彼(佐藤)は孤児院で暮らしている男子中学生。
そんな彼はある日、行ってもいないはずの【ツヴァイウィング】のライブ会場での“生き残り”のレッテルを貼られ、“人殺し”と呼ばれ、立花響を逃げる際に囮にしたとして酷いイジメを受け、その一日で絶命寸前まで追い込まれてしまった。
しかし、彼の心中に渦巻く感情は急激な変化による“戸惑い”と“困惑”ではなく“後悔”だった。まるで彼自身が、本当にあの場にいたかのように――。
そんな絶命寸前のところに現れたのは、紫色の複眼を持つ謎の狐だった。その狐は何故か妙に彼に懐いており、その狐によって彼は“前世の記憶”を持つ【転生者】であったことを思い出す。
それによりこの世界が【戦姫絶唱シンフォギア】と言う世界であることを思い出し、【世創 狐白】と言う
彼は世創、立花、小日向や他のクラスメイトに復讐を誓うが、怪我と低体温症で気絶してしまった。
そんな彼を助けたのは、謎の船【ローア】の主人であり、旅商人だと名乗った【マホロア】と言う謎の生物だった――。
マホロア
それは前世で、とても良く聴いた名前だった。
【星のカービィWii】に登場するキャラクターにして――ラスボス。そんな人物?が今自分の目の前にいる。普通に考えてゲームのキャラクターが目の前にいるなんてなんの冗談だと思いたいが、自分自身が転生と言うあり得ない現象を体現しているため、納得できる。
それにこの建物――否、船の名前が【ローア】。間違いなく彼の知る【マホロア】で間違いないだろう。
マホロアは操作パネルとモニターから目を離し、浮遊しながら彼と狐に近づいてくる。そして、彼の体をジロジロ見て、ニッコリ笑顔を見せる。
「ウン。傷もダイブ治ってるみたいダネ。サスガはローアの医療ギジュツ!とりあえず死なないカラ安心してイイヨ」
「……なんで、俺を助けた?」
彼の口から真っ先に出たのは、感謝の言葉ではなく、彼?の善意を疑う言葉だった。
しかし無理もない。彼は何も知らない状態であれば真っ先に感謝を述べていただろう。だが、
「ウン?何故って、救難信号をハッシテただロウ?」
「救難信号?そんなの出した覚えないぞ?」
「マァ実際、救難信号の発信源ハ、そのコだしネ。キミに心辺りがナイのもムリはないカナ」
そういい、マホロアは自分の隣に座っている狐を指指した。狐は彼と視線を合わせると、嬉しそうに舌を出して嬉しそうに鳴く。
「コォン!」
「――お前が?」
「主オモイのコなんだネ。その子にカンシャしないと駄目ダヨ?治療シタのはボクだけど、キミの命をスクったのは、間違いナクそのコなんだからサ」
「出会って3分くらいしか経ってないはずなんだが――?」
「エッ」
マホロアも驚いたように目を点にして狐を見る。狐は首を傾げて状況を読み込めていないようだ。どうやらマホロアも関係の短さに驚きを隠せなかったようだ。
「な、ナンカ聞けば聞くほどフシギだね。元々キミの星には宇宙ヘノ通信技術が確立シテナイから、救難信号自体をフシギに思ってたケド…。このコってなんなんダイ?」
「それは俺が知りたいわ…」
「ま、マァ…これ以上のタチバナシもナンだし、食事デモどうだい?」
「あぁ…いただく」
「それなら、コッチだよ。着いてキナ」
マホロアが先頭に立ち、どんどん進んでいく。彼も狐もそれに合わせて進んでいく。
彼はマホロアの後ろ姿を見ながら考える。果たして彼は、どちら側なのだろうか。普通に考えれば命の恩人を疑うのは失礼なのだが、“キャラクター”としてのマホロアを知っている彼からすれば、警戒するに越したことはない。
簡単に言えば、このマホロアはカービィと出会う前なのか、出会った後なのか、それでどうするかが決まる。
警戒を怠らず、歩き続けること1分ほど、マホロアが自動ドアを開けるとそこには広い空間が広がっていた。たくさんの机と椅子があり、ファミレスの席などを彷彿とさせる配置だ。そして奥には厨房が見え、コンロやフレンチドア冷蔵庫などがチラリと見えた。
「――設備がかなりしっかりしてるな」
「そうデショ?かなり信用デキルところからシイレタからネ」
「そう言えばアンタ、旅商人って言ってたな」
「そうダヨ。ローアでいろんなところを
「へぇ…」
マホロアに案内されながら厨房を深く観察する。厨房からはとても匂いが漂ってきており、香辛料か素材の匂いか、それは分からないがとてもいい匂いであるということは確かだ。
そして席に向かう途中、オレンジ色のなにかの影が見えた。カービィの世界においてオレンジ色の生物と言えば――、
(この船にワドルディがいるのか…?)
