PROJECT NIYARI 始まりの軌道   作:龍狐

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 前回。マホロアが運営している商店の在庫が保管されている倉庫に足を踏み入れた佐藤とクロス。そこに広がっていたのは広大な倉庫とたくさんのワドルディたち。
 その場で彼の呼び名が【黒竹】に決まりクロスの正式名称が【クロスギーツケミー】であったことを知る。自身の復讐対象である【世創 狐白】の力【仮面ライダーギーツⅨ】と同一の名前が使われていることから世創との関係性を疑うがマホロアの説明で誤解を解いた。
 そのまま見学が終わり、黒竹とクロスは研修を行うことになり、マホロアによってワープされ何処かも分からない森の中へと放置された。その直後に彼らを大岩が襲い走馬灯を見る中、彼を助ける大きな影が現れた。

 その男は筋骨隆々の肉体に天を衝く髪を持った人物。その男は、【ゴン】と名乗ったのであった。

 
 


『念』の修行:HUNTER×HUNTER(ゴンさん)編
天を()く髪の男 ゴンさん(13歳)


「俺、ゴン!!」

 

「ゴン……さん…?」

 

「コォン……」

 

「大丈夫?怪我してない?」

 

 

 目の前の命の恩人――天を貫く髪の男、【ゴンさん】は腰を抜かしている黒竹とクロスに向かって軽く自己紹介をした。

 そのまま動かない彼らを見て、怪我をしているのかと思ったゴンさんは、ゆっくりと歩きながら近づくと、彼の片手にある物が握られていたのに気づく。

 

 

「あれ……君の持ってるソレ…」

 

「えっ、あっ、これ?」

 

「ソレ、マホロアさんのだよね?」

 

「―――ッ!!」

 

 

 目の前の人物からマホロアの名前が出た途端、肩を震え上がらせる。何故ゴンさんがマホロアのことを知っているのか。それになぜ、この手紙がマホロアのものだと気づいたのか。

 そんな時、マホロアの言葉を思い出した。

 

 

『詳しくはゲンチのヒトに聞いてクレ』

 

 

「もしかして……アンタが、研修の…」

 

「そうだよ。マホロアさんから聞いてると思うけど、俺が研修の講師……ってことになるのかな」

 

 

 あっけらかんとした答えに、黒竹は硬直する。

 自身を殺しにやってきた大岩。死にかけたことによる走馬灯。目の前の圧倒的存在、ゴンさん。そんな怒涛の展開を連続で体験しながらも、彼の思考は妙に冴えていた。こうしてすぐに答えを導くことができたのだから。

 

 

「人に教えるのはあんまり特異じゃないけど……頑張ってキミが一人前になれるように全力で協力するよ!」

 

 

 そうゴンさんに言われるが、黒竹はなにも言えなかった。それにはもちろん理由がある。マホロアにほとんど何も説明されず送り飛ばされ、話に着いていけないことは確かなのだが――、

 

 

(この人…目が怖ェ!!)

 

 

 その理由は、ゴンさんの見た目の問題である。ゴンさんの声自体は明るく年相応の貫禄があるという矛盾を感じているが、やはりその明るさと反比例してなにも映していない漆黒(ぜつぼう)の瞳が黒竹の恐怖を駆り立てていた。

 

 

「ソレ、もらってもいい?」

 

「え、あ、あぁ…」

 

 

 尻もちを着きながら腕を上に伸ばしてゴンさんに手紙を手渡す。本来立って手渡すのが礼儀と言うものなのだが、黒竹は未だ足のすくみで立ち上がれない故、これが精いっぱいであった。

 ゴンさんは糊を剥がして封筒に入っている手紙を広げて読み始める。

 

 

「――――」

 

「………」

 

「――――」

 

「…………」

 

「――――黒竹さん」

 

「はっ、はい!?」

 

「コンッ!!」

 

 

