PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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 前回のあらすじ

 【星のカービィWii】に登場するキャラクター、【マホロア】と名乗る宇宙人に助けてもらった佐藤。そこで彼が出会ったのは
・【AmongUs(アモングアス)】のオレンジクルー
・【トリコ】の【出汁ペリカン】であった。

 これはぶっちゃけほとんどどうでもいい。

 そんな中マホロアとの会話の中で彼は3度のミスを犯し、自身が【転生者】であることがバレてしまう。そしてここぞと言わんばかりにマホロア自身も“憑依転生者”であることを明かしてきた。
 様々な混乱を抱えながら彼は、黒狐の【クロス】とともに、マホロアの背中を追いかけるのであった――。


就職決定

 

 

 廊下へ出たマホロアたちは、移動しながら会話を始めた。それは移動から割とすぐのことだった。

 開口一番マホロアの口から出たのは、彼にとって辛いことを思い出させる質問だった。

 

 

「――マズ、キミにとっては辛いハナシだろうケド、まずキミは自分のセカイについてドコマデ知ってるんダイ?」

 

「――作品名は【戦姫絶唱シンフォギア】。人類は人を炭化させ死に至らしめる認定特異災害"ノイズ"の脅威に脅かされ、唯一それに対抗できる、聖遺物を歌の力によって武装化する、通称“シンフォギアシステム”を用いて戦う少女たちの物語」

 

「ウン。そこまで知ってイレバ話も早くススムね」

 

 

 説明口調で話しながら、シンフォギアのことで立花と小日向のことを連想する。自分の記憶と乖離した、彼女たちの憎悪の表情が、彼に苦悶の表情を浮かべさせた。

 心の底にある憎悪とは裏腹に、彼の心は妙に平穏を保っていた。それはなぜか分からない。だが、気持ちの方は穏やかだった。

 

 

「キミもある程度知っているトオリ、シンフォギアの世界はアリとあらゆる並行世界がソンザイする。ボクも何個カノシンフォギア系列の世界に行ったコトがあるカラネ」

 

「……そっか」

 

「ホンライ、ボクはキミの世界に寄るヨテイはなかったんダ。デモ、クロス君が発した救難信号でボクは

この世界にキタ。ナンドも言うヨウだけど、キミはホントにクロス君にカンシャしなきゃダメだヨ」

 

「……そうだな」

 

 

 彼の歩幅に合わせて隣を歩く狐を見下ろす。それに気づいた狐はその大きな紫色の複眼で「コォン♪」と嬉しそうに鳴いた。

 彼は再びマホロアの後ろ姿に視線を戻し、マホロアの話に耳を傾ける。

 

 

「サイショは、キミの世界に降りるノヲ、躊躇ってイタヨ。何しろボクは宇宙人。見つかればサワギは免れナイ。デモ一番のリユウは――一言でイエバ、衝撃(ショック)、カナ。

 

「……ショック?」

 

「サッキも言ったトオリ、ボクもシンフォギアは知ってる。だからこそカナリ衝撃(ショック)だったヨ」

 

「――――」

 

 

 マホロアの背中から、哀愁が漂ったのが分かった。自分の世界に降り立つ際に調べて知ったのだろう。シンフォギアを知っている人間からすれば、彼の世界の立花と小日向は信じられないぐらい暴挙に出た。

 その証拠が、彼の顔の傷だ。そう思うと、包帯で隠れた顔半分が疼く。実際にこの傷をつけたのは世創のヤツだが、彼女たちはソレを止める素振りすら見せなかった。これだけでも、自分の知っている二人と自分の世界の二人が違うのは、明確だ。

 

 

「……幻滅したろ。人って、あんな風に変わっちまうんだなって、つくづく思わされたよ」

 

「そうダネ。ボクが今まで回ってキタシンフォギアの世界のナカでダントツで最悪のセカイだった。そして、アノ世界があんな結果にナッタ原因としてイチバンに考えられるノガ――【世創(セイソウ) 狐白(コハク)

 