これだけ大きな船だ。一人で管理するもの大変だろうし、なんならこのマホロアは旅商人をしていると言っているため、従業員であるという可能性もある。まぁワドルディはなんでも卒なく熟すため、一匹や二匹はいてもおかしくはない。まぁゲーム内ではマホロア一人だったが、“旅商人”と言う仕事を持っている以上、一人では足りないのだろう。
「ホラ、ココに座りナヨ」
「あぁ…ありがとう」
「コンッ」
マホロアが椅子にかける?ところに便乗して彼と狐も椅子に座る。
「料理はシバラクしたらデキルから、待っててネ」
「あぁ…。なにからなにまで、すまない」
「いいってことサ。それじゃあ今度コソ詳しく自己紹介ダネ。サッキも言った通りボクの名前は【マホロア】。この船【ローア】の主で“旅商人”をしているヨ。君の名前はナンダイ?」
マホロアは初対面時にやった自己紹介をもう一度行った。
彼は口を開こうとしたとき、隣から狐の鳴き声が響いた。
「コンッ!コンッコンッ!!」
「ヘェ、それがキミの名前なんだネ。じゃあ【クロス】って呼ばせてもらうネ!」
なんか会話が成立していた。マホロアと【クロス】と呼ばれた黒狐は嬉しそうに話を続けており、彼はその様子をポカーンと見つめているしかなかった。だが、時間も経てば思考も正常に戻るわけで、慌てて言葉を切り出した。
「えっ、なに?おま――マホロアさんってこの狐の言葉分かるの?」
「マァ、いろんな世界を渡りアルイテきたからネ。言語理解は必須
「ど、動物の言葉を使う必要のある世界もあるのか…」
旅商人を自称するマホロアの言葉は、妙に現実味があった。現にマホロアとこの狐との会話は成立している。今もマホロアと狐は楽しそうに会話している。彼からすればただの鳴き声にしか聞こえないのだが。
「ア、それに敬語はヒツヨウないヨ。ボクとしても明確な上下関係がアルわけでもナイのに、敬語はむずがゆいからサ」
「いや、明確な上下関係、あるんだけど…」
彼がマホロアを警戒しているとはいえ、現時点での彼にとってのマホロアとの関係は命の恩人だ。そこには明確なまでの上下関係が存在している。
マホロアもそれを把握しているはずなのに、上下関係がないと言ったことに彼は困惑が隠せない。
「ホントにイイんだヨ。基本テキに敬語をツカわれるのは【マホロアランド】の従業員にダケでイイからサ」
(マホロアランドってなんだ…!?)
