PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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 前回、ビビバス+瑞希の五人から始まった物語。各々がゴンさんに対する感想を言い合っているとき、道の途中にてナンパに絡まれている絵名とマホロアを発見。助けに向かう彰人と冬弥だったが、ゴンさん(B)によってナンパ男は天高くボられた。

 ゴンさん(A)とゴンさん(B)…突如現れた二人のゴンさん、その真相は【カストロ】と言う人物に教わった『分身(ダブル)』と言う能力であった。なにしてくれてんだー!!

 ゴンさんが二人と言うカオスの中、とある一人の少女の回想から、物語は始まる――。


ゴンさん増殖中

――宮益坂女子学園(みやますざかじょしがくえん)

 名前の通り女子高であり、中等部と高等部がある中高一貫校だ。その高等部の二学年のとある教室――2ーBの教室には、一人の少女が椅子に座り、机の上にあるものに向かい合っていた。それは日直の日報。時間は放課後であり、彼女以外の生徒は部活や帰宅のために既に教室から出ていった。彼女だけがこの場に残っているのは、彼女が今週の日直当番であり日報を書いた後に職員室にいる担任の教師に提出する義務を担っているからに他ならない。

 

 彼女の名前は【朝比奈まふゆ】。まふゆは日報にポールペンを滑らすように授業内容や今日の感想を空欄の中に書き足していく。そのペンを動かすスピードは、寸分の狂いもなかった。瞳も全く動かなかった。

 

 そんな彼女の耳が、“パサッ”と小さな音を拾った。ボールペンを動かす手を止め、その音が聞こえた方角を向くと、まず視界に映ったのは空きっぱなしの窓。教室内の換気などを理由に開けられていた窓だ。まふゆは席から立ち上がり、その窓の近くへ歩みを進める。窓の周辺を探索し、音の正体であろうものを、彼女のハイライトのない瞳が映した。

 

 

「……カード?」

 

 

 小さな、かつ掠れた声でそう呟いた。薄い長方形の紙、トランプなどで見慣れたその形を見てまふゆはすぐに結論に辿り着いた。

 まふゆは首を横に向けて空きっぱなしの窓を見る。窓の奥の先、視界に映るは良く伸びた木々と、さらにその奥の風景に紛れ込んだ天を貫く漆黒の縦線

 

 

「――――」

 

 

 明らかに日常の風景ではありえない光景が景色の奥で一直線に伸びているが、今見たのが初めてではないためもはや驚き疲れたほどだ。

 

 

「――――」

 

 

 一番最初に異変に気が付いたキッカケは、どこからか鳴り響いた強烈な轟音だった。その轟音で、教室がパニックになる中一人の生徒が叫び、それにつられたまふゆが見たもの、それが天を貫く漆黒の縦線だった。この事態に一時授業は中断になったが、割とすぐに再開した。それでいいのかと思ったが、あまり気にしないことにした。

 

 話を戻すが、その木の葉っぱが揺れる具合から見ても、今日はあまり風が強いとは言えない。そんな場所にカードが落ちてくる?とても不自然だ。上空から落ちてこない限り、そんなことはあり得ない。

 

 

「――――」

 

 

 まふゆは腰を折り曲げて、そのカードを拾う。見下ろした際に見えていたカードはおそらく裏側だった。まふゆは拾うと同時にカードをひっくり返して表側のイラストを見た。

 

 

「――狐?」

 

 

 そのカードに書かれていたのは、青色のラインが入った九尾の黒狐のロボットの絵柄だった。カードの絵柄の下にはローマ字表記と英語表記で【KAMEN RIDER X GEATS】と書かれていた。“仮面ライダー”まで辛うじて読むことができる。そして、左上に表示されている数字は――

 

 

『コーン』

 

「……鳴き声?」

 

 

 そんな時彼女の耳に、謎の鳴き声が聞こえた。『コーン』と、聞こえた気がした。そんな鳴き声をするのは、狐しか思い浮かばない。まふゆは手に持っているカードを見るが、あり得ないと切り捨てる。カードから鳴き声がするなんてありえないし、そもそも狐は『コン』とは鳴かない。

 

 

(空耳、なのかな…?)

