PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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 一般的な高校の正門前で立ちふさがるゴンさんと言うカオスから始まった前回。
 ローアでクロスとともに読書中だった黒竹とクロスだが、ゴンさんのピトーをボる音がうるさく苦言を申し立てようとしたが入った直前に逃げる――前に気付かれる。
 そのままなんやかんやで時間が過ぎて着陸の時間間近に。ケーキを取りに行くと思いきや既にマホロアがケーキを取りに行っていてあとは届けるだけとなった。
 そんなわずかな時間、黒竹は左目に包帯を巻くためコックピットを後にする。傷が目立たぬよう、世創 狐白への怒りを忘れぬため――。

 そして着陸の時間となった。だが着陸は着陸はでもローアの着陸ではなくマホロアたち個人の着陸だった。マホロアが【なんでもありな技術】を【なんでもありな人】に使ってもらい【グリードアイランド】と言うゲームのアイテムを現実世界でも使えるようにし、同行(アカンパニー)を使い、地球へと降り立つ黒竹一同。

 同行(アカンパニー)で移動した先はマホロア所有のキャンピングカーの中。運転手はワドルディ。そしてセットでピトーもついてきた。

 ここから始まる、闘いとは無縁の世界のゴンさんたちの記録――。


 波乱の予感!!





通常運転ゴンさん

 黒竹、マホロア、ゴンさん、ピトーの四人は車から降りた後、エレベーターを使い下へ下へと降りていた。

 ちなみに、キャンピングカーの運転をしていたワドルディはキャンピングカーの中で留守番中である。あのキャンピングカーの中にはエンジンで作動するバッテリーの他に、携帯型バッテリーがありそれでエンジンを着けずとも電気が通っているため中は快適だ。ゆえに今ワドルディはジュースを飲みながら漫画を読んでいるだろう。

 しかし、問題はこちら側である。今乗っているエレベーターは着々と地上へと降りていっている。その度に、心臓の鼓動がうるさくなっていく。

 

 

「このエレベーター、随分長いね」

 

「都会の立体駐車場なんてこんなもんだよ。これでもスイスイ進んでる方」

 

「そっか」

 

 

 事実、エレベーターはスムーズに移動している。事実、今このエレベーター内にはこの四人しかいない。理由?そんなの単純だ。途中何度も他の階にエレベーターが止まったが、全員ゴンさんの姿を見ると乗らずにそのまま立ち止まって扉が閉じていくのを見送っていくを繰り返している。まぁエレベーター内にこんなの(ゴンさん)がいれば乗りたくない気持ちも分かる。

 

 

(あぁ…隣に止まってた車のドライバーの顔が忘れられねぇ…)

 

 

 車から降りたとき、この世界で一番最初にゴンさんを目撃した他人はマホロアたちが乗ったキャンピングカーの隣に止まっていた車の持ち主だった。窓ガラス越しから見るあの唖然とした表情は今でも忘れられない。

 

 

(あー早く一階に行ってくれねぇかな、いや違う!早く帰りたいィ!!)

 

 

 一瞬なにをトチ狂ったのか早く一階に降りてほしいと思ってしまった。違う、間違いすぎる。一階に降りたらそれこそ視線の嵐だろうが。

 

 

(キャンピングカーに帰りてぇ!そしてクロスをモフモフしながらワドルディとゲームしていたい!!)

