そんなことも知らない黒竹一向は、分身した二人のゴンさんに困惑する彰人、冬弥、絵名とマホロアと合流し、話し合いになった結果ゴンさんが4人に増えるという珍事に見舞われた。軽い地獄絵図である。
一方クロスは、女子高の敷地内にて謎の光の欠片の塊を発見。不思議に思いそれにッ触れてみると次の瞬間、クロスは全く分からない謎の場所へと飛ばされていた。そこで出会った四人の少女。クロスの運命は以下に――。
「ここか…ここにクロスがいる。だけど…」
ゴンさん(A)「学校だね」
黒竹とゴンさん(A)は
だが、その肝心の場所が――よりにもよって女子高だった。二人は校門より少し離れた場所で佇み、黒竹は悩んだ。
「よりにもよって公共の場所か…。しかも女子高。こりゃ迂闊に入れねぇぞ…」
ゴンさん(A)「職員の人に事情説明してなんとかできないかな?」
「いや、例え話したとしても部外者が入れる理由にはならないかと。女子高だから、男の部外者が入れるとは到底思えませんよ」
ゴンさん(A)「それもそっか」
「それに、九尾の黒い狐を探してますー…なんて言っても、マトモに取り合ってもらえないでしょうし…どうしたものか…」
九尾の狐は伝説上の生き物だ。バカ正直に話したところで追い返されるのがオチである。
「幸い、クロスはまだここから動いていない…。だったら、出てくるのを待つしかないか…」
ゴンさん(A)「そうだね。それしか方法がないか…」
「とりあえず待ちましょう。ここで待ってれば、クロスも自分からこっちに来てくれるはず…信じて待ちましょう」
ひとまずはクロスが出てくるまで二人でここで待つことに決まった。
待つ――暇と言うのが最大の難敵である行動だが、今回の場合は二つの理由から難易度が跳ね上がっていた。
一つ。単純に怪しい男が女子高の前にいるということ。これだけで何も知らない他人からすれば事案案件だと思われてもおかしくないため、最悪警察を呼ばれるかもしれない。だが、二つ目の問題がそれをある意味解決してくれている。
二つ目の理由――言わずもがなゴンさん(A)の存在である。この圧倒的な存在感を放つゴンさんが隣にいるおかげで、大抵の人間がこちらに視線を送るだけで近づいてこようとすらしない。
だがデメリットも存在しており、最悪警察を呼ばれる。
どちらにせよ警察を呼ばれる可能性が高いのは変わらない。まぁ警察がゴンさんをどうこうできるとは到底思えないが。
この視線の嵐の中、クロスがこちらに気付くまで待つのは、精神的難易度の高いミッションである。
* * * * * * * *
「コォン…」
クロスは困惑した。なんか変な欠片を触ったら、よく分からない場所へと移動していたから。さらにそこには様々な楽器を手に持った四人の人間の少女がいたのだ。
少女たちはクロスの存在に気付くと、楽器を置いてこちらに近づいてきた。四人の少女はクロスの目線に合わせるようにしゃがむと、率先して金髪の少女がクロスのことを撫でた。
金髪の少女「可愛い~!」
「コォ~ン…」
クロスは特に抵抗することなく、少女の撫でる手を迎え入れ撫でられる。
茶髪の少女「この子、凄く大人しいね…」
黒髪の少女「すごく人慣れしてる…飼われてるのかな?」
銀髪の少女「いや、そもそもなんでセカイに狐がいるの…?おかしいでしょ」
他の少女たちは三者三様の反応を示し、唯一警戒してそうな銀髪の少女もクロスの可愛さに絆されて実際あまり警戒してない。
だが事実、この場所には限られた人間しか入ることができないのに、別の存在が新しくこの空間に入って来たのだ。しかも入って来たのは、人間ではなく狐。しかも九尾である。
「でもそうだよね…。この子、どこから来たんだろう?」
「セカイに来るには曲を再生する必要があるけど…この子にそれは出来なさそうだし…」