 

『コーン!』

 

「えっ…」

 

 

 再び聞こえた、鳴き声。この時まふゆは微かながらに確信に一歩踏み込んだ。これは幻聴なんかではない。確実にどこかから聞こえてきている。誰かのいたずらだろうか?まふゆは周りをキョロキョロと見るが、人の姿は見受けられない。

 そしてそんな時、再び鳴き声が聞こえた。

 

 

『コォン。コーン』

 

「…え?」

 

 

 その時まふゆは信じられない光景を目の当たりにした。――カードの絵柄が、動いている。今度は幻覚でも見え始めたのだろうか。それとも、このカード自体が3D仕様になっていたりするのだろうか。

 混乱している彼女を余所に、事態は更なる混乱を見せることとなった。

 

 

――突如、まふゆの持っていたカードから光の球体が浮かび上がった。

 

 

 その光景に目を見開きながら光の球体を目で追うと、光の球体はまふゆの足元で動きを止め、球体が爆ぜてまふゆの視界を奪う。

 

 

「―――ッ。……なに?」

 

 

 突然の発光に視界を奪われたまふゆがゆっくりと目を開けて視界に映したその光景は――

 

 

「コーン」

 

「……狐?」

 

 

 そこにいたのは、青いラインが入った九尾の狐だった。サイズは比べる対象がいるなら大型犬が一番近く、それなりのサイズがある。だがこの狐、どこから現れた?そんなまふゆの疑問を解消する手がかりが、まふゆの手に握られていた。

 

 

「…うそ」

 

 

 目の前に大型犬並みの狐が現れたということに動揺し、不意に顔を左右に動かした。その際、自分の手持ちのカードの異変に気が付いた。先ほどまで黒狐のロボットの絵柄が描かれていたはずのカードは、虚無(ブランク)――下矢印のマークだけを残して、絵柄も、表記も消えていた。まるで、カードから抜け出したかのように――。

 

 

「コン」

 

 

 思考が停止しかけていたまふゆの意識を戻したのは、(くだん)の黒狐だった。

 黒狐は周りをキョロキョロと見渡すと、まふゆが手に持っているカードが黒狐の複眼に映る。

 

 

「コォン。コォン」

 

「え…コレ?」

 

「コン!」

 

 

 黒狐の視線の先に気付いたまふゆはしゃがんで無地(ブランク)となったカードを黒狐に近づけると、黒狐はそのカードを口に咥えると、律儀にまふゆに頭を下げた後ピョンと跳躍して窓から出ていき、教室から姿を消した。ここ、1階とかじゃないが、大丈夫なのだろうか――?

 

 

「……なんだったんだろう…」

 

 

 狐など普段見ない上に、伝説上の九尾の狐を目撃したまふゆの反応は、至って冷静だった。

 その後、まふゆの次の行動は、執筆途中の日誌を書き終えて担任に提出することだった。

 

 

「早くやらないと…」

 

 

 まふゆは席に付き、日誌に向かってペンをなぞった。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ゴンさん(B)…?……B?」

 

 

 その長い沈黙を破ったのは、絵名だった。彰人と冬弥とともに並び、マホロアとゴンさん(B)と対面する構図になっている三人。そこには先ほどまで長い沈黙が支配していた。

 マホロア曰く、今目の前にいるゴンさんは初対面に出会ったゴンさんから派生した分身体らしい。つまりは本人であり別人。なにそれ面倒くさい。

 

 

「ソウ、BダヨB」

 

「え、いやいや、分身体って……そんなのあり得な―――」

 

 

 言葉を言いかけた彰人だが、今までのゴンさんの行動を思い返して口を噤んだ。

 

・怒りによる爆風で大惨事

・手からよく分からないオーラの刃を生成

・瞬間移動のような移動速度

・女性の顔面を殴り飛ばし、即回収

・ナンパ男を天高くにまで蹴り飛ばす

 

 ここまで非常識かつトンデモな行動を繰り広げたゴンさんであれば、分身くらいできてしまうのではないだろうか。彰人はそう考えずにはいられなかった。

 

 

「いや、あり得ちまうのか…?」

 

「いや、分身とかあり得ないから」

 

「絵名さん。あそこにもこの人の髪の毛がある以上、そうとしか考えられないのではないでしょうか?」

 

 

