PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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【超重要】 シンフォギアのキャラ達のカルマ値がマイナス天元突破しています。
 地雷の方は回れ右 アンチコメントお断り 地雷への配慮一切なし
















―――いいんですね?


 覚悟してみていってください。















 それでは、どうぞ。


プロローグ

 突然だが、皆は『歌』と言うものは好きだろうか?音楽の形態の一つで、リズムをつけた歌詞を連続発声するものを指している。

 結論から言おう。俺は『歌』と言うものが大好きで大っ嫌いだ。えっ、矛盾しているだろって?まぁ確かにそうだ。大好きで大嫌いだなんて、矛盾している。なら一つずつ答えていこう。

 

 俺が歌が好きな理由は、歌を聞くと気分が良くなるからだ。これは単純に誰だって――歌が好きな人からすれば、共通の理由だろう。歌を聞けば気分が高揚する、気分がリフレッシュする。だから好きな曲、聴きたい曲を見つけてそれがお気に入り――好きになるのだ。

 

 逆に、俺が歌が嫌いな理由。それは、『歌』は俺の大嫌いな奴らを思い出す最大の要因となるからだ。元より、この世界は『歌』が重要なキーワードになっている。だからこそ、『歌』と言う言葉だけでアイツらを思い出して最悪な気分になる。そしてその気分を、自分の好きな歌で誤魔化して、また『歌』と言う言葉で気分が悪くなる。この悪循環の繰り返しだ。これが終わる際は、必ず最悪な気分で終了する。

 

 だから話そうと思う。話せば、少しは気分が和らぐかもしれないから。

 

 

 

これは、数多に存在する並行(IFの)世界の中で、断トツに最低で、最悪で、醜悪な世界の物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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○月×日

 

 

 

 

 

 自身の育ちは孤児院だ。

 両親の顔なんて覚えていない。どうやら生まれてすぐに孤児院の門の前に置かれていたらしい。そこはもう気にしていない。元より顔も覚えておらず、自分のことを捨てた無責任な人間だ。気にするだけ無駄と言うものだ。

 

 だからだろうか。友達――と言うか明確なグループ分けがあった。グループと言っても、幼稚園や保育園などで言う友達グループのことだ。家族持ちの子供と、孤児院グループと言う、明確な差。自分もその類に洩れず、孤児院グループで仲間(ともだち)を作り、遊んだ。孤児院の暮らしでも、それは楽しかった。

 

 ただ、一つ気になることがあるとすれば―――、

 

 

「コハクくーん、はーやーくー!」

 

「早くしないと置いてっちゃうよ?」

 

「分かったって!そんなに急がなくてもいいだろ!?」

 

 

 忙しそうに放課後の教室から出ていく一人の少年と二人の少女。とても目立つ白髪碧眼の少年に、茶髪で活発な少女に、黒髪で清楚なイメージの少女。彼らを見てなぜか、自分は猛烈な違和感――変な感じを覚えた。彼らとの接点なんて皆無に等しい。強いて言うならクラスメイトだということだけ。それだと言うのに、心がモヤモヤする。

 これは恋と言うものなのだろうか?いや、それはないだろう。自分はあまり積極的なタイプではないし、何よりあの三人で雰囲気(ムーヴ)が完成している。そこに自分が入り込む余地などない。

 では嫉妬?異性と楽しそうに過ごしている、少年への嫉妬だろうか。自分は異性との交流などほとんどなく、同じ孤児院の異性ともほとんど関わったことがない。いや、そうだとしても嫉妬の感情に不可欠な怒りと言う感情はない。

 

 教室の扉から出ていった少年――【世創(セイソウ) 狐白(コハク)】と、【立花響】と【小日向未来】。三人の背中を見ながら、彼は孤児院の仲間に呼ばれ、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

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○月×日

 

 

 

 

 

 

 

 小学校を卒業し、もうすぐ中学生だ。制服も一新し、心構えも変えなければいけない時期。これから頑張ろう。

 そして相変わらず、あの三人のことが気になって仕方がない。年齢的にも精神的にも成長して、何度もこの感情の正体を探ろうしたが、相変わらず分からず仕舞いだ。恋でも嫉妬でもない、と言うことは分かってはいる。だが、なにか変な違和感がある。それが拭えず、ズルズルと引きずっている。

 

 相変わらずあの三人は仲が良い。大分前にチラッと聞いた話では幼稚園からの幼馴染らしい。そりゃあそこまで仲良くなれるわな。

 

 今日も今日とて、彼らを見ての違和感は拭えず、一日が終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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○月×日

 

 

 

 

 

 

 ツヴァイウィング。【天羽奏】と【風鳴翼】の二人で構成されている人気ユニット。そのユニットのライブが、近々行われるらしい。チケットも予約開始から即完売するほどの人気っぷりだ。よほどすごいのだろう。コンビニやデパートに行く際に良く、BGMとして流れているのを聞いている。確かにいい曲だと思う。

 

 こんな話を急にしたのは、あの三人の会話を聞いたからだ。どうやら運がいいことに、3人ともライブのチケットに当選したらしい。どんな確立だろうか。まぁ自分には関係ないことだ。チケットを買うお金も、方法もない。そんなことを思いながら、俺は今日も孤児院の仲間とともに駄弁って過ごす。

 

 それでも、その名前を聞いたときに、頭が痛むのは何故だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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○月×日

 

 

 

 

 

 

 世紀の大事件が起きた。あのツヴァイウィングのライブで『ノイズ』が発生したらしい。ノイズとは11年ほど前に特異認定災害に認定された、触れた人間を炭に変えてしまうというトンデモな奴ららしい。そんな奴らがよりによって10万人も集まったライブ会場で発生するとかどんな天文学的確率だろう。