「コン」
クロスが金髪の少女に撫でられてる中で三人の少女の話を聞いていると、教室の外から足音が聞こえてきた。
緑髪の少女「皆、どうかしたの?」
桃髪の女性「なにやら騒がしいけど…」
黒髪の少女「あ、【ミク】!【ルカ】!」
黒髪の少女に【ミク】と呼ばれた緑髪の少女と【ルカ】と呼ばれた桃髪の女性は、クロスの存在に気付くとミクが率先して、
「可愛い~!」
と言ってクロスに近寄って来た。急に来たものだからクロスも少し戸惑った。
「コ、コン…」
「ミク。その子戸惑ってるわよ」
「あっ…ごめんね」
「ふふっ。相変わらずね、ミクも」
「と、とにかく!!この子、どこから入って来たのかな?」
無理やり話題を変えたミクは、このセカイに入って来たクロスの方を向いた。
「コン?」
「えっと、キミはどこから入ってきたのかな?」
「コン?コン!」
「うーん。何言ってるのかさっぱり…」
動物の言葉の翻訳など、普通は出来ないから無理もない。周りの少女たちも「ははは…」と苦笑いしている。
と、そこでクロスは勘づいた。――近づいてきている…。
クロスはお座りの状態から立ち上がると、教室の窓の方に向かって歩いていく。
「アレ、どうしたんだろう…?」
「窓に向かってるけど、外には出られないのに…」
クロスは教室の窓をジッと見つめると―――紫色の複眼を光らせた。
すると、念動力でも働いたのか教室の窓が一人でに開き、窓の外が淡い光を放ち始める。
「コ~ン!!」
クロスの九本の尻尾が肥大化して、窓の外へと付き伸びて―――
* * * * * * * *
~一方そのころ現実世界にて~
「うーん…。ゴンさん。とりあえずここにずっといても不審な目で見られるだけなんで、少し移動しましょう」
「そうだね。でも離れすぎるわけにはいかないよね?」
「俺らにクロスが気づくまでの辛抱なんで、少しここら辺を周ってみましょう」
「分かった。じゃあまずあっち側から…」
と、その時。黒竹の背後の空間が静かに砕け、そこから9本の巨大な触手のようななにかが黒竹の体に絡みつき、声を上げる間もなく黒竹はその空間の中へと消えていった―――。
「―――黒竹さん?」
返答がないことに疑問を抱いたゴンさんが後ろを振り向いたときにはすでに、黒竹の姿はどこにもなかった――。
* * * * * * * *
「へぶっ!?づあ゛…!!」
突如謎の何かに全身を絡まれたと思ったら、急に放り出された。そのまま背中を強打した黒竹は痛みに悶えながら、強打した部分を抑えた。
そんなとき、痛みのあまりのたうち回る彼の顔にとても湿ったものがペロペロと纏わりついた。
「あ゛、うん…?」
「コン」
「ク、ロス…?」
少しずつ痛みが引いていく中、黒竹が目を開け始めると、そこには自分の顔をペロペロと舐めているクロスの顔が映った。
黒竹はゆっくりと立ち上がると、袖で顔を拭ってクロスの顔を見る。
「クロス…」
「コン!」
「……無事でよかった」
「コォ~ン!!」
「わっぷ!飛び掛かるな!!」
嬉しさのあまりか、そのまま黒竹の体に全身ダイブしたクロスは、九本の尻尾を揺らしながら再び黒竹の顔を舐めた。
「やめろっての!!」
「コォン」
「たくッ……。………って、ここどこだ?つーかアンタら誰?」
「一応、それコッチのセリフなんだけど…」
クロスを引き離したあと、ようやく状況の確認ができた黒竹は、今いる場所が普通でないことに気が付いた。今いる場所はどこかの教室で、そこには机や椅子はもちろん様々な楽器が置かれており、そして6人の少女たちがいる。
ちなみに黒竹に対してツッコンだのは銀髪の少女である。黒竹はゆっくりと立ち上がると、次々に疑問を口にする。
「どー見ても現実世界じゃないし、俺をここに連れてきたアレはなんだ…?」
