「この魔女!」
「早く死ね!!裏切り者!!」
「死ね……!!死ね……!!死ね……!!」
ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ――
『先生おはよー☆』
『今日も忙しそう?』
『うん。でも、今月が山場だから来月には落ち着けると思うよ』
『本当⁉ 流石先生だね☆』
『ありがとう。落ち着いたら必ず最初にミカに声をかけるよ』
『だから、ミカも頑張ってね』
『本当⁉ ありがとう先生! 約束だよ☆』
「はぁ……」
また同じ夢を見た。ここのところ毎日だ。
相変わらず先生の言葉は聞けずに目が覚める。
先生とは、あれからも毎日連絡しているが、最近はシャーレの仕事が猫の手を借りたいほど忙しくなったらしく当番の人数も1人から3人にまで増えたそうだ。
正直、来月に落ち着くという言葉が実現するかも微妙に感じる。
ベッドに座ってスマホの画面をスクロールしていると隙間風がみるみる体温を奪っていった。
「最近より一層寒くなったな…」
今度の休みに暖房器具でも買おうか。
でも、出掛けるなら先生とがいい。
先週は今日会えるって言ってたのに……。
噓つき……。
次はいつ会えるんだろう。
早く会いたいよ先生。
じゃないと私もう……。
「学校、行きたくないなぁ……」
誰にも言えない気持ちを吐いたら大粒の涙がこぼれてきた。
せっかくメイクしたのに、止めないと。ダメだ。止まらない……。
ベッドに頭を埋めて、涙を必死に止める。
「……耐えろ……私は耐えられる」
もう出発する時間だ。
早く準備しなきゃ。
自分を奮い立たせて制服に袖を通し、重い足取りで寮を出た。
▽
ヒソヒソ
ヒソヒソヒソヒソヒソヒソ
廊下を歩いていると、周りの生徒達が私を見て何かを話していた。
いつもは見向きもしてこない生徒も含めてだ。
私、何かやったかな?
最近の自分の行動を思い出してみるが、騒ぎを起こすような事は起こさないよう心掛けてきたのでわからなかった。
「ねぇ、そこの君」
「ひ、ひゃい!」
「何かあったの?」
「えっ⁉えと……その」
「良かったら私に教えて欲しいなーって☆」
考えても答えが出なそうだったので、たまたま近くにいた生徒に直接聞くことにした。
話しかけられるなんて思いもしなかったのか、彼女は大きく動揺している。
そんなにパニックになるなら目の前で話さなきゃいいのに。
そう思っていたら隣にいた子が睨みつけてきた。
「おい、恫喝するな、この魔女!」
「……私、そんな事してないけどなぁー」
「うぅ、うるさい!」
「そんな事より、さっき何を話していたのか、教えてもらえないかな」
「ふん! そうやって偉そうにしていられるのも今のうちだよ。掲示板にお前の計画が暴露されていたんだから!」
「そう……掲示板、ね」
どうやら私の事を貶めたい生徒が作ったと思われる記事が掲示板に張り出されているようだった。
恐らくクラスの連中だろう。……相変わらずやり方が汚い。
確かに私はトリニティを危険に晒した。恨まれるのは仕方がないと理解している。
だが、罪ある者になら何をしてもいいとは限らないはずだ。
内容によってはそろそろ私も動く必要がある。
それに、もし記事の内容に他の生徒の事が書かれていたら私と同様にいじめの対象になる可能性がある。
絶対にそれは阻止しなければ。
急ぎ足で掲示板がはりだされている広場に向かう事にした。
「なに、これ……」
≪特ダネ "恐怖の魔女"聖園ミカの次の計画発覚⁉シャーレを利用しトリニティを再び乗っ取ろうとしている⁉≫
掲示板には巨大な記事がこれでもかと主張して貼りだされていた。
その記事の元には無数の生徒達が群がっており、写真を撮ったり、怒りの声をあげる者でごった返していた。
私は、その記事に書かれている事が暫く理解出来なかった。
だって私が、先生を利用する?