 

 

 頭の中でそんな現実逃避(もうそう)をしながらも体は硬直状態。そのまま、エレベーターは一階へと到着した。ゆっくりと、扉が開かれる。――いたわ、人。都会だから当たり前だけど。

 

 

「ヒィ!」

 

「ウワァ!!」

 

 

 エレベーター前の扉にいた人たちが小さな悲鳴を挙げた。分かるよ、うん。ホント。

 そのまま一同はエレベーター外から出るとまだ室内であり、扉を一枚隔てたところに、世界(シブヤ)が広がっている。あぁ、後ろの人たちの視線が、ゴンさんの髪に集中しているのが分かる。分かるよ、ホント。

 ゴンさんが率先して、その扉を開けた。その瞬間、黒竹たちの瞳に映るのは、都会の街並み。街の人々の視界に映ったのは、ゴンさん。

 時間は午後3時頃。ただ歩いていたもの、仕事で外に出ているもの、恋人と歩いているものなどなど、種類は多岐に渡るがその全ての人間の視線が、ゴンさんに集中していた。さらに具体的には、ゴンさんの天を衝く髪へと。

 

 普段から騒がしいはずのシブヤに、一瞬の静寂が訪れた瞬間であった。

 

 

ザワザワ…ザワザワ…

 

 

 だが、すぐに喧騒が復活する。人々の視線はゴンさんを中心に黒竹たちに集中しているが、ゴンさんとマホロアは知らぬ顔で今後の予定について話会っていた。それは出来れば車の中でしてほしかった。

 

 

「ゴンさんはコレからドウするんダイ?」

 

「とりあえずツカサのところに会いにいこうと思ってる」

 

「ウーン。デモ、今15時だからマダ授業中ダト思うヨ?サスガに授業中に会いにイクのは迷惑ダヨ」

 

「それもそっか。じゃあ残りの時間どうしようかな…」

 

「じゃあボクの用事付き合ってヨ。とあるヒトと音楽ショップに行く約束デサ、スクランブル交差点デ待ち合わせシテるんだよネ」

 

 

 「アッチの方角なんだケド」と、マホロアはスクランブル交差点がある場所を指さした。

 そこからの行動は、とても速かった。

 

 

「スクランブル交差点へ向かうぞッ!」

 

 

ボッ

 

 

「走っていこうよ!?」

 

「ゴンさぁあああああああん!!!??」

 

「キャァアアアアアアアアア!!」

 

 

 あろうことか、ゴンさんはピトーをボッた。ピトーは腹に強烈な激痛(ダメージ)を負いながら、天空(そら)を舞った。そのあまりにも非常識な出来事に黒竹の叫びが木霊する。それと同時に、辺り一帯に響きわたる悲鳴。無理もない。突然いきなり髪オバケが現れたと思ったらその髪オバケが女性を天高くまで蹴り飛ばせば当然の反応である。

 だがゴンさんはそんな悲鳴を無視して足に力を入れピトーの後を追うようにジャンプすると、ぶっ飛ばされてるピトーの体に着地し――、

 

 

筋斗雲(キントウン)

 

桃白白(タオパイパイ)じゃないんだ…」

 

 

 こんな会話をしている辺り、ピトーも結構余裕なのかもしれない。

 

 

「アーモウ!到着してスグに問題(しごと)増やしてくれちゃッテ!“ブック”!同行(アカンパニー)オン、“ゴンさん”!!」

 

「いやソレ街のど真ん中で使っていいヤツじゃ――」

 

 

 こんな一般人が多く存在している場所で“同行(アカンパニー)”を使えばもう騒ぎどころではない。いやもうゴンさんがピトーをボッている時点で大問題なのだが。それでも“同行(アカンパニー)”はこんな場所で使っていいものではない。

 だがそんな黒竹の静止も虚しく、マホロアと黒竹は一筋の矢となってゴンさんの後を追ったのであった―――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――なんだろう、アレ)

 

 

 銀髪の非常に長く美しい髪質に青い瞳を持ち、ジャージとハーフパンツと言う簡素すぎる服装の15歳の少女、【宵崎(ヨイサキ)(カナデ)】は遠くから見える縦に伸びる黒いなにかを不思議そうに見ていた。

 

 

「なに、アレ…?」

 

 

 そして、その隣にいるピンクの肩リボン付きフリルブラウスにフロント編み下げフリルスカートを着用した茶髪の少女、【東雲(シノノメ)絵名(エナ)】も同様に遠目に見える天まで伸びる黒い縦線を目を細めながら見ていた。