「えっと、それはその子の尻尾でしたよ?」
「てめぇの仕業か」
「ゴォン…」
茶髪のサイドテールの少女に自分をここに連れてきた犯人――ようするにクロスである。犯人が分かった黒竹はしゃがんでクロスの両頬を引っ張った。
「連れてくるにしてももうちょい優しくできただろうが」
「ゴォ~ン…」
「たく…」
黒竹はクロスの両頬を引っ張るのをやめると、軽く何回かクロスの頭を撫でた。そのまま立ち上がると、少女たちの方を向く。
「さて。俺はアンタらに聞きたいことがある。だがアンタらも俺に聞きたいことがあるだろう。だがどっちが先に事情を話すかなんかで口論してちゃ時間の無駄だ。そこでだ――」
黒竹が、握りこぶしを自分の顔の近くで掲げた。その行動に、少女たちの警戒度は一気に増した。暴力で無理やり聞き出そうとするのか、そう思い真っ先に桃髪の女性――ルカがみんなの前に出て―――
「「「「「「……え?」」」」」」
予想外の提案に、少女たち全員から呆けた声が出る。
暴力かと思ったら、まさかのじゃんけんの構えだった。
「なに腑抜けた声出してんだよ。公平に決めるとしたらコレが一番手っ取り早いだろうが」
「え、まぁはい…確かにそうですけど…」
「じゃあ誰が代表する?できるだけ早くしてほしい」
「えっと…ちょっと考えさせて」
「別に構わないけど……」
黒竹から許可を貰ったことで、円陣を組んで少女たちは話し始める。と言っても話すのはじゃんけんの代表ではない。黒竹とクロスのことであった。
「えっと……なんかとんとん拍子で話が進んでいったけど、結局あの人ってなんなんだろう…」
「でも悪い人には見えないよ?」
「うん…。そもそもあの人ってあの狐さんが連れてきた訳だし…」
「いやそれ自体おかしいでしょ。セカイには私たち以外入れないはずなのに…」
銀髪の少女が鋭い視線で黒竹とクロスを睨む。だが、二人の様子は――
「―――至福」
「コン」
クロスの大きな腹を枕にして、こちら側に背中を向けて寝ていた。物凄く無防備である。その様子に銀髪の少女の顔は無意識のうちにチベスナ顔になった。
完全にこちらが眼中になかった。銀髪の少女はなんだか警戒するのがバカらしくなってきた。
「とりあえず、この勝負に応じないと話が進まないわ」
「そうだね。とりあえず誰がじゃんけんするかだけど、私に任せて」
緑髪の少女――ミクは自身満々に立候補する。
「ミク、大丈夫?」
「うん!じゃんけんだけなら特に問題ないし。絶対勝ってみせるよ!!」
「ははっ……別になにか賭けてるわけじゃないから、そんなに真剣にならなくていいと思うけど…」
ミクは決意を胸に、みんなより前に出て宣言する。
「準備できた。私が代表だよ。さぁ、勝負!!」
「じゃんけんの作戦会議にしては長かったけど…まぁいいか。勝負は一回キリ。じゃあいくぞ」
黒竹が起き上がると、ミクの前に立つ。こうしてみると、黒竹が年相応の身長と言うのがよく分かる。ミクの身長が158cmなのに対し、黒竹の身長は約155cm。中学一年生の平均身長より少し高い程度である。
余談はこれぐらいにして、二人がじゃんけんの構えをする。
「「最初はグー、じゃんけん、ポン!!」」
「勝った」
「負けた……うぅ…ごめんね、みんな…」
「よしよし、よく頑張ったわね」
「大丈夫だよ、ミク」
「そうだよ、ミクはすごく頑張ったから!」
「だから落ち込まないで」
「そうだよ。気にしなくて大丈夫だから」
勝者である黒竹は握りこぶしを頭上に上げて、ポーズを掲げてクロスがとても嬉しそうにした。
対して敗けたミクは涙目になって、他の少女たちに慰められていた。
傍から見れば勝利のポーズを掲げる少年と涙目で慰められる少女。傍から見れば少年が少女に対して大人げない勝利を収めたようにしか見えない。