 

 生還者はツヴァイウィングの【天羽奏】と【風鳴翼】と少数の観客。――そして、その最悪のライブへと行っていたクラスメイトである世創、立花、小日向はと言うと――結果だけ、立花だけ大怪我を負って現在入院中とのことらしい。世創の方は奇跡的に無傷で済み、そもそも小日向は急な用事でライブにすら行っていなかったとのことだ。

 

 早く治るといいのだが。

 

 

 

 そうそう。そのツヴァイウィングの事件に、突如として白狐のようなやつが現れてノイズを一掃したという噂が立っていた。ノイズには現代科学による武器は一切通用しないはずなのだが…。狐だし、神様だったりするのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●月×日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナンデ ドウシテ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――雨が降っていた。突然の豪雨だ。この豪雨は大体夕方の4時頃に突然降ってきた。部活のない学生、外での部活が休みになり帰るだけの学生たちが、こぞって校門から出ていく。ある者は持参していた折り畳み傘を使い、ある者はずっと放置していた自身の傘を使って得をしたり、またある者はカバンを傘替わりにして走って帰宅するもので溢れていた。

 残っているのは教師や用務員、吹奏楽部などの室内での部活の生徒のみだ。――ある一人を除いて。

 

 

「――――」 

 

 

 彼はその学校の校舎裏で、血まみれで倒れていた。体の至る所に打撲痕があり、制服もボロボロ。そして何よりも注目すべきは、左のまつ毛辺りから左目を通りすぎている真っ直ぐな深い切り傷だ。

 浅い意識の中彼は、辛うじて意識を保っていた。だが降っている豪雨が彼の体を濡らし、体温を奪う。悲しみのあまり右目からこぼれた水滴が、雨によって誤魔化される。

 

 彼は自問自答する。何故こうなったのかを。

 

 

 

(なんで?なんでこうなった?俺、なにも、悪くないよな…?)

 

 

 そう心の中で自問自答する。自分はなにも悪くない、悪くないはずなのに――。

 

 

「アレ?やっぱり、俺、あの日、ライブに、居たん、だっけ、か…?」

 

 

 彼の中に存在する――存在()()()()()()()()存在しないはずの記憶。

 その記憶とは、あの日ツヴァイウィングのライブ会場にいて、そこでノイズに襲われて、必死に生きるために、周りの人を押しのけて、それで――

 

 

「そうだ。そうだよ…俺は、立花を、押しのけて…」

 

 

 押しのけて、致命傷を負わせた。そうだ、自分のせいだ。自業自得だ。生きるのに必死だったとはいえ、他人を犠牲にして生き延びようとしたんだ。だからこんな扱いされて、当然だったんだ。

 

 

 そもそも、こうなった経緯は単純だ。あの事件から数か月後、彼の目覚めは突然だった。彼は目覚めたとき、全身が濡れていた。この歳でお漏らしなどはあり得ず、そもそもお漏らしで全身が濡れることなどあり得ない。そんな濡れた原因は目覚めてすぐ目の前に飛び込んできた。それは、孤児院の仲間であり友達であるはずの男たちが、カラのバケツを自分に向けていた光景だった。そして自分に向けられる、悪意しかない笑み。そんな突然の光景で放心していた彼に放たれた、最初の言葉は――

 

 

 

 

 

「起きたかよ、人殺し」

 

 

 

 

 

 そんな、罵倒だった。

 彼は即座に声を荒げよう()()()。「なんのことだ」と叫びたかった。だが不思議と、なぜか、そんなことを言うのは間違っていると、心の奥底で別の自分が、そんなことを言っている気がした。正直自分でも訳が分からなかったが、彼は反論をすることができなかった。

 

 そこからは地獄だ。

 朝の食事にはゴミが混ざり、当然のようにそれを笑う孤児院の子供達と大人たち。その朝食を食べずに席を立とうとしたら、後ろから頭を押さえつけられてゴミ入りの食事に顔を突っ込まれる。

 だがそんなの序の口だ。学校の制服は外で泥に汚されており、この時点で学校に行くという選択肢が生まれるはずがないのだが、体や思考は強制されたかのように泥をある程度洗った後に濡れている制服をドライヤーで乾かして投稿した。もちろん遅刻だった。

 

 

「――――」

 

 

 教室に入ったら、彼を襲ったのは嘲笑と悪意の嵐だ。教室の人間の視線、そしてここに来るまでの人間の視線に唇を噛んで耐えながら進んできた。そして次に目立ったのは普段中央部分にあったはずの自分の机と椅子が窓際の一番後ろにまで移動されていた。そして、机や椅子には“死ね”“人殺し”“卑怯者”などの罵詈雑言が油性ペンで書かれていた。

 

 それを見て呆然と立ち尽くしていると、ガラガラと教室の扉が開いた。そこから出てきたのは、左腕にギプスを嵌めて松葉杖で移動している立花と、それを支えている小日向と世創の姿だった。

 三人は教室で彼の姿を視認すると、まるで親の仇かのように睨みつけてきた。そして世創がズカズカと近づいてきて鬼の形相で彼の胸倉を掴んだ。

 

 

「お前…!!よくも響の前に顔を出せたな…ッ!」

 

「えっ…」

 

「なに惚けてんだ!あのライブ会場で、お前は立花を押しのけて自分だけ逃げ延びたんだろうがッ!」

 

 

 なんだソレは。そんなの、記憶にない。そもそも、ライブ会場になんて行ってすらいない。彼にはそんな運もお金もない。それなのに、居たことになっている?

 「そんなわけない!」――そう叫ぼうとした。でも、なぜか言葉に出すことができなかった。何故?周りの悪意への恐怖で言葉が出なかった?