 突如として名前(苗字)を呼ばれて戸惑い返事が敬語になってしまった黒竹。クロスは即座に「はい!」と言いたげに鳴いた。お前は呼んでない。可愛いから許す。

 一度も名前(苗字)を教えていないはずなのにゴンさんが知っているということは、手紙に書いてあったということなのだろう。

 手紙から目を離してダークマターの瞳でこちらを見つめるゴンさんに、黒竹は震え上がる。

 

 

「……いろいろ話進めちゃってごめんね」

 

「……え?」

 

「この手紙に書いてたんだけど、マホロアさん。ほんとなにも説明しないでキミのこと送ったんだね」

 

「………承知の上で送ってたのか…アイツ…」

 

 

 ほとんど説明もなしに送られたが、手紙に何も説明をしていないことを書いていたらしい。つまり説明をしないまま送ることを承知だったということだ。

 要するに説明を全てゴンさんに丸投げしたということだ。

 

 

「でもマホロアさん、色々抜けてるところはあるけどこういう説明はちゃんとする人なんだけどな…」

 

「人かどうかは置いといて、その抜けてるところがそこに出たんじゃないのかな…?」

 

「………そうかな?……まぁいいか。とりあえず立てる?」

 

「…あ、はい…」

 

 

 ゆっくりと立ち上がった黒竹は、自身の身長とゴンさんの身長を比べて彼の大きさを再確認する。自身の年齢が13歳と言うことだけあって身長の低い彼ではあるが、ゴンさんの身長はそれを優に超えている2mは確実にあり、さらにあり得ないぐらいの髪の長さがゴンさんの存在感をより一層際立たせている。

 ゴンさんは手紙をズボンのポケットにしまうと、再び黒竹とクロスを見る。

 

 

「取り合えず今日はウチに泊まっていきなよ。本格的なのは明日からやろう!」

 

「はい…」

 

「コン!」

 

「それじゃあいこっか」

 

 

 そうして、黒竹とクロスのゴンさんとの共同生活が始まった。

 

 

 

 

「ちなみになんだけど、黒竹さんって年いくつ?」

 

「えっ、13ですけど」

 

 

「へぇ、同い年」

 

 

「同い年!!?」

 

 

 

 

 

 黒竹、ゴンさんの実年齢を知り驚愕する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

―――同日 夜。

 

 

 

 

 

 アレから黒竹は、この島――【くじら島】のゴンさんの育ての親、【ミト】と言う女性の家にお世話になった。食事を提供してもらい、ゴンさんとクロスとともに食事をし、腹を満たす。

 そしてゴンさんの部屋にて。

 

 

「どう?美味しかった?」

 

「はい…。とても」

 

「そっか!ミトさんの料理はどれも美味しいからね!クロスなんてお腹を膨らましてまで食べてたからね!」

 

「ゴォン…」

 

 

 ちなみにそのクロスなのだが、部屋の隅で仰向けになり苦しそうに寝転がっている。その原因はなんと言っても妊娠しているのかと思うくらいに膨れたお腹だ。もちろんあの中身は胎児などではなく食べ物である。

 美味しい料理の数々に感極まったクロスはミトさんに全力で甘え、またそのミトさんもそんな可愛い狐(クロス)のためにたくさん料理を作った。――で、その結果がコレである。

 

 

「ミトさん、作りすぎちゃったって心配してたけど、大丈夫かな?」

 

「コレに関しては完全にアイツの自業自得だから放っておいていいと思いますよ」

 

「ゴォン……」

 

「そっか。じゃあ話の続きしよっか」

 

 

 あっけらかんとクロスへの対応を変えたゴンさんは、胡坐をかいて黒竹と対面する形で説明を始めた。

 

 

「まず、マホロアさんからの手紙で、ある程度キミのことが書いてあったけど…黒竹さんって【転生者】だったんだね」

 

「―――ッ!!そこまで…」

 

 

 そこまで書かれていたことに驚きだった。一体マホロアはどこまで自分のことを書いていたのだろうか。まさか本人の了承なしに自分の正体を他人にバラすとは、本当に商人なのだろうか。情報管理が杜撰すぎる。

 