だが、黒竹は勝利で喜んでいたはずの体が硬直したままチベスナ顔になっていた。
(ミク……ミク……小日向…未来)
そう、彼は【ミク】と言う人物名を聞いてある一人の人間のことを思い出していたのだ。
言わずもがな、恨みの対象の一人である【小日向未来】である。だが、目の前のミクと小日向未来は全くの無関係だ。名前が同じだからと言って彼女らに当たるのは違う。
黒竹は軽く深呼吸した後、落ち着きを取り戻して彼女らの方に向き直った。
「さて、それじゃあ聴かせてもらおうか。この場所について」
「――私が説明するわ」
ルカが前に出て、この世界のことについて話始める。
話は以外にも早く終わり、簡潔にまとまっていたためすぐに理解することができた。
「現実とは異なる空間…思いによって創られたセカイ…。で、アンタらはバーチャルシンガーと。それで俺たちは本来入ってこれるはずのない部外者…なるほどねぇ」
「私たちがなんなのか、ちゃんと答えたわ。だから今度はあなたの話を聞きたい。その狐は、一体……なんなの?」
本来入れるはずのないこの世界に入ってこれた要因として一番可能性が高いのが、クロスである。クロスは自力でこの世界に迷い込み、挙句の果てに彼女たちの目の前で黒竹をこのセカイに連れてきた張本人である。
このセカイの住人として、気にしないわけにはいかなかった。
「なんなのって言ってもなぁ。俺もコイツの全てを知ってる訳じゃない。俺が知ってることと言えば、コイツが錬金術で創られた人工生命体だってことだけだ」
「えぇ~錬金術!?」
クロスについて唯一知っている情報を話すと、そのことに真っ先に反応したのは金髪の少女だった。
そのほかの少女も、声には出していないがとても驚いていた。
「錬金術って、本当にあるんだ…」
「じゃあさ、キミは錬金術師ってこと!?」
この金髪少女、かなり押しが強い。グイグイ来られて流石にちょっと戸惑う。
「いや、俺は錬金術師じゃない…」
「そっか…」
「なんでちょっと残念そうなんだよ…。まぁいいや。知りたいことも知れたし、そろそろお暇したいんだが……どうやって出ればいい?」
これ以上ここにいる理由もないため早いところ出たいのだが、その肝心の脱出方法が分からない。
「うーん。本来なら曲を停止させることで元の世界に戻れるんだけど…キミたちは本来とは別の方法…不正に入ってきている状態だし、私には分からないわ」
「でも、その子の力で入ってきたんだから、その子の力で出られるかも」
「マジか。クロス、できるか?」
「コン!!」
クロスは力強く鳴いて、出来るという意思表示を見せた。
「よっしゃ!じゃあクロス、早速頼む――って、ん?」
すぐにでもここから出てゴンさんと合流したかった黒竹だが、そんな黒竹の意思とは真逆にクロスは全く別の方向に向かって歩き出し、止まった。
クロスの視線にあったもの、それは――楽器の数々だった。クロスはその楽器たちを見上げて、そのまま動かない。
「……楽器か。これ、キミたちの?」
「あ、はい。私たちのです…」
「へぇ……で、クロス。なんでコレが気になってんの?」
「コォンコォン」
「うーん、さっぱり分からん…」
クロスがなにかを訴えてきてはいるが、黒竹には何を言っているのかさっぱり分からない。疑問に首を傾けていると、サイドテールの少女が声を掛けてきた。
「ひょっとして…使ってるところ、みたいのかな?」
「コン!!」
サイドテールの少女の言葉に、クロスはとても喜ばしそうに頷いた。
「当たってるみたいで良かった」
「……アンタたちって、音楽やってるの?」
「そうだよ!バンドやってるんだ!!Leo/needって言うんだけど…まだ活動初めてそんなに経ってないから、知らないとは思うけど…」