 

 無論、彼女らだけではなく周りにいる一般人たちも同様、遠くに見える謎の縦線に視線が集中していた。

 

 彼女らは、言うまでもなく知り合い同士である。否、知り合いと言う枠組みでは収まらない。彼女らはとある音楽サークルのメンバーなのだ。

 奏は、あまり外に出ない。理由は専ら一日の時間のほとんどを作曲に専念しているからだ。そのためファッションには無頓着であり、食事もカップ麺やエネルギーメイトで済ます始末。今はなんとか家事代行サービスを利用してなんとか衣食住が成り立っている。

 

 そのため、彼女が外に出ることは珍しいのだ。絵名は、そんな彼女が外に出ていることを珍しく思い声を掛けた。

 絵名が理由を聞くと、どうやら奏は音楽ショップで知り合ったとある人物と待ち合わせをしているようだ。今日はこのスクランブル交差点で待ち合わせらしい。

 

 そして、そんな時に現れた謎の縦線。その縦線は天まで伸びており、どこまで伸びているのかが不明だ。あれはこの世のものなのだろうか――?

 そんなことを考えていると突如――、

 

 

ボッ

 

 

「キャ!」

 

「な、なに…!?」

 

 

 鈍い音があの縦線を中心に鳴り響き、縦線が突如として上に移動した。そのままあの縦線がこちらに向かって――こっちに?なんかその縦線の後ろを追うように一筋の光が来てるが、それに彼女らが気づくことはなかった。

 

 

「奏!逃げ――」

 

 

ドォオオン!!

 

 

 絵名がそう言い切る前に、謎の縦線はスクランブル交差点に轟音を立てながら着地した。砂埃を上げながら着地したあの謎の縦線は、そこにいた全ての人間の視線を集めていた。

 砂埃が晴れると、そこにいたのはとてもこの世のものとは思えない風貌の男がいた。ピッチピチの子供服を着用した、二メートルの巨体を持つ男が。その男は着地の際に足を大きく広げて左手に何故かケーキボックスを持ち、地面に右手をつけていた(ルフィのギア2の発動ポーズ)。

 

 

「え、アレ…」

 

 

 その言葉は、誰が言ったのだろうか。それは分からない。おそらく、発した本人すら自分の口で言ったことを覚えていないだろう。それくらい、この場は緊迫していた。

 この場の全員が注目した先、それはその益荒男の右手部分だ。地面についていると思っていた右手が、埋まっていたのだ。タイルの地面を貫通し、男の右手の中心から蜘蛛の巣状に地面は砕かれていた。

 

 

――そしてその穴から、一人の女性の体が生えていたのだ。

 

 

 否、生えていたという表現はおかしい。女性の顔は男の拳によって完全にタイルの地面にめり込んでおり、そこから地表に露出しているのが体だけだというのが正解だろう。

 どちらにしろ、あの女性は死んでいる。ここにいる人間たちは、殺人現場の目撃者となったのだ。

 

 

「――――」

 

 

 巨漢の男が右手を地面から抜き、足をある程度閉じて立った。その時気付いた。遠くから見えていた謎の縦線の正体を。――それは男の髪だった。あり得ないほどの長い髪が重力に逆らい一直線に立っているのだ。

 男は首の骨を二回ほど鳴らすと、軽いストレッチをし始めた。

 軽い、軽すぎる。人一人を殺めた直後の行動としては、途轍もなく軽すぎる。皆が皆、この世のものとは思えぬ者に、恐怖していた。

 

 

「チョット、ゴンさん!!」

 

 

 そんなとき、未だに晴れていない男の背中側の方から、二つの人影が現れた。まるで星空のようなグラデーションのかかった髪を持つ美少女と、左目に包帯を巻いた少年だ。

 美少女の方が男に近づくと、美少女は説教を始める。だが、男の耳からは煙がプスプスと噴出している。耳から知恵熱の煙って出るものだっけ?

