PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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 前回のあらすじ

 自身の復讐対象である【世創 狐白】の転生特典が“創世の力”を駆使する【仮面ラダーギーツⅨ】であることが判明した。そんな反則級能力(チートスキル)を持っていると知ってもなお、止まることのない彼の憎悪と殺意。だが、不思議と残っている理性でそれをこらえた。
 そんなとき、マホロアに自身の経営している商店(正確には旅商人)へと就職を提案された佐藤。半信半疑になりながらもマホロアの本音を聞いてそのまま許諾。晴れて社員となる。
 そしてマホロアが所有しているローア内の倉庫の探検へと、【クロス】とともに駆け歩く。



倉庫広ッ!

「はぁ~…」

 

「コォ~ン…」

 

 

 彼と狐がこの光景を見た感想は、まさに“達観”と表現すべきだろう。それほど、中は広く物に溢れていた。

 

 

「すごいダロォ?この倉庫は主に缶詰やカップラーメン、保存水とかノ保存食ヲ保管シテルんダ」

 

 

 この空間には大量の大きな木箱が存在しており、それぞれ木箱一つずつが床に直置きされていたり、パレットに乗っかり(ラック)の中に収められている。(ラック)の高さは4段。現代の倉庫業の(ラック)の高さと同じだ。

 

 

「ここにあんの全部保存食かよ…。とんでもねぇ量だな。もし何かあっても当分はなんとかや生きていけるだろ、コレ」

 

「コン!コン!」

 

「宇宙はヒロイからネ。“備えあれば患いなし”ッテ良くイウデショ?」

 

 

 確かに、宇宙と言うのは広い。彼は宇宙について詳しいどころか全然知らない。それに宇宙を旅している商人のマホロアだからこそ、この言葉の重みが違いが顕著に表れている。

 

 

「コッチが食料デ、アッチが保存水…。それでまたソッチは発電機ニ燃料、暖房、扇風機――それとアソコには携帯トイレに簡易ベットもあるネ。」

 

「なんでも揃ってんじゃねぇか。半端ねぇ…」

 

「コォン…」

 

 

 改めてマホロアのすごさが伺える。災害用の物資だけでもここまで取り揃えて、またその数も膨大だ。災害用だけでもこの数だ。きっと本題の方である納品のための食品などの種類とその数はここよりも膨大なのだろう。

 

 

「ホラ、ここからが本番だよォ?ココカラ驚いてタラこのサキやってイケナイヨ!」

 

 

 しばらく横一直線に移動すると、目の前に最初に入ってきた扉と同じ扉が設置されていた。その中に入ると、またあの空間と同じ間取りの部屋があった。そして、最初と同じように天井や壁などの全方位から青い光が彼とクロス、マホロアを照らした。

 

 

(区間移動の際にもやるのか……。徹底されてるな)

 

 

 ここに来てからもう、何度も驚いているがこの徹底ぶりもすごい。一体どれほど驚けば気が済むのか、自分でも分からなくなってきた。

 1分ほど青い光を浴びていると、光が消えて目の前の次の空間へと続く扉が勝手に開いていく。その先には――

 

 

「わにゃわにゃ」

 

「わにゃ」

 

 

 ―――ワドルディたちがいた。

 たくさんのワドルティたちがヘルメットをかぶり、彼ら専用だと思われるフォークリフトに乗りながら作業をし、複数人で木箱を運んだり、一人ずつで段ボールを運んだりしていた。

 彼らがこの空間に入ってくると、周りにいたワドルディたちの視線が徐々にこちらの方へと集まってくる。珍しがられているのだ。

 だがその行動に無理もない。自分たちとは明らかに違う存在が目の前に現れたのだから。もしワドルディが一体でも地球にいたとすれば自分でもそうしていただろう。

 ワドルディたちからすれば自身の身長の4,5倍ほどもある全身防護服の生物が突如として現れたのだが、つぶらな瞳で見られるだけで、特にそれ以外奇妙なことはない。

 

 

「……あんまり驚かれないな」

 

「まぁネ。この子たちはボクの元で働いてるカラね。全然違う種族にアウことジタイ慣れてるんだヨ。それにポップスター自身いろんなヤツラに侵攻されてるカラさ、――慣れダネ」

 

「なんか嫌な慣れだな、ソレ」

 

 