ちなみに彼は【星のカービィWii“デラックス”】のことを知らない。
マホロアが目を閉じながら「ハァ~」とため息を吐いた。よく分からないが彼にとって会話はため口の方が性に合っているようだ。だが正直、何故タメ口が基本で今まで商人をやっていけているのか分からない。
「ま、まぁ敬語を使わなくていいのは、俺も楽だから助かる…。正直言って命の恩人にため口は気が引けるけどな…」
「イイヨイイヨ。気にしないデ。あっ、料理がキタみたいダネ」
「いや、なにからなにまですまな――」
食欲をそそる香りが、彼の首を動かす。その瞬間、彼の時間は止まった。二重の意味で。その理由はお盆に乗せられている料理と、その料理を持ってきた生物にあった。
まず紹介すべきはお盆に乗せられている料理――。
「キミが元気になるヨウスタミナの付く料理にしたヨ!ヤサイトリプルニンニクマシマシアブラカラメダヨッ!」
即答。淀みのない綺麗なほど透き通った
だが彼の言い分も理解できないわけではない。いくら怪我がある程度治っているとはいえ、病人に出す食事ではない。
「ラーメンって!ラーメンって!しかも二郎系って!えっなに?お前の故郷では病人にラーメンを出すのが主流なの?それが当たり前なの?」
「――いやデモ、ニンニクってスタミナがつくんダロウ?だから病人にはちょうどいいカナって」
「俺の常識じゃ病人にはうどんとかの消化のいいものだった気がするんだが?」
「――フフッ。冗談だよ、ジョウダン!ボクだって人間のイル世界に行ったコトがナイわけじゃナイんだヨ?ただちょっとカラカッタだけサ!」
「……そうか」
彼は、ツッコむ気力すらなくなった。マホロア――別名【虚言の魔術師】。まともに相手にするだけで疲れるだけだ。それに、疲れている理由はもう一つ。このラーメンを運んだ者についてだ。オレンジ色の生物。それには間違いなかった。最初はワドルティかと思った。だってマホロアがいるし。オレンジ色の生物を見れば真っ先にワドルディが思い浮かぶ。でも――。
「―――」
(コイツ…どう見ても
オレンジ色の宇宙服に身を包んだ2頭身で、足だけの宇宙服にバックパックをつけただけの生物。手はマホロア同様宙に浮かんでおり、その手にはラーメンが乗っかっているお盆が握られている。クルーはお盆を彼と狐の前に置くと手が消え、そのまま背を向けて厨房の方へとスタスタと走り去っていった。彼と狐はその姿を見届けると、彼は口を開いた。
「―――なにアレ」
「アァ。アレはクルー君ダネ。大分マエに宇宙空間で放逐サレテいるのを見つけたカラ、そのままホゴして働いてモラッテるんだヨ」
「――そっか」
彼は、ツッコむ気力すらなくなった(二度目)。天井を見上げ、悟った顔をした。今なら宇宙を感じられそうな気がする。今いる船は宇宙を旅できる船なのだか。
さてと。現実逃避はこれくらいにして、彼は目の前に置かれた二郎系ラーメンを見る。どうやったって今に完食できるとは到底思えない。揶揄われたとはいえせっかく作ってくれたものを残すのは気が引ける。どうすれば――、
「コンッ」
「――ン?」
「ホォ~。どうやらクロス君がキミのカワリに食べてくれるらしいヨ!」
そう狐の言葉を翻訳してくれるマホロア。だが彼は半信半疑だ。確かにこの狐の大きさなら食べられるかもしれないが、狐がラーメンって、いいのだろうか?だが彼の心配を余所に、狐は前足を机に乗り出して上部にある野菜を頬張り始めた。
「コ~ン~」
「ま、マジで食いやがった…。だ、大丈夫なのか…?」
「大丈夫ダト思うヨ?クロス君はフツウの狐じゃないカラね!」
「まぁ…それは分かるけど…」
あっという間に上部の野菜を食べ終えた狐はスープと麺にありついた。ハフハフと熱そうながらも必死に食べる狐の姿は何というか、とても微笑ましい。
そんな狐の姿を観察していると、先ほどのクルーがお盆に再び丼を乗せてきた。その丼からも芳醇なまでの出汁の香りが漂ってくる。お盆が彼の前に置かれると、丼の中はうどんだった。ご丁寧に七味も置かれている。どうやらちゃんと彼用の食事は用意されていたようだ。そうなると、あの二郎系ラーメンはもとよりこの狐のために用意されていたことになるのだが、深くは考えないようにした。
「――いただきます」
割りばしを割り、うどんを啜る。強すぎるまでのかつお節の風味が、鼻と舌を駆け巡る。――あぁ、うまい。彼の瞳から、大粒の涙が流れる。