 

 

「あぁもう…どうすんだよコレ…?」

 

 

 少年は頭を抱えて蹲っている。彼らの仲間のようではあるが、一番まともな感性を持っているのは間違いなく彼だろう。

 だが、それよりも奏の視線は、男に説教している美少女の方へと集中していた。何故なら、あの説教している美少女こそが奏が待ち合わせしている人物であったからだ。

 

 

「え、マホロアさん…?」

 

「は?嘘でしょ!?」

 

 

 絵名は奏の口から零れた名前を聞いて驚愕する。その名前は、今日奏が待ち合わせをしている人物の名前だったのだ。そしてマホロアと呼ばれた人物は、只者ではない天を衝く髪の男を説教している美少女。確実にヤバイ人物の関係者だった。

 マホロアと呼ばれた美少女が違う方向――顔面がタイルの地面に埋まっている女性の方を向くと、急に怒鳴った。

 

 

「ほらピトーも!イイ加減死んだフリはやめて起きてッテ!」

 

(いや死んだふりって!確実に死んでるでしょアレ!?)

 

 

 絵名は心の中でそう突っ込んだ。普通に考えてあんな高所から頭を叩き付けられて地面にめり込んでいる状態で生きているはずがない。むしろ生きているのがおかしい。

 だが、そんな絵名の予想に反して、女性の死体はゆっくりと起き上がったのだ。―――首がない状態で。

 

 

「ヒィ!」

 

 

 この光景には、絵名や奏はもちろん、周りの人間も悲鳴を上げた。死体だと思っていた女性が急に起き上がったのだ。これには悲鳴もムリはないだろう。女性が上半身を起こすと、ゆっくりと、首元からニョキッっと銀髪の髪が見えた。そしてそのまま、女性の顔が現れた。

 

 

「プハァ……マジで死ぬかと思った…」

 

「お前マジで頑丈なんだな」

 

 

 いつの間にか女性の隣にう○こ座りで座っていた少年がそういう。いやコレは頑丈で済ましていいレベルではない。あんな高所から地面に叩き付けられたのにノーダメっていうのは流石にあり得ない。

 「マッタク…!」とマホロアと呼ばれた美少女が憤っていると美少女がポケットからあるものを取り出した。それは黄金と黒で構成された時計だった。ストップウォッチや懐中時計をモチーフにしたようなその時計のボタンを、押した。

 

 

 ―――起動音が鳴る。その瞬間、時計から黄金の波動が発生し、世界を包み込んだ。

 

 

 奏と絵名は、その波動によって生まれた風のような力への抵抗のため、一瞬だけ目を閉じた。そして再び視界(セカイ)が広がり、目にした光景は――、

 

 

「エッ…?」

 

「嘘…ッ」

 

 

 皆が皆それぞれの目的をもって歩き、目の前のことなど目にも留めていないという異常な光景だった。相変わらず彼女らの視界にはマホロア、銀髪の女性、包帯の少年が、なにより目を引く天を衝く髪の男がいるというのに、周りにいる人間はそんなのいないと言わんばかりに()()()()()を過ごしていた。

 さらには地面の変化だ。女性が埋められてへこんだはずの地面が、完全に元通りになっていた。

 周りの変化に唖然としていると、マホロアがこちらに気付き声を上げた。

 

 

「ア、オーイ!宵崎サン!」

 

「えっ」

 

 

 気づかれた。いや、待ち合わせをしていたのだから当たり前なのだが。それでも奏は今猛烈に自宅に帰りたかった。あんなわけの分からない髪オバケがいる中に居たくない。だが、それは絵名も同じだったようだ。

 

 

「あ、待ち合わせしてた人来たみたいだし、私はもう行くね」

 

「待って絵名!見捨てないで!」

 

 