 侵略者たちを見て宇宙人に慣れるなんて嫌すぎる慣れだ。だがその度にカービィたちが倒してるからあまり深く考えていないのだろうか。だがそれを抜きにしてもマホロアの“世界を旅して物を売り買いする”と言う仕事に付き合っている(働いている)のならば、この慣れも不自然ではない。

 彼が苦笑いしていると、マホロアが手を叩いてワドルディたちの注目を集める。

 

 

「ハイハ~イ。皆チュウモ~ク!作業中の場合はキリのいいトコロで一旦ストップ!」

 

 

 マホロアの言葉で、徐々にこちらの方へと集まってくるワドルディたち。やがてその数は、100を超えていた。これだけの数のワドルディたちが働いていることに、彼は防護服の中で驚いていた。

 

 

「作業チュウごめんネ!いきなりなんだケド、今日カラボクのモトで働いてモラウことにナッタ子ダヨ!」

 

「えっと、その…、よ、よろしく、お願いします」

 

 

 何気に大人数での自己紹介などあまり経験がなく、オドオドとした自己紹介になってしまった。

 

 

「「「「「―――――」」」」」

 

 

 しばらくの沈黙が続く。この時間が長いのか、短いのか、彼には分からない。だが――、

 

 

「わにゃ!」

 

「わにゃわにゃ!!」

 

 

 ワドルディたちから返ってきたのは、大歓声だった。ワドルディたちがなにを言っているかは分からない。だが、笑顔でこちらを見てくれていることから、嬉しいことを言ってくれているのだろう。

 それだけでも、彼は防護服の中でほくそ笑んだ。

 

 

「えっとちなみにカレの名前ハ……、名前、ハ……そういえばワカンナイんだったネ」

 

 

 ――瞬間、この空間の空気が凍った気がした。本当に上げてから落とすのが上手すぎる。天然なのかわざとなのか分からないから余計に腹が立つ。

 ワドルディたちを見ると、文字通り目が点になっていた。予想外の返答に驚いているのだろう。

 

 

「コン!コンコン!」

 

「ウン?」

 

 

 そんな時、隣にいたクロスがいきなり鳴いた。彼にはただの鳴き声にしか聞こえないが、マホロアにはしっかりと言葉として聞こえているはずだ。クロスの鳴き声に、「ウン、ウンウン」と返事をするマホロア。それを聞いていると、マホロアは指を鳴らして、「ナルホド!」と叫ぶ。

 

 

「ウワッ…。どうしたんだよ、いきなり?」

 

「キミ!今日からキミの名前は【黒竹】でケッテイ!!」

 

「……それはどちらかと言うと苗字だろ?」

 

 

 一体この2人の間でどんな会話が展開されていたのだろうか。何故【黒竹】になったのか。そもそも名前を決めるときに名前じゃなくて苗字が決定したぞ。

 

 

「ていうかなんで黒竹なんだよ」

 

「それはクロス君の体を構成シテいる色が【黒】と【青竹色】だからサ!ソレを会わせて【黒竹】!」

 

「黒は分かるが青竹ってなんだよ」

 

「ソウいう色ってコトだよ!」

 

「うん、分からん」

 

 

 全然説明になっていない。色に対する質問に「そういう色」ってわけが分からない。とりあえず名前に“青”が入っていることから青っぽい色だということは分かる。彼はクロスの体色を必死に思い出す。確かに黒色と明るい青のバイカラー。あの青色が“青竹色”と言うことなのだろう。

 

 

「ト、言うワケで!コレから【黒竹】クンをヨロシク!!」

 

「「「「「わにゃー」」」」」

 

 

 ワドルディたちが、「はーい」と言わんばかりに一斉に返事をした。実際それらしいことを言っているのだろう。

 

 

「ソシテ!この子は黒竹クンの相棒(バディ)!【クロスギーツケミー】の【クロス】クン!よろしくシテあげてネ!」

 

「コォ~ン!!」

 

「「「「「わにゃー」」」」」

 

「……いつからコイツは俺の相棒(バディ)に―――(……ギーツ?)」

 

 

 なったんだ。そう言おうとした瞬間に、言葉を止める。今、マホロアはなんて言った?おそらくは、いや確実にこの黒狐の正式名称を言っていた。その名前が、【クロス“ギーツ”ケミー】?自身の復讐対象である【世創 狐白】の転生特典である【仮面ライダー“ギーツ”Ⅸ】とまるっきり名前が被っている。偶然か?いや、偶然なわけがない。

