勘違いから始める物語   作:影後

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看護師見習い藤原蓮司、槍男の師匠と出会う

「あの、フローレンス先生!止血のやり方はコレで」

 

「フジワラ候補生。貴方は筋が良いですね。

包帯の巻き方も十分です。

では、次は骨折の対処法です」

 

「はい!フローレンス先生!!」

 

レンジはナイチンゲールを先生と呼びながら、

現在は応急処置を学びながら、数多の講師に基礎学力。

医学、薬学、そして戦闘技術を学んでいる。

 

「……今回はこのぐらいで。次の授業は運動です」

 

「スパルタクス先生……顔が怖いのと、

なんというか…よくわからなくて……

あの人、傷あり過ぎですし。それに……

手当しないとちょっと落ち着かなくて」

 

「レオニダスにも居ますから」

 

「判りました。頑張ります」

 

レンジが去った数分後、

藤丸がダ・ヴィンチを連れて医務室へ訪れた。

 

「ナイチンゲール、レンジ君はどうだい?」

 

「我々の全てを話しましたが、記憶は封じられたままです。

むしろ、良い事だとパトロクロスはいっていました。

魔術的知識は抜け落ちているようですが、

身体能力、学力、共に優秀でありきちんとした場所で

学べれば、一流の医者になれていたでしょう。

マスターの気持ちもわかりますが、

彼の才能は人類の損失です。

アスクレピオスも同じように言うでしょう」

 

「そんなレベルだったのかい」

 

「……ご安心を。

話を聞いた限りでは、彼の才能は既に死んでいました。

記憶を失い、カルデアに来たことで初めて理解したでしょう。

ついでに言えば、槍術よりも射撃が得意ですね。

戦時中であれば、衛生兵か赤十字、どちらにしても、

彼の今はありませんが」

 

それでもカルデアの医療スタッフ見習いなのはありがたい。

ナイチンゲールはそう話す。

 

「……あっ」

 

「その〘あっ〙って何、ダ・ヴィンチちゃん。

声出すほど」

 

『くっ……何なんだアンタは!』

 

『ほぉ、マスターの同郷とは聞いたが……

中々良い戦士ではないか』

 

『くっ……』

 

「今すぐクー・フーリンをトレーニングルームに!

レンジが師匠に捕まった!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ートレーニングルーム

 

レンジは自分に振るわれる槍を流れるように回避していた。

手加減はされているだろう、だがその一撃一撃は

確実にレンジを殺しに来ている攻撃だ。

 

「どうした?避けてばかりで」

 

「……くっ」

 

近くに武器になりそうなものを探す。

そこで見つけたのはバーベルシャフトだ。

さっきまで、トレーナーのスパルタクスと使っていた物だ。

 

「……死んでも、知らないからな!」

 

攻撃を回避し、バーベルの近くに。

そのまま遠心力でシャフトを槍を振るう女性の頭にぶつける。

軽く20kgはあるんだ、普通なら死んでしまう。

 

「ふっ…」

 

「片腕で……片腕で……防いで」

 

「面白い、貴様。勝ち筋を見いだそうとしているな。

どんな卑怯な手でも使い、勝とうとする。

弱者なりの考え方だ、死ぬ事を恐れ、立ち回る。

私の時代には居なかった戦士だな」

 

「私の……時代?」

 

「そうか……お前は記憶を……ならば」

 

振るわれる槍の動きが何故か予想できた。

何故か、知っているかのように身体が動く。

レンジは知識を忘れている。

だが、経験は未だに生きている。

だからこそ無意識に身体が動く。

 

「…考える前に動くか、どれ程の戦士でもそれは難しい」

 

「何が」

 

「だが、反射だけではいけない。思考と反射の融合。

それが戦士においては必要なのだ」

 

「……なにを」

 

「お前の本気を見せてみろ」

 

槍がレンジの回避先を狙うように振るわれる。

突くだけではない、薙ぎ払い、その真価を発揮する。

サーヴァントではなく、人間の達人レベルまで落とした

それを、レンジは対応できている。

シャフトを使い、ときに突くだけでなく、叩く、薙ぎ払うと、

己が理解している以上に戦い慣れているのだ。

レンジの記憶は戻らないが、戦いの経験値は確かに蘇っている。

むしろ、スカサハという上級者との戦いがより覚醒させている。

 