 

「うん。気にしないでいいよ。それに手紙に書いてなかったとしても、俺は黒竹さんが転生者だって分かるから」

 

 

 手紙に書いていなくともその類かどうか分かる。その言葉に黒竹は疑問を抱く。なにかそういうことを判別できる能力でも持っているのだろうか。見た目からして物凄い能力を持っていたとしても不思議ではない。

 

 

「……それは、また、なんで、ですか?」

 

「糊だね」

 

「――糊?」

 

 

 「糊」。そう言い、ゴンさんはポケットからマホロアからの手紙を取り出した。それと一緒に、手紙が入っていた封筒も取り出した。その封筒は当たり前だが、青い糊で接着された口がパカッと開いている。

 ゴンさんが手紙を床に置いて封筒を前に突き出すと、順序良く説明を始めた。

 

 

「この糊、青いでしょ?」

 

「そう、ですね…」

 

「普通、糊って赤色のイメージが強いし、実際その通りなんだけど、マホロアさんは敢えて青色の糊を使っているんだ」

 

「それは……なんで?」

 

「マホロアさんが青い糊を使うのって、転生者に関わる案件だけだからさ」

 

「な、なるほど…」

 

 

 黒竹はソレを聞いて理解した。確かに封筒の口を止める糊の色は一般的には赤色で、そのイメージが強い。しかしマホロアが敢えて青色の糊を使用していたのはソレを知らせるためだったということだ。

 

 

「マホロアさんの紹介状は、二種類あるんだけどさ。青い糊と赤い糊で区別してるんだ。青い糊を使うのは転生者で、赤い糊を使うのは転移者を意味してるんだ」

 

「はぁ………それって、分ける意味、あるんですか?」

 

 

 これは単純な疑問だ。色の違いで意味が違うということは分かったが、転生者と転移者、あまり違いがあるとは思えない。違いを上げるとすれば、転生は全く新しい体で、転移は元の体のままでと言うことが挙げられるが、ソレを分ける意味が普通に分からない。

 それに手紙に自分が転生者だと堂々と書いてある以上わざわざ伏せている意味すらない。

 

 

「さぁ?俺もマホロアさんにそう言われてるだけだから。ちなみに、俺も転生者なんだ

 

「へぇ……ん?」

 

 

 黒竹の思考が停止する。今物凄い唐突なカミングアウトがなされたぞ?

 

 

「えっと…今、聞き間違えじゃなければ転生者だって――」

 

「うん。そう言ったよ」

 

 

 やはり聞き間違えなどではなかった。目の前にいる人物、ゴンさんも転生者だという事実に驚きを隠せない。一体どんな生き方をしたら13歳でこんな見た目になってあんな力を手に入れられるんだ。

 

 

「でも転生したはいいんだけど、ゴンさんの力が強大すぎるせいで、意識や思考が99%ゴンさんに侵食されてるんだけどね

 

「今サラッととんでもないこと言わなかった!?」

 

 

 転生者であるカミングアウト以上に強烈な事実に、黒竹は敬語すら忘れてツッコんだ。もしゴンさんの言っていることが事実なら転生者本来の意識はほとんどないに等しい。今自分が喋っている相手は、ゴンさんなのか、それとも転生者なのか、分からなくなった。

 

 

「で、残りの1%が自分が転生者であるってことと、前世の記憶。後、俺の住んでる世界が漫画の世界だってことかな」

 

「1%の割りに多すぎやしないか…?あと、やっぱりここなんかの漫画の世界だったのか…」

 

 

 ゴンさんの言う1%が、内容がとても1%に収まりきらない内容だった。転生者の自覚と前世の記憶、そして自分の世界の真実。これを果たして1%で収めていい内容なのだろうか。

 それに、ある程度予想をしていたことだがこの世界が漫画の世界だということも判明した。あんな力、バトル漫画でなければ説明がつかないし納得もあまりできない。

 

 

「感覚的に言うなら、ゴン(オレ)が“前世の自分の物語”を知っているような感覚かな。読者が主人公のこと知ってるの逆バージョンだよ」

 