「――うまい…。美味い…ッ!!」
「チョ、泣いてるケド、ダイジョウブ…!?」
「あぁ…。マトモな飯が、こんなに美味い、なんて…!!」
彼は今日一日で、全てを失った。居場所も、友達も、人権も――。冤罪をかぶせられ、洗脳され、泥やほこりにまみれた食事を無理やり食わされ、吐かされ、満身創痍になるまで痛めつけられ、限界を超えていた彼の精神は、まともな食事にありついたここで、今ここで決壊した。
彼は特別じゃない。だから迫害に耐えられなかった。
彼は心の支えがあるわけじゃない。だから逃げた。
彼は強いわけじゃない。だから淘汰された。
その辛さが、苦しみが、悲しみが、一杯のうどんで今、一気にあふれ出た。そのまま一気に、うどんを口の中に頬張りこんだ。
「ヂクジョウ…ヂグジョウ…!!」
「チョ!一気に食べるト喉に詰まるヨ!」
「ウゥ…(ゴクッゴクッゴクッ)………ありがとう。ごちそう、さまでした」
汁まで一気に飲み干し、丼をお盆の上に置いた。そこで彼の顔が露わになったことで、マホロアは言葉に詰まった。マホロアは今ようやく、彼が悲しみの涙を流していることに気付いたのだ。マホロアは、見えない口が空いて塞がらなかった。
そんな彼の涙を、狐が舐めとった。
「コンッコンッ」
「なんだ?慰めてくれてるのか……?でも、ニンニク臭い」
「コンッ!?」
狐が慰めてくれたのは嬉しいが、二郎系ラーメンを食べたばかりの狐の口内は臭かった。器を見ると、スープまでスッカラカンだった。あの短時間であの量を食べたのかと感服する。そんな彼と狐のやり取りを見て、マホロアは静かに微笑む。
「キミに何がアッタのかは、クロスくんカラすでに聞いてるヨ。辛かったダロウ。だから、ユックリ休んでクレテ構わない」
「――なに?」
自分の境遇を、この狐から聞いた?そんなバカな。この狐と自分の初対面は学校のはずだ。それなのに、この狐は自分のことを知っている?まさかずっと見ていた?あの対面は、偶然ではなかった?
様々な考えが彼の脳内で交錯する中、マホロアの言葉で彼の思考は中断される。
「ソレニ、仕入れたモノをそんなに美味しそうに食べてくれるノハ、直接ゲンチまで行って仕入れたボクとしても、ハナがタカいヨ。美味かったダロウ?出汁ペリカンのかつおぶし」
「あぁ……ん?出汁ペリカン?」
聞いたことのない謎のパワーワードに彼の思考は停止する。出汁とペリカン。一体どんな核融合があってその二つが合体したのだろうか。
マホロアが席から立つと、厨房に顔を乗り出した。
「オーイ、出汁ペリカンー。出てオイデー」
マホロアの声から数秒後――ペリカンが、厨房から顔を乗り出した。
マジでペリカンだった。まごうことなきペリカンだった。
「――ペリカンだ」
「まぁペリカンだからネ。デモ、この子はフツウのペリカンじゃナイヨ?ほら、クチをアケテ…」
マホロアがそう指示をすると、ペリカンはその大きな
「―――?」
「出汁ペリカンはね、「食濃庫」ってイウ器官があってネ。そこで出汁が生成されるンダ。まぁ個体差がアッテこの子のバアイはかつお節がデキルんだけどネ」
「いやそもそもなんだこの生物は」
彼はズバッと本題に入れた。出汁を生成するペリカンってなんだ。なんでペリカンである必要がある。そもそもこの生物は一体なんだ。ツッコミどころが多すぎる。
「この子はネ。【食の宝物庫】トモ呼ばれるセカイ、【トリコの世界】に生息しているペリカンだヨ」
「いや知らんて」
「エッ!キミジャ○プ読んだことナイノ!?」
「買ってはいたけどワン○ースしか読んでない」
「ソッカ。残念ダナァ…。デ、話をモドスけどね。ボクが主に取り扱ってるノガ【食材】と【家具】ナンダヨ。ボクが売ってる食材のホトンドは【トリコの世界】で仕入れてルネ」
「へぇ…」
彼はいつの間にか机の上に置いてあった温いお茶を手に取って口に入れる。
彼からすれば知らない世界故にあまり想像できないが、【食の宝物庫】とも呼ばれているからには、食で溢れているだろうということは想像がついた。世界は広い。こんな摩訶不思議な生き物がいても不思議ではないと、彼は納得した。
「それでナンダけど、まだキミの名前をキイテなかったヨネ?聞かせてくれないカナ?」
「あぁ…。そういえばそうだったな。俺の名前は―――?名前は……。名前…」
(――アレ?俺の名前って、なんだっけ…?)
