そんなある日、クロスが大きく鳴くと二振りの剣が空から落ちてきた。なんとその剣は完全に黒竹とクロス専用装備であり、【帰属性】を保有していたのだ。そして、その二振りの剣たちを扱えるように更なる修行を行った。
なお、その剣たちの検証の際にゴンさんの怒りを買ったことはあまり思い出したくない。
そしてまたそんなある日。ゴンさんから『系統』を知ることを推奨される。『水見式』と呼ばれる方法で自身の系統を確認した黒竹とクロス。黒竹は『放出系』、クロスは『強化系』であることが分かり、二人は更なる修行へと励んでいた。
「うーん…」
「うん。うまいね。流石『放出系』。俺より断然覚えが早いよ」
黒竹は地面に座禅をしながら人差し指を突き出して体からオーラを切り離す練習から始めていた。最初はなんとなくでやってみたが、すぐにオーラが消えてしまった。こればかりは練習が大事だ。
そのため、黒竹はオーラを体から切り離してその持続時間を引き延ばす修練を行っていた。これを何度も繰り返すうちに、黒竹は今のところ1分ほどオーラを留めることができている。
「でも、油断するとすぐに――あぁまた消えたッ!」
「焦る必要はないよ。慣れれば喋りながらできるようになるよ、きっと」
「きっとなんだ…」
ゴンさんの評価に返答をすると、気が抜けてしまって留めていたオーラが霧散してしまった。ゴンさんも言うようにこればかりは慣れのようだ。
黒竹はチラリと近くでお座りをしているクロスを見る。一見すればただ座ってジッとしているだけのように見えるが、アレは『練』の修行をしているのだ。少し遠い場所から見ているが、オーラをここからでもヒシヒシと感じる。
「――――」
「クロスが気になる?分かるよ。【ビスケ】が言ってたけど、『練』を10分延ばすのに1ヵ月かかるらしいのに、もう1時間も続けてるなんて、すごいよね」
「……相変わらず、アイツの成長スピードには驚かされる…」
ゴンさんからまた知らない人物の名前が出てきて困惑するが、コレに関してはもうあまり考えていない。
『発』の修行を始めてから約3日ほど経った今、黒竹は自身の成長について思い悩んでいた。その主な理由として、クロスが強い。クロスは『練』の持続時間を引き延ばす修行をしており、ソレがさらにオーラを上昇させ強くなれる。
同じ時期に始めたというのに、格差的に広がる差が黒竹を焦らせていた。
「焦ることはないよ。俺だって最初1時間もできなかったけど、1ヵ月で3時間に引き延ばせたから」
「……そうですか」
ゴンさんはきっと、慰めのつもりで言ったのだろう。だが、全然慰めになっていない。むしろ自慢にしか聞こえない。
ゴンさんの口から出た【ビスケ】と言う人物の言葉を使うなら普通の能力者は10分延ばすのに1ヵ月かかるのに対してゴンさんは単純計算でその18倍の成長スピードを持っていることになる。分かっていたことだが半端ない。
黒竹がジト目でゴンさんは読んでいた漫画を閉じて切り株の上に置くと、立ち上がって近づいてくる。
「な、なんですか…?」
「黒竹さん、あの剣って出せる?」
「剣、ですか?えぇ、まぁ…」
ゴンさんに促されるまま、黒竹は二振りの剣を召喚し、片手ずつで持つ。相変わらず重みがあるが、大分慣れてきた。
「これがどうかしましたか?」
「せっかく武器があるんだから、どうせならソレを使ったものがいいと思ってさ。片方でいいから掲げてみて」
「は、はい…」
黒竹は持つ方の剣を銃の機能がついた方の剣を選び、もう片方の剣は地面に突き刺した。
「これで……どうするんですか?」
「えっとね、その剣を自分の体の一部だって思ってやってみて」
「剣を…体の一部だと…思う…」
黒竹は全身にオーラを張り巡らせ、そこから徐々に剣を持っている手先にオーラを集中させていく。すると――武器にオーラが纏わりついた。
「これは…!?」
「それは『
「『周』…」
黒竹はオーラを纏った武器を見つめる。