 流れのままに立ち去ろうとした絵名の服を掴んで精いっぱいの力を振り絞って足止めする。奏は必死だった。このままではあの髪オバケと一緒にされてしまう。もしかしたら自分もあの女性のように殺されかけるのではと言う恐怖が襲う。そんなことされたら確実に死ぬ。奏はせめてもの抵抗として絵名に助けを求めたのだ。

 

 

「いやいや、元々奏とあの人での約束だったんでしょ?なら私は邪魔かなーって…」

 

「マホロアさんも他の人連れてきてるから問題ないと思うよ?それに、絵名はあと帰るだけって言ってたでしょ?だから付き合って!」

 

「いやいやいや!あんなのと一緒に行動してたら間違いなく殺されるでしょ!?私まだ死にたく―――」

 

「お待たセ!」

 

 

 奏と絵名が口論している間に、マホロア一同は既に彼女らの近くに到着してしまっていた。

 それに気づいた二人――奏が先に返答をした。

 

 

「あ、マホロアさん…。お久しぶりです…」

 

「ウン、久しブリ!」

 

「あの、ところで、その……後ろの人たちは、一体…?」

 

 

 奏は気になっている疑問を直接ぶつけた。待ち合わせ前の連絡で人を連れてくることは聞いてはいたが、ゴンさん(あんなの)を連れてこられるなんて聞いてない。まだ銀髪の女性だけだったらまだよかった。包帯の少年だけだったら顔を顰めたくらいはしたと思う。だがアレは駄目だ。人智を超越したなにかは問題すぎる。

 

 

「あ、ミンナ初めましてだよネ。えっとネ…」

 

「俺、ゴン!」

 

「ボクはネフェルピトー……長いからピトーでいいよ」

 

「黒竹です…」

 

 

 それぞれが自己紹介をする。中心にゴンさんが立っており、奏と絵名は光が一切存在しないハイライトの消えた目で見降ろされる。そしてその両隣にいるピトーと黒竹はゴンさんから目を逸らしている。

 これだけでも関係性が理解できた。

 

 

「は、初めまして、【宵崎 奏】です…」

 

「トコロで宵崎サン。その隣にいるコはお友達?」

 

「えっ!?あ、はい…【東雲 絵名】です…」

 

 

 奏も絵名も自己紹介をし、再び沈黙が訪れる。正直言って、二人はこの先どのように会話すればいいのか分からない。理由なんて単純だ。マホロアの後ろにいるゴンさんの視線が怖すぎて前を向けないからだ。

 

 

「待たせてゴメンネ!いろいろ立て込んでサ!」

 

「いえ、大丈夫です、はい…」

 

「ヨカッタ!アノ、相談なんだケド…アト30分クライ、ゴンさんたちと一緒にいてもらっていいかな?」

 

「「え?」」

 

「ジツはゴンさんの友達が今日誕生日デネェ…。ソノ子が【神山高校】に通ってるんダケド、マダ授業中ダロウから、その時間潰しで少しダケ連れていってもいいカナ?ホラ!ナンパ対策にもなるシ!」

 

 

 確かにコレに近づくような輩はいないと思うが、それでも二人は渋る。ていうか先ほどまで逃げようとしていた絵名も着いていく流れになっているところが彼女の優しさが現れてる。

 二人がゴンさんに恐る恐る注目すると、ゴンさんの片手にケーキボックスが握られているのが見えた。

 

 

「ていうか【神山高校】って、私が通ってる学校なんだけど」

 

「そうなんだ…。【天馬 司】って言うんだけど、知ってる?」

 

「えっ、あの【変人ワンツーフィニッシュ】のワンの方!?」

 

「へんじんわんつーふぃにっしゅ?」

 

 

 ここで黒竹が会話に入ってくる。よく分からないワードが急に出てきて黒竹の頭は混乱した。

 

 

「神山高校には二人の変人がいてね…。ワンの方は今言った司って人でいっつも変なポーズとってカッコつけてるから変人ワン。そして最近転校してきた【神代 類】って人が爆発騒ぎを起こしてるツーの方。それで二人合わせて変人ワンツーフィニッシュ」