 冬弥が首を別方向に動かし、その方向にある天を貫く漆黒の縦線を視界に映した。絵名ももう一つの縦線を視界に映し、顔を顰めた。確かに今、全体を見渡せば天を貫く漆黒の縦線は二つ存在している。一つは目の前。もう一つは遠くに存在している。

 だが絵名は認めない。ていうか認めたくない。なんだろう、それを認めてしまったらなにかを失う気がする。そのなにかは良く分からないけど。

 

 

「くッ…。いやいや、分身なんてそんなのあるわけが――」

 

「ゴンさん(B)。今ゴンさん(A)は黒竹クンとイッショにいるのカナ?」

 

「うん。いるよ」

 

「ソッカ」

 

 

 絵名の悩みに関係なく、マホロアとゴンさん(B)の間で会話が進む。

 マホロアは胸ポケから携帯を取り出すと、操作をして耳に当てる。どこかに電話を掛けたようだ。少し待つと、通話が開始された。

 

 

「モシモシゴンさん(A)?黒竹クンはイッショにいるカナ?」

 

 

 

「ソッカ。(B)のホウから話は聞いてるヨ。クロス君が行方不明にナッタんダッテ?」

 

 

 

「ボクたちはひと段落ついたトコロだから、スグにでも合流できるヨ」

 

 

 

「オッケ~。じゃあココで待ってるヨ」

 

 

 通話が終了し、マホロアが携帯を仕舞うと、絵名たちの方に向き直った。

 

 

「ゴンさん(A)もすぐココに来るみたいダヨ!」

 

「そっか」

 

「ミンナも待たせちゃってごめんネ!」

 

「あはは、いいんですよ…。それじゃあ俺たちはコレで――」

 

「ちょっと待ちなさいよ」

 

 

 流れに乗じて冬弥とともにこの場を離脱しようとした彰人の手を、絵名が両手でガッチリと掴んだ。

 

 

「おいなにすんだよ…離せよこの手」

 

「彰人、あんた弟なのに姉の私のこと置いていく気?随分と薄情じゃない」

 

「大丈夫だろ、お前の図太さなら生き残れる。だからこの手を離しやがれ」

 

「生きるか死ぬかの二択になってるじゃない!姉を見捨てる気!?」

 

「オレはお前と違ってこれから練習があんだよ!()リィが一人で頑張ってくれ」

 

「ちょっと!」

 

 

 彰人は巻き込まれたくがないために相棒を連れてこの場から離脱しようと必死だ。

 対して絵名も奏と二人だけでは精神(こころ)が死ぬと本能が警告し、弟を必死で巻き添えにしようとしている。

 

 

「いい加減離せって!オレらはそろそろ行かなきゃ――」

 

「彰人」

 

「――なんだよ?」

 

 

 彰人と絵名が言い争っている間に、冬弥が割って入る。喧嘩を止めようとしているのだろうか。

 

 

「白石からメールだ」

 

「杏から?近くにいるんだからなんでわざわざメールなんて――」

 

「『先に行ってるから遅れても構わないよ』……とのことらしい」

 

「はぁ!?―――アイツら、逃げやがったな…!!」

 

 

 冬弥の口から語られる、杏からのメール内容に驚き彰人は慌てて周囲を見渡すがそこに、杏、こはね、瑞希の姿はない。確かに彰人もこんなことがなければこんなところからすぐさま逃げていただろう。ていうか逃げる最中だった。

 

 

「いつの間n「おまたせ」――は?」

 

 

 彰人が声を荒げる直前、とても聞き慣れた、だが決して会いたくない声が聞こえた。彰人は壊れたブリキ人形のように首を「ギギギギ…」と動かし振り向くと、ゴンさんが二人並んでいた

 そして隣のゴンさん(A)と思わしき人物は黒竹と呼ばれていた顔の左側に包帯を巻いた少年の後ろ襟を掴んで少年の体がプラプラと浮いていた。

 

 ゴンさんが二人と言う地獄絵図に白目にならざる負えない彰人と絵名。ゴンさんが二人いるわけだから当然

 

 

「あのゴンさん…苦しい」

 

「あ、ごめん」

 

 

