァントが全力で動くということだ。

 

 

 

 

「くそ………やってやる」

 

「その目、戦士の目だ。良いねぇ……この感じ!」

 

「くっ!」

 

「そらそら!」

 

レンジは彼から受継いだ槍を構え、戦う。

目の前の存在は確実にランサーだ、ここまでで何度も同じクラスのサーヴァントと対峙している。

 

「どうした!その程度なのか!」

 

「死ねない……俺は死ねない!彼と……彼と合うために!彼にとって!戦友だと誇る為に!」

 

「っと……捕まえなくちゃいけな……!!てめぇ!!!」

 

ランサーの前で地面が光った。

レンジは膝を付き、大量の血を流している。

たが、その目は只管にランサーを見ていた。

 

それは歪ながら、血で描かれた召喚陣。

 

『素に銀と鉄

 

 礎に石と契約の大公

 

 降り立つ風には壁を

 

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

 

繰り返すつどに五度

 

ただ、満たされる刻を破却する

 

――――告げる

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に

 

我は常世総ての善と成る者

 

我は常世総ての悪を敷く者

 

汝三大の言霊を纏う七天、

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!』

 

 

絶望の中の一筋の光に縋りながら、それは願った。

 

「随分とやばい状況だな、戦友」

 

膝をつき、意識を失いかけながらも、現れた存在に笑みを零す。

 

「馬鹿言うなよ、俺は……まだやれる」

 

「土壇場でサーヴァントを呼ぶだと?あの坊主みたいな事しやがって……」

 

「さて…ランサーと見るが………生憎だね。俺は戦友を殺すつもりはない」

 

「つまり?」

 

「はじめから本気という事さ!!」

 

金色の鎧を身に纏い、兜を被りし英雄。

 

「行けるか!戦友!!」

 

「当たり前さ、戦友!!」

 

同じ槍を持ちながら、彼とレンジはランサーに迫る。

 

「ちぃ!おもしれぇ……何を勘違いしてるか知らねぇが……やるってんなら俺も本気だ!」

 

「待って!」

 

「敵マスター!」

 

「不味ぃ!!」

 

「先輩はやらせません!!!」

 

変な格好をした少女に邪魔をされ、レンジは吹き飛ぶ。

しかし、空中で受け身をとり地面に落ちた際のダメージを最小限に抑えた。

 

「!」

 

「レンジ!説明しなかったのは謝るから一旦落ち着いて!」

 

「俺は落ち着いている!令呪があり、お前もサーヴァントを従えている。つまりは聖杯戦争だ、お前を殺せば敵のサーヴァントは消える!」

 

「違うの!」

 

「俺を眠らせ、令呪を奪う気でいたか!」

 

「信用してよ!」

 

二人の距離がジリジリと狭まる。

 

「……後から襲ってきた女を信じろと?」

 

「……ごめんなさい、でも!話せなかったの!!」

 

「…………………………」

 

「なぁ、坊主。少なくともうちのマスターはクズじゃねぇ」

 

リッカはレンジを管制室に連れて行く。

だが、レンジを狙うように数多のサーヴァントの視線が重なる。

 

「……ようこそ、藤原蓮司君。カルデアへ」

 

「………キャスターのサーヴァント」

 

「先ず、君の話を聞きたいね。リッカちゃんの話だと君は魔術を知らない一般人だと」

 

「……つまり、魔術師か」

 

「えと?」

 

「落ち着け戦友、この女は君の仇じゃない。奴は死んだ、君が殺した」

 

レンジは槍をキャスターのサーヴァントに構えながら、涙を流し、憎しみの、復讐の焔を燃やし、喋る。

 

「………14歳の時聖杯戦争に参加させられた。ドイツ・ベルリン。亜種聖杯戦争という物だ、魔術師に俺達家族は殺された。俺の魔術回路は俺達家族をタンクにしようとしていた魔術師から奪ったものだ」

 

「うそ…おじさんとおばさんは」

 

「話せるかよ、過去の英雄との死闘。人間殺し、信じたか?お前はさ!誰も信じないだろうが!誰も!家族すら信じなかった!挙句の果てに俺は精神異常者のレッテルまで貼られたんだ!親族から捨てられ、残ったのは両親の遺産と、家、そしてランサーから貰ったこの槍だけだ!」

 

レンジは涙を流していた、魔術師によって全てを奪われたのだ。

自分の家族だけでなく、未来さえも。

 

「そして……まさかお前も俺の命を」

 

「戦友、落ち着くんだ」

 

「……」

 

「リッカちゃんは君をここに連れてきたかった、この秘密を話して協力して欲しかったんだよ。それだけさ」

 

「……人は常に裏切る、親友でも、家族でも。裏切らないのはサーヴァントだけだ」

 

「戦友?」

 

「俺には………ランサーしかいない。だから、ランサーがリッカ。お前の仲間になるというなら、俺は納得する。裏切れば……お前の首を」

 

「…マスターはやらせません!」

 

「そうさ、おじさんも」

 

「なっ!」

 

「貴様は………ヘクトール!!!!」

 

ランサーよりもレンジが憎しみに満ちた声を上げる。

 

「?おじさん、君みたいな子供は」

 

「……ランサーを殺した男」

 

「よせよ、戦友。昔の話だ」

 

「そうか、リッカちゃん!彼の…ランサーの真名がわかった!アキレウスを呼んできてくれ!」

 

「うん!来て!アキレウス!!」

 

そしてアキレウスが召喚された。令呪による転移ながら、槍を構えている。

 

「……お前は」

 

「あーーーそういう」

 

「……リッカ、お前。最低だな、よりにもよってランサーの心の傷を」

 

「………良いさ、久し振りだな。親友」

 

「お前………パトロクロスか」

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