 

「…フィニッシュがどこから出てきたのか知らないが、とりあえず変な奴らっていうのは分かった」

 

 

 普段から変なポーズをとっているから変人と言うのは分かる。だがツーの方は爆発騒ぎを起こしてるって、普通に警察ものでは?と思ったが考えないことにした。もうゴンさんのことで考えを放棄することには慣れている。スルーしよう、スルー。

 

 

「彰人から変なやつっては聞いてたけど、まさかこんな人と知り合いだなんて…」

 

「なにか文句でも?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 

 ゴンさんに睨まれた(見られた?)絵名は一瞬にして縮こまる。一般人がこんなのに睨まれたら萎縮するのは当然のことだ。

 

 

「それじゃあ行こうか」

 

 

 そうして、ゴンさんが率いて少しの間奏と絵名と行動することになったのである。

 

 

「ところで銀髪のお姉さん」

 

「えっ!?な、なんですか……?」

 

「髪……長いんだね。切ったりしないの?」

 

(((((いや思いっきりブーメランでは…?)))))

 

 

 天を衝く髪(暫定約1,800メートル以上)を持つ男、ゴンさん。心の中で全員に突っ込まれる。少なくともアンタが言っちゃ駄目なやつである。

 そんなこんなありながら移動の途中、全員は終始無言だった。理由なんて簡単で、ゴンさんのオーラに気圧されて全員話す気になど起きなかったからだ。それに周りからの視線も痛い。そりゃあこんな髪オバケと行動を共にしてる時点で視線の針からは逃げられないとは覚悟していたが、それでも辛いものがある。承認欲求の強い絵名でさえ、今だけは地蔵みたいに気配をできる限り消した(訓練もしていない一般人ができるわけないためその気になっているだけである)。

 マホロアの謎の時計の力も、永続的ではないため限界が存在していた。

 

 

――そして無言のまま、音楽ショップ到着。

 

 

 ゴンさんが入口に近づくと、ショップの店員さんのギョっとした表情がガラスの扉越しでも分かった。それと中にいた客がそそくさと店の(ハジ)へと逃げていくのが見えた。

 そのままゴンさんが店の中に入ると、天を衝く髪(暫定約1,800メートル以上)が天井へと広がっていき蛍光灯の光を遮断、そのまま全体へと広がっていき音楽ショップが暗闇に包まれる。

 

 

「――――ゴンさん、一回外出よう」

 

「分かった」

 

 

 黒竹の一言で外に出たゴンさん。そして、マホロアから放たれる無情な一言。

 

 

「ゴンさん、悪いケド外で待ってテもらえるカナ…?」

 

「……外で待つより、そろそろ行くよ。時間みたいだし」

 

 

 ゴンさんはポケットから取り出したカブトムシ型携帯電話【ビートル07型】を取り出し時間を確認する。この携帯電話は見た目に反して屋外での圏外がなく、200種類の民族言語通訳機能があり、テレビの視聴・録画まで可能と言うトンデモ高性能なものだ。

 それを見た絵名は(なにあの携帯、ダサ…)と思ったが決して口には出さなかった。そんなこと言ってしまえばどうなるか分かりきってるからだ。

 

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

「…え?」

 

 

 気づいたときには黒竹は、ゴンさんの右脇に抱えられていた。あまりにもスムーズに、さも当然のように担がれて黒竹の思考は停止する。え、まさかこの状態で移動するの?無理無理。そんな否定の言葉が頭の中で次々と浮かぶがそれが口に出ることはなかった。

 その次にゴンさんはそのままピトーの方を振り向いた。

 

 

「おい、ピトー」

 

「え、なに?」

 

 

「誰の携帯がダサいだって!?」

 

 

ボッ

 

 

「なにも言ってないけど!?」

 

 