 ゴンさん(A)の手にあった黒竹の体がゆっくりと降ろされる。黒竹は首元をさすりながら、二人のゴンさんをチラチラと見る。実際に分裂(分身)の瞬間を見た黒竹でさえ、目の前の状況を認めることができない。ていうか認めたくない。

 

 そして、次に黒竹が見たのは開いた口が塞がっていない状態の彰人、冬弥、絵名の三人である。

 

 

「本当に二人いる…。まさか本当に分身していたとは、何度見ても驚きだ」

 

「いや冬弥。お前なんでそこまで冷静でいられるんだよ。分身だぞ、分身」

 

「どれだけ人間離れしていようが、司先輩が信頼しているんだ。なら俺は問題ないと思う」

 

「お前の時折見せるその器量の広さ、すげぇと思うわ…。まぁ俺らがとやかく言っても仕方ねぇのか…?」

 

(……なんかこの人たちの目、節穴になってきてない?)

 

 

 黒竹は率直にそう思った。問題ないって、ゴンさんだぞ?ピトーを殴り飛ばしたりボったりしてるゴンさんだぞ?それを見て問題ないって思えるのは流石にネジの一本や二本外れていると思わざる負えない。

 黒竹だってゴンさんの行動にはもはやスルーを極めかけているが、それでもおかしいとは心の中では思う。

 

 

「―――ん?」

 

 

 その時、黒竹は見た。――冬弥の脚が微かに震えていることに。その時気付いた。あ、これ気遣ってるだけだ、と。ネジが外れてたわけじゃなかった。まぁゴンさんだからしょうがないよね、ゴンさんだから。

 一周回って冷静になっていた黒竹だが、すぐに本題が脳の頂点にまで戻ってきて声を荒げた。

 

 

「って、そうだ!!クロス!!クロスが行方不明なんだ!多分ゴンさんとジャンプした際にどこかに落として――!!」

 

「落ち着きナヨ。焦ったッテなにもないカラ」

 

「だけど―――」

 

「ソレニ、クロス君の場所ならスグ分かるヨ」

 

「ホントか!?」

 

「“ブック”」

 

 

 マホロアの指にはめられていた指輪から、【グリードアイランド】のバインダーを取り出した。その光景に、非現実的なものを見た三人の目が見開き、言葉を失っている。

 空中に浮いているバインダーのページを開き、一枚のカードを取り出した。

 

 

「このカードは“追跡(トレース)”!このカードを使用スルと対象の現在位置を常に知ることができるンダ!」

 

「……確かにそれはすごいが、アレ……“再来(アカンパニー)”だっけ?それ使えばいいだろ?その方がクロスのところにすぐ行けるし…」

 

 

 黒竹の言い分もその通りだ。追跡(リターン)のカードの効果も確かに探している相手に対しては友好だが、そういうカードの使い道はサバイバル戦なんかの方がよっぽど使い道がある。対して“同行(アカンパニー)”は対象の元にすぐに飛べるし、手間も少ない。普通に考えれば“同行(アカンパニー)”を使うのが妥当なのだが――

 

 

「イイカラ、使ってヨ」

 

「――分かったよ」

 

 

 だがマホロアには押し切られる。押し問答したい気持ちはあるが、その時間さえも押しい黒竹はマホロアからカードを受けとり、絵柄と説明文を凝視する。水晶に手をかざしているおじいさんと、その水晶に映る青年が描かれたカード。一体どのように位置が分かるのかは分からないが、とりあえず使ってみる。

 カードの使用方法はマホロアが使っていたところをみて予習済みだ。カード名と“オン”の言葉、そして使用したい対象を叫べばいい。

 

 

「“追跡(トレース)”オン!【クロス】!!」

 

 

――そしてカードが光る…。

 

 

――――。

 

―――――。

 

――――――。

 

 

「おい、全然反応しないんだが」

 

 

 黒竹の手には、全然反応しない追跡(トレース)のカード。黒竹はただ叫んだちょっと痛い人になってしまった。

 

 

「ア、そういえばカードは指輪がナイと使用できない設定にしてイタんだったヨ」

 

「先に言えや!!」

 

「ゴメンゴメン。はいコレ」

 

 

 マホロアが緑色の丸い宝石が嵌め込まれた指輪を、羞恥心で顔を真っ赤にしている黒竹に渡した。黒竹はそれを右手の中指にはめると、再び呪文を捉える。

 

