【異世界セカイ】の特別編の方執筆していたら、こっちの方もなんかやりたくなってきちゃって。約2年くらいかな?久しぶりに投稿します。
ちなみにな~今。【異世界セカイ】の特別編、今大体76,000字くらい。ハハッ。
ここからさらに増えるんだぜ?パソコンやスマホ重くなるだろうな…。
16 丸ごともらった
「ただ、いま~…」
黒竹はローアに帰ると同時に、近くにあった備え付けの長椅子へとフラフラとした足取りで、その手には胃薬の箱が握られていた。ボサッという擬音とともに椅子に座ると、そのままズルズルと体を横にして倒れた。
その横ではクロスが体を起こして椅子に前足を乗っけて、心配そうに黒竹の顔を見つめていた。
「コォ~ン…」
「まさか、13歳で胃薬を買うハメになるとは思わなかった…」
「黒竹さん、大丈夫?初めての遠出だから疲れちゃったのかな」
「あ~うん…」
ゴンさんが心配の声を上げて見下ろしてくるが、9分9哩アンタのせいだと言ってやりたいが、それを言ったら拳が迫ってきたりボッされたりしそうと思うと怖かったため言わなかった。
適当な返事をすると、マホロアが近づいてきて黒竹の上半身を無理やり起こした。
「ホラ黒竹クン。疲れる気持ちは分かるケド、もうチョットだけ付き合ってネ。まだ一つやることがあるからサ」
「え~…これ以上なんかあんの?ていうかこれってゴンさんの付き添いで別に仕事でもなんでも…」
「本来はそうだったんだけどネェ。今回あの世界にいる途中デ仕事ができたカラ、黒竹クンにもそれを見てもらおうと思ってネ」
「はぁ…」
正直言えば非常にダルい。しかしこれからお世話になる以上仕事の一つや二つ、早めに覚えておいた方がいいと思った黒竹は、重い体をゆっくりと起こしてマホロアとゴンさんの後ろを着いていく。
二人のあとをクロスとともに付いて行くこと約2~3分。他の扉よりも少し大きな扉の前に立ち、両側がスライドしてその扉が開放された。
そこには――
「んんー-!!」
簀巻きにされて口も塞がれた男性がいた。手も足も縛られているためイモムシ状態でジタバタ暴れている。
その光景に黒竹は数秒思考が停止したが、割とすぐに正気に戻った。ピトーの一件で誰かが縛られている光景に耐性ができていた。
「―――誰?」
「ボクのことナンパしてきたヤツ」
「あぁ、いたな確か…。まだ捕まえてたんだ…」
ナンパ男がゴンさん(D)にローアにて見張られていることは知っていたが、ここに来た経緯が蹴られたこと知らない黒竹はどっかで回収されてたとばかり勝手に思っていたが、まさかゴンさんに蹴られていたというのは予想外だった。
ただの蹴りで地上から宇宙空間まで人を飛ばせるのか、そもそもなんでこのナンパ男が宇宙空間まで飛ばされたのに生きている――ていうか蹴られたのに五体満足のままでいるのか。
いろいろと不思議なことばかりだが黒竹は考えないことにした。
すると、この部屋の別の自動扉が開き、そこから別のゴンさん――ゴンさん(D)が現れた。
ゴンさん(D)「あ、俺。帰ってきてたんだ」
ゴンさん(A)「うん。今帰って来たんだ。それで、どうだったコイツ。暴れたりした?」
ゴンさん(D)「全然。すっごく大人しかったよ。…あ、でも一回やられたかな。催眠系の能力持ちって聞いてたから警戒してたんだけどさ。コイツの目、なんかピンク色に光ったんだよ。まぁでも全然なんともなかったけど」
ゴンさん(D)があっけらかんと言うが、黒竹は別の意味で驚いていた。目の前の男が、催眠系能力者?なんであんな戦闘や特殊能力とは無縁そうな――いや、バーチャルシンガーがいるセカイがある時点で無縁とは言い難いが――世界でそんな能力者が…?