「―――バンドってことは、歌ってるのか…」
「え、うん。そうだけど……あ、ちなみにボーカルは【
「え、ちょっと、【
どうやら黒髪の少女は【イチカ】で金髪の少女は【サキ】という名前らしい。
だが、今の黒竹には少女たちの名前などどうでもよかった。
――歌、唄、唱、詩、――うた。
その二文字は、どうしても嫌な顔ぶれを思い出させる。切っても切っても切り離せないであろう縁に、黒竹は不愉快さを覚えた。
黒竹は無意識のうちに自分の左手で包帯で隠れている自分の左目にそっと触れた。決して消えることのない傷を刻まれたあの日から、無意識のうちに避けていたワードを聞いて、黒竹の心中はドロドロと濁り始めた。
「―――――」
「えっと…ど、どうかしましたか…?」
「――ッ!!い、いや、なんでも…」
「そ、そっか…」
サイドテールの少女に心配されるが、黒竹は咄嗟に問題ないように返答し、事なきを得た。
サイドテールの少女が黒竹の隣にいるクロスの目線に合わせるようにしゃがんだ。
「狐さんは、私たちの演奏、聞いてみたいのかな?」
「コン!コン!」
「そうなんだね。皆は、どうかな?」
サイドテールの少女の問いかけに、他の三人の反応は――。
「いいよ!やろうやろう!」
「私も大丈夫だよ。特に断る理由もないし…」
「……皆がやる気で、私だけやらなかったら成り立たないし。私もやるよ」
「コォン!」
「はいはーい!じゃあ私もやる!」
と、他の三人も承諾してくれたことでクロスが嬉しく鳴くと、ミクも進んで手を上げた。
話が決まったため、ミクたち五人はそれぞれの楽器の元へと歩いていき調整を始めた。観客となることが決定した黒竹とクロス。そんな黒竹の肩に、ポンと綺麗な手が乗った。
「ほら、観客なんだから、ここに座って」
「えっ、ちょ…」
黒竹の肩に乗った手の持ち主であるルカに押されるまま、黒竹は椅子に座らせられクロスは黒竹の膝に飛び乗った。
「うっ…(重い…つーか少し痛い…)…。あの、不法侵入した身でこんなおもてなしされるのは流石に心苦しいというか…」
「あら?気にしてるの?大丈夫よ、あの子たちはもう気にしてないみたいだし、それにあなたも根っから悪い人じゃないって私も思ってるから」
「初対面でそこまで信用してもらえると、逆に心が痛いんですけど」
「フフッ、繊細なのね」
「それに……歌は、正直…」
言い淀んで呂律もまともにままならないまま、黒竹はルカから顔を逸らした。
自身のトラウマと関節的に関係している概念に、嫌悪感を感じている黒竹にとって歌はあまりいいものではない。
そんな黒竹に対してルカは、彼の顔を両手で挟んで自分の方へと無理やり向けさせた。
「ッ!?」
「私は、あなたがどんな人生を歩んだのか分からないけれど…。それでも、今あの子たちはあなたたちのために歌おうとしてるのよ」
「―――」
「もちろん。嫌なことを無理やりさせるのは良くないけれど、でもあなたは心の底から歌を嫌っているわけじゃない。それはあなたの反応を見れば分かるわ。本当に嫌いだったら、今あなたはここにいなもの」
「――――」
ルカのマシンガントークに物怖じて言葉の出ない黒竹。だがルカの言う通り、黒竹が本当に歌のことを心の底から嫌悪しているなら今黒竹はすぐさまこの場から逃げ去っていただろう。
それをしないということは、黒竹は『歌』のことが心の底から嫌いになれていない、何よりの証拠なのだ。
「それに、その子がみんなの歌を聴きたいって言うんだから、主人のあなたもちゃんと付き合いなさい。じゃないとこの子が可哀そうでしょう?」
「コォン」
「……」
膝の上に乗っているクロスが垂れ目になって黒竹を見つめる。その顔を見て、黒竹はいたたまれない気持ちになった。