……そんなのあり得るはずがないのだから。
「私は先生を利用なんてしない!!」
私は走り出した。
こんなデタラメな記事があってたまるものか。
剥がす為に前に進もうとするが掲示板前の人だかりに押し戻され上手く近づけない。
早く剝がさないと。
もし先生の耳にこれが入ったら――
『失望したよミカ』
そんな事、先生に言われたら私……。
「皆!どいてっ……きゃっ!」
必死に割り込もうと身体をねじ込ませるが横から別の生徒に押されて倒れてしまう。
涙が止まらない。
「わ、私は……」
周囲を見回すと蔑んだ目で溢れていた。
笑い声が頭に反響する。
痛い……苦しい……ここもあの夢の中なのだろうか。
「誰か……私の声を聞いて……」
周囲はお構いなしに私を見ながら何か話ている。
止めて……私から先生を奪わないで……。
先生は私の――
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
▽
「あの、大丈夫ですか?」
急に横から呼ぶ声が聞こえてきた。
誰に話しかけているんだろう。
私じゃ……ないよね?
「あれ……えーと。聞こえますか?」
戸惑っていると彼女は私の肩を揺らしてきた。
久しぶりに感じる他人の体温と暖かさだった。
……なんて答えたらいいんだろう。
顔を見ようと目を向けてみる。
「……この間の、シャーレ当番の子……?」
「あー良かった! そうです! この間は挨拶出来なくてすいませんでした。大丈夫ですか、ミカ先輩?」
「ありがとう。……でも、直ぐに離れた方がいいよ。だって私、魔女だから」
そう、私は全てを裏切った大罪人。
トリニティの生徒で私の過去を知らないわけがない。
罰ゲームか何かで声をかけたのかな。
可哀想に……。
何だかもう、全てがどうでも良いいや。
「私に構っていると周りの生徒から反感買うよ。知らないの?」
「えと……とりあえず、周りの目が凄いので一旦ここから移動しませんか?」
「えっ……わっ!ちょっと⁉」
私は彼女に腕を引っ張っられながら広場を離れ、食堂横にある休憩スペースまで移動した。
まだ早朝なので私たちだけがポツンと座っている状態だった。
「ふぅ……ここまで来れば、大丈夫ですね」
「その、ありがとう」
「いえいえ、気にしないでください」
「所で……どうして助けてくれたの?」
「それはその……」
きっと何か裏がある。
だって私を救う理由なんて――
「実は……私! ミカ様のファンなんです!」
「ファン!?」
突拍子もない返答に思わず大声が出てしまう。
ファンって、テロリストに憧れる的な?
「私、元々はミレニアムに入学予定だったんです。でもトリニティの学校見学で偶然ミカ様を見かけて……。すっごくキラキラして見えて。私も、あんな風になりたいって思ってトリニティに入る事を決めたんです」
「そ、そうなんだ」
不思議な子だなー。
ハチャメチャだけど、意外と真面目で。
何だかこの感じ……懐かしい気がする。
そう言えば、あの事件が起きる前はよくこういう子がよく押し寄せてきた。
彼女みたく目をキラキラさせて『私をミカ様の妹にしてください!』なんて言われたものだ。
当時は鬱陶しいと思っていたけど、人に尊敬されるってこんなに嬉しいものだったんだね。
「あ、ミカ様笑った!」
「え?」
「すすっすいません。ちょこちょこミカ様を学園で見る機会があったのですが最近笑った顔見てなかったので、つい」
確かに、最近笑った記憶が無い。
私ってまだ笑えたんだ。
そう思ったら、また涙が溢れ出してきた。
「ミ、カ様⁉ すいませんっ、お気に障りましたか?」
どうしよう、止めたいのに止まってくれない。
私、先輩なのに。本当情けない。
早く止めないと。
「ごめんね……すぐ止めるから」
「でも……そうだっ、これ良かったら使ってください!」
彼女はそう言ってハンカチを手渡してくれた。
レースが着いた可愛らしいピンク色のハンカチで使うのが勿体なく思えた。