「――驚いたな。まさか、そこまで調べてるなんて…」

 

「キミが目覚めるマデかなり時間があったカラネ。多くの情報を入手できたヨ」

 

 

 そういえば今は何時なんだろうか。目覚めてから一回も日にちを確認していない。自分が気絶してからどれほど経っているのか、気になり始めたが今はマホロアの話に集中することにした。

 

 

「調べてイク中で、イチバン気になったのは【白狐】カナ」

 

「あぁ。俺もそれが気になってた。」

 

 

 あのライブ会場で突如として現れた【白狐】。その白狐はなんと本来シンフォギアでしか倒せないはずのノイズを倒すことができるらしい。その時点で、転生者の可能性が大だ。

 そして、その正体は――、

 

 

「ソノ正体として一番カノウセイが高いのがヤッパリ【世創 狐白】。ていうか狐白をマギャクにしたらフツウに白狐って読むし。気づいてクレって言ってるようなモノだと思うナボクは」

 

「……確かにそうだな」

 

 

 マホロアに言われて、今初めて気が付いた。確かに狐白を逆にして読むと【白狐】になる。なんて単純すぎるアナグラムなんだろう。と言うかこの場合アナグラムとすら言わない。

 

 

「デ、そのホウソクで苗字の方もヨンデ見ると、【創世】にナル。――【創世の白狐(しろぎつね)】。それがヤツの正体ダヨ」

 

「―――【創世の白狐】……。そういうことか…」

 

 

 【創世の白狐】。それが【世創 狐白】の正体だとマホロアから聞かされ、その字面から全てを理解した。世界を創る力で創世だ。ヤツは、その力であの世界を創り上げていたんだ。ライブの生還者の項目に自分を加え、迫害の矛先を自分に向けさせた。自分を犠牲に、立花を完全な“被害者”として世間に確立させた。

 これで自分の境遇の変化と立花と小日向の変化にも説明がいく。全て、あの男の都合がいいように創り変えられた世界だったのだ。

 

 

「ふざけた話だ…!!俺をプロパガンダ*1に利用しやがったのか…!!」

 

「プロパガンダで済めばドレホドいいことカ…」

 

「―――なに?」

 

「ココカラ先は話すヨリ見たホウが早いネ」

 

 

 マホロアが立ち止まり、それに合わせて彼と狐も歩みを止める。目の前には扉があり、その扉を開けるとあの巨大なモニターのある部屋へとたどり着いていた。マホロアは操作パネルの前まで移動すると、両手でパネルを打ち込んで、巨大モニターに一つの画像を映した。

 

 

「これは…?」

 

「コレこそが【創世の白狐】。【創世の神】トモ言うネ。正式メイショウ、【仮面ライダーギーツⅨ】」

 

 

 画面いっぱいに広がっていたのは、等身大の純白の狐だった。白と赤の体に黄色の複眼を持ち、うなじ辺りにあるマフラーが九尾の狐の尻尾のように9枚ついていた。

 それよりも、この狐の正式名称が、【仮面ライダー】?

 

 

「仮面ライダーって…」

 

「マァ日本人ならダレだって知っててもおかしくないヨネ。その名の通り、キミの敵は仮面ライダーダ。モトモトの変身者は創世()の力を“誰もが幸せになれる世界”のタメに使ってたんダケド…。ホント、使用者がシヨウシャだとロクなことにツカわないネ」

 

「―――――」

 

 

 彼はモニターを凝視する。これが、自分を絶望の海に突き落とした張本人――【世創 狐白】。画面を精いっぱい睨みつけ、誓う。「絶対に赦さない」と。

 ヤツは立花を助けるために自分を犠牲にした。ヤツの力は洗脳を超える力だった。それこそ、無理矢理軌道を捻じ曲げる力ではなく、1から舗装する力。そんなことをできるなら、叶えられたはずだ。“立花が迫害されない”世界を。何故生贄(かわ)りを用意した?何故それが俺だった?