 

――違うそうじゃない。“そうだった”と納得している自分が、自分の中にいた

 

 

 胸倉を掴まれたまま呆然としていると、今度は小日向の方が彼へ近づいてきて――彼の顔に、平手打ちをした。彼の頬が、赤く腫れた。

 

 

「最低…。響にあんな酷いことしたのに、悪びれもしないなんて――!」

 

 

 言葉が出なかった。まさかあの小日向がここまで暴力的な行動に出るなんて。

 小日向は清楚で穏やかなイメージの少女だ。誰よりも親友である立花と世創を大事にし、寄り添う人間。そんなイメージの強い小日向がこんな暴挙に出ることは、彼に思考を停止させるほどの衝撃を与えた。

 

――いや、だからこそだろうか。小日向はあの二人を何よりも大事にしている。だからこそ、怒っているのだろう。

 

 状況処理ができず、痛みで呆然としていると、いつの間にか時間になったのか、教室に担任の教師の男が入ってきた。教師は彼のことを冷めた目で見てきた後、彼から視線を外して教卓に荷物を置いた。

 

 

「おいお前ら。席に座れ。朝礼始めるぞー」

 

「「「はーい」」」

 

 

 周りの人間が席に付き始め、立花たちも彼のことを睨みながらも着席した。

 その後、教師が出欠を取り始めるのだが――、

 

 

「アレ?佐藤だけいないな。アイツ今日休みか?」

 

 

 存在を、無視された。その教師の反応に周りの生徒がニヤニヤと卑下た目で見つめてくる。そのまま教師は次の番号の生徒の名前を呼ぼうとするのだが――、

 

 

「先生!佐藤ならここにいますよ」

 

 

 そう教師に呼び止めたのは、生創だった。教師は正創の言葉を受けてわざとらしくキョロキョロと教室を見渡したあと、窓際の一番後ろの彼の姿を見て、

 

 

「あぁ。なんだいたのか。全く、いるならちゃんとそう言え」

 

 

 そう吐き捨てた。怒りと屈辱で、彼は口内を噛み締め、拳を強く握り締める。チラリと世創の顔を見ると、彼の顔は憎たらしく口角が上がっていた。

 朝礼が終わって呆然と座り尽くしていると突然、横から物凄い衝撃とともに床に放り出された。蹴られた脇腹を抑えながら、蹴られた方向を見ると、そこにいたのは孤児院の()仲間たちの姿だった。()仲間たちは彼の無様な姿を笑いながら見ていた。

 

 

「それじゃあ()()()始めようか!処刑の時間だッ!」

 

 

 その言葉とともに、彼らから蹴る殴るなどの集団リンチが始まった。彼にできることは、背中を壁に着けながら腕で顔などの重要な部分を守ることだけだった。この時間が早く終わることを願いながら10分ほど経ち、一時間目のチャイムが鳴る。彼らが席に戻ると、少し経ってから担当の教師が入ってくる。

 教師は彼の姿を一瞥すると、フイッとまるで何も見なかったかのように無視をして授業を開始した。

 

 

「――――ッ!」

 

 

 胸の内に怒りを貯めながらも、彼は席に座る。全身の骨が悲鳴を挙げているが、担任にこの教師だ。保健室に行ったところでマトモな対応をしてくれるとは思えない。なら、無駄に動くのは愚策だ。

 彼は机に仕舞ってあるはずの、教科書とノートを手に取る。――グチャグチャだ。ここまでくれば、理解はしていた。だが、彼はそれを引き出して直接目で見た。――水浸しで、落書きが滲んでいる全ての教科書とノートを。

 

 

「――――」

 

「じゃあ、この問題を――佐藤。解いてみろ」

 

 

 失意の底にいた彼を無理やり引きがしたのは、教師だった。教師は憎たらしい笑みを浮かべながら彼を見る。自分に、黒板の問題を解けないことを分かっていながら、わざと指名してきた。

 

 

「――分かりません」

 

「……はぁ…。お前、ちゃんと授業聞いてたのか?これは基礎だぞ?全くこれだから…」

 

「―――」

 

「はい。先生」

 

「お、生創。答えが分かるのか?言ってみろ」

 

「その答えは○○です」

 

「正解だ!やっぱり生創は優秀だな!前のヤツとは違ってな」

 

 

「「「アッハッハッハ!!」」」

 

 

 クラス中から、侮蔑の笑いが込み上げてくる。そんな状況を彼はただ歯を噛み締めながら、拳を握り締めることしかできなかった。

 それから、2、3,4時間目と同じようなことが続き、給食の時間になった。だが――

 

 

「お~っと!手が滑った~!」

 

 

 彼の給食は、運ばれてきたと同時にわざとらしく床にぶちまけられた。それでも彼は何も言わない。こうなることくらい、予想できていた。そして、これからの展開も。

 

 

「せめてものお詫びだ。食べるの手伝ってやるよ!」

 

 

 それと同時に、頭を無理やり掴まれて床に落ちている白米を無理やり食わせようと床に叩きつけた。

 

 

「ほらほら、ご飯は無駄にしちゃいけねぇんだぞ?」

 

「せっかくおばちゃんたちが作ってくれてんだから、残さず食べろよ?」

 

 

 それからも、彼らの笑いは止まらない。彼は床に落ちて埃やゴミまみれの食事を無理やり食わされた。全てを食べさせられた後、トイレへ駆け込んだのは言うまでもない。

 

 昼休み。他の休み時間と変わらず、彼は複数人による集団リンチを受けていた。唯一変わったのは、場所が教室内から校舎裏に変わっただけ。

 

 

「オラッ!」

 

「グハッ!」

 

「ソラッ!」

 

「オブッ!!」

 

 