 彼は自身の隣で嬉しそうに鳴いている狐を、ダークマターのごとき漆黒の瞳で睨む。嫌疑の目で。

 

 

「――――(ギーツⅨ…。クロスギーツ…。コイツは、一体…?)」

 

「と言ってモ黒竹クンに任せるノハ、ココの作業ジャなくテ、ボクの手伝いなんだケドネ」

 

「……手伝い?」

 

 

 彼――黒竹は今自分が考えていることを一旦払拭し、マホロアの言葉に耳を傾けた。マホロアは黒竹の顔を見上げ、直接目を見て話す。この時既に黒竹の瞳は通常のものに戻っており、防護服で顔をキチンと確認することができず、マホロアが彼の瞳の暗さに気付くことはなかった。

 

 

「具体テキには、対面デノ納品がアルんだけド、ソレの手伝いをしてもらうヨ」

 

「対面での納品…。そんなのあるのか?」

 

「アルよ?フツウに。物を卸して、納品書ワタシテ、受領書をウケトル。当たり前のコトさ!」

 

「いやその当たり前知らないから」

 

 

 運送系の業界のことを黒竹がさも当然のごとく知っているかのように話すマホロアに対して的確なツッコミをする。

 運送業界なんて1度目でも2度目(最終学歴中1)でも関わったことがないから分かるはずもない。

 

 

「と、言うワケでミンナ、黒竹クンをよろしくネ~!」

 

「「「「「わにゃー!」」」」」

 

「ヨシ!それじゃあ次のトコロに案内するヨ!ミンナも、もう通常作業にモドっていいヨ!時間トッテゴメンネ!」

 

 

 マホロアが移動を始め、黒竹とクロスの背中側からその短い手を振りながら送ってくれるワドルディたちをチラ見しながら、彼らは歩く。

 やがてワドルディたちの姿が完全に見えなくなると、彼は完全にマホロアの背中を見ながら移動をする。……ここで、彼は気になったことをすぐさま聞いた。

 

 

「――で、お前さっき……コイツのことを【クロスギーツケミー】って、言ってた、よな?」

 

「―――ソウダヨ」

 

「…ギーツって、アイツの力と同じ、じゃないのか?」

 

「―――ソウダネ」

 

「……コイツは一体、なんなんだ?」

 

 

 “ギーツ”Ⅸとクロス“ギーツ”。同じ名前であるがためにすぐに気づいた関係性。だがそこにどのような関係があるのか分からない。だからこそソレはクロス本人(狐)に聞くのが一番手っ取り早い。だが致命的な問題として、黒竹にはクロスの言葉は分からない。だからこそ、クロスの言葉が分かるマホロアを経由して聞いた方が得策だと、彼は踏んだ。

 マホロアは移動を辞めずとも、少しの間沈黙した。そして、口を開いた。

 

 

「………イマは案内がサキ。デモ、ソレだとキミはボクの説明に集中デキナイだろうカラ、手身近に話すヨ」

 

「それでいい」

 

「キミを保護してからサ、“ギーツ”関連のコト、色々調べたんダ。デ、色々端折るケドまず【クロスギーツ】って言うノハ、“ギーツ”の敵が“ギーツ”から力を奪って作った仮面ライダーサ。名前が同じナノハそれが理由ダネ」

 

「……なるほど」

 

 

 マホロアの一言で、黒竹は全て納得がいった。そもそもの起源として、世創の【仮面ライダーギーツⅨ】には必ずオリジナルが存在しているはずだ。彼が転生前の世界でも【仮面ライダー】は存在しており、彼は仮面ライダーの単語しか知らないくらいの豆粒くらいの知識しかなかったが、この時点で少なくともオリジナルが存在している証明になる。

 ここで【仮面ライダーギーツⅨ】が公式にはない誰かのオリジナルライダーだったら最初から間違っているが、彼はそこまで頭が回るほど賢くはなかった。だが、その鈍感さが逆に正解を導いた。

 

 そしてそのギーツから力を奪って生まれたのが【仮面ライダークロスギーツ】。マホロアが言葉を続けると、命名は変身者で、ギーツの元来の変身者を完全に皮肉ってつけたらしい。

 

 

「名前が同じ理由は分かった。じゃあ、【ケミー】ってのは?」

 

「ソレに関しては少ししか調べてないケド…。【仮面ライダーガッチャード】のセカイにおいて、“錬金術”で創られた“人口生命体”らしいヨ?」

 