 あの世界で立花が必要なのは理解できる。何故なら彼女は主人公だから。主人公がいなかったらそもそも物語が成立しない。でも、そのために自分が犠牲になることは、納得できない。

 考えるたびに、憎悪が湧き出てくる。そんなとき、マホロアの声で我に返る。

 

 

「デサ。コノ仮面ライダーのコト調べてるトキに、あるコトを知ったンダ」

 

「――あること?」

 

叶えられる願いに限界があること

 

「―――創世の神なのに自由に力を使えないのか?」

 

「正確には成長型の力なんだヨ。ダカラ自由自在にアツカウにはジカンとコンキを要する」

 

「へぇ…」

 

 

 ならなおさら、時間をかけるわけにはいかなくなった。今こうしている間にも、ヤツの創世の力は増していっている。そして、殺せなくなる――。

 だが、そんな焦りとは裏腹に、彼の思考は妙に冴え切っていた。今ヤツに立ち向かったところで、勝てる確立は限りなくゼロだということを、理解していた。

 

 

「チナミに、今カラ復讐シヨウとしても無駄ダヨ」

 

「――分かってる。【創世の力】なんてチート能力持ってる相手に、何も持ってない俺が勝てるわけがない」

 

「―――ソレが分かってるダケでも上々サ」

 

 

 方や世界を自由自在に創り直せる【創世の神】。もう方やなんの力も持っていないまんまと嵌められた一般人。とても勝てるとは思えない。もしなんらかの奇跡が起きてヤツを殺せるチャンスが舞い降りたとしてもその瞬間に世界を創りかえられたらそれこそ終わる。

 

 

「クッソッ!じゃあ何ができるんだ俺は!?」

 

「コォン…」

 

「こんな結末、納得できるか…ッ!」

 

 

 怒りのあまり拳を握り締める。顔も強張り、なにかに八つ当たりしていないのがおかしいぐらいだ。

 一日で全てを奪われた彼には、その資格があってもいい。だがそれをしないのは理性の賜物と言ってもいい。耐えられてる時点ですごい。

 マホロアは再び操作パネルを操作して、モニターの画面を真っ新に戻すと、クルリとこちらを向いてきた。

 

 

「―――ソレデ、提案がアルんだけどサ。キミ、ボクの商団(ミセ)で働かナイカイ?」

 

「……は?」

 

 

 マホロアの突然の提案に、彼の思考は止まる。その様子に今まで隣で大人しくしていた狐に心配されるほどに、彼の停止時間は長かった。

 それには提案者であるマホロアでさえも、彼の心配をするほどに長かった。

 

 

「アノ、大丈夫、カイ?」

 

「――ハッ!……すまん。あまりにも突然だったから…」

 

「驚キで硬直スルことはヨクあることダケド、ここまでナガイ時間硬直シテタ人は始めてミタヨ…」

 

「……で、どうして急にそんなことを?」

 

「だってキミ、このまま元の世界にモドッタところで死んじゃうダロウし…。それじゃあ、タスケタ意味がナイからサ」

 

 

 確かにそれに関してはマホロアの言う通りだ。確かにこのまま元の世界で帰ったって死に絶えるのがオチだ。たった一日で絶命しかけるほどの重傷を負ったのだ。あんな生活に戻ろうとは、絶対に思えない。

 そんな彼の状況から考えれば、マホロアの提案は願ってもないものだったが。だが、腑に落ちないのが、ここまでしてくれる理由である。

 

 

「どうして、そこまで良くしてくれるんだ?」

 

「ウン?」

 

「俺はアンタに命を救われた。それだけでも多大な恩があるってのに、果てにはそんな提案まで…。そこまでしてくれる理由が分からない」

 

「ソウダネェ…。セッカク救った命ナノニ、マタ死んでもらうノハ、後味がワルイから、カナ?」

 

「……アンタ、よくそんな性格で商人やっていけるな…」

 

「ヨク言われるヨ」

 

 

 彼の皮肉めいた言葉に、ニッコリと返してくるマホロア。

 ここまでくれば、今までゲームのマホロアと目の前のマホロアを一緒に見過ぎていたかもしれない。創作と現実が違うことなんて、この1日で十分、嫌と言うほど学んだじゃないかと自分を批判する。