「すっごく分かりやすい例えありがとうございます」

 

 

 ゴンさん本人がそう言ったように、今のゴンさんの状態はゴンさんが“ゴンさんの前世の人物”を“物語”として知っている感覚だ。

 つまり“読者”が“主人公(キャラクター)”を知っているのではなく“主人公(キャラクター)”が“読者”のことを知っているのだ。

 

 

「まぁ俺の話はここで終わりにして、研修の内容を話そうか」

 

「あ、お願いします」

 

「まず君にやってもらうのは、『念』を覚えてもらうことだよ」

 

「……ネン?」

 

「えっとね、こう書くんだけど」

 

 

 ゴンさんが立ち上がり、机の引き出しからA4用紙を取り出してマジックペンで文字を書き、黒竹に見せる。そこにはデカデカと『念』と書いていた。

 

 

「……『念』」

 

「そう!『念』。体から溢れるオーラ――生命エネルギーを操る能力なんだ。黒竹さんにはこれを覚えてもらうよ」

 

「……そう言われても、『念』って具体的に、どんなものなのか…?」

 

 

 概念だけ説明されても、全く想像することができない。『念』と言うのなら、念じることで発生する力なのだろうか?そんな妄想を繰り広げながら思考をする。

 

 

「えっとね。今日、俺が大岩を破壊したけど、アレも『念』の力なんだよ」

 

「……つまり、研修って言うのは戦闘能力を養う……ってこと、ですか?」

 

「そうだよ」

 

 

 これでようやく全貌が理解できた。マホロアがここに飛ばして、ゴンさんと出会わせた意図も。しかし彼の業務内容はマホロアの仕事の一つである納品先への直接納品に、戦闘能力が必要になるのだろうか?

 

 

「業務内容は、納品先に荷物を納品するのを手伝うだけって言われてたんですけど…戦闘力って必要なんですか?」

 

「もちろん!いろんな世界に行くわけだから、どんな外敵に遭遇してもいいように、戦闘能力を身につけなくちゃいけない。……って、マホロアさんが言ってたよ」

 

 

 受け売りかよ。そんな言葉を飲み込む。もし余計なことを口走ってゴンさんの怒りを買ったとなればあの大岩を破壊した一撃が自分に向きかねない。今まで見たゴンさんの人となりを見ればそんな理不尽なことをしてくるとは思えないが、未だに彼の見た目に恐怖している自分がいる。

 

 

「それに俺、マホロアさんの仕事、時々手伝ってるからさ」

 

「……ちなみに、その業務内容って?」

 

「黒竹さんとは違う業務なんだけど……ただのボディーガードだよ。取引先の偉い人との商談でマホロアさんの隣に立ってるだけだから。黒竹さんがやるのと比べれば、随分楽だよ。商談も大体10分で終わるし」

 

「―――(それ、恐喝要員では?)」

 

 

 そう思ったが、口が裂けても言えない。

 隣にゴンさんが立ってるってどんな拷問だ。肉体的なダメージを受けているわけではないがゴンさんが近くにいる、しかも自分のことを見つめていると思うとそのお偉いさんが不憫でならない。普通、商談は10分で終わるようなものではないが相手方は1秒でもゴンさんの元から離れたいと考えマホロア側に有利な取引を成立させてでも商談を終わらせたいと考えるのが用意に想像できた。

 常人がゴンさんの威圧に耐えられるわけがない。

 

 

「ははっ……ゴンさんが着るスーツとなると、絶対特注品ですよね…」

 

「えっ、このままの恰好でやってるけど?」

 

「そのままで!?」

 

 

 まさかの事実が判明。仕事の際もそのピッチピチの服とズボン、裸足で立ち会っているというのが驚きだ。商談とかの場は普通スーツで行くのが常識なのだが、相手方もゴンさんが相手ではなにも言えないのだろうというのが分かる。