「……分かった。分かったから、一緒に聴こう」
「コンッ!」
「ちょ、尻尾、イタッ!」
ついには黒竹の方から折れて、クロスは嬉しそうに九本の尻尾を振った。その振った尻尾が黒竹の体を
そんな光景を見てルカは小さく微笑んだ。
「おーい。準備できたよー!」
そんな時ミクが大きな声でこちらを呼んで、準備ができたことを伝えた。
それを聞いたルカは椅子をもう一つ持ってきて、黒竹の隣に座った。そのことに黒竹はなにも言わず、目線は5人に集中していた。
「それじゃあ始める前に――自己紹介!私は【初音ミク】!ギターとボーカルを担当してるよ!」
「えっ、じゃあ私も…。私は【
「私は【
「【
「……ベース、【
一歌「それでは聴いてください……“needLe”!」
そして始まった楽曲。その楽曲はとても力強く、黒竹とクロスの心を魅了していった。
「―――」
「コォン…」
「――――(楽しく聴いてくれてるみたいで、良かった)」
その隣にいるルカが、夢中になっている黒竹とクロスを見て微笑んだ。
(それにしても、一体どういう境遇で過ごせば、あんな傷ができるのかしら…)
ルカは黒竹の包帯で隠された左目を見ていた。とても目立つ場所に巻かれている包帯に気になっていたが、『歌』と言うワードを聞いて左目に触れていたところを見て、包帯以上の傷を負っていることに薄々と勘づいていた。
声変わりの最中であり、童顔だ。一歌たちよりも年下だろう。そんな彼が、どんな経緯でこんな風になってしまったというのだろうか。
(……この子に対して、私ができることは限りなく少ない…。それにやれることも終わった。あとはこの子次第)
―――歌は続く。4分弱ほど続いた曲もついに終盤を迎え、やがて終幕となった。
「ありがとう、ございました」
一歌の感謝の言葉の次に、黒竹が拍手をした。彼の顔は心無しか少しだけ微笑んでおり、それに釣られて一歌たちも微笑んだ。
「クロス、どうだった?」
「コォン!」
「楽しかったってさ。多分だけど」
「良かった~!大成功だね、みんな!」
咲希が楽しそうに両手を上げて喜ぶ。そのまま黒竹とクロスたちの方に駆けよるとクロスの頭を撫でた。クロスはその手を快く受け入れて、撫でられる。
そのままクロスは黒竹の膝から飛び降りると他のメンバーのところへ走っていき足に絡んだりして動き回る。彼女たちも戸惑うが、モフモフに絡まれるのは悪い気分ではなさそうだった。
「フフッ。はしゃいじゃって、本当に楽しそうね」
「……いろいろ悪かった。急に押しかけてきたりして」
「貴方が悪いワケじゃないから、気にしなくていいわよ」
「―――ありがとう」
黒竹は少し照れくさそうに視線を下に向けてルカにお礼を言った。そんな黒竹の姿を見て「恥ずかしがり屋さんね」と言われ、なんとも言えない黒竹。
そんな黒竹は恥ずかしさを隠すためか、先ほど気になったことを聞くことにした。
「ところでお姉さん」
「なに?どうしたの?」
「お姉さんの名前が【天馬 咲希】ってことは…あの、【天馬 司】って――」
「えっ!!お兄ちゃんのこと知ってるの!?」
「やっぱりか…」
どうやら黒竹の予想通り、目の前の少女は司の妹だったようだ。彼女の苗字を聞いた時点で兄妹かなにかだと予想はしていたが、当たっていたようだ。なにより髪の色同じだし。
「いやぁ……その人とは仲間経由で今日知り合ってさ…。まさか同じ日に親族と会うことになるとは思わなかった」
「そうなんだ!すっごい偶然!」
「あぁホントにな…。大変だったよ。今日は司さんの誕生日だからって、ゴンさん張り切っちゃってさ。校門の前でスタンバってたらゴンさんが神山高校の正門吹き飛ばしたりゴンさんがピトーを殴って
「いや待ってなんか不穏な言葉が聞こえたんだけど。え、吹き飛ばす?