 

 “錬金術”。“人口生命体”。その言葉を聞いて、まず真っ先に思い浮かんだのが自身の世界に存在する【錬金術】だ。正直言って彼も良く知らないが、「想い出」や「生命力」を魔力に変えて行使するもの、と言う認識だ。あと、ホムンクルスだったり、続編で男性を女性に変えたり、卑金属を貴金属に変えたりできる幅の広い力。

 となると、この狐もホムンクルスと似た形態の技術によって生まれたのだろうか。

 

 

「ト言ってモ、錬金術って幅広い広義(コウギ)がアルからサ。ソノ世界における錬金術ッテ、「無から有を、死から生を生み出す」が基本理念ダカラネ。ヨウスルに、「命なきものに仮初めの命を与える事」が【ガッチャード】にオケル錬金術ダヨ」

 

「…意味広すぎるだろ」

 

 

 全然違った。同じ錬金術でも基本理念が違えば全く別物になる。つまり、この狐は【ガッチャード】における【錬金術】によって生み出された生命体であるということだろう。

 しかしそうなると、また別の疑問が生まれてくる。その疑問を口にしようとしたとき、マホロアが歩みを止める。

 

 

「サテサテ!辛気臭いハナシは一旦ストップ!!次カラは家具の倉庫ダヨ!!」

 

「………ここまでくるのに歩きだけで1分以上かかったんだが?」

 

 

 ちなみにだが、一般的に1分歩く=80mと定義されている。この扉に来るまで1分以上かかったため、縦幅か横幅かは分からないが100mほど歩いた計算になる。ちなみに100mを例えるならばラグビーコートの縦の長さくらい長い。

 それに入ったとき道は真っすぐにも右にも左にもあった。倉庫と言うのは大抵扉は各方面の壁の真ん中に配置されるものだ。単純計算で考えて、ここは一辺200mほどあると考えていいだろう。どれだけデカイんだ。

 驚きを通り越してもはや呆れながら、彼らは扉に入る。いつも通りに青い光を浴びて全身殺菌した後、家具倉庫の中へと足を踏み入れた。

 

 

「……狭くね?」

 

「コォン?」

 

 

―――扉を開くと、その倉庫は狭かった。いや、倉庫としては十分すぎるくらい広いが、先ほどの備蓄用と食糧用の倉庫を見るとどうしても霞んでしまう程度の広さだった。

 

 

「アレ?ここって家具の倉庫なんだよな?なんか…狭くね?」

 

「ウン?ソウカナ?十分すぎる広さダト思うヨ?」

 

「いや普通の倉庫としては十分な広さなんだけどさ、さっきのと比べると明らかに狭くね?」

 

「コォン…」

 

「アァ……確かニネ。デモそれにはちゃんとした理由がアルんだヨ」

 

 

 家具を補完している倉庫ならもっと広くてもいいはずなのだが、何故かそんなに広くはないこの倉庫。それによく見るとそれぞれの棚が「引き出し式」だ。大丈夫なのだろうかこれ。【テレビ】やら【テーブル】などと名札が貼られているが、どう考えても一つ一つの棚がそれらを入れられるほどのスペースが存在していない。テーブルなどは分解すれば入らなくもないだろうが、流石にテレビを分解は無理がありすぎる。一体どうやって収納しているのだろうか。

 

 

「ちょっとマッテてネェ」

 

 

 そう言ってマホロアは一番近くで下にある引き出し――【椅子】と書かれてある名札の棚を引いた。そこからマホロアが取り出したのは――【葉っぱ】だった。一部が丸く綺麗に切り取られている、葉っぱ。

 

 

「コレが椅子ダヨ」

 

「いやどう見ても葉っぱだろうが」

 

 

 率直な感想がこれだった。椅子と書かれている引き出しから取り出されたのは、葉っぱだった。椅子も葉っぱも全然似ていないし、何故椅子の項目の引き出しに葉っぱが入っているのかすら謎だ。

 そしてこの葉っぱを椅子だと主張するマホロアの主張すら疑った。コイツ頭大丈夫だろうか。

 

 

「コレをコウすると、ネ」

 

 

 マホロアが手に持った葉っぱを地面に向かってポイッと投げると、地面に着地した瞬間に葉っぱは煙を上げ、椅子へと変化した。それはさながら、狸に化かされたかの如く――。

 

 

「―――?」

 

 