 少なくとも、今目の前にいるマホロアは、【虚言の魔術師】なんかではない。マホロアを、信じたいと、そう思った。

 

 

「ソレニ!商人は繋がり(コネクション)がダイジなんだヨ!もし将来キミがオオモノになったラ、困ったトキ色々とテツダッて貰えるダロウからネ!」

 

 

 ――少なくとも、この言葉を聞くまでは。本音はそっちか。一瞬でマホロアに向けていた好感情がガクッと下がった。それにしても正直過ぎやしないだろうか?こんなバカ正直な性格で利益を追求する化かし化かされの商人の世界でやっていけるのだろうか?

 

 

「お前ソレ…。本人の前で言っちゃっていいのかよ」

 

「マァ確かにネ。…商人とシテは利益がダイジだけど、ボクとしては義理人情(ギリニンジョウ)もダイジだからネ!」

 

 

 ニッコリと笑顔でそう言い放つマホロアが、どす黒く、輝かしく、光と闇が混在しているように見えた。

――そうか。ようやくわかった。今までマホロアが商人らしくないとは思っていたが、そんなことは全然なかった。彼は確かに、【魔術師(しょうにん)】だ。

 

 

「……ハァ~…」

 

「オヤ?怒っちゃったカイ?」

 

「……そうじゃないよ。ただ、あんたは魔術師と書いて商人と読む…、そう思っただけだ」

 

「フフッ。オモシロイ表現ダネ。それで、ドウスルんダイ?」

 

「―――これからよろしくお願いします。マホロアさん」

 

「――コチラこそ、よろしく頼むヨ」

 

 

 マホロアが彼と同じ背丈まで浮遊すると、彼の手をガッシリ掴む。それに合わせて、彼もマホロアの手をガッシリと掴んだ。

 これより彼らは雇われと雇い主の関係だ。それゆえに、彼はマホロアの手を取る際の言葉に敬語を選んだ。だが慣れない敬語と後にマホロアから「敬語はいい」と言われるため、彼がこの先マホロアに敬語で話すことはほぼないと思っていいだろう。

 

 

「コンッ!コンコンッ!♪」

 

 

 隣で狐も、嬉しそうに飛び跳ねながら鳴いていた。しばらく熱い握手を交わし、互いの手を放す。

 そしてその次に彼は狐に目をやると、狐と同じ目線までしゃがみこんだ。

 

 

「コン?」

 

「―――えっと、お前のことはよくまだ分からんが……よろしく?クロ…ス?」

 

「コンッ!コ~ンッ!!」

 

 

 彼は戸惑いながらも狐――クロスにも挨拶をした。自分が前世の記憶を思い出したのも、マホロアに拾われたのも全てクロスがいたからこそだ。だからこそ、怪しいとかそういう前提感情を全てすっ飛ばし、彼はクロスへの初の挨拶を交わした。

 そんな挨拶が嬉しかったのかクロスは、彼に飛び乗って顔を舐め始めた。

 

 

「ウワッ!や、やめろ!お前さっきニンニク食ってまだ臭いだろうが!?」

 

「コ~ン!」

 

「いやヤメテ!?」

 

 

 ワチャワチャとした彼らのやり取りを、マホロアは微笑みながらモニターへ向き直る。――そんなマホロアの表情は、真顔へと戻っていた。後ろでの喧騒をBGMにしながら、マホロアは思考する。

 

 

(ボクがバカ正直にあんなコト言ったノハ、モウ一つリユウがアルんだよネェ…。アアイウ手合いはマズ無償の善意をシンジナイ。ゼッタイに疑ってかかってクル。だったらサイショから目的を話しチャエバ、信じてモラウのは容易いンダヨ。コノ方法はボクとキミの間ではローリスクどころかノーリスクだからネェ…。マァこのことをハナスかは、未来のカレに期待、カナ)

 

 