 憐れ、ピトー。理不尽にゴンさんにられキリモミ回転しながら宙を舞った。

 そして案の定周りから悲鳴が鳴り響く。その光景を、奏と絵名は青ざめた表情で見ていた。特に絵名なんて顔面蒼白だ。もし自分が感想を口にしていたらあの女性と同じ末路を辿っていたと思うと――。

 

 ていうか、人一人が殺されかけている光景を目にしながらこんなにも落ち着いている自分たちにも驚いた。

 

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「えっ!?今、なんでピトー蹴った!?」

 

「バカにされた気がしたから」

 

「アイツなにも言ってなかったよね!?」

 

 

 実際にゴンさんの携帯をダサいと酷評したのは絵名なのだが、その被害はピトーが(こうむ)った。ピトーはしっかりと、理不尽集積装置としての仕事を果たしたのであった。

 

 

「ほ…ようやく一安心…」

 

 

 ゴンさんとここで別れるということで安堵する絵名だったが――、

 

 

「なにかあったラ、スグに呼ぶカラ。携帯はツネにチェックしててネ」

 

「10秒くらいで来るよ」

 

(まだ心は休まらなかった…!!)

 

 

 一瞬の安堵だった。

 10秒と言うのは現実的ではないが目の前に天を衝く髪(暫定約1,800メートル以上)を持つ男がいる以上ハッタリだとはとても思えなかった。

 

 

「ばいばい」

 

「ちょっとまってまだこころのじゅんびぐぉわああああああああああ!!!」

 

 

 黒竹が全てを言い切る前にゴンさんは跳躍し、そのジャンプは髪を置き去りにした。地面にヒビを入れ、ゴンさんと黒竹はアカンパニー(物理)で大きな爪痕を残していったのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

――神山高校 正門

 

 

 授業が終わり、掃除の時間が終わり、帰りのSHR(ショートホームルーム)と言う一連の流れを済ました後、生徒たちは帰宅や部活のために校門へと歩みを進めていた。

 

――そんな時、正門前に特大の質量が隕石のごとく落下した。

 

 あまりにも突然の出来事に悲鳴が交錯する中、広大に広がる土煙が徐々に晴れていき、その正体が露見した。二メートルを超える筋骨隆々の髪オバケの姿が。その右脇には左目に包帯を巻いたまだ幼い少年が抱えられており、グッタリとしていた。

 

 

「―――ここが、神山高校か…」

 

 

 そう一言呟いてから、脇に抱えていた少年を離した。「ウブッ」と声を上げながら地面に落下する少年は痛みに悶えながら周りの状況を確認し、「アチャ~」と副音声が付きそうな表情を浮かべながら両手で顔を隠した。

 

 

 

物語は冒頭に戻る

 

 

 

 ゴンさんは片手にケーキボックスを持ち、校門前にいる生徒たちに目を配らせる。だが目的の人物はいない。校門前に生徒が多いということは、下校時刻であるということだろう。ゴンさんは転生者として、前世の“記憶”を頼りにその結論に至った。

 神山高校がゴンさんの襲来によって静寂が訪れる中、ゴンさんの口から言葉が漏れる。それは、小さな声ながらも彼ら彼女らにとてもよく響いた。

 

 

「司……司はまだいるかな?」

 

 

 ゴンさんが【司】の名前を出した瞬間、神山高校の生徒たちに電撃が走る。

 

 

「えっ、もしかして天馬先輩のこと?」

「変人ワンツーフィニッシュの!?」

「あのワンの方!?」

「もしかして天馬の命を狙いに来たんじゃ…」

「いやあの人でも流石にそこまでのことは……してるのか?」

「あの人いったい何をやらかしたらあんなのに命狙われるんだ!?」

 

 

 なんか後半からゴンさんがその人物の命を狙いに来ているという話に拡大していってる。まぁいきなりカタギではない髪オバケが現れてとある人物を探しているとなったら、そういう結論になっててもおかしくはない――のかもしれない。

 黒竹が生徒たちの様子を観察していると、次第に生徒たちの視線が紫髪に青いメッシュが入っている男性に向いていた。もしかしてあの人が【天馬 司】…?