そこで合点がいった。なぜただのナンパ男をローアに連れてきていたのか、それは特殊能力だったから…。ついでに目隠しされてる理由も当然だった。
「ウ~ン、ゴンさんに効かなかったとなるト、格上相手には効かない能力なのかナ?」
ゴンさん(D)「多分そうだと思うよ。マホロアさんはどうだったの?コイツの目、直接見たみたいだけど」
「ボクは魔法でブロックしたから大丈夫。デモ、格上には効かない力でボクがブロックできたってことは、コイツの能力に格下扱いされてるってことダヨネ?普通に不快なんだケド」
ゴンさん(A)「え、マホロアさんってそんなに弱くなってたっけ?コレくらいだったら簡単に倒せるでしょ?」
「そうダヨ~。あ、ちょっとイライラが積もってきたネ、コレ」
マホロアの顔が徐々に険しくなっていく。笑顔を絶やさずに。商人スマイルが今も発動しているままだからなのかは分からないが、逆にそれが怖かった。
目と口を閉じられているこの男も耳はそのままなため、ビクビクと震えている。
「で、コイツどうすんの?んな能力持ってるならこのまんま放逐するわけにはいかないだろ」
「まぁ放逐する選択肢は元からないケド…ただこのまま現地の豚箱にぶち込むわけにいかないのハ、確かだからネェ」
ゴンさん(A)「速攻で脱獄される未来しか見えないね」
もしこのまま現地の警察署に突き出したとしても速攻で警官を催眠状態にして脱出される。被害をこれ以上増やさないためにもその選択肢は取れない。
ゴンさん(D)「もうぶっ殺した方が早くない?」
「―――ッ!ム~ム~!!」
ゴンさん(D)の言葉に、男が猛烈にもがいて暴れる。自分が殺されるという恐怖でかく乱状態に陥っているようだった。
それを冷めた目で見る一同は意に返さず話を続ける。
「まぁソレが一番手っ取り早いケド、多分この調子ダト、コイツ前科があると思うんだよネ。あまりにも能力が使い慣れしてるカラ」
「使い慣れ…」
それを聞いた黒竹はさらに冷ややかな目で男を見る。催眠能力の度重なる使用。それが意味するものはその能力のことを理解しているものであれば真っ先に思いつくことがある。
マホロアが片手を広げて男に向けると、マホロアの手が神秘的な光に包まれる。その光が男の顔を包み込む。すると、男の口と、目を隠していた布が粒子のようになって消失する。
「――プハァ!?」
「さーて、ナンパ男クン。キミ、いろいろ余罪ありそうダシ、ぶっちゃけこのまま処分しちゃってもイイと思ってるんだけどサ、なにか異論アル?」
「ま、待ってくれ!!俺を始末するより使った方が断然いいぞ!?俺の力なら、どんな気に入らないヤツでも従順にできるんだ!!」
顔が解き放たれた男は命乞いと自分のプレゼンテーションを始めた。
目の前には自分の能力が効かない少女とゴンさん×2。そしておまけに顔の左側に包帯を巻いた少年と黒狐。対して自身には催眠能力しかない。しかもその頼みの綱の能力は目の前の最大の脅威にはなんの役にも立たない。男にできることは、自分の有用性を証明して命乞いをすることだけだった。
「どんな男や女だって好き放題にできる!ハーレムだって、俺の力ならいくらでもアンタらに作ってやることが――もごっ!?」
だが、当然そんな耳障りなプレゼンが最後まで聞き入れるはずもなく、真っ先にその男の顔を鷲掴みにしたのは――黒竹だった。
「うん。マホロア、コイツ殺そう」
迷うことなくの有罪を即断した。
男の頭上部を左手で鷲掴みにし、催眠能力を封じた黒竹はマホロアにそう提案し、徐々に顔を掴む手の力を強めていった。
「ギャアアアアア!!」
「自分が死にたくないがゆえに自分の長所をプレゼンするのは結構だが…真っ先に他者を貶めることを提案するヤツ、マホロア、お前いるか?」
「ウン、いらないネ」
「…カービィシリーズとはいえ、流石ラスボス。処断するのに一切躊躇いないのは、普通にすげぇな」
黒竹は怒りの炎を燃やしながら、そんなことを言うくらいにはなぜか心に余裕があった。それはなぜかは分からない。怒る自分と冗談を言える自分、それぞれ別かのような感覚だった。だがその思考をすぐに端に追いやる。
すると、頭を掴まれ苦しんでいる男が戸惑うように呟いた。
「カービィシリーズ…マホロア…?お、お前らまさか、やっぱり…!!転生者…!?」