「もう…手加減は終わりだ!」

 

スカサハのゲイ・ボルグがレンジの心臓を貫こうと動く。

だが、そこにあるはずのない槍と盾、そして鎧が現れる。

 

「ほぉ、逸らすか」

 

それはレンジのサーヴァント、パトロクロスやアキレウス

らと同じ意匠を施された鎧。

レンジ自身は気が付いていはいようだが、

赤羅様に強くなっている。

 

「面白い……」

 

「何が何だか判らない…でも、

貴女を倒さないと僕が生きれない事だけは判った」

 

そこにいるのは現代に生きる青年ではない、

トロイア戦争の英雄。アキレウスとパトロクロスの2人が

まるで乗り移ったかのように鋭い目つき。

そして、明確に倒すという意志がある。

 

「……容赦はしない」

 

「こい、現代の英雄」

 

レンジの槍の突きをスカサハは弾く。

それを予測していた様にレンジは盾を突き出す。

 

「ほぉ、盾を護りだけでなく武器として使うか!」

 

何処か歓喜しているように声が上がっている。

 

「盾は重い、重いとは鈍器に使えると言う事だ!」

 

盾を横に持ち、ナックルの様な感覚で繰り出す。

それを回避したスカサハはゲイ・ボルグを突き出す。

それを槍で弾き、守る。

 

「盾で殴り、槍で護るか。逆ではないか?」

 

「盾で殴り、序盤で捨てる!それが現代の盾なんだよ!!」

 

「…後で藤丸に聞くか?」

 

流石におかしいと感じるスカサハ。

そもそもレンジと戦ったとしてスカサハの敗北する可能性は、

零、いくらサーヴァントという影法師として実力の大半を

封じられていても全てを封じるわけではない。

剣を持てば振るい戦うことも出来る。

あくまでも、その役に入れられただけだ。

それでも、スカサハという絶対強者は負けない。

レンジというチャレンジャーに無理矢理させられた青年は、

勝つことは出来ないほどに実力差がある。

そして、鎧に槍を突き立てられ壁に打ち捨てられる。

 

「……動きが緩慢だぞ?」

 

「……緩慢…緩慢か、最悪な状態で最高な事を思い出した。

僕には信じられる人がいる。

呼べば来てくれる、最高のヒーローがいる。

何で着てるか判らない、この鎧と同じ物を身に纏い、

僕を守ると言ってくれた、最高の英雄がいる」

 

そう言うとレンジは右腕の紋章を掲げた。

あり得ない事だった。

令呪が消費されていないにも関わらず、

レンジの前に魔法陣が現れる。

 

「……戦友」

 

「どうやって出会ったかも、何があったかも思い出せない。

でも、貴方の事を忘れたいなんて思わない。

僕にとって、最高最善の英雄」

 

「……随分と懐かれているな」

 

「あぁ、ケルトの怪物に届くか判らない。

でもな、俺の後ろに護るべき存在がいる。

俺が護ると誓った、存在がいる。

負けられない、俺は負けない。ヘクトールにも、

アンタにも」

 

「行こう、パトロクロス。

あの全身タイツの痴女を倒すんだ」

 

「戦友、言葉は……選ぼうな」

 

「……全身タイツの痴女、フフッ……

シゴキがいのある男よ」

 

「五月蝿いな……

何でこうもオバサマ方に好かれるんだ僕は」

 

「戦友…戦友……ちょっと黙ろ?

だんだん…俺でも怪しく」

 

「大丈夫だよ、パトロクロス。僕達は負けない。

だって、俺の魂がそう言ってる。俺と、パトロクロスが

隣にいる。なら、無敵だ」

 

「まったく………」

 

「歳上に対する不敬、謝罪するなら今だぞ」

 

「……殺されかけた、殺そうとした奴を俺は何故か判らない。

けど、尊敬するつもりも、ましてや敬うつもりもない。

だから……死んじまえよ!!アンタも!」

 

「面白い……その秘めたるを、私に示してみろ!」

 

 

 

藤丸視点

「何アレ?!アキレウスみたいな鎧してるし!

明らかに速いよ!」

 

「おそらく……

アキレウスとパトロクロスの能力のハイブリッドだろうね。

まるでアニメのヒーローじゃないか?!