――思い出せない。自身の名前だけが。自分の出自、過去、学歴、交友関係、全て憶えてる。でも、パズルのピースが欠けたように肝心な場所が――自分の名前だけが、思い出せない。
焦りで、彼の顔がどんどん歪んでいく。その変容具合に、マホロアと狐が驚いた顔を見せた。
「だ、ダイジョウブ…?顔、グチャグチャになってるケド…?」
「アレ…?名前…なんでだ、名前だけ…肝心なのが、分からない…」
「え、エット、無理にオモイ出そうとしなくてイイんだヨ?」
「コンッ。コン…」
両手で頭を抱える彼の姿に狐が椅子から飛び越えて彼の膝の上に乗り、彼を慰めるかの如く顔を体に摺り寄せてくる。そんな姿に彼は、心が急激に落ち着いていく。先ほどまで戸惑っていた自分の心が、偽りだったかのような感覚だ。
「――そうだったな…。別に…名前にこだわってたわけじゃ、なかったしな…」
彼の名前は捨てられた際にその孤児院が属する市町村長が付けたものだ。それゆえに、実の親からもらったものなど何一つない。
育ての親とも言える孤児院からも、見限られ、捨てられた。彼に残っているものなど、何一つないのだ。良き想い出すらも、既にチリと化した。もう、燃えカスだ。
「ボクが見つけたトキ、キミの怪我はヒドイものだったカラネ。その時のエイキョウで名前ダケ忘れてしまったのカナ…?」
「多分そうだと思う…。すまない。せっかく名乗ってくれたのに」
「イヤ、イイんだヨ。キミが悪いワケじゃないシ…」
お互い気まずくなり、沈黙が続く――。
そんな空気を晴らしたのは、マホロアの方からだった。
「―――ネェ」
「……なんだ?」
「ホントウは、キミが落ち着いてジカンが経ったら話そうとシテタことなんだケド…」
マホロアは席から立ち上がり、彼と狐に向き直った。
「ボクの名前はマホロア」
「いや、それはさっき聞いt――」
「―――ッ!!」
マホロアの突然のカミングアウトに、彼は血の気が引いた。バレていた、自分の正体が。いや、この際自分の正体なんてどうでもいい。ヤツは今なんて言った?自分と同じ、【転生者】?
この二頭身の生物が、元人間?驚きのあまり立ち上がり、警戒を強めて睨みつける。が、マホロアはそんなことを気にせず毅然とした態度で会話を続ける。
「お前が…転生者…?」
「ソウ。セイカクには“成り代わり”ってヤツだよ。“憑依”って言い換えてもイイかもネ」
情報がキャパオーバーだ。与えられた情報があまりにも大きすぎて、視界がグニャンと歪んだ気がした。そんな幻覚を目を閉じ頭を振って振り払う。
しかし、何故マホロアはそんな重要なことを暴露した?そして何故自分が転生者だとバレた?そんな疑問が頭の中で飛び交う。そんな彼の疑問に答えたのは、他でもないマホロア自身だった。
「カンタンなことダヨ。キミはボクとの会話で、ミッツのミスをした」
「三つ…?」
「ソウ。一つ目のミスでギワクに変わり、二つ目のミスでカクシンに至ったんだヨ。三度目は再確認カナ」
「ミス…?そんなものしでかした覚えは―――はッ!」
自分とマホロアの会話を振り返り、彼は気づいた。自分が致命的なミスを犯していたことを。本来存在しない
「ジャ○プ……。俺の世界にはその雑誌や会社自体存在してない…!!」
そう。彼は口走っていたのだ。彼が二度目に生まれ育った世界には、存在していないモノを。
彼はワン○ースの愛読者だ。それゆえにあらゆる本屋を調べまわったが、残念ながらあの世界にはワ○ピースどころかジ○ンプすら存在しておらず悲しんだ過去がある。
ゆえに、彼がジャン○やワ○ピースのことを知っているのは、本来あり得ないことだ。
「ボクは商人であるマエに異星人だからネ。降り立つヨテイの星のジョウホウは前持ってシッテおくのがアタリマエになっているんだヨ」
マホロアの言葉に、理解と納得を同時にした。
マホロアはありとあらゆる世界を又にかける商人であるということはこれまでの会話で判明している。そんな彼が、あらゆる世界の齟齬――その世界に“あるもの”“ないもの”を調べるのは、当然だ。国や時代が違えば、常識が違うのは当たり前だ。だからこそ、世界が違えば常識も違う。それを調べるのはなんら不思議なことではない。