『纏』は体にオーラを留める技術。ならその応用として物質にオーラを留める技術があっても不思議ではない。本当に良くできている。
「『周』を使うと強度とか切れ味が増したりするんだよ。試しに、コレ斬ってみて」
「――――」
ゴンさんが指さしたのは、近くにある一回り大きな岩。最初に黒竹たちの命を奪いかけた岩よりかは小さいが、それでもかなりの強度があるのは確かだ。
黒竹は好奇心が赴くままに、地面に刺した剣も一緒に持って岩へと近づいた。そして左手で剣を振り上げる。
「―――」
―ヒュッ
「――うん?」
「あれ?」
まず最初にもう一振りの剣をオーラを纏っていない状態で岩に向けて斜めに振るった。すると大岩は――普通に豆腐のように斬れた。
予想外の結果に、黒竹もゴンさんもポカンとする。普通、この状況はオーラを纏っていない武器では岩は斬れないがオーラを纏えば豆腐のように斬れる――と言う説明の流れだったはずだ。だが、武器があまりにも高性能過ぎた。素の状態でも岩程度なら容易く斬れてしまうのだ。
少しネタバレになるがこの剣は“電撃”と“超高熱”を同時に纏う刀身により高い切れ味を誇っている。つまり大岩くらい造作もない。
「……?」
「あちゃあ。予想外だったね。オーラなしでも斬れちゃった。すごいねその剣」
「…あの、なんかすみません」
「――?、別に謝る必要ないよ。でも困ったな……そうなると比較のしようが……あ、そうだ」
ゴンさんは顎に手を当てて少し考える素振りをすると、黒竹が斬った岩(下の部分)に触れると、その岩にオーラを纏わせた。たったそれだけで、ただの岩がダイヤモンド――いや、ソレなんかと比較できないレベルにまで硬くなったように思わせた。
「―――!」
「この岩にオーラを纏わせたから、その剣でもう一度やってみて」
「――はい」
黒竹は、岩に向かって再び剣を振るった。今度は縦に一直線に。ゴンさんが横から岩に触れているため当たらないようにしたためである。そして、結果は――
――ガキィン!!
と言う音とともに、強烈な反動が返ってきてその衝撃で左手から剣が離れ、剣は空中でキリモミ回転しながら地面に突き刺さった。
「―――ッ」
硬い。硬すぎる。分かってはいたが本当に硬い。先ほどまで豆腐のように斬れていたあの岩が急に鋼鉄に打ち付けたかのような強度へと変貌していた。コレがオーラ。これが『周』。これがゴンさんの力――!
「じゃあ、次は『周』を使って斬ってみようか」
「あの……これ、俺のオーラ量で斬れるんですか?熟練度からして違いますし、今と同じ結果になるんじゃ…」
「大丈夫!黒竹さんのオーラでも斬れるように調整してるからさ」
「まぁ……それ、なら…?」
なんとも釈然としない返答と共に、黒竹はもう一振りの剣にオーラを纏わせる。
正直に言おう。斬れる気がしない。いくらゴンさんが手加減しているとはいえ、今立ち向かっているのはゴンさんのオーラ。何度でも言おう。とてもじゃないが斬れる気がしない。
それでも黒竹はオーラを纏った剣をゴンさんのオーラを纏っている岩に向かって振るった。
「―――」
「あちゃぁ…力加減、難しいな…」
結果から言おう。先ほどと同じだった。剣は黒竹の手から離れ弧を描きながら地面へと突き刺さった。黒竹の右手を中心に振動と衝撃によって骨が震える。とても痛い。
「ゴンさん…斬れなかったんですけど…」
「うーん……もうちょっとオーラを弱めた方が良かったかな…?もう一度やってみよっか」
「えぇ……」
そういうとゴンさんは再び岩に触れ、『周』を行った。確かにさっきと比べれば幾分かオーラは弱いように見えるが、それでもこの岩を斬れるかどうか分からない。いや、絶対斬れない。
やってみて分かった。『周』じゃ駄目だ。『周』じゃゴンさんのオーラを突破することができない。
『周』は物質にオーラの一部を纏わせる技術。なら、全てのオーラを武器に纏わせられたら?