――マホロアは、【商人】で【魔術師】だ。どちらも頭脳を要求される職業。だからこそ両立できている。今は【商人】としての側面が強いが、自身の身に危険を感じたら、即座に【魔術師】になる。それがこのマホロアだ。

 ここまで全てが打算。重い過去を抱えて人間不信に陥った者は、無償の善意など絶対に信じない。だからこそ、こちらにも利益があることを示した上で保護する。もう慣れっこだ。

 恩を売ってコネクションを繋ぐ。これはマホロアの紛れもない本心だ。商人にとって大事なもののひとつに“繋がり”がある。繋がりと言うのは大事だ。いざという時、力になってくれるから。

 

 

(サテ、彼はどんなフウに成長スルのカナァ?)

 

 

 彼の未来に期待を膨らませながら、喧騒をBGMにして何も映っていないモニターを見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、マホロアと彼、狐は長い廊下を歩いていた。

 彼がここで働くことになった以上、マホロアの仕事である【旅商人】の業務を覚えなければならない。それゆえに、彼と狐はマホロアが取り扱っている商品の詳しい説明を受けるために、ローアにある倉庫へと向かっている。

 しかしただ進むというだけなのはつまらないため、マホロアは彼に簡単なクイズを出した。

 

 

「サテサテ。と言うわけでキョウからキミはボクの元で働いてもらうワケだけど、オモな業務内容を説明サセテもらうよ。マズ、ボクがオモに何を扱ってるノカ覚えてイルカイ?」

 

「食材と家具だろ?んで、食材は【トリコの世界】ってところから仕入れてる」

 

「セイカイ。【トリコの世界】の食材ハ摩訶不思議ナノガ多くてネ。ポップスターのジュウニンのからも好評ナンダ!デモ、美味し過ぎるカラ流通のシュルイもカズも少なくしてるヨ。インフレとデフレを起こさないタメにネ」

 

 

 ここから更に話を聞くと、【トリコの世界】の食材はどれも美味しく、例を挙げるとするならば【赤毛ブタ】と言う猛獣だ。赤い毛並の高級豚であり、捕獲レベル1。

 捕獲レベルとは“1”ごとに猟銃を持ったプロのハンター10人でようやく仕留められるぐらいの強さらしい。つまり倒すのは大変だがその気になれば倒せるレベル。

 レベルの低さの理由は、獲物を見ると俊敏な動きで突進してくるが、直進でしか襲ってこないため、横から攻めれば割と簡単に仕留められる――と言うのが理由だ。

 捕獲レベルが高くないこと、人工飼育が可能なこと、多くの肉が取れることから高級肉ながらも少し奮発すれば庶民でも買える。

 

 しかしこれは序の口であり、トリコの世界には様々な食が溢れている。こんなものを全部放ったら他の通常の料理では物足りなくなるという。それを防ぐため、マホロアは売る種類、数、クライアントを考えて売っているようだ。

 

 

「いろいろ考えてるんだな…」

 

「当たり前サ!商人にとってインフレとデフレは怖いモノ。対応し続けなきゃ商人ナンテやってられないヨ!」

 

「そういうもんなんだな……。ところで“インフレ”と“デフレ”ってなに?」

 

「アッ、ソコから説明ヒツヨウか…」

 

 

 マホロアは目が線になって空中でバランスを崩してズッコケる。だが地面には落ちない。

 ちなみに説明。

 

 インフレが物価が上がりお金の価値が下がり続ける現象デフレが物価が下がりお金の価値が上がり続ける現象のことである。

 分かりやすくインフレで例えると、旬の食べ物である。秋は秋刀魚(さんま)が多く取れるため安くなる。つまりそういうことである。

 これとほとんど同じ説明をされた彼は、首を縦に振って納得した。

 

 

「なるほど。【トリコの世界】の食材が原因で、売った先の世界の元の食材が売れなくなることを危惧しての策か…。美味いのも考えモノだな」

 

「ソウなんだよ。ダカラ、売らないモノのホトンドはローアで消費シテルネ」

 

「消費できんのか?確かにこの船は広いが、生命体はアンタ含め3人しか見てないんだが」

 

 

 今まで彼がローアで出会った生命体は、マホロア、オレンジクルー、出汁ペリカンの三匹である。ローアのデカさとマホロアの店舗規模を全部把握していないとはいえ、仕入れるからには大量に仕入れるだろう。売るものを除くとしても、とても三人で消費できるとは思えない。長期に渡って消費しているのだろうか?