 何度も蹴られ、殴られ、壁や木にぶつけられを繰り返す。いい加減に、この時間が終わってほしい。あといつまで続くんだ。これは。

 夢だ。これはきっと何かの悪い夢なんだ。朝から今まで、何度も思い続けてきた。だが、体中に伝わるこの痛みは、夢じゃない。現実だということを、否が応でも教えられる。

 

 そうやって辛い時間が続く中、急に彼らの攻撃の手が止んだ。何事かと思い、彼らが見ている方向を見る。正直、何度も殴られて血や目の辺りにできた内出血による腫れなどで視界が朧気だったが、制服はなんとか見分けられた。一人の男子生徒と、二人の女子生徒。男子生徒の特徴は白髪碧眼であり、二人の内一人の女子生徒は腕にギプスを嵌めている。それだけで、誰が来たのかが分かった。

 二人の女子生徒が止まると、白髪碧眼の男子生徒――生創が木に背中を預けて倒れている彼のもとに近づいてくる。

 

 

「よぉ。いい気味だな」

 

「――――」

 

「だが、響の受けた痛みはこんなもんじゃないはずだ。響は、お前が逃げるための囮に使ったあと、飛んできた岩が心臓にぶち当たった。響は死の淵を彷徨ったんだ。お前のせいでな」

 

「だとよ。ほら、早く立花に謝れよッ!」

 

 

 男の一人が彼の後頭部を無理やり掴んで、立花に向かって土下座させる。もはや彼に抵抗する余力など残っていない。

 立花はしばらく無言を貫くと、「顔を上げて」と促す。髪を引っ張られ無理やり顔を上げられると、視界がぼやけて確かには見えていなかったが、立花の顔は、とても怒っているように見えた。

 

 

「私ね。本当に怖かったんだ。ノイズに襲われて、必死に逃げて、そしたら急に押し倒されて。そしたらね、目の前に佐藤君(アナタ)がいたの。本当に辛かったんだよ。知り合いに囮にされるのって。私と佐藤君は別に仲が良かったってわけじゃなかったけど、それでも……私は、あなたを赦せない

 

「―――(たち、ばな…!?)」

 

 

 彼は怖くなった。目の前にいるのは、本当にあの【立花響】なのだろうか。彼の知る立花響は困っている人間がいたら助けずにはいられないほどのお人よしだ。そんな人間に、こんな顔と言葉が出せるのか?それとも、自分への怒りで、彼女は歪んだのか?

 思考が停止し、唖然とし尽くす彼の顔を、生創がしゃがんで覗き込んだ。傷だらけの彼の顔をジッと見つめると、彼にしか分からないように、ニヤリと顔を歪めた。

 

 

「こいつ……全然反省してないな」

 

「――ッ!?」

 

「うっわ。マジかよコイツ。ここまでやって反省の色なしとか、どんだけ神経図太いんだよ」

 

「どこまで響のことをバカにすれば気が済むの…!?」

 

「ある程度やられれば私が赦すと思ってるの?今回ばかりは私、本気で怒ってるから」

 

 

 散々な言われ様だ。反省してないと言われても、そもそも彼は何もしていない。ライブにだって行っていない。立花を押し倒してなんてない。何もしていないのだ。

 そんな時、痛みと恐怖で頭がグチャグチャな彼を、さらに絶望に叩き落とす策を、生創は考えついた。

 

 

「そうだ。流石にこれをやれば、反省の言葉くらい出てくるだろ…」

 

 

 そういい彼がポケットから取り出したのは、カチカチと音を立てながら刃を出す凶器――カッターナイフだった。生創はカッターの刃を、彼の左まつ毛付近に当てる。

 彼の全身全神経全細胞に至るまで、恐怖一色で染まっていく。

 

 

「―――フゥ、フゥ…」

 

「お、おい世創。流石に顔は不味いんじゃないのか…?」

 

 

 先ほどまで顔を含めた全身を殴る蹴るの暴行を繰り返した男子生徒の一人が自分のことを棚に上げてそう忠告する。だが、生創は表情を崩さない。

 

 

「これだけやっても反省の色が見えないヤツには、ここまでするしかない。それに、顔に傷が残った方が、治った後も思い出してずっと反省するだろ?」

 

「あぁ確かに」

 

「コイツにはお似合いだな。逆に顔に傷があるってカッコいいぜ?」

 

 

 世創の一言で、周りが同調していく。皆好き勝手に、都合のいいことばかり言う。

 

 

「やめろ…やめてぐれッ!!」

 

「今更命乞いか?お前には響が味わった地獄を味わってもらわなきゃ、割に合わないんだ。自分の犯した罪だろ?」

 

 

 彼の両の瞳から涙が零れ、情けなく懇願する。だが、周りはそんな彼の姿を見て笑い、チラリと見えた立花と小日向の顔は、どこまでも憎悪と侮蔑で溢れていた。

 徐々にカッターの刃に込める力が強くなっていき、彼の肉に沈んでいく。そして、それを行っている肝心の世創の表情(かお)は―――、

 

 

「―――だったら大人しく罪を受け入れろッ!」

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああッッッ!!!」

 

 

 

 どこまでも、誰よりも、醜悪な嘲笑(えみ)で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから何時間経っただろうか。極度の疲労と痛み。そして恐怖によってあの痛みの瞬間から記憶がない。だが目が覚めた瞬間、左目辺りに鋭い痛みを感じた。左目も開けない。痛む体を動かして、左目辺りを触ると、そこから大量の血があふれ出ていた。ゆっくりと首を動かして上空を見ると、空が少し夕焼けに染まっていた。昼休みから夕方までの約3,4時間。疲労、大怪我、体温低下。この最悪の三コンボを受けても辛うじて意識を保っていること自体、奇跡に等しかった。