 

「“追跡(トレース)”オン!【クロス】!!」

 

 

――そしてカードが光る…。

 

 

――――。

 

―――――。

 

――――――。

 

 

「―――おいコレ二回目だぞ」

 

 

 またしても無反応だった。今度はちゃんと指輪も嵌めて呪文を唱えた。それなのに無反応だった。こんなのおかしい。黒竹はそろそろ死にたくなってきた。

 

 

「なんで反応しないんだ、コレ」

 

「黒竹クン。ソレ、登録されてる名前で言う必要アルんだよネ」

 

「……登録?」

 

「ウン。指輪貰うのに登録がヒツヨウでサ。マァ会員登録ミタイなものダヨ」

 

「そんなお気軽に手に入れられるのかコレ」

 

 

 指輪の入手経路がまさかの会員登録。これには黒竹も苦い顔だ。

 そういえばマホロアはこのカードを再現する際に【なんでもありな人物】に【なんでもありな技術】を使ってもらったと言っていたが、その人が関わっているのだろうか。

 

 

「デ、コッチで勝手に黒竹クンとクロス君の会員登録を済ませてるカラ、ソノ登録名じゃないト効果ナイんだよネェ」

 

「先に言え」

 

「ゴメンゴメン。アトで登録情報の訂正申請スルからサ」

 

 

 軽い感じで謝罪するマホロア。全然謝罪の意が伝わってこない。ていうかいつの間に会員登録済ませてたのか。勝手が過ぎる。

 黒竹は頭を掻きながら、今度こそ呪文を正しい形で口にした。

 

 

「“追跡(トレース)”オン!【クロスギーツケミー】!!」

 

 

 三度目の正直と言わんばかりに、カードが光り輝く。やがてカードが消失すると、周りから見ればカードが光って消えただけのように見えるが、黒竹だけは別だ。

 

 

(――分かる。なんとなく?いや、クロスの位置方角が、全て!!)

 

「アッチだ。クロスはあっちの方にいる」

 

 

 そう言い、黒竹が指さしたのは神高とは真逆の方角だった。

 

 

「まさか行き先と真逆の方角に落ちたとはな…」

 

「イヤァ、まさかソンナところに落ちたトハ…」

 

ゴンさん(A)「じゃあ早速クロスを探しに行こうか」

 

 

 クロスを探すため、身を乗り出すゴンさん(A)。その言葉に、ゴンさん(A)とゴンさん(B)に悟られないように下唇を噛んで思考をした黒竹は、悪魔の策を切り出すことにした。一般人たちを生贄にする、悪魔の策を。

 

 

「いやぁ…ゴンさんたちはマホロアの護衛と新しいケーキの購入に行った方が良いって!それにコレは俺の問題だからな、俺がしっかりと解決する!だから気にしないでくれ!!」

 

 

 クルリとゴンさんたちに向かって、渾身の笑みを浮かべて言い放つ。黒竹の魂胆に真っ先に気付いた絵名と彰人は憎らし気に黒竹を見つめるが、二人が言葉を発する前にゴンさん(A)が言葉を口にする。

 

 

ゴンさん(A)「いや、そういうわけにはいかないよ。元はと言えば俺のせいでクロスを落としちゃったわけだし。俺も手伝う」

 

「いえいえ…ゴンさんはゴンさんのやることをやってくれれば。俺は構わないんで。それに、時間は待ってくれないですよ。効率よくいかなきゃ」

 

 

――効率。そう、効率。その言葉を口にしたとき、ゴンさんにある手段を思い浮かびあがらせた。

 

 そして黒竹は、この言葉を口にしたことを心の底から後悔する。

 

 

「――そうだね。クロスを探すのも、マホロアさんを守るのも、司のケーキを買うのも全部大事だ」

 

「―――」ニヤリ「アァあと、あのナンパ男の監視もお願いできないカナ?」

 

「えっ、生きてるの?アレで?」

 

 

 マホロアの口から語られたナンパ男の所在。ゴンさんに依頼したナンパ男の監視、それはつまりあのナンパ男があの状態から生還しているということになる。ゴンさんにボられて雲を突っ切ったあの状態から、生きてることを確定させる発言をしたマホロアに、絵名は考えるより真っ先に言葉が出た。

 

 

「ウン。辛うじてネ。生かしテ引きワタさないトいけないカラ、大丈夫!」

 

(生かして引き渡す…!?)