咲希は困惑した。普段聞かないような言葉の羅列のオンパレードに。え、コレが普通なの?私がおかしいの?と変な思考が過るが絶対に違うと思考を振り払った。近くで話を聞いていた4人もポカンとしているし、絶対間違っていない。
すると、隣で話を聞いていたルカが話に入って来た。
ルカ「その人って、悪い人なんじゃ…?」
「いや、悪い人じゃない」
咲希「でも、人のこと殴るって悪い人だよね!?」
「……お姉さん。ゴンさんは悪い人じゃないんだ…。ただ付き合っていくのに思考を停止させる技量が必要なだけなんだ」
ルカ「それただの現実逃避よ」
咲希「いやそれって絶対おかしいよね!?」
と、食い下がらずに咲希とルカは反論した。彼女たちの意見は当たり前である。とても常識的だ。だがやめてほしい。
「お姉さん。君のその言葉も、ゴンさんを見た瞬間になにも言えなくなる。あの人には“圧”があるんだよ。……ただ、驚いたのは司さんがゴンさんを、呼び捨てにしていたことなんだ」
「呼び捨て…?」
「そう。あのゴンさんを呼び捨てだ。普通の精神じゃ絶対無理。だけどあの人はそれを当然のようにやってのけた…むしろ尊敬の念を抱くよ。それに嫌なことも聞かないでくれたし…中々いない良い人だよ。あんな家族を持ってるアナタが正直羨ましい…」
「「「「「「―――――」」」」」」
黒竹のそんな哀愁漂う言葉に、咲希たちはなにも言えなくなる。彼も彼で辛い経験をしており、顔の包帯がそれを証明しているのだ。一歌、咲希、穂波、志保も、一度心が離れ離れになってしまった過去がある。それゆえに、黒竹に強く言うことができずにいた。
「おっと、
「コォン」
黒竹が立ち上がってクロスを呼ぶと、クロスが黒竹の方へと歩いて、どこから取り出したのかブランクカードを口に咥えて黒竹に差し出した。
「お前、どこにしまって取り出したんだよ…。ほんと不思議な奴だな」
「コン!」
クロスからブランクカードを受け取ってそのままクロスに向けてかざすと、クロスは光の玉となってブランクカードに吸い込まれていきカードの中へと納まった。
「……お帰り」
『コン!』
穂波「か、カードの中に入っちゃった…」
志保「私たち、結構すごい光景目にしてない…?」
クロスがブランクカードの中へと納まった光景を直接目にした6人はかなり驚いていた。
黒竹は立ち上がると、一歌たち6人の方を向いた。そのままクロスのカードを掲げると、彼女たちに向かって一言。
「それじゃあ、俺は先にお暇させてもらうよ。……いい歌をありがとう」
『コォ~ン!』
クロスの鳴き声とともに、黒竹の視界は光に包まれた―――
* * * * * * * *
~現実世界~
「……よし、帰ってこれ―――ッ!?」
視界の光が収まった瞬間帰ってこれたことに認識したその瞬間、心身ともに強烈な圧力でもかかったかのような激震が降りかかった。そのときに思い浮かんだ光景は――死神の気配。それが一番近かった。
そんな黒竹の視界に映ったもの――それは、とんでもない漆黒のオーラを放出しているゴンさん(A)の姿だった。
「…ゴンさん(A)!?」
「―――ッ!黒竹さん!」
黒竹の存在にようやく気付いたのかゴンさん(A)はその身から放つ凶悪なオーラを引っ込めて黒竹の元に駆け寄った。
「大丈夫!?急にいなくなったから『円』で探してたんだけど…」
「『円』?……あ」
聞き慣れない単語を聞いて頭に?マークを浮かべる黒竹だったが、さっきゴンさん(A)から説明を受けていたことを思い出した。
確か『円』はオーラの覆っている範囲を広げてオーラに触れたモノの位置や形状を肌で感じ取ることができる技術である。それを使って黒竹のことを捜索してくれていたようだ。
「いやぁ…ご心配をおかけしてすみません…。それに、無事クロスも見つけられましたし」
『コォ~ン!』
「え、見つかったの?いつの間に?」
無事に見つかったクロスをゴンさん(A)に見せるとゴンさん(A)はとても驚いた顔をした。この顔はかなり貴重である。
「俺が姿を消して連れてこられた場所にね…クロスはそこにいましたよ。ちなみに俺をそこに連れてきたのはクロスでした」
「……黒竹さんに早く会いたかったのかな」
『コォン!』
ゴンさん(A)の疑問にクロスは気持ちよさそうに鳴いた。
黒竹はカードを今度こそしっかり懐に仕舞うと、ゴンさん(A)に向き直った。
「それじゃあ別のゴンさんたちと合流します?」
「そうだね。でもどっちと合流する?」
「マホロアの方はアイツの気分次第だと思うんで、ケーキ買いに行ってる方に行きましょうか」
「そうだね。もうすぐで日が暮れちゃうし、早いとこ司にケーキを渡さないと」
「それじゃあ早いとこ出発――「あー!!」……うん?」
出発しようとしたその直後、別方向からとても聞き覚えのある声が響いた。ついさっき聞いたとても身に覚えのある声。
二人して一斉にその方向を振り向くと、そこには先ほどセカイで別れたはずのLeo/needの面々がいた。ちなみに声の主は咲希である。
「キミはさっきの!……で、髪、長い…」
4人の視線がゴンさんの髪へと集中して――沈黙が続いた。
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