 今になって思った。マホロアがあの性格であそこまで巨大な商団を経営できてるのはゴンさんの恩恵が強いのではないのだろうか、と。

 これ以上考えるとオーバーヒートしそうなので思考をシャットアウトする。黒竹はゴンさんの『念』の説明に没頭することにした。

 

 

「で、『念』の話に戻るんだけど、念の源であるオーラは、オーラの溢れ出す穴、『精孔(しょうこう)』を開いた状態にすることで、念能力に覚醒するんだ。コレを開くには2パターンあって、『ゆっくり開く』のと『無理やり開く』やり方があるんだ。俺の場合は当時急ぎだったから、『無理やり開く』やり方をやったんだ」

 

「じゃあ、俺も無理やり開いた方が――」

 

「うーん。確かにその方が手っ取り早いけど、今の黒竹さんにはおすすめしないかなぁ」

 

「……なんで、ですか?」

 

「無理やり開くには相手にオーラをぶつけて全身の精孔を開く必要があるんだ。でも、オーラ自体強力な力だから、場合によっては死もあり得るんだ」

 

「死……」

 

 

 その言葉を聞き、黒竹の思考が昨日の出来事を何度も反芻させる。雨が降り続け自身の体力が低下していく中、痛みに耐えて復讐を誓ったあの時。復讐を誓った矢先に死にかけ、クロスとマホロアの助けがなければ実際に死んでいた。

 『死』。そのワードが黒竹の心に刃となって、突き刺さっているのだ。

 

 

「黒竹さん?」

 

「―――えっ、あ……すみません。続き、お願いします」

 

「うん」

 

 

 ゴンさんに心配され声を掛けられ、問題ないと返すと流石の切り替えの早さでゴンさんは説明の続きに戻る。

 

 

「それに、黒竹さんは包帯だらけで全身傷だらけだし…そんな状態で精孔を解放させても『(てん)』が使えなきゃ衰弱死しちゃうよ?」

 

「……『纏』?」

 

 

 聞き覚えのない言葉に黒竹は首を傾げる。

 

 

「あぁ。『纏』って言うのはね。念能力の基本なんだ。普通の人だとオーラが垂れ流しになってるんだけど、『纏』はそのオーラを体に留める技術なんだ」

 

「……ちなみに、それを失敗すると?」

 

「今も言ったけど衰弱死だね。オーラは生命エネルギーだから、精孔を開いた状態で垂れ流しにしてれば当然疲れるしね」

 

「………怪我」

 

 

 黒竹は自身の体を何度も見る。そうだ。今の体の状態からは考えられないほどの包帯を今自分は巻いている。マホロアに拾われる前まではこの包帯の量に比例するほどの怪我をしていたのだが、今は痛みをほぼ感じていない。マホロアはローアの医療技術で治したと言っていたため、ソレのおかげだろう。

 ここに入った途端、ゴンさんの母親のミトさんにも驚かれたほどだ。ゴンさんが黒竹を患者だと思っていても不思議ではない。

 

 

「怪我の大半は、マホロアって言うか…ローアに治してもらった。だから今は、あんまり痛みは感じない」

 

「そっか!なら大丈夫だね。明日すぐに黒竹さんの精孔を開こう!」

 

「―――?」

 

 

 決断が早すぎる。あまりにも早い即決に黒竹の思考は停止する。もう今日だけでどれほど思考が停止したのかすら、もう彼は覚えていない。

 それやったら衰弱死もあり得るのに、黒竹の言葉をすぐに信じて実行に移すまでが恐ろしく早い。これは人のことを信じられるというとても素敵な部分なのだろうが、今この時だけはゴンさんのこの素直さが怖くなった。

 

 

「それじゃあお休み。明日に備えて黒竹さんも早く寝なよ!」

 

「あ……はい」

 

 

 ゴンさんは一言言うと部屋のベットで横になって毛布を掛けて寝始めた。早すぎる。

 

 

――ちなみにだが、この部屋のベットの配置は頭が窓に向いている。その理由はただ一つ。ゴンさんの長すぎる髪の逃げ場を作るためだ。

 事実ゴンさんの髪は窓を貫通して横に果てしなく伸びている。その先を確認することはこの夜の暗さでは確認することは不可能だった。

 

 

(………明日が俺の命日かもしれない)

 

 

 この日、既に二度死にかけた黒竹が、一番恐怖を抱いた夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――くじら島 翌朝

 

 

 

 

 

 

 

「ジャン ケン グーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

ドゴォオオオン!!