「…なに?」
男の呟きに、黒竹は驚いて顔を掴む力を緩めた。それは男が黒竹の手から脱出するには至らないまでの脱力だったが、苦しみからはある程度解放され大きく深呼吸を繰り返す。
転生者。それはこの場の全員のことを指していた。そして、そのことをこの男が知っていると、いや、気付いたということは…
「アァ、やっぱりキミも転生者だったんだネ」
「マホロア…お前、この男が転生者だって、気付いてたのか…?」
「マァ、コイツ。ゴンさんに蹴られる寸前に「転生者かー」って言いかけてたんだよネ」
「なるほどな…。ていうか居たんだ、俺ら以外に。っつっても、3人もいるんだから他にもいて当たり前か…」
この場にいないが転生者だと確定しているのは【世創 狐白】のことが思い浮かんだが、逆に自分の神経を逆なでするだけだった。
思考を戻して、目の前の男に意識を戻す。
「普通だったらただのナンパ野郎ナンテ、ちょっと身の程を弁えさせたら放逐するんダケド、特殊能力持ってる時点でそのままにはしておけないシ、経過観察のつもりで捕らえる方向にシフトチェンジしてたんだけど、コイツが聞いてもないウチに吐いたから、確定したってワケ」
「そうか…」
「……それでさ、キミにできる?人を殺すコト」
黒竹「――――」
それを聞いて、再び黒竹の手と思考が停止する。
黒竹はつい最近まで殺人はおろか汚れ仕事や戦闘なんかとは無縁だった。そんな彼に殺人と言う究極の選択が出された。ゆえに思考停止は当然の帰結だった。
「殺す殺すって言うのは簡単ダヨ?でも実際にヤれるかどうかは違うからネ。それとも、そう言えばボクやゴンさんがやってくれるとかは思ってないヨネ?」
黒竹「――――」
「それにキミはイズレ、自分を陥れた男たちに復讐したいんダロウ?特にその張本人は殺すつもりダロウ?それすらも、最終的にはヒトにやってもらうつもりカイ?」
マホロアの指摘に黒竹はなにも言わない。図星なのか、それとも考えているのか、どちらにせよ黒竹は沈黙しただけだった。
マホロアは少し悲し気な目で黒竹を見ていた。元々この選択肢はこんなに早く突き詰めるつもりはなかったが、いずれはぶつかる課題だ。むしろちょうどいいのかもしれないと思い始めていた。
「――ヒ、ヒィ…!お、お前、カービィキャラだろ!?カービィっつったらガキ向けのゲームだろうが!!そんなゲームのキャラが人なんて殺していいと思ってんのかよ!?」
マホロア「―――」
「少しはガキ向けゲームのキャラだって言う自覚を持って「なにか勘違いしてるようだけどサ」――…?」
男に罵倒されたマホロアの顔は、今まで一番、とても冷ややかで豚を見ているかのような冷酷な目だった。当然、黒竹に目を隠されている男にはその顔は知る由はないが、声のトーンで怒り始めたことは理解できていた。
「確かにボクは【星のカービィ】のキャラだけど、ボクは【虚言の魔術師】にしてラスボスなんダヨ。それにキミも言っていたダロウ?ボクも転生者ダ。つまりは純粋なカービィキャラじゃないってコト」
「で、でも「デモ大丈夫」」
「カービィやワドルディたちにはこんなことはさせないシ、伝えるつもりはナイヨ。それに、かつて“マホロア”の目的はポップスターを初めとした全宇宙の支配だったんダヨ?でも今の“ボク”はそんなつもりは全くナイシ、カービィもポップスターも大好きダ。それを守るタメだったら…このくらいの汚れ仕事、喜んでやってやるサ」
「嘘だろ…」
カービィが子供向けの作品、それゆえに人を殺すなんて間違っているという咄嗟に出た説得文句だったのだろうが、逆にマホロアの意思をさらに固めただけに終わった。
「それでどうするんだい、黒竹クン。まぁキミにはまだこの議題は早すぎると思ってたカラ、今回のイベントはスキップしても――「大丈夫だよ、マホロア」…ウン?」
男から視線を外し、ビジネススマイルを浮かべて黒竹に視線を戻して助言をしたが、途中で中断された。
そこで分かった。黒竹の雰囲気が…少し、変わっていることに。念による殺意の波動?いや、それなら同じく念を覚えている自分ならガードできるし、それに念を覚えたてでしかも少し前まで一般人だった少年――中身は成人レベル――に気圧されるほど鍛錬を怠ってはいない。
では、この魂が震えるかのような威圧感は、なんだ?