 そんな中での、突然の大雨だ。風前の灯と言っていい彼の命の炎がさらに小さくなっていく。

 

 

(……俺は、立花を、殺しかけた、のか?いや、きっと――違う。そうなんだ。そうだったんだよ)

 

 

 自分はなにもやっていない。やっていないのに、やっていたことにされた。無実なのに、口から出ない。友達が、仲間が、周り(たにん)が、クラスメイトが、、教師が、新聞が、ラジオが、テレビが、人類が、世界が、全てが彼を責めた。突然の変化に戸惑い、全てがグチャグチャになって、何もかもから逃げ出した。それが、この結果だ。傷だらけになって、雨で濡れて、無様に地面に転がった。

 きっと自分は、現実逃避していただけなんだ。人を一人――いや、一人どころじゃない。もしかしたら、10人、100人と、もっと犠牲にしていたかもしれない。都合のいい理由だけ並べて、その罪から逃れようとしてたんだ。なら、これは罰なんだ。こうなって、当たり前なんだ。

 

 

「そうだよ…全部、全部俺が悪いんじゃないか…。自分が生きたいからって、人を犠牲にするようなことをして…こんなことされて…当然なんだ…」

 

 

 降りしきる雨で分からないが、彼の瞳からは大粒の涙が溢れていた。だが、それもこの大雨で混ざって消え去る。彼の瞳からハイライトは消え去り、この大雨が彼から体温すらも奪っていく。

 

 

「もう…俺に生きていく資格なんてない…。死のう…。もう俺には、それしか償う方法が残されてない…」

 

 

 自暴自棄か、それとも覚悟か。彼は極限の状態で『死』を選択した。自身の選択を決めた彼は立ち上がり、痛んだ体を無理やり動かして歩みを進める。

 

 

「死ぬ方法は…なにがいいかな…?絞殺…?縄はないから無理か…。じゃあ、このまま、衰弱死か…」

 

 

 絞殺なんて縄なんて持ってないし不可能。ゆえに、選択肢は衰弱死のみだ。

 

 

「誰にも看取られず、一人寂しくか…。犯罪者の(こんな)俺には、相応しい最後だな…」

 

 

 ポツリと呟き、彼はゆっくりと目を閉じる。この目を閉じれば最後、目を開ける日は一生やってこないだろう。だが、それでも彼は良かった。こうすれば、もうこれ以上、辛い思いも、苦しい思いもせずに済むのだから。

 

 

――そうして、彼の鼓動は徐々に鳴り止み……

 

 

 

 

ペロッ ペロッ

 

 

 

 

 

 その直前に、顔の方に謎の生暖かさが彼の思考を復活(めざ)めさせた。なんだこれは。なにかの錯覚だろうか。錯覚なら邪魔をするな。これでようやく、終わるのだから。

 

 

 

 

 

ペロッ ペロッ

 

 

 

 

 

 

 だが、それでもこの生暖かさは終わらない。むしろなんだかくすぐったい気もする。

 

 

(これは…舐められてる…?)

 

 

 極度の疲労と無数の切り傷や打撲で負った傷、大雨による体温低下による思考低下の中で、彼は結論に至った。その結論を確かめるために、彼はゆっくりと目を開けた。すると、そこにいたのは――。

 

 

「コン?コンッ!!」

 

「……き、つね…?」

 

 

 そこにいたのは、獣の顔だった。それも、狐。痛みで視界がボヤけ、顔が雨で打ち付けられ、全体の姿を確認することはできないが、それでも怪しく光る紫色の大きな複眼が、その獣の顔だけを僅かに照らし、彼が確認するに至れた。それに鳴き声が「コン」など、狐しか思いつかない。

 

 

「なんで、きつね、が、こん、なとこ、ろに…」

 

 

 彼はこの街に狐がいるだなんて知らない。ニュースでもやってなかったし、そもそも狐なんて初めて生で見た。と言うか街中――学校の敷地内で見ることになるとは思わなかった。今となっては、どうでもいいが。倒れ込んだ彼の顔を覗き込む、紫色の複眼を持つ謎の狐。狐は目を開けた彼を見て、明るい声を上げる。

 

 

「俺を餌にでもする気か…?だった、ら、死ぬまで、待ってくれ」

 

 

 もし本当にこの狐が彼を狩るためにここにいるとすれば、彼の死因は衰弱死か捕食の二択になる。まぁこの傷なら対して変わらないだろうが。衰弱死で死ぬにしても、そのあとは鳥葬ならぬ狐葬だろう。この狐に食われるのも、衰弱して死ぬのも、同じ死だ。ならばそれを受け入れよう。と、彼は再び目を閉じる。

 でもまぁ、食い荒らされてたら、流石に驚かれるだろうな――と、そんなことを思いながら。

 

 

「コンッ」

 

「グフッ!」

 

 

 が、彼の体にとてつもない重みが加わる。あまりの突然のことで大声を出して、苦しみ目を開けると、そこにはあの狐が彼の体の上に乗っていた。唯一の優しさと言えば、足を体に乗っけるのではなく、いわゆる押し倒す体制になっていたのが救いだった。もしそうなってたら、さらに苦しかっただろう。

 

 

「な、なにを…」

 

「コンッ」

 

 

 この狐はなにがしたいのだろうか。だが、そんな彼の疑問を素通りして、狐は自身の額――顔を、彼の額にくっつけた。

 

 

「――――ッ!!!??」

 

 

 その瞬間、彼の記憶に流れ込む、()()()存在していた記憶。

 画面の奥から何度も見た、あの景色。あの少女たち。あの――物語。

 

 

 

ふたり一緒なら、何も怖くないな…

 

ギアを纏う力はわたしが望んだモノじゃないけど、この力でみんなを守りたいと望んだのは、わたしなんだから

 

わたしを変えてくれた人がいる……、強くしてくれた人がいる……簡単には負けられないッ!