 それを見た黒竹は――宇宙を感じた。ありとあらゆる思考が停止し、視線の全てが目の前の椅子に集中していた。

 

 

「――ナニコレ」

 

「………アレ?もしかして知らナイ?」

 

「…いや知らないもなにもこんな魔法みたいなこと知ってるはずないんだが?」

 

「アァやっぱりソノ反応じゃ知らないミタイだね。マホロア(ボク)のことは知ってるのに。マァ同じ系列デモ好みッテあるカラネ」

 

「―――?」

 

「黒竹クンって、【どうぶつの森】知らないノ?」

 

「――あぁ…あぁ?………あぁ!!」

 

 

 しばらく頭を捻った黒竹だったが、やがて何かを思い出したかのように声を上げた。彼は頭の片隅にあった、あの葉っぱのことを思いだしたのだ。

 あのほのぼのとしたゲームのことを――。

 

 

「思い出したッ!!どうぶつの森の葉っぱかソレ!!!」

 

「アァやっぱり知ってたンジャン。デモ思い出すノニ時間かかったヨウだし、あまり触れてないのカナ?」

 

「俺はほのぼの系よりアクション系を好んでやってたから…プレイしたことないんだ…」

 

 

 彼は1度目の人生において好んでいたゲームはバトルなどのアクション系だった。そのため、どうぶつの森などと言ったほのぼの系のゲームとはほぼ無縁だった。そのため、そういう系の話は友達(づた)いかYo○Tu○eなどの紹介動画くらいしか見ていなかった。

 だが、その動画が切っ掛けで、どうぶつの森を思い出した。

 

 

「……じゃあ、最初に言ってた家具を仕入れてるところって…」

 

「ウン。どうぶつの森のセカイ……イロンナ村や島カラ仕入れてるヨ」

 

「なるほど……道理で全部こんなにコンパクトに収まるわけだ…」

 

 

 確かにどうぶつの森産の家具などだったら全てがポケットに入るくらいのサイズに収めることができる。だからこそこんなに小さい引き出し式の棚にも収めることができるのだろう。

 

 それから、マホロアは椅子を葉っぱに戻して仕舞った後、倉庫の中の案内を開始した。と言っても、家具の全ては葉っぱ状態であるためその全てを見ることは叶わなかったが、札を見たときは驚きの連続だった。【観葉植物】や【キッチン】【冷蔵庫】はもちろんのこと、【月】や【人工衛星】なんてものがあったのを見たときは言葉を失った。こんなもん誰が買うんだろうか。

 

 彼らはどんどん進む。棚はそれぞれシリーズごとに分かれており、【メルヘンシリーズ】【モダンシリーズ】【和風シリーズ】など様々なシリーズ分けをされていた。ちなみに、最初の棚の方はシリーズに分類できないいわゆる【その他】品が入っていた棚だったため、種類ごとに分けて入っていたらしい。

 首を上下左右に動かしながらいろいろなシリーズがあることに目を輝かせながら見学を行っていた。

 

 

(こう見ると、いろんなシリーズがあるんだな…俺もどうぶつの森、やっときゃよかったかもな…)

 

 

 もう二度と叶うことがないであろう幻想を抱きながら、彼は再び視線をマホロアの背中に合わせて歩みを進める。

 

 

 

 

 

 

 

――しかし彼は見逃さなかった。と言うより見逃せなかった。彼の体がピタリと止まる。

 全ての家具が【葉っぱ】として引き出し式の棚の中で保管されているこの倉庫の中で、明らかに異色を放っている鉄製の等身大の置物に全ての意識を奪われた。

 

 

「―――ウン?どうしたんダイ?」

 

 

 急に止まった彼を不思議に思い、声を掛けるマホロア。そしてマホロアと彼の中間にいたクロスも、その足を止めて不思議そうに彼を見る。

 そんなマホロアとクロスの疑問を通り抜けし、彼はゆっくりと()()を指さした。

 

 

「――ナニアレ」

 

「エッ?アァ、アレは鉄の処女(アイアンメイデン)ダネ」

 

 

 一つだけ他のものと違いポツンと置かれている鉄製の等身大――その正体は鉄の処女(アイアンメイデン)だった。紛れもない拷問器具だ。一言で言おう。意味が分からない。先ほどまで食材とか家具とか生活に欠かせないものを扱っているクリーンなイメージの商業だったはずなのに、この一つの拷問器具によってそのイメージが一気に瓦解した。