「コイツ見たときにさ、なんとなく、曖昧だけど…分かってたような気がしたんだ。でもそれは普通に気付けなくて。でも、コイツに対する殺意が湧き上がってくると、それがだんだん鮮明になっていった。コイツをどうすればいいか、俺の中のナニカが、教えてくれてる気がする」
それと同時だった。
男から白い粒子のようなものが噴出し始めて、掴んでいた黒竹の左手を伝って、その色が青竹色と黒の二色に変わりながら吸収されていく。その際、誰も気づかなかったが包帯で隠れていた黒竹の左目が、包帯越しに青く輝いていた。
「ア゛ア゛…ヴ…」
「消えろ。次はマジメに生まれ変わってこい」
最後には男すらも白い粒子になって、二色に変わって黒竹に吸収される。その場残っていたのは、男を捕縛していた縄だけだった。
「――――」
ゴンさん(A)「え、黒竹さんいま何したの?」
ゴンさん(D)「アイツ、粒になって消えちゃったけど」
「…正直、俺にも分からない。確かなのは――」
黒竹が立ち上がり後ろを振り向くと、それまでになかったものが黒竹にはあった。
それは、腰に巻かれたベルト――。
「あいつの力、丸ごと俺がもらった」
デザイアドライバーと、中心の黒と青竹色で構成された狐のIDが、怪しく輝いていた。
「コ~ン」
そして、黒き狐の羨望の眼差しとともに。
* * * * * * * *
「ウーン、何度見ても不思議だナァ…」
マホロアと黒竹、クロス、そしてゴンさん×2はその後、医療ルームへと直行して黒竹の体を調べ始めた。
とはいえ、なんか変な電波とか発しそうな機械とか手のひら(マホロアの魔術)を向けられただけだったが。
それで黒竹の体を調べたマホロアの感想が、これだった。
ゴンさん(A)「それでマホロアさん。黒竹さんどうしちゃったの?」
「え~とネ、結論から言うとサ。あの男、黒竹クンの力として吸収されてるネ。しかも一切の不純ナク、単純な“力”とシテ」
「それって大丈夫なのか…?」
黒竹は先ほどの状態から戻り、自身に起きた変化に戸惑いながら、自分の手の中にあるデザイアドライバーを見る。あの男を吸収して得たベルトだと思うとなにかと受け入れ辛いが、それでも心のどこかで完全に「自分のもの」であると認識している。
マホロアの話では、どうやらあの男の催眠能力自体すらも単純に“エネルギー”として吸収しているらしい。それが黒竹の体の中でドライバーとして発現され直したらしい。
「イヤァ~、長年転生者人生やってたケド、こういうのは初めて見たヨ。強奪系とか複製系とかの能力者はたま~に見るケド、まさか体ごと奪うタイプは見たことなかったナァ。黒竹クン直球で聞くケド、その吸収能力、誰にでも使えたりスル?」
マホロアが少し不安そうに問いかける。少し考えれば分かる当然の疑問だ。誰でも吸収できるとすればその力は悪く言えば驚異的になる。だからこそ、しっかりと確認しなければならない。
黒竹はマホロアの問いに少しの沈黙を続けた後、ゆっくりと答えた。
「いや…多分、無理だと思う。あんな風になってアイツを吸収する前に、なんとなくだけど…アイツにならできるって、直観的に理解したって言うか…」
「ん~…対象が限定されてるタイプの吸収能力ってことかな…でもそうなると吸収できる対象って…転生者?」
「いや、そうじゃない、気がする…。それより、もっと限定的な気がする。そうじゃないと、二人のこととっくに吸収しちゃっててもおかしくないと思うんだ」
転生者であることが吸収の条件であるとしても、それはおそらく条件の一つでしかないと黒竹は感覚的にそれを理解していた。