 

 

「ソレについては心配イラナイヨ。ローアにいる生命体は ボクたちダケじゃないカラネ」

 

「やっぱりまだいるのか。俺が見てないだけか。あとどれくらいいるんだ?」

 

「正確なカズはボクも把握してないヨ。生命体ッテ範囲がヒロ過ぎるカラ。ソリャア、ワドルディもいるっちゃイルヨ?デモ生命体ってナルとネェ…。大規模牧場大規模農場もあるから、カズ数えられないヨ」

 

「そうか………。―――いや待てなんて言った今?」

 

「ア、倉庫着いたヨ」

 

「いや倉庫よりすっごく気になること言ってたよな?」

 

 

 「おーい」「ちょっと~」と言う彼の声を無視し、マホロアは倉庫へと繋がる大きな扉を開けた。その倉庫の中を見たとき、彼は言葉を失い絶句した。マホロアの先ほどの言葉すらも忘れるほど、壮大なまでの空間が広がっていた。

 何十、何百のも大きな(ラック)があり、そこに大量の木箱が保管されていた。これは一般的な倉庫業の形式だが、特筆すべきは広さだ。広すぎて、端から端が見えない。本当に船の中なのかと疑うほどだ。

 

 

「……デッケェ」

 

「着いてキテ。ここで身を清めるヨ」

 

 

 マホロアに案内された、今いる部屋とバカ広い倉庫を経由するための中間地点のような小さな部屋に入ると、部屋全体を青色の怪しい光が照らし、彼と狐の肌を焼き照らす。

 

 

「……歯医者で見たことあるぞコレ」

 

 

 この光景に、彼は見覚えがあった。それは歯医者でのこと。歯医者の入り口に設置されているスリッパ入れの中が、青い光で照らされてる光景だ。付き添いの大人に聞いたとき、この光でスリッパを殺菌しているとのことらしい。

 と考えると、今まさに自分たちはスリッパだ。

 

 

「アァ歯医者のアレは紫外線ダヨ。紫外線殺菌ダネ。ボクも前世(まえ)は歯医者にイッタ時何度も見たネ」

 

「……紫外線って人体に有害じゃなかったっけ?」

 

「大丈夫。コレは紫外線ジャナイよ。マァ殺菌してるッテことに変わりハナイけどサ。この光は表面の殺菌はモチロンのコト、血液とか内臓ナンカの人体に生息シテイル悪い病原菌を完全滅却する光ダヨ。癌治療や骨の矯正(キョウセイ)、外傷ナンカもバッチリ完治スル優れモノ!」

 

「いや思った以上にトンデモな機能だな……」

 

 

 予想を遥か超えた衝撃的過ぎる効果に、彼は驚きを通り越して呆れた。この船に入った時点で自分の常識なんて通用しないとは思ってはいたが、これは流石に予想を超え過ぎていた。

 こんな技術が地球に舞い降りたら、もはや病院すら要らなくなるオーバーテクノロジー。もしローアが見つかりでもしたらとんでもないことになるのは明らかだ。彼は改めて、自分はとんでもないところに拾われたのだと、実感する。

 

 

「食品を扱ってるイジョウ、清潔感はダイジだからネ!ココまでシビアにナルのは当然サ!」

 

「まぁ納得はできるが……」

 

「ソレに、他のセカイの病気ナンカを持ち込むワケにもいかないカラサ。出入口にも設置されてるヨ。生体センサーとかモネ」

 

「――なるほど。そしたら、コイツ入れないぞ?」

 

「コンッ!?」

 

 