 

(この人なにやってるの!?まさかヤの付く自由業!?)

 

 

 ただの異世界の商人です。だがそんなことを知る由もない二人はとんでもない方向に想像が膨らんでいく。まぁこんな人(ゴンさん)がいる以上無理もない。冬弥に至っては話に着いていけず、ポカンとしている。

 

 

「そっか。じゃあ4つもやることがあるのか…」

 

「――ゴンさん?」

 

 

 ゴンさん(A)の呟きに、黒竹は咄嗟に聞き返した。それは直観――本能的に嫌な予感がしたからに他ならない。

 

 

そして、その予感は的中する

 

 

 

「「「「なら4人の方が効率的だね」」」」

 

 

 

分身(ダブル)×分身(ダブル)=クアドラプル

 

 

 ズ…と、ゴンさん(A)とゴンさん(B)の姿がブレると同時に―――ゴンさんが4人になった。

 

 

「「「くぁwせdrftgyふじこlp!!」」」

 

 

 その地獄の光景を見た三人は金切り声で文字では表せない悲鳴を上げた。天を貫く髪を持つ男、ゴンさん。彼が1人から2人へ。そして2人から4人へと増殖する様は端折って言えば世界の終わりを彷彿とさせるまでに絶望的な絵面だった。

 

 

「え、え、嘘でしょ!?本当に分身したんだけど!?」

 

「マジかよ…双子だって見切ってたのに…!」

 

「本当に分身するとは…」

 

 

 三者三様の反応を示し、4人に増えたゴンさんを見て畏怖する。ただでさえ一人だけでもヤバイゴンさんがついには四人になってしまった。言葉が出ないとはこのことだろう。

 

 

「しまったぁあああああああ!!」

 

 

 対して黒竹は自身の発言がゴンさんを4人に増やすという戦犯に繋がったことにとてつもなく悔やんでいた。ていうか気づくべきだった最初から。1人から2人になった時点で、もっと増える可能性があることを!!いやでも分身なんて最大1体が限界だって思うじゃん!?でもゴンさんが分身なんてしたら際限なんてないに決まってるじゃん!バカか俺は!!

 

 

ゴンさん(A)「じゃあ俺は黒竹さんと一緒にクロスの捜索に」

 

ゴンさん(B)「俺はマホロアさんと絵名さんを守る」

 

ゴンさん(C)「俺は司のケーキを買いにいく」

 

ゴンさん(D)「俺はアイツを見張ってるよ」

 

 

 自分たち同士で役割を確認したと同時に、ゴンさん(D)の姿が掻き消える。おそらくナンパ男の元に向かったのであろうが、今ナンパ男がどこにいるのかもわからないためどこに向かったのかは不明のままだ。

 残った三人のゴンさんはそれぞれ行動を開始するために定位置に散る。と言っても、ゴンさん(A)が黒竹の元へ、ゴンさん(B)がマホロアと絵名の元へ歩いて近寄った程度だ。そして、一歩も動いていないゴンさん(C)は考える素振りをする。

 

 

ゴンさん(C)「うーん…ここら辺でケーキ屋ってどこだろう…?」

 

 

 ゴンさん(C)は悩んでいた。ケーキを買いに行くと意気込んでも、肝心のケーキ屋の所在をゴンさんたちは知らなかった。最初に買ったケーキもマホロア任せでゴンさんは一切手を着けていない。元々お金の管理は苦手なため、そういったものはマホロアやミトさんにほとんど一任している。こういうところが子供の特権だろう。見た目全然子供じゃないが。

 

 

ゴンさん(C)「マホロアさん。あのケーキの店ってどこにあるの?」

 

 

 ゴンさんは(C)はいつの間にか持っていた中身がグチャグチャのケーキボックスを見せた

 

 

「エッ、シブヤにはないヨ。ソモソモあのケーキは予約シテ買ったカラネ。ていうかドウシタんだヨ」

 

ゴンさん(C)「ピトーのヤツが、司のケーキを…」

 

「ア、ソッカ」

 