「怖いこと言わないデヨ…。下剋上とかしないデネ?」
「しないって。流石にそんな恩知らずになりたくないし…」
「それならいいんだけどネ…。じゃあ他にどんな条件が…?―――……………――ッ」
しばらくマホロアは思案すると、首を上げて黒竹を見る。
その顔は少し強張っており、なにかに気付いたかのようだった。
「……実はネ、転生者って実は2パターンあるんだよネ」
「2パターン?」
「ソウ。一つは、ある日突然転生してたり、なにかのキャラクターに成り代わってるパターン。これはボクたちのことダネ。ボクもゴンさんもいつの間にか転生してそれぞれのライフを楽しんでるわけダシ」
「じゃあ、俺もそのパターンか…」
「黒竹クンの場合はそうとは言い切れないカナァ。キミの場合クロスくんが記憶を思いだす切っ掛けになったシ。転生してから途中で思い出したパターンはある程度聞いたことあるケド、黒竹クンのパターンは初ダヨ」
そう言われて、黒竹とマホロア、そして後ろで様子を伺っているゴンさん×2も黒竹の足元にいるクロスを見る。クロスは不思議そうに首を傾げて後ろ足で立ちあがって黒竹の太ももに前足を乗せてバランスを取っている。
それを見て黒竹は微笑みながらクロスの頭を撫でてやる。
「クロスのことは、いつでも大丈夫。それで、もう一つのパターンは?……って言わなくても分かるな。転生もののテンプレだから」
「ま、そうダネ。“神様転生”…。これが二つ目のパターン。「神様に転生させてもらってチート能力を貰ってチーレム*1生活だ~!」っていう感じのパターン。多分…いや、確信を持っていうけどサ、キミが吸収した男、絶対神様転生ダト思うんだよネ」
「……なんで?」
「ウ~ン、長年の勘と言えばそれまでダケド…。一応そうだと言い切れる根拠はあるんだよネ…」
そう言うと、マホロアは立ち上がって扉の前に立ち止まり、その扉が自動で開く。
「続きは、歩きながら話そッカ」
「―――」
医療ルームから出て、マホロアを戦闘にローアの中を歩き始める。そこで、マホロアは少し昔話をした。
「ちょっと昔なんだケド、とある世界でボクが今の人間態で商売してたトキにさ、いきなり変なヤツがボクの目の前に現れたんだよネ。そしたらソイツ、ボクのこと見て舌なめずりしながら「オレの奴隷にしてやるぜ」とか言って襲い掛かってきたんダヨ。まぁ返り討ちにしてボコボコにしたけど」
「んなテンプレートみたいなバカいたんだな」
「ホント、驚きだよネェ…。で、フン縛ってそのまま街まで連れてって衛兵に突き出そうと思ってんだけどソイツがサ。「俺は主人公のはず」とか「世界は俺の思い通りに動くのに」とか戯言抜かしてたから無視して聞き続けてたら、ソイツが転生者だって勝手に漏らしたんだよね」
「テンプレ踏み台…」
そんなよく見るようなテンプレート転生者の存在に少し驚きながら、話を聞く。
「ンデ、こりゃあ現地の衛兵じゃどうにもならないナと思って話を聞き出すことにシフトチェンジしたんだヨ。そして詳細は省くケド、色々聞き出したらソイツが神様転生したヤツってことが分かってサ」
「…聞き出した方法は、聞かない方が良い?」
「良いネ」
「そっか」
「…それでソイツの扱いに困ってネ。放逐なんてもってのほかダシ、とりあえずローアで捕縛して有識者に知見を仰ぐことにしたノサ」
「有識者…?」
そこで新しく“有識者”なる謎の存在が出てきた。聞き返すとまた教えてくれる。
「有識者はその言葉通りそのことを知ってる人ダネ。その他にも“情報屋”みたいな面もあってサ。いろいろ教えてくれるんダ」
「コォ~ン…」
ゴンさん(A)「…あぁ、もしかして、マスターのこと?」