 彼が自分の足元にいる狐――クロスを親指で指指すと、クロスは「確かにッ!」と言いたげに鳴いた。

 マホロアの話から、こんなトンデモ装置がこの船の中に2個もあることは確実だ。それはつまり、マホロア本人も言ったように外来種や病気などを警戒し、徹底的に排除するための取り組みに他ならない。生体センサーを付けている辺りその本気度が伺える。

 そして今目の前にいるのは生態も分からない謎の狐。なにか変なものを持っていても不思議ではない。そんなクロスの垂れ目を見て、マホロアは、ニッコリと笑う。

 

 

「ダイジョウブ。コノ光は全ての“ヨゴレ”や“(キン)”を“完全抹消”スルカラ、ゴミやホコリ、抜け毛のシンパイもないよ。デモ、動物をイレルのは確かに衛生上良くないカラ、キミにはコレを着てもらおう」

 

 

 そういい、マホロアが部屋にあるボタンを押すと、いきなり何もない壁がスライドして一辺50センチほどの穴が空き、そこから白いプラスチックに包まれた何かが出てきた。

 マホロアはそれを慣れた手付きで開けると、それは全身を覆う防護服(四足歩行生物専用)だった。

 

 

「ソレデ、コレヲ…」

 

 

 マホロアが、クロスに向けて片手を向ける。すると、突如としてマホロアの手は紫色に近い青色の光で包み込まれ、その光がクロスにも伝染すると、クロスが宙に浮き始めた。

 

 

「コンッ!?」

 

「――浮いて…ッ!?」

 

「コレをコウして、チョチョイノチョイっトッ!」

 

 

 マホロアが持っていた防護服が浮き上がり、ゆっくりと優しく、自動的に防護服がクロスに装着されていく。やがて装着が完了すると、クロスはゆっくり地面に降り立った。

 

 

「コ~ン」

 

「なんだ、今の…?」

 

「コレがボクの魔術ダヨ。攻撃イガイにも、こういうノニ使えるンダ」

 

 

 ニッコリと笑顔で返すマホロア。ここにきて、初めてマホロアの魔術を見る。【虚言の魔術師】と肩書があるように、やはり本人は魔術を使えるのか。改めて見て、マホロアの底が見えない。

 

 

「一応、キミも同じの着てもらうヨ」

 

「あ、やっぱり…」

 

「じゃあ、始めるヨ~」

 

 

 マホロアがまたボタンを押すと、先ほどと同じ穴からまたプラスチックで梱包された防護服が出てきた。先ほどとは違い人間用で、四足歩行用とは違い大きかった。

 彼は先ほどと手順で急にマホロアに宙に浮かせられ、防護服を着させられる。

 

 

「ハイ、終わり」

 

「……俺一人でもできるんだけど…」

 

「時間短縮ダヨ。ソレに、怪我人にそんなコトさせるワケないシ。着方ナンテ知らないダロウ?」

 

「まぁ…そうだな…」

 

 

 マホロアに完全論破され、押し黙る。確かに劇的に回復したとはいえ、まだ傷は痛む。それに防護服なんて一度目でも二度目でも着たことがないため、時間がかかることは確実だろう。

 

 

「ところで、お前はやらないのか?」

 

「ボクは魔術でなんとかデキルし」

 

「あぁ…そっかぁ…」

 

 

 この船の持ち主(管理者)兼商人の会長だ。彼が言うのならまず間違いないだろう。魔術とはなんて便利なものなのだろうか。

 そうしてようやく食糧庫の中に入る。ガラス越しで見たのも壮観だったが、生で見ると迫力が違う。例えるならば俳優や芸能人などの有名人をテレビで見るのと生で見るのを比べる感じだ。実際彼はそんなことは一度も経験したことがないのだが。

 

 先頭にマホロアが立ち、クルリと振り返ってニッコリと微笑みかける。

 

 

「ソレジャア、倉庫探検ツアーの、ハジマリ、ハジマリ~♪」

 

「なんか楽しそうだな…」

 

「コ~ン~♪」

 

 

 

*1
特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為

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