(いや100パーアンタの自業自得だったろ…。口が裂けてもいえねぇが…)

 

 

 彰人はゴンさん(C)に対して心の中でツッコむ。アレはどう考えてもピトーに非があるとは思えず、完全な八つ当たりであるとしか思えないが、そんなこと言ったら自分の顔面にあの拳が炸裂する未来が見えたため口をチャックした。

 

 

ゴンさん(C)「ていうかオレ、ケーキとか全然詳しくないんだよね。最初はマホロアさんに任せっきりだったけど、やっぱり誕生日ケーキは直接買って直接渡すのが一番だよね」

 

 

 ゴンさん(C)は思考するが、それも長くは続かない。だが、そんなとき以外なところからゴンさん(C)に助け船がやってきた。

 

 

「あ、それじゃあ彰人を使えばいいですよ。コイツ、こんなイカツイ見た目してるけどパンケーキとかチーズケーキとか大好きだから」

 

「ちょ、絵名!!テメェ!!」

 

 

 助け船を出した人物、それは絵名だった。だがしかし、それは助け船ではなく生贄を差し出す行為だった。成り行きでゴンさん(B)とともに行動をすることが決定した絵名は、弟を道連れにする選択肢をしたのだ。

 彰人と絵名は外観的に仲が悪そうに見えても姉弟なため好物は一致している。そのためケーキ類に詳しい人物は絵名を除けばこの場にいるのは彰人しかいない。

 

 だが当然、生贄に選定された彰人は絵名に向かって講義の声を上げるが、その声はゴンさん(C)に肩を叩かれると同時に鳴り止んだ。

 

 

ゴンさん(C)「じゃあお願いしようかな。拒否権ないけど」

 

「――――」

 

 

 彰人は絶望によって無言になる。姉弟ともにゴンさんに巻き込まれることが確定した瞬間だった。

 

 

「嘘だろ…」

 

「彰人、そう落ち込むな。俺も一緒に行く」

 

「冬弥…」

 

「それに、俺も司先輩になにか買っていこうと思っていたところだ」

 

「すまねぇ…恩にきる」

 

 

 この際に冬弥も一緒に同行することになり、彰人の心の圧は幾分か和らいだ。

 

 

ゴンさんA・B・C「「「それじゃあ行こうか」」」

 

マホロア「オー!」

 

黒竹「おー…」

 

絵奈・彰人「「はぁ…」」

 

冬弥(司先輩にはどんなケーキがいいだろうか…)

 

 

 こうして、3人のゴンさんがシブヤに解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

~一方 そのころ~

 

 

 

 

 

 

「コ~ン…」

 

 

 

 クロスは迷子になっていた。あの後、紫髪の少女の元を離れてから他の人間に見つからないようにゆっくりこっそり移動していると、中庭らしき場所に出た。その時はまだ学校の敷地内から出れたわけではなかった。

 その時、クロスの複眼は不思議な光景を目にしたのだ。それはなんと言えばいいのか、青っや緑っぽい欠片が浮いていた。そうとしか言い表せられなかった。

 

 クロスは身を乗り出し、その欠片に触れた――瞬間、欠片は光を放ち、クロスの体を包み込んだ。

 

 

 クロスが次に目を開けたときに、見た光景は―――、

 

 

黒髪の少女「狐…?」

 

金髪の少女「えーっ!可愛いー!」

 

茶髪の少女「それに、尻尾が9本も…」

 

銀髪の少女「いや、そもそも狐がいること自体おかしいでしょ…?」

 

 

 ギター、ドラム、ピアノ、マイクなどの楽器が置かれた、教室だった。

 

 

 

 

 

 

 




~一方そのころ~


ピトー「――ボクはいつまで飛んでいればいいんだ…」

ゴンさん(D)「」ヒュン

ピトー「えっ」


ボッ



ゴンさん(D)「これで今回のノルマ達成だ!!」

ピトー「ノルマってなに!?」

ゴンさん(D)「今日やれる機会なかったから…」

ピトー「やる必要ないから!!」

ゴンさん(D)「それじゃあ俺はこれで」

ピトー「あ、ちょっと待てこら、おい!ボクを置いてくなぁあああ!!」


 ピトー、空の旅、追加。


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