「マスター…?ゴンさん(A)、知ってるんだ?」
ゴンさん(D)「うん。俺もたまにそこにいって食べたり飲んだりしてるよ。あとたまに仕事に関する情報も」
「食べたり飲んだり…?」
有識者のことを聞くとますます疑問が増えてくる。マスターと呼ばれていたり、食べたり飲んだりということは飲食を提供してくれるのだろうか。
「マスターはネェ、普段は喫茶店を経営しているんダ。その関係で飲食できるノ。そのついでに情報をもらうって感じカナ」
「なるほど…。で、今はどこに向かってるんだ?」
「もちろん、そのマスターの喫茶店サ」
「…それなら、コックピットのルートじゃないか?なんか別のルート言ってるように思うんだけど」
「オ、黒竹クンすごいネ。ローアって結構広いんダケド、もう道順覚え始めたカンジ?まだ数回しか見てないノニ」
「――確かに…」
そう言われてみれば、黒竹はこのローアの中をたった数回しか拝んでいない。ローアも結構広くまだ全てを見切っていないのに、コックピットまでの道順をなんとなくで覚えていた。ここに来る前までは、そんなに物覚えもよくなく、テストの点数も半分以上取れればいい方だったはずだが、何故なのだろうか。
「記憶力もヨクなってるのカナ?でも、それは吸収とは関係なさそうダナァ。吸収してからまだ一回もコックピットに行ってないモン。あぁでも、記憶の片隅のモノが活性化された…なんてこともあり得るカモ…」
ゴンさん(D)「――つまりどういうこと?」
「黒竹クンが賢くなったってコト」
ゴンさん(A)「そっか。すごいね黒竹さん」
ゴンさんにも分かるように簡素な説明をした後、マホロアはある扉の前で止まった。
その扉は、金属製の横スライド式ドアのローアの中では、一際異色を放っていた。横スライドと言うのは同じだが、曇りガラス付きの木製の扉で窪み型の取手も着いている。そしてなにより、暖簾があった。
「…【喫茶どんぶら】?」
この船、喫茶店も常備してたのか?ていうかこの中にあるってことは船内にいるものしか客がいないのでは?そう色々考えていると、マホロアが取手に手を着ける。
「それじゃ、いこっか」
マホロアが扉を開ける。扉の先が光に包まれ、一瞬目を閉じた。
目の前に広がっていたのは――。
??「えっと、まぁさっき観てもらった通り、呪符使って【水の湧き出る壺】作ったんですけど、村人から吊るされかけまして…ほんと、アイツにも散々罵倒されたし死ぬところでしたよ…。」
??「…あの女性のことは置いておいて、アナタも大変でしたね。ほんと、迷信って迷惑ですよねぇ。信仰するのは別に構いませんが、それで死んでは元も子もないでしょうに。宗教って分からないですね。私も分かります。かつて住んでいた村にて、迷信で生贄にされましたから」
その喫茶店は、アンティークな内装だった。カウンター席が三つ、二人用テーブルが二つ、四人用テーブルが二つ、そして大人数用の大テーブルが一つと言うこじんまりとした喫茶店だった。左奥に見えるふすまと畳がミスマッチだが、それよりもこの中にいる客の方に目が行った。
カウンター席は三つ中2つが埋まっており、そこには当然二人の客がいた。
一人は麻布製に見える薄肌色のような長袖長ズボンにブーツ、そして赤いマフラーと言った浮浪人のような恰好をした少年。
もう一人は赤い襦袢に黒い衣服を着て、その襦袢の背中には“鬼灯”が描かれていた。他にも低いバリトンボイスが特徴に挙げられる。だがんなんか二人がとんでもなく重い会話をしていて気分が重くなった。
(吊るされかけて、生贄って…重いな…。…んで、あれがマスターか…?)