 

 

 

 

 

 そんな掛け声とともに地面に向かって放たれた一撃は、地面に大きなクレーターを作る結果を生み出した。

 その光景を間近で見た黒竹とクロスは、呆然とクレーターを見下ろし、その中心にいるゴンさんに恐怖の感情を抱いた。

 

 

「昨日もある程度話したけど……これが『念』だよ」

 

「……俺も、これと同じことができるようになるんですか?」

 

「うーん。まだ分からないかなぁ。念能力はフィーリングが大事だし。まぁ何事も挑戦だよ!」

 

 

 ここから、黒竹の『念』の修行が始まった――かと思えたが。

 

 

「それじゃあ、黒竹さんとクロスは俺の前に並んで!俺のオーラを送るからさ」

 

「………えっ、コイツもやるの?」

 

「コォン?」

 

 

 なんと、クロスも『念』の修行をすることになっていたらしい。これは黒竹も、当の本人であるクロスですら初耳で首を傾げていた。

 

 

「アレ?聞いてない?マホロアさんの手紙にはクロスにも『念』を教えるように書いてあったんだけど」

 

「初耳です」

 

「コォン!!」

 

 

 何それ知らない。完全に初耳だ。と言うかコイツ狐だぞ。『念』なんて覚えられるのだろうか。その問いかけにゴンさんは、

 

 

「大丈夫!『念』は動物でも虫でも覚えられるからさ!」

 

 

 と言う返答が返ってきた。

 思っていた以上に『念』は努力次第で誰にでも使える物凄いものだったようだ。そんなとんでもないものを出会って一日程度の人物に教えてもいいのだろうかと疑問に思ったが、心に留めた。

 そして黒竹とクロスはゴンさんの前に並んで座禅で座った(クロスはお座りの状態)。

 

 

「じゃあ今から俺のオーラを君たちに送るから」

 

「あの……これホントに大丈夫ですか?俺たちの体が木っ端みじんになったり―――」

 

「はいせーの!」

 

 

 黒竹の言葉は聞き入れてもらえず、ゴンさんのオーラが黒竹とクロスに一斉に襲い掛かってきた。その瞬間、感じたのはとんでもない熱量。そのあまりにも強烈な力に黒竹は目を力強く閉じ、ゆっくりと目を開けると――、

 

 

「これ、は…?」

 

 

 全身から、白い湯気のようなものが立ち上がっていた。それはさながらヤカンから噴き出す蒸気そのものだ。

 

 

「はい!『纏』をやってみて!最悪の場合死ぬから!必死にね!」

 

「酷すぎる脅し文句だあぁ!!おい、お前はどうなって――っていうかもうできてるし!!

 

「コォン!!」

 

 

 いよいよあとがなくなってきて、焦って隣にいるクロスを見てみると、なんとクロスは既に『纏』を習得しており、体からオーラが噴き出している状態の黒竹とは違い体に白いモヤモヤがとどまっている状態になっていた。

 

 

「すごいや。こんなに早く『纏』をマスターするなんて。やっぱりクロスは普通の狐じゃないんだね」

 

「コン!」

 

「嘘だろオイ…」

 

 

 通常、精孔を開いてすぐに『纏』をマスターするなんてありえない。ましてや無理やり開いたパターンで即座に習得するというのは、異例中の異例だ。

 

 

「えっと、えっと、『纏』ってどうやるの!?」

 

「えっとね……ちょっと待ってて」

 

 

 そう言いゴンさんは、【HUNTER×HUNTER 6巻】と書かれた漫画を読み始めた。表紙には白髪の少年とよく分からん茶色の体毛の猫?が描かれている。

 