黒竹はハッと顔を上げてゴンさんに向き直る。
「ゴンさん!『周』はオーラの一部を物質に纏わせる技術なんですよね?」
「そうだけど」
「……全てのオーラを武器に纏わせることって、できるんですか?」
「できるよ」
「できるの!?」
即答だった。黒竹は剣を地面に降ろして驚いた。顔の方に力が言って腕が脱力したためである。
「『
「……それはまた、なんでですか?」
「『硬』ってさ、四大行と『
「『凝』…」
『凝』。確かクロスが初めて二人の前で剣を召喚した際にゴンさんが剣の正体を『念』かと疑った際に使用した技術。オーラを体の一部に集中させて相手の念を見破る技術――と説明されたのを覚えている。
「でも『凝』って、相手の『念』を見破る技術なんですよね?」
「えっとね………あ、あった。正確には『凝』ってオーラを体の一部に集中させて攻防力とか身体能力を部分的に強化する技術なんだよね。でも大衆的には目にオーラを集中させて『
「あの、また知らない専門用語が出てきたんですけど…?」
ゴンさんは再び漫画――正確には
まだ『念』について知らないことが多い状況で、ゴンさんはよく相手が知っている前提で話を進めるから苦労するところだ。
「あぁごめんね。『隠』って言うのは『絶』の応用技術なんだけどオーラを見えにくくする技術なんだ。気配が消せたり、『発』も見えなくなるから仕込みとか不意打ちができるんだ。で、『凝』はソレを見破る技術」
「なるほど…」
本当に良くできている。一方的に不利になる能力に、それを見破る能力。何度も思うが、本当に『念』は奥が深い。
「で、『硬』はその5つを集約した技術だからさ、『凝』と『発』ができるようにならないと『硬』はできない」
「そっか……それだったら、どうすれば…」
黒竹は二振りの剣を見ながら、思案する。単純に今の自分の『周』で斬れるレベルにまで何度も繰り返して落としてもらい、斬るというのが一番現実的に思えるが、今欲しいのは“明らかな変化”。そんなチマチマしたものでは達成感など皆無だ。
しばらく考えた結果、思いついたことがあった。
(そういえば、剣の機能をまだ全部試してない…)
そう、黒竹はまだこの剣たちの機能を全て把握しているわけではないのだ。剣の検証を行っている最中にゴンさんを激怒させてしまったため、アレから検証を断念している。だが、もしこの剣に更なる機能があるのなら――、
「ゴンさん。この剣なんだけど」
「―――?」
「まだ試してない機能があるんだ。ソレを使ったら、ゴンさんの『周』を突破できるかもしれない」
「へぇ、どんなの?」
ゴンさんは興味津々だ。見た目は筋骨隆々の髪オバケだが中身はれっきとした13歳。そういうのが気になるお年頃なのだ。
「例えば、この剣。半円の部分にボタンがあるんですけど、ここ押したら、必殺技とか出せそうな感じしません?」
「確かに」
「あと、コッチの剣の後ろ側に引っ張れるような場所があるんですけど、コレ使ってもいけそうな気もするんですよ」
「いいね。使ってみたら?」
二振りの剣の気になる箇所を説明をすると、ゴンさんから使用の許可が出た。コレで言質は取った。これなら何か起きても責任逃れできる!