そして、そのカウンターの奥に立つ男性。彼こそがマホロアたちが“マスター”と呼んでいた人物だろうか。
そのマスターの目線が、黒竹と一瞬あった。
「……」
??「…陽介。そろそろ帰った方がいい。明日は彼女とダンジョン攻略なんだろう?」
??→陽介「あ、そうだった。体は休めてるけど、俺の意識はそうじゃないからなぁ…。あとでアイツにどやされるのは嫌だし、早めに帰ります」
??「あと、はいこれ。呪符ね。お代はさっき貰ってるから、あとはゆっくり休みな」
陽介「ありがとうございます!それじゃあ、鬼灯さん!またいつか!」
【陽介】と呼ばれた麻布製の服を来た少年は【鬼灯】と呼んだ男に手を振ると、そのまま少年は煙のように消えた。
「消え…ッ!?」
??「元の世界に帰ったんだよ。と言っても、その世界は彼の生まれ育った世界じゃないけどね」
マスターと呼ばれた男がそう淡々と告げた。
すると、カウンターに座っていた男がこちらを振り向く。顔が合い、その切れ目が黒竹を貫く。その顔を見て黒竹が驚くが、一番驚いた要素は――、
「角…!?」
額に生えた、立派な一本角。人間とは違う存在に、黒竹は素で驚く。
鬼灯と呼ばれた角のある男性は、客が知り合いであることに気付くと立ち上がって対面の姿勢になった。
??→鬼灯「おや、マホロアさん。ゴンさん――は、二人も…?何故…?」
――挨拶をしようとしたが、ゴンさんが二人いるという異常現象に戸惑っていた。まぁ初見であれば無理はないが。
ゴンさん(A)「あ、鬼灯さん」
ゴンさん(D)「ちょっと分身する必要があったからやったんだ」
「分身って…アナタそんなことできましたっけ?」
ゴンさん(A)「カストロさんに教えてもらった」
「…会ったこともないヤツにここまで殺意が湧いたのは、いつぶりでしょう…」
(あ、俺と同じこと言ってる…)
数時間前の黒竹と全く同じ感想をカストロに抱いた鬼灯に、少し親近感がわいた。まぁそのカストロは黒竹によって異空間に飛ばされているのだが。
「それで、初めましての方がいますが、彼は?」
「この子は黒竹クンって言ってネ。チョット訳ありで名前限定の記憶喪失になっちゃってサ。それでボクが命名して、迎え入れたんダ」
「名前限定の記憶喪失ってあるんですか?そういうのって普通、全部忘れるパターンだと思うんですけど…」
と、鬼灯からもっともな指摘を受けてグゥの音も出ない。自分でもまさかこんなパターンの記憶喪失になるとは思わなかったから仕方ないだろと言いたいが、実際珍しいタイプなため反論できなかった。
「まぁ、人間の脳というのも現代医学では解明しきれていませんし、そういうのもあるんですかね」
??「……それで、今回はどんな用事で?飲み食いに来たのなら、空いてる席に座って」
その気ダルそうな態度に、黒竹は少し顔を顰めた。仮にも経営者だというのに接客するつもりがあるのだろうか。だが、よく考えればこのマスターとマホロアたちは顔見知り以上の関係性――まぁビジネスパートナーみたいな関係だと予想できた。ただの店員と客と言う関係ではないのなら、こういう態度も友好の証なのかもしれない。
「そうさせてもらうヨ。でも、本題はカレについてなんだよネ」
??「……そっか」
マスターはそう聞くと、カウンターの奥から出てきて鬼灯の隣になって黒竹を少し見下ろす――身長の関係で――形で対面した。
??→界人「俺は【五色田介人】。この【喫茶どんぶら】のマスターをやってる。よろしく」
これがのちの黒竹――■■■でさえ、何年経っても正体や素性が全く分からないものの長い付き合いとお世話になる謎の人物、【五色田介人】との初の出会いだった。
今回のサブ登場人物。
・陽介(15歳)
知ってる人は知ってる、【異世界セカイ】の主人公。
異世界から帰還した後に陽介と黒竹(■■■)は初対面をしているが、実際はこの時会っており、陽介はマスターたちとの会話で普通に気づかず、黒竹(■■■)の方は後ろ姿しか知らず初対面の時は服装も違ったためこの時に会っていたことは普通に忘れている。
・鬼灯
【鬼灯の冷徹】の主人公。
知ってる人は分かるであろう我らが鬼灯さま。転生者とかなんでもなく、完全に本人。何故喫茶どんぶらにいるのかは、次回分かります。
なお、【異世界セカイ】の方で言及されているが【喫茶どんぶら】はどの世界にも存在しており、どの世界の【喫茶どんぶら】に入っても“同一”の【喫茶どんぶら】に入る。
そして、鬼灯が【喫茶どんぶら】のことを知ったのはマホロアと出会った後である。
・五色田介人(暴太郎戦隊ドンブラザーズ)
【喫茶どんぶら】のマスターと言うこと以外素性不明の謎の人物。
普通に喫茶店経営をしているほかに、情報屋としても、管理人としての側面も持つ。なおドンブラザーズ本編を見て分かる通り、かなりの多才で結構なんでもできる。
「【喫茶どんぶら】に“ないもの”はない。ゆえに、俺に“できないこと”はない」
補足説明。
「喫茶どんぶらにないものはない」 本編で実際に言っている。
「俺にできないことはない」 本編でそんなこと一言も言ってない。