 

調ッ!ザババの刃を重ねるデスッ!

 

奇跡だと?冗談じゃないッ!オレは奇跡の殺戮者だッ!

 

命を盾とし、希望を防人れッ!

 

弱いから護るだなんて、傲慢ねッ!

 

カッコ良すぎるんだよ、馬鹿力

 

私――これ以上、響の背中を見たくないッ!響の見ているモノを一緒に並んで見ていきたいのッ!

 

神殺しなんかじゃないッ!繋ぐこの手は、わたしの

 

 

 

 

アームドギアだああああッ!

 

 

 

 

 

 

「そうだ…思い出した…全部――ッ!」

 

 

 その瞬間、ハイライトが消えていたはずの彼の瞳から、活力が蘇った。この狐と額が触れ合った瞬間、この世界の全てのことが頭に流れ込み――否、蘇った。

 自分のこと、前世の記憶(コト)全てを――

 

 

 この世界――シンフォギアの世界の、全てを。

 

 

「間違いない…ッ!【立花響】に【小日向未来】、ツヴァイウィングの【天羽奏】と【風鳴翼】ッ!!ここまで同じで、偶然なわけがあるか…!!」

 

 

 幼少期から今まで、ずっと感じていた違和感の正体はこれだった。初めて会ったはずなのに、交流なんてほとんどなかったはずなのに、感じていた違和感。知っていたからだ。【立花響】を、【小日向未来】を、シンフォギアと言う物語のキャラクターとして!

 彼は思い出した記憶を模索していく内に、すぐにあることに気付いた。その拍子に上半身を勢いよく起き上がらせ、「コ~ン~」と言う可愛らしい鳴き声とともに狐が転がっていく。

 

 

「待て……。誰だ、アイツは…?【世創(セイソウ) 狐白(コハク)】って誰だ…ッ!?」

 

 

 彼は、知らない。【世創 狐白】と言う男を。彼の知る限り、そんな名前の人物はシンフォギアの物語に登場していない。というかあの作品の登場人物はほとんどが女性だから男性だったらある程度憶えているはずなのだが。それでも彼の記憶にはあの男は存在しない。

 シンフォギアにはゲームのオリジナルストーリーも存在しているため、そこに出てくる人物なのかもしれない。だがそれでも、主人公たちと仲が良すぎるのは不自然だ。主人公たちの幼馴染ポジションは、小日向しかいなかったはずなのに…。

 

 

「待てよ。まさか…」

 

 

 彼の脳内に、ある可能性が浮上した。ありえなくはない。いや、むしろその可能性の方が高い。逆にその可能性しか考えられなくなってきた。自分と言う例があるのだ。一人いる以上、二人や三人いてもおかしくない。

 

 

「あの男……俺と同じ【転生者】か…ッ!!」

 

 

 【世創 狐白】が転生者である可能性。それは十二分にあり得た。本来いないはずの百合の間にはさまる男。この世界は、無数に存在する可能性が実現した並行世界の一つの結果であるという可能性だってなくはない。しかし、そんなこと彼にはどうでもよかった。

 

 

「復讐だ…。絶対に赦さないッ!もう俺の人生は終わったも同然なんだ。ならせめて、刺し違えてでも…」

 

 

 彼の心が狂気と闇に染まっていく。絶対に許せない。自分はなにか悪いことをしただろうか。いや、していない。この世に悪さをしない人間などいないが、それでも彼らとはなんの接点もなく、ただのクラスメイトと言う関係だった。それなのに、どうしてこんな目に合わないといけないんだ!!

 

 死ねない。こんなところで死んでたまるか。痛みと寒さで限界を迎えていた体で無理矢理立とうとする。だが、それを止めた存在がいた。それはあの狐だった。

 

 

「コン!コンコンッ!!」

 

「狐…。うるさいz……(……いや待て、よくよく考えたらこの狐もなにか変だ。俺が前世の記憶を思い出したのも、この狐が関係しているはずだ…)

 

 

 先ほどまでやってもいないことの罪を認め、死のうと自暴自棄になっていたところに現れたこの狐。この狐は、彼の前世の記憶を取り戻すきっかけとなった。絶対に普通の狐ではない。

 

 

(そうだ……。よくよく考えればおかしな点だらけだ。どうして俺はやってもいない罪を認めていた?

 

 

 あの日から急に人殺し呼ばわりされ迫害された今日から、少し不思議には思っていた。何故自分はこんなことになっているのかと。だが、そんなことを考えようとすると、自責と後悔の念が押し寄せてきて、思考を遮断してきた。まるで本当にやっていたかのように。

 何故そんなことになったのか。考えられる可能性として、一番早く挙げられたのが――、

 

 

(“転生特典”。それしか考えられない…)

 

 

 転生もののセオリーで、転生する際に神からもらえる特別な力。ヤツも例に洩れずなんらかの特典をもらっている可能性が高い。急な周りの対応の変化と、自身の感情が徐々にコントロールされていったのを見るに、ヤツの特典は――、

 

 

(ヤツの特典は、“洗脳系”である可能性が高い。使用の目的は…立花のためか?)

 

 

 本来であれば、自分が受けていたはずの迫害は立花響が受けるはずのものだった。理由はあの事件で一人だけ生き残ったから。10万人以上の人間が死に、親兄弟を亡くした人間だっている。それなのに立花だけ生き残ったのは他人を犠牲にしたからだというデマが広がり、ヘイトが集まったのが理由だ。

 だが、この世界では突如として現れた【白狐】によって生存者は立花だけではなく多く生き残り――白狐――狐?