 この商団(みせ)本当に大丈夫なのだろうか。さっきから上げられてから急降下で落としてきてる。彼は自分がお世話になる場所に強い不安を覚えた。

 

 

「いやそうじゃない何故拷問器具があるんだ今までクリーンな商品しか見てこなかったのに急に拷問器具(アイアンメイデン)見せられた俺の気持ち分かる?正直言って俺も分からないよこの気持ちどう表現すればいいのか全然分からないゲホッゴホッ!!」

 

 

 状況が整理できず息継ぎなしで早口で喋った結果、(むせ)た。咳き込みをして肺が酸素を求めてくる。クロスはそんな彼を心配そうに見てくる。

 そして肝心のマホロアは――笑った。

 

 

「ハハハッ。マァ最初見たトキは驚くヨネ。アレは納品予定の商品ナンダ。1人クライアントがいてね」

 

「絶対(ろく)なヤツじゃないだろ…」

 

 

 拷問器具を注文している時点で危険な人物であることは確定だ。そしてそんな人物とも契約を結んでいるマホロアも(思考と度胸が)危険すぎる。いくら旅商人でいろんな珍しそうなものを売っているとはいえ、拷問器具は流石にないだろう。

 

 

「マァ危険思想の持ち主ってコトは合ってるヨ。【鬼灯(ほおずき)】って人なんだけどね。“鬼神”で【閻魔(エンマ)大王】の“第一補佐官”を担当してるヒトなんだヨ」

 

「――そっか」

 

 

 彼は考えることを辞めた。“鬼神”とか“閻魔大王”とか“第一補佐官”とかすっごい役職名が出てきたけどなにも考えないことにした。とりあえず受け流そう。そして受け入れそう。

 頭の中に「地獄も納品先なのかよ」と言うツッコミと言うか感想と言うか正直言って自分でも分からないがそんな言葉が出てくるところを寸で飲み込む。コレ、いちいち聞いてたら処理しきれない。彼は直観的にそう悟った。

 

 

「ソレジャア、ローアのコックピットに戻ろうカ」

 

「戻ろうかッつってもこっから戻るってどれくらい時間かかると――」

 

「ハイ【テレポート】」

 

 

 マホロアが指を鳴らすと、瞬時に周りの景色が変化した。そこはとても良く見覚えのある場所で、マホロアと初めて出会ったときにマホロアが弄っていた操作パネルがすぐ目の前にあり、バカデカなモニターもあった。

 ここは間違いなく、ローアのコックピットだ。それに、防護服で遮られていたはずの視界もとても良好だ。全身を隈なく見てみると、先ほどまで来ていたはずの防護服一式が全て脱がされていた。それは、隣にいたクロスも同様であった。

 

 

「―――?」

 

「―――コン?」

 

 

 黒竹。宇宙を感じること本日二度目。さらにはクロスでさえもこの状況を理解できず黒竹と同じく宇宙を感じ取っていた。

 そんなポカンとしている一人と一匹を見て、マホロアは愉快に笑う。

 

 

「ハハッ。驚いたカイ?ヤッパリその顔は見ていて面白いヨ!」

 

「お前……テレポートなんて使えたのか…」

 

「マァね。マホロア(ボク)のワザに【いくうかんバニシュ】ってワザがアルんだケドネ。異空間にテレポートして出現時に攻撃スルってワザなんだケド、ソレ自体【空間系魔術】の応用みたいなモノだから、単純に場所と場所をケイユするテレポートならお茶の子サイサイなのサ!」

 

 

 マホロアの説明を聞いて納得した。マホロアは魔術師だ。それゆえに魔術の扱いに長けている。【空間系】と聞いて真っ先に思い浮かぶのはマホロアが先ほどもいったように場所と場所を繋げての瞬間移動。つまるところ今見せた【テレポート】だ。

 しかし目の前のマホロアではない黒竹の知らないマホロアはその空間系の魔術を攻撃に転ずる技術を持っていた。それゆえに応用ができるなら基本もできるという摂理に従った結果だろう。

 

 

「驚かされてばっかだな…」

 

「ハハハ!宇宙には瞬間移動(ワープ)よりスゴイものがたくさんアルヨ!コンナンで驚いてチャ、サキが思いやられるネ!」

 

「そうだな……本当に、先が思いやられる…」

 

 

 この先自分はここでやっていけるのだろうか。だが、そんな不安を飲み込み彼は目に決意を宿す。逆だ。やっていかないと生きられない。コレはチャンスだ。起死回生の、1度キリの。