そう決意を決め打算を成功させた黒竹は、早速片方の剣――オーラを纏わせなかった方の剣で試してみることにした。もう一振りの剣は召喚を解除して消失させた。
(――『周』)
今度は剣にオーラを纏わせ、強度と切れ味を増した状態で構える。
「――よし」
その状態で、ボタンを押した。それと同時に、チャージ音のようなものが鳴り、刀身に漆黒の炎と電撃が纏われた。
「―――ッ!!」
「へぇ、すごい」
「コンッ!」
「―――なんでお前が?」
武器の光に見とれている間に、近くからクロスの鳴き声が聞こえて見てみるとゴンさんの隣にクロスがチョコンと座っていた。
先ほどまで『練』の修練をしていて少し離れた場所にいたはずのクロスが、いつの間にかいた。
「気になって来たのかな?黒竹さんが剣に夢中になっている間にコッチに来てたよ」
「コン」
「いつの間に…」
クロスに接近されて鳴き声を聞くまで全く気付かなかった。それほどまでに、この剣に熱中していたということだろう。
未だに漆黒の炎と電撃を纏っている剣。この爆発的なまでのエネルギーをどう解放するのか――答えは一択。剣についているトリガーだ。
この剣だけ、何故トリガーがついているのか謎だった。もう一振りの剣は剣にもなり銃にもなるという高性能武器だったためにトリガーが付いていてもなにも不思議ではなかったが、この剣にトリガーがついている意味が分からなかった。だが、このためについていたのだ。必殺技を放つために。
「じゃあ、行きますよ…」
「いいよ」
剣を振り上げ――トリガーを押すと同時に振るった。その瞬間、刀身と岩がぶつかり合い強烈な衝撃波が辺り一面に広がっていく。この衝撃をなんと例えればいいのだろうか。例えるなら、「超新星爆発」?いや、流石にそれは大袈裟すぎるが、放った張本人の黒竹はあまりにも強力すぎるエネルギーに両手で剣を持って吹き飛ばされないようにするのが精いっぱいだった
「――ッ!ッ!!」
「―――――」
「コォン」
対して同じく近くにいるはずのゴンさんとクロスは全く動じていなかった。『強化系』だからだろうか、体が丈夫すぎるのが理由かもしれない。この中で動じているのは黒竹だけだ。だが、この場所に置いてはソレが当たり前なのだ。
――それでも、
(ウソだろ…?ヒビ一つすら入ってねぇ…!?)
これほどの威力でさえも、ゴンさんの『周』で強化された岩にはヒビ一つ入っていなかった。このままでは押し敗けてしまう。
だが、黒竹はこの目の前の強固な壁に
(負けてられるか!
彼には目標がある。目的がある。だからこそ、この岩をぶった
この時、分かりやすく言えば黒竹はムキになっていた。この2か月間で着実に強くなっていくのは感じていた。だが、正直言って時間はあまりかけていられない。【世創 狐白】はギーツⅨの力に慣れていない。完全に使いこなせていない。だからこそ、その間に決着をつけたい。どうしても、ヤツを
「まだまだぁ!!」
黒竹は剣の持ち手から片手を離して、ボタンを力強く、5連続で押した。瞬間的に広がる爆発的と言う表現すら超えた漆黒の炎と電撃が刀身に纏われ、威力が底上げされていく。
それによってより強力になっていく衝撃波。黒竹を中心に広がっていく衝撃はやがて徐々に広がっていき周りのチリやホコリはもちろん、木々もミシミシと言う音を立ててきていた。
だがそんな音は今の黒竹には聞こえていない。全ての感覚、五感が全て目の前の岩に向かっていた。なんとしてもこの岩を破壊する。黒竹の思考はただそれだけに染まっていた。
が、それもそこで終わった。
「やめろッ!!」
(―――エ゛?)