 

 

「――――」

 

「コン?」

 

 

 彼は目の前で首を傾げている狐を凝視する。そうだ、ノイズを倒したのも狐。自分の前世の記憶を蘇らせたのも目の前の狐だ。コイツは、白狐となにか関係があるのか?もしなにかしら関係があるのなら、なにか聞き出せないか――

 

 

(いや、なに考えてんだ俺は。相手は動物だぞ。言葉なんて喋るわけねぇだろ。痛みと寒さで随分頭がやられたみてぇだな…)

 

 

 そんな無理難題のことより、現実的な問題だ。もしヤツが洗脳系の転生特典を持っていたとしても、疑問が残る。

 それは、何故自分を犠牲にしたかだ。

 

 

(もしアイツが洗脳系の力を持っていたとしたら、立花の印象を良い方向に挿げ替えればいいだけのはず。何故俺を犠牲にした?)

 

 

 狐白(ヤツ)の能力が本当に洗脳系であった場合、今までの全ての辻褄は合う。周りが自分のことを【ライブ生存者】として扱ったことも、立花や小日向の性格が最低最悪になったことも。正直言って彼女たちをキャラクターとして知っている彼からすれば、あの豹変は解釈違いでしかない。

 

 

(だとしたらそこまでする必要はなんだ?――あぁ駄目だ分からない。考えるのも億劫になってきた…)

 

 

 眠気と寒さと痛みのパラダイスでもうこれ以上考えるもの億劫だ。だが、ここで考えるのをやめてしまったらもう二度と目覚めない気がする。そんなの、絶対に嫌だ。

 蹲って体を丸めて何かしらの考え事をしていると、体に小さな衝撃が走る。何かと思ってみてみると、そこには先ほどの狐がいた。狐は濡れた顔で彼の体をスリスリと擦った。

 

 

「なんなんだよお前…。一体お前はなんなんだ?なにがしたい?」

 

 

 この警戒心のなさから見るに、かなり懐かれているがそもそもこんな狐に会ったこと自体初めてのことだし、懐かれる理由が分からない。厳しい言葉を掛けながらも、悪い気はしないらしく、少しの間そのままでいさせた。

 しかし、ずっとこの場所にいるわけにもいかない。とりあえず休める場所を探さないといけない。

 

 

「とりあえず雨宿りできる場所を探さねぇと…。ここじゃ野垂れ死ぬのも時間の問題だ。こんなところで死んでたまるか――ッ!」

 

 

 すぐ隣に学校の建物があるが、入る気になれない上、孤児院に戻ることも論外。自分の居場所などないし、何より今度こそ死ぬ可能性が高い。だが天涯孤独の自分が入れる場所など、この世のどこにも存在しない。だが、復讐のためには生きなければならない。

 

 

「泥水啜ってでも生きてやる…。待ってろよ世創…。クズ共…。立花…小日向…!」

 

 

 例え周りの人物の豹変が生創の洗脳のせいであっても、この体に受けた傷は全て憶えている。操られてたから仕方ないで割り切れるほど、彼は出来た性格をしていない。

 彼は早々に割り切っていた。この世界が自分の知っている原作(せかい)から既にかけ離れていることに。自分の知っている【立花響】と【小日向未来】とこの世界の二人は既に別人だと。復讐への執念と怒りが、彼の決断を確固たるものにした。

 

 

「……でも、動く力も、残ってねぇ…」

 

 

 だが致命的なことに、彼にはもう動く力も残っておらず、せいぜい喋って思考する力しか残っていなかった。あの狐に会って前世の記憶を取り戻すまでは喋る力もままならなかったのに、今までなんとかその命を繋ぎとめていた。だが、そろそろ限界が近い。

 

 

「まだ…死んでたまるか…。決意した、ばっかで…なにも、できずに、終わって、たまる、か…」

 

 

 言葉も途切れ途切れになり、視界も徐々に狭まっていく。近くにあった木に背中を預けて少しでも意識の消失に抵抗しようとするが、そんなものはまるで無意味だと嘲笑うように、意識が朦朧としていく。

 そんな彼が最後に聞いたのは――、

 

 

 

 

 

「コォ――――――――ンッ!!」

 

 

 

 

 

 狐の遠吠えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――?」

 

 

 彼が次目が覚めた時は、知らない天井だった。こんなことを思うのは、助かったときの常套句なんだなと思ってはいたが、まさか本当に意識が目覚めたときにそれを思考するとは思わなかった。

 彼が顔を左右に移動させ、辺りを確認する。周りは、薄い水色の壁で構成されていた。とても明るく、自身が意識を失う前とは比べ物にならないほど環境が違っており、少し混乱した。

 

 彼の思考に真っ先に()ぎった場所は、保健室だった。だがその可能性はすぐに否定する。彼の知識の中で保健室は、こんな場所でも色でもなかったからだ。

 自分が寝かされているベットの周りには、様々な医療道具があり、空調もとても効いている。手厚い看病をされていたのは間違いない。誰かに助けられたのだろうか。

 

 

「あのあと…どうなった…?」

 

「コンッ」

 

「グフッ!」

 

 

 グチャグチャな思考を一生懸命整理しようとしたところに、腹の辺りに急な重みに襲われた。突然のことに息を噴き出して苦しみながら前を見ると、あの狐がいた。

 モヤモヤする視界を良く凝らすと、あの狐の全体像が読み取れた。この部屋の照明が良く効いているためあの暗い雨の中で見た姿よりより鮮明にこの狐の全体像を知った。

 