生命の危機に瀕した瞬間、眠る力が覚醒した。

はっきり言って、彼ありえないよ!」

 

レンジはパトロクロスと阿吽の呼吸をしながら、

スカサハと渡り合っている。

パトロクロスは堅実に戦っているがレンジの戦い方は、

トリッキーであり、管制室からそれを見ているアーチャーは

時折「何と」と驚く声を上げる。

 

「……今すぐスカサハを」

 

「クー・フーリン達が何かに邪魔されて

シミュレータールームに突入できない?!

ルーン魔術か?!スカサハは何を考えているんだ!!」

 

「……レンジ」

 

今のレンジは来た時とは違い、普通の少年だった。

でも今見ているレンジは違う。

血を流しながらそれを癒し、

そしてスカサハと真正面から戦っている。

 

「……サーヴァントみたい」

 

もし、あの旅にレンジが居たらと思えてしまった。

居たら、ドクターも…………

 

『終わりだ、ゲイ・ボルグ!』

 

『終わらない…俺は………俺の戦いは!

俺の夢を、先生に認められる医者になる。

そのために、俺の邪魔をするお前を……殺す!』

 

『戦友、二人なら勝てるさ!』

 

スカサハのゲイ・ボルグと、

レンジ・パトロクロスコンビの槍がぶつかる。

 

『『俺達が………勝つ!!!』』

 

『……見事だ』

 

スカサハは負けなかった。だが、認めていた。

レンジとパトロクロスは全力でスカサハを倒そうと

していたのに、かなわなかった。

 

『……まさか、返り討ちとはね』

 

『小僧はお前に合わせようとしていた。

慣れない力でよくやるものよ。だからこそ、隙ができた。

100万分の1だが、その一瞬を突くことは容易い』

 

スカサハは二人の呼吸が乱れる一瞬、100万分の1秒を突き

ゲイ・ボルグでレンジの心臓を突き意識を喪わせた。

鎧がなければ死んでいたが、それも込みだ。

 

『師匠!何やってやがる!』

 

『クー・フーリンか、

中々見所があるがこの小僧の成長は望めん。

記憶が戻らんと、意味がない』

 

暴れるだけ暴れると、スカサハは消えた。

残されたパトロクロスとクー・フーリンはレンジを

医務室に運んで、そのまま別れる。

 

「………ここは」

 

数刻後、レンジは目覚めた。

隣には懐かしい幼馴染が座って寝ている。

 

「……りっ……」

 

立香の名前を呼ぼうとした瞬間、頭が激しく痛んだ。

まるで殺意のように怒りが湧き、

槍を突き刺そうと無意識でしていた。

 

「え…………僕は………何を」

 

だがそれを止めていたのも無意識な自分だ。

右腕は立香を殺害しようと槍を出したが、

左腕は全力で立香を護ろうと槍の動きを止めている。

理性を戻し、立香から離れる。

 

「僕は……僕はどうしてしまったんだ」

 

寝ている立香に毛布を被せる。

そして、誰もいない通路を進みトイレに入る。

 

「は………あっ……ぁぁぁぁ」

 

激しい悲鳴が腹の奥底から出てくる。

辺り一面が血の海というだけではない。

父が、母が、血溜まりの中に沈んでその中でじっと

レンジを見つめている。

 

『何故、生きているの?』

 

『俺達は…苦しんで死んだのに』

 

「レンジ…レンジ!!」

 

「りっ……か……」

 

「レンジ?大丈夫?何が」

 

「父さんと……母さんが居た。

いま…今そこに……血だらけで………

僕の手……も………へ?」

 

「……フジワラ候補生、貴方はトラウマを見たのです。

大丈夫、此処には貴方の敵は居ません。

大丈夫です」

 

「……すみません、皆さんもごめんなさい」

 

レンジはそう言いながら逃げるように立ち去る。

 

「スカサハめ……患者を面倒な方向に」

 

「婦長……それって」

 

「スカサハとの戦闘で、奥底に封じた感情が呼び戻された。

そう見て良いでしょう、彼は戦士ではない。

兵士になるにも、戦士になるにも、心構えはない。

彼は子供ですよ」

 

今、カルデア内でレンジを理解できるのは二人。

レンジが魂からの安らぎを得られるパトロクロス。

そして、レンジが尊敬し心を開いているナイチンゲール。

その二人のみだ。

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