 拳を握り締めながら思いに耽っていると、マホロアから声を掛けられる。

 

 

「ジャア、本格テキに行こうカ。黒竹クンには「研修」をシテもらうヨ」

 

「……研修?」

 

「コン?」

 

「ソウ、研修。ボクの仕事を手伝うウエでの必須スキルを身に着けてモラウヨ」

 

「必須スキル…交渉術とか?」

 

 

 商業に関する研修と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは会計能力や交渉術だろう。黒竹の場合真っ先に思い浮かんだのは交渉術の方だったが、マホロアはその解答に首を横に振った。

 

 

「ソレは全部ボクの仕事ダカラ、キミは学ばなくてイイヨ。キミがマナブのはモット簡単なコトサ」

 

「簡単なこと?」

 

「ウン。とても単純で、分かりやすいコト」

 

「―――――?」

 

 

 マホロアにそう言われるが、全然思いつかない。研修と言うことは仕事に必要なことを学ぶということだが、交渉術が必要ないとすればやはり簿記などの会計スキルしか思いつかない。しかし、マホロアは先ほどワドルディたちの前で対面での納品を手伝ってもらうと言っていた。と言うことはつまり――

 

 

「……体力作り?」

 

「ウーン、惜しイ!デモキミにしてもらうコトに体力がヒツヨウなのは確かダネ。マァ実際にやってもらうホウが早いカ…。手紙書くカラ待ってテ」

 

 

 そう言うと、マホロアが再び指を鳴らした途端に空中に紙と万年筆が出現し、万年筆がまるで生きているかのように自在に動き紙に文字を書いていく。

 その手紙を三つ折りにすると横長の封筒が先ほどと同じように出現し、封筒へと入っていく。そのまま口を閉じると、粘性の青い糊を垂らして星型の封緘印で糊付けをした。

 手紙が空中に舞い、黒竹のすぐ目の前で時が止まったかのように静止する。黒竹はその封筒を手に取り、表裏を見る。

 

 

「ソレじゃあ、キミを研修場所にオクルからネ」

 

「え、なに?今そこに向かってるの?」

 

「詳しくはゲンチのヒトに聞いてクレ。それじゃあガンバッテネ!!」

 

 

 マホロアの激励の言葉を聞いた瞬間――世界(けしき)が、変わった。

 本当に、急だった。突如として変わった景色と――浮遊感。彼はこの感覚を知っていた。まるで、ジェットコースターに乗った際の急降下の際の心臓の圧迫感を――、

 

 

「――って、オブス!?」

 

「コン!?」

 

「アベビッ!?」

 

 

 瞬間、背中に強烈な衝撃が走る。そんな背中の痛みを感じる間もなく、上からクロスが降ってきて彼の腹に直撃する。結果として彼は前と後ろ両方に強烈な痛みが襲ってくることになった。

 

 

「コ、コ~ン…?」

 

 

 そして黒竹のお腹の痛みの原因であるクロスは、心配そうに彼を見る。クロス自身は黒竹がクッションになったことで無事だったが、クッションになった彼は無事ではなかった。「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…ッ!」と唸り声を上げ、痛みが生じる箇所を片手で抑えながら悶えている。

 

 そんな痛みの中、彼は閉じていた目を少し開け――空中にあるソレを見た。ソレは一言で言えば“黒い星”だった。その黒い星と彼らはほぼ垂直の位置にあることから、彼らはあの黒い星によって別の場所に飛ばされたとみて間違いない。そしてその原因である黒い星は、徐々に小さくなっていき、やがて完全消滅する。

 それを見た瞬間彼は瞬時に理解した。「マホロアによって何処かに飛ばされた」と。しかし、それがどこか分からない。唯一分かるのは、ここが研修の場所だということのみ。

 

 

「ま、マホロアの野郎…急に…!事前予告くらいしろよ…!!」

 

「コ、コン?」

 

「――お前、重いからいい加減退け…!」

 

「コンッ!」

 

 

 黒竹の言葉で彼の体から退いたクロスは彼の隣でお座りをして待機する。ゆっくりと上半身を上げた彼は、全身に広がる痛みに耐えながら今いる空間を認識する。

 この場所は、一言で言えば『森』だった。木々が生い茂っており、普通の森に見える。頭上では太陽がサンサンと輝いており、晴れであることが分かる。

 