「ありがとう。でも気にしないで、すぐ落ち着くから」
「いいえ、きっとこのハンカチもミカ様に使って欲しいと思っているはずです。是非、使ってあげてください!」
「あははっ、何それ」
本当に面白い子。
こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
私は彼女のハンカチを有難く受け取る事にした。
「……ありがとう、貴方のおかげで落ち着いてきた」
「私こそありがとうございます。このハンカチは家宝にさせていただきますね」
「う、うん……あはは」
「それにしても、なんなんですかあの記事は!」
「……仕方ないよ。だって私はあんな事したんだから」
「だからといって、ミカ先輩に対して何してもいいわけありません。それに私はミカ様と先生が仲良く話してたの聞いていましたからわかるんです!」
「……本当にありがとう。貴方みたいな生徒に初めて会ったかも……。そう言えば名前を聞いてなかったね。なんて言うの?」
「わ、私、1年のモブ子と言います! よ、よよよよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくねモブ子ちゃん。あっ、そうだ。私の事はミカでいいよ」
「そっそんなっ! 恐れ多すぎて死んでしまいますっ!」
「でも、様付けだと距離があるし……そうだっ、ミカ先輩ならどうかな?」
「そ、それなら、頑張れそうです。ミ、ミミ、ミカ先輩!」
「ふふっ、よろしくね」
そう言って私達は笑いあった。
久しぶりに私の居場所を見つけたみたいで、嬉しかった。
▽
『こんばんは、ミカ』
『まだ起きてるかな』
『わぁ‼』
『先生から連絡してくるなんて、嬉しいな☆』
『どうしたの?』
『やっと仕事が一息つきそうなんだ』
『待たせてごめんね』
『いつ空いてるかな』
『お仕事お疲れ様でした☆』
『約束覚えてくれてたんだ! 嬉しいな』
『なら、来週の祝日はどうかな?』
『ありがとう』
『いいね。何処か行きたい場所はある?』
『それなら、ショッピングも兼ねて隣町に行きたいな』
『じゃあそうしよっか』
『うん! じゃあ今度の休み、11時に』
『楽しみにしてるね、先生』
先生とデート!
思わずベッドから起き上がった。
久しぶりに先生に会える。それに約束を覚えててくれてた。
あぁドキドキする。早く会いたいな。
でも沢山、久しぶりに会うんだから色々と準備しなきゃね。
それから約束の日に向けて準備している内に眠気がきて眠りについた。
その日私は久しぶりに熟睡する事が出来た。
モブ子ちゃんと先生のおかげだろうか。
私は今きっといい方向へ転がってる気がする。
□□□
同夜、皆が寝静まったであろう時間帯に学園の掲示板前に一つの明かりが灯った。
明かりを付けたのは、トリニティの制服を身にまとった少女で注意深く周囲を見回している。
安全が確認出来た少女は掲示板に光を当てた。
そこには、今朝話題になった、とある生徒に関する記事が掲載されていた。
記事に映る生徒の顔写真には無数の落書きやカッターなどで切られた跡があり、原型を留めていない。
「ふふふっ、好評だったみたいで嬉しいわ……。でも、まだ心を折るには何かが足りないわねぇ……」
少女は、その記事を慎重に剝がしていく。
この時間帯に警備員がここを通らないのは確認済みだが、細心の注意を払わなくては。
「……よし」
無事に記事を剝がしきると筒状にして鞄にしまい、新たな記事を取り出す。
それを掲示板に貼り付けて、まじまじと見つめたかと思うと、また直ぐに剝がし出した。
「……これじゃダメね。インパクトにかける……。もっと何かあの女の心を折るには何かが足りない……」
瞬間、朝の出来事を少女は思い出した。
そして計画を頭の中で組み立てる。これなら行ける。
それから少女はニヤリと笑ったかと思えば、灯りを消して暗闇に消えていった。