 

 その人物は周りの「お前が行け」と視線に耐えられなかったのか、ゆっくりと、しかしながら着実に一歩ずつこちらに近づいてきていた。まだ距離が遠いが、彼の冷や汗が止まらないのが分かる。

 前に教えてもらったが、念能力者のオーラを一般人は殺気や不気味な気配としてしか認識できない。例えるならば真っ裸で極寒の雪山に放り出されてなぜ寒いのかを理解していない状況に等しい。

 さらにそのオーラの主はトップクラスといっても過言ではないゴンさんのオーラ。もしこれが害意を持ったオーラであれば念能力者だとしてもその場にいるだけで最低でも白髪化は免れない。

 今のゴンさんには敵意や害意などが一切ないため、あの程度で済んでいるのだ。

 

 

――ていうか、

 

 

「ゴンさん、ゴンさん。オーラ、オーラ。絶にして。相手一般人」

 

「あ、そっか」

 

 

 ゴンさんがオーラを仕舞えばいいだけの話なのだ。ゴンさんは今ようやく気付いたのか、精孔(しょうこう)を閉じてオーラを出ない状態にする『絶』を発動し辺り一帯を支配していた悪寒が消失する。

 その途端、一番近くにいたあの男子生徒が大きく荒呼吸していた。そしてそれは、周りの生徒も同じだった。

 それよりもゴンさん、本当に周りの反応に気付いていなかったのか、黒竹が言うまで『絶』という選択肢がなかった。まぁ念能力者にとってオーラを出さないことは無防備に等しいため仕方ないことではあるが。

 

 

「あの…」

 

 

 黒竹の視線がゴンさんに集中していると、いつの間にか近づいてきていた紫髪の男子生徒。ゴンさんがオーラを閉じたことで呼吸がしやすくなったのかスイスイ進んできたようだ。ソレでもゴンさんに近づくのはかなり勇気がいるが。

 

 

「キミ……あなたは、司くんになんのようか…ですか?」

 

「――誰?」

 

「し、失礼。僕の名前は【神代 類】。司くんとは同じショーステージに立つ仲間です」

 

「そっか」

 

「……神代?………あぁ、“変人ワンツーフィニッシュ”の」

 

「し、知ってるんですか?」

 

「あぁそれは「絵名さんから教えてもらった」ちょ…」

 

 

 黒竹が言い切る前にゴンさんが一言で要約した。

 その時約数名が表情を劇的にまで変えていたが黒竹とゴンさんは気づかなかった。

 

 

「そ、そうですか…。それで、司くんに一体なんの御用で――」

 

 

「おぉおおおおおおおお!!【ゴン】!【ゴン】ではないか!!」

 

 

 類が全てを言い切る前に、突如彼の後ろからバカデカい叫びにも似た声が聞こえた。その声の主の方角へ、一斉にここにいる全ての人間の視線が向けられた。

 その場所は学校の玄関口。そこにいたのは金髪の男子生徒だった。あのバカでかい大きな声は、あの男子生徒のものだった。

 

 

「―――は?」

 

 

 だが、黒竹は別のことで驚いていた。別に彼はあの男子生徒の声の大きさに驚いていたわけではない。彼の言動に驚愕し、言葉を失っていた。

 そして(くだん)の男子生徒は駆け足でこちらに近づいてきて、ついにはゴンさんと至近距離まで近づいた。

 

 

「久しぶりだな、【ゴン】!!」

 

「あぁ…久しぶり、【司】」

 

 

 考えたこともなかった。ミトさん以外で、あの!この!天を衝く髪の男を!ゴンさんを!呼び捨てにする人間がいたなんて――。

 

 黒竹の冷や汗が止まらない中、騒ぎの中心にいる二人は、気にする素振りもなかった――。

 

 

 

 




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