 

「見た感じ普通の森だが…こんなところで研修なんて本当にできるのかよ…」

 

「コ~ン…」

 

 

 彼の中でフツフツと怒りが沸き上がり、クロスは垂れ目になって心配そうにしている。

 しかし、そんな彼らの雰囲気をぶち壊す出来事が、この後すぐに起きることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラガラ

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――?なんだこのお、と……」

 

「――コン?」

 

 

 ()()を見た瞬間、彼らの体は固まった。彼らにあるものが襲い掛かってきたのだ。

 彼らの目線の先にあるのは、とても大きい崖だ。頂点まで見上げると首が痛くなりそうなほどに高い崖。そんな崖から――大岩が転がってきた。

 その速度は尋常ではなく、大岩がぶつかる時間までの認識から対応をしなければいけない場面。しかし彼は一般人。そんなことができるはずもなく、ただ転がってくる大岩を眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

(―――あ、これ死んだわ俺…)

 

 

 

 

 その刹那、彼の頭に思い浮かぶ情景――。

 

 

 一度目の人生で父と母から受け継いだ愛情――。

 小・中・高・大と共に学友と過ごした時間――。

 そして、自分が死んだ際の記憶――。

 

 二度目の人生。孤児院。捨て子。職員。仲間。名前。粉ミルク。おかゆ。おねしょ。幼稚園。らくがき。お昼寝。小学校。クラスメイト。女子。男子。給食。授業。1年生。2年生。5校時。3年生。4年生。6校時。5年生。6年生。説教。いたずら。友達。遊び。遊具。校庭。ブランコ。シーソー。公園。ジャングルジム。練習。本番。発表会。卒業式。卒業証書。校門。桜。入学式。中学校。ヘルメット。自転車。1年生。ツヴァイウィング。天羽奏。風鳴翼。ノイズ。襲撃。ライブ会場。いじめ。殴打。蹴る。打撲。左目。切り傷。血。痛い。気絶。狐。病室。マホロア。星のカービィ。ローア。ラーメン。うどん。オレンジクルー。出汁ペリカン。巨大倉庫。ワドルディ。ギーツⅨ。クロスギーツ。ケミー。ワープ。大岩。死。

 

 

――立花響。小日向未来。

 

 

世創(セイソウ) 狐白(コハク)

 

 

 

 

 

 

(あ、コレ完全に走馬灯だわ。こっから生き残るビジョンが全然思い浮かばねぇ)

 

 

 

 

 

 自身の死が近づいているというのに、彼はとてつもなく冷静だった。何が彼の心を沈静化しているのか。1度目で死んだ経験か。それとも、1日で全てを失ったことによる喪失感故か――。

 

 

 

 

 

(マホロア――。お前いつか絶対殴る)

 

 

 

 

 

 

 そんな永遠に叶いそうにない目標を持ちながら、大岩は彼の目前にまで迫り――

 

 

 

 

 

 

 

「ジャン ケン グーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で大岩が破壊され、彼らの命は救われた。

 突如目の前で起きた出来事に、理解が追い付かない。あの大岩が、軽々と破壊された。それも誰かの手によって。あり得ない。だが、彼が13年ほど過ごした世界はそんなのが当たり前にできる力が存在する世界。無理やり飲み込むしかなかった。

 黒竹は思考を一旦切り捨てて自身の命の恩人を見た。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 黒竹とクロスに対して労いの声を掛けるその人物は一言で言えば――ムッキムキだった。

 身長は2mを優に超え、その巨体に似合わない童顔を持ち、この世の絶望を詰め合わせたかのようなハイライトのない漆黒(ダークマター)の瞳。服装は何故か子供用のシャツとズボンを着用しておりそのためピッチピチで破れかけている。

 そして何より特筆すべき点は『髪』だろう。黒髪ロングのとんでもなく長い髪が天を貫いている。なにを言っているか分からないと思うがそう表現するしかない。どこまで伸びているのか全然理解できない。あの長さの髪がどうやって立っているのか原理すら不明だ。

 

 そして彼を纏うどす黒いオーラ。当てられただけで失禁してしまうそうだ。

 

 その人物は黒竹とクロスを見ると、首を傾げた。

 

 

「アレ、君…島民じゃないね」

 

「……あんたは…一体…?」

 

「俺?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺、【ゴン】!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、黒竹とクロスの、【ゴンさん】との初対面であった。

 

 

 

 

 

 

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