「……迂闊だった。存在してねぇもんをまるで最初から知っているかのような会話すれば…そりゃあ疑問も持つわな」
「エ?アァそうじゃナイヨ。ジャン○とワ○ピースのことはキミの三度目のミス。再確認のタメにやったコトダヨ」
「えっ?」
「ダッテ、この話シタのタッタさっきダヨ?それで疑問持ってたらジュンバンがおかしいダロ?」
「……あぁ、そうだった、な」
そう。そもそも順番が違かった。ジャ○プや○ンピースの話をしたのはたったさっきだ。その時点で疑惑を持っていたとしたら、いつ確信に至ったんだという話になる。
彼の熱は急激に冷め、ペッタリと椅子に尻をついた。
「ソレデ話を戻すケド、ボクが疑問を持ったのは初対面のトキ。キミ、ボクが自己紹介したトキボクの名前をキイテ驚いていたダロウ?アノ反応、最初からボクのこと知ってなきゃ出来ないからサ」
「あぁ……その時点でミスってたのか…」
あの初対面は彼にとっても青天の霹靂だった。自分がシンフォギアの世界に転生していたことを思い出して気絶して目を覚ましてのあの邂逅だ。驚くなと言う方が無理がある。
あの時マホロアの名前を言いながら驚いていたことから、マホロアが「自分のことを知っているのか?」と言う疑問を持つ切っ掛けになっていたのだ。
「ソシテ、キミが一番気になってるでアロウ二つ目のミスなんだけど」
「――今までの会話を振り返っても、あの二つ以外おかしいところはないと思うんだが?」
「イヤイヤ。キミはしっかりミスを犯してるヨ。言ったダロウ?ボクにとって情報収集は欠かせないことダト」
「……?」
「キミ、ボクが最初出した料理はナンダイ?」
「――ラーメン」
「ソレは何ラーメンだい?」
「……醤油ラーメン」
「そうじゃなくて、キミ言ってたダロウ“二郎系ラーメン”ッテ」
「―――えっ、まさか、嘘だろ?」
流石の彼も、ここまで言われれば気が付いた。自身の二つ目のミスを。
「ソウ。ジャン○と同じヨウに、存在してナイんダヨ。キミの世界に。“二郎系ラーメン”ハ」
「――うっそだろおい」
これは彼自身も初めて知った。まさか自分の住んでいた世界に二郎系ラーメンが存在していなかったなんて。孤児院だったこともあって外食の機会などほとんどなく、中学生だったこともあって保護者なしに外食もできないこともあって、知ることができなかった。あのラーメンジャンルが存在していないことを。
「マァ以上ガ、キミが【転生者】だってワカッタ理由カナ」
「……なんで、それを俺に話したんだ?」
「簡単ダヨ。こういう積もるハナシはサイショで消化しとくのがイイからネ。ソレニ!キミがボクのことを知ってるノニ、ボクがキミのことを知らないのは不公平だからネ!」
ニッコリと笑いながら語るマホロア。確かに彼は前世でマホロアと言うキャラクターを知っている。マホロアが出てくるゲームのプレイ経験があるからだ。
片方が片方のことを知っているのは不公平。だから知ろうとした。……何ともマトモなことだ。
「――参ったよ…。頭が回るんだな。商人だからか?交渉とかで頭使いそうだもんな」
「マァそれもあるケド、やっぱり一番はマホロアの頭がモトモト良かったんダト思うヨ?」
「……やっぱそっか」
「キミボクのことバカにしてない?」
「いやそんなことは」
本当にしていない。だがマホロアはジト目でこっちを見てくる。本当に見てないんだからそんな目で見られても困るだけだ。
マホロアは一回「はぁ…」と息を吐くと席を立った。
「さてト。食事も終わったシ、キミに見せたいモノがあるンダ」
「――見せたいもの?」
「ソレは歩きナガラ話すヨ。着いてキナ」
移動を始めたマホロアの背中を追いかけ、彼と狐はついていく。視界の端に、ラーメンとうどんの器を乗せたお盆を持って厨房へと歩いていくオレンジクルーとその後ろを着いていく出汁ペリカンを捉えながら――。