その次の瞬間、黒竹は腹に強烈な激痛を感じながら空中を舞っていた。体は方向感覚を失いながらキリモミ回転を繰り返し、口から血反吐を吐きながら昼の太陽に体が照らされる。
(ナニ?今、かラダ、イタ、い?エ、なニ、ナに、ナニ?やバ――)
思考が混乱で支配されながら、黒竹の意識は途切れた。
* * * * * * * *
「あ、ああ゛?」
黒竹は、ゆっくりと目を覚ました。その瞬間感じたのは、腹部への強烈な痛み。その痛みで黒竹の眠気は吹っ飛び完全に目を覚ます。
何事かと思い手で腹をさすってみると、上半身裸の状態で腹に包帯が巻かれていた。
「――――」
「コ~ン……」
それと、右隣にモフモフしたなにかがいた。右を向いてみると案の定目を閉じて寝ているクロスの姿があった。後顔が近づぎる。ドアップにも程がある。
黒竹はクロスから顔を離してゆっくりと起き上がり周りの状況を確認する。電気が消えておりほとんど真っ暗だ。唯一の光源はベットの隣に置いてあるランプのみ。クロスの顔を視認できたのもこのランプのおかげだ。 それに、この部屋はゴンさんの部屋だ。
「えっと、確か、俺は…?」
黒竹は気絶する前の最後の記憶を掘り返す。ゴンさんの『周』で強化された岩を『周』で強化した剣で斬ろうとしたところまでは覚えている。そこからの記憶が思い出せない。思い出そうとすると腹部にズキンと痛む。
「――つッ…!!」
痛みに耐えながら、壁に寄りかかって呼吸を整える。すぐ近くに設置されている窓から外を見ると、もう真っ暗だった。時間的に夜であることが分かる。最後の記憶が昼過ぎなため、最短でも4、5時間は眠っていたことになる。
そんなことを考えていると、突然ドアが開いた。
「―――ッ」
「あ、起きたカイ?」
ドアが開くとそこには――見たことのない少女が立っていた。少女の手にはトレーが握られており、そのトレーの上には木製のお椀と木製スープが置かれていた。お椀からは仄かに湯気が立ち上がっており、暖かいものが入っていることが分かる。
それよりも、黒竹は少女の方に釘付けになっていた。
少女の容姿はとても美しく、可愛らしい。猫の耳を思い浮かばせる円錐の耳がついた黄色い歯車模様の青いフードを被っており、そこからチラリと絹のように上質に思わせる黒髪が見え、黄色の瞳は黄金のように輝いている。フードと服は別々で、青い半袖と短パンと簡素な恰好の上に首元に青いベルトで止めた白いマントを羽織っている。そして、その全てにおいても歯車の意匠がある。そしてよく見ると手には薄い黄色の手袋が嵌められていた。
突然現れた謎の少女に、黒竹は警戒を強め、だがソレを表には出さずに少女に話しかけた。
「あんたは…?」
「ボクのことはいいサ。ソレよりもキミも大変だったネ。ゴンさんにボられるナンテ。とことんウンがないヨ」
「ボ、ボられ…?」
少女の口から聞き慣れない擬音が出てきて、黒竹は困惑する。
「アァ。ボられるって言うノはゴンさんに蹴られるコトを意味してるんダヨ。ゴンさんが蹴ると必ずコノ擬音が鳴るンダ」
「擬音じゃなくて
「フゥ…オイショっと」
謎の少女が机の上にトレーを置くと、フードを脱いだ。そこからブワッとあふれ出たストレートの髪は、まるで星空のようだった。黒髪を中心としてそこから毛先にかけて青色と黄色のグラデーションで溢れた髪色だった。
だが、こんな神秘的な少女を目の前にして黒竹は、この少女自体よりも少女を纏うモノに注目がいっていた。
「ン?どうかしたカイ?」
「あっ、いや…(この女……『念能力者』…ッ!!)」
黒竹には見えていた。この少女、念能力者だ。その証拠に彼女の周りにはオーラが定着しており、『纏』ができている証拠だ。それにオーラの濃度も半端ではない。ゴンさんと比べると薄いが、それでも黒竹のオーラを遥かに凌駕していた。
今ここで戦ったとしても、黒竹は敗けてしまうだろう。そう思わせるほどに、黒竹と少女のオーラの量と濃度が違っていた。
少女のオーラを観察していると、少女に見ていたことを気づかれた。どう弁明しようかと考えるより先に、少女の方が動いた。
「アァ~。もしかして、イヤ、もしかしなくてモ、見惚れチャッタ?」
「え、いや、あの…」
「アァ~ソウだよネ~。やっぱりボク可愛いヨネ!見惚れちゃうノモ仕方ないヨネ!」
(お、なんか急にウザくなったぞ?)
ずっと凝視していたことがバレてどう言い訳しようかと迷っていて突然自画自賛しだす少女。それを見て目を細める黒竹。なんだか熱が一瞬で醒めた気がした。警戒していたのがバカらしく感じる。だが、相手は格上の能力者。警戒するに越したことはない、のだが――、
(……そういえばこの人、どっかで見たような…?)