 

「なに呑気に漫画読んでんの!?俺このまんまだと死ぬんだよね!?助けてゴンさん!」

 

「あぁあった。えっとね、オーラを体に留めようと念じながら、目を閉じて構えて

 

「それ参考書なの!?あぁあああはい!!」

 

 

 ゴンさんの助言の通り、目を閉じて構える。自分のオーラを体に留めようと念じながら、全身に意識を張り巡らせる。

 

 

「で、そのまま自然体になって。その方が『纏』がやりやすいからさ」

 

(自然体……)

 

 

 自然体と聞いて真っ先に思い浮かんだのは、脱力による構え。変に力み過ぎず、念を体に押しとどめるイメージを持ちながら、『纏』の習得に励む。

 だが、一向にオーラを体に留めるどころか垂れ流しになり続け、徐々に黒竹は疲労感に襲われていく。

 

 

(オーラ……生命力エネルギーってだけある…。垂れ流しになってるだけでこんなに疲れが……)

 

 

 座禅で心を落ち着かせ、なんとかやろうとしてもまだ駄目。このままではオーラを出し尽くして倒れ、最悪の場合死んでしまう。それだけはなんとしてでも阻止しないといけない。

 だが、その焦りが逆に彼を死へと近づけていた。

 

 

(まずい……倒れそう…)

 

「コン!」

 

「ん………え?」

 

「へぇ…すごいや」

 

 

 もはやこれまでか――と思った矢先、クロスの前足が黒竹の体に触れた。その瞬間、黒竹の垂れ流しになっていたオーラが一気に流れていくのをやめ、彼の体に留まっていたのだ。

 

 

「これが……『纏』?」

 

「コンッ」

 

「あぁまた!?」

 

 

 だが、クロスの前足が彼の体から離れると、『纏』が解除され再び彼の体からオーラが垂れ流しになってしまう。そしてまたクロスが黒竹と接触すると、黒竹の体は『纏』の状態が維持された。

 

 

「コイツに触れたときだけ、『纏』ができてる…?」

 

「うーん。俺も初めて見たなぁ。他人に自分の『纏』を連動させてるのかな?でもこんなの俺知らないよ?」

 

 

 ゴンさんもこの状況については全然知らないらしい。と言うことはこれは珍しいパターン、またはあり得ない例だということになる。

 

 

「でもこれは都合がいいかもね。これならオーラ切れを気にすることなく『纏』の修行ができるよ。今の感覚を覚えていれば、クロスに触れていなくても『纏』ができるようになるよ!」

 

「……はい」

 

 

 不可解なことはあるが、制限時間がなくなったことはとても都合がいい。これでオーラ切れの心配をせずに済むのだから。

 それから、黒竹はこの日は『纏』の修行のみに努めた。途中、何度かクロスから離れて『纏』を実行してもうまくいかず、この日の修行は終わった。

 

――が、ここで一つ問題が起きる。

 

 黒竹は全身のオーラが噴き出す孔、精孔を開いた以上『纏』を習得しないと気絶し最悪死ぬ運命にある。だがその運命を回避できている理由はクロスがいるからに他ならない。彼はクロスから離れると『纏』の状態が解除される。

 

 

 

 つまり、『纏』を習得するまでクロスから片時も離れることができないということだ。

 それに気づいたのはこの後すぐであり、黒竹は渋い顔をしながらも甘んじてこの状況を受け入れることにした。

 

 

 

「運命共同体、か…」

 

「コンッ♪」

 

「嬉しそうだね」

 

 

 黒竹が不意に呟いた言葉に、クロスは嬉しそうに九本の尻尾を振る。ちなみにクロスは今黒竹に抱っこされている状態なので九本もある尻尾が一斉に動くとかなり動きづらくなる。

 

 

「こらっ、尻尾動かすな!!」

 

「コ~ン♪」

 

 

 こうして、彼らのくじら島生活、2日目が終了した。

 

 

 

 

 

 

 

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