 大きさ的には大型犬を彷彿とさせ、暗い中でも確認できた紫色の大きな複眼と黒い体に所々に入っている青竹色のラインに、舌を出してだらしない顔をしている。初対面では雨で濡れていて気付かなかったが、体もとてもモフモフしており、とても癒される。そして何より特徴的なのが、9本の尻尾。それを見て即座に伝説上の九尾の狐を連想した。が、この狐に顔を舐められたため思考が強制中断される。

 

 

「コンッ、コンッ」

 

「うっ、やめっ…ろっ」

 

 

 狐を無理やり引きはがし、下半身の方へツルツル滑っていく狐。上半身を起こし、かかっていた毛布を取り、それが狐にかぶさった。「コンッ!?コンコンッ!?」と足元から戸惑った声が聞こえてくる。

 自分の体を見てみると、上半身裸だった。その代わり体の至る所に包帯やカットバンなどが貼ってあったり巻かれたりしており、今更だが顔の左半分が包帯で覆われているのを知った。

 

 

「なんだ…?包帯の量よりも、体が軽い…?」

 

 

 見ただけでも重傷者を思わせるほどの包帯の量。だが、それに反比例して体が嘘のように軽い。まだだるさや多少の痛みはあるが、それでも重傷か軽傷と言われれば、軽傷と言えるほど体が痛くない。

 

 

「そもそも…ここはどこだ…?」

 

 

 意識が途切れ、気が付いたら謎の場所。そして治療を受けた跡。あまりにも都合が良すぎる。疑問に思いながらも、ベットから出て、隣にあった篭の中に綺麗に折り畳まれている上着を見つけ、それを羽織る。よく見るとチャックやボタンなどはなく、服の上に重ね着するオシャレのための上着だった。あるだけマシだと思考を終了し、周囲を探索する。後ろでは布団が絡まって抜け出せないのか、毛布の塊が動いている。

 全体像を見渡すと、壁の一面に扉があるのを見つけた。そこに向かって歩き出す。おぼつかない足取りで扉に近づくと、扉は自動的に上へと上がり、通路への道を開いた。

 

 

「自動ドア…?本当になんなんだここは…?」

 

 

 扉を抜けると、先ほどと同じ水色を基準とした通路が展開されていた。それに、至る所に星の意匠が見受けられる。

 

 

「とりあえず、探索してみるか…」

 

「コンッ!!」

 

「ん?」

 

 

 聞きなれた鳴き声が聞こえ、後ろを振り返るとあの狐がいた。どうやら布団(ほうい)からは解放されたようだ。

 

 

「お前…なんで俺に着いてくるんだ…?」

 

「コン…?……コンコンッ!!」

 

 

 狐は首を傾げると、突然鳴いたと思えば通路の方に駆けていき、少し走ったらこちらをチラチラ見てくる。まるで、「着いてこい」と言わんばかりの行動だ。

 

 

「まさかアイツ…ここの構造を理解してるのか…?」

 

 

 それなら、この施設とこの狐には何かしらの関係があるのだろうか。そんなことを疑問に思いながら、狐の指示に従うことにした。闇雲に動くよりも、指示に従った方が良いと判断したためだ。

 狐は彼のペースに合わせてゆっくりと歩いてくれた。おぼつかない歩きのため、とても長く時間がかかったが、通路を歩くと複数の扉を通っていって、狐はとある一つの扉の前で立ち止まった。

 

 

「……この扉の先に、なにかいるのか…?」

 

 

 狐を通り過ぎ扉に近づいた瞬間、扉は上の方に行き自動で扉が開く。その先にあったのは――巨大なモニターだった。彼の身長などは優に超え、この大きさに真っ先に浮かんだのはよく映画などの管制室を彷彿とさせるほどの大きさだ。

 

 そして、その下――なにかいる。

 

 

(なんだ、アレ…?遠近法のせいか?俺より小さく見える…。いや、実際小さいのか?)

 

 

 モニターの下側には、ホログラムなどで構成されている操作パネルが設置されていた。そして、その前にいる謎の人影。その影は彼よりも小さく、今自身の隣にいる狐ほどの大きさに思えた。

 彼と狐は歩みを進め、その人影へと近づいていく。近づくにつれ、その人影の大きさと、人ですらないことが分かった。

 白いマントを羽織り、頭には円錐形の耳のような何かが生えていた。手は体から離れて浮いており、薄い黄色の手袋をしているのが伺えた。

 

 

(コイツは…俺は、コイツのことを、知っている…)

 

「コンッ!」

 

「オヤァ?目がサメタんだネ。よかったヨォ。ヒドイ怪我だったからネェ。動けるヨウでアンシンしたヨ」

 

 

 振り向いた何かの全体像がハッキリと分かった。

 茶色い卵型の体を黄色い歯車模様の青いフードで包み、口元を覆うベルトを通して白いマントを羽織っていた生物の黄色い目が、彼を映した。その生物が彼の目に向かって見上げると、ニッコリと笑い、自己紹介をした。

 

 

 

「ボクの名前は【マホロア】。この船、【ローア】のアルジで【旅商人】をしてるんだヨォ。よろしくネ」

 

 

 

「マホロア…!?」

 

 

 

 それは、とても良く知っている名前だった。

 

 

 

 




 あとがき

 こういう作品。何気に初めて書きましたね。
 でも書くときってやっぱり、精神が削れる…。あんないい子たちをわざと悪く書くとか、やっぱりできない…。
 まぁこんなの書いてる時点でこんなこと言う資格ないですが…。

 もう一度言いますが、この小説ではアンチコメントはお断りしております。もし見つけた場合、即刻削除させてもらいます。
 とても都合が良すぎるとは思っていますが、それでもいいという方だけこのあとがきを見ているかと思われます。

 何卒、ご理解お願い申し上げます。
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