冷静に見てみると、この少女はどこかの誰かに似ている。青色を基準とした歯車柄の服装といいカタカナ言葉の口調といい、とある人物――人物?と頭の中で合致していた。
(いやいやあり得ないだろ。そもそもあいつは二頭身だし、人間じゃないし。そうだ、きっと別人だ。きっと親戚かなにかなんだろう。もしくはあいつのことが好きなファンとか?好きなものに寄せたいって気持ちあるよね、分かるよ)
頭の中で合致した情報。それを認めたくないがあまり頭の中で現実逃避をし始める。
認めてしまえばいい事実。認めたところでなんの得にも損にもならない事実。だが彼は逃避を続けていた。だが――
「【マホロア】さん。黒竹さん起き――あ、起きてる」
部屋に入って来たゴンさんの一言で、確定した。この少女、【マホロア】だ。あの旅商人の【マホロア】だ。『虚言の魔術師』の【マホロア】だ。
マホロア、マホロア、マホロア……。
黒竹の思考は停止した
ゴンさんが部屋に入って扉を閉め、部屋の電気をつける。隣で寝ているクロスが眩しいのか寝苦しそうにしているが今の黒竹にはそれを気にしている心の余裕はない。
「アッハッハッハ!黒竹クン、顔がヘン!コレ思考停止してるネ!面白~イ!」
「……やっぱお前マホロア、か…。え、なにそれ?」
「見て分からないカイ?擬人化だヨ擬人化!」
クルリと一回転して髪を揺らし、可愛らしいポーズをするマホロア。あざとい。とてもあざとい。
擬人化、非人間のキャラや無機物を人間として表現する言葉であり技法。
「―――?」
「アァ、まだ分かってナイ顔してるネ。具体的に言うとネ――」
目の前の少女――マホロアが腕をゆっくりと横に振るとマホロアの周りを星のエフェクトが包み込んだ。それは表現するなら星の嵐。星の嵐が収まると、そこにはいつもの姿、二頭身のマホロアの姿があった。
「やっぱりコッチの姿のホウがまだ慣れてるカナ?」
「今のは…?」
「ボクの魔術さ。自分のカラダをベツの生物にヘンカさせる魔術ダヨ」
「なんでもアリかよ魔術…」
何度見てもマホロアの魔術は次元が違い過ぎる。幻覚などならまだ分かる。だが体の構造そのものを変えてしまう魔法なんて、もはや神の領域と言っても差し支えないのではないだろうか。
「モチロン、マホロア本来の力じゃ不可能ダヨ。デモ、ボクにはコレがある」
「念能力…」
「ソウ。『念』と『魔術』の複合ワザだヨ」
マホロアが手をかざすと、そこからオーラが溢れてくる。念能力者の証であるオーラが。マホロアが自分のことを“ボク”ではなく“マホロア”と自身の名で表現したことから考えるに、登場人物としての“マホロア”には不可能な芸当が、転生者の“マホロア”が『念』と『魔術』を掛け合わせることで擬人化を可能にした、と言うことなのだろう。
「そんなことも可能なんだな…」
「まぁボクが『変化系』であることが一番のリユウかナ。オーラの“性質”ト“形状”を変える系統ネ。コレと“魔術”の複合で、ボクはジブンの種族と性別をカエルことができるノサ!!」
再び星の嵐を身に纏って、先ほどの美少女へと変化するマホロア。確かにもう一度ちゃんと良く見ると、あの星の嵐にはオーラが籠っているのが分かる。
マホロアは多彩な魔術を操る魔術師。そこに『変化系』の能力を組み合わせれば人間になったり性別変換できたり――するのだろうか?
これに関しては『念』にはあまり詳しくないし『魔術』に関してはサッパリだ。さらにその二つの複合となると余計分からなくなる。何も知らない黒竹は、ソレで納得するしかないのだ。
「まぁ、擬人化の理由は分かった。でも一つ言わせてくれ――」
「―――?」
「星のカービィのキャラ擬人化は……なんか解釈違いだ!!」
「エェ!!?」
“強化系”公式設定
物体にオーラをまとわせてその能力を強化する力は念の応用技である『凝』や『周』でも可能だが、強化系能力者のそれは他系統よりも優れているぞ!